クリエイター霜月 輪(wcrh3449)
管理番号1526-13668 オファー日2011-11-16(水) 04:45

オファーPC ジョヴァンニ・コルレオーネ(ctnc6517)コンダクター 男 73歳 ご隠居
ゲストPC1 村山 静夫(csrr3904) ツーリスト 男 36歳 ギャング

<ノベル>

 ブルーインブルーの海上都市の一つにある、花嫁にまつわる言い伝え。

―― ≪セイレーンの瞳≫を贈られた花嫁は、幸せになれるんだよ。

 蒼白に発光する、海の歌姫の名をつけられたその石は、花嫁を幸せをもたらす ―― そう信じられていた。

●○●○

―― その男は、船の揺れに負けていた。

 そもそも彼、ラウロ=エロルドが、ブルーインブルーの危険な海域に飛び込んだのには訳があった。エロルドといえばある海上都市の中で名士名高い一族の姓。海に何か用があるならば、人を使って事をたすことなどたやすい権力を持つ一族である。ラウロは時期当主となる直系第一子。将来を約束された御曹司である。
 外見だけならいい男。金髪碧眼、身長はほどほどに高い、顔は悪くない。だが、船上で晒す彼の姿はどこか頼りなく。

「そちらさん、まだまだ道は長いですぜ?」
「わ、わかってます…うううううっっぷ」
 同船している村山 静夫はちらり、ラウロを見るとそう声をかける。大丈夫といいたいところではあるが、胃から逆するそれには逆らえず、船体から身を乗り出してそれを吐き出し続ける。
「思いやられるのう…」
 村山の隣に立つジョヴァンニ・コルレオーネもまた、ラウロの姿を見て苦笑を漏らした。
「愛しいご婦人が岸で待っているのじゃろう。 …なぜこの海に飛び込んだか思い出されよ」
「は、はい、す、すみません。うえ…」
「これでも飲んで、胸すっきりさせな」
 村山が瓶に入った水を差し出すと、ラウロはそれを一気に飲み干すと甲板の上に転がって空を仰いだ。
「情けないですね、僕」
 そう呟く。どうやら自覚はあるようだ。
「彼女……ミランダの事を認めてもらう為にも、って海に出ようとしたのに止められ、あなた方と出会ってようやく出航したと思ったらこれで……」
 ぐす。っと涙と鼻水をこらえて。

 2人がラウロと出会ったのは、世界司書の導きでブルーインブルーの海魔を倒した後の事。海から港に戻ってきた所、彼に捕まった。
「お二方を力ある冒険者の方とお見受けして、依頼したいのです!」
 出航を断られ続けたのか、出会った当初から顔がぐしゃぐしゃになっていた彼の依頼をうけ、彼の家の船で再び海に引き返す。出航間際、まだ元気だった彼は聞いてもいないことまでしゃべり続けていた。しかし、荒波に船が揺れるとこの様。

「しかしまぁ、石が無いと結婚できないもんなんですかい?」
 俺には理解できない……と言わんばかりに村山が肩を竦める。
「石が幸福を齎すと思うかね?」
「ロマンチストな考え方じゃのう。言い伝えを重んじ、婦人に愛の形として捧げる」
「しかしこの坊主が、取って来れるような玉かい?まさか……」
 取ってこれたらそれは価値のある石。取ってこれればよし、戻ってこない事も考えているんじゃ…とに臭わせば、今まで情けない表情を浮かべていたラウロの眉に皺が寄り。
「僕が彼女に黙って勝手にやった事です。…ミランダは、僕がエロルドの人間だと知った時、不釣り合いだと身を引こうとしたんです。それは僕が不甲斐ない所為でもあります」
 今の自分では、身分が違う女性との婚姻を一族に納得させるだけの力はない。そして彼女に幸せにすると言い切ることも出来ない……とラウロは語る。
「つまりは、石のある場所が海魔の現れる危険な場所。そこに自らが赴き、石を取ってくるという功績もまた必要という訳じゃな」
「その通りです」
「ふぅん……」
 結婚というのは面倒なんだな、と村山は空を仰ぎ大きく息を吐いた。

●○●○

 船は、海魔が現れるとされている海域にさしかかった。
 ジョヴァンニと村山は、いつ襲われてもいいよう準備に入る。ラウロは…というと、どこかピリっとした空気についていけないのか、はたまたまだ船酔いの影響があるのか、オロオロとするばかり。
「ラウロ君、武器を手の届く所に。気を抜けばあっさり命を持っていかれるからのう」
「ああ、ヤバそうな臭いがぷんぷんしてくるぜ」
 甲板の上をトントンと杖で叩きつつ、前方を見据えるジョヴァンニ。右側を村山が様子を伺う。
「は、はいっ」
 ラウロは遅れて左側の様子を見に行く。

―― どぅん

 鈍い音が聞こえた。
 かと思えば、進んでいるはずの船が動きを止まる。

「前にすすまねぇ!」
 操舵する船長の声が響く。

「来たな」
「来たようじゃのう」
「……え、えっ」
「黙って気配を探ってみろ。状況が見えてくるだろうよ」
 ぶっきらぼうな口調で村山にそう言われると、ラウロは素直に目を閉じて周囲の気配を探る。元々、海魔との戦闘なんて無縁な人間なのであるから、探ろうにも無理があるのだが。

―― ごとん

 船体が大きく揺れた。と、ともに看板に大きな手のような物が乗り上げてくる。指と指の間には水かき。船に手をかけてそのまま体も乗り上げようとしているのか船体が大きく前方に傾いた。

「悪戯が過ぎるのう」
 ジョヴァンニの手に持つ黒壇の仕込み杖を抜刀し、見えぬ刃でその腕に斬りかかる。轟音の様な雄叫びが聞こえると、手は船体から離れた。
 海の波を無理矢理かき分けているのか、波が高く大きく船が揺れると、二人は足場の確保に努めるが、ラウロは揺れに体を支えきれず、揺れにあわせてごろごろ船内を転がってしまう。
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫、で、す……」
「君自身が、君自身の為に選んだ敵なのだからのう……立ち上がって武器を取りたまえ」
「ほら、横を見ろ。大きな影が…くるぞ!」
 ラウロが右側に転がっていった矢先、その方向に大きな影。もちろん空はただ青く、影になるような物は存在しない。

「!!!?」

 水面を大きくうならせながら姿を荒らしたのは、巨大なマーマン。武器らしき物はもっていないが、大きな手と水かきが特徴的で。額には大きな石がはまっていた。

「あの額、怪しいぜ」
 姿を確認した村山が、手に持つルガーに模した拳銃でマーマンの額付近を指す。
「もしかして…」
「なるほど、求める石はそこにあったのか」
 3人は顔を見合わせ頷く。ラウロの表情が引き締まり、手に持ったエロルド製対海魔用小型ショットガンを構える。
 変わらず波が大きくうねり船体を揺らし続けた。
 村山のトラベルギアは性能上それでも敵の位置が把握できれば問題ないが、戦いなれてないラウロが照準を合わせるのは難しい。またショットガンという形状上、一気に乱発することも難しく、攻撃後から次の攻撃に至るまでに時間がかかりすぎるという欠点を持っていた。
「また外したっ」
 悔しそうなラウロの声が響く。
「来る、させねぇよ!」
 1発の攻撃が外れれば、その大きな手を振り下ろして船ごと海に沈めようとする相手の攻撃を、村山の弾丸が牽制し、ジョヴァンニの刃が阻止する。そんな攻防が続くと、二人が海魔を倒す為の攻撃を一切していない事にラウロは気がついた。

「どうして、倒してくれないんですか!!」
 攻撃の阻止はしても相手を倒す気配のない二人に、不満げにラウロが叫ぶ。
「あれさえ倒せれば、石が手に入るんです!!」
 ジョヴァンニはその叫びに苦笑を浮かべる。
「ラウロ君、我々が本気を出せば、あの海魔を倒すことはたやすいんじゃよ」
「あれを倒すのは誰だ?」
 村山も言葉を載せると、何を、と困った表情を浮かべるラウロにジョヴァンニはさらに言葉をかける。
「君は……あの石が手に入れば、それでいいのかね?」
「……それは」
「この海魔を前にして、逃げず武器を構え打ったのは何の為かね」
「……それは」
 ラウロは俯きランチャーを見る。

―― 石を贈るのは、愛の形を、愛の強さを表すにはこれしかないと思ったから

「石はただの石。だが覚悟の証なのじゃよ」
 その考えを見透かしたように、ジョヴァンニの声がラウロの心に突き刺さった。
 無言のまま弾を込めなおす。先ほど転がり続けた所為もあり、残りの球数 ―― 5発分。

「マーマンは、ある意味ラウロ君の弱さを具現化した存在じゃな」
 ぽつりジョヴァンニが呟く。視線はマーマンから外さずに。
「弱い……僕。醜い、ですか?」
 帰って来た言葉には答えない。真意に気づけないままにランチャーを構え発射するが、狙いは大きく左に外れてしまう。
「外したな。あと4発」
 猛禽類を思わせる鋭い爪で帽子をなおしながら、弾道を見やり。
「もう少し右側、風の方向や速度も考えて欲しいねい」
「すみません……っ」
 弾丸を詰め、フェアエンドを引く。がちゃりとチャンバーに送り込まれる音。
「その武器も使ったことが無かったんだろう?大丈夫ですかい?」
 問われれば涙目になる。
 それなりに覚悟して、海に乗り出したというのにこの様はなんだと。出来ると思っても、撃って擦りもしない。手先は震えるし正直もう逃げたい。使いやすいといわれていた自社の製品を持ってきた。だが、打ってみれば簡単でも何でもない。ジョヴァンニと村山がさりげなくカバーしてくれているから船も沈んでないのだろう。自分はなんて弱いんだ……。
「あ……」
 暫く動けなくなった。だがそのおかげで弱い自分と対峙できた。
 何より、先ほどのジョヴァンニの言葉の意味が、解ったような ―― 気がした。
「…弱い自分が、あのマーマン。…それを打ち破り得た石が、覚悟の証」
 不思議と震えが止まり、ジョヴァンニの刃が村山の弾道がマーマンの動きが、すべてが止まったような感覚。
「こんな僕を愛してくれてありがとう」
 弱い自分と、それでも君の側にいたいという気持ち、なんだかすべてが愛おしくなった。
「今だ」
「このタイミングを逃してはならん!」
 声が聞こえる。
 ラウロは小さく頷くとマーマンの額を狙い、引き金を引く。
 弾は狙い通りの起動に乗り、マーマンの額を直撃した。

 海魔が完全に海に沈んだのを確認すると、足下にこつんとあたる堅い感覚。拾って見ると先ほど打ち抜いた額にあった石の欠片、小さな小さな≪セイレーンの瞳≫をついに手に入れたのだった。

●○●○

 一方。

 若い女性と初老の男性、二人が港に佇んでいた。
 二人は時折顔を見合わせうなづきあったりしつつも、遠く海の先を見つめている。

 女性の名はミランダ ―― ラウロの恋人である。
 男性はラウロの父親。エロルドの現当主。

 ミランダは彼女なりに考え、エロルドの家を訪れていた。自分の所為でラウロに迷惑がかかると。それに対し当主は彼女に告げる。
「待って欲しい、今息子は貴女の為に海に出ている」
 …と。
 ここで初めてミランダはラウロが自分の為に石を取りに危険な場所に赴いていることを知っのだった。
 正直ラウロがここまで行動を起こせる人だと思っていなかったし、優しいけれど頼りがいの無い人だと思ってたから、きっと家と自分で板挟みになって苦しんでしまうのだろうと。だからこそ、自分から身を引こうと思っていたのに。

 不安げに海を見つめていると、一つの影。

「あれの乗っている船でしょうな」
 エロルド当主が指を指したその影は徐々に大きくなり、海魔と荒波による損傷した箇所が痛々しく見えた。

「ミランダ、父上?」
 船が港に着くと真っ先に降りてきたのがラウロ。続いてジョヴァンニと村山が降りてくる。当主は二人に軽く頭を下げると、二人も当主に軽く頭を下げた。
「なるほど、気立ての良さそうなお嬢さんだ」
 ミランダを見た村山が茶化しつつ、遺産目当てじゃないかと臭わせた事をわびる。
「でしょう?」
 その言葉に笑顔が返ってきた。

「父上とミランダがどうして此処に一緒にいるか解らないけど……、父上、この女性が僕の大事な人です」
「ああ、存じているよ」
「僕は彼女を妻に迎えたいと思って居ます。認めて頂かなくても、ミランダと一緒になるためなら家を捨て――」
「ラウロ君、色々順番があると思うのじゃが」
 帰還したばかりなのに、説得する相手と大切な相手を目の当たりにしたせいか、早口で父親に迫るラウロをジョヴァンニが制し、落ち着くようなだめると、すみません……とやはり情けない声が返ってくる。
「やっぱりすぐに成長しないもんですねい」
 少し離れたところで見守っていた村山はやれやれと苦みを含んだ笑みを浮かべた。

「話はこれからゆっくり聞こう。そこの客人もご一緒に。今夜はお泊まりください、部屋を用意いたします故」
 ぱんと手を叩き、全員の視線を集めた当主による一言。
「そうですねぃ、あっつい風呂とか頂戴できますかね」
「用意させましょう」
 そうして、一晩エロルド邸にやっかいになることになった。

●○●○

―― 深夜、エロルド邸。当主の部屋

「愚息は、よく石を手に入れましたな」
 そこには、ラウロの父である当主と、ジョヴァンニ、村山の3人の姿。当主は2人に葉巻を勧めながらそう切り出した。
「船酔いはするし、武器は使いこなせないし、散々でしたぜ」
 湯上がり直後なのか、湯気立ち上る村山が出された葉巻を頂戴しながら答える。
「じゃが、弱いなりにそれを認め、立ち向かいおった」
「ああ。まぁ武器使い慣れてないのは致命的だったんですがね…そこは」
「あれはいいタイミングだった」
 本当は ―― ラウロの撃った銃弾はそのまま反れるはずだった。
 援護していたジョヴァンニが持つ杖の不可視の刃の一閃でマーマンを動きを止め、村山が振るった腕から発せられる風で額までの軌道を造り誘導したのが事実であった。
 でも2人は、それをラウロにいうつもりはない。
 なぜなら、あの海で必要だったのは、ラウロが弱さを認めること、そしてこれから1人の女性を背負っていく為の覚悟。

「しかし、手厳しいですな……ご主人」
「あれは知らない事ですが、私も同じ経験をしておりましてね。巨大なマーマンを見たときは足が震えて腰を抜かしたのもいい思い出です」
 当主は息子の歳の頃を思い出して、ぽつりと話し出す。
 かつて自分も、愛する人との結婚を認めてもらうために≪セイレーンの瞳≫を求め、旅人の力をかりて海に出た事を。自身も≪セイレーンの瞳≫を手に入れたことで当主の資質を認めてもらい、結婚した事を。
「これで親族の説得もたやすくなりました。改めてお礼申し上げます」
 当主は深々と頭を下げた。
「……しかしまぁ、ラウロ君は我々が本当は貴方から依頼を受けていた等とは思ってますまい」
 顔を上げてと仕草で示しながら、ジョヴァンニは笑みを浮かべる。
「親の心子知らず、じゃな」
「あれも親になれば……わかるでしょう」

―― 深夜、エロルド邸。当主の部屋(外)

 3人がそんなやりとりをしている中、ラウロとミランダはその扉を挟んだ廊下に立っていた。改めて結婚を認めてもらおうと、ラウロ自身の決意を父に伝えるために。
 ノックをしようとして聞こえてくる話声に、つい耳を傾けて。盗み聞きをするつもりはなかったのだが、父の過去、そして自分の未来に関わる事だっただけに聞き入ってしまった。
「私たち、幸せになりましょう」
「ミランダ……そういう事は僕から言わせてほしい」
 ラウロとミランダは改めて未来を誓い合った。




 翌朝、ラウロ達が起きてくる前に、ジョヴァンニと村山はエロルド邸を後にする。



 彼らが協力して手に入れた≪セイレーンの瞳≫が、ミランダのウエディングドレスに飾られるのにはもう少し先。だけど近い未来の事である。

 ブルーインブルーにまつわる≪セイレーンの瞳≫の言い伝えは、違えることなく花嫁を幸せにするだろう。

クリエイターコメント大変お待たせいたしました。
また、此方の不手際で色々ご迷惑をかけ申し訳ありません。
身分違いの恋による青年の成長、そしてそれを影ながら支えているお二人の姿が旨く描かれていればいいのですが…。
捏造OKということで、少しだけ展開などを考えさせて頂きました。

今回はご依頼ありがとうございました。
公開日時2012-01-08(日) 22:10

 

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