●いつも彼女は突然に……「ねぇ、殺し愛をしましょう」 幸せの魔女(cyxm2318)が満面の笑みで飛天 鴉刃(cyfa4789)へ話を持ちかけた。 食事を楽しむ人の多いオープンカフェにそぐわない話である。「殺し愛というのが例えと言うのは分かるが言わない辺りする気はないと察しろ。いや、察した上で言っているんだろうがお前の場合」「まぁいいじゃない。それで、するの? しないの? するわよね? もうコロッセオは押さえてあるわよ? 私と鴉刃さん名義で」 鴉刃はため息を漏らし、どうしたものかと考える。 いや、考えても無駄なことは付き合いからわかってはいるのだが……。「受けなければ直前で逃げた臆病者、とするつもりか……。相変わらず気にくわぬ事をする」「そんな汚いことはしないわよ。ドタキャンされた乙女の如く泣いてある事ない事いうだけだから」 『それでも十分問題だろう』と心の中で魔女に突っ込みを入れる鴉刃だが、言ったところで素直に聞くヤツではないのも分かっていた。 何でもわかってしまうというのも困ったものだと感じる。「わかった受けて立とう。だが、コロッセオでは殺生は禁止されているはずだが……」「あぁ、今から楽しみ~。コロッセオで殺せっおー」 ルンルン気分で話を聞かない魔女に鴉刃は受けない方が良かったかと戸惑うのだった。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>幸せの魔女(cyxm2318)飛天 鴉刃(cyfa4789)=========
~殺死愛夢(ころしあむ)~ 殺風景な石造りの円形闘技場に三つの影がある。 「正式な決闘という形で申請をもらったので立会い人として俺が見守る。 通常の決闘と違い、死ぬまでの戦いは禁止だ」無限のコロッセオのインストラクターであるリュカオス・アルガトロスが他の二人を交互にみて確認する。 「ふふふ、死ぬか生きるかのギリギリはセーフなのよね? それなら十分よ~」 明るく楽しそうに答えるのは幸せの魔女だ。殺し合いをしようとカフェでいいだした張本人である。 「何が十分だ。付き合わされる身にもなってくれ」 ため息を零したのは竜人の飛天鴉刃だ。巻き込まれて対戦をしかけられている言わば被害者でもある。 「でも、受けてくれるのだから私は貴方のこと好きよ。夢に見るくらいきっと好きなんだわ。鴉刃さんをこの手で殺し、その手で殺される夢を……うふふ、うふふふふふ」 恍惚と夢を思い返して魔女は笑っていた。 夢見る少女らしい姿ともいえるが、内容が内容だけにリュカオスは苦い顔する。 「まぁ……今日一日、存分に戦うといい。では、"死合"開始!」 リュカオスの声に合わせて二人は身構えた。ただの試合ではない戦いがはじまる……。 ~幸せの魔法~ 「夢の中で私達は殺して殺して殺して殺して殺し愛をしていたの。こんなにも早く叶うなんてね」 ふわりとした白い衣装を翻し幸せの魔女はステップを踏む。 いつも以上に体が軽いのは今がとても”幸せ”なのだと彼女は感じていた。 豪華な装飾のされている細剣を構え、フェンシングをするかのように踏み込んでいく。 「嫌な夢をみてくれるな」 目を凝らし、髭をピンと張って鴉刃は警戒を緩めることなく様子を伺っているようだ。。 光の筋が軌跡を描き、喉を狙う。すぐに動けるようにしていた鴉刃の体が重心を軽くずらし、軌跡を避ける。 だが、幸せの魔女の持つ魔法は”彼女が幸せを追い求める限り、相手は攻撃をかわすことができない”というものであり、彼女の本命は真っ当な剣の勝負でない。 魔女の袂(たもと)から放たれたのは赤い粉である。 卑怯だろうと自分の幸せのためであるなら手段を選ばない彼女らしい戦い方だ。 飛散した粒が鴉刃の左目に入る。すでに右目を失っている敵にとって不運だろうと魔女は思った。 さらに、その粉末がハバネロの上をいく辛さや刺激を含むジョロキアであったため、苦痛は言葉にできないものとなる。 「異常に……幸運と、は……厄介……だ」 荒く息をしながら鴉刃は髭でもって魔女の気配を探り反撃にでた。 敵の中心を狙い、踏み込む。 風を切る音と共に鋭い拳が魔夜の腹を狙った。 僅かに漂う気配すら察知できる鴉刃の髭ならば物理的な刺激を与えるジョロキアの粉末は意味がない。 しかし、振るう拳は中空を虚しく殴るだけだった。 魔女が武術の達人というわけではない、拳が彼女を避けるように動いたのである。 「私には貴女の攻撃は当たらないわ。”貴女の攻撃が私に不幸を及ぼす限り、貴女は私に触れることさえもできない”魔法だから」 「くっ……」 己の攻撃が無駄と悟ったのか鴉刃は後ろに跳ねるように下がって間合いをとった。 *** 方向感覚や幾多の戦闘経験が一番の武器であるかのように見える。 手には武器を持たないが髭と共に尻尾を揺らしディフェンスとカウンターを担う構えのようだった。 「そうよ、そう来てくれなくちゃ♪ 簡単にこの戦いを終わらせるのは勿体無いもの」 希望を失わない相手の姿に魔女は嬉しくなる。 鼓動が早くなり、じんわりとした暖かさを体の内側から感じ始めた。 そう、今の彼女は”幸せ”なのである。 「もっと私を楽しませてね、鴉刃さん♪」 愛らしく彼女は微笑み、相手を苦しめる”死の舞踏(ダンスマカブル)”を踊った。 踊る魔女の手からリズムに合わせてダーツがいくつも飛ぶ。 動きを髭で感じ、ダーツが空中を割く音を耳で感じた鴉刃が腕と尻尾でダーツをはたき落としていた。 一つ、二つ、三つと続けざまに何本も飛んでくるダーツを息を飲むことさえせずに鴉刃は地面に落としていく。 両目が見えないということを感じさせない動きだが、魔女の魔法の前では無駄だった。 はたき落としたはずのダーツが一本、そこらの刃物では傷つけられない鱗を突き破り深々と刺さった。 仕込まれている毒が回ってきたのか、鴉刃の動きがぶれ出す。 「私の調合した毒はどう? ”愛憎”をたっぷり注ぎ込んだのよ」 愛情のいい間違いか、はたまた本気かわからないことを魔女は口にし的になりかけている鴉刃に向けてダーツを投げ続けた。 足だけでなく、腕に、腹に、首にダーツが刺さる。 傷だらけの鴉刃の体へ新しい傷が増えた。 「かっ……はっ……」 口から黒い何かを吐き出し、鴉刃の体が地面に沈む。 試合の終わりが近いように見えた。 立会人のリュカオスが魔女にストップをかけ、鴉刃の様子をみるべく近づいていく。 圧倒的だった。 魔法の力で”死合”は彼女の一方的な戦いで終わりを迎える。 だが……そんな展開を魔女自身は喜ばしく思っていなかった。 心が冷め始めていると共に、最近見ることになった夢を思い出す。 「殺して殺して殺される夢の方が幸せだったわ……」 ポツリと零した彼女の言葉にカチリと世界の”音”が答えた。 ~幸せの定義~ 例え話をしよう。 もし、事故にならないようにと買ったお守りを持って軽傷を負う事故をしたらどう思うか? 「お守りがあったから軽傷ですんで幸運だった」と思うのか。 「事故を防げないなんてお守りがインチキで不幸だ」と思うのか。 どちらが正解とはいえないが人間の幸福や不幸というものはそんなものという典型例と言える。 今、この場に起きたことも同じことである。 鴉刃は幻覚や幻聴などが聞こえて、倒れた時、音を聞いた。 何の音かはわからないが、リュカオスが近づきこちらを伺い試合を止めようかどうか思っている姿が”見えた”。 「まだだ、まだいける……今ならいける気がする」 体に痺れが残るものの彼女は立ち上がり、勝機を感じて動く。 深呼吸をし、目を凝らして敵を睨んだ。 「ふふ、そうね。まだよね」 安心したかのように魔女は口元だけ笑い、間合いを詰めてきた鴉刃に向かって細剣を振った。 必ず当たるの刃が彼女の右肩を突く。 「肉を切らせて……何とやら、だ」 右肩を貫かれた鴉刃だが、そのまま踏み込み肉薄した。 尻尾で魔女の体を縛りつけ、トラベルギアである術手袋を召喚して殴りつける。 避けれる”はず”の一撃を魔女の体は受けとめ、白い服が切り裂かれた。 「どうして? 攻撃を受けているはずなのに……楽しい!」 二人は気づいてないが、魔女のこの言葉が何が起きたのかを物語っている。 今の魔女の幸せとは”鴉刃と殺し合いをすること”であり、一方的になぶることは”死合を呆気なくする不幸なこと”になったのだ。 そのような変化が起こっているとは鴉刃は気づかないが、気づく必要もない。 大切なのは今がチャンスということなのだ。 *** 体がいうことをきき、視界がはっきりしているこの瞬間が勝負なのである。 「アアアアアアアアアッ!」 龍が吠え、手刀をねじ込みラッシュを仕掛けた。 手が吸い込まれるように魔女の体へと叩き込まれる。 人形のように揺れ、衝撃で離れそうになる彼女の足を踏み、腕をつかむと投げ飛ばした。 砂で敷き詰めれている地面へ華奢な体が叩きつけられて砂埃を挙げて滑る。 砂を払って魔女が立ち上がり、口元から流れる血を舐めた。 痛みに顔を歪めることはなく、この日一番の微笑を浮かべている。 「ああ、すごく幸せ。この痛みは夢では味わえなかったことよ。鴉刃さん、貴女は最高の女性(ひと)よ、うふふ。ふふふふふふ」 命を削り合うことが、生きることとばかりに魔女は笑った。 「戯言が増えたな……おしゃべりをしていては勝てないぞ」 鴉刃は踏み込み、間合いを詰める。 地面を蹴り、体を加速させた。 上体を迫り出し、後ろに流れる髪が綺麗になびく。 魔女はダーツを投げて鴉刃の突進に対抗した。 自分に突き刺さるダーツをものともせず、鴉刃は魔女の懐にたどりつく。 上段の突きを彼女が放つと魔女は足元を蹴って砂を鴉刃の顔に浴びせてた。 だが、鴉刃も突きをフェイクに尻尾で魔女の横腹を叩いた。 思わぬフェイントに魔女は目を見開き驚く。 横に倒れそうになりつつも魔女も剣を突きだす。 ”幸せ魔法”の効果が戻ってきたのか、不利な体制で放つ一突きは鴉刃の弱点である喉仏の逆鱗へさっくりと入った。 「が……」 「ふふふ、一方的にやられるのもツマラナイわよ、ね」 少しだけ笑顔を取り戻す魔女だったが、声がかすれ始めていて疲労がみえている。 「ぐっ……」 鴉刃も熱い棒を喉につきたてられる痛みを受けながらも掌底を当てて魔女を突き飛ばした。 強引に剣が引き抜かれ、血が砂の大地に雫をこぼす。 距離をとることになった二人は次の一撃を打つべく、一歩ずつ踏み出して迫る。 勝つ為に互いに全力だった。 殴り殴られ、傷つけ合う先に何があるというのか……。 グシャと一際生々しい音がコロッセオの中に響く。 赤茶けた砂の上には赤黒い染みがいくつも飛び散っていた。 「そこまでだ。試合を終了するぞ」 静かに二人に近づいたリュカオスが声をかけるが返事はない。 それもそのはず、お互いに腹部を貫きあったまま二人は固まっていたのだった。 ~戦いの果てに~ 「はぁー、生き返るわー」 「気持ちはわからんでもないが、あの試合の後では洒落にならないな」 二人は温泉に浸かり、傷を癒している。 結果は気を失ってしまった為にドロー。 "殺し愛"をしたが、全力だったこともあり表情は晴れやかだった。 「今回は楽しかったわね。もっと鴉刃さんを苦しめて虐めていい声を聞きたいから、またしましょう♪」 「お前のことだから本気なんだろうな……」 「今夜もきっといい夢が見れるわ~」 二人の戦いはまだ終わらないのかもしれない。
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