ぐぅ、きゅるるるるるるるるるるる。 世界図書館と世界樹旅団の戦争が終焉し、ターミナルは変化したがそれでも平穏が訪れたのは確かだった。 人々は瓦礫の処理、壊れてしまった建物の再建に日々、休む暇なくあくせぐと働いていた。 きゅるるるるるるるんんんんんんんんんんがかぐぐくぐぐぐぅううう。「ハラ、ヘッル」 ぼそっと先ほどから怒り狂った狼の遠吠えのような腹の虫を鳴らす"氷凶の飛竜" ゾルスフェバートは凶暴な目に「空腹」の文字を宿して、じぃと樹海を睨みつけた。 彼の故郷で森といえばそこには自然の恵み、イノシシだって、狼だって、熊だって……みんなみんな空腹を満たしてくれるお友達がいたものだ。 じゅるりぃ。 想像だけで既によだれが漏れる。 のそのそとゾルスフェバートが歩き出すのにその前に可憐な蜘蛛の脚を持った蜘蛛の魔女が木の上から飛び降りてきた。「ちょっとまったぁあああああああああ! そんなぎらぎらな目で、しかももう食べちゃうぜみたいなオーラでどこにいくのよ! この空腹な蜘蛛の魔女さまをさしおいておなかを満たそうなんて、たとえアリッサが赦し、むぎゅう」 蜘蛛の魔女の台詞は最後まで続かなかった。 ゾルスフェバートがその上をすたすたと進んでゆくからだ。「ちょっとー! 人の台詞は最後まで聞くものよっ!」「……ヒト、オレ、キラい」 ぎろっと睨むゾルスフェバートに蜘蛛の魔女も負けてはいない。「キシシシ! 私は人なんかじゃないわよ! 聞いて驚き、見て笑えって、これでいいっけ? えーい、気にしない! 誇り高き魔女! 蜘蛛の魔女! 最強にして最悪の悪食! 毒の魔女を食べておなかぎゅーきゅるるーして死にかけて覚醒したほどだもんね! あんたを食べてやるぅ!」「クウ!」 蜘蛛の魔女が飛びかかって自慢の脚でゾルスフェバートの鱗に突き刺さすと噛みつく。しかし「う、な、なに、この鱗、噛み切れないし!」 反撃とばかりにゾルスフェバートが蜘蛛の脚に噛みつき、引きちぎる。「ひゃう! 落ちる! いたた、わ、私の脚がぁあああ~、ちょ、ちょっとおおお」 がりがりか、ごりごり。 ぺっ。「……マズイ」 更にトドメの一撃にがーんと蜘蛛の魔女は凹んだ。「う、うわあああん、このばかばかばか! 私の脚になんてことしてくれるのよ! ぬきぃーんって生えるけど、生えるけど」 泣き叫んでる傍から蜘蛛の脚は新しいものがぬゅきーんと生えているが、食べられた上、捨てられたこの恨みと屈辱は忘れない。 ぐきゅるるるるるるるるるるるるるるん 更に重なるようにして がぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるんん「ハラ、ヘッタ」「おなかすいた」 一匹のドラゴンと魔女は見つめ合った。「あんた、腹減ってるのね、私と一緒ね……ターミナルのさ、行きつけのキドニーパイのお店の建物が壊れて、しばらく閉じたまんまなのよ! いくとこ、いくとこごはんがないし! みんな復興よりもおなか満たすほうが大切じゃない!」「……オマエもカ」 空腹とは時として理性を狂わせる、しかし、ときとして不思議な連帯感を生み出すのもまた然り。 ゾルスフェバートと蜘蛛の魔女は見つめ合う。もう言葉はしらない。二人はそっと不気味な木々の生い茂る深い闇を抱えた樹海を睨みつけた。 ぎぎぎいいいいと声が聞こえた。「あれってワーム?」 ゾルスフェバートが進みだす。「ワーム……カル! クウ!」「あんた! ……よくいったぁ! よっしゃあ! 私も行く! 二人でワームの丸焼きをおいしくいただくわよ!」 言葉はいらない。そんな友情を一瞬にして育んだ二人は勢いよく樹海に突撃した。 ゾルスフェバートが木々をその巨体を使って薙ぎ倒し進み、蜘蛛の糸を使って蜘蛛の魔女は木々のなかを飛びながら進む。 そして。「いたぁああ!」「メシ!」 二人が弾丸のように突撃を、それは大きく片腕を振るい弾き飛ばす。咄嗟のことにゾルスフェバートが蜘蛛の魔女を抱えて空中に飛び見たのは。 優に三メートルはありそうな黒い鱗に身を覆われた上半身はヤモリを連想させるが、その脚は八本。太い毛に覆われたまさに蜘蛛のよう。そのスピードは俊敏で二人から素早く距離をとると、しゅうううと威嚇を放つと口から糸を吐き出してきた。 さらにその後ろには全身を毛で覆われた、まるで熊だ。しかし、ただの熊の違うのはその大きさが五メートルほどある上、その背中からぬっとあらわれたのは黒いどろりとした液体を吐き出す触手だ。その触手が吐き出す液体が地面につくと、じゅわっと……地面が溶けた。「メシ! カル!」「昼ごはん、丸焼き! 骨まで食べつくすわよぉおお!」 どうやって食べるんだ、こんなワーム……空腹はときとして根本的に気にしなくてはいけない問題すら吹き飛ばす。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>"氷凶の飛竜" ゾルスフェバート(cnhm9881)蜘蛛の魔女(cpvd2879)=========
ふ、ふふふふふ。 蜘蛛の魔女の唇から思わず歓喜に満ちた笑みが漏れだす。それは徐々に大きくなり、とうとうゾルスフェバートに抱っこされた状態で腰と口元に手をあてて高笑いした。 「キキキキ! 畜生の分際で、この蜘蛛の魔女様に逆らうとは良い度胸だぁ! グッチャグッチャに叩き潰して食ってやるわぁ!」 もはや空腹は限界。頭の大切な螺子は一本どこか十本くらい盛大に吹っ飛んでいた。 「てなわけで、ゾルフェ……いったぁ、舌噛んだぁ! 長いのよぉ! この世でねぇ、私よりも長い名前のやつなんて認めないったら認めない! ってなわけでゾっくん! ゾっくんでいいわ!」 「ン? ナンカ、ソレ、ヨバレタコトガアルキガスル」 「ええい、そんなことどうでもいいー! あれ!」 蜘蛛の魔女が指差したのはいもりと蜘蛛の合体した化物だ。 「あれは私のっ!」 「オレ、コイツ! コイツノホウガオイシソウ! コイツ、カル、オレ!」 ゾルスフェバートの睨んだのは熊もどき。幸いにも二人のお目当ての獲物は別々であったらしい。 「私の獲物のほうがおいしそうにきまってるじゃない!」 「オレノホウガオイシイ!」 二人は獲物でも張りあった。狩って食べるなら相手よりおいしそうなほうがいいに決まっている。 「ムゥ。カル、ジャマシナイ、オマエモスルナ! ヨコドリスル!」 「よーし! 横取りはオッケーね! いいわよ。横取りのためにも協力するわよ」 「キョウリョク?」 「そうよ! 横取りしたいなら、私の言うことを聞くの! そしたら横取りできるんだから!」 ゾルスフェバートは考えるように眉間に力をいれて、大きく頷いた。 「ヨコドリスル、オマエ、イイヤツ!」 「そうよ! よーし、ゾッくん、私がいいものって、わぁー!」 ゾルスフェバートの体が大きく傾いたのに蜘蛛の魔女は悲鳴をあげた。いもり蜘蛛が粘りっけのある糸攻撃を仕掛けてきたのを危機一髪で回避したが、やもり蜘蛛は吐き出した糸を八本の足を器用に使って登って接近してくる。 ワーム同士は協力しようというそぶりはなく、熊は獲物を奪われて唸り声をあげて地団駄を踏んでいる。 「ここが畜生ってやつなのよ! 協力ってこと知らないんだから! ゾっくん!」 ゾルスフェバートが大きく口を開き、吐き出したのは絶対零度の吹雪。それにいもり蜘蛛の動きが一瞬止まる。 吹雪が止んだ瞬間、黒く小さな塊が飛びかかる。 「キキ!」 ゾルスフェバートに頼んでワームに目がけて力いっぱい投げてもらった蜘蛛の魔女が自慢の蜘蛛の脚を大きく開いて高らかに笑う。 いもり蜘蛛が不愉快げに低く、獰猛な声を漏らしながら糸を吐くが遅い。蜘蛛の魔女はいもり蜘蛛のいる糸の上に脚の爪先で着地、あいている脚がゴムのように弾力のある糸を蹴って再び大きく飛ぶ。 やもり蜘蛛自身は危機を感じ、逃げようとするがその足の動きはもたついている。 やっぱりね! 蜘蛛の魔女は自分の予想があったっていることに心のなかで声をあげた。 俊敏力には優れてはいても旋回性はほとんどないわ! 「もらったぁ!」 いもり蜘蛛の背中にまわりこんだ蜘蛛の魔女は、かたく節くれだった脚に毒がたっぷりの爪でひっかき攻撃を与え、さっとバックステップ。 本当ならもっと懐に飛び込んで突き刺したいが、下手に接近するのは得策ではないと空腹のカンが告げている。 ぎゃああ! いもり蜘蛛が声をあげながら糸を吐くと、見た目に恥じないジャンプ力を駆使し、空中に逃げる。空中でやもり蜘蛛はさらに糸を周囲の木に無茶苦茶に吐いて即作で巣らしきものを作って、その上に飛び降りて戦いに備えようとする。そんな暇を与えてやるほど魔女は慈愛深くも、優しくもない。 「キキ!」 残忍な声をあげて再び蜘蛛の魔女は飛ぶ。 ゾルスフェバートは空中を優雅に、素早い動きで迂回しながら熊もどきに接近を試みようとしていた。 熊もどきは空中にいるゾルスフェバートを警戒し、構えている。 ゾルスフェバートの回転スピードが不意に緩んだと思ったときなは稲妻の如く。電光石火の接近。それはさながら獲物を狩る鷲のような見事な動きであった。熊もどきはぎりぎり横に逸れてタックルをかわし、腕を伸ばして鋭い爪でひっかこうとした。それをトラベルギアの大剣を大きく振って、叩きつけて弾いた。それは斬るというよりは殴るという動作だ。熊もどきは素早く四つん這いになると牙で剣に齧りつく。 刃と牙。 火花を散らし、軋み音をたてて力がぶつかりあう。ゾルスフェバートの押す力に、熊もどきも口から唾液を垂れ流しながら対抗する。熊もどきの背中にある触手が怪しく蠢き、ゾルスフェバートの翼を溶かそうと酸を吐き出す。いくらワームといえ地上戦の己が空中戦を得意とする者と戦うのは不利と判断したのだ。 しかし。 翼はまったく溶けない。 蜘蛛の魔女が離れる前に糸を吐いて翼の表面をコーティングしておいてくれたのだ。その糸の強さは強酸すら耐えきるほどであった。 グルルルゥ 酸が効かないことを悟った熊は吼えながら牙でトラベルギアの剣を叩き折ろうと夢中になっていて、己が失敗していることに気がつくのが遅れた。 己の毛を凍えさせる冷気。 ゾルスフェバートの口の中に溜めこまれた白銀の塊。 これがもう一つの魔女からの贈り物。 蜘蛛の魔女はゾルスフェバートに噛みついて、自分のなかにある魔力を注ぎこんでおいたのだ。 その魔力はゾルスフェバートの体内で力の渦となり、外へと放たれるときを待っていた。 大きく息を吸い込んだゾルスフェバートの鋭い目が熊もどきを真っ直ぐに射ぬく 轟! 熊もどきの体に冷気の塊がぶつかった衝撃に僅かに浮きあがる。その隙を見逃さず、ゾルスフェバートは翼を大きく広げて空中に飛ぶ、大きく舞う。とんぼ返りだ。ほとんどひきずりあげられる形となった熊もどきに抵抗するチャンスはない。空中で振りまわされた挙句、白い尾が腹に叩き込められて地上に墜落する。 ぎゃあ! 熊もどきは悲鳴をあげて地面にのけ反る。 「コレトドメ!」 ゾルスフェバートはトラベルギアをランスのように構え、真っ直ぐに突撃する。 それに熊もどきは鋭い爪で地面を引っかき、まだそれほどに体力があったのかと驚くほどの俊敏さで起き上がると駆けだした。 そのあとを空中から追いかけるゾルスフェバートは、あまりにも真剣すぎてつい間抜けな声をあげた。 「ア!」 「まったくもぉ! 手間かけるんじゃないわよ! この私が空腹だって言ってるんだから! さっさとありがたく食べられないさいよ!」 蜘蛛の魔女は可愛らしい牙を剥きだしに文句を口にする。 いもり蜘蛛は無茶苦茶に吐いて作った巣に陣取ると、さらに糸を吐いて足場を作り素早く動く。 対峙する蜘蛛の魔女は空腹からか通常ならありえないほどに頭が冴えに冴えまくり、今回は糸を吐かないほうがいいと判断だ。 あいつに足場は与えないけど、私はあいつの糸の上を自在に歩くなんて! ふふん、あたまいー! 思わず自分の頭の良さに酔いかけていた蜘蛛の魔女は背後からの何が迫る気配にぎりぎりまで気がつかなかった。 「ア!」 とゾルスフェバートの間抜けな声に、なによぉと振り返って見たのは熊もどきが自分に向かって突進する姿。 牙を剥き出しに荒れ狂う熊の接近には流石の蜘蛛の魔女は慌てた。 「え、ちょ、やだ!」 逃げようとしたが咄嗟に体が動かない。自慢の脚が重いと気がついて、そろりと視線を向けると、なんと白い糸が足に絡みついている。 「なぁ!」 巣にいるやもり蜘蛛もどきが糸を吐いて蜘蛛の魔女の自由を奪ったのだ。 にやぁあ。 ワームに相手を笑う知能があるのかは不明だが、蜘蛛の魔女はやもり蜘蛛が嘲笑ったように見えた。 「って、いゃああああ!」 熊もどきのタックル、さらに大きく右手を振るっての打撃。それらを脚で防ぐが蜘蛛の魔女の小柄な肉体は宙に吹き飛ぶ。それに触手が伸びて、汚らしい酸での追撃。 酸があたればただではすまない。糸を吐いて逃げようにも頭がくらくらしていて体が動いてくれない。 その窮地を救ったのはゾルスフェバートだ。素早く蜘蛛の魔女の体を掴んでさらに高く飛んで酸から逃れた。 空中からゾルスフェバートは獲物を見下ろしたあと抱っこしている。いや、片足だけひっつかんで逆さずりの蜘蛛の魔女を見つめた。引力の法に従ってスカートがめくれ、黒いかぼちゃパンツが丸見えの上、おなかとおへそも見ているあられもない姿だ。ここにいるのはオスが空腹に狂ったゾルスフェバートとワーム二体だったのは幸いだったというべきか。 コイツ、クウ? 自然の摂理としてはたとえまずくても、どんなにまずくても食べてやるべきなのだろうかゾルスフェバートが真剣に考えていると、ぶらーんと吊るされた蜘蛛の魔女が片方の足をばたばたと暴れさせた。 「っ、い、いったああああああ! って、いゃあああ、まっ暗! なんでなんで! 夜なの? もしかしてあの熊のおなかのなか? むきぃいい! 私を食べようなんていい度胸じゃない! おなかのなかでちくちくと暴れてやるんだからぁ! って、胃のなかだと溶けちゃう? 溶けちゃうのおお! やだぁ、まだワーム食べてないのに死にたくない!」 「イキテル」 ぽいと投げてゾルスフェバートは蜘蛛の魔女の背中に乗せる。 「うおって、ぎゃあ! え、空? 空? 私食べられてないの?」 「マズイ、ハキダサレタ」 適当なことを言う。 「ま、まずい、まずいですってえええ! キ、キキキキキ! この私が! 私はね! 美味しいに決まってるでしょ!」 美味しかったら消化されてしまっているのではないか。 蜘蛛の魔女は屈辱から憎悪の炎を眸に宿し、地上を見下ろす。一対一では勝ち目はないと判断した熊もどきが蜘蛛の巣の下に隠れている。 「ゾッくん、一気に行くわよ!」 「カル!」 ゾルスフェバートが急加速する。 地上に近づいていくとねっとりとした糸が翼に絡みついた。 「キモチワルイ!」 糸を伝っていもり蜘蛛が接近してくるのを氷礫を吐いて攻撃するが、それを巧みな動きで回避する。 「ヌゥ! チョコマカ、ウットオシイ!」 「こいつは私の獲物だって言ってるでしょ!」 蜘蛛の魔女はゾルスフェバートの首筋によしのぼると、牙を剥きだしに噛みつく。はじめに噛みついたときよりも深く、そしてありったけの魔力を注ぎこむ。 ゾルスフェバートの体が雷撃にあたったように弓なりになるのに、キキキキ! 魔女は笑いあげた。 やもり蜘蛛はその姿を弱ったと思いこみ、糸を吐くが、それは愚かな行為だった。注ぎこまれた魔力に肉体が激しく活性化したゾルスフェバートは素早い動きで、トラベルギアを盾にして糸攻撃を防ぐと力任せに引っ張っての一本釣り。空中にあげられたやもり蜘蛛が糸を切って、すぐさま新しい糸を吐こうとするがその動きはひどく鈍い。蜘蛛の魔女の毒が効いてきたのだ。 「甘ぁい!」 ゾルスフェバートを足場にして大きく飛んだ蜘蛛の魔女が迫る。 「ごはあああん!」 大きく体を逸らし、足の一か所に力をこめて叩きこむ。 一撃必殺が、蜘蛛の腹、最も柔らかな箇所に突く。 水が破裂するような音をたててかたい甲羅から緑色の液体を溢れさせて地面に落下する。 「ごはあああん!」 蜘蛛の魔女は叫びながらそのあとを追いかけて彗星の如く落下、いや、降下していった。 ゾルスフェバートは翼の動きをとめる糸にブレスを吹きかけて凍らせると剣で粉々に砕いた。まわりの糸も邪魔なので同じ要領で破壊していく。その光景はさながらダイヤモンドダスト。きらきらと輝くなかを白銀のドラゴンが真っ向から落ちるのに熊もどきに逃げる隙はない。ささやかな抵抗として酸を吐いても、それはトラベルギアを盾にされて防がれる。 全身を使ったタックル。 熊もどきが悲鳴をあげる。 「メシ!」 魔女の与えた魔力を溜め込んだ口に淡い光が集まる。 ゾルスフェバートが咆哮をあげて放った氷礫は熊もどきの肉体を突き刺し、地面に倒した。 「クウ!」 「ごはーん!」 二人は声をあげた。ようやく待ちにまったごはんタイムである。狩りという大変な労働を経たあとならばその味わいもきっと極上に違いない。 「ああ、もう、もう! ワーム肉のパイ、丸焼き、ううん、もっと手間をかけたらシチューとか、けど、けど、生が一番よね! とれたてのナマがぁああ」 「タベル!」 二人の理性は完全にぶち壊れ、先ほど倒したワームに勝者らしく飛び付く。 がぶり。 もぐもぐもぐもぐ。 沈黙。 「う、え、ご、ちょ、げぇ、な、なに、この、まず! こ、この私の舌が受け付けないだとぉ! ちょ、くさい、くさすぎるぅ! いやあああ、どろどろってとけてるぅ!」 「!!」 あまりのショックに口も聞けないゾルスフェバートは肉を持ったまま硬直していた。 それほどに不味かったのだ。 どれだけ空腹でも、これは食べられないと生物の生存本能が否定するほどにまずかったのだ。そのまずさたるや空腹で失くした理性を復活させるほどの威力があった。 「……ソウイエバ、オマエ、アノトキ、イタカ?」 「そ、そういえば、なんか、どっかで見たって、あー! 戦争したとき同じところいたじゃん!」 空腹のせいで理性と一緒になくしていた記憶も呼び覚ましたらしい。 しかし、それがどうした。 空腹。 圧倒的な空腹感!! 二人はぱたりと倒れ込む。 「う、うへへへ。私たちが死んだのはワームのせいよ。こんなまずいなんてありえない。あんだけ期待させておいて!」 「ハラヘッタ」 ぐぅきゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。 二つの孤独で憐れな腹の音が木霊する。 と、そこに。 「ん? なんか、いい匂いが? 肉の、肉のにおいぃいいい!」 「メシ!」 今まで空腹で死にかけていたのが嘘のように二人は素早く立ち上がって進んだ先には 「ターミナルの奴らが探しにきたら、どうしようかなぁ。本当に」 「ま、それまではここに隠れていようぜ。バーベキューでもしながらよ」 樹海に隠れた旅団たちが呑気にバーベキューをしているではないか。 これは、これは…… 「ゾッくん! 行くわよ!」 「クウ!」 そして二人の空腹を満たす戦いはまだまだはじまったばかりであった。
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