モフトピアのとある浮遊島。 ぽかぽかと優しい太陽の光に照らされ、いつもの穏やかな風景が広がっている。 その片隅に突然、小さな家が現れた。 とはいっても、出現するところを目撃したものは誰もいない。気がついたら、もうそこに建っていたのだ。 ウエハースで出来た屋根に、チョコレートの壁と煙突。飴細工の窓の周囲には、色とりどりのジェリービーンズが飾り付けられている。 その姿に、近くを通りかかったアニモフは思わず立ち止まり、甘い匂いに誘われるままに家へと近づいて行った。 クッキーで出来たドアの前に行き、ノックをしてみる。 反応はなかった。 試しにマカロンのドアノブを持ち、引いてみると、ドアは簡単に開く。 中には誰もおらず、バウムクーヘンのテーブル、マシュマロのソファー、インテリアのように置かれた大きなクロカンブッシュなどが目を惹いた。 この光景に、お菓子が大好きで、好奇心も旺盛なアニモフが我慢できるはずはない。 アニモフは、吸い込まれるように中へと入って行く。 ◇ ◇ ◇「アニモフが大量失踪?」 エミリエ・ミイの話を聞き、皆は目を丸くする。 最初はモフトピアに現れたお菓子の家と聞き、お話の中にしかないお菓子の家なんて凄いとか、その造形に興味があるとか盛り上がっていたのだが、どうやらそんな和やかな話ではないらしい。 エミリエは頷くと、『導きの書』を見ながら話を続ける。「お菓子の家は、違う世界から来た魔女が魔法で作ったみたいなの。でも、悪いことをしようっていうんじゃなくて、アニモフと仲良くなりたかったみたい」「悪い魔女じゃないんだね!」「交流を深めるには、悪くはない選択ですね」 そう言ったスイート・ピーと吉備 サクラに、エミリエは複雑な表情をする。「うん、そうなんだけど……魔法が暴走しちゃったみたいで」「暴走……。大丈夫なんでしょうか」 それを聞いて、神園 理沙が心配そうに言った。「そのせいで、お菓子の家に遊びに行ったアニモフたちだけじゃなくて、魔女も閉じ込められちゃって、魔法を止める人がいなくなっちゃったのね。……それで、もうひとつ困ったことがあるの」「まだ何かあるの?」 ティリクティアが思わず声を上げる。現状だけでも十分困った事態ではあるだろう。「このお菓子の家、少しずつ大きくなってるの。だから早く止めないと」 浮島が丸々お菓子の家になっちゃったら大変だよね、とエミリエは付け加える。「どうやって止めればいいのかな?」「お菓子の家だから、食べればいいんじゃない?」 尋ねるスイートに、ティリクティアが何気なく言うと、エミリエはうんうんと頷いた。「……それでいいんだ」 理沙がぽつりと呟く。モフトピアらしいといえばらしい解決法ではある。「じゃあ、お菓子の家を食べて食べて食べつくせばいいのね!」「私はダイエット中なので、あまり食べられないかもしれないけど、問題ないでしょうか……?」 段々と目がマジになってきたティリクティアの横で、少し不安そうに言ったサクラに、エミリエは笑顔を見せる。「うん、全部食べられなくても、魔女を見つければ魔法を解いてもらえるから大丈夫!」「そっか! じゃあ、安心してダイエットしながら食べて食べて食べつくせるね!」 スイートも気合が入るあまりか矛盾したことを言いながら、拳をぐっと握った。 そして、四人のロストナンバーによる、お菓子の家を食べ尽くす冒険は始まるのだった。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>スイート・ピー(cmmv3920)ティリクティア(curp9866)神園 理沙(cync6455)吉備 サクラ(cnxm1610)=========
「お菓子の家……昔小さい頃絵本で見たことがあるけど、実在するものを見れるなんて夢のよう」 理沙はそう言ってお菓子の家をうっとりと眺める。モフトピアの景色も相まって、本当に絵本の中に迷い込んだかのようだった。 「お菓子の家! お菓子の家!」 「とってもステキ! 食べても食べてもなくならないなら、おなかいっぱいになるね!」 その隣では、ティリクティアとスイートも目をきらきら――いや、ぎらぎらと輝かせながらお菓子の家を見つめている。 「な、中々蠱惑的な造形ですね……」 やや後ろにいるサクラは、引きつった笑みを浮かべていた。 嬉しさや感動がないわけではないのだが、もう既にお菓子の魅力とダイエットが頭の中で綱引きを始めている。 「窓がキャンディだよ! まわりにはジェリービーンズ! ――レモンライム味だ」 スイートは家に近づき、窓枠を飾っているジェリービーンズの一つをつまむと、口の中へと放り込んだ。一応、中のチェックも兼ねている。誰の姿も見当たらないようだった。 「ね、早く入ってみましょうよ!」 ティリクティアがそう言い、クッキーのドアの前に立つ。バターの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。 彼女は律儀にノックをしてから、静かにドアを開く。皆もその後に続いた。 「わぁ」 真っ先に上がったのは誰の声だっただろうか。 外から見るよりも広く感じる室内には、お菓子しか存在しない。 切り株を使ったかのようにも見えるバウムクーヘンのテーブル、白やピンクのふわふわとしたマシュマロのソファー、ホットケーキのクッション、フルーツタルトの壁掛け時計、氷砂糖とプリンで出来たシャンデリア、インテリアのクロカンブッシュ等々……圧倒的な世界がそこにある。 「クロカンブッシュだ! スイート食べたかったんだー!」 早速スイートはクロカンブッシュの方へと駆け寄った。その大きさは、彼女の背丈ほどもある。積み上げられたシューは、可憐な花の飴細工や、フルーツで彩られていた。 「おいしいー!」 シューを一つ摘んで口に入れると、生地がさくっと潰れ、シロップの甘みととろけるクリームが口内にじゅわりと広がる。 「このスツール、チーズケーキだわ!」 ティリクティアはどこからか特大のフォークを取り出すと、スツールの形をしたケーキに差し入れた。一見硬そうにも見えるそれは、綺麗な断面を見せながら削り取られていく。 ワクワクしながら口の中へと入れてみた。濃厚なチーズの旨みと酸味が絶妙で、思わず笑みがこぼれる。 「美味しい! これはベイクドね。こっちはスフレだわ!」 色々な味が楽しめるというのも、また魅力的だ。視線をさらに隣に移すと、イチゴのショートケーキとモンブランのルームランプが並んでいる。 彼女は満面の笑みで、そちらにも取り掛かった。 「ねぇねぇ、みんなはどんなお菓子が好き?」 ブラウニーで出来たチェストの上に飾られていたキャンディーの花を眺めながら、スイートが皆に向かって聞く。 「私は、チョコレートが好き」 理沙はそう答えると、辺りを見回した。ダイエットのことを考えると気軽には食べられないのだが、お菓子の家に来たらチョコレートを食べてみたいという気持ちはあった。 「チョコレートも美味しいわよね! 私はお菓子なら何でも大好き!」 ティリクティアは鉢植えのように並べられた特大パフェをバウムクーヘンのテーブルに載せ、こちらも特大のスプーンで上品に食べている。 「スイートもねえ、甘い物ならなーんでも大好き! でも、特にキャンディが好きかな」 スイートはそう言ってキャンディの花びらを一枚取った。 「あのね、元いた世界でお仕事がんばるとね、ママがご褒美にキャンディくれたの。すぐ食べちゃうのもったいなくて、大事に大事に宝石箱にしまっといたんだなぁ……だからスイートのキャンディはママの味なんだ」 そして口の中に入れる。食べるキャンディは違っても、やはりふわりと感情が広がる味だ。 「思い出の味ってあるわよね」 理沙は微笑み、ずっと黙っているサクラに視線を向ける。 「サクラさんは?」 「へ? ……わ、私ですか?」 急に話を振られ、おろおろしている彼女を見てスイートが口を挟んだ。 「サクラちゃんはマシュマロが好きなのかなー? さっきからココアに入れてるし」 彼女が言うように、先ほどからサクラは、持ち込んだ保温水筒のコップに毟ったマシュマロを放り込み、中身のホットココアを注いでは、チビチビと飲んでいる。 確かに好きではあるのだが、それで気を紛らわせているという部分も大きい。 「こんなにいっぱいあるから、もっと入れたらいいんじゃない?」 「い、いえ、結構です!」 マシュマロのソファーを丸ごと持ち上げようとするスイートに手をバタバタと振り、サクラは急いでその場を離れた。 理沙はその姿をしばらく眺めていたが、まずは魔女とアニモフたちを探さねばと思い立ち、自身も別の部屋へと行ってみることにした。 「魔女さーん! アニモフさーん!」 だが、どこを見てもお菓子しかないのに、それが気にならないといえば嘘になる。 サクッという音に下を見れば、絨毯がココナッツフレークで出来ていた。真っ白なそれは、雪が降り積もった後のようにも見える。 全てがお菓子で出来ている割に、触れてもべたべたと体につくこともなく、床にも塵一つ落ちずに清潔に保たれているのは、やはり魔法のなせる業なのだろう。 そんなことを考え、ふと見たテーブルには、チェスセットが置かれていた。もちろん、ただのチェスセットのわけはない。興味が湧き、そちらへと近づいてみる。 「チョコレートだわ」 黒いポーンをつまんで顔に近づけると、カカオの香りがした。先ほどの部屋からは、仲間たちの歓喜の声が断続的に聞こえてくる。食べてしまえばダイエットが大変になるかもしれない。でも、お菓子の家でお菓子を食べるなんていう経験は、もう二度と出来ないかもしれない。 「ちょっともったいない気もするけど」 そう言って駒を少しかじってみる。 「……美味しい! これ、実は高級なんじゃないかしら」 口の中に広がる甘みと、香ばしさ。 それは決して安っぽい味ではなく、有名なパティシエが作ったと言われても信じられるような品質だった。もう一つ食べたいのをぐっと堪え、理沙は捜索を再開する。 しかし、いくら外から見るよりも広いといっても、それほどの部屋数があるわけでもないし、魔女だけならばともかく、沢山のアニモフたちが隠れられるスペースがあるようにも見えない。それらしい物音すらしないのだ。 皆は、どこに閉じ込められているのだろうか。 「夏コミは終わりましたし、冬コミまではそこそこ時間がありますし……少しくらい咽喉元まで食べても良いでしょうか。でも今目いっぱい食べると激しいリバウンドで全部お肉になっちゃうかもしれません……悩ましすぎます」 一方、サクラはぶつぶつと呟きながら、のろのろと歩みを進めていた。あまり周囲を見ずに進んでいるので、何かにごつんとぶつかり、はっと顔を上げる。 目の前には、大きなクロカンブッシュがそびえ立っていた。どうやら、あちこちに置いてあるようだ。 その甘美な姿に、思わず見とれてしまう。 「……はっ」 彼女は我にかえると別の場所へ行こうとするが、足が思うように動かない。 「女の子の憧れのクロカンブッシュがこんなに無造作に置かれてると、摘みたくなっちゃうじゃないですか……巧妙すぎます」 そして手は見えない何者かに引っ張られるかのように、クロカンブッシュへと向かっていた。気づけばシューは指の間に収まり、口へと運ばれる。 「何という美味……! ……はぁ」 感動は、すぐに罪悪感へ。口の中は幸せで一杯なのに、それに反して気持ちは重くなる。 「冬は天然魔法王女のコスしようと思っていたので太れないんですよね……公式でスリーサイズ載ってますから」 「え? だってお菓子は別腹でしょ?」 呟きに返事があり、驚いてそちらを見ると、そこにはいつの間に移動してきたのか、フォークでクレープのカーテンをもりもり食べまくるティリクティア。彼女は食べても食べても、あまり太らない不思議な体質だ。 その様子を見ていると、自分も実は大丈夫なのではないかという気になってくる。 「……いやいや」 サクラはその幻想をふるふると頭から追い出すと、何とか足を前へと進める。このままでは欲望に負けてしまう。 彼女はコスプレイヤーなのだ。もし太ってコスプレが台無しになってしまえば、絶対に後悔する。そして悔やんだ時にはもう遅い。 「ケーキ……生クリーム、チョコクリーム……あぁん、誘惑が多すぎです、眩暈がします」 だがどこをどう移動しても、この家にはお菓子しかない。逃げ場などあるはずはない。 「いっそ全てを忘れてダイブ大食い……したら負けですよね」 それでも誘惑に抵抗しながら足を動かすと、その先はバスルームになっていた。 中から派手な物音がするので、彼女は恐る恐る覗いてみる。 すると。 「ざばーん! ジェリービーンズのお風呂にダイブ!」 そこには家中のジェリービーンズをワッフルのバスタブに集め、そのカラフルな風呂の中で泳ぎ、時にはつまみつつ、至福の表情を浮かべるスイートの姿。 「いやぁぁぁぁっ!」 サクラは慌ててそこから逃げようと移動するが、少し進んだあたりで足がもつれ、その場によろよろと崩れ落ちてしまう。 「魔女さんお願いします早く出てきてくださいそろそろ理性が限界です」 「サクラさん、大丈夫?」 そこに理沙が通りかかり、サクラの姿を見て急いで駆け寄って来た。サクラは虚ろな目でそちらを見る。 「いえ、ご心配なく……」 「そ、そう……それならいいんだけど」 「あら? このタルトの時計は、リビングにあるのとはフルーツの種類が違うのね。美味しそう! いただきまーす!」 「ぎゅうぅぅぅぅぅ……」 そこに明るく登場したティリクティアが見事な追い討ちをかけ、サクラの体はついに支えを失ってその場に倒れこんだ。 ザクッと耳元で鳴ったのは、床の音。 「ビスケットの香り……床も美味しいビスケット……」 うわ言のように呟きながら、それでも口の中に入った欠片をちびちびと食べるだけに留めているのは、見上げた精神力と言えるだろう。 「??」 そこで、サクラはあることに気づく。 「……下から音がします」 「本当?」 それを聞いて、理沙もしゃがみこみ、床に耳をつけてみた。確かに、何かざわざわと音が聞こえる。 「スイートさん、ティリクティアさん!」 彼女の呼びかけに、二人も急いで集まってきた。 「なになに!? 美味しいお菓子あった!?」 「美味しいお菓子!? どこ? どこ?」 「もしかしたら、魔女さんとアニモフさんたち、地下にいるのかも」 理沙はそう言って床を指差す。 二人は顔を見合わせ、少し考えるようにしてから、うんうんと頷いた。 「うん、お仕事も忘れちゃだめだね!」 「ええ、もちろん忘れてなんかいなかったわ!」 「……」 思わず無言になる理沙。 「ひぃっ!?」 何気なくサクラの方を向くと、床に伏した彼女の首から上が消えている。 「皆さんを発見しました」 理沙の悲鳴に答えるかのように、サクラのくぐもった声が届いた。 「わぁ! それ面白そう!」 スイートはサクラのようにうつぶせになると、ザクザクと指でビスケットを壊しつつ頬張る。床にはあっという間に穴が開き、スイートの首も埋まった。隣ではティリクティアがスプーンで穴を空けている。当然、崩した分はしっかりと食べた。 「こんなに簡単に壊れるのに、乗っても平気なのよね」 そんな感想を漏らしながらも、理沙もその穴を覗いてみる。 地下の部屋には、沢山のアニモフの姿があった。皆、檻の中に入れられているようだ。 四人は急いで床をさらに壊し、地下へと降り立つ。 「この檻、チョコレートだわ」 理沙が檻の一つに触れて言う。結構な太さがあるが、力を入れれば壊せないことはないだろう。握り締め、足を踏ん張って強く引っ張ると、縦格子の一本がポキリと音を立てて折れた。 だが。 「えっ? 元に戻っちゃった!?」 それは、あっという間に修復されてしまう。これでは逃げられないはずだ。 「何てこと……なの……!?」 隣では、サクラが驚愕の表情で佇んでいる。 目の前の檻の一部が、少しだけ欠けていた。 「サクラさん、それどうやったの!?」 理沙が尋ねると、サクラは見開いた目をこちらへと向け、わなわなと震えながら言う。 「修復を遅らせるには、食べなきゃいけないみたいです……」 チョコレートの檻はとても味が良かった。でも地下室には沢山の檻が並んでいて、それぞれにアニモフたちは捕らわれている。魔女もどこかにいるのだろう。 皆を助け出すには、それだけ多くのチョコレートを食べなければいけないということだ。 非情な現実に、打ちひしがれるサクラと理沙。 しかし。 「ふっ、望むところだわ! 食べて食べて食べつくしてあげるまでよ!」 「スイートもいーっぱい食べて、アニモフさんたちも魔女さんも助けてあげるね! お仕事って楽しいー!」 そこに明るい声が響いた。ティリクティアとスイートである。 穴の空いた天井から降り注ぐ光がスポットライトのように二人を照らし、それを反射して光るスプーンとフォークが、神々しさのようなものすら醸し出していた。 「いざっ!」 「お菓子っ!」 気合の入った謎の掛け声と共に、二人は走り出す。 ティリクティアはスプーンとフォークの二刀流で、スイートはパンチやキックで檻を破壊し、次々と食べていく。 その隙に、理沙とサクラが中のアニモフを助け出す。せっかくなのでチョコレートも少しだけ食べた。 お菓子の家は檻の修復を急いでいるようだが、破壊され、食べられた後に素早く助け出されてしまうと全く間に合わない。 「今度はミントね! 中々のお味だわ」 「スイートのはキャラメルだった!」 「お土産に持って帰りたいなぁ」 「これだけ動き回ってますし、アニモフさんたちを抱えて救出するということは、それなりに筋肉を使っていて、それはつまり基礎代謝も上がるわけで……そうそう、それに冬コミまではまだまだ時間が……はああっ、ビターチョコの味わいとラズベリーの甘酸っぱさが……」 怒涛のごとく突き進むロストナンバーたち。助け出されたアニモフたちも加わり、その勢いは増すばかりだ。 家も何とかその勢いを止めようと、マフィンやマカロンの弾丸を壁から打ち出したり、ジンジャーマンクッキーの兵隊にジンジャーキャンディーの槍や棍棒で攻撃をさせる。 「このマフィン、ナッツを贅沢に使ってるのね」 「マカロンをお口でキャッチ! おいしいー! 楽しいー!」 「すごい、ジンジャーマンが動いてる! 可愛いなぁ。キャンディーもジンジャーなのね」 「キャンディーだったら少しずつ舐めれば、そんなに食べたことにはならないですよね。そういえば、ジンジャーは脂肪を燃焼する効果もあるらしいですし……ああっ、程よい甘み……」 だが所詮はお菓子。この面子に敵うはずもない。 快進撃は続き、もう勝負は決まったかと思った時、大きな音と共に、家が揺れ始めた。 「何? 地震!?」 突然のことに皆足を止め、音のする方を見る。 「アニモフさんたちかも!?」 スイートが嬉しげに言った。 家に入る前、遠巻きにして様子を窺っていたアニモフたちに、浮き島中のアニモフが集まれば、お菓子の家も食べ尽くせるのではないかと声をかけていたのだ。 そして、地下室へと雪崩のようにアニモフが押し寄せた。 ◇ ◇ ◇ 「本当に迷惑をかけてすまないねぇ……」 年老いた魔女は、小さな体をさらに縮こまらせて、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。 「ううん、魔法が暴走しちゃって怖かったろうけど大丈夫。魔女さんとスイートはお友達だよ!」 彼女に向かって、スイートはにっこりと微笑む。 「そう言ってもらえると、ありがたいよ」 魔女もほっとしたように笑顔を見せた。 「こんなに思いっきり食べたのは初めて! ごちそうさま、美味しかったわ」 「ええ、お菓子、とっても美味しかったです」 「お菓子を作るのは得意なんだ。良かったら今度は手作りをご馳走するよ」 ティリクティアと理沙の言葉に、魔女はとても嬉しそうにしている。 「私も、食べ放題じゃない状況で、是非ご馳走になりたいです」 サクラもそう言って、小さく息をついた。 「もう少し遅かったら、天然魔法王女が危ないところでした……」 不思議そうにしている皆に「いえ、こっちの話です」とサクラは言葉を濁す。 アニモフたちも、いつの間にか周囲に集まってきていて、魔女の手を握ったり、ローブの裾を引っ張ったり、楽しげに戯れていた。 どうやら、彼女の当初の目的は叶えられたようだ。 家があった場所には、ただ明るい緑の草原が広がっている。 ――お菓子の家、完食である。
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