オープニング

 ターミナルの人で賑わう通りをはずれた路地に、こじんまりとした佇まいの道場らしい建物がある。門には「零肆館」と達筆で書かれた木製の看板の掲げられており、今、銀色のドレスを纏った銀髪の真白い人形じみた女が道場の中へと入っていく。
 道場の内部、広い板の間の中央では、黒い着物の男が座禅を組み、目を閉じていた。脇に置かれた真黒い甲冑が、開け放たれた道場の戸口から差し込む光を浴びて鈍く輝いている。銀髪の女性――リーベ・フィーアは男の前で静かに正座すると、白い封筒をすっと差し出した。
「景辰サン、書簡ガ届いていマス」
「あ?」
 蔦木景辰は閉じていた目を怪訝そうに開き、リーベが差し出した手紙を見下ろす。何も言わずそれを手に取り、差出人を検めた。
「……アルウィン・ランズウィック。聞かねぇ名だな」
 宛名には差出人のそれと同様に黒インクによる緩やかで丁寧な筆跡で景辰とリーベ両者の名が綴られている。字は見覚えがあるな、とぼやきつつ、景辰は手紙の封を切って中の便箋を取り出そうとした。しかし中からは便箋の代わりに大きめの画用紙が現れ、それを広げてみた途端、景辰の眉間に深く皺が寄る。数秒目を落とす間にその皺がさらに深くなり、それから間もなく画用紙を折りたたんでリーベへ押し付けるような素振りで差し出した。
「お前が読んで聞かせろ」
 リーベは画用紙を受け取り、それを広げる。淡白な表情のままその文面を追い、顔を上げると、「デハ、失礼して」とそれを読み上げ始めた。

『 カゲタツ リーベ こんちや
 はじまめして アルウイン・ランズウイックです
 アルウイン どちらさまか いうと
イエンス・カルビネンと すんでるこです
こどものおおかみです きしです
 アルウイン イエンスから きいたです
カゲタツ いこくのきし ゆうかん
リーベ きれい やさしいのひと   
きょーびにんじん です
アルウィン カゲタツとリーベと あそぶしたいです

 モフトピヤして ますか?
モフモフしたこ いぱい いるせかいです
 おーきい めろ ある そうな
じとしてない うごくうごく めろ ですて
アルウインわ カゲタツとリーベと めろ いきたいです
よかたら いきませんか?』

 書き間違いと思われる部分まで正確に淡々と読み上げると、リーベはいろんな色のクレヨンで幼子らしい些か拙い文字がたっぷりと書かれていた画用紙を折り畳む。
「尚、『きょーびにんじん』ハ『興味津々』、『めろ』ハ『迷路』のコトであるト推測されマス」
「つまり内容は何だって?」
「アルウィン・ランズウィックというイェンスさんノ養い子がモフトピアにあるトいう巨大迷路へ我々ヲ誘っておられるようデス」
「成程」
 景辰はやっと合点がいったと封筒を軽く掲げてみせる。ちょうど七夕の頃に見た覚えのある封筒の筆跡はおそらくイェンスがアルウィンの代理として書いたものなのだろう。
「ソレデ、如何されマスカ?」
「イェンスには世話になってる。子守くらい幾らでも引き受けてやるさ」
「分かりマシタ。デハ了承の旨ヲお送りしマス」
「ついでに飴玉の一つくらい付けてやれ」
「かしこまりマシタ」

* * *

「こんちやーっ!」
「こんちや?」
「こんちやっ」
「こんちやー!」
 件の大迷路があるというモフトピアのとある島に降り立って間もなく、そこの草原で遊んでいたアニモフたちが一行を取り囲んでいた。アルウィンが尻尾をパタパタさせながら元気いっぱいに挨拶をすると、子犬のような姿をしたアニモフたちも彼女の真似をしてパタパタ尻尾を振りつつ口々に挨拶を返し、きゃっきゃとじゃれつき始める。そうしてあっという間にアニモフたちの中に馴染んでしまったアルウィンを、景辰とリーベは二、三歩ほど離れたところから眺めていた。
「こいつぁちび犬だらけだな」
「イイエ、全て狼に分類されマス」
「いやぁ? 同じだろ」
「「「ちーがーうーっ」」」
 景辰の不用意な発言に、それまで草原でころころとじゃれたり追っかけっこをしたりして遊んでいたアルウィン含む子狼集団から一斉に非難の声があがる。
「お、ちっこいのが一丁前に狼の矜持をみせたか」
「景辰サン、幼児やアニモフをからかい過ぎナイでくだサイ」
「分ぁってるって。ちび共、悪かったな」
 軽い謝罪にそれでもアルウィンとアニモフたちは「「「いいよーっ(いいぞー!)」」」と返事をしてまた遊びを再開しようとする。しかしそこでアルウィンはハッと思い出して、一番近くにいたアニモフに尋ねた。
「アルウィンたち、めろ、しに来たんだ。めろ、どこにある?」
「めろー?」
「めーろあっちだよー」
「みんなめーろいこー!」
 あっちあっちとアニモフたちはアルウィンをある方向へ引っ張りながら移動を始めた。もふもふした手に引かれながら、アルウィンは景辰とリーベの方を振り返る。二人がちゃんと付いてきていると分かるとニパッと笑い、手をひいていたアニモフたちを逆に引っ張っていくように駆け出した。

 間もなく到着したのは、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と、それぞれ七つの色の葉を付けた樹木が見渡す限りに広がる森林だった。アニモフたちが指差す先には如何にも入口らしく樹木が分かれ、ぽっかりと口を開けている。
「あそこからはいるんだよーそれとね、みてて!」
 アニモフたちに言われてしばらく森を眺めていると、森林の一部ががさがさと揺れ出す。それからその揺れた一帯が一斉に動き始めた。
「めーろ、「かたち」がかわるんだよ!」
「でね、ゴールはあそこ!」
 森の中央部のあたりには遠くからでも分かるほどすらりと背の高い銀色の木が見えていた。森林は中央部に近づくほど白くなっており、というのも、あの「大空の樹」の根元にある「雲の泉」から触れることのできる真白い雲が常に湧き出して森林内へ広がっている。雲は自然に森林の外へ外へと向かうように流れており、森林内でその雲を捕まえて上に乗ることで、迷路で幾ら道に迷っても無事に脱出ができるらしい。
 また、森の中にはアニモフがいっぱい乗れるほど大きな花が咲いている。花弁の表面は細かな毛に覆われて絨毯のようにふわふわとした手触りをしていて、休憩するにはちょうどいいようだ。
「まんなかのき、つけたら『たからもの』があるんだって!」
「たらかもの!」
 アルウィンは両目をぱっちり開いて輝かせた。張り切る気持ちが耳と尻尾を真直ぐにぴんと立たせている。
「カゲタツ、リーベ、行こ行こ! はやく!」
「ん、ああ。じゃー行くか。はぐれんなよ、坊主」
「景辰サン、アルウィンさんハ女児なノデ、坊主という表現ハ不適当デス」
「あ? そうなのか?」
「じょじ? アルウィンは「きし」だぞ」
「戦士に性別は関係ねぇってよ」
「そういうものデスカ」
「いや、ただの冗談だ。さっさと行くぞリーベ、アルウィン」
「おう!」
「……ハイ」
 一行が森へと入っていくと、アニモフたちも挑戦してみようと次々それに続いて行った。

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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
アルウィン・ランズウィック(ccnt8867)
蔦木 景辰(czvr9808)
リーベ・フィーア(ctam3568)

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品目企画シナリオ 管理番号2926
クリエイター大口 虚(wuxm4283)
クリエイターコメントこの度はとても楽しそうな旅のお誘いありがとうございます。ちょうどそろそろもふもふ成分を補給せねばと思っていた頃合いでしたので歓喜してOP練らせていただきました。
尚、申請文にあったアルウィンさんのお手紙があまりに可愛らしかったのでまるっと引用してみましたと事後報告させていただきます。

迷路はモフトピアの巨大迷路ということで移動する木が集まってできた天然の迷路というイメージで設定してみました。ギブアップ&帰還はゴールである迷路中央部から四方へ常に流れてくるふかふかの雲を捕まえて乗れば自動で外まで運んでもらえる仕様です。休憩は森のあちこちで咲いている巨大な花の上でどうぞ。

プレイングについてはアルウィンさんのやりたいことをいっぱい詰め込んでくださればOKです。NPCたちとどう接するかという辺りについてもお書きいただけるととてもありがたいです。
ゴールで手に入るお宝について、候補はWRの方で用意してありますが、もし「分割できるものがいい」とか「小さいものがいい」等々ぼんやりとでもご要望があればプレや非公開欄にてお書き添えくださいませ。モフトピア的に可能な範囲で対応いたします。ただし現地の生き物は持って帰れないのでご注意ください。無論このままお任せいただいても問題なしです!

それでは、アルウィンさんのプレイングをまったりと心待ちにしております。

参加者
アルウィン・ランズウィック(ccnt8867)ツーリスト 女 5歳 騎士(自称)

ノベル

 森の中へと一歩踏み入れると、柔らかな風が七色の葉を揺する度にキラキラとした光が宙を舞う幻想的な景色がそこにあった。アルウィンは「おおーっ」と口を開けて、しばらくキョロキョロと忙しく首を振って森の中を観察する。森の奥から流れてくる真っ白な雲にそっと触れてみるとマシュマロのようにふかふかふにふにとした感触で、アルウィンの口からはまた「おお~!」という感嘆が漏れた。
「迷宮ノ攻略でアレバ、小型飛行カメラを飛ばし上空からリアルタイムで情報ヲ送るコトもできマスガ」
「お前な、そういうのは無粋っていうんだぜ? なぁ、ちびっこ」
「ふえ?」
 景辰に話しかけられるも雲に気をとられていたアルウィンは、かくん、と首を傾げた。
「どうやって迷路を抜けるかって話さ。お考えはどうだい、隊長殿?」
 苦笑交じりに続いた言葉に、アルウィンは「おお!」と三度目の感嘆を上げてきりりとした表情を作る。
「アルウィン、隊長か!」
「たいちょーかー」
「たいちょー」
 その辺にいたアニモフ達がてこてこと駆け寄ってくると、アルウィンは彼らに向かってえっへんと胸を張ってみせる。
「たいちょーにつづけー! しっぱーつ!」
 おー! と小さい拳を振り上げ、皆を引っ張っていこうと先頭をきって駆け出す。数人のアニモフがそれにきゃっきゃと続いていくと、景辰とリーベはその後ろからゆっくりと歩きだした。

「道でちゃだめだー、今度は海おっこちるぞ!」
「きゃーっうみー!」
「たいちょーからはなれるなー」
 アルウィン率いる「めいろ探検隊」は賑やかに森の奥へと進んでいた。さっきまで溶岩ということになっていた道の両脇は、今は大海原へと設定が変わっている。
「気をつけろ! サメもいるぞー!」
「鮫だってよ。おっそろしいなァ、リーベ」
「……貴方、以前ブルーインブルーで鮫ニ乗ッテませんデシタ?」
「カゲタツ、サメ乗れるのか!?」
 後方での会話が耳に入ったアルウィンはびっくりした様子で振り返る。興味津々を全身で表現するようにその両耳と尻尾はぴこぴこぱたぱたと動き、目はきらきらと輝いていた。アニモフ達も同様の仕草で景辰に期待の眼差しを送っている。
「さーて、どうだったかねぇ? 帰ったらイェンスにでも訊いてみな」
「「「えーっ」」」
 一斉に上がった落胆の声に、景辰は愉快気に笑って「それよりも」と続けた。
「探検は今のとこ順調なのか、隊長殿?」
「おおー! ちょっと待ってろ!」
 アルウィンはすぐ近くの木に駆け寄ると、表面の凹凸や枝を利用し慣れた様子であっという間によじ登っていく。
「たいちょーすごーい! かっこいい!」
「すごいすごーい!」
 そのままてっぺんまで行き、地上でやんやと歓声を上げるアニモフ達を枝の隙間から覗き見てから顔を上げ、ゴールの大きな樹が最初見た時より幾らか近づいているのを確かめ、またするすると慣れた動作で木から降りてくる。
「じゅんちょーだった!」
「へぇ。やるじゃねぇか」
「アルウィンさんハ木登りガお上手デスネ」
 皆に褒められ、アルウィンは少し照れたように頬を緩ませてふにゃりと笑った。そのとき、ふっと何かに気づいたのか急にその場へしゃがみこんだ。
「どうかされマシタカ?」
 リーベが尋ねる間に、アルウィンはまたすぐに立ち上がって何かを掲げて見せた。
「じゃーん!」
 それは、とても真直ぐに伸びた、手に持つのに調度いい長さの枝だった。ほんの一枚だけ付いたままの光沢のある艶やかな青色の葉っぱがまた「いい感じ」の風情を漂わせている。
「いいなー!」
「たいちょーいいなー!」
 アニモフ達が一斉に盛り上がり、それぞれに「いい感じ」の棒を探し始める。アルウィンもすぐにそれに混じって、より「いい感じ」のものを探す。
「たいちょう、これどう?」
「こっちのがピンッってしてるぞー」
「たいちょ、これはこれはー?」
「これいい感じだ!」
 いつの間にかより「いい感じ」の棒を選別するポジションに納まっていたアルウィンの指導により、「いい感じ」の棒が少しずつ全員にいき渡っていく。
「……幼子の思考トいうものハ難解デスネ」
「いや、難解に考えるもんじゃねぇってことだろ」
 彼らが選別している枝の違いを観察していたリーベの呟きに、景辰が可笑しそうに笑いながら返していると、一通りの「指導」を終えたアルウィンが駆け寄ってくる。
「カゲタツ、リーベ、どれ素敵、思う?」
 そう言ってアルウィンが差し出したのは、青や橙などいろんな色のつやつやした葉っぱだった。枝を探している最中に、綺麗な落ち葉も見つけたらしい。アルウィンはわくわくした表情で二人が選ぶのを待っている。
「樹に辿り着く前に宝物を見つけたって面だぜ。さっさと選んでやれよ」
「デハ、私はコノ藍色のモノが良いと思いマス」
「じゃ、リーベこれやる! カゲタツは?」
「俺か。じゃ、これ貰うぜ」
 景辰が真っ赤な葉っぱを小さな手から貰い、二人がそれぞれ礼を言うと、アルウィンはにっこりと嬉しそうに笑顔を浮かべる。それから他のアニモフ達にも葉っぱを選んでもらい、皆に葉っぱを配り終えるとまた探検を再開するのだった。

 昼が近くなり、一行は近くの巨大花の花弁の上で休憩をとることにした。空色の柔らかい花弁に腰を落ち着けると、アルウィンはいそいそと持参した鞄の中からお弁当箱とラップに包まれたおにぎりをそれぞれ幾つか取り出す。
 弁当箱を開けると、焼き魚や煮つけなどのおかずが丁寧に彩りよく敷き詰められていた。イェンスが今回アルウィンの誘いに乗ってくれた景辰たちのために和風のおかずで合わせてくれたらしい。
「イェンスのおべんと、みんなで食べる!」
「ほぉ、美味そうじゃねぇか」
「イェンスさんは料理ガお上手デスネ」
「あ、あと、リーベに、これって!」
 アルウィンはリーベにホッチキスで留められたメモの束を手渡す。それは事前にイェンスから食事について尋ねられた際に、リーベが頼んだものだった。
「アルウィンさん、ありがとうございマス。イェンスさんにもお礼ヲ伝えてくだサイ」
「おう!」
 リーベは機械の身体故、専用の設備でエネルギー供給を行う以外は基本的に食事を摂ることがない。しかしせっかくならと、今回の弁当のレシピをイェンスに頼んだのだった。
「和食のデータを私ハあまり持っていないノデ、とても助かりマス」
 曰く、普段景辰に出している食事はリーベの出身世界にある料理が主であるらしい。それについて景辰から不満が出ることはないが、やはり故郷の食事に近いに越したことはないだろう。
 一緒に来たアニモフ達もそれぞれに森の中にある美味しい木の実を集めて持ち寄り、交換して味見などをしながら一行は和やかに食事の時間を過ごした。
 アルウィンはリーベにハンカチで口元を拭ってもらって食事を終え、ひと段落すると、眠たげに目元をこすり始める。
「食ったら眠くなったか」
「んー。みんなお昼寝、する」
 一緒にいたアニモフ達も横になって眠り始めていた。アルウィンはもぞもぞとそのうちの一人をぬいぐるみにするように抱っこすると、そのままうとうとと眠りに落ちていく。
「景辰サンも寝ますカ?」
「何処の世界だろうが、表で無防備に寝こけるほど腐抜けてねぇよ」
「……そう、デスカ……」
「と、言いたいところだが暇だ。寝る」
「……そうデスカ」

 全員がお昼寝から覚めたところで、探検は再開される。先頭に立つアルウィンの直感に従って探索をしていた一行だが、やがて到着したのは来た道以外の三方を木に囲まれた袋小路だった。
「“いきまどり”だ!」
「景辰サン、“行き止まり”だそうデス」
「じゃ、一回戻りゃいいんじゃねぇか? どうするよ、隊長殿」
「おう、もどるもどる! あと、樹見る!」
 アルウィンは再び行く手を遮っている木々のうちの一本をするすると登り、銀色の大樹の場所を確かめた。
「んー、あともちょっと……わっ!」
 片手を両目の上に翳して大樹を伺っていると、ふいに木が急に動き始めた。
「おおー! 木うごいた!」
 落ちないように乗っていた枝に掴まっていると、周辺の木も一斉にわさわさと音を立てながらアルウィンの乗っていた木と一緒に移動を始める。
 キョロキョロと周囲を見ると、景色が勝手に動いているようで非常に面白い。
「みんな、ながたびかー?」
 みんな一緒に歩き回って、自分たちと同じだと思うと、仲間が増えたような気分でもある。それでふっと思い出して、枝の隙間から、下にいるはずの景辰とリーベやアニモフ達を探す。しかし、なかなか見つからない。木が動いたせいで見失ってしまったのだろうか。
「リーベー、カゲタツー?」
 何度か名前を呼んでも返事はない。どうしよう、とついさっきまで上向きだった気持ちが急に不安で萎んでいく。両目の辺りにまで気持ちがこみ上げてきて、アルウィンは両目を腕で覆う。
「泣く、だめ。アルウィン、たいちょ、だから……っ」
 一緒に来てくれたみんなに格好悪いところは見せられない、という幼心ながらの意地と、せっかくの遊びの日に悲しくなりたくないという気持ちがアルウィンを励まし涙が溢れてきそうになるのを食い止める。
「う~……」
 そのとき、ガリッ、とアルウィンよりだいぶん後ろの方から木の削れるような音がする。何だろう、と耳を立てていると、次の音はさっきよりアルウィンの方に近づいているようだった。音がした方に振り返ると、真っ黒い影がアルウィンの方へと突っ込んでくる。
「わっ!?」
「おっ、此処に居たか。隊長殿」
 驚いて目をつむったアルウィンが恐る恐る目を開けると、木の幹に深々と突き刺さった刀を軸に景辰がひょいとアルウィンのいる木の枝の一つに飛び移るところだった。
「リーベ、見えてるか? ちびっこの回収完了だ、そっち戻るから誘導しろ」
『了解デス。デハ、カメラの後を付いてきてクダサイ』
 リーベの声がした方を見ると、ちっちゃな機械が空中を機敏な動作で飛んでいる。アルウィンはぽかんと口を開けたまま景辰によって小脇に抱えられ、そのまま木々の上を移動してリーベやアニモフ達の元へと帰還する。
「「「たいちょーおかえり!」」」
 景辰に地面へ降ろしてもらう頃には、アルウィンは元の笑顔を取り戻していた。出迎えるアニモフ達にただいまを言うと、アルウィンは景辰とリーベの方へ向き直る。
「カゲタツ、リーベ、ありがと!」
「イエ、ご無事で何よりデス」
 リーベがそう応える一方で、景辰はアルウィンの頭をくしゃりと一度だけ撫でる。
「そろそろ日も暮れそうだ。雲の流れてくる方向を辿っていきゃ、もうすぐだろうよ。急ごうぜ、隊長殿」
「おう!」
 仕切り直しとばかりにアルウィンが拳を振り上げると、近くにいたアニモフが提案とばかりに手をあげた。
「ねぇ、たいちょ。みんなで、てぇつないでいっちゃだめー?」
「てーつなぐとたのしーよ!」
「おー、手つなぐ! みんなで手つないでこ!」
「私達も、デスカ?」
「おう、リーベもカゲタツもつなぐぞ!」
 アニモフ達が手をつなぎ、アルウィンはリーベと景辰の間に入って手をつなぐ。景辰が気恥ずかしそうにするのは気にせず、探検隊はそのまま歩きだした。
「なー、カゲタツ、リーベ、アルウィン二人のこと『りあじゅう』って聞いたぞ。『りあじゅう』ってなんだ?」
「それはデスネ、近年ノ壱番世界で作らレタ言葉で意味ハ……」
「詳細に説明すんな、リーベ」

 それから間もなくして探検隊は大空の樹の元へと辿り着く。大空の樹のアニモフたちの身長でも届くほどの高さのところの枝には、林檎に似た大きさの金色の果実が幾つもなっていた。
「たいようのみっていうんだよ!」
「とってもおいしいよー」
 アルウィン達は果実を人数分 (アルウィンはイェンスと子分の業塵と、ちょっと気に入らないけどヴィンセントの分も) もぎとる。
「アルウィンさん、お疲れ様デス」
「ううん。リーベ、カゲタツ、遊んでくれて、ありあと!」
 アルウィンはビー玉と折り紙の花と星、それからメッセージカードを二人に手渡す。
「いやぁ、隊長殿? 探検はまだまだこれからだぜ?」
 アルウィンの頭を撫でつつ景辰が指差す先では、アニモフ達が森の外へ帰ろうと泉から湧く雲を捕まえようとしている光景があった。アルウィンは目をキラキラとさせて景辰に頷いてみせる。
「くも待てー! みんなつかまえろー!」
「「「おー!!」」」

【完】

クリエイターコメント大変お待たせしました!
楽しいプレイングをどうやって詰め込もうかとあれこれ調整し若干の悪ノリも含めつつ試行錯誤してみましたが、如何でしたでしょうか!
景辰とリーベへのプレゼントもありがとうございました! 二人も今回はまったりと楽しめたものと思います。
アルウィンさんのわんぱくなかわいさを少しでも表現できていたら幸いです!

この度はお誘い&ご参加誠にありがとうございました。またのご縁がありますことを心よりお待ちしております。
公開日時2013-10-14(月) 21:30

 

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