オープニング

「今回の依頼の第一の目的は“護衛”だ」

 集まったロストナンバーたちに世界司書シド・ビスタークは導きの書を振りかざしながら言った。
「護衛対象はブルーインブルーの生物学者だ。もしかしたら学者にはあまり良いイメージを持ってない奴もいるかもしれないが……そのイメージをそのままで問題ない」
 シドは声のトーンを落として、「なんで学者とか研究者っつーのはああもマッドだったり変人なんだ……?」とぶつぶつ言った。
「あー、この学者が、珍しいクラーケン――巨大なタコの生息地を見つけたんだ。そこで、第二の目的だ。“足”が一本欲しいんだと」
 そこでシドは導きの書で肩をとんとんと叩き。
「ちなみに本当に出る。でかいのが。いっぴきだ」
 ぴっと一本指をたてた。
 そして、ふんっと鼻息を吐いた。
「とりあえず、重要なのは第一の目的だ。船と依頼主を護衛しろ。敵はでかいクラーケン。ただし目があまり良くないという話だ。なんかあったら小船で逃げろ」
 そしてパンと導きの書と大きな手を叩き合わせる。
「でも余裕あったら足取ってこい。依頼主は煩い奴だからな。何も取らずに逃げ帰ってきたら後が怖いぞ」
 そこで、シドはゲンナリした顔をした。
「後は本人に聞け。なかなかアクが強いから気ぃ引き締めてけよ」


 ☆ ★ ☆ ★


「はぁーい、護衛ってアナタ達のコトかなー!
 アタシはアデリーナ!よろしくねぇ!」
 元気に言い放った女性は、満面の笑みで片手を上げた。
 潮焼けした肌が健康的で、色の抜けたようなパサパサした茶色の髪を縛りもせずそのままにしていた。
 ついでに服装はシャツの上に皮で出来たブーツとオーバーオールをくっつけたような代物で……つまり所謂、胴付長靴だ。
 ともかく一見すると漁師のようである。腕まくりされたシャツから出る腕もたくましい。
「今回乗ってく船はこちら! 漁船!
 クラーケン取りに行くって言ったら、研究所が船貸してくれなかったんだぁー」
 アデリーナは眉を寄せ腕を組んだと思うと、ぱっと表情を明るく戻し、手を合わせた。
「でもこの船の漁師さんたちは根性あるから 大丈夫ー!
 タコなんか怖くない人たちよ!」
 嬉しげにクルリと一回転。
 あまりのテンションの高さに見ているほうが、だんだん疲れてくる。
「で、タコ足、絶対取ってきてよね! アタシも乗船するけどー、実はアタシ船酔い酷くってー。船室で寝てるからよろしくねん! 取ってこなかったら怨むわよ!」
 明るく言われたけど、心なしか目が怖かった。
 彼女は捕獲には参加しないらしい……。
「その代わり、取ってきたタコ足、調べた後に食べて良いわよ! 今夜はタコづくしできちゃうぞー!」
 彼女はVサインのかわりに、両手の指を四本ずつ立ててワキワキと動かした。タコっぽくはない。
「ささ、場所はそんなに遠くない岩礁地帯よ!
 さぁレッツ採集!!」
 押し込まれるように船に乗せられ、ロストナンバーたちは真っ青な海へと旅立つのだった。

品目シナリオ 管理番号1544
クリエイター灰色 冬々(wsre8586)
クリエイターコメント初シナリオです!海が好き!
灰色 冬々です。
護衛ミッション+αです。
コミカルめな雰囲気にするつもりです。
死闘になるようだったら逃走しますゆえ、気軽なバトルと思ってください。

プレイングは、
★道中
☆作戦
★戦闘
のほか、
☆タコ足が持って帰れた場合のタコの調理法
★タコ料理に合わせるお酒等
なんかも、字数があまりましたらお書きください。
(もちろん敗走プレイングも有ですし、内容は自由にお書きくださって結構です。

楽しい冒険になりますように!
みなさんの参加をお待ちしております。

参加者
マグロ・マーシュランド(csts1958)ツーリスト 女 12歳 海獣ハンター
ジョブ・チョップ(cdpb3184)ツーリスト 男 26歳 二等兵
Σ・F・Φ・フレームグライド(ctsn3199)ツーリスト 男 27歳 連合軍遊撃隊
風雅 慎(czwc5392)ツーリスト 男 19歳 仮面バトラー・アイテール

ノベル

1、「取りにいってやろうじゃないか。伝説級とやらを」

「自分はジョブ・チョップ二等兵であります!!
 命令を復唱させていただいてもよろしいでありますかァ!!」
「おー……」
 ジョブの大きな……しかしちょっとへなちょこな声に、アデリーナがうつろに声を返した。
「タコさん狩りに行くんだよねー? お手伝いするよー!
 ボクはマグロだよー。宜しくねー♪」
「タコさん狩りに行くであります!」
「マグロちゃんハァーイ……」
 マグロが可愛らしく澄んだ声で言うと、ジョブが復唱し、アデリーナがうつろに挨拶を返した。とってもグッタリと。
「オレは風雅 慎……って、船酔いで寝てるくらいなら乗るな……!!」
「うう……」
 慎が非常にまっとうな意見を言ったが、アデリーナはうつろにうめく。
「俺様はΣ・F・Φ・フレームグライド。巨大なタコの足を取りに行くんだろ? 上等だ。
 取りにいってやろうじゃないか。伝説級とやらを」
「ふぁい……」
「おい!!」
 ニヤリとΣが言うと、アデリーナがうつろに応援(?)をし、慎が思わずつっこみを入れた。
 ロストナンバー4人は船の中の船室にいた。
 漁船と言っても割と大きな部類なのだろう。甲板より上部の船室以外に、甲板より下層にワンフロア有り、ここはその中でもど真ん中の船室だ。
 「ここが多分一番揺れない」とアデリーナが出発前に言っていたのだが、海の上を軽快に滑り出した船はあっというまに穏やかな港周辺を抜け、大きなうねりを跳ぶように越え……つまり船全体がかなり揺れている。
 固定された机につっぷすアデリーナの頭が腕の上を左右に転がり、傍らで直立しようとするジョブもヨロヨロフラフラと左右に揺れる。どっしりとした体格のΣですら時々グラリとふらつき、慎は揺れに合わせて上手くバランスを取ろうと苦心していた。重心が低いせいか、それとも海になれているせいか、マグロが一番涼しい顔で立っている。
「ねーねー、本当に足だけでいいのー? 全部は要らないのー?」
 マグロがアデリーナに聞くと、慎が真面目な顔で口を挟む。
「タコからこの船と、ついでにこの女を護る為に来た、ということも忘れるな。
 タコを食べに来たワケじゃないからな。全部食べたいなんて欲張りな……」
「別に食べたいとは言ってないだろう。
 俺も本体を持っていったほうが、研究するのに早いと思うぜ?」
 Σが慎を遮ってマグロに頷いた。慎はムッとした顔をしながらもアデリーナを窺う。ジョブはチラリと慎の後にある大きな背負い袋を見たが、何か言うと慎が恐そうなので黙っていた。
「珍しいから……殺しちゃダメ……足は再生……」
「そっかぁー、貴重なタコさんだもんね♪」
 マグロがキラキラした目を細めて言う。こっそり慎が残念そうに肩を落としていたが、ジョブはそれも見なかったことにした。
「……ウッ」
「アデリーナさん大丈夫ー?」
 アデリーナが机の下からバケツを取りだし、前のめりになる。ジョブがオロオロと背中をなでたが、アデリーナは吐かずに耐えた。
「だ、だいじょうぶ……マグロちゃん、ジョブ君ありがと……」
 白い顔で言うアデリーナにゲンナリとΣが言う。
「甲板で風に当たったらどうだ?少しはスッキリするかも知れないぜ?」
「……甲板は……おとこむさい」
「はぁ? ここも男ばかりだろうが」
 予想外のあんまりな言葉に慎は怒りそびれて言う。
「マグロちゃん……」
「ん……?」
 マグロが尾びれをユルリと振った。
「ふふっ、ボク女の子だよー♪」
『エッ』
 三人の男性陣が驚いて仰け反った。マグロは手足の生えた魚のような姿で、性別の特徴は無い。声は可愛らしいが、自称が「ボク」であるし。
 男性陣は同時にアデリーナを見た。生物学者であるからか、はたまた女の勘なのか。そもそも旅人の外套の効果があるとはいえ、魚っぽいマグロをこの学者のそばに置いておいて大丈夫なのか。
 慎が気持ち体をずらし、いざというときにマグロを引き離せるところに移動する。Σはちょっと自分の心配もした。
 一方、マグロはさして気にしていないらしく、「あっ」と明るく声を上げる。
「元気が出るように、ボクおうたを歌ってあげるね♪」
「おまえ歌ってる場合じゃないだろうが……」
 慎が遮るのも聞かずにマグロは目を閉じ歌い出す。
 美しくそれでいて優しい響きが船室を包んだ。
 曲調は初めは静かに、そして語りかけ励ますように進む。
 4人は身動ぎもせず音をただ受け入れた。体に沁み渡り気持ちが穏やかに温かくなっていくのを感じる。
 ……
「ご静聴ありがとうございましたー♪」
「す、素敵でありました!! 感動でありますっっ!!」
 ペコリとマグロが頭を下げると、ジョブが滂沱の涙を流しながらひざまずいてマグロの手を取る。
「何だか勇気も湧いて来たであります! 船内の巡回と海の監視をしてくるでありまぁっす!!」
 ビシッと立ち上がり敬礼し、そのまま背筋を伸ばして部屋を出て行った。さっきまでオドオドした様子はなく、とてもシャッキリしている。
「アタシもちょっと落ち着いたかも……。気持ち悪いことは悪いけど……
 マグロちゃん凄いわね。ありがとー」
「どういたしまして♪」
「あー甲板に出て、船員にも歌ってやってくれる?」
「アイアイサー」
 マグロは嬉しげに敬礼の真似をしてペタペタと船室を出て行く。
「俺達も上行くか? 男むさいのイヤだそうだからな」
 慎は言うが、先程までほど声に鋭さはない。Σが口元を上げて肩をすくめた。
「やぁね、悪かったわよ。
 お詫びに秘密兵器あげるから、ちょっとあそこの革袋開けてみてくれる?」
「ん? これか?」
 袋はさほど大きくない。慎が口を掴んで机に置き、口を開く。
「これは……」
「ゴーグル……?」
 出てきたのはゴーグルらしいもの――丸いガラス板2枚をゴムの枠で囲ったもので、枠には革製のバンドがついている。ただし、特に秘密兵器っぽいところがない。どう見てもただのゴーグルである。ちょっとダサイ。
「ゴーグルだけど?」
 アデリーナも同意した。やっぱりゴーグルらしい。
「潮慣れしてないと海水が目に入ったら戦えないわよー。持っていきなさい」
 慎が口をへの字にしてゴーグルを首にかける。Σは頭にカチューシャのようにひっかけた。
「ジョブ君とマグロちゃんにも持っていってあげてね!
 じゃアタシ今のうちに寝るから、頑張ってね!」
 アデリーナは言うだけ言うと机につっぷした。すぐにスースーと寝息が聞こえる。
 マグロにゴーグルが必要かは微妙な気がしながら、慎が2人分のゴーグルを手に取った。
 船室のドアを出るときに、Σがなんとなく言った。
「似合ってるぜ?」
 慎は一瞬イヤそうな顔をしたが、息を吐いて返した。
「あんたもな」


2、「ええっ船沈むでありますか!?」

「カモメさんが凄いであります!! あ、いたっいたたたたた」
 船尾にて。ジョブが海鳥に囲まれていた。
 漁の残りを撒く者がいるのだろう、海鳥は走る船に追随しおこぼれを狙っている。
 ……ジョブはおこぼれを撒くものでも、おこぼれ自体でもないのだが……
「おい、おまえ。預かりもんだ」
 慎が声をかけ、ゴーグルを投げる。
 海鳥がそれを避けバサバサと飛び去った。
「これは……! こうすればカモメさんに目をつつかれないであります!
 ありがとうであります!」
 素早く眼にしっかりと装着したジョブが嬉しそうに敬礼する。
「そういう用途では無いんだが……まぁいいか」
 ゴーグルがキラリと光り、また海鳥がジョブへのアタックを開始する。
 が、ゴーグルとヘルメットに護られたジョブは鳥まみれになりながらも今度は平気な顔である。
「ハハハ! もう怖くないであります!」
 海鳥は慎にも飛びかかろうとするが、睨みながら手で払うと簡単に諦め寄ってくることは無くなった。
「なぁ、あんた、ちょっと払ってやったりとか……あとその抱えてる銃を一発撃てば、寄って来なくなるんじゃないか?」
「そんなことしたら可哀想であります!」
「いや、俺からはあんたが可哀想に見えるぜ?」
「お心遣い痛み入るであります」
 敬礼する腕にまで海鳥を止めたジョブを見て、慎は「はぁ」と気の無い声を返し、海に向き直る。そして、背負い袋を下ろすとゴソゴソと道具を出していく。
 ひとつは組み立て式の竿。極太で竿と言うより鉄パイプに近いが、上部から太く編みこまれたワイヤーが垂れている。
「釣りをするでありますか?」
「ああ、タコをな」
 箱から取り出したのは、20cmはあろうかという巨大な海老。
「タコ用の釣りエサに海老貰ってきた」
 そう言って、ワイヤーの先のこれまたデカイ針に海老を突き刺す。
 ちょっとそのまま止まった。
「もったいないでありますね」
「俺もそう思っていたとこだ」
 慎は名残惜しそうにエビを眺めたあと、意を決して竿を構え、軽いステップで振るう。
 綺麗にエビが宙で弧を描き、着水。
「うむ」
 竿を船の横に手早く固定すると、ワイヤーが船後ろに流れていった。
「しかし本気で釣れた場合、船が沈む恐れがあるな」
「ええっ船沈むでありますか!?」
 ジョブが怯えて手すりにつかまる。
「まあ釣れないだろ。誘いくらいになればいいんだがな」
「そ、そうでありますね! 来るなら来いであります!」
「まぁ、シドが言ってたんだから絶対来るんだろ」
 慎は腕を組んで首を回す。鳥の鳴き声がうるさいが、風は心地良く、海が綺麗だ。

――バササササッ

「ん?」
「みんな飛んでいってしまったであります!」
 海鳥がすべて居なくなっていた。
 ジョブにまとわりついていたものだけではない、船室のひさしや屋根や船の周りで飛び回っていたものも、すべてが高く遠くに飛び去っていた。
「これは来たんじゃないか?」
 慎が竿に近づく……。


 若干、時間は戻り。

「ボクねー、故郷でも大きなタコさん討伐した事あるの。
 タコさんって柔らかいから斬りにくいんだよねー。よ~く刃を磨いておかないとー」
「なるほど。俺も手入れするかな」
 船首の甲板で武器の手入れをするマグロの傍に、Σは大剣を片手に腰を下ろす。
 マグロが広げている武器は狩猟刀、投げナイフ、それから大型の銛だ。
 本格的な狩猟道具にΣは口笛を吹く。
「あんた、かなり慣れてそうだな」
「うん、おうちが海獣ハンターだったの。故郷の生き物とは違いもあるかもしれないけど。でも海自体はあんまり違わなかったから大丈夫かな?」
 銛の先が綺麗に磨かれて太陽光をきらりと反射する。
 小柄なマグロと大きな銛、そして大きな体のΣと大剣が並び、何だか不思議な雰囲気だ。
「大丈夫じゃないか? どこに言っても人間は人間だし……魔物や竜も似てる奴は似てる」
 Σは自分の赤い髪を撫でながら続けた。
「俺はこんな形はしてるが、竜だけどな。いざとなったら竜の姿に戻って火を吹いてやるぜ」
「本当? すごーい!
 でも、タコさん火傷しちゃったら再生しにくいんじゃないかな?」
「お、そうか。依頼主も貴重なタコと言ってたな……」
 マグロが心配そうに言うので、Σは頷いた。
「火は控えめにだな」
「うん、でも心強いなー。護衛は大丈夫そうだね♪」
「当たり前だ。っと」
 Σは慎から預かっていたマグロの分のゴーグルを思い出す。
「これ、依頼主から預かってきたぜ。まぁあんたにはいらないかもしれないが……」
「わぁ、お揃いだね!」
 マグロがΣの頭を見て目を細めた。
 頭には背びれが邪魔でつけられず、なんとか首元に落ち着く。
「その着け方は慎とお揃いだぜ」
「本当? 嬉しいな♪」
 心底嬉しそうに言う姿に、Σはダサイゴーグルも悪くないかなと思えてきた。
 マグロの声は何となく気持ちを落ち着かせる。
「とにかく、クラーケンというのがいつ出るかだな。」
「うん。ボクは準備万端!」
 綺麗に手入れした装備を身につけて、マグロは船首の方を眺めた。
 海は少し穏やかさを取り戻しており、色も少し明るく緑味がかっていた。少し浅い海域のようだ。とマグロは思う。
 魚がパシャリと跳ねる。
 船速も大分落とし、船はゆっくりと波に揺られている。
「ポイントって、本当にここでいいのか??」
 Σが立ちあがりグルリと辺りを見渡す。
 穏やかだ。天気も良い。海鳥が飛んで……無い。
「静かすぎないか?」
 マグロが素早く周囲を見渡し頷いた。
「多分、来た!」
 普段の子供っぽい様子から一転し、鋭い狩りの雰囲気に切り替わる。
 マグロは甲板を駆け船員に注意を促した。
「どこだ……」
 Σが周囲を警戒する。


3、「きゃー! 大変!!」

 船首の方から騒がしい声がする。
 竿はさほど引いていないが、時々不自然な振動がある。
「変身!!!」
          『イグニッション』
 腰のベルトにカードを入れると、電子音声が流れ、慎の体が一瞬でバトルスーツに包まれる。
 仮面バトラー・アイテール。
 世界を救うヒーローの首には、貰ったゴーグルがぶら下がっていた。
 バトルスーツ姿になった慎は竿を船から外し、船尾に足をつっぱる。
「おい! 船速を上げるように言ってこい!」
「わ、わかったであります!」
 ジョブが駆け出し、入れ違いでマグロとΣが船尾へ駆け寄る。
「慎か? その竿の先は……?」
「まだわからん」
 船速が上がりだし、慎が竿を強く握りしめる。
 めりっと音がして、指が竿にめりこんだ。
「根がかりじゃないだろうな」
「見てくる」
 マグロがそう言うが早いか、シュパッと跳び海に飛び込んだ。
 船がだんだんと慎を支点として傾き、船首が上がりだす。
「声かけて来たでありますぁあああああ」
 駆けて戻ってきたジョブが勢い余って転がりそうになるのを、Σがキャッチした。
「大丈夫か?」
「かたじけないであります……」

――バシン!!!!

 突然、竿のワイヤーが切れ、慎が後ろに転がる。
「うおっ」
「わあああああああ」
「っとととと」
 上がっていた船首が落ち、船が激しく上下した。
 慎は勢いで甲板に突き刺さった竿に捕まり、Σはジョブを抱えたまま何とか手すりを掴む。
「来たよ!」
 海から細いしぶきを上げて甲板近くを跳び海に戻るマグロを追尾するように、緑の長いものが追い駆ける。

――ザバババババババババ

 船尾後ろの海が盛り上がり、落ちて行く水が白く飛沫をあげ、船尾も水を被る。
 Σが舌打ちしながらゴーグルを眼に装着しなおした。
 一本の触手が船を掴み、丸い頭が姿を現す。
「……でかい!!!」
 頭部だけで15mは優に超えるであろう巨体に慎が呻き、手早くカードをベルトに挿入する。
          『ファイナル』
「いくぞ! インフィニット・アイテェェェェエエエエエル!!!!」
 慎が甲板に穴を開けながら飛び出し、光を放ちながら頭部に真っすぐ蹴りを放つ。

――ドーーーーーーン!!!!!

 タコの頭部が凄まじい音とともに沈み込むようにへこみ、一瞬海ごとクレーターのようになる。
 触手がゆっくり船から外れ、再び船が波に翻弄される。
「やったか」
 反動で甲板に戻った慎がつぶやく。
「おいおい、まるごと仕留めちゃダメって言ってたぜ?」
 小脇にジョブを抱えたまま、全身ずぶ濡れになったΣが声をかける。
 そこにシュタっと海からマグロが飛び出してきた。
「まだだよ! みんな早く構えて!!」
「まだ、か。
 お前、さっさと離れろ。……ドラゴンウィング!」
 ジョブを引き離したΣは自身の変身を一部解除し、背中に羽根を取り戻して空を舞うと、大剣を構えた。
「打撃は向かないのか?」
          『サンダー』
 慎は新しいカードに切り替え、自身のスピードを強化する。
「くくくく来るなら来いでありりりり」
 揺れに翻弄されつつ、ジョブは銃を構えるが、水で滑って取り落としてしまう。
 再び船の後方から触手が飛び出してくる。
 今度は一気に複数本、吸盤が船に張り付き船をめりめりと軋ませた。
「せいっ!」
 マグロが銛を投げ、触手に攻撃をする。銛紐を引くことにより巧みに操られた銛が船に取りつく触手を切り裂く。が、太い触手には浅く傷がついただけで、切り取るには至らない。
 空を飛ぶΣにも触手が伸びる。切りつけようにも素早く振り回される触手をかわすのに忙しい。右から左から下から、びゅんびゅんと唸る触手と、それが海から飛び出す際に飛び散る海水が視界を邪魔し、なかなか攻撃に至らない。
「ちっ」
 そのまま勢いで切ってやろうと触手を真っすぐに剣で受けんと、構える。
「!? ……うおおおおお!!!!!」
 タコは器用にも剣の腹に吸盤を張り付け、あろうことかそのまま海の中に引き込んだ。
 海の中でタコの黄色い眼が光る。
 Σは慌てて剣に炎を宿らせる。
――ゴボボッ!!!
 周囲の海水が沸騰して泡を立て、タコが慌てて触手を引っ込める。
 ぐっ、と服の背を引かれ、Σは新しい触手に引かれたのかと焦る。強い勢いのまま海面に引き上げられ、甲板に転がった。ブハッと息を吐く。
「大丈夫?!」
 引いていたのはマグロだった。
「ああ悪い、助かったぜ」
 Σは羽根を広げ水を払う。
「うあああああああ」
 声に2人が振りむくとジョブが黄色いアヒルの人形を振り回していた。
 アヒルの口からは凄い勢いで水が噴き出されており、触手も当たると押されている。
 しかしあまりに振り回すので、時々慎に当たり怒られていた。こちらにも時々飛んでくる水を2人は避ける。当たり所の悪かった船が時々削れている。
「あああああああああああ」
 横からそろりと近づいた触手がジョブを掴んだ。引き上げられぶんぶんと振り回される。
「………………!!!!」
 Σが飛び、複雑な言葉を呟くと、体がメリメリと変化する。
 4,5mはありそうな真っ赤な竜。
 ジョブを捕まえていた触手に跳びかかり、両の腕で掴んだまま飛び上がらんとする。
「放せー!!」
 マグロが狩猟刀を構えたまま海を飛ぶように泳ぎ、海面から飛び出し、引っ張られている触手を切り裂く。
 ポロリとジョブが放され、Σが慌てて手を伸ばす。
「まかせな!」
 慎が船からジャンプ、いくつかの触手を蹴り飛ばしながらジョブのところにたどり着き見事にキャッチ。
 そのままタコの頭を蹴り高く跳んだところを、Σが触手を放して飛び、拾うように背に乗せてやる。
「いったん船に戻すぞ!」
 船の周りをマグロが泳ぎながら触手を切り回り、船への打撃を避けている。
「さっき、あんたが引っ張ってた時、触手が深く切れてた!
 もっと引けば恐らく切れる!!」
 慎がΣに向けて叫んだ。Σが叫び返す。
「もっと引くってどうすんだ?」
「俺が引く! こいつを使って!」
「へあっ!?」
 いきなり肩を叩かれ、ジョブが変な声を出す。
「あとはマグロが切ってくれるだろう。実質、海で攻撃できているのはアイツだけだしな」
「わかった。俺は触手を一本捕まえて引っ張る。それだけでいいんだな? あとは任せたぜ」
 Σは慎とジョブを甲板に下ろすと低空に飛び、マグロに声をかける。
「聞こえるか? 俺と慎で触手を引っ張るから、そこを切れだと!」
「了解! ちょっと隙を作れると思うから、少しだけここ代わってくれる?」
「わかった」
 マグロは水をキラキラと跳ねさせながら背面に跳び、飛ばした銛を回収する。
 追い駆けるように飛び出す触手に投げナイフを飛ばしひるませた。
 そこをΣが爪で掴みかかる。
「おおおおおおおお!!!」
 何本もの触手に絡まれながらも、ドラゴンの体では苦しくもなかった。腕や翼を振り回し船へと伸びる触手を牽制する。
「ん? なんでアンタが戻ってくるんだ?」
 甲板に戻ったマグロを慎が怪訝な口調で聞く。
「怪我をしたでありますか?」
 ヘルメットがへこみ、服が一部千切れ、どっちかというと自分がボロボロなジョブが、心配そうに聞く。
 マグロは笑顔を作って首を振った。
「大丈夫! 今から炸裂弾を撃って隙を作るよ!
 タコさん自体には当てないから、攻撃の準備をして!」
 そう言って炸裂弾の発射機能もある銛をクラーケンに向かって構える。
「よし、おまえは俺が蹴りを放つ時に、俺の背をそのアヒルで撃て」
 慎がカードを指に挟み、ジョブに言う。
「慎殿をでありますか!」
「そうだ。海上じゃ足場がヤワいせいかあまりパワーが出ないからな。
 後押ししろ。そのくらいできるだろ?」
 ジョブがバッと立ち上がり敬礼する。
「了解であります!」
 狙いが外れないようにゴーグルをかなぐり捨てる。
 眉が寄り歯を食いしばってはいるが、青い眼が力強く輝いていた。
「いくよっ! 3、2、1、 発射!!!!!」
――バシュッ!!! ドーーーーン!!!!
「敵わずか右後方海面に着弾確認! 敵ひるんでいるであります!!」
 ジョブが状況を報告する。
「おっと、逃がさないぜ!」
 Σは囲んでいた触手が離れようとするのを、乱暴に一本掴みとる。
「うおおおおおお!!!!」
 そのまま大きく羽ばたき、本体ごと持ち上げる勢いで飛ぶ。
 長い触手が引かれ、宙を伸びて行く。
「いくぞ!」
 慎がカードをベルトにセットする。
          『ファイナル』
「今度こそファイナルだ!」
 駆ける。跳ぶ。
「任務遂行であります!!」
 ジョブがアヒルを握りしめると、岩をも削る勢いで水が噴き出す。
 慎は仮面の上からゴーグルをはめていた。
「インフィニット・アイテェエエエエエル!!!!!」
 水の力に背を押されパワーを増した蹴りがクラーケン本体に突き刺さる。
 Σに掴まれた触手がちぎれそうなほど引きのばされた。
「いっけええええええええ!!!!!」
 マグロが銛を長刀のように振りかざし。
 振り切る!!

――ブツン!!

「切れたでありますーーー!!!!!」
 ジョブが船の上でガッツポーズをしている中。
 Σは足が千切れた勢いで吹っ飛び、慎が勢いそのままにクラーケンと海にダイブしていた。
「きゃー! 大変!!」
 マグロが女の子らしい悲鳴を上げ、慎を拾いに泳ぎだす。
「任務完了……でありますか?」
 事態に気づいたジョブは首を傾げ、オロオロと海を眺めるのだった。


4、「欲しいなら勝手に食べろ」

「いやぁ船ごと傾いたときは本気で死ぬと思ったわー。
 でも本当良くやってくれたわ! ありがとうね!」
 陸に戻ったアデリーナはそう言って親指を立てた。
 4人のうち3人はずぶ濡れで、アデリーナが曳航してきたタコ足にアレコレしている間に着替えるハメになった。残りの1人は使った武器の手入れをしたり、すっかり怯えきった船員にせがまれて歌を歌ってあげたりしていた。

 さて。
 とっぷり日も暮れた頃。

「どうする? 俺は丸焼きしか思い浮かばん」
「刺身も美味しいであります! でもバター炒めも美味しいであります!」
「どっちも作ればいいんじゃないか?」
 アデリーナが借りておいてくれた屋外炊事場で、Σとジョブが話し合っている。
 タコ足は清潔なシートに乗せられ鎮座ましましていた。
 実験用その他用途の為、8割くらい持っていかれたのだが、まだ3mくらいある。
 恐らく食べきれない。
「えぇい~!」
 マグロが手に持った包丁をタコ足に叩きつけ、ぶよんと弾かれる。
「あれれぇ?」
 武器を手にしていた時とは別人のような不器用な様子に、Σとジョブが眼を細めた。
 可愛らしい。
「随分持っていかれたな。ケチな研究者どもめ」
 慎が大きな箱をドサリと地面に置く。
 中から取り出したのは、七輪2つ、金網、土鍋、皿、米、醤油にマヨネーズ。それから炭。
「あんた、火竜だっけ。火起こせないか?」
 そう言って、Σを手招きする。
「できるぜ。炭、先に並べろよ」
「ジョブ頼んだ。俺は米を洗ってくる」
「了解であります!」
 ジョブがせっせと七輪に炭をいれ、Σが着火していく。
 火はあっという間に炭に定着し、良い感じの火力になる。
「マグロ殿! 包丁は叩くのではなく、こすると切れるであります!」
「あ、そうなのかーありがとう♪」
 炭を入れ終わったジョブがマグロにアドバイスをし、やっとまな板にのる程度に切り分けることに成功する。
「鍋はグツグツいっても蓋を開けちゃいけないぞ。赤子泣いても蓋取るな。だ」
「なんだそりゃ」
 慎が鍋を七輪にかけながらΣに指示をする。
「慎さんタコ切れたよー!」
 マグロが嬉しげに白い塊を持って慎に見せた。
「食べられるサイズに切れよ」
「それはこれから頑張るね♪」
 慎が言った皮肉にも、素直な返事が返ってきて毒気を抜かれる。
「任せられるか。オレは自分が食う分は自分で切るぞ」
 そう言って、さっさと適当な塊を切りだし、まな板で薄く切る。
「わぁ慎さん上手だね~!」
「ふん」
 皿に山盛り切れたところで、もうひと塊切りだし、同じように薄く切っていく。
「切りすぎたな。欲しいなら勝手に食べろ」
 そっけなく言って、一つ目の皿を抱えて七輪のそばまで戻っていってしまう。
「慎殿はやさしいでありますね」
「ね♪」
 ジョブとマグロは小声で言い合ってから、皿を持って慎たちのところへ合流する。
「何か変な音がするし、白い汁が隙間から噴き出してるぞ。いいのかこれ」
 Σが鍋の中身を心配し、慎に声をかけた。
「蓋取るな」
「取ってないぜ?」
「やっぱ、時間かかるな。先にタコつまむか。あんたも適当につまんでいいぞ」
「火の番をさせといて良くいう」
 Σが言いながらタコの山に手を伸ばす。ひとつ口に入れて言う。
「美味しい…が、味付けが必要だな」
「当たり前だ。醤油くらいつけろ」
「出してあるであります! オイルと塩コショウと、バターにお酢も準備してみたであります!」
 ジョブが七輪を入れてきた箱をひっくり返し、上に各種ソースをいれた小皿を並べた。
「あとこれ、マヨネーズだよねー? 美味しいの?」
 首を傾げるマグロに、慎がさも当然のことのように言う。
「炙ったタコは醤油マヨだろ。異論は認めん」
「へぇー食べたことないや。楽しみだな~」
「もう少し待て」
 慎が七輪の上にタコを並べて炙る。
「おい、鍋が静かになったぞ」
「火から下ろして、蓋を開けずに15分くらい待て」
「なんだ。まだ食えないのか」
「そっちが空くなら天板借りてくるであります!」
 ジョブが天板を建屋に走る。
 慎が焼いていたタコがいい香りをさせ始めた。
「そろそろか」
 ひとつ摘まんで醤油をつけ、マヨネーズをつけ、口に放り込む。
 何度か噛みしめて、ニヤリ。
「こりゃ獲ってきたかいがあるね」
「ボクもいただきまぁ~す!」
「塩だけでもイケルな」
「あぁっズルイであります!」
 天板を持って戻ってきたジョブが悲しげに声をあげた。
「俺が焼いたんだから食うのは勝手だろう」
 慎が言うが、ジョブは頬を膨らませる。
「バター炒めと交換であります」
 人質のように言って、手早くバターを伸ばし、ひとつかみタコを炒め始める。
 良い匂いが漂ってきた。
「すご~い! 美味しそうな匂いだー」
「くっ……醤油垂らしても美味しいんじゃないか……」
 マグロが歓声を上げ、慎がぐびりと喉を鳴らす。
「くそ、焼きタコにご飯もつけてやる。バター炒めを寄こせ……」
「了解であります!」
 ジョブが笑って応じる。
「この際丸焼きも作ってやろうか? できるぜ?」
「美味しいねぇ~♪」

 ワイワイと。
 楽しげに夜は更けていく。
 船員を引き連れた、酔っ払ったアデリーナが後で乱入したりもするのだが、概ね楽しく……

――作戦完了!

クリエイターコメントお待たせいたしました!
初シナリオでございます。ご参加いただきありがとうございました。
そのまま使えなかったプレイングも色々形を変えてできるだけ残すようにしてみました。
お気に召していただけましたら幸いです。
公開日時2011-12-19(月) 21:40

 

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