オープニング

 壱番世界での簡単な依頼がありますとのエアメールに、興味を持ったロストナンバー達は図書館の視聴覚室の1つを訪れた。乙女推奨の一言がちょっぴり謎だったけれど。
「例えば、それはめいぐるみ。壱番世界に転移したロストナンバーの保護をお願いします」
 視聴覚室で待っていたリクレカは、一緒にいたパステルカラーの甘ロリコーデに身を包んだ女性との話を一旦切り上げ、いつものように話を切りだした。
「まずは映像をご覧下さい。ちなみに迷子のぬいぐるみなので迷ぐるみです」


 ストロベリーショコラを思わせる内装に、フリルやレースをふんだんに纏った乙女達。
 バレンタインデーにほど近い休日。壱番世界は日本のとある喫茶店では、いわゆるゴシック&ロリータと呼ばれる服装を身に纏った乙女達によるお茶会が行われていた。
 紅茶とチョコレートケーキを口にしながら、思い思いの雑談にふける乙女達。その膝に抱かれているのは、入場時に渡されたねこのぬいぐるみ。
 ぬいぐるみは、全て同じ物が用意された。そのはずだけれど、何故か1つだけ鼻が豚っぽい。最もそれはほんの僅かな違いで、よく見ないと分からないのだけれど。
 手違い、ではなくて。抱いている少女が気付かないまま、机の下でそのぬいぐるみはぱちくりとまばたきをして、瞳だけを動かして周囲を見渡した。
(あれ、ボクはどうしてこんなところにいるのだろう?)
 そのぬいぐるみ、つまりディアスポラ現象で壱番世界に飛ばされたふわもこ生命体は、眠りに就いたときとはまるっきり違う状況に身じろぎもせずただ驚いていた。

 一方その頃。
「あれ、これ何語?」
 スタッフルームにはいつの間にか、見た事のない文字らしきものが書かれた紙が大量に置かれていたのだった。


「ご覧の通り保護対象はこのぬいぐるみ、ねこぶたです」
 猫っぽい豚だからねこぶた、だろうか?
「このねこぶたがディアスポラ現象によりお茶会準備中の喫茶店に出現、お土産のぬいぐるみに混入するとの予言が導きの書に現れました」
 どことなくアニモフを連想させる今回の保護対象だが、出身世界の階層はもう少し下のプラス中層あたりだそうな。
「環境変化に驚くとは思いますが、物分かりの良い方なので見つけだせば説得は容易と思われます」
 それは暗に見つけるまでが大変だと言っているようなものでもある。さっきの映像でもその違いはほんの僅かなものだったし。
「それとねこぶたが書いた文章も一緒に現れますのでそちらの回収もお願いします」
 どうもその文章はねこぶたがディアスポラ現象に見舞われるきっかけとなったものらしい。ねこぶたにとっても大事な物なようなので、回収する事はねこぶたの信用を得る上でも有利に働くだろう。
「出現はお茶会の準備中になるそうです。その中のどのタイミングかまでは分かりません」
 場合によっては開始直前に紛れ込む事もあり得る。そうなるとなかなかにやっかいかもしれない。
「案件自体は準備時間中に片付くと思われますので、せっかくなので終了後はお茶会を楽しんできて来るのがよいと思われます。というか私ならそうします」
 あれ、なんかいつもより一言多いような。実は羨ましいとか?
「開場への潜入については、関係者にコンダクターの方が居ましたのでお願いしてあります」
 その言葉で説明を交代したのは、さっきリクレカと話していた甘ロリの女性だった。

「私は奈月佐枝(なつき・さえ)、日本出身のコンダクターだよ」
 彼女はお茶会の主催者サイドの1人らしく、今回の案件がちょうど会場だったので協力を快く引き受けてくれたそうだ。ただ、単に協力というわけでもなくて。
「で、お茶会の準備なんだけど、当日の準備手伝いって事で入って貰う事になっているの。だから悪いけどねこぶた探しに専念って訳にはいかないと思う」
 こっちも事情があるから許してと頭を下げられる。こちらも手助けして貰うわけだしそれくらいはまあ仕方ないだろう。
「準備時間は約2時間。その間に内装のデコレーションやテーブルの準備とかをしないといけないから結構慌ただしくなりそうだけど、どうにかその間に見つけだして。私も時間があったら探してみるから」
 ぬいぐるみは入場と共に渡すので、それ以降に保護するとなると色々ややこしい事になってくる。
「お茶会はみんなの席を専用に用意しておくから、本番に入ったらゆっくりしていいよ。1ドリンクとチョコレートケーキはサービスだけどそれ以上は自腹でお願いね」
 一応元が喫茶店なので、頼めば通常メニューは用意して貰えるそうだ。
「あ、そうそう。映像で分かっていると思うけど基本ロリータファッションの女の子の集いだから、明確なドレスコードはないけれど服装はそれなりに考えて来てね。あまりに場違いだとちょっと困っちゃうから」
 だから乙女推奨の一言があったらしい。とはいえあくまで推奨なので老若男女有機無機生命反応有無問わず協力は大歓迎だそうだ。……大丈夫なのか最後の方の。
「もし持ち合わせがなかったら私の方で用意するから。それじゃ、当日よろしくね」



 ボクの書いた物語。
 宇宙に地上が襲われて、地下に潜った人達が地上を取り戻そうとする物語。
 やっと書けたよ。早くみんなに読んでもらいたいな。

 でも、疲れたからとりあえずおやすみ。

品目シナリオ 管理番号2489
クリエイター水華 月夜(wwyb6205)
クリエイターコメントこんにちは、水華です。今回はロリータさんのお茶会にご招待……じゃなくってロストナンバー保護の依頼です。
なにやら気になる情報も混ざっている気がしますが、まずはねこぶたの保護をお願いします。
ちなみにOP中にもあるとおり参加制限は特にありません。
が、会場の関係でロリータファッションやその系統の服装の方が色々やりやすいのは確かです。
密かに私のテンションも上がります。だからなんだと言われたらそれまでですが。

話の流れとしてはお茶会の準備を手伝いながらねこぶたを見つけて保護と文章の回収。
その後のお茶会では参加PCさまは同じテーブルにつくことになります。
渡されたぬいぐるみという形式でねこぶたも一緒です。
もちろん他の方の分のぬいぐるみもちゃんと用意しています。
ちなみにねこぶたの文章はねこぶた語で書かれているので壱番世界で読む事は出来ません。

なおお茶会は自分の席は決まっていますが注文や交流目当ての移動は許されています。
ねこぶたの声は他の人には気付かれないと思って頂いて構いません。

行動方針としては――

<メイン>
・ねこぶた保護と文章回収
<サブ>
・お茶会準備の手伝い
・お茶会での行動
・当日のお洋服

あたりがお勧めでしょうか。

それでは皆様のご参加、お待ちしています。


※今回は募集期間が少し短めですのでプレイング締切にはご注意下さい

参加者
吉備 サクラ(cnxm1610)コンダクター 女 18歳 服飾デザイナー志望
リーリス・キャロン(chse2070)ツーリスト その他 11歳 人喰い(吸精鬼)*/魔術師の卵
川原 撫子(cuee7619)コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?

ノベル

 ~お出かけ準備は入念に~

 説明終わりと立ち去ろうとした佐枝の腕を、川原撫子は捕まえた。
「貧乏モラトリアムなのでバリバリロリータ服は持ってないですぅ☆ 奈月さん、ぜひ貸して下さいぃ☆」
「え、あ、うん。分かった、分かったからとりあえず力緩めてぇー」
 おめめキラキラ、しかし強力なハンドパワー(物理)で腕を捕まれた佐枝は軽く引きながらもひとまず落ちつくよう撫子にお願いした。
「あ、すみませぇん。それとぉ……」
 いっけないとつい入ってしまった力を緩めながら、佐枝の耳元に顔を寄せながら小声で耳打ち。
「余ったお菓子、帰りにタッパーに入れて持って帰っちゃ駄目ですかぁ? 貧乏窮乏極まってるんですぅ」
「うーん、ケーキとマカロンだけど大丈夫かな? まあ、もし余りが出たら、ね」
「はぁい、ありがとうございますぅ」
 そんな密談が行われている一方、吉備サクラとリーリス・キャロンは資料整理をしているリクレカの元へ。
「リクレカさん、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか」
「迷子さん、ネコブタさんって呼んでも怒られないでしょうか」
「種族名なので別に問題ないですが……可愛くないですか?」
「それなら問題ないですけど……外見特徴で勝手に呼ばれると怒る人は怒りますし」
「……言われてみればそうですね。こちらの配慮不足でした、申し訳有りません」
 まずはサクラが説明の時から気になっていたことを確認した。どうやらリクレカの中ではメルヘンチックな可愛いぶたのつもりだったらしく、サクラの想像していたイメージの余り宜しくないブタとはイメージがずれていたのだ。ひらがなとカタカナと漢字でイメージが変わる的なアレである。
 サクラの懸念が解消された所で、次はリーリスが気になっていることを訊ねた。
「ねぇリクレカお姉ちゃん」
「なんでしょう」
「ねこぶたさんのお名前、分からないかなぁ? お名前呼びながら探したほうが早いと思うの」
「名前、ですか」
 先に名前が分かることもあるよね、との問いに、資料を再確認しながらリクレカは答えた。
「ねこぶた……この場合はねこぶた族と言った方がいいですね。彼らには名前という概念自体がないらしいのです」
「そっかぁ、残念」
「好奇心旺盛な種族でもあります。こちらから名前を付けてあげると喜ばれるのではないかと」
「へぇー」
 じゃあ名前用意してあげた方がいいよね、とリーリスが提案し、サクラが出したリッドという名前にしようと決まった。動物勇者ケルベたんに出てくる賢者が由来らしい。

 図書館を出た一行は、一度別れてから佐枝の家に集まった。当日のお洋服の打ち合わせである。
 撫子は用意してもらうの決定として、他の2人はどうするかというと。
「佐枝お姉ちゃん、リーリス、この格好でお手伝いしちゃ駄目かなぁ?」
 佐枝の手をつつきながら声を掛けたリーリスの服装は白の半袖ブラウスに水色のジャンパースカートで、フリルやレース分こそないもののロリータコーデによく見られるアリススタイルに近い。カジュアルダウンしたらちょうどこんな感じになるだろうか。
「そうだなぁ……ちょっと大人しい気もするけど、新しく用意するよりこの服装に色々足していった方がよさそうかな?」
 せっかくのアリススタイルだし、とリーリスに関しても大まかな方針が決定。
 そしてお洋服と言えばこの人、服飾デザイナー希望で自他共に認める腐女子レイヤーサクラは。
「ゴスロリですよね! この前暴れん坊家令を見てやりたかったですバッチリです!」
 もの凄く気合いが入っていた。そのままの勢いでどこからともなくスケッチブックを取り出すとさらさらとデザインを始める。
「暴れん坊家令のゴスロリメイド服凄く可愛いです!」
「えっと、メイド?」
 佐枝がちょっぴり戸惑った声を上げたものの、スイッチが入ったらサクラは止まらない。
「黒基調襟袖スカート周り白ライン胸元腕黒リボン、ボタンダブルで超短ボレロ付膝下ソックス絶対領域有り、靴は変形トゥシューズみたいな編み上げリボン付エナメルで薔薇付ミニハット! こんな感じですけどどうでしょう奈月さん!」
 サラサラさっさと書き上げられたデザインラフは、全体的に黒を基調としレースのあしらわれたダブルボタンの短いボレロに胸元や袖にリボンのあしらわれたセーラーワンピース風エプロンドレス、履き口にリボンとレースがあしらわれたアンダーニーソックスを纏った足は先の丸い編み上げトゥシューズに収め、頭には薔薇付ミニハットと一見さすがなゴスロリメイドスタイルではある。ただあくまでメイド服なので、袖口は機能性重視のお袖留めで縛られていたりスカートがそんなに膨らんでいなかったりと、普通の人は気にしないけど見る人が見ればすぐに分かる違いもあちらこちらにある。
 まあつまり、今回はちょっと参考作品が悪かったというか、何というかその。
「うーん、これだとちょっと合わないかなぁ」
「え、あれ?」
 自信満々気合十分で見せたラフが思ったより反応が悪くて戸惑うサクラ。
「ほら、これだとゴシック&ロリータじゃなくてゴスロリ風のメイド服になってるでしょ? そういうのって普段から着ている人からは反感買ったりするから」
 コスイベとお茶会の違いであった。実はファッションや文化としてのゴシック&ロリータとオタク文化における萌えアイコンとしてのゴスロリには結構乖離があったりするのだ。例えるならばタナトスかエロスかとか、本場英国メイドと秋葉原の萌えメイドさんくらい違うとか言われたりもする。が、一般の人にはその辺りの違いがよく分からないので実写作品でも曖昧だったり中途半端だったりというのは実は少なくない。その辺りは佐枝が長々と説明したが詳しく書くととても長くなるのでひとまず省略するとして、とりあえずメイド扱いには反発が強いのと意識して絶対領域を作ることはないというのが佐枝の言だった。
「せっかくデザインまで描いてもらったのに、ごめんね」
「いえ、それなら仕方ないです」
 そんなことを口にしつつも、ちょっぴり落ち込み気味のサクラ。このままだと悪いかなと、佐枝はフォローを入れてみた。
「オルセットシリーズは知ってる? 肖像とか慟哭とか、あれは衣装ちゃんとしてたから参考になると思うよ」
「ああ、あのオルセットシリーズですか。勿論知ってますとも」
「そこの本棚にゴシック&ロリータの季刊誌並んでるからよければ参考にしてみて」
 知っている作品名を耳にして俄然やる気を取り戻したサクラ。それならと令嬢風ゴシックドレスを新たに描き下ろし、リーリスや撫子の服装もわいきゃい騒ぎながら決めていった。

  どう、似合ってるかなぁ? おお可愛いですぅ。
   2人ともメイクも必須ですゴスロリにすっぴんはあり得ないです!
    サクラさんはゴシックでがっつり行っちゃう?
   ちょっと試着してみますぅ……あれぇ? なんか肌触りがよくないと言うかそのぉ……
    わーっ、撫子さんハードパニエの直履きはお肌痛めちゃいますよー
     お姉ちゃん、王子スタイルも試してみる? いえ私も乙女ですしやっぱりこっちでぇ
    ココを引っ張れば良いんですねぇ☆ ぐぇっ、ちょっと撫子さん力入れすぎです

 そんな感じでああでもないこうでもないとガールズトークも合間に挟みつつ、当日の服装がどうなったかというと。



 ~会場準備は大わらわ~

 お茶会当日。
 少し早めに会場入りしたロストナンバー一行は更衣室を借りてお茶会の服装に着替えていた。0世界から着ていってもよかったのだけれど、長時間着ているとどうしても皺が寄ったりしてしまうし何よりメイクが崩れてくる。
「ねぇ、サクラお姉ちゃんまだぁ?」
「もうちょっと待ってください。ここをこうして……よし、出来ました」
 まずはリーリスが一足早く着替え終わる。着替えるというよりいつもの服装にプラスアルファしてメイクを施すだけなのでそんなに時間がかからなかったのだ。
 半袖のブラウスには脱着が簡単な姫袖の付け袖が加えられ(繋ぎ目はお袖留めで隠している)、首元にはレースで縁取られた付け襟。頭にはリボンカチューシャが飾られ、ソックスの履き口を飾るリボンレースシュシュがちらちらと見え隠れするアンダースカートのレースがふわりと可愛らしいシンプルながら王道のアリス風ロリータファッションだ。元が可愛いのでメイクはナチュラルドールメイクで済ませてある。
「わぁ、お嬢様になった気分ですぅ☆」
 続いて鏡を見ながらはしゃいでいる撫子。彼女は服装に加えウィッグやメイクで大変身を遂げていた。
 姫袖丸襟のフリルレースブラウスに身を包み、その上から着たパステルカラーのスイーツモチーフ柄ジャンパースカートは準備の後でパニエ3枚で膨らませる予定だ。ジャンパースカートと同じ柄のオーバーニーソックスに包まれた足をストラップシューズに収めて、スカートの下にはドロワーズ。普段の髪はウィッグネットに収め、ピンクブラウンの姫カットロングフルウィッグを緩い三つ編みお下げにアレンジして、こちらもジャンパースカートと同系色のボンネットで飾り付けて。メイクはピンクを効かせたドールメイクで、つけまやアイシャドーでおめめぱっちりのお嬢さんに様変わり。ちなみにアクセサリーは100均で購入した私物だったりする。
 パニエを抜いてあるのは準備作業の時にスカートが膨らんでいると動きにくいから。それでも心なしか身のこなしもいつもより大人しく見えるのはお洋服の魔法だろうか。
 サクラはせっかくの機会だしと佐枝と一緒に2人のメイクを手伝っていたので少し遅れての登場となった。コスプレ経験から様々な種類のメイクも経験しているサクラは簡単な助言だけで全て一人でこなせたのだ。
 先の2人と違い、サクラはゴシックテイストが強めになっている。全身を黒で統一したその服装は長袖フリルブラウスに胸元の編み上げリボンが特徴的なジャンパースカートとボレロ。姫袖から伸びる両手は黒レースの手袋を纏い、多段フリルから覗く足は黒薔薇と蜘蛛の巣のモチーフが描かれた黒紫のタイツに彩られ厚底靴を履いている。髪はダークレッドのセミロングウェーブウルウィッグと同色のパッツン前髪ハーフウィッグの二重使いで、境目は黒薔薇と羽根飾りのコサージュ付ヘッドドレスで隠してある。メイクは血色抑えめのゴシックメイクで、青みがかったリップと強めのアイシャドーが雰囲気抜群である。
 厚底靴で準備作業なんて大丈夫かと心配になるが、そこはコスプレで慣れているので問題なし。
「どうかしら、佐枝さん」
「うん、ばっちり」
 いつの間にか口調もお嬢様風に。というのも実はオルセットの黄昏のリコリス・オルセットの衣装を自作再現したのだ。
「よしっ」
 思わず小さくガッツポーズ、ついでに口調も元に戻ったが、令嬢のリコリスになりきってしまうとお手伝いどころか足を引っ張ってしまうかもしれないので準備中は普段通りにするつもりだ。

「よーしそれじゃはりきっていこー」
「「「おーっ」」」
 着替え終わって程なくやってきた本来のスタッフもみんなフリルやレース満載の服装だが、さすがに準備の時は動きにくいのでパニエは入れていなかったり汚れを防ぐために割烹着や白衣を被っていたり。
(ここでここで5人前くらい働いておけば奈月さんから追加でご褒美おやついただいたり次も呼ばれたりするかもですぅ。準備頑張りますよぉ☆)
 撫子は内心そんなことを考えつつ、実際に壱番世界で様々なバイトを経験していることもあり手際よく準備を進めていた。特に力仕事を一手に引き受けては拍手喝采を浴びることも。やっぱり王子スタイルの方が? いえいえそこは恋する乙女ですし。
「スタッフルームに大量の紙、ですか。力仕事は撫子さんが得意でしょうし、紙の出現と縫いぐるみ増に気を配ります」
「物をさっさと向こうに運べば、それだけ紙の出現が分かりやすくなると思うんですぅ。だからセッティングや飾りつけ道具バンバン向こうに運んで準備しますぅ☆」
 サクラと撫子はそんなやりとりを挟みつつ、ホールとスタッフルームに分かれててきぱきと準備を進めていく。サクラもイベント参加の資金稼ぎでバイト経験経験は豊富なのでスタッフルームで食器や内装飾りの準備をてきぱきとこなしていた。
「あっ、これ運ぶときに外れたのかしら? サクラさんお願いできる?」
「はい、任せてください」
 お裁縫も出来るので内装用布飾りの痛みの修繕もお手の物。うっかり衣装にトラブルがあっても素早く対処できるようレイヤーとして身につけたスキルも役立っている。
 一方、リーリスはというと。
「リーリスはみんなに渡すぬいぐるみちゃんの準備をするね?」
 と上手い具合にぬいぐるみ専任になっていた。可愛い見た目に他のスタッフと比べて幼い外見な事もあり比較的体力を使わない作業でも異論は出なかった。魅了という説もあるがレポートにない以上真相は不明だ。
「あっ、リーリスさん。チェックのついでにこの袋にぬいぐるみ入れていってもらえないですか。1袋に10体ずつ」
「はーい」
 サクラは他のスタッフから貰ったビニール袋をリーリスに手渡した。表向きはその方が渡しやすいからだが、その実数を把握して小分けしておけばねこぶたが混入したときに分かりやすいだろうという判断だ。リーリスもただチェックするだけでなく、精神感応で混入していたら1発で見つけられるのでねこぶた探しの面から見ても適任なのだ。
 ただ、まだ時間が早いのか50個ほどのぬいぐるみは全て普通のねこのぬいぐるみだった。
「迷子さんいました?」
「んーん、まだみたい」
 ひとまずリーリスもサクラと一緒にスタッフルームのお手伝いに回る。精神感応を常時全開にしているので同じ室内なら現れればすぐに
分かるはずだ。

 そして約1時間30分後。
 時々それとなくぬいぐるみの数を再確認しながら大がかりな準備も粗方終わり、スタッフルームにケーキの焼けたいい香りが漂う頃になって、ようやくリーリスの精神感応に何かが引っかかった。それとほぼ同時に。
「あれー? こんな所に紙なんて置いてたっけ?」
 謎の紙の束も現れた。書かれている内容は一見すると無数の記号の羅列にしか見えない。
「ひょっとして、サクラさんがなくしたって言っていたのってコレ?」
「あ、そうですそうです。ありがとうございます助かります」
 紙の束を見つけたスタッフは、それを手に取るとサクラに手渡した。準備の開始前にサクラが間違えて持ってきたコスプレ用の小道具をうっかり無くしてしまったという説明があったのだ。両者を混同されるのを嫌うだけでコスプレも嗜むロリータさんは居るわけで、実際今回のスタッフにもレイヤーさんが居たので事情はすんなり理解してもらえた。
 一方でリーリスは他にも紙がないか調べるふりをしながらぬいぐるみの数をチェックし、1つ多い袋を取り出した。その様子に気付いた撫子と紙の回収をとりあえず終えたサクラも集まると、他のスタッフにはうっかりリーリスのお気に入りぬいぐるみを混ぜちゃったと説明して袋の中のぬいぐるみを取り出していった。
「迷子さんいましたぁ?」
「えっと……みつけたー、この子だよね」
 リーリスが精神感応を併用しながら見つけだしたぬいぐるみは、確かに鼻の部分だけがぶたやイノシシのそれに近かった。
「見つかったの? よかったわねー」
「うん、お姉さんたちありがとう」
 他のスタッフが一安心と去っていく中、リーリスがねこぶた用のトラベラーズチケットを取り出しサクラと撫子は小声でねこぶたに話しかけた。
「ねこぶたさん、聞こえますか? 聞こえたら返事をしてください」
「ねこぶたさぁん、私達の言葉が分かりますかぁ?」
 しかし、それをリーリスが止めた。
「この子、寝てるよ?」
 感知したときの感触が随分穏やかだったのでどうしてだろうと思っていたけれど、眠っているなら納得だ。お茶会のスタートに間に合わなかったときの最後の手段として泣き落としも考えていたリーリスは、ひとまずその必要はなくなったと安堵しながら眠ったままのねこぶたにチケットを握らせて、そのまま精神感応で夢の中に直接話しかけた。


 ビックリしたー。
 いきなり目の前に金髪で青と白のお洋服の可愛い女の子が現れて、ボクにこう言ったんだ。
「こんにちは、私はリーリス。実はキミはこうして眠っている間に異世界に飛ばされて迷子になっちゃったの」
 突然そんなことを言われても信じられないよね? それが顔に出ていたのか、女の子は続けてこう言ったんだ。
「すぐには信じられないと思うけど、目を覚まして周りを見渡してごらん? きっと全く知らない世界だから。でも心配しないで、私達は同じ迷子のキミを探しにきたの。このままだとおうちに帰れないから、帰り方を探すために一緒に私達のいる世界図書館に行かない?」
 どれもこれも信じられない内容だけど、目の前の女の子はとっても可愛くて、嘘を言っているようには見えなかったんだ。
 だからボクは瞳を開けたよ。すると、ね――。



 ~紅茶の香りに癒されて~

「あ、起きた」
 目を覚ましたねこぶたの耳にまず飛び込んだのは、頭上からの夢の中でも聞いた声。
 目の前には、兎を象ったチョコレートケーキに色とりどりのマカロン、そして湯気を立てるティーカップ。その奧にはフリフリの服を身に纏った大きな生き物。
 周りを見渡すと、同じような物が置かれた机がいくつもあって、大きな生き物がフリフリなお洋服を身に纏ってそれを食べたり飲んだりしている。
 確かに、見渡す限り知らない物に囲まれていた。
「ね、リーリスの言ったとおりでしょ?」
「本当だ、ビックリ」
 ねこぶたが後ろを振り返るように見上げると、そこには夢で見たのと同じ格好の自分より遥かに大きいリーリスが居た。同じテーブルにはサクラと撫子もいる。
「とりあえず一緒に食べましょぉ☆」
 ぐっすり眠ったあとでお腹の空いていたねこぶたはひとまず一緒にマカロンを食べることにした。リーリスと一緒だと端から見ればお人形遊びみたいで微笑ましい。
「へぇー、面白い!」
 食べながら一通りの説明を受けたねこぶたは、悲嘆にくれることなくむしろ興味深そうに説明を振り返っていた。どうやら好奇心を大いに刺激したらしい。もちろん世界図書館への同行も二つ返事でOKだった。
「一緒におうち探し頑張りましょぉ☆」
「うん。せっかくだから色んな世界も旅してみたいな」
「あ、そうだ。キミ達の種族って名前がないんだよね」
「そうだよ、さっき初めてそんなのがあるんだって知ったし」
「せっかくだから、リーリス達キミの名前も考えてきたんだ。そうだよね、サクラお姉ちゃん」
「ええ、リッドというのはどうかしら?」
 準備が無事終わったのですっかりお嬢様なりきりモードに戻ったサクラが考えてきた名前を告げると、ねこぶたは嬉しそうに頷いた。

 もちろんお茶会そのものも3人それぞれに楽しんでいた。
 サクラは二次元方面の話を耳にしては話の輪に加わり、その筋に人を見つけだしてはディープな話を交わして。
 リーリスはリッドと一緒に色んなテーブルを周り、猫可愛がりされながらちゃっかりこっそり精気を分けてもらい。
 撫子はいつもよりはゆっくりとお菓子をつまみながら、やってきた女の子達と乙女トークをしながら密かに女子力向上のコツを聞き出そうともしていた。それでもやはり食欲は強敵だったようで、お茶会の片付けも手伝った後にスタッフ一同の奢りで行った食べ放題でしこたま食べて店員さんを真っ青にさせたとか。スタッフ一同もはやし立てるものだから気持ちよく食べていたが、帰りのロストレイルで乙女心との葛藤に大いに苦しんだとか開き直ったとか。あれです、実際の所は乙女の秘密です。
 ちなみにお茶会で余ったマカロンは撫子がお土産に全て持ち帰った。



「それにしても髪をまとめるのも色んな方法あるんですねぇ。パンストが出てきたときにはビックリしましたぁ☆」
 世界図書館の一角。撫子は資料整理をしていたリクレカ&リッドと一緒にティータイムと洒落込んでいた。お茶会のお土産の手に無料でお茶を振る舞ってもらおうなんて考えがあったとかなかったとか。ちなみにパンストを使うのは主にボーイズコーデなどでウィッグの下の髪をよりコンパクトにまとめるときの手法だ。
「ところでぇ、さっきまでお2人は何をまとめていたんですかぁ?」
 リクレカは司書だから資料整理していてもおかしくないが、保護されたばかりのリッドも一緒なのは不自然だ。
「撫子さま、リッドさまの覚醒理由はご存じですか?」
「えっとぉ、書いていた文章がきっかけって事はぁ……」
 図書館が把握している覚醒理由の1つに、創作物が異世界を表現していたというのがある。リッドの場合もそれに該当するようだ。
 ただそれだけならそこまで珍しくもないし、わざわざ呼ばれる理由としても弱い。
「それと、世界計の破片が未知の世界で発見された件はご存じかと思います」
「それはもちろんですけどぉ……あのぉ、まさか」
「そのまさかです」
 リクレカはティーカップをソーサーに置きながら告げた。

 ――「皆様が出掛けている間に見つかった世界『硝煙の風・ラエリタム』が、リッドさまの作品内容と一致しました」と。

クリエイターコメントまずはご参加下さった皆様、及び最後までお読み下さった皆様、ありがとうございます。
お楽しみ頂けたなら幸いです。

うわぁ、ひらがなじゃないとイメージが、イメージがっ……!
というのがプレイングを受け取ったときの第1印象だったりしました。
いやまるで違ったんですよ、ねこぶたとネコブタだと。
OP執筆中は脳がメルヘンに染まっていたのでうぁっきゃーとなりました。
ちなみにねこ+こぶたでねこぶたです。某しりとり歌からの思いつきです。
多分某老舗ロリータブランドのマスコットの影響も受けています。

実はロリータファッションを書きたいという理由だけで舞台をお茶会にしました。
だからなのか、本文中の服装関連の描写率が1/3を越える事態に。
そしてあくまで知識止まりだったりするので本格派の人のお眼鏡にかなうかどうかはちょっぴり怪しいかもしれません。
執筆動機がソコなのでその他の諸々は割と後付けだったりします。


そんなわけで今回の個別短信です。

>吉備サクラさま
お洋服のプレイング案の方はあれで大丈夫でしょうか?
そのまま通そうか迷ったのですが、本文中の理由によりあのようにさせていただきました。
メイド服と明記されてしまうとさすがに厳しいかなと……ある意味らしいとも思うのですがどうでしょうか。
袋小分けはナイスでした。おかげで探し出すときの労力が大幅に減っています。

>リーリス・キャロンさま
精神感応って便利ですね。
お洋服はそのままでもいけそうですが、ちょっと物足りない気もしたので色々足してみました。
もしもの場合の配慮までしていただきありがとうございました。

>川原撫子さま
撫子さん可愛いよ撫子さん(落ち着け私)。
会の都合でスタッフ全員女子だったので力仕事担当はとっても助かりました。
あとリクレカへのお土産ありがとうございます。
結果として最初に例の件を知ることになりました。


さて、リッド君は無事に保護されましたが……なんと新世界です。
もし良ければそちらもお付き合い頂ければ幸いです。
それでは、今回はこの辺りで失礼します。


<おまけ~わりとどうでもいい執筆中エピソード>
・ゴスロリをうっかりロスロリと打ち間違えました。ロスロリって何だろう、ロストレイルロリータ? ロストレイルの車体にフリルやレースをこれでもかとデコレート……いやいや落ち着け私、なんて妄想に走ってみたり。gとrって打ち間違えますよねたまに。

・執筆中のアップデートは強敵です。強制再起動指示は心が折れます。

・某有名な迷子の童謡の替え歌が浮かびましたが使う機会がなかったのでボツになりました。

・助けて、圧縮戦隊モジスウガー(妄言です聞き流してください)
公開日時2013-03-16(土) 21:00

 

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