オープニング

 ヴォロスのとある地方に「神託の都メイム」と呼ばれる町がある。
 乾燥した砂まじりの風が吹く平野に開けた石造りの都市は、複雑に入り組んだ迷路のような街路からなる。
 メイムはそれなりに大きな町だが、奇妙に静かだ。
 それもそのはず、メイムを訪れた旅人は、この町で眠って過ごすのである――。

 メイムには、ヴォロス各地から人々が訪れる。かれらを迎え入れるのはメイムに数多ある「夢見の館」。石造りの建物の中、屋内にたくさん天幕が設置されているという不思議な場所だ。天幕の中にはやわらかな敷物が敷かれ、安眠作用のある香が焚かれている。
 そして旅人は天幕の中で眠りにつく。……そのときに見た夢は、メイムの竜刻が見せた「本人の未来を暗示する夢」だという。メイムが「神託の都」と呼ばれるゆえんだ。

 いかに竜刻の力といえど、うつつに見る夢が真実、未来を示すものかは誰にもわからないこと。
 しかし、だからこそ、人はメイムに訪れるのかもしれない。それはヴォロスの住人だけでなく、異世界の旅人たちでさえ。

●ご案内
このソロシナリオは、参加PCさんが「神託の都メイム」で見た「夢の内容」が描写されます。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・見た夢はどんなものか
・夢の中での行動や反応
・目覚めたあとの感想
などを書くとよいでしょう。夢の内容について、担当ライターにおまかせすることも可能です。

品目ソロシナリオ 管理番号2107
クリエイターthink(wpep3459)
クリエイターコメントあなたの見る夢はなんですか?
夢の内容についてはそれなりに設定して頂いた方がイメージを掴めます。

尚、プレイング受付期間は短く設定させて頂いておりますのであらかじめご了承下さい。
どうぞ宜しくお願いいたします。

参加者
仲津 トオル(czbx8013)コンダクター 男 25歳 詐欺師

ノベル

 目が開いた瞬間、仲津 トオルは『コレは夢だ』と真っ先に気付いた。
 理由は単純明快だ。目の前に広がる光景が到底現実的であるとは言えないからである。トオルを取り巻く周囲の世界は厭に白っぽく、ぐるりと見渡してみても果てが無い。濃密な霧の世界に放り込まれてしまったような案配。加えて、少し視線を伸ばした先には、人口を話す動物達が存在している。
 明晰夢とはこういった夢を指すのだろうか。驚きを感じるどころか、寧ろ好奇心を刺激されて笑う。
 一つ残念な事と言えば、どうやらトオルはこの夢の内で傍観者の役割に徹す事しか許されていないらしく、足を動かす事はおろか声を発す事も出来なかった。現に動物達はすぐ傍に佇んでいる筈のトオルの存在に気付かぬまま、何やらしきりに議論を交わしているのである。
 円陣を組んだ動物組は、犬、猫、鶴、鼠の4匹で構成されていた。
 面白いのは、こうして眺めている間にも彼らの姿が入れ替わり立ち替わり変化する事だ。万華鏡を回転させるように、犬が鶴へ、猫が鼠へ、くるくると姿形を変化させる様は目に楽しい。
「ああ、こんな事になるならもっと大切にしておけばよかった」
 猫がさめざめと溜息を吐くと、横から鶴が白い羽根を羽ばたかせるようにして背中を励ます。
「今更そう言ってもな、傷が付いてしまったものはしょうがないじゃないか」
「そうだとも。問題はこれになぜ傷が付いたのか、いつ治るのか。そして一体誰が犯人なのかと言う事だ」
 すかさず声を上げたのは犬だった。犬は他の動物と違い、何やら一人だけ警帽のような帽子を被っているのが滑稽だ。刑事然とした言動で場に存在している。
「で、で、でも。そんなこと言ったって、さっきからずっと堂々巡りじゃないか!」
 チュウ、と鳴き声を上げ、突如小さな鼠が飛び跳ねる。その挙動にはどうにも落ち着きが感じられず、着地した後は輪の外側をぐるぐると駆け回る。
「それにもしかして、このままだと!」
「このままだと?」
 猫が三角耳をピク付かせて、心配そうに鼠を、そして眼下の何かに眼差しを向けた。鼠が言い淀んでいると、鶴が代弁するように冷静に応えた。
「治るどころか、更に傷が付いてしまう可能性がある」
 途端に誰かが息を呑み、場に沈黙が下りる。疑心暗鬼の眼差しが獣から獣へ、忙しく行き交い、そうして再び件の何かに落ちて行く。
 話を聞く限り、どうやらあるものに傷が付いたらしい事は分かる。さて、ではそのあるものとは一体なんなのだろうか。
 トオルは知的好奇心に抗わず、彼らに倣って白いばかりの地面に目を遣り──そこで不意に思い至った。この夢と似たような夢を、以前も見たような気がするのだ。
 思案気に口元へ手を遣り、顰め面で首を傾げる。
(いつだったかなぁ……)
 と、物思いに耽っていた頭に、犬が発した鋭い咆吼が差し込む。
「そんな事はさせんぞ! 一体誰の仕業なんだ! この中に犯人がいるなら素直に吐け!」
 しかし誰一人として声を上げる者はいない。誰もが傷付いた何かを気にするばかりである。
 だが、よくよく注意してみると──その輪の中には確かに悪意が感じられた。真面目に議論を交わし合っている最中にも、巧みな嘘で表層を覆い隠し、『これを完全に壊すにはどうすればいいのか』をひっそりと画策している加害者が混じっているような、不穏な気配が漂っている気がするのだ。
 トオルは痺れを切らして声なき声を上げようとして、しかし次の瞬間割り込んだ誰かの声に邪魔をされた。
「こんにちは。ちょっとお邪魔しますよ」
 誰かの、否、それは紛れもなくトオル自身の声だった。
 霧の向こう側から忽然と姿を現わした声の持ち主は、四つ足でゆっくりと歩き、注目を浴びながら円陣に加わる。
 身体は熊のように巨大である。そして、鼻は象のように長々としている。おまけに肢は虎に酷似したその獣の姿は、様々な動物のパーツを継ぎ合わせたような伝説の生き物、いわゆる獏と呼ばれる存在に見えた。
「君は誰だ?」
「まあまあ、前置きはこの際抜きにして」
 自らのペースを崩さぬ存在の登場に、獣達はにわかにざわついた。
 そんな気配を意にも介さず、トオルの声を操る獏は、やはり彼に似た飄々とした口振りで言って退ける。
「ボクは謎を解きに来たんだ」
 
 ──そこで意識が浮上した。


***


 目覚めるなり、トオルは未だ夢現に横たわるまま夢幻の出来事を反復した。そうして、夢の中では曖昧であった事柄を漸く思い出す。
 今しがたの夢と酷似した夢を見たのは、自分が高3の春に事故に遭い、意識不明の重体に陥っていた時だ。
 だが夢と言っても、それは病室に訪れる家族や友人がトオルに掛けた声や病院関係者の噂話、愚痴などの断片によって構成されたもので、意識を取り戻した後、トオルはその情報を繋ぎ合わせて自らを襲った刑事事件の真相を奇跡的に突き止めたのだった。
「つまり今のは、ボクと似たような境遇に陥る誰かの謎を解きに行かなくちゃいけないかもしれないってこと、か?」
 独白し、思わずと言った調子で顔を歪めた。頭を抱え、両手でがしがしと髪を掻き乱して呻吟する。
「ああもう、だったらせめて、いつ誰の話なのかくらい教えてくれてもいいのになあ! 流石に情報が少なすぎるよ」
 とはいえ、トオルはひとたび気になってしまった事は放置出来ないという困った性質の持ち主である。きっと、今の夢が指す『誰か』を躍起になって探してしまうのだろう。そんな予感を覚えて溜息を吐き、やがて再び目を閉じた。
 ──なんというか、少しのふて寝くらいは許して欲しい気分だった。

クリエイターコメントお待たせいたしました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ありがとうございました!
公開日時2012-08-15(水) 11:10

 

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