マキシマムトレインウォーにて終結した世界樹旅団との争いは、様々な爪痕を残している。だがそれも皆の尽力で徐々に回復しつつあるように見える。 しかし、幼いゼシカ・ホーエンハイムに残された傷痕は深く、容易に回復できるものではなかった。 でも、彼女は一人ではなかった。彼女の側にいて、彼女を見守ってくれているのは、郵便屋を休業中のキリル・ディクローズ。彼はもまた、彼女の身に起こった出来事に関わった者の一人。彼女の手紙を届けた郵便屋。 あの時のことは二人共忘れられない。忘れられるはずがない。 キリルの手渡した手紙を読んだゼシカの父親のあの表情。忘れられない。 涙を貯めて父親を見つめたゼシカ。 探し求めていた父親との、やっとの邂逅。 それはまるで夢のようで、けれども漸く自分を『パパの娘のゼシカ』だと認めてもらえて嬉しかった。 これからは、ずっと一緒に暮らせるものと思っていた。 けれども、父親は帰って来ない。また、何処かへいなくなってしまった。 寂しい、寂しい、寂しい。 約束したのに。 でも、パパはきっと、約束を破りたくて破ったわけじゃないってわかっているから。「だから、ゼシの所に帰ってきて……」 自分の呟きでゼシカは目を覚ました。喉はカラカラなのに涙は枕カバーを濡らすほどにこぼれ落ちいていてなんだかおかしい。「パパ……」『なんですか? ゼシカ』 呼べば今にも優しい顔をして答えてくれそうなのに。 ゼシカは小さな手できゅっと、シーツを握りしめた。声にならない泣き声が、静寂に溶け込んだ。 *-*-*「ゼシね、郵便屋さんを故郷に案内したいの」「みゅ。故郷?」「ゼシが生まれた村、そしてパパとママが出会った思い出の場所よ」 目を少し赤く腫らしたゼシカの言葉に、キリルは首を傾げる。そして答えを受けて、なるほどと頷いて。「行くよ……故郷、故郷。ゼシカ、一緒に」 ゼシカの白い手をに毛皮に包まれた手をそっと、載せて、キリルは頷いた。 *-*-* ゼシカの故郷の村があるのは壱番世界ドイツの片田舎。ベルクシュトラーセのヴィースロッホと呼ばれる地区にある村だ。 なだらかな丘陵に段々と連なる葡萄畑。 小さな家と白い教会。 石畳の広場と野薔薇のアーチ、小川のせせらぎ。 ベルクシュトラーセに共通の、ブドウ栽培に適した適度に穏やかな気温も12月も近くなれば一桁に突入する。もこもこと暖かい防寒具は必須。 ワインで有名な地区であれば、もちろんゼシカの故郷の村もワインを作っている。もう少し大きくなったらブドウ踏みに挑戦したいなんて思ったこともあったっりして。 少し足を伸ばせば歴史的建築物や博物館なども見ることができるが、今回の旅の目的はそれではない。 絵本の中のように美しく牧歌的な村を歩きながら、語り合おう。 自分達の中を見つめなおして、少しでも前に進めれば……。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>キリル・ディクローズ(crhc3278)ゼシカ・ホーエンハイム(cahu8675)
風が囁いている。 おかえり、おかえり。 川を流れる水が喜ぶように流れる。 ベルクシュトラーセのヴィースロッホ地方。葡萄を育てるのに適した、冬の冷たい外気がゼシカ・ホーエンハイムとキリル・ディクローズの頬を撫でていく。 「ゼシカの故郷、故郷……ここでゼシカのパパとママが、出会った、出会ったんだね」 「そうよ。パパとママの出逢ったゼシの村はとってもいい所なの」 言葉と裏腹に、ゼシカはつないでいたキリルの手をきゅっと強く握りしめた。それは無意識だったのかもしれない。帰ってきた嬉しさの中に、少しだけ寂しさと、乗り越えるのに勇気が必要な恐れのようなものが混じっていたのだ。 覚醒したことで急に姿を消すことになってしまったゼシカ。孤児院の皆が心配しているのは想像に難くない。 心配かけた事を怒られるかもしれない。でも、逢いたい。郵便屋さんを案内したい。ゼシカは手を繋いだまま、一歩踏み出す。 「本当は葡萄狩りが良かったけど、収穫済みだから」 辺りの丘陵に見えるのは葡萄畑だろうか。冬の今はもう収穫が済んでしまっているだろう。キリルは葡萄畑らしい所に視線を巡らせてから、隣の小さな少女に視線を落とす。 「ママは農家の娘なの。村に来たてのパパに葡萄をお裾分けしてあげたのがきっかけで仲良くなったのよ」 「葡萄、葡萄……ゼシカの髪飾りも、葡萄だね」 「そうなの。ゼシの髪留めが葡萄なのはママとパパの思い出の果実だからなの。ビーズで手作りしたの。すごいでしょ?」 ぱっと明るい表情がキリルを見つめる。ふわり、彼女の金色の髪を撫でた風は、芳醇な葡萄の匂いがした気がした。 「すごい、すごいよゼシカ」 少女の笑顔に頷いて、キリル。そっと少女の背後の風景に焦点を合わせて思うのは――。 (穏やかな所、ちょっと冷たい風。じいじが住んでた故郷、ディクローズも……こんな、こんな所だったのかな) 遙かな、遙かな故郷を重ねて。 「……ぁ」 「郵便屋さん?」 小さく上げられた声をゼシカは聞き逃さなかった。小さく手を引けば、キリルはゼシカと視線をあわせて。 「ゼシカ、風車、風車があるね」 「郵便屋さん、風車、きになるの? じゃあ行ってみましょ」 小走りでゼシカはキリルの手を引く。手が離れてしまわぬように、キリルも速度を合わせて走る。 冷たい風が頬を叩くようだ。けれども二人は足を緩めない。走るとはいえ子供の速度はたかが知れているが、それでもだんだんと近づいてくる風車にキリルの思いは募る。 「ついたわ」 肩で息をしながら二人で見上げるのは立派な風車。ゆっくり、ゆっくりと帆が動いているのが分かる。 「風車、風車はじいじが教えてくれた故郷の象徴だったんだ」 ぽつり、キリルが零した言葉。ゼシカは、近くの風車を見ているのに遠くを見ているようなキリルを見上げながら、その話に聞き入った。大好きな人の話だから、しっかりと聞いておきたくて。 「物書きがたくさん集まっていて、果樹園があって、風が気持ちよくて。けどぼくが覚醒する頃には、誰も住めない、住めない土地になっていた」 『永遠の冬』、年中降り積もる雪、人を凍らせる白い悪魔。そんな噂が広まっていて、誰も近付かない場所になっていた。 「そこへ手紙を届けるよう頼まれて……、そこでぼくは覚醒したんだ」 語られる覚醒の経緯。 「ディクローズの風車……、降る雪と霧が濃くて、見れなかったなぁ」 ぎゅ。 近くにいるのに、こんなに近くにいるのに。掌は温もりを感じ取っているのに。呟いたキリルはどこかに消えてしまいそうで。ゼシカは両手でキリルの手をはさみ、必死で繋ぎ止めた。 「……ゼシカ?」 視線を引き戻したキリルから見えるのは、震える彼女の金の髪。 「ゼシカ、ゼシカ、どうしたの? 寒い、寒い?」 「郵便屋さんが、どこか遠くに行っちゃうかと思ったの」 「行かないよ。どこにも、どこにも行かないよ」 ぽん、と空いている手を彼女の頭に乗せて、優しく撫でる。柔らかい彼女の髪は、冷気で冷たくなっていた。 「郵便屋さ……」 「ゼシカちゃん? ゼシカちゃんじゃないかね!?」 ゼシカが顔を上げたその時、彼女の小さな声を遮るようにして、風車塔の中から出てきた男性が声を上げた。ビクッと身体を震わせたゼシカだったがその声に聞き覚えがあり、ゆっくりと振り返った。 「やっぱり、ゼシカちゃんだ!」 「……オットマーおじさん?」 「そうだよ! モーリッツも一緒だよ! ほらモーリッツ、ひとっ走り孤児院に行って来な! ゼシカちゃんが見つかったってな!」 「あ、あの……」 ゼシカが小さな声で口を挟もうとするのもお構いなしに、オットマーは後ろから出てきた青年の背中を叩いて走らせる。心配したよ、村中総出で探したんだ、なんてまくし立てるのも、ゼシカに会えて嬉しいからだと思えば我慢できる……かもしれない。 「おっと、そっちのにーちゃんがゼシカちゃんを連れてきてくれたのか?」 「ぼく? ぼくは……」 「あのねおじさん、ゼシのパパの話、して欲しいの。聞かせて欲しいの」 「ん? 灰人の話?」 今度はゼシカが話に割って入った。獣人であるキリルは壱番世界では目立つ。積極的に接触せず目立つ行動を取らない限りあまり注目を浴びないのが旅人の外套の効果。それを気にしてのこともあるが話を聞きたかったのも事実。 「灰人はなぁ、実の娘の前で言うのもあれだが、最初は情けないやつだなぁと思ったぜ? 歩けばこける、何かにぶつかる、ぶつかって頭を下げて謝ってはその尻が誰かにぶつかる……ってな」 がははははと笑いながら告げるオットマー。その話には少なからず誇張が含まれているのだろう。けれども悪意は感じない。むしろ、愛さえ感じられて。 「でもな、とんだお人好しだよ。折角貰った自分の大好物を腹を空かせた犬の親子にやっちまって晩飯抜きになったり、都会の学校の入学試験を受ける子供につきっきりで勉強を教えて、翌日自分がぐったり寝込んだりな。頼みを断らないからってだけじゃなく、灰人なら一生懸命やってくれるって確証があってな、みんな、灰人に頼みごとをしたがるんだ」 「……愛されていたんだね、ゼシカのお父さん」 「ああ、そうだとも!」 キリルの確認のような問いかけに、オットマーは大きく頷いた。愛されていたなんて恥ずかしい表現だがな、と豪快に笑う。 「クラーラ婆さんが腰をやっちまった時は、あの細い体でばあさんを背負ってなぁ……普段使わない筋肉を使ったもんだから、翌日体中が痛くて動けなくなってやがったよ。『ああっ! 神よ、これも私の乗り越えなければならぬ試練なのですか!?』って言ってな。ただの筋肉痛だっつーの」 ゼシカの前だからだろうか、オットマーは笑顔を消さない。言葉にしないこともある。けれどもキリルには伝わってきた。オットマーがゼシカの父親を大切に思っていることを。その失踪に心痛めていることを。 きっとそれは彼だけではないのだろう。この小さな村で悪い噂が立ってしまえば、悪い認識をされてしまえば一気に居づらくなるはずだ。だがゼシカの父は今でもこうして人々の口に上るほど愛されていて、記憶に遺っていて。 「ゼシカ、ゼシカ」 繋いだ小さな手が震えている。キリルはゼシカを見下ろし、優しく声をかけてその様子をうかがう。温もりの先の小さな少女は、手を震わせて涙を流しているようだった。 「ゼシカのパパは優しくて、優しくて皆に好かれていたんだね」 「パパは最初から悪い人じゃなかったのよ」 顔を上げてキリルを見つめるゼシカの瞳には、真珠のような泪が宿っていて。 「郵便屋さんにだけは知っていて欲しかったの」 それでも彼女は気丈に口元をゆるめ、微笑む。 「ゼシカ、大丈夫だよ。伝わって、伝わってくるよ。ゼシカのパパを思う村の人の気持ち」 「郵便屋さん……」 きゅ……オットマーに泣き顔を見せぬように、ゼシカはキリルの暖かい身体にしがみついた。その温もりはゼシカの心を穏やかにしていくのだ――。 *-*-* 「ゼ、ゼシカちゃん!!」 「!」 風車まで走ってきたのだろう、息を切らせながら紡がれた自分の名前。その声に聞き覚えがありすぎるほどあって、ゼシカはハッと顔を上げてその声の主を探した。 長いスカートをたくし上げながら走ってくるその女性は少し痩せたように見えた。けれどもその表情は小さなゼシカを認めると喜色に輝いて、そして。 ぎゅっ。 滑りこむよう、スカートが汚れるのも構わずに膝をついて女性はゼシカを抱きしめる。 「せん、せい……」 ゼシカの口から漏れる吐息のような呼びかけ。先生と呼ばれた女性は腕を解いて、ゼシカの両頬を自分の両手で優しく挟んで。 「もう、この子ったら……今までどこに行っていたの。心配したのよ……」 「ごめんなさい……先生」 ゼシカの無事を実際に確認して安心したのだろう、先生の瞳には涙が浮かんでいて。ああ、心配かけてしまったのだと実感する。心配してくれる人がいたのだと。 ぬくもりを感じて、思う。きっと先生はゼシカのパパの失踪にも胸を痛めていて、ゼシカがいなくなった時に灰人の失踪と重ねたのだろう。だからこんなにも――。 「先生、ゼシのお友達を紹介するわ」 先生の手から解放されるとゼシカはそっと、キリルの手を引いて先生の前まで歩む。 「大切なお友達なのよ」 だから、もう大丈夫よ。ゼシには大切なお友達ができたの。 大切な人ができたの。 蒼い瞳を安心させるように細めると、先生は「そう」と小さく言って少しだけ寂しそうに微笑んだ。 *-*-* それは石造りの建物で、外からでも子供達の明るい声が響いていた。心地いい雑音はここで過ごした日々を思い出させる。 「ここでゼシカは暮らして、暮らしていたんだね。ゼシカが描いた絵、どんな絵か、見てみたいな。手紙屋の仕事じゃ、仕事じゃないけども」 「いいわ。あとで案内してあげる。いまはこっち、ね?」 キリルの手を引いて孤児院の隣にある教会へと向かう。細く開いていた扉をうん、と一生懸命押し開けようとしているゼシカにキリルは手を差し伸べて。二人でゆっくりとその扉を開く。 中の空気はひんやりしていて、ひんやりしているからだけではなく教会の持つ雰囲気と静謐さが肌を覆っていく。まるでここにいるだけで、心が洗われていきそうだった。 ゼシカがゆっくりと目指すのは祭壇。十字架の前。キリルは黙ってゼシカについて歩いた。何か言葉を発したら、この静謐さが壊れてしまいそうで。 くるり、ゼシカが足を止めて振り返ったのを見て、キリルも立ち止まった。ゼシカはポシェットを開けて、可愛い色をした封筒を取り出す。封筒にはクレヨンで絵が描かれていた。どことなくキリルに似ている。 「ゼシね、ずっとお礼が言いたかったの。郵便屋さんの手紙はみんなを笑顔にする魔法の手紙」 その手紙を、そっとキリルの前に差し出して。彼がなにか言う前に口を開く。 「これ、ゼシの手紙。いつも届けるばかりで貰えないのは可哀想だから郵便屋さんにあてて書いたの。恥ずかしいからあとで読んでね。約束よ」 「……僕宛の手紙、手紙……約束、約束です」 こくり、頷いてキリルは手紙を抱く。そして少し考えたあと、帽子をとって頭を下げた。 「手紙屋の仕事、仕事は、配達先に手紙を届けて、無事に届いたことをお知らせすること。ポストにも、お知らせしたけど……改めて報告します」 元々窺いにくいキリルの表情が、頭を下げたことで更に窺えなくなる。彼は今、どんな表情をしているのだろうか。 「ゼシカのパパへ、お手紙、お手紙、確かに届けました。手紙屋の仕事は、これでおしまい、おしまい。ご依頼、ありがとう、ありがとうございました」 更に深く、深く頭を下げて。そのまま――。 「郵便屋さん、顔を上げて……ゼシ、郵便屋さんのお嫁さんになりたい」 「みゅー……?」 突然の告白に、反射的に頭を上げたキリル。その視線の先では、ゼシカがはにかむようにして、腕を後ろで組んでもじもじしていた。 「それでね、お仕事から帰ってきた郵便屋さんに毎日おかえりなさいを言いたい。だからお仕事続けて」 「……」 「ゼシとパパは貴方のおかげでもう一度家族になれたの。それを忘れないで」 「……」 お嫁さんになりたい。いきなり告げられたその言葉。子供の言うことだからと笑い飛ばすには、キリルも子供で。返した答えははにかみと。 「また届けたい手紙がありましたら、手紙屋キリルまでご連絡を」 営業再開のお知らせ。 *-*-* それは子供の結婚式ごっこだと言ってしまえばそれまでだ。けれども本人たちはいたって真剣で。 神はそれを微笑ましく見下ろしていることだろう。 ママが結婚式で被ったブーケを引きずりながら羽織って。お花畑で摘んできたシロツメクサのブーケを抱いて、ゼシカは十字架を仰ぐ。 隣に立つキリルも、ゼシカに倣うようにして十字架を仰いだ。 パパとママがしたみたいに、神様の前でアイを誓うのよ。 アイが何なのか、まだ二人には難しいだろうか。 だが、互いを思う気持ちは本物だから。ともすれば、大人の持つ愛情よりも純粋で清らかなものだから。 天窓から降り注ぐ光にキラキラと十字架が輝く。 それはまるで祝福の光。祝福の瞬き。 「神様」 指を組んで跪いて祈りを捧げる。願うのは、永遠。 光に照らし出される、急ごしらえの小さな新郎新婦達はまるで天の御遣いのよう。 「天国のパパ、ママ、見てる?」 ゆっくりと柔らかく、ゼシカは十字に向かって呼びかける。まるでその先に両親の姿が見えているかのように。 「ゼシは寂しくないよ。郵便屋さんがそばにいてくれるから心配しないで」 「ゼシカ、大事、大事にするよ。側に、側にいるから」 もしも参列者としてパパとママがいたら、どんな顔をするかしら。 (きっとパパはゼシがお嫁に行っちゃうの、嫌で泣いちゃうわ。でもママがそんなパパを優しくなだめてくれるの。パパとママは仲良しだから) 決して実現することのない光景を、心の中で思い浮かべて。緩めた口元にするりと、しょっぱい水が入り込んだ。 「ゼシカ、泣かないで、泣かないで」 キリルのふんわりとした手がゼシカの頬を撫でる。すると不思議とピタリ、涙が止まって。 「郵便屋さん、大好き」 ゼシカは背伸びをして、キリルの頬にそっと唇を触れさせる。 「ずっと一緒にいてね、約束よ」 「約束、約束だね」 二人で手を繋いで、祭壇から出口までを歩む。 祝福の声が聞こえるような気がする。いつかその声が本物になればいいと思いながら、一歩一歩、歩みゆく。 「みゃぁー……」 「わぁ……」 開け放たれたままだった教会の扉から外の光景を見た二人は、思わず感嘆の声を上げた。 目の前には七色に染まった光の橋。 二人を祝福するかのように、空に輝いていて。 「虹、虹だ」 「素敵ね」 自然、ふたりは同じものを見上げて。 こうしてこれからもふたりで同じものを見ていくのだろう。そのための約束。 それは『虹』の名を関する、レーゲンボーゲン村で交わされた「アイ」の誓い。 小さなふたりが、これから共に歩む先を決めた瞬間。 七色に輝く虹の橋を、ふたりは忘れることがないだろう。 虹の橋は、ふたりを祝福し、そしていつまでも見守っている――。 【了】
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