オープニング

 ヴォロスのとある地方に「神託の都メイム」と呼ばれる町がある。
 乾燥した砂まじりの風が吹く平野に開けた石造りの都市は、複雑に入り組んだ迷路のような街路からなる。
 メイムはそれなりに大きな町だが、奇妙に静かだ。
 それもそのはず、メイムを訪れた旅人は、この町で眠って過ごすのである――。

 メイムには、ヴォロス各地から人々が訪れる。かれらを迎え入れるのはメイムに数多ある「夢見の館」。石造りの建物の中、屋内にたくさん天幕が設置されているという不思議な場所だ。天幕の中にはやわらかな敷物が敷かれ、安眠作用のある香が焚かれている。
 そして旅人は天幕の中で眠りにつく。……そのときに見た夢は、メイムの竜刻が見せた「本人の未来を暗示する夢」だという。メイムが「神託の都」と呼ばれるゆえんだ。

 いかに竜刻の力といえど、うつつに見る夢が真実、未来を示すものかは誰にもわからないこと。
 しかし、だからこそ、人はメイムに訪れるのかもしれない。それはヴォロスの住人だけでなく、異世界の旅人たちでさえ。

●ご案内
このソロシナリオは、参加PCさんが「神託の都メイム」で見た「夢の内容」が描写されます。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・見た夢はどんなものか
・夢の中での行動や反応
・目覚めたあとの感想
などを書くとよいでしょう。夢の内容について、担当ライターにおまかせすることも可能です。

品目ソロシナリオ 管理番号1480
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
クリエイターコメント 今朝見た夢は、ついに空を飛んでいました。
 残念ながら、地面すれすれでした。
 どうせなら、空高く伸びやかに飛びまわりたかったです。

 皆様の夢を、お聞かせ下さいませ。
 宜しくお願いいたします。

参加者
Mrシークレット(cprs3736)コンダクター 男 25歳 手品師兼…謎の男

ノベル

 黒一色の背景に、洒落た一本足の机と、二つの椅子が舞台の上に在った。
 ぽつん、とある。
「これは、中々の舞台ですね」
 二つのうちの一つの椅子に座っているMrシークレットはそう呟きつつ、ぐるりと舞台を見回す。
「どれ、一つ手品でも」
『客の居ない劇場で楽しく手品ができるとは、毎度恐れ入るよ』
 もう一方の椅子から、声がする。
 シークレットは、ぱちんと指を鳴らす。徐にシルクハットを脱ぐと、中から鳩が飛び出してくる。
「ライフワークですからね」
 一羽の鳩が、シークレットの肩にとまる。シークレットは鳩を指の上に乗せ、勢い良く空へと放つ。
 ぽん、という軽快な音と共に、鳩は紙吹雪へと変化し、ひらひらとステージ上を彩る。
「こんなことを始めて、そろそろ何年でしたか」
『200年近く、といった所かな』
 なるほど、とシークレットが頷く。
 すると、一瞬のうちに背景が変わる。
 緑豊かな自然。耳を澄ませば、鳥のさえずりが聞こえてきそうだ。
「ここでは、鳩が一羽帰ってきませんでしたね」
 再び背景が変わる。
 高層ビルが立ち並ぶ、近代的な街並み。ぎらぎらとネオンが光り、沢山の車や電車がせわしく動いている。
『足を止めてみてくれる人が、少なかったな』
 また、変わる。
 黄金の稲穂が、風に揺れている。子ども達の笑い声まで、聞こえてきそうだ。
「手品に驚いてくれて、とてもやりがいがありましたね」
 青い海に囲まれた、小さな孤島。
 真っ白な雪に覆われた、寒く白い世界。
 色とりどりの花が咲き誇る、美しい野原。
 どこまでも地平線が続いていく、広々とした砂漠。
 様々な世界が背景に現れ、シークレットの記憶を呼び出し、また変化する。
「200年ですか」
 シークレットは呟く。笑顔を携えたまま。
「思えば、色々な所にいったものですね」
『君は何処に行っても、にこにこ笑って手品をするばかりだったな』
 声が聞こえる。呆れたような、笑んでいるような。
 それに対し、シークレットは表情を崩さぬまま、答える。
「ライフワークですから」
 背景がまた、変わった。
 今度は、今までとは雰囲気が違う。何処にも美しさの欠片が見当たらない、血みどろの戦場跡だ。
『そして、君は。気に入らない人間は、にこにこ笑って手品で殺す』
 シークレットは、答えない。
 答えないから、声は続ける。
『心を開いているふりをしながら生きるのは、そろそろ疲れたんじゃないか?』
「そんな感覚は、当の昔に空の彼方ですよ」
 シークレットは言葉を紡ぎ、シルクハットを被りなおす。
「今となっちゃ、これが私です」
 ぱちん、とシークレットは指を鳴らした。
 今度は鳩が出ることは無い。ただ、背景が駅のホームへと変わっただけだ。
「ところで?」
 シークレットは、すっと椅子から立ち上がる。
 目の前に座している存在に向かい、悪戯っぽく笑いながら。
「こんな実りの無い会話が、神託なのでしょうか?」
 シークレットの問いに、椅子の上の存在が小さく笑う。
『ここでの神託は、それを望む人の心に現れるものさ』
 ぎし、と目の前の椅子が軋む。
『望んでない人間に現れるわけがないだろう』
「それもそうですね」
『さぁ、遊びはやめて、そろそろ帰ろうか』
 シークレットは「ンフフ」と笑う。
「結局、今回も駄目ですか」
 シークレットの言葉に、相手は答えない。
「しかし、毎度ながら。貴方は私に嫌味ばかりですね」
『そうかな?』
「そうですよ。もう、200年の付き合いでしょうに」
 シークレットはそう言いながら、椅子の上の存在に語りかける。
 じっと、その者を見つめつつ。
「ねぇ……」
 シークレットは、相手に呼びかける。


「メルシー」
 目を開くと、白い二つの山があった。
 柔らかく、暖かい。生暖かい、といった方がいいだろうか。
 もふっとした、オウルフォームのセクタン、メルシーの尻である。
 むくっと起き上がろうとすると、シークレットの顔に座っていたメルシーは少しだけ羽ばたき、どけてくれた。
 ようやく視界が開け、息がしやすい。
 シークレットは小さく微笑み、少しだけ息を吐き出し、メルシーと向かい合う。
「……はいはい。それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」
 声をかけると、メルシーはシークレットの肩にとまった。
 了承の合図のように。


<戯れの会話の余韻を残しつつ・了>

クリエイターコメント この度は、ソロシナリオにご参加いただきまして、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2011-10-19(水) 21:40

 

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