クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-12387 オファー日2011-09-24(土) 19:31

オファーPC カルツェール(cteb3930)ツーリスト 男 65歳 神に近しい者(自称)
ゲストPC1 カナリア(ctvh8275) ツーリスト 女 9歳 カナリア

<ノベル>

 カルツェールは、世界図書館の書架をぶらぶらと歩いていた。
 そこに、きょろきょろと並ぶ本たちを見つめる少女がいるのを見つけた。
 カナリアである。
 右足が不自由だと聞き、治してやった。ついでに、覚醒前にやられ、ガラガラになってしまった声も治してやろうと言ったら、きっぱりと断られてしまった。
(何故だ)
 どうしても、理解できぬ事だった。
 普通なら、体の悪い所を全て治して欲しいと思うだろう。事実、悪かった右足を治してやったら、カナリアは少しだけ嬉しそうな様子を示した。
 それなのに、喉は頑として首を縦には振らなかった。
(不可解である)
 カナリアは、カルツェールにとって興味の対象となった。
 そして今、その興味の対象は目の前にいる。カルツェールは早速、カナリアに声をかけた。
「何をしておる?」
 問うと、カナリアはガラガラの声で、小さく答える。
「本、探してる」
「何と言う本だ?」
「世界の、本」
 カナリアは答え、本探しを再開する。
 見れば、世界の写真集を手にしたりしている。
「……おまえの、故郷の世界か?」
 カルツェールが尋ねると、カナリアはこくん、と頷いた。
 全く同じ世界の資料があるとは思えぬ。似た世界でもよいのだろう。
「どんな世界だ?」
「炭鉱があった。黒い石を、運んでて」
 カナリアはぽつりぽつりと呟くように言い、少しだけ表情を沈ませる。
(全く不可解だ)
 故郷の資料を探すくらいだから、ホームシックにかかっているのだろう、と思っていた。ならば故郷を語る表情は、懐かしんだり寂しそうにしていたりするものだろう。
 しかし、カナリアの表情は暗い。浮かんでいるのは、寂しさとは言いがたい。
 暗さの元になっているのは、寂しさと言うよりは悲しみ。
 それがどうしてかは、分からない。カナリアも、そのことについては口にしなかったからだ。
 結局、カナリアとカルツェールの二人がかりで探したが、資料を見つけることは出来なかった。
「無かったか」
 カルツェールが言うと、カナリアは頷く。閉館時間を告げる放送が、図書館内に響いている。
「それじゃあ」
 カナリアはそう言い、走り出した。
「……分からん」
 カルツェールは呟き、首を捻る。
 カナリアは、ほっとしたような表情をしていたからだった。


「○月○日。晴れ。
 世界図書館の書架にて、幼女を見かけた。
 故郷に似た世界の資料を探しているというので、手伝う。
 結局見つからなかったが、幼女は少し安堵していた。不可解だ」 


 図書館のロビーで、司書と話すカナリアを見つけた。明るい表情で、司書との話を楽しんでいるようだ。
(あのような表情もできるのではないか)
 ふむ、と観察していると、司書がポケットから何かを取り出し、カナリアに手渡していた。
 嬉しそうにカナリアは受け取り、大事そうに握り締める。
 棒つきの飴だ。
 司書は時計をちらりと見やった後、カナリアに手を振ってその場を離れた。仕事に戻るのであろう。
 カルツェールはポケットをまさぐり、飴やキャラメルの入った瓶を取り出す。色とりどりの包装紙にくるまれた、可愛らしい飴やキャラメルである。
(低血糖予防が、このようなところで役に立つとはな)
 カルツェールは、飴やキャラメルを常時携帯していた。辛党なので、不本意ではあるのだが。
 瓶の中から一つ飴を取り出し、司書に手を振っているカナリアに近づく。
「飴、好きなのか?」
 カルツェールが尋ねると、カナリアはそれには答えずに、ただ振り返った。
 カナリアの返答を待たず、カルツェールは飴を差し出す。
「ほれ、やろう」
 ずい、と飴を差し出すカルツェールに、カナリアはむっとした表情を見せる。
「いらない」
「何だと?」
 想像外の答えに、カルツェールは思わずカナリアを見つめる。カナリアは司書からもらった棒つきの飴を、ぎゅっと大事そうに持っている。
「別に、何という事は無い。ただの飴だ」
「いらない」
 再び、きっぱりとカナリアは言い放つ。そうして、くるりと踵を返してカルツェールから離れてしまった。
「……分からん」
 飴を差し出したポーズのまま、カルツェールはぽつりと呟いた。


「○月△日。曇り。
 図書館ロビーにて、司書と話す幼女を見かける。
 司書から飴を貰ってご機嫌になったので、飴を渡そうと試みる。
 しかし、不機嫌に断られた。相変わらず不可解である」


 世界図書館、書架。
 カルツェールはカナリアと調べ物をしていた。
 今度は、カナリアの故郷に似た世界に神がいるかどうかを、調べているのだ。
「色んなものに、神様が宿ると言っていたの」
 カナリアは、ぽつりぽつりと話す。
 カナリアの故郷では、万物に神が宿るとされていたらしい。生贄の風習もあったとか。
 しかし、生贄を出しても天災が治まらないことはままあったのだという。
「神様って、いるの?」
 カナリアは、カルツェールに尋ねる。
 神が居るかどうかは、疑問だ。本当にいるかどうか、分からない。
 何となく怖い、とカナリアは思う。得体の知れないものだから、怖い。
 もしいないのなら、いないものをみんなして信じていたのが、怖い。
 だから知る事が、何となく怖い。
 そんなカナリアの心中を知る事無く、カルツェールは考え込む。
(神様、か)
 故郷では、神に最も近づいた男、といわれていた。
 だがしかし、神の存否は証明することができなかった。
(我輩にとっての神とは)
 カルツェールは、唇を軽く噛む。
 神とする存在は別にあるというのに、存在を否定する事まではできなかった。
 神とはつまり、苛立ちすら覚える対象。
「……ふはははは!」
 カルツェールは笑い出す。
「何を言う。この我輩こそが、神であるぞ!」
「……嘘」
 笑いながら言うカルツェールに、カナリアはきっぱりと言い放つ。
「な、なぜだ?」
「……何となく」
 ぐぬう、とカルツェールは唸る。
(不可解である)
 カナリアは何事も無かったように、再び資料を探し出す。
「そ、そういえば」
 カルツェールは、気を取り直して口を開く。
「先日、何故飴を受け取らなかったのだ?」
「飴?」
「司書からの飴は、受け取っておったのに。我輩の飴は、何故受け取らん?」
 そこまで言うと、カナリアは思い当たったように「ああ」と頷く。
「我輩の飴が、気に入らなかったのか?」
 カナリアは暫く考えた後、口をそっと開く。
「何となく」
「ぐぬう……!」
 唸るカルツェールを気にする事は無く、カナリアは本を探し出す。
 結局、また閉館を知らせる声を響かせる頃まで探したものの、見つけることは出来なかった。
「見つからず、残念であったな」
 カルツェールが声をかけると、カナリアは首を横に振る。
 やはりどことなく、ほっとした表情だ。
 まるで、見つからなくてよかった、とも言わんばかりに。
 カルツェールはポケットをまさぐり、再びあの飴やキャラメルの入った瓶を取り出す。その中から、黄色の包装紙にくるまれた小さな飴を取り出し、差し出す。
「やろう」
 カナリアは少し考えた後、それを受け取る。あまり嬉しそうには見えなかったが、じっと飴を見つめている。
「今回は、受け取るんだな。それなら、好きなのか?」
 カルツェールが尋ねると、カナリアは飴を握り締めながら答える。
「……何となく」
「……そうか」
 カナリアは、ぺこっと小さく頭を下げ、飴を握ったまま小走りにかけていく。
「全く……やはり、不可解である」
 カナリアの後姿を見送りながら、カルツェールは小さく呟く。


「○月×日。曇りのち晴れ。
 書架で、幼女とまた調べ物をする。
 神の存在の有無を問われる。幼女曰く、故郷は万物に神が宿るとされ、生贄の風習もあった。しかし、生贄を出しても天災が治まらぬことがままあった。
 本当に神が居るかどうか、疑問なのだという。
 我輩にとっての神とは、朧。しかし、存在否定までには至らなかった。苛立つ対象である。
 結局、本は見つからず。結論も出ず。

 帰りに飴をやる。黄色の包装紙の飴である。
 ようやく受け取った。何となく、だそうだ……」


「……やはり、不可解である」
 カルツェールは、ノートにそう書き記す。
 カナリアの観察記録を行っているノートだ。
「神、か」
 カルツェールはカナリアを思い返す。
 思い出す限り、カナリアは不思議な言動をしていた。理解できぬ事ばかり。
 だからこそ、興味が尽きない。もっと知りたいと思う。
 カルツェールは「ふむ」と呟き、記録の最後に付け加える。

 今後も観察を継続する、と。


<観察記録を書き終え・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで
公開日時2011-10-23(日) 21:40

 

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