クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-13529 オファー日2011-11-12(土) 15:15

オファーPC ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)コンダクター 女 16歳 女子大生

<ノベル>

 ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノは、モフトピアからの駅に向かう途中で足を止めた。
 駅の手前で、ぱた、と倒れているアニモフを発見したのだ。
「そなた、どうしたのじゃ!」
 ジュリエッタは慌ててそのアニモフに駆け寄る。ふわふわの猫のようなアニモフだ。
「お、おなか」
「お腹? お腹が痛いのか!」
 慌ててさすろうとしたその瞬間、ぐううう、と大きな音が鳴り響いた。
「む?」
「……おなか、すいたの……」
 腹痛ではなく、空腹。
「なんじゃ、びっくりさせおって」
 ははは、と笑うジュリエッタだったが、アニモフは笑わない。
「な、なんじゃ。そなた、そんなにお腹が空いておるのか」
 尋常ではないと察知したジュリエッタは、慌てて背にしていたリュックの中を探る。すると、奥の方からクッキーの箱を発見する事ができた。
 ついでに、温かな紅茶の入った魔法瓶も。
「ほら、良かったら食べるのじゃ」
「うわあ」
 アニモフはにこーっと笑うと、夢中でクッキーを食べ始めた。途中、詰め込みすぎてゴホゴホと咳き込んでいる。
「慌てずとも、ゆっくり食べるのじゃ」
 こぽこぽと魔法瓶からコップに紅茶をいれ、アニモフに差し出す。「熱いから、気をつけてのう」
 口いっぱいにクッキーを詰め込んだアニモフは、こくこくと頷いて紅茶を飲む。
「あつっ!」
「じゃから、言ったじゃろうに」
 ジュリエッタは思わず苦笑する。
 そうして、箱一杯に合ったクッキーと魔法瓶に入っていた紅茶を全て平らげた後、ほう、とアニモフは息を漏らした。
「……生き返ったの。ありがとうなの」
 ぺこ、とアニモフは頭を下げる。
「なに、構わぬ。それよりも無事でよかったのう」
「あの、ぼく、お礼を」
 ぱたぱたとアニモフは自らの体を触る。何か持っていないか、探るかのように。
「いやいや、要らぬよ。そなたがあれで元気一杯になったのなら、それがわたくしへの礼じゃ」
「でも」
「構わぬ構わぬ」
 にこにこと笑うジュリエッタに、アニモフはきょろきょろと辺りを見回す。そして「あ」と声を出した後、その場にしゃがんで花を手折った。
「あの、これ」
 すっとジュリエッタに差し出したのは、綺麗な一輪の花だ。
「わたくしに?」
「はい。お礼には、ならないかもなのだけど」
 ジュリエッタは申し訳なさそうなアニモフから、花を受け取る。きらきらと露が光に反射して、まるで虹色だ。
「ありがとう。凄く、嬉しいのう」
「本当?」
「もちろんじゃ!」
 アニモフも嬉しそうに笑う。そして、駅に再び向かいだすジュリエッタに、何度も何度も手を振った。
「ふむ、本当に綺麗じゃのう」
 花を見つめ、ふふ、とジュリエッタは笑う。
「あ、その花」
 ぴたり、とまたジュリエッタは足を止める。今度はウサギ型のアニモフが立っている。
「この花が、どうかしたのか?」
「その花、探してたの。後一本で、これが完成するの」
 ずい、と差し出したのは花輪だ。なるほど、ジュリエッタが貰った花で作られているが、ここら辺にはもう同じ花が咲いてない。
「友達が病気なの。元気付けてあげたいの」
「なるほど。ならば、是非とも使ってくれ」
 ジュリエッタは花を差し出す。
「うわあ、ありがとうなの!」
 アニモフは嬉しそうに受け取り、代わりにといわんばかりに、小さな球を差し出した。
「これ、さっき拾ったの。お礼なの」
 ジュリエッタは、差し出された球を受け取る。ほんのり青い色をした、透明な球だ。ビー玉のような、水晶のような。
 球の中心に細い糸を通せるような穴が空いているので、ペンダントの一部だったのかもしれない。
「とても綺麗じゃのう。ありがたく、いただこう」
「ううん、こちらこそ、ありがとうなの!」
 ジュリエッタは花輪を大事そうに持つアニモフに手を振り、再び駅を目指す。
 球を見ながら暫く行くと、また別のアニモフに声をかけられた。
「それ、わたしのなの。探していた、ネックレスの球なの!」
 そう言いながら、アニモフはネックレスをずいっとジュリエッタに差し出す。
 なるほど、先が千切れてしまっているネックレスの球と、先程貰った球は同じものだ。
「それは良かった」
 ジュリエッタは、快く差し出す。
「よかったの。これで、全部揃ったの」
 ほっとしたようにアニモフは言った後、袋から綺麗なコサージュを取り出す。
「これ、わたしが作ったの。お礼なの」
「おお、これは綺麗じゃのう」
 薄紫の花をあつらえたコサージュは、あでやかで美しい。
「貰ってよいのかのう?」
「もちろんなの。本当に、ありがとうなの」
「いや、こちらこそありがとうのう」
 ジュリエッタは礼を言い、そのコサージュを胸に着けて歩き出す。なんとなく、お洒落になった気がする。
「あ、そのコサージュ!」
 また歩いていると、声をかけられた。胸に薄ピンクのコサージュを着けた、アニモフだ。
「これかの?」
 ジュリエッタが胸に着けたコサージュをさすと、そのアニモフは何度も何度も頷く。
「そう、それなの。今話題の、一品物なの!」
「ほほう、人気のコサージュ作家アニモフじゃったのか」
 感心したように、ジュリエッタは頷く。
「お願いなの。そのコサージュ、譲って欲しいの」
「そなたは、コサージュが好きなんじゃのう」
 ジュリエッタはコサージュをとり、アニモフに渡す。アニモフは嬉しそうにそれを受け取った後、すっと瓶を差し出した。
「それ、わたしの秘蔵のジュースなの」
「ほほう」
 光にかざすと、透明な薄紅色をしていた。
「しかし、良いのか? 秘蔵なのじゃろう」
「うん。このコサージュが、嬉しいの。ありがとうなの」
 にこにことアニモフは答える。ジュリエッタは礼を言い、手を振ってその場を後にする。
「そういえば、こういう御伽噺があったのう」
 くすくすと、ジュリエッタは笑う。最初はクッキーだった。それが花となり、ネックレスの球となり、コサージュとなり。今はジュースになってしまっている。
 不思議な縁を感じていると、また更にアニモフが声をかけてきた。
「そ、その手に持っている瓶……」
「え?」
 きょとんとしていると、アニモフはジュリエッタの持っている瓶をじっと見つめている。
「ああ、これか。これが、どうしたのじゃ?」
「それ、伝説のももいろジュースなの!」
「これが?」
 ジュリエッタは、アニモフに差し出す。アニモフは何度も瓶を見、ぽんと中をあけて匂いを嗅ぎ、こっくりと頷く。
「間違いないの! だから、あの、その……交換して欲しいの!」
 アニモフはそう言い、二つの箱を持ってきた。
 一つには、黄金のトマトが沢山入っていた。
「それは、滅多に実らない、至高の味が堪能できるトマトなの」
 もう一つには、金銀財宝が入っていた。
「ぼくの、目一杯の財産なの」
「そんなに凄い逸品なのか」
 ジュースを見ながら言うと、アニモフはこっくりと頷く。
「大好物なの。でも、もう売ってないの。だから、ぼくの宝物と、交換して欲しいの」
「ふむ」
 二つの箱を見比べ、ジュリエッタは「そうじゃのう」と言った後、一つの箱を手にした。
 黄金のトマトが入った箱を。
「こっちを、もらってよいかのう?」
 アニモフはにっこりと笑って頷く。
「もちろんなの」
「では」
 箱の中から一つ、ジュリエッタはトマトを手にする。そして、かぷ、とかぶりついた。
「……っ!」
 言葉に出来ない。
 美味しすぎて、何と言っていいのか分からない。
 ジュリエッタはホクホク顔でその一つをあっという間に平らげ、残りをリュックに詰め込む。
「本当に、そっちで良かったの?」
 ジュースを握り締めるアニモフが、尋ねる。ジュリエッタは「もちろんじゃ」と笑顔で返す。
「金銀財宝は、長き刻を得た自分がいつか手に入れることができるかもしれぬ。じゃが、黄金のトマトはいつ行き当たるか分からぬ」
 きゅ、とリュックの口を閉じ、背負う。
 ずし、とトマトの重みがジュリエッタの両肩にかかる。
「ここは、より好きなものを選んだだけのこと!」
「それなら、良かったの」
 ニコニコと笑うアニモフに、ジュリエッタは「じゃあの」と手を振る。
「さあ、どんな美味しいトマト料理ができるか、楽しみじゃ!」
 駅に向かいながら、ジュリエッタは呟いて笑う。
 ロストレイルが、もう少しで到着するのを見つめながら。

<黄金のトマト料理に思いを馳せつつ・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2011-11-25(金) 23:10

 

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