クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-20582 オファー日2012-12-01(土) 14:38

オファーPC グレイズ・トッド(ched8919)ツーリスト 男 13歳 ストリートチルドレン

<ノベル>

 夜が近い。
 夕焼け空は、何処までも赤く染まっている。
 隕石落下のせいで、土地の殆どが海へと沈んでしまった。
 わずかに残った土地も、食べ物となるような植物が育つ事無く、資源も無いといっても過言ではない。
 それに加え、隕石には魔力があった。機械文明が滅びる代わりに、魔力を持つものが現れ始めるほどに。
 家路につく者たちは、こぞって落ち着く場所へと足を速める。
 魔に当てられた、人を喰う化け物じみた者、ゴミと呼ばれるものが現れるかもしれないから。
 夜が近づくと薄暗い路地に近づかない方が良いというのは、既に一般常識として浸透している。
 それでも、路地で生活する子ども達にとっては、薄暗くとも確認するしかない。
 明日を生きる糧が、何処に転がっているかもわからぬのだ。
 少年は、薄暗い路地を注意しながら進む。何かがやってくれば、すぐに踵を返せるように準備をしながら。
 明るいうちに見ておけば良かった、と頭の隅をよぎる。しかし、明るい時間でもどことなく薄暗いその路地は、気味悪さからついつい後に回してしまっていた。他で何かしらの収穫があるのでは、と期待したのもある。
 しかし、たいした収穫も無く、他の場所は確認してしまった。だから、これは仕方の無い確認作業なのだ。
 とはいえ、少年が進むこの路地でも収穫があるわけではなく、終着点が見えた。
 向こう側に抜けられない、行き止まりの路地。そこにはたまに、掘り出し物があったりするのだ。
 現段階で何事も起こらなかったことに感謝しつつ、少年はほっと息を吐き出す。赤く染まった夕日が、路地を染め上げている。行き止まりを確認し、何らかの収穫を手にしたとしても、この赤が消える前に戻れるはずだ。
 幸い、ゴミも出なかった。遭遇したらすぐに逃げる、が鉄則だ。

――ぱちゃ。

 水溜りに足を踏み入れ、音が響く。
 雨なんて降っただろうか、と疑問に思いながら足元を見る。

――赤い。

 夕日に照らされて、ではない。
 赤い赤い水溜りが、いや、池といってもいいだろう。
 赤い水が、そこらじゅうに散らばり、溜まっているのだ。
「ひっ」
 少年は息を呑み、ぱちゃぱちゃ、と音を立てて後ずさる。本能が、少年に警鐘を鳴らす。
 此処に居てはいけない、と。
 震える足を叱咤し、少年は静かに引き返そうとする。ちらりと辺りを確認すると、赤く染め上がった三つの体が転がっている。
 一つは女で、残り二つは男のようだ。
 出血量と様子から、既に事切れているに違いない。
 恐らくは、ゴミだ。人を喰らおうとする、ゴミ。
(どうして、ここにゴミが三体も)
 少年は口元を抑えて考え、それからふと思う。一体、何があったのかと。
 咽る様な血の臭いの中、頭がくらりとする。そんな事を、考えている場合ではない。
 何かが起こったということは間違いが無く、では何が起こったのかを知っておくに越したことは無い。
 少年は唇を噛み締め、路地の終着点を見る。
 よし、と気合を入れ、少年は足を踏み出す。ぴちゃ、と水のはねる音がしたが、構ってはいられない。
 もしかしたら、掘り出し物があるのかもしれない。それがなくても、異変の元くらいは残っているのかもしれない。
 何も無ければ、何も無いでいい。
 ただ、こうして異様な空間に、訳も分からず佇んでいるのが気持ち悪い。
 少年は何度も崩れそうになる身体に叱咤しつつ、先へと進む。そうして、路地の終着点に小さな影が見えた。

――子どもだ。

 三歳くらいだろうか。
 小さな小さなその体は、赤いシャワーを浴びたかのように、ぽたりぽたりと赤い雫を垂らしながら佇んでいる。
 つう、と頬から血を流している。真っ赤な身体なのに、頬から流れる血だけが、妙に目に付いた。
 そして、子どもはギラリと銀色に光るハーモニカを持っていた。小さな手に余る、赤い世界の中で光るハーモニカ。
 少年は足を止め、その赤い世界にいる子どもを見つめた。掘り出し物とは言いがたく、異変の元とも分からぬ、その小さな身体を。
 小さな身体が、ゆるり、と動く。
「あ」
 少年は、慌てて後ずさる。
 子どもと眼が合った、と思った。一体、此処で何が起こったのかは分からないが、佇む子どもが無関係とは到底思えぬ。
 ならば、関わらない方が賢い。

――ぽつ、ぽつ。

 少年がその場から逃げ出そうと、地を踏みしめたその瞬間、空から雨が降り出した。
 雫は徐々に激しくなり、すぐにざあざあと天から降り注ぐ。
 少年は踏みしめた地から足を離す事無く、ぼうっと空を見上げた。
 突然の出来事で、張り詰めていた気が抜けたのもある。熱くなっていた頭が、一瞬にして冷やされたのもある。
 ともかく、その場を後にする機会を失った少年は、空から子どもへと目線を移し、見つめた。
 子どもの髪は、青だった。赤い色に邪魔されていたから、良く分からなかっただけで。青い、綺麗な色をしていた。
 それはまるで、良く晴れた空のような。
(綺麗だ)
 少年は、雨に濡れて赤から青へと変わる、子どもの頭を見ていた。
 一方の子どもは、何もしないし、何も言わない。
 虚ろな目で、少年を見ているとも思えぬ。
 その眼には生気が宿っていないから。
「……くそ!」
 少年は毒づくように言い、意を決したように子どもの方へと歩を進める。
 路地に広がる血は、降り注ぐ雨によって流れてゆく。
 赤く染め上げていた子どもの体も、雨によって流されていく。
 まるで、此処で起きたであろう全てを、無かったことにするかのように。
 ぱしゃぱしゃと、薄い赤の水しぶきを上げながら、少年は子どもに近づく。
 関わらない方が賢いのだと、分かっていた。そうして生きてきたのだし、これからも同じように生きていくと思っていた。
 それなのに。
「行くぞ」
 少年は、手を差し伸べる。
 子どもは相変わらず虚ろな目で、佇んでいる。差し出された手に、気付かないかのように。
 いや、気付いていないのだ。自分に手が差し伸べられていることも、目の前に少年が立っていることも。
「ほら、行くぞ」
 いつまでも握り返されぬ手に痺れを切らし、ぎゅ、と少年は子どもの手を握る。
 子どもからの握り返しは無い。
 子どもの手は冷たく、雨に濡れて滑りやすい。
「行くぞ……!」
 今一度、少年は言い、ぐいと引っ張ってやると、ようやく子どもの足が動いた。
 少年は引きずるように、子どもをつれて路地を引き返す。最初は早足で、徐々に駆け足で。
 少年の走りに合わせて、子どもも足を動かした。
 子どもにとっては、自分を引っ張る何かによってこけぬよう、足を交互に動かしているだけのように感じているのかもしれない。
 早いとも、辛いとも、痛いとも、子どもは言わなかった。きゅ、と唇を結んだまま、少年に引っ張られるままに足を動かす。
 ただ、それだけ。
 ぱしゃぱしゃ、ぱちゃぱちゃ、と雨音に紛れて二つの足音が響く。
 少年は、賢い判断だとは思わなかった。正しいとも思わなかった。
 そうせずにはいられなかっただけなのだ。衝動的、と言ってもいい。
 後先のことは考えておらず、そこに子どもが居たからつれてきた。放っておくという選択肢もあったけれど、そんなものが頭に浮かぶことも無かった。
 気付けば、子どもの手を引いていた。
「お前、名前は?」
 走りながら、少年は尋ねる。子どもは答えぬ。
 走るのに必死なのかもしれぬ。少年の走りについてくるので、精一杯のかもしれぬ。
 または、名前など無いのかも。いや、忘れたのかも。
 無言の子どもは、何も答えないのだから、正解は分からない。
 少年は肩をすくめて息を吐き出す。
「まあ、いいや。そのうち、一緒に考えようぜ」
 少年の言葉に、子どもはようやく頷いた。否、頷いたように見えただけかもしれない。
 まあいいや、と二回目の言葉を繰り返し、少年はぎゅっと子どもの手を握り締めた。
 いずれグレイズ・トッドと名乗ることになる子どもの手を、ぎゅっと。
 強く握ったその手は、暖かな体温を確かに感じるのだった。


<赤から青へと変わり・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2012-12-12(水) 22:00

 

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