オープニング

「ロストナンバーの皆さん……由々しき事態が発生致しました」
 沈痛な面持ちで額を抑える世界司書リベル・セヴァン。

 世界司書の話に全く耳を傾けることなく、PCに向かってしゃべる男が一人。
「はぁ~い、ハニー達こんにちは、野郎とBBAはさようなら。愛の伝道師、紳士の中の紳士、ジェントルオブジェントルメンことレオ・マケロイだ。リベル・セヴァンめ、今回は委員長属性で攻めてきたつもりかもしれないが、残念それは教頭先生すなわちBBAポジションってやつだ。まあそもそも年増に委員長……ん、なんだ男が俺の服を引っ張るんじゃない」
 くいくいっと服を引かれ、煩わしげに振り向くレオ・マケロイ。
 目の前には悪鬼がいた。
「レオ・マケロイ、何か言い残すことは?」
「……さっきのポーズはやめたほうがいい、小皺が目立つぞ」

 ――刹那、芸術的な橋が創造された、明日へ架ける人間橋『ジャーマンスープレックス』

 ざんねん!! レオのぼうけんははじまるまえにおわってしまった!!

「大変お見苦しい姿を失礼致しました。話を続けさせて頂きます」
 不要物をダスト・シュートに捨てたリベルは心なしかスッキリとした表情だ。
「問題を起こしているのは、先日の世界樹旅団との交戦にて捕獲されたメンタピと呼ばれる魔神です」
 集まったロストナンバー達の間にざわめきが起きる、メンタピといえばロストナンバー達のなかでも選り抜きバトルキチが死力を尽くして捕獲した魔神。それが暴れているというのだ。
「事は、精神探査能力や尋問技術に長けたロストナンバー達がメンタピから情報を引き出そうとしたところから始まります。……魔神の精神は強靭でかつ異質なものだったからでしょうか、専門家達の力を持っても魔神から情報を引き出すことができませんでした。尋問は数週間に渡り、疲労を禁じ得ない彼らに魔神が一つの提案をしてきました」

 『余と遊戯にて勝負せん、遊戯の内容はそなたらが決めよ。そなたらが勝すれば願いを叶えよう、対価は願いに応じ決める』

「上がらぬ成果に焦れていた彼らは魔神の言葉を承諾しました……それが、仕組まれた行為であったことに気づいたのは全てが終わったでした。勝負に敗北した彼らは全てのナレッジキューブを奪われ、借金の型に過酷な労働契約の締結を強いられました。
 メンタピは、賭けによって得た労働力を使いゲームセンターなる遊興施設をターミナルに建築しました。その珍妙な施設は、好奇心旺盛なロストナンバー中心に口コミ伝播し、足繁く通うものも出ているということです」

 ――静寂……誰かツッコめよとばかりの乾いた空気。

「しかしです!! 施設に入り浸るロストナンバー、特に若年層のロストナンバーが深夜まで入り浸る、座り込む、カツアゲ行為をするといった不良行為が確認されており、ロストナンバーとしてのモラルに欠如が見られます。そしてまた、メンタピと無謀な勝負を行ったロストナンバーが払いきれぬ借金を負ったケースも報告されています」

 pululululu…
 熱弁を振るうリベルから電子音が聞こえた。
 すみませんと一礼するとリベルは電話をとった
「リベルー留守電入ってたけど何かよーぅ、私今日お休みなんだけど」
「エミリエ、すみませんアリッサ……いえ館長はどこに居られますか?」
「しらないわよー、私休みだって言ってるじゃん。リベルの話がつまんないからどっかいっちゃったんでしょ」
 ガチャン! ツーツーツー……
 電話を握りしめリベルの肩が小刻みに震える。
 べキッと音がなると哀れな電話が二つに折りたたまれた。
(あースマートフォンって二つ折りできるシリーズが出たんだねー)

「と・も・か・くです!! このような公序良俗にかける施設をターミナルに存在させることを許すことは出来ません。今すぐに、メンタピを廃して施設を取り潰してください。これ以上、アリッサの勉強時間が減ったら大変なことになってしまいます!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ヴォロスの魔神に対峙するのは世界図書館館長、その目は真剣そのものだった。
 画面上のアリッサを模したと思われる少女が屈み蹴りを放った、少女に対峙する男は蹴り足を見るとアッパーカットを放ち天を舞う。

 『K.O.』
 電子音がなった。
「小足見てから余裕だな……、もう終わりかね館長殿」
 悔しげに唇を結ぶアリッサ、懐のポシェットにナレッジキューブは……0。今月のお小遣い残高……圧倒的0。
「ククク、カカカ、どうした残弾はなしか。よかろう、金がないならば品性でもかけ給え、サービスショット一枚につき一勝負、悪い話ではあるまい」
 少女は悔し涙を眼尻に溜めた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「幼女は辱めるものではない、愛でるものだーーーー!!!!」
 どこかで叫び声が聞こえた、気にする必要は全くない。

品目シナリオ 管理番号1884
クリエイターKENT(wfsv4111)
クリエイターコメントこんばんは、竜星が堕ちる刻シリアス方面担当だったKENTです。

今回のシナリオは、捕縛されたにもかかわらず0世界で暴れる魔神メンタピを退治すること…………は主目的ではなく、魔神メンタピとゲームで勝負し願い事を叶えてもらうことが主目的です。
 願い事の内容はなんでも構いません、勿論世界樹旅団の情報であってもOKですしもっとプライベートなことに使っても構いません。なお、あくまで願い事はメンタピがかなえることが可能なことしかかないません。

 プレイングは以下の形を推奨致します。
・メンタピと勝負するゲーム:どんなゲームでも構いませんが勝利条件が不明瞭なゲームはNGです。多人数必要なゲームが選択された場合はどこからともなくNPCが参戦します。そうでなくても参加するかもしれません。
・願いごと:願い事がメンタピ視点で難しいことであれば難しいことであるほどゲームの難易度は上がります。絶対にかなえられない願い事をするとゲームに勝つことができなくなります。
メンタピは一応囚われの身のため、外にでて何かするような願い事をかなえることは出来ません。
駄目なお願いごとの例:   ドクタークランチを連れてこい。
かなえられるお願いごとの例:ドクタークランチのパンツの色を教えてもらう。
・質草:必須ではありませんが書いてあるとPCが負けた時に確実に持っていきます。ただし無価値と判断されるものは受け取りません。
・どのような戦略でゲームをするか:難易度に対する評価項目と思ってください。

勝負を挑む回数は一回である必要はありません、プレイング文字数が許す限りゲームを挑めます。当然ですが、簡易な戦略になればそれだけ負けが込むのでバランスを考えてください。
また、勿論ゲーム以外のことをしてもいいですし、メンタピを無視してゲームセンターで遊んでも構いません。

おっと最後に忘れてました、OPに登場したレオ・マケロイの本編登場予定はありません。

それではよろしくお願いします。


※プレイング期間が短めですのでお気をつけください。

参加者
ファルファレロ・ロッソ(cntx1799)コンダクター 男 27歳 マフィア
マフ・タークス(ccmh5939)ツーリスト 男 28歳 園芸師
幸せの魔女(cyxm2318)ツーリスト 女 17歳 魔女

ノベル

 閑話――
 
 物語の舞台は0世界が一角、幽閉されし異邦の魔神が作りしもの。
 ――その名は『ゲームセンター・メンタピ』
 奇妙な遊戯施設にて、裏世界に脈絡と語り継がれた伝説が始まる。


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆
 

 ――カラン、カラァン。
 扉についた鐘が来訪者を出現を告げる。

 薄暗い照明、液晶の反射させる色とりどりの光がチカチカと視界に飛び込み、ピコピコとなる電子音が耳に痛い。
 トレンチコートと黒い毛皮に身を包む小柄と言うには小さすぎる男は、受容体を強く刺激する独特の感覚に狭い額を顰める。
 
 室内には、整然とゲーム筐体が並ぶ。
 少し柄が悪い若年層と思わしきロストナンバーが人だかりとなって歓声を上げているのは、人気の対戦ゲームだろうか。
 対戦に興じるのは、我らが館長殿と黒服・サングラスにピンクの髪が映える少女。
 僅か90秒の戦い――突っ伏したのは…………館長だ。
 (館長のヤツ、何やってんだ)
 その男、黒き山猫の獣人――マフ・タークスの表情には苦笑が刻まれた。

 マフは、ゲームに興じる館長らをよそに、大型プライズ機が多数設置された建屋の中心へ歩を進める。
 プライズ機には、『ファミリーシリーズ第3弾・アリッサ新コスチューム版入荷!!』と大々的に掲げられた幟。
 マフの苦笑を引きつったものに変えるなというのは少々酷な相談であった。
 
 プライズ機の中央、場にそぐわぬヴォロス風の格調高い飾り台に置かれた二対の角を持った生首――ゲームセンターの主である魔神が居た。
「よぉ、メンタピさんだったか? 随分と馴染んでやがんじゃねェか」
「ククク然りだ、ロストナンバーよ。さて……みなまで問わぬ、余との勝負が希望か」
「さすが魔人様、話が早くっていいじゃねェか」
 
 ――ざわ……ざわ……。主の戦いが始まる……その気配に遊戯施設がざわめく。

「ルールは分かっておろう……願いを述べよ!」
「そうだな……、『世界樹旅団が竜刻を集めてた理由』……ってのを聞かせてもらおうか」
 軽く思案する風に、口髭を爪先で撫で答えるマフ。
「是! では見合った対価を」
 黒い毛皮に包まれた手が魔神の前に、多段重ねになった円形の物体を置いた。
「ナレッジキューブ、この一ヶ月分の稼ぎ全部だ」
(……まあ、クアールの旦那にキレられねぇ程度で済めばいいんだが)
「よかろう、ではそなたの望む戦いの場を余に宣言せよ」
 魔神は鷹揚に応えると更なる言を促した。
 マフは首肯すると、人差し指の爪先である場所を指す。
 指示された先にあったのは、大型のゲーム筐体――画面には遠近法で立体感をもたせた背景の中、多数の銃を持った男が動きまわる姿が映っていた。
 マフが選んだ勝負方法は『ガンシューティング』であった。
「コイツのストーリーモードは協力プレイなんだが、勝負方法はスコアアタックだ。ステージクリアー時に、どちらのスコアが上だったかで勝敗を決める。
 ただしステージ道中で敵から攻撃を受け、ライフが0になった時点で負けだ。初期のライフは3、これも道中の回復アイテムを撃てばライフが1増える」
「一般的なガンシューティングだ、ぐだぐだ説明するより一回手本を見せるぜ」
 魔神に背を向け筐体と対峙するマフ、彼は二枚のナレッジキューブを投下するとおもむろに1P用と2P用の銃を抜き取った。


「あ、あれは……」
「知っているの? エミリエ」
「2丁拳銃……全てのガンシューティングで最高得点を出したプレイヤーが、通常プレイでは飽きたらず始めた伝説の操作法……まさか彼がその使い手だなんて」


 大型の画面に操作方法を示す表示が表れ暗転――画面に銃を持った男が表れるや否や画面は激しい明滅に包まれた。
 画面の中の男たちは僅かな時間の存在も許されず血をしぶき倒れる。
 マフがトリガーを引く数が10数える事に、拳銃が跳ね上がり掌の中を回る。
 
 ――時間にして5分余り、画面の明滅は止まりプレイヤーの勝利を告げる文字が表示されていた。
 ――歓声が上がった。

 遊戯施設内に響くシュプレヒコールを背に拳銃を収め振り向く黒き獣人。
「こいつはNormalモードだこのままじゃ簡単すぎるからな、勝負はVery Hardモードでやるぜ」
「よかろう、早速始めようではないか」
 応じる魔神は、生首姿ではなくレッドベレー、レッドショルダーの軍服に身を包んでいた。
「なんだその格好は……そもそも、体はどうしたんだ」
「肉体なぞ余にとっては飾りに過ぎぬ、勝負の場にふさわしき姿になったまでよ」


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆


 黒き獣人は軽く体を開き、拳銃を持った利き手を突き出す。
 魔神はゲーム画面に正対し、両手で拳銃を保持した。
 
 大型の画面には『Game Start』の文字が浮かび暗転――魔神遊戯が始まる。

 画面を覆わんばかりに表れる銃を構える男たち、先のプレイの優に2倍はいるか。画面を激しい明滅が包む……男たちは銃を構え、血しぶきを上げ消える。
 マフは画面右半分1Pに当たり判定のあるゾーンを的確にカバー、判定外で狙うのは高得点のボーナスキャラ黄色服のみ、射撃機動がメンタピの担当する画面左半分に向かう敵を、巧みに撃ち漏らすゲーム慣れた戦略でスコアを稼ぐ。
(黄色はそうそう取らせてもらねぇか、さすがに……何!?)
 黒き獣人の驚愕、その原因は魔神の構えにあった。左腕にて銃を保持し右指にて銃口を隠す、およそ銃を握るものにはありえぬ奇っ怪な様相。
 ――魔神遊戯流中目録、銃口隠し。
 指で銃口を隠すことにより画面判定を隠蔽、リロードを短縮し連射性を向上させる。通いゲーマーには許されぬ遊戯技である。
「お……おまえ、やり込んでいるな。ガンシューティングを!!」
「答える必要はない」
 画面が赤く明滅する、獣人の舌打ちが響く。
「ククク、動揺したかロストナンバー、脆弱よな」
「……ふん、得点はオレが上だ。ハンデとして丁度いい」
 魔神の挑発を黒き獣人はいなす。

 ――ステージ道中の8割が消化された。勝負は一進一退、得点ではマフが僅かに勝る、ライフはマフ2 メンタピ3でメンタピ有利……ステージクリアのライフボーナスを考えればどちらが有利とも言えない。

「メンタピさんよ、だいぶやるじゃねぇか……しかし、なんでぇこんなことしてんだ」
 顔は画面に正対しながら声だけをかける。
「カカカ、動揺を誘うか? 余は精神的動揺によるミスなどせぬ。……ククク、まあよい余は飽いているのだ因果にのった結末に。そなたらは稀に因果を超える、それが余の楽しみよ」
「何いってんだ」
「全ては座興よ、無駄口の時間は終わりだ勝負に専せよ」

 ――ステージは残り僅か、画面の攻撃は激しくなるが黒き獣人と魔神のテクニックの前には只の点数が現れているにすぎない。
(……点数はほぼ互角。ラストのライフ回復アイテムを取らねぇと負けが濃厚だぜ、当然奴もそこを止めてくるか)
 回復アイテムの出現位置に目押しするようにトリガーを引くマフ、だが画面にはランダムポップした青服兵士。
 折り悪いタイミング……マフの銃弾は尽きていた。
(これまでか)
 諦めの念が顔をよぎった。
 
 ――青服兵士が弾け飛び、マフのライフが回復した。
 マフの弾丸より僅かに早くメンタピの弾丸がライフアイテムを狙っていたのだ。

 画面に『Game Clear』の文字が点灯する。勝利したのは……僅差で1Pすなわちマフだ。

 遊戯施設は俄に湧いた、挑戦者の勝利に歓声があがる。
「運が良かったなロストナンバー、そなたの勝ちだ……願いをかなえようぞ」
 やや釈然としない表情を浮かべながら頷き話を促すマフ。

「余の知りうる限り、世界樹旅団は目的をもって竜刻を集めてはいない。但し、かの叢雲は特殊な竜刻を必要としていた」


Phase1 獣人の銃戯


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆


 先の戦いは、遊戯施設のギャラリーをわかせ一つの語り草となる。
 数人が獣人を囲み親しげに語りかけるが大部分の者たちは、あるべき場所に戻っていく。
 電子音と歓声、レバーが鳴らす筐体の音がつくる独特の喧騒。
 
 本日二度目の乱入者が遊戯施設の空気を打ち砕く。
 入り口の鐘が激しく鳴った。
 遊技施設内の視線が乱入者に集まる。
 視線の先にある姿は、ややきつすぎる感もあるがホストといっても通じそうな整った容貌の男。着崩したスーツと眼鏡の奥から見える怜悧な眼窩が筋者であることを感じさせる。
 インテリマフィア――一言でその人物を評するのであればこの言葉が適切であろう。

「酒もねえ接待役の女もいねえ、こんなシケた品揃えで遊興施設たあ笑わせるぜ」
 男は開口一番言い放った言葉、室内にいた誰もが思った。
(いやここゲーセンだし……)だがその心根を発するものは一人もいなかった、だって怖いし。
「ククク、口を開くや余の遊戯施設を愚弄するとは、カカカ愉快痛快、ならば述べてみよそなたの遊興を! 見合わぬ言葉であらばその命はないものと思え!」
 いや一魔神いた。
 インテリマフィア――ファルファレロ・ロッソは我が意を得たりとばかり答える。
「遊興施設と銘打っときながら酒もねえ女も出ねえ、お利口で退屈なガキ向けゲーセンが関の山なんざ笑わせる。俺と組みゃもっとでっかくできるが、どうだ」
「ククク、余がごとき収監者にはこの鳥籠が似合いとは思わぬか?」
 皮肉げに口の端を釣り上げる魔神、ファルファレロは革靴を鳴らし魔神の眼前に立つと100頁はある分厚い書面を叩きつける。書面のタイトルは『ターミナルカジノ事業計画書』。
「いいか、ここを起点にカジノをぶったてんだよ。ストリップバーとキャバレーを兼ねたとびっきり猥雑なやつをさ」
「資金はどうする、余のナレッジキューブは知れておる」
「俺の金がある。融資先のつてもあるぜ、ちっとばかしヤバイところだがよ」
「ホールスタッフは?」
「ダンサーも唾つけてあるぜ」
 魔神の問いに答える、ファルファレロ。その言葉は確かな熱を帯びている。
「取り分は応相談。壱番世界じゃ経営齧ってたからな……俺とてめェでターミナルにラスベガスを作るんだ」
 誇大妄想と言ってもいいだろう、真摯に受け止めるのはただ魔神のみであった。だが、言葉を紡ぐファルファレロの眼は輝いていた。

「ククク、カカカ、ハハハハッァーーー!!! 面白いぞロストナンバー。その言、そなたの願い聞き入れた。さあ、汝の願いにふさわしき対価と遊戯を述べるが良い」
 建屋全てを鳴らすが如き大音響を上げ魔神は嗤う。インテリマフィアは口に張り付いた薄笑いを拡げ応える。
「俺が敗けたら娘を好きにしな。館長とどっこいの幼児体型だが、サービスショット撮り放題だ」
 背広の懐から写真を取り出しちらつかせ、ゲスで外道な宣言をするファルファレロ。
「ククク、では余が勝利した暁にはそなたの娘にはダンサーにでもなってもらうとしよう」
「いいぜ、好きにしな」
 不敵な笑みを浮かべるファルファレロは、心の中で呟く。
(賭けるモノはでけえほうがやる気でるだろ) 

「だめです! そんないかがわしい施設をターミナルに作ることは認められません」
 格闘ゲームの前に座して様子を伺っていたアリッサが思わず立ち上がり叫ぶ。
「ガキはひっこんでな。こっからは18歳以下立ち入り禁止な大人の勝負の世界だ」
 食い下がろうとするアリッサをピンク髪の魔王が制する。
「アリッサー、第4弾の撮影時間だよ。……負けた分はキリキリ払ってよね」
「あ、えちょっと、エミリエ、ちょっとやめて、まだお話の途中」
「ダメダメ~、もう随分またせちゃってるんだから。アリッサの都合でスケジュールは遅らせられないんだよ」
 ピンク髪の魔王に引かれ、哀れな声と図書館長殿はフェードアウトした。

「興がそがれるわ、勝負方法を述べるがいい」
 引きずられる図書館長を侮蔑の目で見ながら魔神が吐き捨てる。
「全くだぜ……勝負方法は、シューティングでどうだ。つってもガキンチョがやるようなゲームじゃねえ。マンターゲットを実弾でぶちぬくクイックドロウだ」
「勝負は一発、マンターゲットを先にぶちぬいたほうが勝ちだ。銃はてめぇで用意しな」


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆


 ファルファレロの得物は、愛銃『ファウスト』
 メンタピの得物は、その魔術によって変質した銃型の竜刻

 軽い音の警告音がなった、マンターゲットが立ち上がる。
 ファルファレロは、白銀の拳銃『ファウスト』の触感が脳に伝わるより早く電光石火に引き金を引く。対する魔神が竜刻銃が火を噴く様を常人の眼が捕らえることもなかった。
 ――鉄と魔が弾ける音が響く。
 マンターゲットは倒れない。全く互角のタイミングで飛んだ弾丸は中空で激突し互いを弾き飛ばしたのだ。 

「分けか、……ロストナンバーよ如何にする?」
「仲良く一等賞なんってなあありえねえぜ、次の勝負はナンパ百人斬りでどうだ? 制限時間は30分、場所はゲーセン内限定。一人でも多く女にOK貰った方が勝ちだ」
「……よかろう」


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆


 獲物を探る野獣の気配を隠し、ターゲットの物色をはじめるファルファレロ。
(ガチゲーマーはだめだ、まずは壁の花になってる女からだな、暇してる女を狙えってのは鉄則だ ※但しイケメンに限る)
「よう嬢ちゃん、退屈そうじゃねえか? オレと一緒に遊ばねえか?」
(プライズの担当者にはさっき握らせておいた、女にレア人形を取らせていい気分にさせて。後は成り行きだ。 ※但しイケメry)
「嬢ちゃん上手いじゃねえか。ここよく来るのか? オレもたまに来てんだが一人だと寂しくてよ、今度来た時も一緒に遊びたいんだがどうよ?」
(決めの笑顔をかましてやりゃあどってことねえ、番号早速ゲットだぜ。 ※)

 練磨のテクニックで、ターゲットを補足しては次々と口説き落とすファルファレロ「千人斬りでも余裕だな」と内心嘯く。

 ――30分後
 勝負の終了を告げる音がなる。
 自信満々の顔つきで魔神と対峙するファルファレロ、その戦績は10人。3分に1回ナンパに成功という0番世界史に残る驚異の成績である。
 対して魔神メンタピの戦績…………0人。
「ククク、如何にロストナンバーと言えども魔神に懸想するものなどいないということだ。カカカ、良い勝負を選んだなロストナンバー……」
 尊大な割に少し寂し気な魔神。よく見ると右目にアオタンを作っている……エミリエに殴られたらしい。

「如何な勝負とはいえ結果は絶対。余は契約に応じそなたと共に夢追い人となるとしよう」
『これが契約の証である』
 差し出された魔神の手をファルファレロは固く握り締めた。
   

Phase2 アメリカンドリーム


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆


 ――遊興施設は万雷になっていた。夢を負いしものへの拍手喝采。しかしそれを認めぬものがいた。
 ――今宵生まれし遊技の魔……最凶の伝説が始まる。
  
 其が存在せしは、遊戯施設が最奥――ヘビーユーザーのために設えれた聖域。すべてのゲームが最高難易度に設定された死域。
 遊戯画面で繰られる人形は二つ、だが奇っ怪なことにそれの主は常ならぬ一人。  
「殆どのゲームはノーコンティニュークリア達成しちゃったし、後は縛りプレイでもして遊ぼうかしら」
 今まさに赤き竜を滅ぼせしものが、遊戯前に吐いた言葉である。

 白き魔――故郷の世界では幸せの魔女と称され、このゲームセンター『メンタピ』においては知らぬものがないヘビーユーザである。

 女は遊技台から立ち去り、拍手のなる中央に歩を進める。その歩みが進につれ拍手は水を打ったように静まり返った。
 純白のドレスに身を包む見目麗しき女には、相応しくない空気。魔女は一寸も気にすることなく知った顔を見つけると微笑み話かける。
「あら、ファルファレロさんにマフさん、お久し振りね。後で一緒にガンシューティングでもして遊ばない?」

――ゴクリ……誰かの喉がなった。

「ねえメンタピさん、私も一勝負よろしいかしら?」
 魔女の言葉が静寂に響く――空気が震えるように感じるのは、ここが運が支配する場であるからだろうか。
「このゲームセンター、治安が悪すぎるわ。幸せな可能性を秘めているのにこれじゃあ色々と台無しよ。……という事で、もし私が勝ったらこのゲームセンターの経営権を私に譲っては頂けないかしら? 安心なさい、貴方はアルバイトとしてたっぷりコキ使ってあげるから」
「ちょっとまちな、こいつぁ俺とここにベガスを作んだ。てめぇの願いは聞けねえぜ!」
 魔神よりも早く割って入るのは、夢追い人たるマフィア。
「ファルファレロ、我が契約者よ。勝負の機会は全てのものに平等に与える。……案ずるな余が勝てば良し、よしんば負けたにせよ汝との契約は有効よ」
 
 魔神は契約者を手で遮ると魔女に応じる。
「そなたの願いは聞き入れた。対価と勝負を述べるが良い」


「そうね……、あれなんてどうかしら?」
 小首を傾げ一寸の思案、白き魔の指差す先は大型の筐体。
――対戦型クイズゲーム「クイズ・ロストレアカデミー」最大で4人対戦できるバラエティクイズゲームだ。
「4択クイズ31問勝負で正答数が多いほうが勝ちというのは如何かしら?」
「4人用のようだが?」
「そうね、パートナーをつけるというのはどうかしら?」
「よかろう、では対価を述べるがよい」
「もし私が負けたら…そうねぇ、1日だけ貴方の言う事を何でも聞いてあげるわ。えぇ、何でも。約束は守るわよ。魔女の約束は絶対なんだから」
「ククク、よかろうプライズ機の景品が増えることになるな」


☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆


 「クイズ・ロストレアカデミー!」
 アニメ調の声でゲームの開始が呼ばれる。

 幸せの魔女とペアを組むのは、借金館長アリッサ。魔神メンタピとペアを組むのは、ピンク髪の魔王と呼ばれた女エミリエである。

「第1問!……正解です!」
 交互に正答を重ねるのはアリッサとエミリエ。
 辛うじて今までの勉強が役に立ったか史学ではアリッサ、芸能音楽ではエミリエ有利で進む。

 ――場が動いたは、得点6-6で迎えた13問目。

 ここまで魔神は腕組みをし、魔女は微笑みを浮かべ回答する素振りすら見せていない。
「女……、パートナーは蛇足であったな」
「えぇ、そうね、ごめんなさい」 
 僅かに交わした言葉は、共にパートナーを嘲るものである。

「第13問! 194」
「ピポーン! 正解です」
 正答者は今まで動きを全く見せなかった幸せの魔女。
 画面に表示された文字はたったの三文字……、問題の意図すら取れぬその間で幸せの魔女は正解を押したのだ。
「このゲームに出てくる問題数は全部で7000問。毎日足繁く通っていれば、それら全てを丸暗記するだなんて造作も無い事だわ」
 貴方にこれができる?とばかり目を細め猫のように笑う魔女。立て続けに20問までの正解を奪った。

 ――14-6 体勢は決したかに見えた。

「魔女よ……、そなたは奇跡のものと思っていたが常識の住人に過ぎぬか……詰まらぬ」
「だ……、ピポーン! 正解です」
 正答者はメンタピ……問題文すら表示されていない、いや答えすら……。
「真似できないからランダムで答えたの? 運が良かったみたいねいつまで続くかしらね」
 強気な言葉の裏腹に一筋の脂汗が肌を伝う。
「ククク、そなたは分かっておろう……これが運命牽引の力、いつまで続く? 余が勝つまでよ」
 
 もはやゲームは終わった。問題も答えも出ぬクイズを誰がゲームと呼ぼうか――
 ランダムで割り込もうにも魔神の反応は人間のそれではない、解答判定が発生した時には問題に答えている。
 
 ――14-15 メンタピリーチ
「魔女よ、そなたの負けだ……約定は覚えておろうな」
 無慈悲な処刑を宣告する魔神の表情が凍りついた。

 ――魔女は笑っていた、心の底から幸せそうな笑顔を浮かべて
「いいわ、あなた私を不幸にするって認めてあげる…………『私に幸せを返しなさい』」

 何かがショートする音が聞こえた罵声が響く。ジャック・ポットを出したスロットがコインを吐き出すことなく、突然止まった。
 断続的にショート音が聞こえる……、遊戯施設は叫喚地獄と化した。
 ショート音が止まると、今度は電話の呼出音と振動音が場の支配者となった。
 ファルファレロは自身の携帯もまた震えているのに気づき手にとった――『メール一件、タイトル:外道野郎、私を勝手に賭けるな』
 マフ・タークスもまた不幸の波から逃れることはできなかった――『メール一件、タイトル:つまみ食いの件で話がある 添付:あり』
 
 物理的な圧すら感じさせる呪力――幸せの魔法。
 遊戯施設はいまや幸せを狩られたものの抜け殻が転がる死地であった。

「第30問! 西暦1937年時点で日本で最も標高の高い山は?」
 カチカチとボタンを押す音が響く中、久方ぶりに問題文が最後まで読まれる。
「ピポーン! 正解です」
 正答者は幸せの魔女。
「どうしたのかしら? ボタンが壊れたの? 運が悪かったわね」
 幸せの魔女は笑みを浮かべる――「笑みとは本来攻撃的なものである」――幸せの魔女は今まさに獲物を喰らう猛獣なのだ。

 決着――16-15 幸せの魔女の勝利


Phase3 幸せの魔法

☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆ メ ☆ ン ☆ タ ☆ ピ ☆

 
 戦いは終わった。
 ゲームセンターメンタピの経営権は幸せの魔女に移譲され、よりクリーンな環境での経営が約束される。
 だが、そのゲームセンターには秘密の入口があることが一部の人間に知られていた、猥雑感あふれるカジノ――ファルファレロ・ロッソ新たな夢の出発点である。
 
 魔神メンタピは二つの契約を果たすためその身を二つに裂き、魔神メンと魔神タピとなってそれぞれのロストナンバーと協力したという。


――休題

クリエイターコメント近場にゲーセンがないと全く行かなくなりますね、大学時代が嘘のようです。
竜星が堕ちる刻の脇道、俺の人生も脇道WRのKENTです。

今回は、メンタピさんが見事捕獲されてしまったので一話追加と相成りました。

なお本シナリオではネタ成分が多くなっておりますので適当にネタ元を探して頂ければ幸いです。
二丁拳銃とかスコープ隠し一人二人プレイあたりは、昔ゲーセンでよく見た光景ですね。自分もやりました。
といか三名とも、ガンシューティングに言及するのは何かあったのだろうかと思った次第。そして二名がゲーセン欲しいという……そんなにゲーセンが好きかーーー。


○本編について
1)今回最も恐れていた行為は他のWRさんが管理するNPCさんのパンツの色を聞かれることでした。クランチ程度なら運営に聞きに行ったんですけどね。さすがにセクハラで首になりたくはないのです。
2)ピンク髪の魔王はもうちょっと頑張りたかったですが文字数オーバーです……。
3)内容的にソロ3個とかにしたほうが良かったかもと反省。
4)区切り文字が一番頑張りました。
5)扉がカランコロンなってるのは大学近くのゲーセンのイメージです

基本はギャグ路線なので細かい矛盾はスルー頂けると大変嬉しいです。

それではいつもの個別コメントです

インテリマフィアさん:
アメリカンドリーム過ぎです。ヤーさんなのにすげー目をキラキラさせながら夢語ってそうなイメージです。
ナンパシーンはWRの力不足で微妙かもしれないのでごめんなさい。だってイケメンじゃないし
ああ、脱皮はしないとも

山猫さん:
猫はジャスティス
真面目に質問してくれて本当にありがとうございます。解答はネタバレ込でお届けです。
メンタピのコスプレは、マフさんが山猫の顔であることにかけて山猫部隊リボルバー・オセロットのつもりです。

幸せの魔女さん:
……なんかアカギがいんだけど……鷲巣様死んでね?
幸せの魔法はこんな感じでいいのかなーとかなり妄想しながら書かせて頂きました。
戦略1についてはメンタピも使える技なので、それを超える手段として設定を読ませて頂いた次第です。

以上です、それでは別の機会にお願い致します。
公開日時2012-05-13(日) 18:00

 

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