ふと気配に気づくと、つぶらな瞳に見つめられている。 モフトピアの不思議な住人――アニモフ。 モフトピアの浮島のひとつに建設されたロストレイルの「駅」は、すでにアニモフたちに周知のものとなっており、降り立った旅人はアニモフたちの歓迎を受けることがある。アニモフたちはロストナンバーや世界図書館のなんたるかも理解していないが、かれらがやってくるとなにか楽しいことがあるのは知っているようだ。実際には調査と称する冒険旅行で楽しい目に遭っているのは旅人のほうなのだが、アニモフたちにしても旅人と接するのは珍しくて面白いものなのだろう。 そんなわけで、「駅」のまわりには好奇心旺盛なアニモフたちが集まっていることがある。 思いついた楽しい遊びを一緒にしてくれる人が、自分の浮島から持ってきた贈り物を受け取ってくれる人が、わくわくするようなお話を聞かせてくれる人が、列車に乗ってやってくるのを、今か今かと待っているのだ。 ●ご案内このソロシナリオでは「モフトピアでアニモフと交流する場面」が描写されます。あなたは冒険旅行の合間などにすこしだけ時間を見つけてアニモフの相手をすることにしました。このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、・あなたが出会ったのはどんなアニモフか・そのアニモフとどんなことをするのかを必ず書いて下さい。このシナリオの舞台はロストレイルの、モフトピアの「駅」周辺となりますので、あまり特殊な出来事は起こりません。
「あまり縁のない世界だが、元の世界に戻る前にと少し気分転換に来てみたが」 本日は、アニモフたちが「はつめいをしてみたいの!」の依頼に、まさに得意部門ではないかとチケットを手にいざ、アニモフの世界へ! とシュマイト・ハーケズヤはやってきた。 ターミナルでは孤児院の技術科教師として幼い子どもたちに発明の楽しさを日々教えているのでアニモフたちの相手も務まると思ったのだが、これがなかなかに難しい。 もふもふでふわふわのアニモフたちは発明の材料として御菓子を持ってくる始末で、発明とはなにかを一から教えることとなった。が、その結果的に木製の動くおもちゃを作って「たのしいー」と言わせることができてささやかな勝利と達成感が柔らかな胸に広がる。 「友人にかわいい服も作ってもらった事だしな」 鉄のようにかたい口調のシュマイはいつもの動きやすい白のドレスシャツ、ズボン、藤色のベスト帽子の服装――ではなかった。 大切な友人のくれた服である。 かわいい服がほしいと要望して、作ってもらえた素敵で、大切な服。これでいろんなところに着て思い出を作ろうと決めた。 ベンチに腰かけていると、ふと視線を感じて振り返ると少し離れた樹の影にふわふわの白い毛が見えた。 うむ、アニモフか? 「なにをしているんだ」 びくりと震えたアニモフがころりと転がった。 「む」 ころころころー。 シュマイトの前に転がったアニモフは、まだ子供らしく、シュマイトの膝くらいの大きさしかない。 白い毛玉と思ったのは、なんとお尻だったらしい。すちゃと勢いよく立ち上がったアニモフの可愛らしい顔があらわれた。黒々とした瞳に頭の右横には小さなピンクのリボンがつけている。 「やだー。葉っぱがついちゃったもふー!」 くしくしくし! 両手でふわふわの毛を整える。すると、ふわふわだけではなく、艶やかさと、さらさら、触れたらさぞや心地のよさそうな毛だと判明した。 「どうしたのかね」 「え、あの、これなおせるもふか?」 アニモフが差し出したのは木製のブラシで、手に持つ部分が折れてしまっている。 「お気に入りもふ」 「これは、専門外なのだが」 「無理もふ?」 「……いや、待て。科学とは困っている者を助けるためにあるのだ。貸してみてくれ」 数分後。 壊れたブラシと手に持つ部分にネジをいれて、折り畳み式として見事に復活した。 「すごいもふ! ありがとうもふ、ありがとうのダンスするもふ!」 ブラシを両手にもって羊の女の子はきゃきゃと踊りだしているのにシュマイトは目を細めた。全身で嬉しさを表す姿は無邪気で可愛い。 わたしは幼い頃より研究一辺倒で、ぬいぐるみで遊んだ記憶などないが、眺めるのは嫌いではない。 不思議な生き物のアニモフのダンス姿はなんだかこちらまで踊りだしたくなる陽気さ。 羊のアニモフが手を伸ばしてダンスに誘ってきた。 「わたしも踊るのか?」 「モフ!」 「……よし!」 シュマイトは両手を、小さな手に重ねた。 くるくるくる。 二人で優しい陽射しのなかダンスする。 これも心境の変化かな? そういうものが好きな友人の影響か、あるいはわたしの中に元からそういう要素が眠っていたのか 「ううむ、楽しいダンス中だというのにいかんな。なんでも理屈を求めるのは悪い癖かも知れんな。こうして体感することで得るものもある、いや、また理屈をこねてしまった」 もふもーとアニモフが楽しげに笑うのにシュマイトは、理屈を横に置いて踊ろうときめて微笑んだ。 ダンスに疲れると葉っぱをコップにして近くの池でくみ上げた甘いジュースで喉を潤した。 「体を動かしたあとだととってもおいしいな」 「よかったもふ!」 「……周りに誰もいない事だし……もふもふというのを、試してみようかな」 以前からアニモフたちのもふもふはターミナルでも有名で、シュマイトも当然気になっていた。 「触っても、構わないだろうか?」 これは研究、研究のひとつだ。なにももふもふが気になっているわけではないぞ。断じて! 「いいもふよー」 微かに震える手でシュマイトは触れる。 もふん。 柔らかいのに、弾力がある! そっと顔をつけてみると、日の光のぬくもり 「良い感触だ。実験で徹夜をする事も多いので何だか眠くなってしまう」 うとっと眠りが押し寄せてくるのに、はっと我を保つ。 しかし。 これは、 ――悪くない。 ああ、ふわふわで気持ちいい。 暮らしが落ち着いたら、こういうぬいぐるみの一つも部屋に置いてみるか? 少し子どもっぽいかな? ハイユにもからかわれそうだし、いや、だったら枕か何かにした方が実用性も兼ねていて恥ずかしくない気がする。……だったら、感触が良くて愛玩性のある枕(この考えにいたるまでコンマ001秒) 「そうだ、これは発明だ!」 拳を握りしめて宣言すると、視線を感じた。 「ん?」 「さらさらもふ、ふわふわもふ」 「さらさら?」 視線を辿ると、アニモフの目がじぃと見つめるのはシュマイトの髪の毛だ。ブラシを大切にしていることからこの子は自分の毛――女の子でいう髪の毛をとっても大切にしているようだ。 「ん、髪? ああ、わたしはこういう髪質だよ。触ってみるかい?」 「もふ!」 女の子は嬉しそうに手を伸ばして触れる。 ふわ、と風にくすぐれるような感触は心地がいい。 「くもみたいにふわふわもふ! 私の毛とおんなじもふ! すごいもふ! いっぱいブラシしてふわふわにしたもふ?」 「そうか、ふわふわか」 ハイユがしてくれるので自分で整えることなんてほぼなかったので気にしたこともなかった。 ふわふわなのか。 自分でかるく摘まんで撫でてみる。確かにふわふわだ。 「ふわふわ! かわいいもふ!」 「ふわふわしていてかわいい?」 シュマイトは目をぱちくりさせる。 「そ、そうかね?」 かわいい、という単語についどきまぎしてしまう。 「くるーんとなっていて、ふわふわさらさらで、ちょっと負けたもふ! 先生のおめめブルーできらきらしておっきくて、ふわふわさらさらの髪の毛がとってもぴったりもふ! お洋服ともあっていてかわいいもふ」 かわいい、なんてあまり聞き慣れない言葉が頭のなかをエコーする。なんとも、心がくすぐったい言葉だ。悪くない。 「服は友人のデザインだから、彼女のおかげかな」 「お洋服が先生のかわいさをつよーくあぴーるしてもふよ!」 頭でアニモフは嘘などつかないなんて理屈は、きらきらとした憧れの瞳と嬉しそうな声に吹っ飛んでしまった。かわりに胸が弾むように喜びが込み上げてきた。 「……そうか、わたしにもかわいい要素はあるのか」 シュマイトははにかんだ。 「少し、嬉しい」 「もっと髪の毛、大切にするもふ!」 「ん? それは」 アニモフが差し出したのは先端に小さな硝子細工の青い鳥がついた髪留めだ。 「似合うと思うもふ」 「しかし、こんな素敵なものを」 「つけてみてもふ!」 笑顔で促されて、そっと右髪のひと房につけてみる。 「かわいいもふ! 素敵もふ!」 金平糖のようなきらきらの言葉にシュマイトは口元を綻ばせる
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