クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-9359 オファー日2011-03-10(木) 15:22

オファーPC コレット・ネロ(cput4934)コンダクター 女 16歳 学生
ゲストPC1 オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072) ツーリスト 男 20歳 冒険者

<ノベル>

 空港から一歩外に踏み出すと、むわ、という熱気がコレット・ネロとオルグ・ラルヴァローグを包み込んだ。
「暑いね、お兄ちゃん」
 ぱたぱた、と手をひらひらと振りながら、コレットは言う。
「暑いな、確かに」
 オルグも、ふさふさの鬣を撫でながら言う。
 自慢の毛並みも、今は少しだけ困ってしまう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
 オルグの困ったような表情に気付き、コレットが尋ねる。オルグは小さく笑みを漏らし、ぽふ、とコレットの頭を撫でる。
「大丈夫だ。さあ、行くぜ」
「うん」
 タクシー乗り場から、タクシーに乗り込む。
「やんばるの森へ、行ってくれ」
 二人を乗せたタクシーが、ゆっくりと進み始めた。暫く車に揺れていると、コレットが小さく欠伸をした。
「寝ていてもいいんだぜ、コレット」
「でも」
「大丈夫、着いたら起こしてやるから」
 な、とオルグが言う。コレットは「それじゃあ」と言って、そっと目を閉じる。飛行機の移動が、思いのほか疲れたのであろう。
 ラジオから、明るい音楽流れてきた。心地よい空間と音に、オルグもいつしか眠り始めるのだった。


 タクシー運転手から「着きましたよ」と告げられ、オルグとコレットは目を開けた。
 料金を払い、荷物を持って外に出る。また、むわ、とした空気に包まれる。
「……お兄ちゃんも、寝ちゃってたんだね」
「……ああ。気持ちよかったからな」
 ぼんやりとした頭で二人はいい、顔を見合わせて笑い合う。ようやく、頭が冴えてきた。
「さあ、行くか」
 オルグはそう言い、目の前に広がる森を見つめる。青々として、見るからに涼しそうだ。
 二人は揃って、亜熱帯の森へと足を踏み入れる。照葉樹林の森は、風が吹くたびにさわさわと心地よい音を生み出す。むわっとする熱気も、涼しいものへと変えてしまう。
「綺麗だね」
 コレットが、森の中を見回しながら言う。
「ああ。……あ、そこ、気をつけるんだぞ」
 オルグは足元に広がる木の根を見て注意を促す。コレットは「うん」と頷き、それをひょいと跨いでいく。
「あ、あれ。ヤンバルクイナじゃない?」
 コレットが頭の上の鳥に気付き、指差す。確かに、くちばしが赤い。
「本当だ。綺麗だな」
「それに、可愛い」
 ほわ、とコレットが笑う。オルグは嬉しそうなコレットを見て、自らも笑みを浮かべた。
「ここにしか居ない鳥みたいだな。得した気分だ」
「うん。歩くのは大変だけど、やっぱり歩いてよかった」
 二人が話していると、ヤンバルクイナが木の枝から飛び立った。
「もっと見てたかったな」
 名残惜しそうなコレットに、オルグは「まあまあ」と宥める。
「まだまだ先は長いんだぜ。また見ることができるだろうさ」
「それもそうだね」
「こういうのも、縁だからな」
 オルグはそういうと、また歩き始める。それにコレットも続いていく。
「大分歩いてきたが、疲れてはないか?」
「まだ大丈夫。景色も綺麗だし、疲れを感じないの」
「それは良かった」
 頷き、歩く。そうして二人の目の前に、巨大な木が現れた。
 樹齢130年の、イタジイの老木だ。
「……凄い」
 その堂々とした佇まいに、コレットはそれだけ漏らして立ち尽くす。
「ああ、凄い」
 オルグも、それだけ口にした。
 青々と茂る、無数の葉。ざわざわと風に触れる木の葉。きらきらと漏れる光。
 大きく広がり伸びる枝から枝に、鳥たちが飛び交う。
 言葉にする必要は何もなく、ただそこにある。
 二人は呆然とイタジイの老木を見つめた後、静かに顔を見合わせた。
「……そろそろ、行くか」
「……うん」
 ゆっくりと、二人は揃って歩き始める。ずっと見ていたいような気持ちに駆られたが、ずっといるわけにもいかない。
 しばし無言で、二人はもくもくと歩いた。イタジイの老木が、頭に焼き付いて離れない。
「あ」
 もくもくと歩いていると、先にオルグが声を出した。
 森を抜けたのだ。
「わあ」
 目の前に、真っ青な海が広がっていた。
 マリンブルーという言葉がぴったりはまる、美しい海。
「凄い……本当に綺麗!」
 コレットは思わず駆け出す。
「コレット、急に走ると危ないぜ」
 オルグも慌ててコレットを追いかける。
「ねぇ、お兄ちゃん。海に潜ろう。綺麗な魚が見たいわ」
 興奮気味に言うコレットに、オルグは顔をほころばせつつ頷く。
 そうして、数十分後。二人は水着に着替えて海へと向かった。コレットは、水着の上にボレロを羽織っている。
 オルグに、気を使わせないために。
「じゃあ、行くぜ」
 オルグがいい、コレットは頷く。
 二人は同時に、綺麗な海へと潜った。透明度が高い為、太陽の光がきらきらと海中に降り注ぐ。
 亜熱帯気候である為、海の中を泳ぐ魚は極彩色。ひらひらと優雅に海中を舞っている。
 コレットはそっと魚に手を伸ばす。魚達は、コレットの指をひらりと交わし、また海中を泳ぐ。
 オルグも、同じように手を伸ばす。ゆらゆらと水中を毛並みが揺れ、珊瑚礁と間違えた魚たちが体を休める。
 思わず渋い顔をするオルグに、コレットは笑みを漏らした。
 十分に満喫した後、二人は海から上がり、砂浜に座る。
「疲れたか? コレット」
「ううん、まだ平気。もっと遊びたいわ」
 にこっと笑って立ち上がるコレットだが、どこか疲労の色が見える。
「じゃあ、のんびり海岸でも歩くか」
 オルグはそう言いながら立ち上がり、コレットに向かって手を差し伸べる。
「うん!」
 コレットは、にっこりと笑いながらその手を取った。
 砂浜を、ざくざく音をさせながら二人で歩く。
「見ろ、コレット。蟹がいるぜ」
「あ、本当」
 ちょこちょこと歩く蟹を見つけ、二人は足を止める。
「こっちには、綺麗な貝がある」
 コレットはそう言いながら、貝殻を手に取る。きらり、と光に反射して光っている。
「お土産にすればいい」
「うん。……じゃあ、こっちはお兄ちゃんのね」
 二つ貝殻を取り、一つをオルグに手渡す。
「俺の?」
「私達の、思い出となるように」
「……そうだな、有難う」
 コレットの頭の中に、いつか別れる日が来る覚悟がいつもある。それが、すぐなのかずっと先なのかは分からない。
 だが、だからこそ一つ一つの思い出を大事にしたかった。
「お兄ちゃん、あの」
 コレットが何か言おうとしたその時、カシャ、と言うシャッター音が響いた。見れば、旅行者達が美しい海をバックに写真を撮っている。
「私、カメラ持ってきているの。撮ってもらおう、お兄ちゃん」
 コレットはそう言って、持ってきたカメラを手に、旅行者達へ話しかける。二つ返事で了承され、オルグとのツーショットを撮って貰った。
「写真、印刷したら渡すね」
「ああ。楽しみにしてるぜ」
 オルグがそういったところで、グー、というお腹の音が響いた。思わず二人は顔を見合わせて笑い合う。
「着替えて、メシでも食うか」
「うん、賛成」
 二人はそう言って、まず水着を着替えた。そうして、近くにあった食事処へと向かう。
「お兄ちゃん、何頼む?」
「そうだな……やっぱり、沖縄と言ったらゴーヤーチャンプルーじゃないか?」
「それもそうだね。お兄ちゃん、苦いのは大丈夫なんだ」
「おう。コレットも、大丈夫みたいだな」
「うん。あ、それと、ソーキそばも食べたいな」
「だったら、サーターアンダギーも注文しようぜ」
 二人はわいわい言いながら、食べたいものを注文していく。
「沖縄、食い尽くす勢いで食べてやるぜ!」
 意気込むオルグに、コレットは笑う。
「私も、負けないように食べないとね」
「そうだぜ、コレット。一緒に食べまくろうぜ」
「うん!」
 良い匂いのする食事たちが運ばれてくるまで、二人は沖縄食い尽くしの意気込みを語り合うのだった。


 食事処を出て、暫くゆったりと海岸を歩く。徐々に、日が暮れてきてしまった。
「もう、日が沈むんだね」
 コレットが、赤くなりかけた太陽を見つめながらぽつりと言う。
「時間、あっという間だったな」
 オルグは頷く。マリンブルーの海が、徐々に赤く染められていく。
「お兄ちゃん」
 コレットはそう言って、じっとオルグの眼を見つめる。
「私、昼間に言いかけたことがあるの」
「ああ」
 オルグは、思い当たる。
 貝殻を拾った時の事だ、と。
「私ね、お兄ちゃんの事が大好きだよ」
 コレットは静かに微笑む。
 頭の中から離れない、いつか来る別れ。こうして一緒にいるオルグとも、いつかは別れが訪れる。
 だからこそ、伝えたかった。大好きだと、目を見て言いたかった。自分の事を忘れないでいて欲しかったから。
「もし、離れ離れになっても……私の事、忘れないでくれたら……嬉しいの」
 かすかに震えている手の中には、昼間拾った貝殻がある。
 まるで、それがオルグとの繋がりのように。
 オルグはゆっくりとコレットに近づき、ぽん、と優しく頭を撫でた。
「俺は忘れないぜ、コレットの事」
「本当?」
「忘れるわけ、ないだろう?」
 ぽんぽん、とコレットの頭を撫でてやる。
「こうして一緒に沖縄に来て、森を歩いて、老木を見て、海に潜った。こんなに盛りだくさんの事を、やったんだぜ?」
「沖縄料理を、食べ尽くそうとしたしね」
「そうそう。そして、こうしてお土産だってある」
 オルグはそう言って、ポケットから貝殻を取り出す。コレットがくれた、きらりと光を反射する貝殻だ。
「……えへへ」
 それを見て、コレットは笑って貝殻をぎゅっと握り締めた。
 胸の奥が暖かく、くすぐったい。
 貝殻を持つ手から、震えも消えてしまった。
「じゃあ、帰るか。この風景を、しっかりと焼き付けてな」
 オルグはそう言い、貝殻をポケットにしまいなおしてから、手をコレットに差し出す。
「うん……!」
 コレットは、差し出された手をぎゅっと握り返した。
 強く、強く、ぎゅっと。
 今日と言うこの日を、刻み付けるかのように。

<温かな光に包まれつつ・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2011-04-14(木) 21:40

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル