クリエイター北里ハナ(wafm2045)
管理番号1249-9942 オファー日2011-04-03(日) 01:53

オファーPC アインス(cdzt7854)ツーリスト 男 19歳 皇子
ゲストPC1 コレット・ネロ(cput4934) コンダクター 女 16歳 学生
ゲストPC2 雪峰 時光(cwef6370) ツーリスト 男 21歳 サムライ
ゲストPC3 ツヴァイ(cytv1041) ツーリスト 男 19歳 皇子

<ノベル>

●きのこのこのこ
「美味しいキノコ?」
「モフトピアにでござるか?」
「えー何ソレ。なんか甘ったるそー。菓子と間違ってね?」

『モフトピアのとある島には美味なキノコが生えている』
 
 アインスが持ってきた話にコレット、時光、ツヴァイは少々面食らった。
 だって、皆でお茶をしていた所に、急にキノコの話だ。
 ひょっとして、壱番世界で時に人間関係を真っ二つにしてしまうとかしまわないとかいう、二大派閥のあるチョコレート菓子の事とかじゃないよなと念を押すツヴァイにアインスはやれやれといった表情であからさまに溜息をついてから言う。

「文句をつけるしか出来ないのか?」
「んだって……でも、モフトピアだろ?」
「そのモフトピアで散々気の緩んだ間抜け面で遊んでいたというのに酷い言い草だな」
「お前の言い草のがひでーよ!」
「君は司書の言葉を疑うのか? わざわざ我らに教えてくれたというのに」
 兄ではない善良な少女の事を引き合いに出されてツヴァイは口ごもる。
 それに、真偽云々よりも、そろそろどこかに出かけたいなと思っていた一同には丁度良い話である。

「うーむ。真偽を確かめるには探しに行くのが一番でなかろうか?」
「そうね、モフトピアはとっても楽しいところですもの。素敵なキノコだってあるんじゃないかしら」
 ふわりとコレットは微笑む。
「……だな。みんなで探しに行こうか?」
「みんな?無理して来なくても構わないのだが」
「探し物には人が多い方がいいでござろう」
「そうだわ。みんなで行きましょう」
「じゃ、出発ー!!」
 そうと決まれば、みなの動きは早い。手早くその場を片付けると、駅へと向かった。

「茸はどのような味をしているのでござるか?」
 モフトピアまでのロストレイルでの一時。
 コレットが焼いたお菓子を食べながらくつろいでいると、ふと時光が思い出してアインスに尋ねる。
「そこまでは聞いていないが」
 聞いていたとしても、自分が食べたことのない食べ物の味を表現するのはなかなか困難だ。
「とっても美味というくらいですものね……」
「美味いキノコかぁーどれだけ美味いんだろうな?」
 コレットとツヴァイも一緒に考えはじめる。

「松茸のようなものでござろうか?」
「あれは味より香りの方が強いものだし……どうなんでしょうね?」
「どうやって食ったらいいのかなー焼き茸?土瓶蒸し?」
「よく土瓶蒸しなんて調理方法を知っていたな」
 ひどく感心したというような調子でアインスは言った。声色も表情も、全てが一流の役者も真似をしたいと思うくらい素晴らしい所作だった。
当然、ツヴァイをおちょくっているのである。直接的でないので、他の二人には注意や非難がしづらい。
 ツヴァイもそれがわからぬ程でない。何せ長い付き合いだ。 
「どんだけ馬鹿にしてんだよお前っ……」
「まあまあここで険悪になることもなかろう。他にどんな調理法よいでござるか?」
 時光が口論になる前にさっと話題を振る。
 あーでもないこーでもないと調理方法を話し合う。

「キノコご飯?」
「丸焼き?」
「ソテーはどうだ?」
「キノコオムレツはどうかしら?」
「おぉ!」
「コレットのオムレツなら味が保証されているな」
 ふわふわのキノコオムレツ。
 もぐもぐとコレットの美味しいお菓子を頬張りながら、コレットが作ってくれるであろう素敵なキノコオムレツを思い浮かべる。
「いいなそれ!」
 想像だけでけっこうな幸せ気分になれたツヴァイは満面の笑みだ。
「そうと決まれば」
「たくさん取れるといいわね」
「ん? そろそろ着くようでござる」
 時光の言葉に合わせるようにロストレイルは汽笛を鳴らし、ゆっくりと速度を落としていった。

●きのこのこのこどこにある?
 
 モフトピアについた一行は、美味しいキノコの情報を求めるべく、適当なアニモフを探す……までもなくアニモフは見知らぬ旅人達に興味津々で、ポフポフと足音を立てて近づいてきた。

「こーんにーちはー」
「こーんにーちはー」
「こんにちは。ご機嫌いかが?」
 のんびりと間延びした口調で挨拶をしてきたアニモフに挨拶を返す。ツヴァイがちょっぴりつられて間延びする。それにアインスが少々小馬鹿にしたような表情を浮かべたりしたが、幸いにも誰も気付かなかった。
「とってもごきげんなのー」
「それはよかったわ」
「ありがとーおんなのこー」
「なーなー、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ?」
「美味しい茸の話を聞いたことがござるか?」
「きーのこー?」
「そう、キノコ」
「きいろのきのこー?」
「黄色?」
「黄色いのか?」
「いや、詳しい事は聞いていないな」
「美味しい黄色のキノコがあるの?」
 コレットが尋ねると、アニモフはコクコクとうなずいた。
「きいろきのこーおいしいのー。しあわせにこにこー」
「とってはーまっしろー。おしりがまた黄色なの!」
 どうやら、かさの部分は黄色で軸の部分が白。石づき部分が黄色になっていると言いたいらしい。
 アニモフは両手をハンドボールを持てそうなくらいの幅で開いた。
「こーんなのやー」
 そう言いながら両手の幅を狭めていき、ついにはほとんどくっつきそうなばかりになった。
「こーんくらいのもあるのー」
 どうやらサイズはバラバラといいたいらしい。
 色々と話を聞いてみる。このアニモフの独特な表現方法の解読に少々手間取ったが、大きいのは歯ごたえ抜群、小さい奴はぎゅっと味が濃縮されているらしい。
「あとねーちゃいろのもみどりのもあるの」
 茶色のきのこもまあまあ美味しいらしく、緑のきのこは何にも味がしないけど、ネバネバしているそうだ。
「あっちの森にたくさんあるんだって。よくメイがったっくさん集めてもってきてくれるの」
「色々ありがとう」
「そんじゃ張り切って探すかー!!」
「あ、まって!」
「負けていられないでござるな」
 教わった森へと駆け出すツヴァイに慌てて追いかけていく二人。

「全く……」
 走っていった弟に盛大に肩を竦めてから、ゆっくりと歩いて追いかけようとしたところで、まってとアニモフがアインスの裾を引っ張った。
「まだ何か?」
「あのね、あのね、あかいのはたべちゃだめー」
 ぱくっとキノコを食べるフリをするとぱたりと倒れる素振りをアニモフがしてみせる
「毒茸か? それは気を付けないと……」
 万が一そんな茸を自分やコレットが食べてしまったら大変だ。が、自分達以外が食べる分にはどうでもいい事だ。
 アインスの口元が緩む。
「本当に色々と感謝する。気を付けないとな……」
「きをつけてねー」
 アインスの心の内など知るよしもないアニモフはぶんぶんと手を振ってアインスを見送った。

●きのこのこのこここにある?

 一同は軽快に森の道を進む。
 きっちりと整備された道はなかったが、森は人が歩くのに困るほど荒れていなかった。すっかりピクニック気分だ。
あちらこちらに、花は咲き乱れ、食べられそうな木の実や果物は豊富に実っている。ただ、キノコは見あたらない。

「コレット、これ美味しいぞ。食べる?」
「ありがとう」
 ツヴァイは小さな赤い果実を念の為にちょっと囓ってみて、痺れなどを感じない事を確かめてからコレットにも渡す。
「たくさん素敵な果物が実ってるわね。キノコもきっと素敵な味ね」
 もぐもぐと果実を飲み込んでからコレットは笑う。
「かたじけない。ツヴァイ殿。あぁ、きっとそうであろう。楽しみでござるなぁ」
 時光も果実をわけてもらいつつ、コレットの足下に落ちていた大きな枝を振り払ってやる。
「あ、お前にもやるよ」
「……」
 あからさまに熟していない緑色の果実を兄に渡すツヴァイ。当然弟を睨み付けるアインス。
「……少しは頭を使えないのか」
 私のようになと、小さく呟く。
「あ?」
「……気持ちは受け取っておくが、今は食べたい気分じゃない。ツヴァイ、君が食べるといい」
 にっこりと最上級の微笑みと共に緑色の果実をツヴァイの口に突っ込んだ。
「え、もがっ! すっぱぁっ!!」
「だ、大丈夫?」
「コレット、笑ってるよ……」
「ごめんなさい。はい、お茶が入ってるわ」
 あまりの酸っぱさにゆがんだ顔があまりにすっぱそうだったもので、思わずコレットも笑ってしまった。
コレットから受け取った水筒のお茶を飲み込みながらも、情けない顔をするツヴァイにまた一同は笑うのだった。
 
 そして、また道を進む一行。時折、倒れた倒木などに道を塞がれていたが、風斬が難なく切り払う。

「ありがとう、時光さん」
「すっげーよなー」
「大した事じゃないでござるよ?」
「一緒に来てくれて本当によかったな」
「本当だな。どこかの役立たずとは大違いだ」
「……」
 あからさまに自分の方を見られたが、少し大人になってツヴァイは話題を逸らす事にする。
「どこにあるんだろうなぁキノコ。キノコってもっとじめっとしたとこにあるもんじゃないっけ?」
「モフトピアってじめっとしたイメージからは遠いものね」
「ふわふわもこもこって感じだもんな」
「……菌糸もふわふわもこもこしているといえばしてるが」
「菌糸だらけ……それは少々嫌でござるな」

 そうこうしている内にモフトピアの夜も更けていく。

 月も星も一同を明るく照らしてはいるが、それなりに周りは暗くなり、視界が悪くなってくる。
 気付けば、周囲の光景が少しずつ様子を変えていく。モフトピアにしては木々が鬱蒼と覆い茂っているし、ガサガサと茂みをかき分ける音が辺りに響く。
まだ木々の隙間からは星空はのぞいているが、少しずつ暗闇は濃くなっていく。

「見つからないね、キノコ」
「おかしいでござるな」
「どうする? 暗くなってきたし、一旦帰るか?」
「残念ながらその方がよいかもしれない」
「それじゃ、帰るか……」
 ぱっと振り返ってみる。
「……あれ?」
 道は暗く、さっき通ったばかりの場所が何だか見覚えのない景色に見えた。
「こっちの方からきたはずよね?」
 恐る恐る一同は来た道を引き返すことにする。

 ヒュオォォォォ

 大したことのない風の音が静かな森の中では妙に響き渡る。

「おかしい……こちらの道は人の通った気配がない」
「草が踏み荒らされていないでござる」
「少し引き返してみましょう」
 また方向転換して歩き出すのだが、歩けば歩く程にどんどん森の奥に入り込んで行くようだった。
 皆の口数は少なくなり、嫌な予感に表情は暗くなる。段々とコレットの歩みが遅くなってくる。
「大丈夫でござるか?」
「大丈夫……」
「無理はよくないでござるよ」
 時光は優しい眼差しで、コレットをそっと負ぶった。
「疲れない?」
「全く。綿を背負ってるより軽いでござる」
「ありがとう……」
 少々疲れていたのか、コレットは素直に時光に背負って進んでもらう事にしたようだ。
 それから更に小一時間くらい歩いたところでツヴァイが遂に歩みを止めた。

「すっかり迷子になっちまったじゃんか!」
「五月蠅い。大声で叫ぶな」
「あーぁ……やっぱキノコなんて見つからないんじゃね?」
 ツヴァイは足下の土を蹴り飛ばす。土埃が少し目に入ったのかアインスが顔を顰める。
「本当にこの森なのかよ? 話ちゃんと聞いてなかったんじゃないのか?」
「なんだと……?」
「大体、食べ物に関しての事を音痴の言う話まんま信じた俺が馬鹿だったんだ。あーばっかみてー」

 苛立って罵り合う二人、コレットは時光の背でうたた寝をしてしまっている。止める人はいない。
 最初はコレットを気遣って音量抑えめにしていた二人だったが、徐々にヒートアップしていき声も大きくなる。

「そうだな。確かに私も愚かだったようだ。貴様のような目が節穴の人間を連れてきたのだから! キノコひとつ見つける事が出来ない!」
「お前だって見つけられてねーだろーが!」
「……あれ? 二人ともどうしたの?」

 ついに二人の罵声に気付いてコレットが目を覚ます。
まだ眠いのか、目を擦りつつアインスとツヴァイの様子に首を傾げる。

「あ、ごめん! 起こしちゃったな!」
「すまない……君はまだ寝ていてもいい」
「ううん、大丈夫」
 時光の背から降ろしてもらいながら
「ありがとう。重たかったでしょう?」
「空気より軽いでござるよ」
「私もちゃんと歩くね。だから、頑張って帰りましょう」
 健気に微笑む少女を前にして喧嘩を続けられるわけがない。
 なんとか無事にコレットをターミナルまで送り届けなければ。そんな決意をしたかはわからないが、再び一行は森の状況を確かめる事にする。

「すぐ戻れると思って、闇雲に歩きすぎたよな、俺ら」
「きちんと歩んだ印をつけていこう」
 目に付きやすい所の木に印を小さく刻んでいくことにする。
「ごめんね、傷を付けてしまって」
 そっとコレットが樹木に手をふれ謝った。
「大丈夫だよ、コレット。傷の一つや二つ、男にとっちゃ勲章だって!」
「この木は男の子なのかしら?」
「さて? 銀杏などは雄株と雌株があるでござるが?」
「女の子だったらどうしよう……」
「うわっ! そうだったらごめん!!」
 慌てて謝るツヴァイにコレットはくすくすと笑う。その可愛らしい笑顔にツヴァイはホッとする。
「また少し暗くなってきたようだな。夜が更けてきているのか」
「さっきまでもっと明るかったのにな」
「ちょっと薄暗いね。まだ空は見えているから大丈夫だけれど」
「でも、じめっとしてきた気もするでござるな」
「あ、キノコが生えてないかしら?」
 コレットはまた歩き出すが、キノコキノコと呟きながらあっちこっち視線を彷徨わせる。
「コレット、暗いんだからそんなよそ見してたらはぐれる……」
 だから、ほら。と手を差し出す。
 コレットがその手を取ろうとしたところで……
「……いいっ! ったぁーー!!」
「あぁすまない。暗いから足下がよく見えなかった」
 思いっきりアインスがツヴァイの足を踏みつけている。暗闇の中でも彼が微笑んでいるのがツヴァイにははっきりとわかった。
「おーまーえーなーー……」
 今度ばかりは思いっきり文句をつけてやるとツヴァイがアインスを睨み付ける。
「よし、間違いなさそうでござる!」
「え?」
 時光の力強い声に振り向くと、彼はじっと空を見上げていた。釣られて見上げると、綺麗な星空が広がっていた。
「どうしたんだ?」
「星の位置でござるよ」
「星の位置?」
「あぁ、なるほど」
 アインスがふむと頷いた。
「ある程度の方向がわかりそうでござるよ」
 密かに空の様子を確認しながら歩いていたようだ。
「お星様はずっとそこにいるものね」
 急に頼もしく感じられてきた星空を皆が揃って見上げた。
 その時だ。

 キラリ

 すぅっと一筋の光が空を横切っていった。流れ星だ。

「!!」
「お化け怖いの克服、お化け怖いの克服、お化け……」
 咄嗟の事なのに、時光が必死に願いを唱える。彼の表情は真剣そのものだ。
 それを見て、自分もお願いしようかなと思う者もいれば、にやっと悪い表情を浮かべる者もいた。

 トンッ

「!!?」

 急に時光の背後に回っていたツヴァイが彼の肩を叩いたのだ。思わずびくっとなる時光。

「な、そこら中暗いしさ。明るい話でも一つしてやろっか?」
「ど、どのような?」
「これは、一人の旅人が森に迷い込んだ時の事なんだけどな……」

 ――辺りはすっかり真っ暗になってしまって途方にくれていたところで、急に青白い光が目の前を横切ったのに気付いたんだ……――
 
「明るい話じゃないでござろーーー!!」
 冒頭で既に嫌な予感を感じ取った時光が慌てて耳を塞いで逃げ出す。
「逃げるなよー話はまだこれからだってー」
 その様子が面白くて、髪の長い女がーなどと叫びながらツヴァイが追いかけていく。
「二人ともまって!」
 コレットが二人を追いかけようとするが、アインスが呼び止める。
「走っていったら危ない。二人とも、君を本当に置いてけぼりにはしないさ」
 落ち着いて歩いて追いかけようと言い、更にはコレットに手を差し出した。
「森のエスコートの権利をいただけませんか? レディ?」
「あ、ありがとう……」
 コレットの手を取り、アインスが優しく微笑んだ。
 時光達の姿は暗くてよくわからなくなってしまっていたが、声がハッキリと響き渡っているので追いつくのは難しくなさそうだ。
「大丈夫かしら?」
 時光の悲鳴が聞こえている。
「人の嫌がる事を喜んでするなんて困った弟だ」
 ここぞとばかりに弟を陥れようとする兄。
「ツヴァイさんも、本当に時光さんが嫌がる事はしないとは思うのだけど」
「どうだろうか。それより、せっかく誘ったのにこんな事になってしまってすまない」
「ううん、アインスさんは何も悪くないわ。だって、今もけっこう楽しいもの」
 それに、まだキノコは見つかるかもしれないわと微笑む。
「そうだな、帰るまで諦めずに探してみようか」
「えぇ、探してみましょう」
 周囲の樹木や切り株を一個一個確認しながら歩く。
「あっ!」
「あったのか?」
 コレットが指さした先には真っ赤なキノコはどーんと生えていた。暗闇の中でも毒々しい赤さだ。というか毒キノコだ。
「真っ赤ね? このキノコは食べられるのかしら?」
「あぁ、君達は先に行ってしまったから聞いてなかったな。このキノコは食べられる。モフトピアでもなかなか見つからない珍味だという」
「本当に? すごいわ!」
「でも、一本しかないわね?」
 もっとないとみんなで食べるには足りないわとコレットは切り株の周りをぐるりと回った。でも、キノコは一本しか生えていない。
「どうしましょう」
「とっていこう。もし、君が許してくれるのならの話なんだが」
「何?」
「このキノコは、ツヴァイに食べて貰ってもよいだろうか?」
「え?」
 コレットが少し驚いた様子でアインスを見つめる。アインスは誠実と額に書いてるんじゃないかというくらい真面目な表情で続ける。
「先程、事故とはいえ足を踏みつけてしまった。その詫びをして仲直りしたいんだ。見つけてくれたのは君なんだが……」
 もし断ったら、こちらが申し訳ない気持ちになりそうなくらい申し訳なさそうな顔をしてアインスは言う。
「ううん、気にしないで。仲直りのキノコになるならとっても嬉しい!!」
 コレットは嬉しくてアインスの手をぎゅっと握った。それに応えてアインスもにっこりと微笑む。

(うまくいった……)

 先程と180度方向性の違う笑顔でアインスは微笑んだのだが、コレットはそれに気付かなかった。

 一方、逃げていた時光とツヴァイだが、まだ走り回っていた。

「暗闇の中で真っ赤な唇だけが嫌に目について……」
「あーあー聞こえないでござるーーー!」
「その赤は口紅ではなく、男の血の……」
「やめるでござるよーーー!!」

 ガサゴソゴソッ

「え?」

 急に横の方から茂みを激しく揺らす音がする。立ち止まって顔を見合わせる二人。

「今の、なんだ?」
 まさか本物?と思わずツヴァイが口にすると、時光が恐怖に頬を引きつらせる。
「なっ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏迷わず成仏……」
 ぶるぶると震えながら懐のお守りを握りしめる時光。茂みの方を睨み付けて、念のためファイティングナイフを握りしめるツヴァイ。

 ガサゴソソッガサッ!!

 激しい音を立てて茂みから真っ白な固まりが飛び出してきた。

「おばけーーーーー!!!」
「おわぁっ!!」

 ぽふんっ

「おやー? こんばんはなのー」
「え? あれ?」
「アニモフ殿……」

 そこにいたのは大きな籠を背負った、ふわふわもこもこの羊さんアニモフであった。

「……」
 無言で思いっきり力を抜く時光。心の底からよかったという顔をしている。
「おまえ、こんなとこで何してんの?」
「これこれー」
 籠の中を指す羊アニモフ。
「どれどれー?」
 のぞき込むとそこには……
「キノコだ……」
「そうなのー」
 話を聞くと、その羊アニモフはここらじゃ一番のキノコ取り名人らしい。籠の中には色とりどりのキノコがぎっしりと詰まっていた。
 中には話に聞いていた、黄色くて白くて黄色いキノコもしっかり入っていた。そして、赤いキノコは一本も入っていなかった。
「あれ? ひょっとして、おまえメイとかいう?」
「うん、メイなのー」
「やっぱりか。な、メイ、キノコわけてもらったりできね?」
「いいよー」
「え、いいでござるか?」
 すごくあっさりとメイは籠をどんっと差し出した。

「あ、二人とも!!」
「追いついたか」
 どれだけもらっちゃっていいのかなーなんてやっているところで、コレットとアインスが追いついてくる。
「こんばんはなの」
「こんばんは。素敵なもこもこね」
「ありがとー」
「あ、コレット殿! メイ殿がキノコを分けてくれるでござるよ!」
 時光が両手に持ったキノコを目にしてコレットが目を丸くする。
「たくさんあるのね! あ、私達も一本だけ見つけたのよ。アインスさんがしまってくれてるわ」
 すっとアインスから離れて籠をのぞき込むコレット。その目はキラキラと輝いて楽しそうだ。
 その様子に目を細めながらも、兄に言ってやらねばいけない事があるツヴァイ。
「ちゃっかりコレットと手つなぎやがって……」
「勝手に馬鹿な事をして走り出すのが悪い」
「ぐっ……」
 正にぐうの音も出なかった。

 こうして、偶然出会えた羊アニモフのメイから安全な帰り道まで教えてもらった一同は、たくさんわけてもらったキノコを手にほくほくで帰るのだった。

●おいしいキノコ

「本当にたくさんもらえたなー」
「メイさんには感謝してもしたりないね」
 目の前の食卓に広がる料理の数々。
 緑と茶色の茸を使ったサラダ、メインの黄色のキノコも大きめのキノコはソテーにされたり、小さめのキノコは刻んでご飯に混ぜ込んだりと、キノコのフルコースだ。
 そして、何より楽しみにしていたのは……キノコオムレツ。

「うっまそー……」
 じゅるりと唾を飲み込む。
「キノコをわけてくれたメイ殿と、料理をしてくれたコレット殿には大感謝でござるよ」
「それでは、二人に感謝して……」

「「「「いただきまーす!!」」」」

 早速、ツヴァイがキノコソテーにかぶりついた。

「…………」
「ツヴァイさん?」
「……うまいっ!!」
「こら、飲み込むまで口を開くな」
「だってうめーんだもん」
「確かに作法が飛んでしまいそうなくらいに美味でござる」
「喜んで貰えてうれしいわ。オムレツも冷めないうちにどうぞ」
「うん。せっかくのふわふわオムレツだもんな」
「あ、ツヴァイさんのオムレツは特別なのよ」
「え?」
「メイさんの籠にもなかった、めずらしいキノコが入ってるの」
「え、本当に? ありがとう!」
 ぱくんっと早速ツヴァイがオムレツを口に放り込んだ。
「……うわぁ。なんだこれ」
「美味しくなかった?」
「うますぎるだろ……」
「よかった」
 美味い美味いとあっという間にオムレツを平らげる。
 それを見てふっと微笑むアインス。
「なんだよ?」
 それに気付いて訝しげに問うと、コレットが代わりに応える。
「あのね、一本しかなかったのだけど、アインスさんがツヴァイさんに食べさせてくれって」
「え?」
 なにそれこわい。ツヴァイの顔にハッキリとそう書かれていた。
「足を踏んでしまったお詫びにですって。二人が仲良くしてくれたら嬉しいわ」
 コレットは本当に嬉しそうに微笑んでいるが、嫌な予感を抑えきれないツヴァイ。
 そして、その予感が的中するまでそう時間はかからなかった。

「ツヴァイ、大丈夫?」
「顔色が悪いでござる」
 青い顔をしてツヴァイがお腹をおさえている。
「がっついて食べるからそういう事になるんだ」
 急に食べるからだという事にしようとするアインス。
「おまえ……絶対なんか一服盛ってるだろっていうか一本盛っただろ……」

 きゅるきゅるとツヴァイのお腹が変な音を立てる。

「限っ界っ!!」

 大慌てでツヴァイがお手洗いへと駆け込んでいった。

「ふぅ……食事中に席を立つなんてマナーがなってない」
「でも、本当に具合悪そうだったわ」
「食べた分を出せば、けろっとした顔をして戻ってくるさ」
「そうかもしれぬが……拙者、後で薬を届けておくでござる」
 心配そうなコレットをなだめながらアインスは思う。
(倒れ込んだから期待したのだが……腹を壊す程度だったか)
 残念だと。

「ごめんなさい。せっかくの仲直りだったのに」
 その残念そうな顔にコレットは勘違いをしていた。
「君の料理が美味しすぎただけだ、気にしないでほしい」
 そこらの女の子がみたらめまいを起こして倒れそうな笑顔でアインスは言った。
(まあ、また次の機会があるさ)

 その後、なんとか時光の薬の力で戻ってきたツヴァイと共に、一同は料理を思う存分楽しんだのだった。
 ちなみに、その場は切り抜けたツヴァイだったが、なんだかんだでお腹の調子の悪さは一週間ばかり続いたとか続かないとか。
更には復習を試みたツヴァイとアインスとの間でまた一悶着があったとかなかったとか。

 でも、それは別のお話。

クリエイターコメントご依頼ありがとうございました。
ささやかながら皆様の旅のお手伝いをさせていただき、こちらも楽しかったです。
四人の楽しい光景が自然と頭に浮かんだのですが、
なかなか書き起こす際に北里のポンコツ脳がエラーを起こしてお時間いただいてしまいました。

どうもありがとうございました。
公開日時2011-05-19(木) 21:20

 

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