「お掃除するよおおおおお!」 気合いの雄叫びをあげるのは黒猫にゃんこ。 実は昏々と眠り続けていた年末。目覚めたときには大量の仕事が存在し、激務と遊びに追われて大掃除が出来ず、執務室は荒れ放題。 そこにたまたま依頼を探しに、相談に、報告書提出にやってきたロストナンバーたちに箒とちりとり、雑巾にバケツを手渡し、強制労働を命じた。「それは、あっち! それは、こっちー! そこの元旅団の二人、しっかりと働けー!」「うるせぇなぁ」「なぜ余が小さき者に付き合わねばならん」 水薙とメン・タピが文句を言う。「にゃぁー! 水薙はたまたま訪ねてきたから、メンはあっちにいたから、これが終わったらまりあになってあげるって約束したら手伝うって言ったじゃない! いるものは神様でも使うよ! むきぃいい!」 にゃんこはおしごみに顔を突っ込んで掃除に忙しい。しっぽを膨らませ、腰に巻きつけている虎の敷物がふるふると荒々しく振る姿はなんとも勇ましい。「にゃあ、これは、セクタンが大量発生した原因とか言われてた液体にゃあ。こんにゃのいらせない!」 ぽーいとにゃんこがピンクの液体のはいった瓶を投げ、それはちょうどメン・タピの方向にくるくると飛んでいく。「なんで俺がよりによってこんなエロ魔神と」「むっ!」 メン・タピは片手をふり、瓶を弾く。 まるで狙ったかのように大きな荷物を両手に持って運んでいた水薙の顔面に激突した。「あたぁ! てめぇ、このくされ魔神! 俺をわざと狙ったな!」「瓶のあとがついていい面ではないか。カカカカ」「……っ! てめぇ! 最近、うちのカップに色目使ってるの知ってるんだぞ。このロリコン魔神がぁあああ!」 瓶を力任せに握りつぶすとピンクの液体があふれ出す。それが水薙の意のままに操られて、メン・タピの体を貫いた。 それも横にざっくりと。「あ」 その場にいた全員が声をあげた。「あれは死んだな」「掃除するのがめんどいな」「真っ二つとはむごい」 全員の白い眼に水薙は声を荒らげた。「なにいってんだ、こいつがこれくらいで死ぬかよ! 分裂するやつだぞ! これくらいしてちょうどいいくらいだって、なに!」 なんともぞもぞもぞーと小さなメン・タピ。それも二匹。 死んだと思えば分裂した、いや、そういえば前にも分裂していたのは覚えているが……じっと見ていると様子がおかしい。 ぷるぷるぷるぷる。 震え上がるちびメン・タピ。 ぽこん。 音をたてて二匹が四匹に! それが高速で繰り返される。「なんだ!」 気が付いたら大量のメン・タピが部屋にあふれかえっていた。それもメン・タピたちはさらに増えていく。「このままだとやばいな。全部潰したほうがいいな。この際、もう存在そのものを潰しちまおう! 水ノ矢!」 水薙はまったくためらいなくメン・タピを攻撃する。いや、躊躇えよ、お前と言いたいロストナンバーたちは見た。 ピンクの矢に撃たれて倒れていくちびメン・タピ。しかし! ぽこん。ぽこん、ぽこん、ぽこん!「カカカカ」「ゆうぎー」 メン・タピはさらに増えていく。それもちびになって若干言葉づかいもかわいく……なってない。 小さなメン・タピたちは開いている窓からわらわらと外へと出ていく。そしてさらに増えていく。「なんでだ」 水薙が唖然と呟く。「うお、大量のメン・タピが! って、あー、水薙! それ、セクタンが増えたときに原因だって言われた増えちゃう薬!」「はぁ! なんだそれ!」 わらわらわらわらわらわら。 わらわらわらわらわらわらわら。 カカカカカ。 カカカカカカ。 大量のメン・タピたちは憎たらしい嘲笑いを残して窓からターミナルに向かっていく大行進していく。「メン・タピたち、どこにって、あれはロストレイルの方向! や、やばい。こんな大量のメン・タピが向かったら! またロストレイルとまっちゃう、いや占領されるっ! リベルににゃんこが怒られちゃう! みんなー、急いで、あれとめて! あ、けど攻撃はだめ。絶対に増える。けど、なにもしなくても増えてるし、ど、どうしたらいいと思う!」 そりゃ、こっちが聞きたい。
カカカ。 カカカカカカ。 耳障りこの上ない笑い声をあげてツカツカと足音を高らかにちびメン・タピが進行していく。それ間もぽこん、ぽぽんと陽気な音をたてて増殖していくことはやめない。 「なんてことでしょう」 吉備サクラは茫然とその進行を見送る。掃除のためにピンクのエプロンと緑の三角巾、埃対策にサングラスとマスク、両手はゴム手袋、片手ははたき、片手はゴミ袋姿……ここが司書室でなかったらちょっと危ないかもしもれないね、サクラちゃん。 「えーー!」 パティ・ポップも同じくエプロン姿で、三角巾姿にたきをもって叫ぶ。 「あのメン・タピ、斬る度に増えるってー!! これじゃ、分解しても増えるって事?? まるでスライムですわーーー!!!」 まるでというより、まんまんスライムというかアメーバだ。彼女の目は大きく見開かれ、しっぽもぴーん! 立っている。 二人が窓からメン・タピ大行進を見守るなか 「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおお!!」 旧校舎のアイドル・ススムくん……長い! もういっそ旧ススムでよくないか? てか、くんまで名前かよ! とつっこみどころ満載の名前にその見た目も心臓から骨と内臓丸見え。きゃ! わっちのすべてを見ておくんなましの木造の人体模型はピンクのフリルエプロン姿で叫び、大興奮のまま水薙の首根っこを掴んで揺さぶっていた。 「ふぉぉおお?! 増殖する薬でやんすか?! わっちも是非是非欲しいでやんす! 残りは、残りはありやせんか~?!」 「知らねぇよ! 離せ! このフィギュアとか自称するマネキンがぁ!」 「マネキンちゃいますよ、わっちはフィギュア! 漢字で書くと人体模型でやんすぅ!」 「黙れ、うるさい、空気読め。てめぇを見ていると白衣のあほを思い出す! ターミナルはバカの集まりか!」 「なんでやんすかそれ! は、もしかしてちら見派でやんすかぁ! 白衣を着ろとぉ! そんなえろす、ごふぅ」 「ちら見派だが、てめぇはいらねぇよ! メン・タピについては……俺だっていろんな意味でやっちまった感いっぱいなんだよっ!」 後悔先立たず……水薙は死んだ魚の目をして遠くを見る。 窓にくぎ付けのサクラとパティたちは「また増えたぁ!」と声をあげる。 「ああ、ごめん。カップ、幸せにするって言ったのに、俺、ターミナルをメン・タピで滅ぼしちまうよ……」 「だぁああ、つかえやせん!」 ばしぃと水薙を床に捨ててススムくんはサクラの横で胡乱な目で外を見守っている黒猫にゃんこに突撃した。 「ふおおおおお! にゃんこさぁん! 薬の所有者はあんさんでしたなぁ! 薬ありませんかぁ!」 黒猫にゃんこの首根っこを掴み、持ち上げるとぶんぶんぶん。 「にゃあー!? ちょ、やめ、やめてぇ!」 「ススム戦隊のゆめをををぉおおおお! 叶えるでやんすぅううう!」 ガクガクガク! 大きく揺さぶる、揺さぶる。 説明しよう! ススムくんは日々、お嬢の残してくださったチェンバーで増え続けている。 さらに最近はついうっかり戦隊ものにはまってしまい、夢は千体(決して戦隊とかけたわけではない。たぶん)なのだ。 しかし! 月々増えれるのは百体ほどが限界、これでは戦隊への道のりは遠い。遠すぎる! なのになんの苦労もせず目の前で増えていくメン・タピ! ぜひ、この薬がほしい! 揺さぶろうが、振ろうがにゃんこから薬は出てこない。むしろ白目剥いてそろそろ死にそうなのにぽいっとススムはにゃんこを放り投げ――解放した。それに別のススムくん(二体で掃除の手伝いをしていた)がキャッチしてそっとソファに寝かせることも忘れない。人間の男には冷たいが獣系にはそこはかとなく優しい。 「ハッ! 申し訳ないでやんす、わっち、自分を見失っていたでやんす! 今からメン・タピ捕獲作戦に従事するでやんすよ~。全わっち出動でやんす!」 ススムが全自分に連絡――元が一体なので見えないなにかで思考が通じるのだ! そしてターミナルのあちこちでおー! と声があがった。 「このままだと、にゃんこさんが怒られちゃうんですよね? 私もがんばります!」 さるときもふもふに目覚めてから、フワモコを愛するサクラとしてもこの事態は見逃せない! サクラはメガネをくいっと持ち上げて肩にいるゆりりんを見る。 「いきますよ!」 カカカ。 カカカカカカ。 メン・タピは進む。進む。進む。そこに道があるから。その先にはロイトレイルがあるから。 ふと、その大行進が止まった。 ひら、ひらん。ひらららん。 白いふわふわのケーフが揺れし、頭上にある二つの耳がぴこんと動く。 ターミナルでも大人で有名なメルチェット・ナップルシュガー。衣服はなんと普段メン・タピが着ている黒衣装で目の前をかけていく。 メン・タピたちはじぃと見つめる。 笑顔がまるでこっちよーと呼んでいるように見える。(メン・タピの贔屓目、エロ目) カ? 一匹のメン・タピが笑う。それに残りのメン・タピたちも顔を合わせ カカ? カ、カカ! すでに小さくなりすぎて言語すら忘れた模様であるが、独断の笑い声による仲間と(分裂した己)意思疎通可能なようだ。 なんとも可愛くない光景である。 カァ!(メン・タピ笑い語翻訳・あれは呼んでいるのだ! 同士たちよ、それをないがしろにしてなんとする) カァー! カァー!(そうだそうだ!) カァアアア!(狂気の沙汰こそ!) 一致団結したメン・タピたちはメルチェット・ナップルシュガーに向けて猛ダッシュを開始した。 うふふふふ~ カカカカカ! 可愛らしい女の子とそれら群がるメン・タピがターミナルを移動中。 「なんだか、ものすごく犯罪臭いですね」 メン・タピたちの大行進を数キロ先でカメラから観察するサクラは呟いた。黒スーツに着替えてスパイコスプレだ。 「メン・タピさんは幼女趣味です! それに自分の衣装は慧竜さんのコスプレだって言ってた気がします! つまりメルチェットさんの幻影にメンタピさんのコスプレさせたら一網打尽です!」 今のところメン・タピはサクラの幻覚を被せられたゆりりん(現在オウルフォーム)を目指して大行進中だ。サクラ本人は猫の姿を被せて尾行中。 「ゆりりん頑張って妖精の庭までメン・タピさんを引っ張っていって下さい! あの湖畔の島とかお勧めだと思うので!」 サクラはメン・タピを捕まえる、いや、封じてしまうのにターミナルでも非公開の場所を選んだ。あそこなら人はいないのでメン・タピがいくら大量分裂しようとも迷惑をかけることはない。 もちろん、非公開場所に勝手に侵入することは許されないことだが 「ごめんなさい勘弁して下さいターミナルの平和を守るためです!」 心の底からお詫びしつつサクラはゆりりんに命令する。 「そのまま突っ込んでください!」 ゆりりんは妖精の庭への最短ルートを飛行していく。もちろん、姿はいたずらな天使であるメルチェットでうふふ、追ってきて☆ とウィンク。 問題は最短ルートがターミナルでも一番大きな通り、しかもいくつもの店が軒を連ねる場所を通ることだ。 買い物をする老若男女それ以外たちはメン・タピたちの大行進の犠牲となっていく。 カカカ! 「な、なんだ、このちびで気持ち悪いの!」 不気味な笑い声をあげてメン・タピは路上の屋台に飛びのり、そこで売られている品を食べつくしてけぷっ! 満足なげっぷをして再び進む。 「うう、すいません」 サクラは心の中で力いっぱい謝る。 さらに別のところでは カカカ! 「きゃあ、な、なによ! あっちいってよ!」 うら若き女性にメン・タピが飛びつく。 サクラは首を傾げた。メン・タピは幼女好きではなかったのか。本当はただのエロボケゲーム魔神だったのか。器用に女性の肩によじ登り、そこいるセクタンにぶちゅう! 思いっきりキスしたのだ。すると 暴れていたセクタンがぐったりしたあと、ぽんっ! なんとも可愛らしい音をたてて、その姿が 「メン・タピ!」 いつの間にちびたちはメン・タピ菌なるものまで生み出して他の生き物を仲間にすることまでできるようになってしまったのか! サクラは恐れおののいた。 「あ、あう~。こ、このままだと、私のゆりりんも!」 捕まったら、あのつるんとした誘惑のクラゲ姿ではなくなり、魔神になってしまうのだろうか。それだけは絶対にいやだ。 「ゆりりーん! はやく逃げてください!」 サクラの気持ちが通じたのか否かわからないがゆりりんは幸いにも非公開の妖精の庭までメン・タピに捕まることなく進む事が出来た。 庭園というよりも、そこは森だ。木々が生い茂った薄暗いなかはじめついた空気が漂い、他の庭園と違う、陰気さが漂っている。 そんななかを大量のメン・タピたちが高笑いとともに進むと不気味さにますます拍車がかかる。 (う、うう~。がんばれ、私!) 「えーと、どこでしょう、扉は」 「ふ。ふほほほほほほほほほほ! メン・タピを集めてくださったのお礼いいますわぁ! お嬢さん!」 「へ?」 サクラはぎょっとして高笑いする木を見ると、枝に変な生き物――ススムくんだ! 黒マントをつけてなんか悪役ぽい。 「あんさんが集めてくれはったおかげであっちたちの活動がやりやすくなりましたわぁ! メン・タピに変装してもわっちには一発でわかったでやんすよ!」 「いえ、私はこっちですけど」 「え!」 ススムくん首を百九十度ほど回転させてきょろきょろ。 サクラは猫の幻覚をといた。 気まずい沈黙。 「あー、こぼぉん!」 ススムくんはわざとらしく咳払いをひとつ。 「わっちの華麗なる目標! メン・タピ大量確保! あんさんがメン・タピを移動させるのに、あぶれた奴らはわっちがゲットさせていきましたわぁ!」 「そういえば、最初より少ない?」 指摘されたサクラはハッとした。 今まで気が付かなかったが、はじめの進行から考えるとあきらかにここにいるメン・タピたちは少ない。 「とぉ!」 ススムが無駄にかっこつけて飛び、サクラの前に着地する。 「さぁ、いくでやんす!」 「え?」 木々の中からぬっとあらわれる気持ち悪い、ではないススムくんたち! 彼らはカッと口を開け、木製には不似合すぎる猛ダッシュでメン・タピを両手に二体抱え始めた。 メン・タピがいやがって暴れると口からいちご味の心臓を連続噴射し、メン・タピの口を封じる。 「な、なんてひどい!」 思わずサクラがおびえた。 ぴく、ぴくぴく……白目を剥くメン・タピを抱えてススムくんたちはどこかに向けて駆けていく。 「どこに向かって」 「わっちのチェンバーですわ! そこで50体がグランドで鍋を炊いているのにメン・タピをほりこんで煮てるでやんす。そのあとはちぁんと丸干しでやんす! もし逃げようとしても武術に心得のある30体が入り口をフル装備(ラグビー・剣道・サッカーといったスポーツ系の衣装着用)で守っているでやんす!! 1匹たりとも逃がさないでやんすよ!」 「ど、どうして、そんなことを」 サクラは自分の敗北を悟り、その場に崩れた。 ススムの細すぎる黒線目にぎらぎらと輝く欲望の炎。 「わっちは、千体に増えるでやんす!! そのためには手段は選ばんでやんすよ!」 メン・タピについた薬の残りカスを飲めば増幅に役立つのではないかと考えたのだ。 そう、メン・タピたちの残り汁……メン・タピ体液をススムくんたちがおいしくいただくつもりである。 「なんておそろしいっ! ススムくん、あなたには心がないんですか! そんなにも千体に増えたいんですか!」 「ふほほほほ! 心? わっちの心は千体に増えることに捧げたでやんす! わっちは、自分の望みのためならやるでやんすよ!! そのために、パティはんとも取引したんですからなぁ! おお、メールでやんす!」 ススムは一緒に掃除していたパティをチーズ一年分+とうもろこし五十本で買収していたのだ。 「これで、わっちの欲望は」 「欲望が、なんですか」 かつん。 鋭い刃物のような足音がしてサクラとススムは、ハッとそちらを見た。 そこにいたのは…… ★ ★ ★ 司書室棟の階段の上でパティはのろのろと歩いている二匹のメン・タピを見つけた。どうやら大行進に置いてきぼりを食らったようだ。 ススムと取引したパティはかわいい使い魔たちのごはん代を稼ぐためにも一生懸命、考えて、奴らの駆除にあたっていた。 けど、こんなのがほしいなんておかしな奴よね! 「メン・タピ、私と勝負よ!」 カ? カカカ? 二匹のメン・タピはパティの幼女体型を一目見ると、うれしそうに飛んだ。 カー☆(ようじょー☆) とたんにたーんっ! パティの懐からガターが神速で投げられ、二匹を壁にぶらさげる。 「誰が幼女よ! 私はれっきとした大人よ! なんとなくあんたたちが何を言ってるのかわかるんだからね!」 怒るパティは鼠たちに命令してメン・タピを襲わせた。 頭のいい鼠たちはメン・タピの顔面にしがみついて窒息させて動かなくさせたあとガターを引き抜いてメン・タピをくわえてくる。それをパティの後ろにある袋……メン・タピが大量にはいっている袋である。そこに放り込んでいく。 「これで一年分のチーズは私たちのものよ!」 パティは外見を使い、メン・タピたちを根こそぎにしていった。 「けど、わりとばらばらになっちゃたやつが多いわね」 おかげさまで大量だし、罠が無駄にならなくてすんですごく助かってるんだけどね! サクラが大行進誘導中、パティはちまちまと司書室棟にいくつもの罠をはってまわっていた。 体力面から言えばこのメンバーのなかでは一番不利だが、ススムくんに誰よりも一番メン・タピを捕まえたらチーズ一年分と言われたら負けたくない。 パティが廊下を覗き込む。 美少女写真集を餌にした檻のなかにはメン・タピが三匹。 べとべと床に捕まって身動きがとれなくなっているのが三匹。 「一匹いたら三十匹いると思えっていうの? これだけじゃ間に合ないわよね。罠を察知してるのもいるみたいだし!」 袋もそろそろいっぱいになってきて、もこもこと動いて、カカカ、カカカと鳴いている。 「よーし、一気に行くわよ!」 パティはにやりと笑った。 カカカ。カカカ。カカカカ! 隠れて増殖を繰り返し、増えに増えまくったメン・タピが再び行進を開始する。 く。くくくくく。 先に向かったのはただの囮にすぎぬ! く。くくくくく! ロストレイルをわがものに! 「ちょっとまったぁー!」 行進の前に現れたのは小さな影。 パティだ。 「勝負したかったらこっちに来い、このエロ魔神!!」 パティが片手に持つサイコロ、もう片方にはコップを持て声をあげる。 メン・タピの目がぎらっと輝く。 カ! カカカカ!(挑まれたら戦うのが礼儀!) メン・タピにパティは背を向けると、駆けだしていく。それを追いかけるメン・タピ。 カーー! 飛ぶ。 そしてメン・タピたちは落ちていく。どこまでも。 しゅるるる~。 「ん、んふふふ!」 パティは得意げに笑う。 実は司書室棟の一部が現在工事中で廊下に穴が開いていたので、魔法で幻術を使用して、あたかも廊下があるように見せたのだ。 その上を歩くパティはスカイウォーク靴を履いてすいすいと泳ぐように進む。 下――穴の底ではメン・タピたちが落ちてもぞもぞと蠢いている。わぁ。こわい。 カーカーカー! カーカーカ! メン・タピたちは互いを踏み台にして必死に穴をよじ登ろうとして、上を見る。 カ!(パンツ丸み) ちゅうううう!(見るなぁ!) メン・タピの上に鼠たちがぱらぱらと落ちていく。 さらに 「ちゅ~~!! ジェットストリーム!!」 パティが強風で廊下を逃げ惑うメン・タピを次々と落とし穴にほりこんでいく。 廊下にいたものはすべて落とされる。さらに隠れていたメン・タピは鼠たちが目ざとく見つけて、頭をかじられてぽいぽいと穴に落とされていく。 穴はメン・タピによってなみなみといっぱい。 己を踏みつけて、穴から這い出ようとするメン・タピにすかさずパティは網をかけた。 「逃げれると思わないことね!」 ふみぃと踏みつける。 カァ! うるうると泣きそうなメン・タピが顔をあげる。 あ、パンツ見(鼠たちの猛攻撃を受けた模様) 「よーし、捕まえた! ススムくんに連絡をして……あれ? 返事がないわ。ただの木造人体模型になっちゃったのかしら! ちゅー!」 ぷんすかと怒りながらパティは腰に手をあてる。 「よーし、仕方ないわ。原因をしっかりと調べるわよ! それでリベルさんに報告しなきゃ!」 きっと原因は黒猫にゃんこなんだろうし! 猫相手に容赦してあげる心はないんだから! そして 大行進なんてばればれなことをしてリベルに見つかったサクラ、ススムは非公開の妖精の庭にはいったということでターミナルで最も恐ろしいリベルおしおきスペシャルを受けることとなった。 そのあとのパティの報告によって原因の水薙と黒猫にゃんこについても同様の処置がとられたそうである。 メン・タピについてはススムくんたちが三日三晩の丸洗いで増殖はストップし、ちびたちはひっついて元のメン・タピに戻った……やはりやつはアメーバらしい。若干前より小さくなっているような気もあるが。 汁はすべてススムくんがおいしくいただいたが、増えることはなかったそうである。薄めたものはだめらしい。 しばらくメン・タピ菌にあてられたススムくんたちはチェンバーでカカカ、カカと鳴いていたそうである。 教訓 掃除は日ごろからしっかりとやりましょう。決して激情にかられてものを人に投げてはいけません。増える恐れがあります。
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