「おや、こんなところで出会うとは奇遇ですね?」 奇抜な格好をした美男子が貴方に声をかけてくる。「丁度お昼ですし、いい店がありますから一緒にいきませんか? 驕りますよ」 おごりといわれたらと断る理由もないので、貴方は美男子―ハッター・ブランドン―についていく。 ターミナルをでて画廊街の近くにある一つの店。 中世のお姫様を模した肖像のような看板が目印の『マンマ・ビアンコ』だ。「この店は壱番世界のヨーロッパのものを中心にいろんな料理が食べれます。オーダーでリクエストもできますが、美人の店主さまを褒めないことをオススメしますよ」 意味深な笑みを浮かべながらハッターは貴方を店内に案内するのだった。
「よかったー。ちょうどお腹ぺこぺこだったんだよね。え、奢り? うわーハッターってば超イイヒト! では遠慮なく~」 ハッター・ブランドンと共にマンマ・ビアンコに入ったセシル・シンボリーは店主のブランシュ・ネージュをみて言葉を失う。 「いらっしゃい……ませ」 か細い声ながらも耳にすぅっと染み込んでくる声は子守唄のようであり、白い肌は陶器のようだった。 淡い水色のウェーブセミロングの髪が白いドレスのような衣服の上で揺れている。 緩やかに弧を描いた眉は整っており、髪の色と同じ淡い水色の瞳は澄んだ海のように吸い込まれそうな気がした。 「どうも、お邪魔させていただきます。二人です」 「はい……空いているところに……どうぞ」 ずっと見惚れていたセシルはハッターが人数を知らせたところで現実へと戻ってくる。 女神のような美しさにセシルは一目惚れしていた。 最も『馬男』と称されるセシルにとってそれは日課とも挨拶代わりとも言えるのだが……。 席につくまでもずっとセシルはネージュの肩や腰にさりげなく手を回し、その柔らかい質感を味わう。 細く長い足、くびれた腰、服越しにも分かる大きな胸など一つ一つのパーツが完成されていて芸術品だった。 「こんな店があるなら早く紹介してよ。ハッターのいけず♪」 「もう一度言いますが、あまり店主を褒めないようにしてください……責任もてませんから」 セシルがハッターに肘で小突きながら、今日一番の収穫にワクワクしている。 しかし、ハッターは帽子を脱ぎながら優しく釘をさした。 「ご注文……お願いします……」 テーブルに『人間用メニュー』と描かれた冊子をおいてネージュは首を軽く傾げる。 「わあ、こんな可愛い子にご飯作ってもらえるなんて幸せだなぁ。ねえ、オムライスにケチャップでハート描いて? 俺への気持ちをいーっぱい込めて、ね?」 「か、可愛いだなんて……恥ずかしいですっ」 キラキラと王子様スマイルで注文をし、最後には手間で握ってウィンクをしたセシルにネージュは顔を真っ赤にするとバタバタと逃げるようにさっていった。 「後悔してもしりませんよ」 走り去るネージュの後姿をテーブルに肘を乗せて組んだ腕に顔を乗せて眺めているセシルへハッターはため息混じりに突っ込んだ。 ―20分後― 料理がやってきた。 フワフワの卵が湯気を立てていて美味しそうである。 ただし、サイズがピザほどの大きさだった。 皿一杯に円形に広がったトロトロ卵の上にケチャップでハートが描かれている。 「こ、これは愛を試されてる……ねぇ……」 横から眺めても壱番世界の富士山を彷彿させるような綺麗な形を描いていた。 「だから言ったはずですよ。コーヒーとミックスサンドをください」 オムライスを持ってきたネージュに自分の注文をしながら、ハッターは戦慄を感じているセシルの姿を見ながら笑う。 「でも、ここは男気を見せてフラグを立てるときだよね」 スプーンを片手に目の前の山になったオムライスの登頂へセシルは挑んだ。 ハートマークの愛情にこたえなければ男がすたる。 チキンライスの少し辛めの味付けにとろりとした卵に含まれた卵の甘さが重なり合って程よい味を作り出していた。 だが、いくら美味しくてもこの量は厳しい、中に入っているニンジンだけがセシルの活力を取り戻す。 「仕方ないですね。私のおごりですから手を貸しましょう」 自分のメニューを食べ終えたハッターがスプーンを持ってセシルの援護に入った。 男二人が一つのオムライスを食べあう姿は妙な光景である。 「ハッター、いい人。また今度も驕ってね……このお店で」 30分ほどかかって食べ終えた皿を前に、セシルはキラキラした笑顔でヒモらしく振舞うのだった。
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