司書室。そこで仲間と共に司書の登場を待っていたナオト・K・エルロットはどこか楽しげに瞳を光らせる。そして、ドアが開き、鰭耳が特徴的な壮年の男が入ってくる。彼は『導きの書』を持っている所から世界司書のようだ。「待たせてしまったな、ナオトさん。それじゃあ、今回の依頼について話そう」 男は『導きの書』を開き、にっ、と笑って言葉を紡ぐ。「ナオトさんにお願いして君たちを呼んで貰ったのは、君たちが適任だと思ったからなんだ。実は、ある商船が海賊に狙われる。そこで、君たちにはその商船の護衛についてもらいたい」 ブルーインブルーの、とある商船が、中規模ほどの海賊団に船を乗っ取られる、という。目的は、勿論積荷である。「この商船はたくさんの香辛料が積み込まれている。なんでも、それをいい値段で買い取ってくれる所を見つけたらしく、商人としては商談を成功させたいようだな」 それはそうだろう、と頷くナオト達。司書は1つ咳払いをし、言葉を続ける。「因みに、今回海賊に襲われるのは、小さな島が点在する海域だ。ちょうど海賊たちの塒もあるようだが、まぁ、おまえさんたちが居れば大丈夫だろう」 そう言いながら、『運命の書』を捲りつつ説明をつづけるのであった。 今回の航路は比較的潮の流れが穏やか故、天候が悪くなければそんなにあれる事はない。しかし、途中にある小さな島が点在する区域では40人ほどの海賊が集まっている、という。ただし、潰れたり、解散したりなどで行き場を失った者たちが殆どで士気はさほど高くないようだ。しかし……。「中には、そんな奴らをまとめるような出来た奴らも3人いるようだ。腕っ節のいい男に、剣術の上手い女性。そして、弓に長けたじいさんかな」 この3人のお陰で海賊団としてなりたっているようだ。と、言う事はこの3人を落とせば上手く行くのではないだろうか?「まぁ、今回の商船はなかなか粋な事をしている。それは行ってからのお楽しみってね? そいじゃ、よろしくたのむぜ」 司書にチケットを渡され、ナオト達は一路ブルーインブルーへと向かった。 ――ブルーインブルー・とある港 3人を出迎えたのは、綺麗に髪を纏めた青年だった。「今回、護衛をしてくださるそうですね。ありがとうございます」 青年はにっこり微笑んでそう言った。そして、船へと案内する。が、その船は商船ではなく……形や外見、外装からしてどうみても海賊船だった。旗には鴎と横向きの頭蓋骨をあしらっており、水夫たちも見るからに腕利きそうだった。それにナオトたちがわくわくしていると、「実は、今から向かう場所の都合上、まっとうな人間でも強がる必要があるのですよ」 と、青年は苦笑する。大きなトラブルを避ける為にも海賊を装うことにしたらしい。そこで、護衛である3人にも海賊風の衣装を手渡す。「えっ? 」「まぁ、海賊ごっこをしつつ海賊が来たら戦う、という感じですよ」「俺たちの中にも元は海賊ってやつがいる。ノリもいいし、一緒に楽しく騒ごうぜ? 」 青年の肩をばん、と叩きながら水夫長が言った。彼曰く、水夫の半数は元海賊だという。それは心強いのだが、問題は船長らしき青年。服装は海賊船の船長っぽいのだが、にこやかな笑顔の所為か、人の良さそうな顔の所為か、海賊らしさがまるでない。「出発は、5日後です。ぜひよろしくお願いします」 船長と水夫長に頭を下げられ、ナオトたちもまた1つ頷く。こうして、壮大な海賊ごっこ……いや、航海は幕を開けようとしていた。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ナオト・K・エルロット(cwdt7275)青海要(cfpv7865)ティモネ・オーランド(chhc9910)
起:青き海原を船は進む 青い海原を、1隻の船が行く。翻る旗にあしらわれしは、鴎に横向きの頭蓋骨。その翻る様に微笑みつつ、水夫達に指示を飛ばすのはツーリストが1人、ナオト・K・エルロットであった。彼は凛々しく海賊船の船長に相応しいコートを纏い、それでいて愛用の帽子はいつものように被っている。なかなか様になった姿に水夫たちも盛り上がった。 そして、メインマストの見張り台では同じくツーリストのティモネ・オーランドとコンダクターの青海 要が見張りをしていた。 「2人とも、どうだい?」 「今の所異常はないわ」 ナオトの問い掛けに、まずティモネが答える。 彼女は頭をバンダナで覆い、ロングスカートを穿いていた。立派な女海賊に相応しい姿だが……パラソルにコック特製トロピカルジュースというチョイスがちょっと違うきもしないでもない。 要もまた頭をバンダナで覆ってはいたが、こちらはラフなシャツとキュロット。これはこれでかわいらしい女海賊となっていた。肩には相棒であるオウルフォームセクタン・富士さんの姿が。 「こっちも異常なしだよ」 彼女の声に合わせて、富士さんもまた愛らしくパタパタ。その声に頷きながら、ナオトはマストの影ですこしへばっていた。 (うへぇ、なかなか暑いなぁ……) そういいながらサングラスを正し、出発前の事を思い出していた。 船長である商人は、どうみても海賊船の船長という雰囲気が無かった。これではどうだろう、と思ったのでこう、切り出してみた。 「ちょっと船長さん、海賊らしくないんじゃない? 」 「やっぱり? 」 本人もそう思っていたらしく、苦笑する。 「良かったら戦闘担当のキャプテンさせてよ! 」 こういうのに憧れていたんだ、とわくわくした瞳で言う彼に、船長も大きく頷いて提案に乗ってくれたのだ。 「君なら、僕より立派なキャプテンになれる。僕が保障するよ」 「あら、すてきじゃない」 「隊長ならピッタリじゃないかな? 」 船長の他、ティモネと要も賛成してくれた。水夫たちからもいいんじゃないか、と好意的な声が飛ぶ。それに感謝しつつ、ナオトはキャプテンの上着を船長から借り受けた。 「キャプテン、大丈夫かい? 」 そう言ってきたのは水夫長だった。彼は暑さでちょっとぐったりしたナオトの肩を叩き、ほれ、と水を手渡した。礼を述べて飲み干すと生き返る心地だ。 「ナオトさんもトロピカルジュース、飲みませんか?」 ティモネの声に、ナオトは苦笑して首を振る。と、それを見ていたのか、こんどは要がちょっとだけ苦笑した。 「このジュース、とっても美味しいわよ? 」 「後からの楽しみに取っておくよ」 ナオトがそう返事をしていると鴎がふわり、と彼らの上を通り過ぎる。その様に瞳を細めながら、彼は口元を綻ばせた。 「しかし、問題の海域までこの天気がもつといいんだがなぁ」 水夫の1人がそう呟き、別の水夫も頷く。今の所、天候は崩れずに進んでいる為、遅れは無い。風も追い風で上手く行けばあと1日で例の海域にいく。 「海賊に手間取らなければ、目的地まではさほど遠くありません。だからこの調子で進んで欲しいのですが」 穏やかな顔で商人が言うものの、ナオトの表情は厳しい。彼は内心で戦う事になるであろう海賊たちに思いをはせ、闘志を静かに燃やした。 青い空には雲がたゆたい、波はおだやか。平和そのものの航海。しかし、僅かな風の変化を、確かに要は感じていた。見張り台から降りながら、考えているとティモネが不思議そうに首をかしげた。 「どうしましたか、要さん? 」 「……あのね、なんかこう、風がじっとりしてたの。よくは判らないけど、風向きがほんのちょっと狂ったような感じがして」 要も首を傾げる。富士さんの力を借りて辺りを見渡してみると、これから向かう方向にうっすらと雲が集まり始めていた事も付け加えて話すと、ティモネも望遠鏡で確かめる。 「これは、嵐の前触れかしら? すぐに準備をしなくては」 ティモネが頷いた。彼女は慣れた様子で下へ降りるとナオトたちに報告する。キャプテン・ナオトはニヤリ、と笑って1つ大きく頷く。 「要、御手柄だったな! この調子で頼むよ! 」 「はい、隊長! ……じゃなくて、キャプテン! 今度奢ってねっ」 その答えにいいよ、と返し、ナオトの目が光る。次は水夫たちへの指示だ。彼は気合を入れお腹から声を上げる。 「総員、注目! 嵐の兆候が見られた。各自、対策を始めろ! 要はそのまま観察を続け、随時報告してくれ! 」 「「応ッ! 」」 全員が返事を返す。水夫たちは慣れた動きで帆を畳み、浸水に備える。ティモネとナオトもまた水夫たちを手伝い、要は雲の動きや風の様子を細かくチェックし、異変があると報告をした。 夜になった。明日の昼過ぎには例の海域に到達する。世界司書の予言ではそこで海賊たちに遭遇する事になっているのだが……。 (いよいよ、か) 甲板にでたナオトはどんよりとした夜空を見上げ、溜め息を吐く。まだ、嵐にはなっていないものの、波は徐々に荒くなり始めている。幸い誰も船酔いしては居ないようだが、2、3人の水夫が眠れないようだった。 「ここにいたの? 」 急に声がし、振り返ると要がいた。彼女もまた緊張し眠れなかったのだろう。目を擦りながら歩いてくる。富士さんは落ち着いた様子で彼女の肩に止まっていた。 「あら、考えている事は同じだったようですね」 別の方向から、ティモネがやってくる。彼女は「夜風は体に毒だから」と2人を心配して来たらしい。穏やかな笑顔にどことなく緊張が解れたのか、ナオトと要は自然と微笑む。 「明日、予言に出ていた海域に出る。……気合入れていこう」 彼の言葉に、要とティモネは力強く頷いた。 そして、翌日。予測どおり、小規模なれど嵐になった。強風と荒波に揉まれながらも、船は目的地へと進む。しかし、彼らを襲うのは自然の驚異だけではなかった。 「……10時の方向に、船影あり」 見張りに立っていた要の目に、確かにそれは映っていた。 ボロボロなれど、風に翻る海賊旗が……。 承:今、激突の時! 「あら、お客様ですわねぇ」 ティモネが要の報告に、くすり、と笑う。元海賊であった水夫たちもまた、久々の戦闘にうずうずしているようだった。しかし、普通の水夫たちは嵐には慣れていても海賊にはなれていないらしい。慌てふためいたり、脅えたりしている。 (これは拙いな) ナオトが帽子を押えながら考えていると、ティモネがロープを使ってするる、と降りてくる。波が荒く、酷くゆれているのにも拘らず、すたっ、とかっこよく着地すると彼女は声を張り上げた。 「皆さん、落ち着きなさいな。そんな大きな身体で何を騒いでいるんです? 此処は戦場ですよ」 その言葉に、水夫の幾人かがびくっ、と身を竦ませる。そんな様子を把握しつつ、ティモネはさらり、とこんな事を言う。 「尻込みする男は要らないのよ……今すぐ船から降りなさいな」 彼女の言葉に、騒いでいた者たちは言葉を失う。こんな嵐の中、敵が向かってくる中、一体何処へ逃げればいいのだろうか? 彼女は言葉を続ける。 「生き延びたいなら戦いなさい。積み荷と船が惜しいなら戦いなさい。命を奪うのも奪われるのも怖いなら、奪わないように戦いなさい」 波の音、飛沫の音、風の音。それに負けじとティモネが叫ぶ。彼女にも息子が居る。家族が居る。守りたい仲間が居る。家族を養う為にも、もっと稼がなくてはならない。その為に、彼女は戦うつもりなのだ。 元海賊の水夫たちが、更なる声援を送る。それに頷き、要も拍手する。ナオトは襟を正し、ティモネに続いて叫ぶ。 「俺達はこの船と積み荷を守るよう依頼された。絶対守ってみせるよ。でも、俺達3人じゃ力が足りない。力を貸してくれるよな、海の男達! 」 効果があったようで、水夫全員が力強い返事を返す。船全体が一丸となり、戦いへの意思を見せる。それと同時だろうか。要の声が響いたのは。 「敵船確認! 交戦の意思ありと判定! こちらにむけて砲台を向けてきたわ!! 」 そうでなくちゃな、とでも言うようなナオトの笑み。彼はサングラスを正し、水夫たちへと檄を飛ばす! 「さぁ、交渉なんて情けないことはしない! 砲台の準備を! 」 「貴方達に護りたいものがあるなら、死ぬ気で足掻きなさい! 」 さあ、一緒に戦いましょう、と腕を上げるティモネ。2人の言葉に水夫たちも盛り上がり、船全体が唸っているような声援が上がった。見張りをしていた要にも、それは伝わり、気合が入る。 「ナビゲートは任せてねっ! 」 彼女は富士さんの力『ミネルヴァの眼』をフル活用し、敵船や周りの状況把握に努めた。そして、敵船の大砲の1つが、こちらへ威嚇するのが見えた。 ――ドドーンッ!! 大砲が鳴り響く。敵船を見ると、何門もの大砲が向けられているのが見えた。要のナビゲートのお陰か、水夫の巧みな舵捌きのお陰か、被弾は免れている。 「うわぁっ! 」 傍で大きな水柱があがり、甲板がぬれる。揺れる船の上、ナオトは更に瞳を輝かせた。 (やっぱり船でのバトルは外せないよなぁっ! ) 彼はにやり、と笑うとお腹から声を張り上げる。 「まだ撃つな! 相手の思う壺だ」 敵船が近づき、大砲での攻撃が効果的に効く距離を測る。その間にも要の声が見張り台から響き渡った。 「引き続き9時の方向から弾が来るわっ! 」 風を切る弾の音にティモネが唇を噛む。紙一重で避ける事が出来たものの、これでは埒が明かない。 「まだかしら? 」 「いや、もう直ぐだ。……みんな引きつけてマストを狙えよっ」 ナオトが帽子を押え、揺れに負けじとふんばる。砲撃手達もまた間合いを読み、その掛け声を待っている。バーン、と再び上がる水飛沫。それを全身に浴びながら、ティモネ達はその時を待った。 と、その時。要が嬉々とした声を上げる。波は荒いものの、それでも彼女と富士さんのコンビネーションは崩れていなかった。酷く揺れる中、要の声が響き渡る。 「メインマストが良く見える位置に来たよ! いけるっ!」 「今だっ! 撃てぇぇえぇ!! 」 ナオトの声にあわせ、一斉に大砲が唸りを上げる。敵船の傍で幾つもの水柱がち、ティモネと要は望遠鏡で敵の様子を探る。と、メインマストに大きく皹が入ったのを確認した。その他にも1つ、2つの穴も確認できた。 一方、ナオト達の船は大砲の弾がかすったのか、サブマストに大きな皹が入り、船に幾つかの傷が出来ているがその程度で済んでいるのが幸運だろう。 「あら、あと少しでしたのに……」 ティモネがそう言った先、敵がフックつきロープを渡してきた。水夫たちは乗り移ろうとした海賊たちを片っ端から追い払う物の、やはり全ては落としきれなかった。 わらわらとやって来る海賊たちを確認し、マストの見張り台から素早く要も下りてくる。こうして、自然と乱戦状態に陥った船の上で、第二ラウンドは幕を開けた。 転:ロストナンバーVS海賊三幹部!! 船へと来た海賊たちを、ナオト達が総出で出迎える。敵は30人から40人。それに対し、ナオト達は23人。不利ではあるが、その分ロストナンバー達にはギアと経験がある。3人はそれぞれ得意な得物を手に存分に暴れまくっていた。 (これが使えそうだな) 乱戦の最中、倒した敵が落としたであろう剣をナオトが素早く拾う。襲い掛かってくる敵を1発の蹴りで沈め、左手の白い銃と右手に持った剣を握り締める。そして 「あ……、今、俺、海賊っぽい! 」 「どうみても海賊だから、キャプテン! 」 そんな呟きに思わず突っ込む要。彼女はトラベルギアであるデッキブラッシを武器に大立ち回りを繰り広げていた。次々に襲い掛かる敵を突き、なぎ払い、攻撃をいなす。そうして、自然とナオトと背中合わせになる。 「うふふ、仲が良いのね……すてきな事だわ……」 2人の様子をみたティモネがくすくす笑う。が、その一方でナイフを使い、敵を峰打ちにしていた。時におさげで目潰しをし、時に足を引っ掛けて。 「うおおっ! キャプテンに続けーっ! 」 「要ちゃん、ここは俺たちに任せるんだーっ! 」 「よっしゃあ、見ててください、ティモネ姐さん!! 」 ロストナンバーたちの戦いっぷりが、水夫たちにも火をつけたらしい。元海賊だった彼らはもとより、そうでない水夫たちもまた剣や棍棒で応戦している。よく見ると商人を含めた水夫以外の乗組員たちも武器になりそうなものを持ち出してがんばっていた。 「船は、私達でどうにか守れそうです! 」 商人の言葉に、3人は頷く。そしてもう1度敵船をみたその刹那、ひゅん、と何かが風を切った。 「なっ?! 」 「久しぶりに船が来たと思えば、若造だらけの海賊船とはな。ワシらの塒に来たのが運の尽きじゃな、お若いの」 ナオトが顔を向けると、長い白髪を靡かせた老人が、敵船のメインマストから叫んでいた。彼はロープでひゅうん、と降りるとナオトに向けてにやり、と笑う。 「キャプテンはおぬしだろう? ワシとやり合おうではないか」 「受けたぜ、じぃさん! キャプテン・ナオトに二言はないっ! 」 弓使いの老人は、再び矢を番える。ナオトは次々に放たれる矢を避けつつ敵の船へと乗り込んだ。その様を見ていた要とティモネであったが、2人もそれぞれ戦う相手を見つけた。 「ねぇ、おれの相手ってどっちがしてくれるんだい? 」 そう言ったのは黒髪を雑に束ねた青年だった。ナックルを嵌めているところから、拳士のようだ。要がデッキブラッシの柄を甲板に打ちつけ、笑う。 「あたしよ。甘く見てると、痛い目みるけどいいのかしら?」 「おう、上等だ! 」 拳士がちょいちょい、と指で誘う。要は1つ頷きツインテイルを靡かせて走り、デッキブラッシを一閃! ひょい、と避けるその隙を縫って、1人の女性が飛び込んでくる。ティモネは咄嗟にナイフで受け流し、翻ると彼女によく似た剣士だった。彼女はくすり、と笑う。 「じゃあ、アタイの相手はアンタ、だね? 」 「ええ、いいですよ」 言った傍からティモネと剣士はぶつかり合う。ナイフと剣ではリーチ差があったものの、2人は互角。不敵に笑い合うとどちらからとも無く再びぶつかり合った。 嵐は続く。何処からとも無く雷鳴が響き、土砂降りの雨が降り出した。それでも、海賊たちの戦いは止まらないッ! バケツをひっくり返したような激しい雨が、要の体を打ちつける。最初のうち、デッキブラッシで相手の攻撃をいなしていた彼女だが、今では得意の空手で応戦していた。 「はぁっ! 」 彼女の重い一撃をかわすと、拳士は軽やかにロープを使って壁を蹴る。その反動を生かして要へ蹴りを放つ! 間一髪の所でそれを避けていると、自分の真上をナオトが飛んだのが見えた。 「お若いの、なかなかやるようじゃな……」 老人の声が響く。ナオトは悪天候の中、的確に自分へと飛んで来る矢に負けじと老人へと向かっていた。矢を銃や剣を使って落とし、時に慣れたステップでかわして。 「まぁ、それなりに修羅場潜ってる身なんでね」 ナオトが、サングラスの奥で不敵に笑う。足場は濡れていて最悪だが、どうにかいつもどおりに体が動く。銃と剣を握り締めた彼は、休む間もなく間合いを詰める。その目の端、自分たちの船でティモネが戦っているのが見えた。 「へぇ、やるじゃないか! 」 女剣士が唸れば、ティモネが避ける。ナイフでは分が悪い、と悟った彼女は敵から奪った剣で攻撃を受け流していた。が、慣れていない武器は手に馴染まず、防戦する一方だった。 (タイミングさえ合えば……! ) 彼女は、ロープを見つける。それに捕まって浮かび上がり、樽を蹴り倒す。それが真っ二つに斬られた時、ティモネは既に別のロープへと移っていた。 「おのれ、ちょこまかと……っ」 剣士は歯軋りをしつつティモネを追いかけた。因みに、彼女のそんな姿を見ていた要は「あんな綺麗で強いお姉さんになりたいな」と素直に思うのだった。 しばらくして。要と拳士は睨み合っていた。幾度か戦っているうちに互角である事がわかったのだ。強風に煽られつつ互いの呼吸を読み合う。 (さぁ、どうする、要? ) 自分自身に問い掛ける。拳士はちらりと剣士を見た。剣士は挑発するかのように走るティモネを追いかけ、すっかり頭に血が上っているようだった。 その様子と拳士の様子見、要が動いた。気が散ったであろう拳士の鳩尾を狙い、拳を繰り出す。が、跳ね除けられる。そして、僅かな隙を捉え、懐へ潜り込んだ。 「あらよっと! 」 だんっ、と背中から叩きつけられる要。衝撃で息が詰まり、思わず咳き込む。拳士はさらに蹴りを放ち、それをどうにか転がってかわすも目が回って気分が悪くなった。よろよろと立ち上がる要に、拳士は苦笑する。 「大人しく俺についてくれば、命は助けてやるけど? 」 その言葉に、要は歯を食いしばる……。 一方、ティモネもピンチに陥っていた。彼女はナイフや剣で応戦していた物の、サブマスト付近に追いつめられていた。剣が掠めたのだろう、頬に血が滲んでいる。ふと、視線を敵船に向けると、老人の放つ矢を交わしながら、銃で応戦するナオトの姿が見えた。 「逃げてばかりじゃ、面白く無いねぇ? 隠し玉でももってんでしょ? 」 剣士が苛々したように叫び、剣を一閃! すると、皹の入っていたサブマストはみしみしと嫌な音を立てる。 「これは、ピンチかしら? 」 苦笑いをするティモネへ、折れたサブマストが迫る……! ナオトは、サングラスを外し懐へしまう。そして、ぐっ、と歯を食いしばった。避けそこなった矢が腕や足を掠め、傷は僅かに熱を帯びていた。滑り易い材質なのか、船の上がどんどん走りづらくなっていく。 (じぃさん、粘るなぁ) 再び、老人が矢を放つ。しかし、ナオトの計算ではもう、矢は残り僅かな筈だ。そう、考えつつ老人の居場所を探っている目の端に、崩れる要の姿が目に入った。そして、ティモネの姿が見えない……? (要ちゃん!? ティモネさん!? ) その隙に、1本の矢が迫り……。 結:華麗なる勝利!? ――ドドーンッ!! ナオト達の船の、サブマストが折れた。そして、敵船の甲板に倒れ掛かる。 その震動でバランスを崩した事が良かったのか、ナオトは矢をかわす事が出来た。場所が悪かったのか、高台に居た老人は足を滑らせる。好機と読んだナオトは間合いを詰め、強力な蹴りを放った。かわしきれず、老人は弓を飛ばされる。懐のナイフに手を伸ばそうとしたが、ナオトが銃を突きつける方が早かった。 「アンタの負けだけどどうする? キャプテン・ナオトが降伏交渉に応じてあげようか? 」 老人はしぶしぶ両手を上げる。手早くロープで拘束すると、ナオトは走り出した。 「くっ……」 「我慢強いね、君。気に入ったよ」 拳士が笑う。要はさっきの震動で足を滑らせ、船から落ちようとしていた。拳士はそんな彼女をニヤけた目で見つめる。 「この手を踏みつけたら、どうなるかなぁ? 」 と、その手を踏もうとした時、数発の銃声が響き渡る! 拳士がそれに気を取られた隙に、要の手を握る者が居た。……ナオトである。 「た、隊長?! 」 「ふぅ、危機一髪って奴かい? 」 まるで王子様みたい……と思いながら引き上げられていると、その背中に拳士が迫るのが見えた。 「てめぇっ! 」 「させないっ! 」 要が身を翻し、軽く足を蹴る。と、拳士は荒れた海へと落ちていった。どうやらかなづちだったらしく、わぷわぷと溺れ、海賊たちが助けに行くのであった。 そんな様子も知らず、要は顔を真っ赤にする。そして、すこしあたふたしつつこう言うのだった。 「さっすが隊長! 見直したわ! 」 「あらあら、御邪魔だったかしら? 」 急にそんな声がしたかと思うと、ティモネだった。彼女はいつの間にか敵船へと移っていたらしい。その白い手にはトラベルギアである長大な黒い鎌が握られている。 「ティモネ! 無事だったのね! 」 要の言葉にティモネはにこやかにぴらぴらと手を振る。一方、確実に始末した、と思い込んでいた女剣士はその姿に唖然となった。 「あ、アンタ……柱の下敷きに……」 「人のものを奪いに来るという事は、さぞ奪われる覚悟がお有りなんでしょう。覚悟なさい? 」 気絶なんて許さないわ、と不敵に微笑むティモネ。彼女はウインクし、ナオトは何かを感じ取って要を抱えてそそくさと退散。そして、ぎゅっ、と鎌を握り締める。そして、大きく振りかぶった。 ――ふふっ、しかと焼き付けておく事ね。 結論から言おう。ティモネの振った鎌は、敵船メインマストを折り、倒す事で船を半壊させた。その様をみた海賊たちは戦意を軒並み喪失させ、塒へと帰っていった。 そして雨は上がり、雲の切れ間から光が差す。ナオト、要、ティモネの3人は、水夫たちと一緒にその光景にしばし見とれていた。 夜。甲板ではちょっとした食事で宴となっていた。香辛料は守れ、船自体の被害も少ない。完全勝利という結果に、大いに沸いた。 ティモネが作った料理は見た目こそおいしそうではあったが、食べた水夫たちが甲板を転がって水を求めたのは、香辛料が多かっただけではなさそうだ。 「あら? 少し多すぎたかしら……」 そんな様子を見たナオトはトロピカルジュース片手に苦笑する。そんな彼の傍で、要が頬を赤くして見上げている。 「どうした? 」 「……さっきは、ありがとう。助かったわ、隊長」 それだけいうと、彼女は恥ずかしそうに身を震わせ、宴会へと戻る。そんな姿を可愛く思いつつナオトもまた頬が赤くなるのを感じた。そんな様子をティモネは優しい笑顔でみつめ、ウインクする。 船は、穏やかな夜の海をゆるやかに進む。その先、目的地である港町がうっすらと見え始めた。夜明けにはたどり着くだろう。3人のロストナンバー達は、達成感を胸に眠りにつくのだった。 その後この海域に『拳士の少女と大鎌使いの女性を従えた青と黒、斑髪のキャプテンが率いる海賊団』の噂が流れた……とか。 (終)
このライターへメールを送る