オープニング

 ヴォロスのとある地方に「神託の都メイム」と呼ばれる町がある。
 乾燥した砂まじりの風が吹く平野に開けた石造りの都市は、複雑に入り組んだ迷路のような街路からなる。
 メイムはそれなりに大きな町だが、奇妙に静かだ。
 それもそのはず、メイムを訪れた旅人は、この町で眠って過ごすのである――。

 メイムには、ヴォロス各地から人々が訪れる。かれらを迎え入れるのはメイムに数多ある「夢見の館」。石造りの建物の中、屋内にたくさん天幕が設置されているという不思議な場所だ。天幕の中にはやわらかな敷物が敷かれ、安眠作用のある香が焚かれている。
 そして旅人は天幕の中で眠りにつく。……そのときに見た夢は、メイムの竜刻が見せた「本人の未来を暗示する夢」だという。メイムが「神託の都」と呼ばれるゆえんだ。

 いかに竜刻の力といえど、うつつに見る夢が真実、未来を示すものかは誰にもわからないこと。
 しかし、だからこそ、人はメイムに訪れるのかもしれない。それはヴォロスの住人だけでなく、異世界の旅人たちでさえ。

●ご案内
このソロシナリオは、参加PCさんが「神託の都メイム」で見た「夢の内容」が描写されます。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・見た夢はどんなものか
・夢の中での行動や反応
・目覚めたあとの感想
などを書くとよいでしょう。夢の内容について、担当ライターにおまかせすることも可能です。

品目ソロシナリオ 管理番号1893
クリエイターthink(wpep3459)
クリエイターコメントあなたの見る夢はなんですか?
夢の内容についてはそれなりに設定して頂いた方がイメージを掴めると思います。

尚、プレイング受付期間は短く設定させて頂いておりますのであらかじめご了承下さい。
どうぞ宜しくお願いいたします。

参加者
秋保 陽南(cymn6293)ツーリスト 女 22歳 降魔掃討部隊の隊員/薬師

ノベル

 暗闇の中に一筋の光が差し込むように、不意に視界が明るくなる。
 意識はハッキリとしているのに、自分の身体を見ることが叶わない。ふわふわと空中を浮遊しているような感覚がある。
 足下に広がるのは広大な都市の光景だった。大小様々な建造物が連なり、一目で発達した都であることが伺えるが、少し視点を外してみると、裏腹に古典的な鉱山が存在していると分かる。また、辻の至るところには尖った銀の結晶柱が無数に見受けられる。
 俯瞰しているうちに、陽南は思い出した。ここは金行の都である西都――鉱物の都だ。わたしが産まれ、生きていた世界。
 (あの日、獅子型魔に重傷を負わされて、わたしは……)
 覚醒の切っ掛けとなった記憶が脳裡を巡る。すると、まるで映画の場面が切り替わるように、ふっと視界が明滅した。

 ***

 都から他の村へ至る長く険しい山道へ、いくつもの靴音が響いている。
 降魔掃討部隊に所属する種族は様々だが、今その山道を駆けずり回っている者の中には獣人が多く目立った。それは、陽南が身を置いていた辛二番隊の隊員の特徴でもある。
「――各務隊長!」
 隊員の一人が、木々を掻き分けるようにして現われるなり叫んだ。道の片隅で立ち止まり、何かを取り囲むようにしていた男達が一斉に顔を上げる。各務隊長こと蜥蜴の獣人は振り向き、憔悴しきった表情で見合う。
「ご苦労。どうだった? 陽南の所持品は」
「それが、……五色星が少しだけだそうです」
 答えを聞いた瞬間、各務隊長の瞳が大きく瞠られ、ある種の諦めを乗せて伏せられる。
「そうか」
 沈痛な声を合図とするように、彼らは改めて地面を見下ろす。そこには、まだ生々しい大量の血痕と、もはや陽南のものとしか考えられない、五色星が名残のように散らばっていた。陽南は叫びたくなる。
 ――わたしはまだ生きてます!
 上空から見ていることしか出来ず、伝えられないのがもどかしく、ただただ歯痒い。
「とすると、陽南はもう」
「かもしれんな。掃討の最中に死者が出るのは仕方がない。だが遺体がないのは異常だ。獅子型魔に頭から喰われ尽くされてしまったのか、あるいは……」
「……いや、この血痕からするとその可能性は考えられない」
「だが……」
 ――違うんです! 生きてます、生きてるんです!
 声なき声を振り絞り、陽南は叫び続ける。
 わたしは必ずそこへ戻ります。わたしは絶対に戻ります!
 それは願いのようでも、あるいは誓いのようでもあった。

 わたしは絶対に帰ってみせる。
 帰って、無事に生きているということを示すまでは、絶対に死ねない。

 やがて、目の前に深い霧が掛かるように何も見えなくなって行く。少しずつ遠ざかって行く世界の中で、ふと頭上を仰いだ各務隊長が、目を丸くして陽南を見た――気がした。
「隊長?」
「いや、今何か聞こえたような――気のせいかな」

 ***

「思い出した!」
 寝床から跳ね起きた陽南は、息を弾ませるまま今しがたの夢を回想していた。そうする間に文字通り思い出した事がある。他にも、自分と同じように忽然と姿を消してしまった人達がいた筈だ。それも、自分とは比べものにならない程に高名な――。
「五行長さま……?」
 唇から滑り出た名前に、驚いたように手が震える。
「あ、あと、赤燐さまも。土砂崩れに巻き込まれて、でも所持品見つからなくて……」
 立て続けに南都統治者の名前を挙げたところで、陽南の目はくるくると回り始める。
 なにせ、相手は統治者で、陽南にとっては神さまのような存在なのだ。
 そんな人達が覚醒し、ロストナンバーとなっている可能性があるだなんて。どこかで遭遇する可能性もあるだなんて。
 
 それは一体いつの日か――今はまだ分からないが、ほどなくバタンと倒れ伏し、キューッと気絶してしまった陽南には、そのくらいで丁度いいのかもしれなかった。

クリエイターコメントお待たせいたしました。
五行長様と赤燐様に関する下りの解釈に若干自信が無く、とらえ方を間違えていたら申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
公開日時2012-05-05(土) 11:50

 

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