オープニング

 ヴォロスのとある地方に「神託の都メイム」と呼ばれる町がある。
 乾燥した砂まじりの風が吹く平野に開けた石造りの都市は、複雑に入り組んだ迷路のような街路からなる。
 メイムはそれなりに大きな町だが、奇妙に静かだ。
 それもそのはず、メイムを訪れた旅人は、この町で眠って過ごすのである――。

 メイムには、ヴォロス各地から人々が訪れる。かれらを迎え入れるのはメイムに数多ある「夢見の館」。石造りの建物の中、屋内にたくさん天幕が設置されているという不思議な場所だ。天幕の中にはやわらかな敷物が敷かれ、安眠作用のある香が焚かれている。
 そして旅人は天幕の中で眠りにつく。……そのときに見た夢は、メイムの竜刻が見せた「本人の未来を暗示する夢」だという。メイムが「神託の都」と呼ばれるゆえんだ。

 いかに竜刻の力といえど、うつつに見る夢が真実、未来を示すものかは誰にもわからないこと。
 しかし、だからこそ、人はメイムに訪れるのかもしれない。それはヴォロスの住人だけでなく、異世界の旅人たちでさえ。

●ご案内
このソロシナリオは、参加PCさんが「神託の都メイム」で見た「夢の内容」が描写されます。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・見た夢はどんなものか
・夢の中での行動や反応
・目覚めたあとの感想
などを書くとよいでしょう。夢の内容について、担当ライターにおまかせすることも可能です。

品目ソロシナリオ 管理番号1926
クリエイターthink(wpep3459)
クリエイターコメントあなたの見る夢はなんですか?
夢の内容についてはそれなりに設定して頂いた方がイメージを掴めると思います。

尚、プレイング受付期間は大変短く設定させて頂いておりますのであらかじめご了承下さい。
どうぞ宜しくお願いいたします。

参加者
シュマイト・ハーケズヤ(cute5512)ツーリスト 女 19歳 発明家

ノベル

 0世界におけるシュマイト・ハーケズヤの住居。英国風の巨大な屋敷の広々としたテラスには、柔らかな日差しが燦々と降り注いでいる。時折、さあっと吹き渡る春の風が木々を揺らし、そこに集う人々の歓談の音を運ぶ。うららかな午後のティータイムにはもってこいの気候だ。
 清潔なテーブルクロスの敷かれたテーブルの上には3つのティーカップ、白磁のティーポット。バスケットから溢れんばかりに盛りつけられたチョコレートクッキー──これはきっと誰かの手作りなのだろう。
 シュマイトは優雅な手付きでカップを置き、頬杖をつく。見つめる先には、円卓を挟んで向かい合うように座る友人二人の姿がある。
 親友のサシャ・エルガシャと、その恋人となったマルチェロ・キルシュは、時に破顔し、また時には目を丸めるようにして、実に愉しげに会話を交わしている。それに相槌を打ち、また何か新しい話題を振るように身を乗り出すシュマイト自身も、この穏やかな時を心の底から楽しんでいるようだ。一体何を話しているのか、その声までは聞こえない。だが、くるくると移り変わる表情と彼らの瞳の輝きとが、自ずとそれを伝えてくれるのだ。
 ああ、なんて幸福なのだろう──夢の中のシュマイトはうっとりと瞑目する。
 自分にとって大切な存在である二人が、例え立場が代わっても、変わらず傍にいてくれる。こうして三人で、何気無い日常を共にする事が出来る。
 その幸せを噛み締めながら、シュマイトは頬を崩した。舌に優しい温度の、芳しい紅茶を口に含む。
 この二人に永遠の祝福がありますように。
 何の迷いもなく胸の内で告げた瞬間、サシャとマルチェロは顔を見合わせ、それからシュマイトを振り向いて揃うようにはにかんだ。
 まるで嘘偽りのないシュマイトの祈りが伝わったような。そんな、心温まる微笑み方だった。

 ***

 眠りから覚めたシュマイトはゆったりと身を起こし、薄闇の中で俯いた。暖かい気持ちに包まれるままの胸に手を押し当て、猫を思わせる瞳に驚きを乗せる。
 今の自分は、夢で見たような状態にはない。むしろ逆なのだ。
 親友のサシャと恋人であるマルチェロの仲が極めて順調なのは夢の通りである。けれどそれを見守るシュマイトの心は複雑で、二人の仲が深まれば深まるほど自分が置き去りにされてしまうような──サシャが自分から離れて行ってしまうような寂しさと不安を覚え、偽りの笑顔しか向けられずにいた。
 彼女が親友のままでいてくれる、その現状になぜ満足できないのだろう。
 これではマルチェロに嫉妬しているようではないか。
「馬鹿らしい」
 愛らしい顔には不釣り合いに口角を歪めて吐き捨てる。そうしてすぐに眉を顰め、溜息を吐く。この感情が幼稚な独占欲に似たものであることはとっくに自覚していて、なのにどうしようもできない現状にますます自己嫌悪が深まって行く。シュマイトは、胸に爪立て、今しがた見た夢に縋るようにぎゅうっと目を閉じた。
 あれが、正夢になればいい。
 愛を深める彼らを傍で見ていても心揺さぶられることなく、自分の屋敷にも喜んで招く事が出来る。そして純粋に、何の気負いもなく当たり前のように笑う日々を送る事が出来るように。
 だが、憧れの光景を思い描いたところで、シュマイトはふと肩を落とす。
「いや、違うな」
 これはきっと、願うだけではどうしようもない。
「正夢にするのはわたし自身か」
 ぽつりと呟くと、記憶の中で寄り添う二人がまた、幸せそうに笑った気がした。
 シュマイトはやがて背中を押されるように寝床から立ち上がり、それにしても、と独白を逃がす。
「てっきり元の世界や、そこでの大切な人の夢を見るものだと思っていたのに。姿どころか名前すら出て来ないとは不思議だな」
 つまり、今の自分にはこの世界での親友たちの方が大事なのであると捉えざるを得ないのが困る。
 トレードマークである紫の帽子を目深に被って、人知れず苦笑する。
「……本当に不思議だ」

 自分にとって彼らは──この世界は、いつの間にここまで胸を占める存在になったのだろう。
 今まで気付かなかった自分の新たな一面を発見したシュマイトは、新鮮さと驚きを胸に歩き出し──やがて、天幕を潜るように外へ消えた。

クリエイターコメントお待たせいたしました。
切なくて可愛らしいプレイングにきゅんとしました。少しでも表現出来て居ればと思うのですが、楽しんで頂ければ幸いです。
公開日時2012-05-15(火) 21:10

 

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