クリエイター瀬島(wbec6581)
管理番号1209-20885 オファー日2012-12-06(木) 21:57

オファーPC カンタレラ(cryt9397)ロストメモリー 女 29歳 妖精郷、妖精郷内の孤児院の管理人
ゲストPC1 クージョン・アルパーク(cepv6285) ロストメモリー 男 20歳 吟遊創造家→妖精卿の教師

<ノベル>

 小雪ちらつくターミナルの聖夜。赤と緑、金と銀に彩られた街並みに、道行く人々は皆どこか気もそぞろ。コンダクターの子供たちはサンタクロースの居る居ない議論に花が咲いたり、それを横で聞くツーリストの子供たちはよくわからないがとにかくいつもと違うごちそうとプレゼントが貰える日の訪れに浮き足立ったり。そんな街並みをこれ以上ないほどの溶け込みよう……サンタクロースの仮装で闊歩するクージョン・アルパークもまた、クリスマスに心浮かれ足が急くひとり。

「メリークリスマス、カンタレラ!」
「メリークリスマスなのだ!! ……にしては、随分遅かったのだ」

 時間は夜の八時半、カンタレラが待つ部屋の前。クージョンが呼び鈴を鳴らすより先に足音でその訪れに気づき出迎えたトナカイ姿のカンタレラは、約束の時間に遅れたことへの不満よりも会えた喜びが先に顔と口に出てしまったようで、きっと顔を合わせたらあれこれ言ってやろうと用意していたであろう台詞をまるごと取りこぼしてあわあわしている。

「ごめんごめん、ケーキがなかなか決まらなくてさ。30分遅れた代わりに、30分長く隣に居るから許してよ」
「……む、ケーキなら仕方ない、許してやるのだ」

 カンタレラは不満そうにつんと口をとがらせてはみせるが、今日この時を待ちわびていたせいかそれも長くは続かない。すぐにへにゃりと眉を下げてクージョンを歓迎する表情の変化が、クージョンにはどうにも愛おしい。

「(ケーキ選びに迷ってよかったと思うじゃないか)」
「今何か言ったか?」
「何でもないよー」





 既にスイッチの入っている電気コタツの上には、カンタレラが腕によりをかけて用意したクリスマスディナーが主賓を待っている。飲み頃の温度にキリッと冷やしたとっておきのシャンパンが氷を敷き詰めたワインクーラーにしつつ、昨日から丁寧に蒸して一晩寝かせた鴨のテリーヌに、ベーコンとタマネギたっぷりのシンプルなキッシュも。もうすぐ焼きあがるナスとボロネーゼのペンネグラタンはオーブンからチーズの香ばしい匂いを漂わせているし、勿論カンタレラの大好物な三色串団子もこっそり置かれている。カンタレラがどれだけ今日を楽しみにしてきたか、コタツの上の光景からだけでもうかがえる。

「コタツでディナーって新鮮だね?」
「和洋折衷なのだ、いいとこどりなのだ!」

 新しい座布団を敷いた席にクージョンが座るよう促し、カンタレラはその隣に。コタツの足がちょっぴり邪魔ではあるが、ほとんど身体をくっつけて並ぶ姿は独り寂しくクリスマスを過ごす者たちにとって格好の呪いの的であろう。だがここはカンタレラの部屋で、今は二人きり。

「ところでさ、今日の僕に何か言うことあるんじゃない?」
「クージョンが先なのだ!」

 ケーキを冷蔵庫にしまい、コタツに脚を入れたクージョンがいたずらっぽく笑う。察したカンタレラも笑みを返し、いつの間にか脱げていた可愛い角つきフードをかぶり直して瞳をきらきらと輝かせる。

「あはは、お待たせ僕の可愛いトナカイ!」
「ずーっとずーっと待ってたのだ、世界一すてきなサンタクロース!」

 お互いがお互いの瞳を見つめ、声を上げて笑い、額をこつんと合わせて。かぶり直したトナカイフードがまた脱げてしまったが、クージョンは構わずカンタレラのこめかみにそっと唇を寄せる。

「いつ言おうかなって思ってたけど、うん、すごく似合うよ」
「クージョンのサンタクロースのほうがずっと素敵なのだ」

 頬を両手で挟み合い、視線を絡めては恥ずかしくなってすぐに逸らし、また笑い合って。

「ずっとこうしててもいいけど、君の努力の結晶が拗ねちゃいそうだ」
「は、そうなのだ。あたたかいうちに食べるのだ!」

 クリスマスの魔法は二人をいつもより素直に近づけて、そしてぴったり寄り添わせて離してくれないらしい。ディナーのいい匂いがやっとその魔法を薄れさせたようだが、きっとすぐまた二人は魔法のとりこになるはず。





「カンタレラ。はい、あーん」

 鴨のテリーヌを一口サイズにカットして、クージョンがカンタレラの口に運ぶ。蒸しあがりから一晩経ってしっとりなめらかになったテリーヌはカンタレラの舌の上でやわやわととろけ、一度ローストした皮の香ばしさとパテにしたレバーのこっくりとした風味が混ざり合った食感は作った本人もうっとりとしてしまう。

「カンタレラはいつも美味しそうに食べるよね」
「……クージョンが食べさせてくれたのだ、美味しくなって当然なのだ」

 カンタレラが照れ隠しのようにうつむいている隙に、クージョンもテリーヌを一口。カンタレラの見せる表情にも納得といった具合に目を細める。

「うん、すごく美味しい。全部自分で作ったんだろう?」
「そうなのだ! クージョンに喜んでもらう為に全部ひとりでやったのだ」

 テリーヌを飲み下し感心したように微笑むクージョンに、カンタレラは得意満面。次はどれを食べてもらおうかとそわそわするカンタレラの横顔を眺め、クージョンがぽつりと呟く。

「なんかさ、幸せ」
「はへ? ……クージョン?」

 人魚姫の吐息のように細かく立ち上る泡ごとシャンパンをくいと飲み干し、クージョンは屈託なくカンタレラに笑いかけている。当のカンタレラはクージョンの言葉を聞き逃したわけではないが、意外な言葉に呆けた顔を返すので精一杯のようだ。

「カンタレラはもしかしたら気づいてないかもしれないけど、私はすごく幸せ者だと思ってるんだよ?」
「クージョン、それは……その」


__我と居ることがか?


 つい、カンタレラの口をついて出そうになった疑問の言葉。こんな空気の中で、笑って言ってくれることなのだからそうに違いない、だけど自分は。もしそうだったとしても、それを受け取るのにふさわしくなど。

「こっちを見てよ、カンタレラ」
「み、見ているぞ」

 クージョンの言葉がカンタレラの目線をうろうろと落ち着きなく彷徨わせる。見ていると強がったものの、カンタレラの瞳はコタツの上で汗をかいたシャンパンボトルや食べかけのグラタン、コタツ布団の千鳥格子模様などの上をちらちらと移り、その赤い瞳は沈むタイミングを失って水平線を染める夕陽のようだ。

「こうして、私の帰りをこんなに楽しみに待っててくれる君が居る」
「そんなこと……当然なのだ」

 シャンパングラスを持っていたクージョンの手が、コタツ布団で所在なく爪をいじっていたカンタレラの手を取りぎゅっと握る。さまよう太陽はその一点に釘付けになり、クージョンはその様子を見てまた笑った。

「当然なことなんて無いよ、カンタレラ。どんなに遠い旅路に居ても、振り返ればちゃんと君が手を振ってくれている。だから私は帰ってくることが出来るんだ」
「……ずるいのだ……」


__ずるい、クージョンはずるい


 そんな風に言われたら、ふらりと旅に出られて寂しくなってしまう気持ちを口に出せないじゃあないか。そんな拗ねた気持ちが思わず声になって出てしまったことに気づき、カンタレラは握られた手をほどきはっと口に手を当てる。だがクージョンはそれもお見通しといったように微笑んだまま、もう一度カンタレラの手を握り直しそっと持ち上げる。

「私は君に寂しい思いをさせているんだよね?」
「……」

 そう面と向かって聞かれては、頷けるものも頷けない。再びゆらり揺れる視線の意味はきっと『そう、とても寂しい、だけどそれは簡単に口にしてはいけない』。思ったことを言葉に出来ないのも、気まぐれで振り回していしまうのも、糸を手繰ってみればいつも同じ所にたどり着くのだ。カンタレラは気まずそうに口をつぐむ。ワインクーラーで融けた氷がからりと、やけに大きな音を立てて滑り落ちた。

「……やっぱり、こっちが先に言葉にしないと駄目かな」
「?」

 クージョンの手にいつか、樹海の奥で怯える背中を抱きしめたときの記憶が甦る。自分が知らないカンタレラの半生に、カンタレラが一人背負い続けてきたものに、大丈夫だよなんて無責任なことは言えない。だけど、幸せにしてやりたい。

「カンタレラ、ありきたりな言葉でしか言い表せない私を許してほしい。君が好きなんだ」
「なっ、な、いきなり……」

 これまでの旅路で創り上げ、唄うように紡いできた言葉たちが、クージョンの頭の中ではらりはらりと剥がれて落ち葉のように舞う。ほんとうに伝えたいことは、言葉で飾れない。

「勝手をしても待っててくれる君も、時にはヤキモチを焼いて突然怒ってしまう君も、拗ねたり喜んだりくるくると色んな顔を見せてくれる君も、大好きだ。……だから」


__我は怒られるのだろうか……?


 喧嘩とも言えない癇癪でひとりヴォロスに飛び出してしまった日のことをまだ怒っているのだろうか? もうあんな無茶をするな、何も出来ないのならもっとおとなしくしていろと言われるのだろうか? ネガティブな考えがカンタレラの頭をぐるぐると渦巻き、クージョンが言葉にしてくれた『好き』の一言の重さを感じる間もなく、カンタレラの心はぐらり揺らぐ。

「だから、この間みたいなことになる前に、もっと声を聞かせて」
「声……を?」

 叱咤の言葉を覚悟し、びくりと身を縮めていたカンタレラは、クージョンの続ける言葉に鸚鵡返しをするしか反応が出来なかった。

「私も君も、いつも本当に大事なことを言葉にしないって、柊木さんが教えてくれたからさ」

 改めて人に指摘されたことを思い出し、照れくさそうに眉を下げるクージョンの瞳は優しくカンタレラを捉えている。カンタレラはそのまっすぐな視線に応える術を持ち合わせずに、握られたままの手をただぎゅっと離さずにいることしか出来なかった。

「クージョンは……怒っていないのか」
「怒る? どうして? 怒ってたらサンタの格好でケーキなんか買ってこないだろ」


__ああ


 そうだ、クージョン、この人はいつもこうだ。
 何かを強いたり、咎めたり、縛ったりしない。求められることに応えればそれでよかったあの日々とは違うのだ。一人のヒトとして同じ目線で言葉を交わせることの喜びをどうあらわしていいのか、そして自分はそんな喜びを享受していいのか、クージョンと過ごす時間は喜びと戸惑いとが同じ重さと速さでやってくる。

「我は……クージョンが羨ましいのだ」

 羨ましい。
 与えられたもの、求め見つけたもの、そばにあるものを心から喜びいとおしむことが出来る、クージョンの素直な心が。カンタレラもきっと同じように喜び、差し出された手を素直に受け取りたいと願っているはずなのに、それが出来ない、いや、クージョンを想うあまりに躊躇ってしまうことが哀しくて、ひどく汚れた自分が嫌になる。

「ありがとう、カンタレラ」

 いつの間にか強く強く握りしめていたクージョンの手。
 言葉に出来ない気持ちの全部がその強さに込められている。


__クージョン、我は


 クージョンに出会って、カンタレラは自らの姿を陽の下でやっと見ることが出来たのかもしれない。思っていたよりもずっと汚れて、傷ついて、黒い罪を背負った姿に打ちひしがれてしまったけれど、クージョンがいなければカンタレラはずっと日陰で目をつぶったままだったのだから。それが今もカンタレラの手を少しだけ臆病にさせてしまっているけれど、クージョンは笑ってカンタレラのそばに在る。

「知ってる? 赤鼻のトナカイはずっと泣いてたって話」
「? ……知ってるのだ、サンタクロースが慰めてくれる話なのだ」
「そうだよ、私の可愛い赤鼻のトナカイさん」

 ちょっと待ってて、と立ち上がり、クージョンが冷蔵庫からケーキを取り出してくる。真っ白な生クリームとルビーのようなイチゴでデコレーションされた小さなホールのショートケーキの上には、笑顔でソリに乗るサンタクロースと自慢気にそのソリを引く赤鼻のトナカイの砂糖細工がのっている。

「トナカイの鼻が赤いのをずっと探してたんだ、30分」

 出会えたことに意味があるのなら、赤い鼻も背負った傷も、きっと。

「それに、ケーキにはイチゴが乗ってなくちゃね」

 フォークで大きく一口分取り分けたケーキをカンタレラの鼻先に差し出して、クージョンが目を細める。その様子でやっと笑顔を取り戻したカンタレラがケーキにぱくりと食いついて、今度はカンタレラからお返し。一番大きなイチゴと生クリームをフォークにのせて、クージョンの口元に。クージョンが一口で食べたところを見て、カンタレラは声を上げて笑う。

「……今日のケーキはあんまり甘くないのだ!」

 今宵とびきり甘いのは、スポンジケーキより生クリームより、サンタクロースの唇だから。
 メリー、メリー、メリークリスマス。

クリエイターコメントお待たせいたしました、『Santa Claus said me.』お届けいたします。オファーありがとうございました!
内容がこうでしたのでクリスマスシーズンに間に合わせたかったのですが、お年玉っぽい時期になってしまってすみません。

さて……ターミナル一のバカップルにというご指定、これで…よかったでしょうか……。らぶらぶ具合はこれでもかと詰め込ませていただきました、はい、爆ぜろリア充め。クージョンさんの歯の浮くような台詞ちょう楽しかったです!!!
公開日時2013-01-02(水) 18:40

 

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