クリエイター北野東眞(wdpb9025)
管理番号1158-18583 オファー日2012-07-16(月) 21:13

オファーPC 小竹 卓也(cnbs6660)コンダクター 男 20歳 コンダクターだったようでした
ゲストPC1 モービル・オケアノス(cbvt4696) ツーリスト 男 15歳 戦士見習い

<ノベル>

「生活費がないんですよ」
 カウンター越しに切実に訴える小竹卓也をまるっと無視して司書はせっせっと書類の片付けをしていた。
「本当にそろそろやばいんですよ。まぢで。ほら、自分、こっちに引っ越してきてバイトも辞めちゃったんですよね。けどその関係でお肉は未だに冷凍庫にたんまりとあるんです。けど、ほら、自分、野菜好きですし、このままだと栄養偏りすぎて本当に危ないのですよ。自分フツーの人間なんで危険が少ない簡単な仕事ください。生活費ください。オネガイシマス」
 突っ伏す卓也の横にふっと何かの気配がした。
「あの、これにぼく、行こうと思うんですけど、他に引き受ける人は……?」
 カッ! ――小竹センサー・発動!
 鍛えられた見事な筋肉とそれを彩る鮮やかなペイント、長い尻尾、背中には羽根……竜人の戦士モービル・オケアノスだ。たまたま依頼を受けにきたらしい。
「……っ!!」
 小竹卓也。別名、ドラゴンを愛しすぎる男は本能に従って手をあげた。
「ハイ! はいはいはい! 俺、いえ、自分もその依頼にいきます! 行かせていただきます!」
 モービルが驚いて卓也を見る。
 鋭い金色の眸、突き出た口から見える鋭い上下の牙――!
「モービルさん、噂はときどき伺ってました。一緒の依頼なんて嬉しいです。ぜひ抱きつかせてください。あ、ごめんなさい。調子に乗りました。けど、大好きです」
 ギラギラの目、荒い鼻息の卓也にモービルは瞬いた。
今まで依頼を共にした人間は多くいたが、こんなテンションの相手ははじめてだ。悪意や敵意はないので、もしかして人間族の新種、はたまたなにか病にかかっているのだろうかと心配しつつ、この場合の対応をターミナルの経験からモービルが導き出した答えは
「……もふるがよい……?」
「鍛え上げた筋肉、そのお姿、一目見たときから好きでしたぁああああああ!」
「せくはら禁止ぃいい!」
 ついうっかりモービル相手にルパンダイブを試みようとした卓也は、司書の容赦ない書類パンチによって壁に叩きつけられた――と、気がついたら緑豊かなヴォロスの光景が広がる。ああ、もしかしたらあれは夢? そうか、そうだよな。最近肉しか食べてないから、あんな夢を見たんだよな……と遠い目をして、たそがれていると、ひょっこりと視界に入ってくる者がいた。
「気がついた?」
「! も、モービルさん! え、ここは! え、なんで! 夢、じゃない。痛い!」
 思わず背を預けている樹に頭を打ちつけて現実か確認する卓也にモービルは首を傾げる。
「司書がチケットを手配してくれて、小竹のことは勝手に連れていっても問題ないだろうって……驚かせてごめんね」
「い、いいえ! めっそうもない! え、ロストレイルにのっ……俺の馬鹿、本当に馬鹿、モービルさんに抱きあげられて移動とか、起きていろよ。根性で起きろよ。てかあの司書、扱いひどくない? ひどいよね?」
 後半は樹に拳をぶつけてぶつぶつぶつと呟く卓也。
「小竹」
「……はい!」
「行こうか」
「ハイ! どこまでもついていきます!」
 モービルが歩き出すのに痛みすら忘れて卓也は勢いよく頷いて立ち上がる。

二人はさっそく生い茂る森のなかを進んだ。湿った空気、見渡す限りの緑が孕む仄かな闇……気絶してここまできた卓也には装備らしい装備は皆無に等しい。あるといえば嫁であるドラゴンの手とメーゼ、トラベルギア。
「虫とかいそうですね」
「これ、虫避けの葉っぱ。ぼくが道を開くね。ついてきて」
「どこまでもついていきます。あの、それで依頼内容ってなんでしたっけ」
「え……聞いてないの?」
「司書に殴られて、いろいろと内容が吹っ飛びました。あとモービルさんに興奮してごふごふごふ……すいません」
 モービルの言葉に卓也は明後日の方向を見た。
「ここを進んだ先に山の頂上付近にある竜刻を採ってきてほしいって。ほっておいたら暴走して、噴火する可能性があるから……ただ、火を吹く魔物がいるから注意しろって」
「あっ、森を出……!」
 森を出て見えたのは木造の橋に卓也は目を見開いた。どうやってこのかけたのかと疑問に思うほどに木造の橋はぼろく、足元を見ると切り立った崖、底にはさらさらと川が流れているが遠すぎて小川にしか見えない。
「落ちたら、痛みもなく天国に直行デスネー」
「小竹、行くよ」
「モービルさん、迷いもなく! さすが!」
「そんなことはないよ」
 ふぅと深呼吸をひとつついて卓也は両手で頬を叩いた。
「じゃあ、先に行きますよ。自分のほうが軽いですし!」
 卓也は橋に足を載せて、慎重に進む。ぎぃぎぃと橋は頼りなげに揺れるだけが壊れる心配はないようだ。
「わりと平気かな? ……モービルさん、だいじょ、うおっ!」
 ずぼっ。
 片足が下に落ちた感覚に視線を向けると、卓也の片足が飲みこまれていた。
「落ちつけ、俺。集中するんだ。そーと抜けば大丈夫。ここを避けて、先進めば」
 手に力をこめ、体の中心を後ろにずらしながら足を抜こうとした瞬間、ずぼぼっ! 不吉な音とともに体が五センチくらい沈んだ。
「っ!」
 視線だけ動かすと、なんともう片方の足まで板を貫いて空中を彷徨っている。オーマイガーァアアア!
「こ、これは、……い、いままでの経験から言うぜ。確実にお約束が発動されるフラグ! この場合のお約束といえば」
 ぎちぃ――不吉な音が聞こえた。
「あ」
 ぶち。
「やっぱりぃいいいいい!」
 橋が崩壊したのに卓也は絶叫をあげて落ちる。落ちる、落ちる。

 ぱしぃ。

「モービルさんをもふってもないのに、死ねない、俺!」
「小竹」
「その素敵な筋肉と牙とか、触りたい。出来ればダイブして全身で味わって」
「小竹」
「それで、それで、好きです、結婚してくださいってプロポーズを」
「小竹」
「ああ、もううるさ……っ! 俺の願望力、ついに空すら飛んだ! ターミナルで、壱番世界の人じゃないですよねと言われて数百回、本当に人間やめちまったのかよ!」
「小竹、だいじょうぶ?」
 ひょいとモービルが卓也の顔を覗き込む。
「モービルさんの腕のなか! ……も、モービルさん、モービルさぁああん、すいません。余計な手間かけちゃって」
「ううん。無事でよかったよ。このまま飛んであっちまで渡ろう? 危険なことさせてごめんね。本当はぼくが進むべきだったね」
「そんなことないですよ。自分が言い出したことですし」
「小竹って」
「?」
「ほら、地上だよ」
 橋を渡るまでは緑が生い茂る森だったのに、今視界に広がるのは大小さまざまな白、灰色の岩と剥きだしの地面しかない不毛の山。
「ここの一番上に竜刻があるんですね」
「うん。……小竹っ!」
 モービルが声をあげたのに卓也は目を瞬かせた。ひゅんと風を切って何かが飛び込んできた。
「え、わっ!」
 モービルの手が卓也の腕を乱暴に掴んで引かれて尻餅をついたが、でなければ片腕がもっていかれていたと卓也は敵を見て悟った。
 ふわふわの毛にまだらの黒の狼、金色の目は敵意をたたえ、牙と爪を剥く。
「まだいるみたいだね」
「こっちからもきた!」
 卓也がトラベルギアを構えようとしたとき、頭にひっついていたメーゼがぽかぽかと叩いてきたのに振り返ると、二匹の狼が唸りあげて駆けてきた。
「小竹!」
 モービルが卓也に迫る狼に炎のブレスを吐いて威嚇、自分に襲いかかってきた狼の横腹を大剣で叩き飛ばした。
きゃいん! 狼は悲鳴をあげて地面にひれ伏す。一瞬の攻防戦に卓也はトラベルギアを両手に握りしめて見惚れた。
「本当に惚れてしまうっ!」
 モービルに勝てないと悟った狼たちが一斉に遠吠えすると、それに合わせて別の方向から遠吠えが返された。見ると、斜面を駆けて数十匹の狼たちが雪崩のように迫ってくる。
「ぼくにつかまって!」
 モービルの伸ばされた腕に卓也はメーゼを頭に載せたまましがみつく。モービルは低く飛行し、勢いよく狼のなかに大剣を盾にして突っ込む。狼たちを力任せに薙ぎ払い、横からの奇襲には紅蓮のブレスを吐く。それにメーゼも小さな炎の玉を出してモービルに協力する。
「ひょー、つっえー! って言うか俺いらねー! メーゼまで戦ってるのに俺だけ役立たずですいません! メーゼ、右、右!」
「べ、別に強くなんてないですよ……メーゼも小竹の命令で炎を吐きだせるんだと思うから、ぼくの見えないほう、お願いします」
「いや、ホント、足引っ張ってすいませぇえええん! メーゼ、お願い、俺の分も、がんばって!」

 狼の襲撃をくぐりぬけると、既に夜だった。
二人は大きな岩で野宿することを決め、このときこそ働くぞと意気込んだ卓也は小枝を探したがとくに燃やせそうなものがなかった。それにたいしてモービルは細い樹を発見すると、それを大剣で叩き斬り、細かく斬って薪にするとブレスで火をつけた。持っていた干し肉とミルクをあたためて暖をとる。
「……ホント、モービルさん、なんでもできるなぁ」
「そんなことないよですよ」
「けど、橋のときや狼のときも俺が足引っ張っちゃって」
 干し肉を食べながら卓也はモービルを見る。
「けど、明日はメーゼ並みには役立ちますから!」
 卓也の肩に乗って干し肉のおこぼれにあずかっているメーゼはこくこくと頷いた。
「明日も早いから、はやく寝よう、見張っているから」
「いや、そこは、自分にさせてください。たぶん、このなかで一番なにもしてないんで」
「けど」
「叫んで、モービルさんを起こすぐらいには役立ちますから」
 モービルは卓也に不思議そうな眼差しを向けて、小首を傾げた。
「小竹は」
「はい?」
「ううん。じゃあ、お言葉にあまえさせてもらってもいい? 二時間ごとに交代しよう」
「はい! おやすみなさい!」
「おやすみ。無理、しないようにしてくださいね」

 目が覚めたとき、卓也は仰天した。ミルクの中に落ちたかのように視界に映るすべてが真っ白だ。メーゼが卓也の頭の上にのって、ぽっと小さな炎を吐いたおかげで照らされて、自分がいるのは昨日いた場所だと理解出来た。
「すげぇなぁ」
「起きたの? 霧が晴れたら、いこう」
 さすがに昨日の焚き火の残りには火がつけられないのでモービルが直接ひと吹きして焼いたアツアツの干し肉と冷たいミルクで腹を満たし、さっそく岩道を二人は進みだした。
「……っ」
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ! ちゃっちゃっと進みましょう!」
本当は昨日の疲れと慣れない山道に足の裏が痛むがそれを口にせず、笑いかけて元気なふりをするが、荒い息と額から零れ落ちる汗は隠しようがない。
 それでも卓也は弱音をひとつももらさず、五分以上を歩き、ようやく
「モービルさん、あれ」
 二人から数メートルほど先の大岩に、淡い輝きを放っている竜核が見えた。
「けど、魔物が……噂したら来た!」
 空から襲いかかってきたのは鳥と人の混ざり合ったような魔物だった。上半身は女の顔、体は獅子、羽は鷲、尻尾は蛇。赤い瞳をぎらぎらと輝かせ、蛇が威嚇するような声をあげて鋭い前足の爪で襲いかかってきた。
 モービルが大剣で防ぐが、尻尾の蛇が剣の隙間から牙を伸ばしてきた。
「メーゼ、お願いっ!」
 卓也が前に出ると、メーゼの吹いた炎の玉を棒の端につけて蛇を突く。
 蛇が慌てて後ろに逃げるのに卓也は素早く棒を二つに分解して、二刀にして、片方を投げた。メーゼの炎に熱された刃が蛇の片目を焼くと女の顔が空気を裂く様な声をあげた。
 憎悪の目がモービルを捕える。魔物の激しい殺気にモービルの体に一瞬とはいえ震えが走った。
「ハァアア!」
 力が緩んだ瞬間、モービルの剣が払う。魔物が口から炎を吐きだす。モービルもブレスで応戦する。
モービルの炎は魔物の炎を上回り、飲みこむ。しかし
「っ!」
 炎のなかから飛び出す鋭い牙が、
「……小竹!」
 モービルの前に果敢に飛び出した卓也はそれをトラベルギアで払い落すが、女の顔が間近で卓也に向けて炎を吐く。
 卓也にもメーゼがいるが小さい炎ではとてもこの魔物の炎を止めることは出来ない。
「っ!」
「小竹!」
 燃える卓也が地面に転がるのにモービルはブレスで魔物を空中に追い払い、倒れた卓也の体の炎を叩いて消すとその顔を覗き込んだ。
「どうして、ぼくをかばったの!」
 モービルの目にはっきりと戸惑いと恐怖が浮かぶのに卓也は真剣な顔で言い返した。
「っ、だって、ここでモービルさんがやられたら、勝機はないじゃないですか……あの竜刻を回収しないと、もっと大勢の人が大変なことになるから……っ、俺は、まだ戦えますから、モービルさんっ、いきましょう」
「小竹、きみは」
 必死に立ち上がる卓也のよろけた背を見つめるモービルの目から戸惑いが消えた。
 炎ではモービルは決して負けていない。
 だが、
先ほどは敵の迫力に負けたせいで不覚をとって卓也が傷を負った。
「……小竹、伏せてっ!」
 モービルの声に卓也は大人しく地面に伏せた。
 卓也を狙っていた魔物はモービルの姿に旋回して逃げようとしたが、力をこめて地面を蹴って飛んだモービルのほうが早い。
 大剣が魔物の腹を貫いた。まだ身をじたばたと暴れる魔物の牙や爪がモービルのかたい皮膚に切り傷を与えるが、加速はとまらない。
 魔物が口を開き、赤い炎を吐き出そうとするその瞬間、モービルは咆哮をあげた。
 卓也は炎が吐けなくてもお前を恐れなかった
 ぼくをかばったんだ
 だから次はぼくが
「お前なんて、ちっとも恐ろしくないっ!?」
 ゼロ距離からの吐き出されたモービルの紅蓮のブレスは魔物の炎を飲みこみ、――灰へと変えた。

「いや、もう、すいません。運んでもらって」
「ううん。ぼくのせいで怪我させたから」
 遠慮深いこといいながらおんぶされている卓也はモービルの背をすりすりしていた。
「……小竹のおかげで、ぼく、ちょっと成長できたかなって思う。ありがとう」
「モービルさんはもともとつよいんですからぁ、ああ、素敵な、もう離れたくない、この肌、この筋肉」
「大切なものを守るために戦うんだね」
「いえ、もう。そんな……はぁはぁ、離れたくない、離れたくない、このままいたい、時間よ、止れ」
「小竹……じゃなくて、卓也って呼んでも」
「ぜひ、おねがいします!」
「じゃあ、ぼくのことも、さんづけはやめてほしいかな。卓也」
「……俺、いまなら、ひとつの世界を救える気がする……っ!」
 最高の喜びに達した卓也の額にかーつんと何かかたいものが当たった。
「あいたぁ! え、なに! あ、あれは、猿!」
 見ると目の前には灰色の毛に覆われた猿の集団が牙を剥いている。
「卓也、ぼくの後ろにいて!」
 卓也を守ろうとモービルは背中から大剣を抜こうとした。
現在、背中には卓也を背負っていることをついうっかり忘れたのは、仕方がない。突然の奇襲だったんだもの。
 そして、力がはいりすぎたせいで
「あっ」
「あ――! お、や、く、そ、く!」
 勢いよく卓也を猿の集団に投げちゃったのは仕方がない。
「卓也!!」

クリエイターコメント オファー、ありがとうございました。
 主にギャグでしたが、私のなかで最もかっこいい小竹さまを出してみました。(きりっ)
 モービルさんの成長をイメージして書いてみました。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
公開日時2012-10-10(水) 22:50

 

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