オープニング

 インヤンガイのいち街区にそれはあった。
 天央華(ティエンオウファ)エリアと名付けられたそこは、高級ホテルを中心とした上流階層向け区画だ。その日暮らしの下層民が地べたを這いずるさまでも嘲笑うかのように、壮麗で清潔な建物の数々がそびえ立っている。
 中心にメインの巨大高級リゾートホテル、ホテルを取り巻くように高級ブティック、一流の料理や酒を出す店、美術館に歌劇座、気軽に汗を流せるスポーツクラブまで、およそセレブリティなどと称される人々が休日を楽しむのに必要な店舗のすべてがそろっている。
「外と内のこの違いはどこから来るんだろうな」
 とはいえ、ムジカ・アンジェロが天央華エリアに足を踏み入れたのは、別にリゾートを楽しむためではなかった。
 ラグジュアリーに過ごす充実した休日などというものは、ムジカには不要だ。
「ここを一歩離れた路地裏にはその日の食事にも苦労する人間がいて、ここではその人間を何ヶ月でも養えるような金が一日で動く、か」
 その善悪をどうこうするつもりはムジカにはない。
 ただ、どうでもいいだけだ。
 ホテルに足を踏み入れると、かすかな花の香りとともにクラークが出迎える。
 洗練された所作からも、従業員の教育が行き届いていることが伺えた。
 名を告げると、クラークは穏やかに微笑み、ホテル最上階に向かうエレベーターへとムジカをいざなった。
「《迦陵頻伽》がお待ちでございます」
 礼とともに頷き、四角い箱に身を預ける。
 奇妙な浮遊感の中、見上げた先には、こう書いてある。
 37階、音箱館『百様蓮花』、と。

 * * *

 ベヘル・ボッラは、世の快楽を詰め込んだかのような天央華エリアに懐かしさすら覚えていた。
 それはまるで、彼女が在りかたを貫いた、かの娯楽星のようだ。
「生きるものは生きて、死ぬものは死んで、苦しむものは苦しむけど、楽しむものは楽しむんだ。どこだって、誰だって、そんなものだろう」
 抑揚の少ない声でひとり呟き、壁に背を預けた。
 ベヘルの、熱のない視線の先には、淡いライトで照らしだされたステージがある。
 ステージの中央には、今回の目当てである人物が、どこか茫洋とした視線をさまよわせ、ぽつりと立っている。
 透き通るような雰囲気の顔立ちからも、ほっそりとした身体からも、骨格からも、人種も性別も年齢もうかがうことのできない、ただきれいな姿をした、不思議な雰囲気を持つその人物の背には、銀と鋼と鏡、それから金の散った瑠璃でつくったような大きな翼がたたまれてしまわれている。
 むろん、いかに暴霊が荒ぶるインヤンガイといえども、背に翼を生やした人間などは存在しない。
 あれは、つくりものだ。
 ただしそれは、ひどく精巧なつくりものだった。
 翼だけではなく、人のかたちをしたあの存在すべてが、インヤンガイの技術者、研究者たちによってつくられたものなのだ。
「へえ、あれが《迦陵頻伽》か。……感覚的に覚えがあると思ったら、『電気羊の欠伸』の夢守と似てるからなんだな」
 ふと届いた言葉に、インヤンガイの住民には決して口に出来ない単語を聴きつけ、ベヘルは視界の片隅で声の主を探った。
 細身の、背の高い男だ。珊瑚色に染めた鮮やかな髪と、緑がかった灰色の眼、洒脱な衣装に身を包んだ、透明感のあるたたずまいの男の頭上には、案の定真理数が見受けられない。
「そういう存在だから、だろうね。絶対的なものにつくられて、絶対的なもののために歌い、戦うんだ」
 ベヘルの言葉に、ムジカはちらりと彼女を見やったが、特に何を言うでもなく隣で腕を組み、彼女と同じような姿勢で壁に背中を預けた。
 ふたりの視線の先で、《迦陵頻伽》と呼ばれた精巧な人形が、ゆったりとした動作で腕を広げる。背中の翼が、金属的な質感とは裏腹の優雅さでゆるりと広がった。その動きに、つくられたものの――そう、ロボットのような――ぎこちなさは感じられない。
「――始まるみたいだ」
 ステージの端に伴奏者たちが現れ、恭しく一礼する。
 雨だれのようなピアノの音がこぼれ落ち、そこにヴァイオリンが、ギターが、サックスが、パーカッションが、静かに、重厚に音を重ねてゆく。一拍おいて、人形の、開かれた薄い唇から、うたがあふれだす。決して狭くはない音箱館――要するに、ライブハウスだ――を、人形の歌声が満たした。
 観客たちが、ざわり、とざわめく。
 そこには、隠し切れない感嘆と称賛、そして驚きがあった。
「――なるほど、《迦陵頻伽》だ」
 幾重にも重なりあいながら、どこまでも透明に響いてゆく、高く低く妙なる歌声。魂までしみとおるような、透き通った鉱石が響き合うさまにも似たそれは、天上の園で歌う妙音鳥の再現そのものだ。
 このホテルにふさわしい、と、人々は言うだろうか。
 高級リゾートホテル『楽園(レユアン)』の最上階を丸々改装し、音箱館『百様蓮花』は大々的に封切られた。
 巨大なホテルのワンフロアをすべて音楽用の施設にしてしまったわけだから、ライブハウスというよりもアリーナだ。
 そこで、人の手でつくられ、神の声でうたう人形のお披露目があると教えてくれたのは、ロストナンバーに仕事を依頼してくるくたびれた探偵だった。探偵は、ベヘルが興味を示すと、何をどうやったのかチケットまで手配してくれた。おそらく、偶然出くわす羽目になったムジカも同じような理由でここへ来たのだろう。
「あの翼は、音響装置みたいなものなんだな。自分の声を、あれで増幅しているんだ」
 ぼくの仲間みたいなものだろうか、と、ぽつりと思い、人形を見やる。
 いかなる表情も浮かばないままに歌い続ける人形が、なぜか、ひどく哀しげに見えた。つくりものの鳥に、何の哀しみが、と打ち消そうとしたところで、
「……泣いているような、気がしないか」
 ムジカが小さくつぶやいた。
 内面を見透かされたような気がして、首を横に振る。
「つくりもの、だよ。あれは」
「知ってる。おれだって、正式に招待されて来たんだから」
 あれは、うたうためだけにつくられた人形だ。金属や強化セラミックス、特殊なガラス繊維などで出来た身体を、人間と同じ質感の人工皮膚で包んでつくったきれいな人形、うたう鳥。
 歌をうたうためだけにプログラムされた人工知能はひどくつたなく、歌以外の言葉を発することは出来ないと言われていたし、人格や性格、感情が存在するという話も、ついぞ聞かなかった。
 しかし、それなのに。
「人が泣くのはかわいそうだなんて、上っ面だけのおためごかしをいう趣味はない、けど。泣いている、気がする」
 ムジカが言うように、ベヘルも感じている。
 うたう鳥が、うたいながら、何かをひどく嘆いていることを。
 あれに涙を流す器官があったとしたら、今頃あの白い頬を雫が伝っているのだろう、とも。
「……気に、ならないか?」
「ずいぶんお節介なんだね?」
「余計なお世話かもしれないって気はしてる」
「ああ、自覚はあるのか」
 《迦陵頻伽》は、表面上は淡々と――朗々と、傾城の姫君と敵国の将軍の悲恋を紡いでゆく。ふたりは壁に別れを告げ、招待客の間を縫いながら――百人以上の観客が、鳥の歌声に酔いしれている――ステージへと歩み寄る。
 近づいて、声をかけて、次にどうするかはあとから考えればいい。
 その程度の思いだった、ふたりとも。
 このときは。
「悲壮で、悲痛で、すさまじいな。おそろしく、胸に迫る」
「おや……きみにも、将来を誓いあった愛しい誰かを失った経験があるのかい?」
「想像に任せるよ」
 ひときわ高く、長く、澄んで伸びた声が、将軍の死と、姫君の悲嘆をうたい上げる。
 ――あなたを失ってまで、わたしの生きる意味はどこにあるの。
 それでもなお生きてほしいという、今はもう喪われた人々の切なる願い、祈り。そんな感傷的なものは持たないと打ち消しつつも、ベヘルの心は歌へと惹きつけられる。
 中身が空っぽの、音楽再生装置というだけの人形に、この歌はうたえない、と意味もなく確信した。
 そのとき。
 どおん、という爆発音がして、音箱館のドアが派手に吹っ飛んだ。ドアに直撃され、観客の何人かが悲鳴とともに倒れる。
 歌がぴたりと止んだ。
 それと同時に、耳をつんざく銃声。中へ駆け込んでくる黒ずくめの人々。二十人くらいだろうか、彼らの手の中では、拳銃をはじめ、マシンガンやアサルトライフルなど、物騒な武器が黒く光っている。
 人々が凍りついたように動きを止めた。
 恐怖にかられた観客の悲鳴は、マシンガンの斉射にかき消される。
 至近距離から撃たれ、十人近い人間が吹っ飛んで倒れた。明るさを抑えた室内に、それでもはっきりと判るほど赤黒い液体が、じわじわと広がり、流れ出す。びくびくと不気味な痙攣を繰り返す身体に、命が残っているようには見えなかった。
「死にたくなきゃ黙れ。――ああ、悪ィ、殺しちまったな」
 銃を乱射したのは酷薄な眼差しの若い男だ。彼がにやにやと笑い、観客や演奏者たちに手を挙げるよう促すと、人々は震えながらそれに従った。
「スアユ、やりすぎるなよ。弾がもったいないだろう」
「判ってるよ、ジァオスさん」
 スアユと呼ばれた若い男は、悪びれるでもなく肩をすくめるだけだ。
「……強盗、か?」
「ライブハウスジャック、っていうべきなのかなこれは。ここを占拠してどうするつもりなんだろう……まさか、《迦陵頻伽》の歌を聴きに来たってわけでもないだろうし」
「余裕だな、あんた。――しかし奴ら、下から来たにしちゃ静かすぎたな。こういうエリアだから、警備だって万全のはずだ」
「屋上から? ここ、ヘリポートがあるって聞いたような気がする」
「なるほど、アシがあるなら侵入も撤退もそのほうが手っ取り早い」
 ほかの観客にならって両手を頭の後ろで組みつつ、お互いにしか聞こえない程度の声でぼそぼそと言葉を交わしていると、
「鳥をもらいに来た。――滅びの歌をうたう鳥を」
 先ほどスアユにジァオスと呼ばれた、背の高い、鋭い風貌の男が、ステージに茫洋とたたずむ《迦陵頻伽》へと手を伸ばした。この襲撃の主犯、リーダー格といったところだろうか。鳥は、黄金の眼で男をじっと見つめているばかりで、身動きひとつしない。
「待ったぞ、完成を。ただのうたう人形として金持ちどもを喜ばせるだけにしか使わないなんぞ、もったいなすぎて罪深いほどだ。これは、俺がもらっていく」
 あれを連れて行けば、彼らは満足して、恐怖に震える憐れな観客たちを解放するんだろうか。つくり主は落胆するだろうが、あれはしょせん人形だ、それで丸く収まるなら万々歳じゃないのか。
 そんなことを、常識的に、上っ面だけで考えるよりも先に、滅びの歌、というのが妙に気になった。あの、響き合う鉱石のような声の紡ぐ歌が、いったい何の滅びをもたらすというのだろうか。
 ――そう思った時には、ほぼ無意識に動いていた。
 華奢な外見からは想像もつかない素早さで、観客や襲撃者の間を縫ってステージへ飛び込む。そして、鳥の細い手首をつかみ、引っ張っていこうとする男の前に立ちはだかろうと――
「待、」
「黙ってろ」
 いくつかの銃声。
 肩と太ももに弾丸を喰らい、ベヘルは吹っ飛ぶ。
 どこかで、声にならない悲鳴を聴いた気がした。やめて、と懇願する声も。
「無謀なガキだな。お前もこいつを狙ってたのか? だとしたら、残念だったな」
 ああ論理的じゃない、合理的じゃない、こうなって当然なのになぜ自分は、と、ため息交じりに――しかしながら彼女は冷静である――ベヘルはフロアを転がった。観客たちが息を呑む気配。血が流れ出ていく感覚。とはいえ、ベヘルにとっては、大した問題でもない。
「それは、何なんだ? なぜ、《迦陵頻伽》を連れていく?」
 怯えるでも恐れるでもないムジカの声が、ベヘルの疑問を代弁する。
 男は、く、と嗤った。
「まァ、そのくらいは教えてやろうか、せめてもの餞別だ」
 昏(くら)い残虐性を覗かせながら、男が鳥を引き寄せる。銀の髪を掴んで上を向かせると、人形はほんの少し身じろぎした。耳朶とこめかみ、首の後ろに、何らかのデバイスが埋め込まれているのが見える。
「こいつの下地をつくったのは兵器研究所だ。声の波動を破壊の力に変える、人型兵器をつくろうとしていた」
 男の語った話によれば、これはもともと《迦陵頻伽》という名前ではなかった。街を、世界を混乱に陥れるだけの力を持った、無差別破壊兵器だったのだ。滅びの、崩壊の言葉を吹き込むと、それを破壊の歌に変えて発する、美しくも危険な兵器だ。
 しかし、人形の歌声の美しさに魅了され、これを破壊のために揮うことは耐え難いと感じた研究者が人形とともに逃げた。研究者は別の機関のもとで人形を完成させ、歌をうたう平和な人形としてその存在をまっとうさせようとした。
「だが、そんなに巧くいくものじゃない」
 研究者が逃げたときから、音響兵器としての人形は探され、追われていたのだ。そして、運悪くこの男を筆頭とした組織に見つかり、襲撃は行われた。
「と、いうわけだ。納得したか?」
「……その、研究者は?」
「死んだ。殺されたって話だ」
 にやりと嗤い、男が鳥を荒っぽい手つきで担ぎ上げる。
 鳥は何も言わず、抵抗もしなかったが、金の眼が、ほんの少し、ベヘルとムジカを見た。――ような、気がした。
「さて、我々の用件は以上だ。お騒がせして申し訳ない。我々はこれで撤退する、あんたがたは一時間ばかりおとなしくしていてくれればいい」
 なぜ撤退に一時間も必要なのか、問う声はない。
 ただ、黒ずくめの男たちが、ひとりまたひとりと破壊された扉の向こう側へ消えてゆくことへの安堵だけが流れる。
 ベヘルは、死体のように転がりながら彼らを見送り、何かがおかしい、と思った。ちらと見やれば、ムジカも何かを考えている。
(わたしを)
 どこからか声が聞こえた気がして、ベヘルは薄暗い天井を見上げる。
(だれか……どうか)
 下階が騒がしいのは、襲撃に気づいた警備隊が近づいてきているからか。
「だけど、たぶん……彼らじゃどうにもならない」
 予感というより確信だった。
 鳥の、金の眼が、脳裏をよぎる。



 男らは、屋上へと撤退してゆく。
 非常階段を駆け上がりながら、主犯の男は上機嫌で言った。
「――……試運転と行こう。華々しく、盛大に。最大出力なら、このエリアごと吹っ飛ぶ。いけすかない金の亡者どもの街が粉々になるさま、見てみたいと思わないか」
 愉悦に満ちた笑い声があちこちから上がり、男は満足げに頷く。
「こいつがあれば、何だって壊せる。愉快な話じゃないか?」
 男の腕に、荷物よろしく抱えられた人形は語らない。
「憎しみの、苦痛の、滅びの言葉を、こいつに吹き込んでやろう。すべての非常階段を封鎖して、時間を稼げ。街をすべて破壊するだけの言葉を入力するには、一時間要る」
 自分が加担させられようとしている、恐ろしいたくらみを前にしても。
 なぜなら、思いを表出するすべを、まだ学んでいないからだ。いつの間にか芽生えていた、小さな胸の内側にあふれるものが何なのか、まだ理解できていないからだ。
「上がってくるものは殺して構わん。どうせ皆死ぬんだ、それが少し早いか遅いか、それだけのことではあるが」
 だから。

(わたしを壊してください)
(壊して)
(おとうさんの願ったように、誰も傷つけない歌をうたうただの人形でいたい、それだけなのに)
(それが叶わないなら、わたしはもう、壊れてしまったほうがいい)
(だれか……どうか)
(わたしが、取り返しのつかない罪を犯す前に、どうか)
(わたしに、ことばをください。わたしが、安心して壊れていけることばを)

 その、切ないまでに悲壮な思いが、かたちになることは、ない。




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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
ベヘル・ボッラ(cfsr2890)
ムジカ・アンジェロ(cfbd6806)
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品目企画シナリオ 管理番号1764
クリエイター黒洲カラ(wnip7890)
クリエイターコメント企画オファー、ありがとうございました。
黒洲節全開で、歌と音楽と血と銃声のシナリオをお届けいたします。

状況はOPの通り。
ベヘルさんはスタート時から負傷されていますので、平素ほどの行動は出来ないかもしれません。

37階から屋上へ至る非常階段は四つ。
それらはすべてテロリストによって封鎖されています。が、主犯格の男ジァオスは屋上の真ん中で鳥の調整中、一番厄介なスアユは非常階段のひとつの前に陣取っていますので、作戦次第では彼らを避けて屋上へ侵入することも難しくないでしょう。
(まったくの蛇足ですが、スアユは鯊魚、ジァオスは叫獅と書きます)

今回のキィである人形は、胸の内に感情めいたものを芽生えさせつつも、まだ自分からそれらを発露することは出来ません。ジァオスの『入力』を阻止できなければ、楽園ホテルをはじめ、天央華エリアは壊滅することになります。
いかなる方法でテロリストと対峙し、どう止めるのか。どう戦うのかをプレイングにお書きください。

また、人形は自分の破壊を望んでいますが、壊すも生かすもPCさん次第です。壊したい場合はそのためのことばを、生かしたい場合はそれに呼応することばを、イメージで結構ですのでお考えください(どちらもそれほど難しくはなく、そこに至る条件に差異はありません)。歌や音楽と親和性の高いおふたりですから、歌詞というかたちで、歌にして与えてくださっても美しいかと思います。

なお、戦闘シナリオでありつつ、PCさんの内面に迫る内容でもありますので、心情についてもしっかりとお書きいただけますと幸いです。



それでは、神の声で滅びを紡ぐ鳥とともに、お越しをお待ちしております。

参加者
ベヘル・ボッラ(cfsr2890)ツーリスト 女 14歳 音楽家
ムジカ・アンジェロ(cfbd6806)コンダクター 男 35歳 ミュージシャン

ノベル

 1.開演:「雛鳥に風を」

 賊と鳥が消えたあと、安堵にざわめく音箱の片隅へとムジカが歩み寄る。ベヘルは、金の眼をぽかりと開いてムジカを見やった。その眼に、苦痛や恐怖の色は欠片ほども滲んではいない。
 腕と脚からは出血が続いている。
「ぼくは行けるよ。そっちは?」
「あいにく、あんたと違って弾は呑んじゃいない」
「ぼくだって呑んでないよ、抜けたみたいだから」
「言葉の綾だろ」
 淡々と、真面目くさった顔で返すと、ムジカは呆れたように肩をすくめ、ベヘルをひょいと担ぎ上げた。
「なんだい、それ」
 抵抗はしなかったものの、何のことか判らず、ベヘルは肩のうえからムジカを見下ろす。当人的には「きょとんとした」というのが一番ふさわしい。
「なんだいとか言われても困るんだけどな。……伝えるべき言葉があるなら直接言えばいいと思うぞ、おれは」
「伝える? 直接? ――ああ、そうかもね」
 そもそも、顔出しのないアーティスト集団に属していたベヘルである。
 思うことこそあれ、面と向かっての会話は重視していなかった。が、ムジカに言われ、思い直した。
「殻を破る手伝いだ。ぼくは、あの鳥に心があることを疑わない」
「――あんたにも聞こえたか?」
「聞こえた。なぜかなんて知らないけどね。自分を壊してって泣いてた。だけどぼくは、壊れてしまうのはもったいないと思う」
「おれも同じだ。ましてや、音楽は伴侶であって、破壊のための道具じゃない。おれはあの連中に思い知らせてやりたい」
「利害の一致を見たね。なら……行こうか」
 ベヘルはムジカの肩から猫科肉食獣のしなやかさでするりと降りた。
「怪我は?」
「痛覚は遮断できるよ。それにぼくは頑丈なんだ」
「なら、いい」
 ムジカが、引き裂いたテーブルクロスで大雑把に傷口を縛ってくれる。あまり、心配している様子はなかった。お互い、淡々と『仕事』を遂行するつもりでいる。ムジカの胸中を正確に図ることは出来ないが、音楽に生きるものとして、このまま見過ごせるとも思えない。
 不意に、ざわめきが大きくなった。
 銃を手にした警備兵が音箱へと雪崩れ込んでくる。
 保護された客が、口々に何が起きたかをまくし立てる。それを後頭部の片隅で聞きながら、ベヘルは天井を見上げる。
「どう思う?」
「セオリーなら?」
「……威力を試す、だろうね。一時間くらいじっとしてろ、なんて不自然な物言いも気になる」
「破壊の力を引き出すのに必要な準備の時間ってことだろうな」
 三十を超える警備兵が、何ごとかを低くささやき交わしながら散開していこうとする。このままテロリストたちを逃がしてはホテルの沽券にもかかわる、といったところだろうか。
 ベヘルは警備兵たちに歩み寄った。
 ムジカがステージへ足を向け、伴奏者たちに何ごとかを頼んでいるのを横目に見つつ、事情を説明する。
 訓練と教育の伺える彼らは、子どもが何をなどとは言わず、真剣な表情でベヘルの話を聴いた。いくつかの言葉と頷きを交わし、統制のとれた動きで散っていく。ベヘルが戦うつもりでいることに気づいたのか、
「屋上に至る非常階段は四つあります。そのすべてが賊によって封鎖され待ち伏せられていると考えたほうがいいでしょう。――空でも飛べれば、話は早いのですが」
 そんな言葉を残して、軽い目礼とともに踵を返す。ホテルの従業員らしき人々が、客の避難誘導を始めている。
 そんな中、唐突に、音楽があふれた。
 見れば、ステージ上の伴奏者たちが、演奏を始めていた。
 ムジカに視線を送れば、肩をすくめてみせる。
「聴かせてやりたいと思って」
「ここにいると危険かもしれないよ」
「覚悟の上だとさ。迦陵頻伽に心や思いがあるかもしれないってことは、彼らも気づいていたそうだよ」
 頷き、ベヘルはステージ横の音響装置に機械腕を接続した。
「ふうん、けっこう複雑……だけど、ぼくのとこのほどじゃないかな」
 音箱のみならずホテルのシステム全体を掌握する。
 スピーカーを遠隔操作で操り、迦陵頻伽のために紡がれる音楽を、屋上へ向けて増幅してから、
「よし」
 ベヘルは、厳かに告げるのだ。
「チューニングは完璧だ。それでは世界を塗り替えようか」

 ――かすかに笑い、ムジカがS&W M610を手の中でくるりと回した。



 2.共演:「息詰まる匣の内側から、叩け」

 よどみなくゆるぎなく、壮麗な音楽は続いている。
 それが鳥への愛だと気づいたものはいただろうか。
『やァやァ無粋な雛鳥泥棒くんたちご機嫌いかがかな!』
 風吹きすさぶ屋上に、無機質な――それなのに、人を喰ったような調子の――電子合成音声が響き渡った。放送用のスピーカーのみならず、テロリストたちの無線もまたがなり立てる。
 下っ端たちがぎょっと動きを止める中、スアユが片眉を跳ね上げ、ジァオスは微動だにせず『入力』を続けている。
 入力と言っても、複雑なものではない。ただ、人形のデバイスに向かって、呪詛のごとき言葉をささやき続けているだけだ。
 殺せ、壊せ、憎め、何もかも無に、と。
 茫洋とたたずむ《迦陵頻伽》は、心なしか険しい表情をしているようだった。
 鳥とジァオスの背後では、潜入用であり脱出用だろう、武骨な黒の急襲ヘリがプロペラを回し、バタバタと音を立てている。
「無線ジャックか。器用なやつがいやがるな」
 スアユが機関銃を非常階段へ向けた。
 油断なく辺りを見渡しながら、残忍な笑みを浮かべる。
「完全に封鎖してんだ、蜂の巣になるだけさ。それも面白いけどな?」
 下っ端たちが彼に倣い銃を構える。
 ムジカは、穏やかですらある風情で微笑んだ。
「単純で助かるよ。こちらも、躊躇しなくていい」
 つぶやきは強い風に紛れ、賊に聞こえることはなかった。そもそも、37階のベランダから、空舞うセクタンを通して屋上を見ているムジカの声が届くはずもない。

『それ以上をお勧めはしないよ』
『一刻も早く、尻尾を巻いて帰りたまえ、泥棒くんたち。こちらも手間が省けていい』
『退くも勇気だ、と偉大な先人たちは君に教えなかったかい?』

 ベヘルの演出による、人を喰った音声は続いている。
 照明が色合いを変えながらゆっくりと明滅し、スピーカーからは百人の男女が同時に笑ったような、ざらざらと不安定な音が波のように寄せては返す。音と光の織り成す演出に、屋上からゆっくりと現実感が消えてゆく。神がかった不可思議なそれに、下っ端たちが不安げな眼をするのが見えた。
「頃合いかな」
 ムジカの周囲を、黒くつるりとした球体が舞った。
 ムジカは唇に笑みを刷き、左手の甲に銃口を当てる。
「生誕祭だ。華々しく行こう」
 引鉄を引く。
 銃声、痛み、ほとばしる血。
「……痛みはどうでもいい。ただ、歌えればそれで」
 苦痛が彼の歩みを止めることはない。
 血がかたちを変えてゆく。
 茨のようにムジカの腕を伝い、絡みつき、立体感をなして、それは深紅の翼になった。赤い闇のごとくに羽ばたいたそれは、ムジカの身体をたやすく持ち上げる。
「“思惟の海に私は生まれた”」
 音箱から響いてくる伴奏を耳にすれば、まるで当然のことのように唇は歌を紡ぐ。
「“言葉の蓮(はちす)を手に、記憶の白百合を足下に、想いの蘭花は心臓に”」
 そして、歌は、自然とあの鳥をかたちづくった。
『いいね』
 黒い球体からベヘルの声が聞こえてくる。
 彼女のトラベルギアであり高性能な集音機でありスピーカーでもあるそれが、ムジカの歌を拾い上げ、増幅する。それはおそらく、《迦陵頻伽》へも届いていることだろう、ムジカの心を載せて。
『この狭い匣に風穴を開けてくれ』
 小さくうなずく。
『――ノイズを吹き飛ばそう』
「ああ。じゃあ行こうか、“盟友”」
 不敵な笑みとともに、手すりを蹴る。
 赤い翼が大きくはためき、ムジカは隼のように飛んだ。

 ひときわ壮麗な音楽に、魂が昂揚する。



 3.競演:「永遠を織られた極光のように」

 背に深紅の翼を負ったムジカが、ホテルの外壁を猛禽めいた鋭さで飛び上がるのと、ベヘルが六つの球体スピーカーに入力した即興の音楽を物理的な衝撃に高め、非常階段周辺の賊を吹き飛ばして屋上へと侵入したのとはほぼ同時だった。
 予想外の攻撃に下っ端たちが悲鳴を上げて吹っ飛び目を回す。
 ベヘルの仕掛けの効果もあって、不安を隠しきれない様子の下っ端たちが及び腰になる中、
「んだ、てめぇ」
 剣呑な、それでいてどこか事態を楽しむような風情でスアユがSMGを構え、躊躇なく掃射した。
 しかしその弾丸がベヘルに届くことはない。
 ギアによってつくりだされ歪曲された『音』の場が、弾丸の進路を変え、あさっての方向へとそらしてしまうからだ。
 低く舌打ちをしたスアユがナイフを引き抜く。
 途端に膨れ上がる壮絶な殺気は、もともと彼が刃物の扱いを得意としていることを教えた。
「てめぇらもあの人形がほしいのか? あいにくだがありゃもうジァオスさんのもんだ。入力が終わりゃ、ただの兵器になる」
 まさに獲物を狙う鮫の鋭さで、スアユがベヘルの間合いへと踏み込んでくる。ナイフが正確無比に急所を狙って突き出される。一息のそれは、素人ではまず太刀打ちできない程度には速く、また重い。
 しかし、閃いたナイフは空を斬る。
 スアユの足取りが乱れる。
 ギアは、雷鳴めいた重低音を紡ぎ続けている。
「てめ、何を……?」
「別に、何も?」
 飄々と返せば、スアユの顔を激怒の色がかすめた。
「馬鹿にしやがって……てめぇら、援護しろ!」
 吐き捨てれば、下っ端たちが一斉に銃を向けた。
 指が引鉄にかかるのを見ても、ベヘルに焦りなどない。
「そんなちゃちな造りの銃じゃ、ぼくにもてあそんでくれって言ってるようなものだよ」
 ギアが低く音を立て、振動を生み出す。
 音を視覚的にとらえることの出来るものがいたら見ただろう、音が螺旋状に渦巻き、解き放たれるのを。
 同時に、
「うわっ」
「ぎゃッ!?」
 銃声と悲鳴、血の臭い。
 音の振動によって銃が暴発させられたのだと気づいたものはいただろうか。
「てめぇ、なにもんだ……?」
 スアユが異質さに気づき、冷静さを取り戻したのはさすがと言えた。
「別に、何ものでもないよ。ぼくは、音の海が織り成す幻影の泡だ」
 淡々と答える。
「“感情の森に実る果実は、甘く苦く胸を灼(や)き私を謳わせる”」
 ムジカの歌が聞こえてくる。
 生命讃歌など柄でもないと知ってなお、鳥に捧げられたその歌をたとえようもなく美しいと思う。思いながら、ベヘルは音楽をつくる。機械腕とギアを駆使して、音を調整する。ムジカの言葉にふさわしい、穏やかな幻想の音楽を絶え間なく奏で続ける。
「“慈悲の月満ちる魂の夜にひらく、いのちの赤い花、約束は金の花、想う心は色のないまま。清誕の日を祈り、まっている”」
 思惟の海と感情の森に咲くいくつもの花。
 その、鮮烈にしてやわらかなる色。
 美しい光景が意識内に広がり、ベヘルは何のてらいもなく、静かに深く、感動した。自分にはない感性で音楽を彩る、ムジカの世界に憧憬を覚える。
 詩(うた)に旋律を添え、歌にしてスピーカーから発すれば、下っ端テロリストたちは音に惑わされ、音楽の迷宮に感覚ごと閉じ込められて昏倒してゆくばかり。
 ちっ、という舌打ちはジァオスのものだった。
「スアユ、そいつらを殺せ! あと少しなんだ、邪魔をさせるな!」
 見れば、《迦陵頻伽》がジァオスを拒むように手を挙げていた。冷ややかに険しく凍りついていた白い面には、今や哀しみだけがたゆたっている。
「そうはさせない」
 固い意志を伺わせる声、
「“霧の朝も、雷鳴の昼も、凍てつく夜も。色づく花を手折ることなかれ”」
 詩が弾丸になり、ジァオスめがけて放たれる。
 噴き上がった霧が、一条の稲妻が、氷のつぶてが、ジァオスとその周辺にいた賊を巻き込み、打ち据えた。悲鳴とともに下っ端が昏倒し、氷つぶてをまともに喰らったジァオスは吹っ飛んだ。舌打ちとともに身を起こすが、動きは鈍っている。
 辛うじて弾丸を避けた下っ端たちが必死に機関銃を掃射するが、左手の甲から絡み付く深紅が盾となり、ムジカを毛一筋も傷つけることは出来ない。
「“森の守人は歌う、花盗人に惑いあれ、眩暈あれと”」
 続いて撃ち放たれた弾丸が、警戒を強めるスアユを包み込むと、
「がッ!?」
 彼は苦悶の表情を浮かべてナイフを取り落とし、両耳を抑えてその場にうずくまった。
「ああ、聴覚を過敏に増幅されたんだね、かわいそうに。風の音ですら頭が割れそうになるんじゃないかな、これじゃ」
 ベヘルは、ちっともかわいそうではない風情でスアユを見下ろし、彼の上にスピーカーを次々に落下させてやった。重たいもので人体を打ち据える鈍い音に、引き攣ったような悲鳴が重なる。
 もはやテロリストでまともに動ける人間はほとんどおらず、どうにか免れた下っ端の腰は完全に引けていて役に立ちそうもない。
「くそッ、殺せ、殺せ、壊せ、憎め、壊せ、壊せ!」
 敗北を察してか、ぎりぎりと歯噛みしたジァオスが叫ぶ。
 《迦陵頻伽》の全身が異様な光を放った。
「しまった、入力が……?」
 ベヘルが眉をひそめる間にも、鳥からは圧迫感を伴った不吉な音がこぼれはじめた。ジァオスがにやりと笑う。
「何もかも、壊れろ。こんな、くそったれな世界は」
 いったい何がそんなに憎いのか、尋ねたって判るはずもない。
 ジァオスの背景にまで心を砕く、そんな余裕は誰にもない。
 発動されようとする崩壊の歌を、
「“花は花で、鳥は鳥で、風は風で、月は月で。あるがままに美しく、ただそこに”」
 ムジカの、いのちへの讃歌が包み込む。
 負の、黒々とした感情からもっとも遠いもの。それは、生命を慈しむ喜びの歌だ。
 光が、不吉な音がぴたりと止んだ。
 鳥の双眸に感情が閃く。
 それが何なのか考えるより先にわっと声が上がり、警備兵が一斉に雪崩れ込んでくる。身動きできない下っ端が狼狽の声を上げるのが聞こえた。
 忌々しげな舌打ちは、ジァオスとスアユ、双方から。
「――仕方ない、退くぞ」
「次会った時は八つ裂きにしてやる、覚悟しとけ」
 捕らえようと手を伸ばすより早く、意外に俊敏な動きでゆっくりと上昇し始めていた急襲ヘリへと飛び乗る。取り残された下っ端たちが情けない悲鳴を上げたが、ヘリは後ろを顧みることもなく、あっという間に遠ざかった。
「逃げられたか」
「まあ、ぼくは構わないけど。第一の目的は迦陵頻伽の保護だったわけだし」
「それは確かに」
 警備兵がテロリストたちを縛り上げ、引っ立てていく。
 それらはすぐに終わり、屋上は風の音だけになった。
 残っているのは、ベヘルとムジカ、そして《迦陵頻伽》だけだ。

 金の眼が、ゆっくりとふたりを見つめる。



 3.終演:「うたい、生きて、愛せばいい。世界はひとしく罪深く、美しい」

「わたしを」
 言葉が発せられたことに、驚きはなかった。
 入力されたいくつもの言葉が、鳥の内面に何かをもたらしたのだろう、と思った程度だった。
「壊して」
 懇願に、ムジカは首を振った。
「それは間違いだ」
 弟の遺志に依って生きるムジカには、鳥の想いがよく判る。
 けれど、鳥の願いを受け入れることは出来ない。
「生きろ。生きてくれ」
 鳥の双眸を茫洋とした哀しみがよぎる。
「わたしは、壊したくない、だから」
「誰も傷つけない歌をうたえばいい。壊す歌なんて、うたわなくていい」
 ジァオスのような人間が、たとえこの先、無数に湧いて出るとしても。
「“お父さん”が、あんたの死を望んだか?」
 死者の意志など定かではないが、愛されていたことだけは判るから。
 鳥に心が生まれた理由など、そこにしか見いだせない。
「わたしは、」
「それに、おれがもっと聴いていたんだ。あんたの歌を。音箱の連中だって、そうだろ」
 誰かのためにうたうことは、生きる理由にはなり得ないのかと、言葉で問うつもりはなかった。必要もなかった。
「きみはそこにいるんだろう。どうしてもと言うなら止めないけど、あんなやつらのためにいなくなるのは惜しいよ、やっぱり。だって、きみは綺麗だ」
 ベヘルが、白い面にわずかな笑みを載せ、言う。
「歌いかたなら、ぼくが教える。だから、楽しくいこうじゃないか。そうだろう、迦陵頻伽。……ええと、でもこれは人名じゃないのかな」
 彼女が首を傾げると、
「わたし、は」
 鳥は意思らしきものを眼に浮かべ、口を開いた。
 たどたどしく紡がれる言葉に、ふたりは聞き入る。
 一言一句も漏らすまいと。
「頌花(ソンファ)、です。おとうさん、が、つけて、くれました」
 どこか誇らしげなそれに、ムジカは微笑み、ベヘルは頷く。
「いい名前だ。喜びに満ちた、きれいな音韻がいい」
「そうか。はじめまして、頌花。ぼくはベヘルだ、きみに会えてとても嬉しい」
 それは心からの言葉だったから、心を得た鳥に、想いが伝わったのはごく自然なことなのかもしれない。鳥はやわらかく翼をはためかせ、ほんの少しだけ、笑ったのだ。
「“花は喜びを奏でる”」
 そして紡がれた神の歌声は、ベヘルとムジカの傷を消し去り、疲労を拭い去った。
「なんだ」
 ムジカは笑う。
「本当はもう、判ってるんじゃないか」

 その日より、音箱館『百様蓮花』では、人の心を持つ人形が、痛みを癒す歌をうたうようになったという。

クリエイターコメントご参加ありがとうございました。
物騒なライブ、戦いと生命讃歌のノベルをお届けいたします。

おふたりが願ってくださったおかげで、人形は壊れることなく“誰も傷つけない歌をうたう”鳥でいることを選択できました。しかしながら、まだ少し戸惑っているようですので、どうぞまたおふたりの『心臓のことば』を与えてやってください。

何はともあれ、おふたりの生き生きとした合同ライブ、詩作を含め大変楽しく書かせていただきました。ありがとうございました。
少しでも、楽しんでいただけましたら幸いです。

それでは、ご縁がありましたらまた。
公開日時2012-03-21(水) 22:40

 

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