オープニング

 白く深く、息すらも凍り付くほどに冷たい大気が、穏やかな森を覆い尽くす。
 枯れた枝先に雪化粧を被った木々の間を、一人の少女が歩いていた。踏み荒らされた跡の無い雪を慎重に踏み、時折バランスを崩しながら、あてども無く足を進める。全ての命が眠るその森で、ただ彼女だけが動きを止めないでいた。
 少女のしなやかな指には、繊細な細工の為された横笛が収まっている。青銀で出来たそれは冬の風を受けて凍る程に冷たく、けれど手放す事など出来る筈も無い。――彼女は、それを奏でる為に生を受けたのだから。
 白銀の石が埋め込まれた金具に慎重に指を置いて、少女は笛を唇に宛てた。
 ひややかな空気を吸い込んで、笛を温める様に息を吹き込む。

 流麗な青銀色から流れ始める、高く透いた音。

 雪の積もる大地を、霜の降りた木々の合間を擦り抜けて、緩やかな音律は響き渡る。それは厳かで、神聖な、豊穣の音色だ。
 澄んだ青銀の音色に絡み合う様にして、静かに音律――歌が、もうひとつ重なる。高く、低く、自在に音階を飛び交うその歌は、さながら鳥の様だ。深雪に抱かれて眠る冬の大地に、ふたつの歌は浸み込んで行く。
 灰色に沈み、しんしんと粉雪の舞い散る空を、一筋の白金色が翻った。
 粉雪と共に淡い金の羽根を散らせながら、その小さな命は羽撃きながらも歌声を響かせる。高く、低く、少女の笛の音に呼応して囀る、一羽の小鳥。踊る様に空を駆け、笑う様に朗らかに歌い、白金色は少女の元へと飛来する。
 少女は笛を唇から離して、小鳥を待った。
 小鳥の胸元には、少女が持つ楽器に使われているものによく似た、白銀の石が飾られている。
「ユウ」
 少女が徐に手を伸ばせば、小鳥は一度囀って、軽やかな動きで彼女の指先に止まる。其処で初めて少女の口元に淡い笑みが浮かび、くすり、と鈴の音の様な声が零れた。
 冬のヴォロスには軽装に過ぎる、薄い衣装を翻して、少女は細い足を進める。右手に小鳥を止まらせて、左手には青銀の笛を手にしたまま。
「……行こう」
 行く宛てなど無い。けれど、何処か遠くへ、少しでも離れなければ――。
 逸る少女の心を宥めるかの様に、小鳥がまたひとつ囀りを落とした。
 白金の羽根がひらりと舞い落ち、小さな白銀色が、緩やかに煌めいている。


「至急、竜刻の大地『ヴォロス』へ向かってください」
 世界司書リベル・セヴァンは、いつにも増した険しい表情で、集まった旅人達に語りかけた。
「とある竜刻に、暴走の兆しが見られています。……速やかな回収を御願いします」
 古の時を生きた竜族、かつてのヴォロスの覇者である彼らの遺骸『竜刻』。ヴォロスと言う広大な世界を築き上げたそれは、強大な力を持つが故に、一旦魔力が暴走を始めてしまえば鎮める事は難しい。――竜の幻影を伴って、周囲を蹂躙するのだと言う。
「竜刻の暴走を治める為には、『封印のタグ』を使用します」
 リベルは手に持っていた小さな紙片を掲げて見せた。一辺に細い針金が取り付けられているそれは――海外旅行などに使われる、一般的な荷札によく似ている。
「これを竜刻に貼り付けて、世界図書館へと持ち帰ってきてください。……向かっていただくのは、霧の谷の北西に在る、『イェーヴレ』と言う村です」
 広大なヴォロスという世界のはずれ、四季の豊かな森に囲まれた小さな村落に、その竜刻はあるという。
「『豊穣の音色』ユーフォニア。どうやら楽器の様ですが……形状までは判りません」
 小さな竜刻による魔力を宿し、村の神器として奉られているその楽器が、今回回収すべき対象だ。
「暴走の兆しは、現地でも確認されています。村人達は、皆さんへの協力を惜しまないでしょう。……ですが、一つ問題が」
 リベルはゆるゆると首を振って、ひとつ溜め息を零す。手にした『導きの書』に一度視線を落とし、再びゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「現在の奏手に選ばれている少女が、……ユーフォニアを持って、逃げ出してしまったのです」
 イルヴァ、と言う名のその少女は、話を聞くなり、着の身着のままに飛び出して行ってしまったのだと言う。幼い頃より共に育ってきた、一羽の小鳥と共に。
 『豊穣の音色』ユーフォニアは、代々ただひとりだけが演奏する事を許される『奏手』となり、村の豊穣、発展を祈って演奏される。――今代の奏手であるイルヴァは、とりわけユーフォニアに対する想いが強く、奏手であることに誇りを持っているのだと言う。

 件(くだん)の村の季節は冬。冷たい雪と美しい白に覆われた森は、全ての生き物が眠りにつくこの季節は、幼い少女と小さな鳥が何日も過ごせる程易しいものではない。
「……それに、このまま放っておけば竜刻は暴走し、イルヴァや村にどんな被害を与えるか判りません。彼女を探しだし、説得して、ユーフォニアを譲り受けてきてください」

 ――願わくば、それが『豊穣の音色』である内に。


品目シナリオ 管理番号217
クリエイター玉響(weph3172)
クリエイターコメント皆様、こんにちは、またはこんばんは。新米WRの玉響(たまゆら)です。

此方のノベルでは、竜刻の大地・ヴォロスにて、竜刻の暴走を止めに向かって頂きます。
目的地はヴォロスの北西に位置する小さな村落、イェーヴレ。四季が豊かな森に囲まれた地方であり、現在は雪に閉ざされています。

『ユーフォニア』を持って逃げ出してしまった少女・イルヴァを探し出し、説得して竜刻を譲り受けてきてください。
少女はユーフォニアに対して特別な思い入れがある様ですので、中々手放そうとはしないでしょう。
ですが、力ずくは御法度ですので、御承知くださいませ。

また、こちらは任意ですが、皆様の歌・音楽に関する思い出を、何でもいいのでひとつお聞かせください。ノベル内で描写致します。

それでは、参りましょう。白銀の世界へ、しろがねの歌を探しに。

参加者
璃空(cyrx5855)ツーリスト 女 13歳 旅人
相沢 優(ctcn6216)コンダクター 男 17歳 大学生
ヴィヴァーシュ・ソレイユ(cndy5127)ツーリスト 男 27歳 精霊術師
太助(carx3883)ツーリスト 男 1歳 狸
ルツ・エルフィンストン(cnus2412)ツーリスト 女 17歳 剣士になりたかった魔法使い

ノベル

 重さを感じさせない淡い雲が白く、薄氷の様に空を覆う。その隙間に覗く青もまた淡い色をして、氷に閉じ込められた湖面の様に冴えている。
 冬という季節は美しい。だが、それは生を感じさせぬ、酷薄な美しさだ。
「頼んだぞ、タイム」
 軽く握った手の甲に止まる鮮やかな青の梟へ、相沢優は微笑んで語りかけた。梟は緩慢な動作で首を傾げ、ほーう、と一声鳴いた後、凍てつく空へと小さな翼を広げて飛び立つ。
 その後ろを追う様にして、璃空の放った式神が鳥の姿を象り、空を裂く様にして飛んだ。二羽の小さな鳥はある程度の高さまで寄り添う様に飛んでいき、そこから左右に別れて冬の森へと溶けて行った。
 それを見送って、璃空は紺碧の瞳を優へ向ける。
「捜索は二匹に任せた方がいい。私達は、充分に準備をしていこう」
「そうだな。この寒い中じゃ、俺たちも凍えかねないし」
 優は頷いて、身を翻した。


 ヴィヴァーシュ・ソレイユとルツ・エルフィンストンが通されたのは、幾何学的な模様のラグが敷かれた、小さなドーム状の部屋だった。明かりを取るための窓は円く、木枠は流れる水の様な流麗な模様を描いている。
 直線は人工物を思わせる。であれば、曲線だけで作られたこの部屋は限りなく自然に近いのだろうか。
 ヴィヴァーシュの隻眼が、入り口の向かいの壁際に作られた小さな祭壇へと向けられる。銀糸の織り込まれた柔らかな布が垂れ下がるその空間には、何も置かれておらず、ただ静かな虚無を感じさせた。
「この部屋は?」
「祭事を行う際に使用する部屋だ。……じきに、その必要もなくなるだろうがな」
 ルツの問い掛けに、彼らを招き入れた男が皮肉に唇を歪めて答える。儀式に使用するのは『豊穣の音色』ユーフォニアであり、それは近い内に彼らロストナンバーが回収してしまうから、儀式を行う事も無くなるのだと、男は遠回しにそう言う。
 明らかに棘の含まれたその言葉に、ルツは小さく溜め息を吐いた。
「……聴こえる?」
 吐息とともに吐き出されたひややかな声に、男が小さく眉を動かす。
「この森には沢山の精霊が居るわ。――皆、イルヴァの無事を願い、私にその場所を伝えようとしている」
 ルツの耳は、大地に住まう精霊の声を聞き届ける。
 四季の豊かな森に囲まれた村は、自然を愛し、自然と共に生きてきたのだろう。場を満たす精霊達は誰もが、敬虔な村人達に好意を寄せている。ルツには確かに、彼らが朗らかに笑い歌う声が聴こえるのだ。
 そしてそれは、決してこの村に竜刻が在る所為ではないと言う事も、判っている。
「彼らはあなた達の敬虔な生き方に感謝し、力になろうとしているの」
 豊穣の音色が無くとも、彼らがこの大地から見捨てられる事はないだろう。自然の恵みに感謝する心を忘れない限り。
 ルツと同じく精霊の存在を認識するヴィヴァーシュは、表情一つ変えずにただその成り行きを眺めている。竜刻が全てであるこの世界を生きる彼らは『精霊』の存在に実感が湧かないのだろう、と少し観察を加えた彼には判っていたが、それを口にする事もない。言葉少なな自分よりも、彼女の語る言葉の方が村人を揺り動かすのに適している。
「ユーフォニアがなくなるからと言って、奏でる音色が変わる訳ではないでしょう? あなた達も、イルヴァも、楽器に固執しすぎていると思うわ」
 異世界の旅人である彼女は思う。『豊穣の音色』も他の楽器も、何も変わらないのではないかと。竜刻の在る無しなどに関わらず、どちらも『人間』が想いを籠めて奏でるならば、違いなど存在しない。
「……そんな事を言う奴は、今までに一人も居なかったな」
 ルツの言葉を受け止め、男は穏やかな笑みを浮かべた。何かを諦めた様な、けれど晴れやかなその表情には、先程までの自嘲的な色はない。
「俺達にとって、竜刻は絶対だ。だから、ユーフォニアがなければ儀式も意味が無いと思ってたが……考え直さなければいけないな」
 そして、深く深く頭を下げる。
「もう一度、頼みたい。イルヴァを見つけてくれ。――また、あの子の笛を聴きたいんだ」
「ええ。……私達は、その為に来たのですから」
 ヴィヴァーシュの静謐な言葉が、儀式の間に透った。


 鼻孔を擽るのは、ほのかな暖かさと、懐かしさを含んだ香り。
「あ。太助」
「おう! おかえりー」
 優の言葉に小さな手を挙げて答え、唐草模様の風呂敷の上で小狸が二人を出迎えた。空気を含み暖かそうな毛並みには所々で米粒が引っかかり、挙げていない方の手にはこぼれんばかりに巨大な御飯の塊が乗っている。
「何をしてるんだ?」
「おにぎりだ。きっと腹空かせてるだろーからな!」
 そう言って、器用な両手でぽんぽんと御飯を固めて形を整える。中には村で採れた山菜や川魚を分けてもらい、具として詰め込んだ。白飯を継ぎ足し固め継ぎ足し固め、を繰り返し、自身の頭くらいの大きさになれば、海苔をペタペタと何枚も貼る。太助特製、爆弾おにぎりの完成だ。
「車内でも作ってたんだけどな、やっぱりいつも食べてる味も食べたいだろー?」
 追加で制作中だ! と意気込み、完成品を風呂敷の上に並べ、また次のおにぎりの作成に取りかかった。
 小狸が小さな手で頑張る姿はとても微笑ましく、眺めていた二人からも自然と笑みがこぼれる。
「チョコとかも喜ばれるだろうか?」
「おお、いいなー! おれはあめ玉も持ってきたぞ」
 米粒のついた小さな手が指さした先に、これまた大玉の彩り豊かな飴が幾つか転がっている。ふわふわした毛並みの頬がやや膨らんでいるのは、その内の一つを摘まんで口に含んでいるからだろうか。
「外は寒いし、何か暖かい飲み物とか用意した方がいいかもな」
 肩に掛けていたバックパックから、優が広口の魔法瓶を取り出す。彼もまた、太助と同じ様なことを考え、わざわざ持ってきていたのだ。
「なら、イルヴァの家族にスープを作ってもらおう。頼んでくる」
 そう言ってその場を離れた璃空と入れ替わりに、銀の髪をした二人の男女が扉の前に姿を見せる。
「準備は出来た?」
 ルツの問いに優は頷き、その後首を横に振った。
「あと少し。太助のおにぎりと、璃空がスープを作ってもらってる」
「そう。食べ物を持って行くのは、良いかも知れないわね」
 冬の森が孕む危険性を、森の多い世界で生まれ育ったルツは痛いほどに知っている。何の準備もなしに薄着で飛び出した少女が、凍え、腹を空かせているだろう事も、容易に想像がついた。
「……それでは、私達はイルヴァ嬢の外套を預かって参ります。準備が整いましたら、村の正門にてお逢いしましょう」
ヴィヴァーシュが静かに言って、その身を翻した。
「あの、ヴィヴァーシュさん」
 弾かれた様に、という言葉が最もしっくりくるであろう勢いで、優が銀色の青年を呼ばわる。ヴィヴァーシュは静かに肩だけで振り返り、緑の片目を優へと向けた。
 彼らが同じ依頼を受けるのは、これで二度目となる。その依頼も、今と同じ、竜刻の大地で行われたものだった。
「ヴィーさん、って呼んでも、いいですか」
 ヴィヴァーシュは言葉を聞き届け、けれど何の表情も浮かべない。神経質そうな整った顔立ちは、緑の瞳を持つ側だけを優に向けていて、ただ怜悧にそこに在る。
「……ええ、構いません。ヴィヴァーシュは呼び難いでしょう」
 ――無表情は拒絶ではなく、許容なのだと。
「ありがとうございます」
 またひとつ、優は彼を理解した。


 森には神と魔が宿る。
 踏み入るにはあまりに恐ろしく、踏み躙るにはあまりに畏れ多い。
 ルツにとっての森とは、そう言う場所だ。彼女は生を脅かす魔を狩る為に森へ分け入り、同胞達の奏でる勇壮な音楽を標(しるべ)に故郷へと帰還する、そう言った生活を繰り返していた。
 ――けれど、この、生命が深い眠りに落ちたひややかな森は、魔の匂いが酷く希薄だ。代わりに、朗らかな精霊の歌に満ちている。幸せそうにふわりふわりと跳ねる歌声の合間に、いざなう言葉を聴いて、ルツはその道案内を誤る事無くなぞる。
 毅然と背筋を伸ばし歩く彼女の隣には、ふわふわとした毛並みの小型犬が忙しなく地面の匂いを嗅ぎ、深雪に足跡を付けながら進んでいた。変化の術で姿を変えた、太助だ。
 イルヴァの家族から借り受けた彼女の外套の匂いを覚え、それを頼りに太助は犬の嗅覚で冬の森を探して回っている。雪の積もる森は清らかな水の匂いに満ちて、少女の痕跡だけを探り当てるのは難しいが、精霊の声を聴くルツと共に進めるのはとても心強い。その上、璃空の式神と優のセクタンが見回っているのだ。
 嗅覚と聴覚、視覚の全てを駆使して、彼らは的確にイルヴァの痕跡を追う。


 素足に靴を巻き付けただけの足が、雪に沈み込む度に酷く痛む。
 慌てて抜き出せば露出した肌は白を通り越して赤く染まっている。薄着で無理に歩き過ぎた、と後悔するものの、今更引き返せるはずもない。
 初めは確かに兄や父に対して怒りを覚えて飛び出したが、今ではただの我慢比べだ。あちらが折れるまで、イルヴァは村には戻らないと決めた。だから、たとえ足が凍って動かなくなろうとも、構う事はない。
 肩に止まる小鳥が、気遣わしげに一つ鳴く。
 その喉を撫でてやれば、白銀の首飾りが指先に触れた。
 指に遺された、微かな温かささえも奪い取ってしまうその冷たさに、反射的に手を引く。――その温度は同時に、彼女に恐怖を与えた。もうじきに訪れる永劫の別れは、この石と同じ程に冷たいのだろうか、と、鈍い頭で考える。
 首を横に振って邪念を追い払い、笛を唇に宛てる。鳥がそれに応えて、ふわりと宙へ飛び立った。
 音楽に触れている時だけは、無になれる。
 静かに瞳を閉じ、笛に息を吹き込もうとした、その鼓膜を、大きな声が揺るがした。

「みっけたぞー!」

 子犬の変身を解いた太助が、大きな風呂敷を背負ったまま少女へ向けて勢いよく駆け寄る。ふわふわと空気を含んだ暖かな毛並みで、少女の足に飛び付いた。
 いきなり飛び付いてきた子狸と、その後から駆け寄る四人に驚き、少女は笛を構えたまま硬直する。
「君たちは、」
「大丈夫。怪しいものじゃない。俺たちは――」
「とにかく食え! 腹へってるだろ」
 イルヴァの警戒を解こうと微笑んでみせた優の言葉に被せて、子狸は背負っていた唐草模様を少女へと押し付けた。状況を呑み込めず、目を白黒させているイルヴァへ、ヴィヴァーシュが外套を差し出す。
「寒かったでしょう。どうぞ、羽織ってください」
「……これ、私の?」
「一番心配していたのは、貴方の体調の事です」
 淡々とした声は怜悧で、けれど内側に静かな情を秘めている。少女は素直に外套を受け取り、寒さに震える声でひとつ感謝を告げた。
「心配……」
「そう。村の皆も、とても心配してるぞ。――君の親友も、な」
 優が指さした先には、白金の羽根をはらりと零しながら、イルヴァの小鳥が羽撃いている。黒のつぶらな瞳は、少女の冷えた頬を真摯に見詰めていた。
「……ユウ、お前も心配してたの?」
「ああ」
 小鳥を見上げたイルヴァの問いに、優が頷く。
 予測もしていなかった方向から帰ってきた応えに、小鳥に伸ばしていた手を退いて、少女は振り返った。小鳥とイルヴァ、ふたつの視線を受けて、優は居心地の悪い感覚を覚える。
「?」
「あれ? 俺の事を呼んだんじゃ」
「……その小鳥、ユウって言うのよ」
「え」
 ルツの的確な指摘を受けて、小鳥と同じ名の青年は固まった。
 一足早く事情を察した璃空は込み上げる笑いを堪え切れず、未だに察しきれてない太助がその様に小首を傾げる。
 指先に白金を止まらせて、イルヴァが向き直る。
「君も、ユウ?」
 端的な問いに何処となく気恥ずかしさを覚えつつも優が頷けば、少女はほのかに笑みを浮かべた。――彼らが初めて見る、無垢な表情だ。
 少女と彼らとを阻む壁が一枚、剥がれ落ちたような気がして、太助はもう一度「食え!」と風呂敷を差し出した。今度は少女も頷き、いっぱいに中身が詰まった唐草模様を受け取る。
 風呂敷の包みを開けたイルヴァが、目を丸くした。片手で抱えきれない大きさのおにぎりが数個と、大玉の飴、それに板チョコ。更に魔法瓶に詰められたスープと御茶を璃空に差し出されて、柔らかくはにかんだ。
「ありがとう。……でも、こんなにたくさん、食べられない」
 感謝の言葉は、冷えた森の中で暖かく響く。璃空は微笑み、魔法瓶の蓋を緩めて御茶を注いだ。穏やかな湯気を立ち昇らせるそれをイルヴァに手渡して、紺碧の瞳に快活な色を燈す。
「それなら、皆で食べよう」
「そだな。みんなで食べる飯はうまいぞ!」
 璃空の言葉に同意して、太助が小さな拳を空へ突き上げた。


 冷えきった雪の森に留まる六人は、けれど寒さを感じてはいなかった。璃空が施した防寒の符を持ち、ヴィヴァーシュが精霊に働きかけて寒気から遠ざけているからだ。
 掌に小粒の木の実を乗せ、璃空がイルヴァの肩に止まる鳥へと差し出す。小鳥は一度首を傾げ、彼女の手首へ飛び移って木の実を摘み始めた。
「あ、食べた」
「ユウはその実が好きなの。母さんから聞いた?」
 暖かな食べ物の効果は高く、イルヴァの言葉に緊張の色はない。張り詰めていた糸を解けば、イェーヴレの奏手は、何処にでも居る明朗な少女にすぎなかった。
「……その小鳥が心配で、村を出たのですか?」
 絆され始めたその様子に、頃合いか、とヴィヴァーシュが話題を切り出す。慎重に、まずは彼女が家を出た理由から問うつもりだった。
「――……うん」
 途端にイルヴァは表情を険しくしたが、予測していたのだろう、いきなり怒り出す様な事はなかった。
「幼い頃から共に居る、と訊きました。……普通、そういった小鳥の寿命は短い。十年近くも、その小鳥は生き続けているのでしょうか」
「よかったら、聞かせてくれないか。ユウと君の事」
 慇懃であるが故に厳しくなりがちなヴィヴァーシュの言葉を、優が引き継ぐ事で和らげた。だが、自分と同じ名前を呼ぶのは照れくさかったのか、青年は小さく苦笑を浮かべる。
「ユウは、私の魂」
「たましい?」
 首を傾げた太助に、少女は笑いかける。
「ユウは、ユーフォニアのユウ。私の笛と、ユウの歌声、ふたつでひとつのユーフォニア。私が生まれるよりずっと前から、生きている」
「竜刻の力で生き、歌を歌う小鳥、ですか」
 璃空の手に止まる小鳥の胸元で、一度白銀色が煌めいた。その石が喪われてしまえば、小鳥がどうなるか――予測が付かない筈がない。
「……あなたは、自分の魂を護る為に村を出たのね」
 胸元で笛を握りしめて、豊穣の奏手は頷く。年齢に似合わぬ、矜持に裏付けされた穏やかな笑み。
 そんな笑みを浮かべる者達を、ルツは知っている。自分の役割に誇りを持ち、その為に生涯を貫き通す覚悟を持った笑顔。
 彼らに特有の頑迷さを、ルツは好ましいと思うし、少女が担う誇りの尊さも理解している。――だが、引き下がるつもりは、ない。
「けれど、イルヴァ」
 名を呼べば返る視線を、真摯に見返した。そして、悟る。少女の矜持は、こんな所で折れるものではないと。
「あなたは誰の為に演奏するのかしら?」
「……?」
「何の為に、ユーフォニアを奏でるの?」
 投げかけた問いに、少女は答える言葉を喪った。
 それは彼女の根源を探るもの。『豊穣の音色』と共に育ってきた少女には、その意義を問われる事など無かったのだろう。だからこそ、ルツは問うのだ。
「……村が、実り豊かに暮らせる様に、」
「それはあなたの理由では無いわ。豊穣の音色が奏でられる理由。――イルヴァ、考えて。あなたが、音楽を奏でる理由を」
「私、は……」
「好きなんだろ?」
 俯いた視界に差し出される、ひとつの手。
「音楽が。ユーフォニアが。だから、吹いていたいんだよな?」
 戸惑いがちに顔を上げれば、穏やかに笑う優が、彼女を見おろしている。黒い瞳は不思議と透明感に溢れ、冬空のひややかな光を受けて柔らかく煌めく。差し伸べられた手には、その笑みには、共感と同意を込めた、寛容な暖かさが在った。
 悩み、惑うイルヴァの心を、迷うその言葉を、優は受け止めたいと思う。
「それでいいんだと思うぜ。好きだって、それだけで」
 少女の唇から、戸惑いの声が零れる。震える瞳は透明な水の膜を張って、差し伸べられた手を取れば良いのか、それとも拒絶すれば良いのか、決めあぐねている様だった。
「でもさ、イルヴァ」
 優もまた、名前を呼ぶ。
 彼らが少女の名前を呼ぶ度に、少女の心に、少しずつ説得の言葉が沁み込んで行っている様な、そんな錯覚を覚えた。
「その、大好きな音楽が、いつか村を壊してしまうかもしれないんだ」
 イルヴァの肩が、小さく震えた。
「――知ってる」
 ユーフォニアの異変に、誰より先に気付いたのは彼女だ。奏手である彼女には、楽器の状態は手に取る様に感じられる。僅かな音の濁りであったとして、気付けぬ筈が無かった。
 それが伝説としてしか語られていない暴走の予見であったと知っていて尚、イルヴァは豊穣の音色を選んだ。
「だから、暴走しても、誰にも迷惑をかけない場所、に行こう、って」
 己の魂と呼ぶべき楽器を手放すよりも、それと共に人生を全うする事を、選んだ。
 けれど、少女の決意は揺らぎ始めている。
「……でもさ、それだとイルヴァが死んじゃうよな。俺は嫌だよ、そんなの」
 優は言葉を掛ける事を止めない。まっすぐに、少女を見詰める事を止めない。
「私、が?」
 そんな事を言われたのは初めてだったのだろう、イルヴァは瞠目し、胸に手を宛てた。鳥が優の言葉に同意する様に、一度囀る。その声は優しく、美しい白金の色となって響く。
「そうだぞ!」
 切り株に腰かけていた太助が、ぴょん、と雪の大地に降り立って追随した。
「せっかく友だちになれたんだし。さみしいじゃんか、そんなの!」
 雪に晒されて赤く染まった少女の足に飛び付いて、少しでも暖めてやろうと、自慢の毛並みで包み込む。驚いて見おろす彼女を振り仰いで、いっぱいの笑顔を浮かべた。
「だから、な。イルヴァの中のユーフォニアが、優しい音であるままがいいんだ」
 ユーフォニアがこの世界から消えても、彼女の記憶の中で、豊穣の音色が流れ続けていてほしい。
「大好きなんだろ、ユーフォニアが」
「……うん」
 頷く少女の様子は不安そうながらも何処か暖かく、遠く懐かしい想い出を探っている様でもあった。――その記憶が、怖い音色で塗り替えられてしまうのは嫌だ、と、太助自身もそう思う。
「奏でる楽器が、変わったとしても」
 ヴィヴァーシュの言葉が、凍てつく森に静かに溶けていく。降り注ぐ陽光は彼の柔らかな銀髪を照らして、木々に積もる白雪と同じ様に煌めかせる。
「その音色に込める気持ちは、変わらないのではないでしょうか」
 たとえ楽器がユーフォニアでなかったとしても、イルヴァが音楽を愛し、村の豊穣を願って奏でる、その気持ちが揺らぐ事は無い。そして、それを聞き届けるのは彼女の家族であり、村の皆であり、この地に集う精霊達だ。
 その尊い音色は、『竜刻』と云う小さな石一つでどうにかなってしまうものではない。
「音楽と言うものは、聴いてくれる人が居てこそですし。――聴いてくれる人が居るから、貴方は演奏するのでしょう?」
 イルヴァが言葉に出来なかった彼女の根源を、ヴィヴァーシュは冴えた瞳で見出す。
「……大切な人達の為に演奏するのであれば、楽器の違いくらいは汲んでくれるはずだわ」
 また、イルヴァの笛が聴きたい、と。村の男はそう言った。豊穣の音色ではなく、イルヴァの音を聴きたいと。彼の村人達は、ユーフォニアを喪った後も、彼女の奏でる笛の音を大切にするだろう。ルツは、それを確信している。
「……けれど、」
「ユウが気がかりか?」
 苦悩の果てに絞り出されたイルヴァの声を、璃空が繋いだ。己の名を呼ばれたと気付いたのか、白金の鳥が小さく囀り、歌う。
 ――少女が最も厭うているのは、この小さな親友との永劫の別れなのか。
「それに魂が在るのなら、式神に出来る」
「しき?」
「使い魔、とかそんな感じだな」
 生物の魂を己のそれと繋いで、現世に引き留める。璃空が腕に宿す十二体の輝きもまた、式神と呼ばれる存在だ。だが、それは同時に、小鳥に己の生を分け与え、生死を共にしなければならない事でもある。
 青い少女の瞳は凪いだ海の様に鮮やかで、静かにイルヴァの答えを待つ。

「君たちは、ずるい」
 やがて少女が発した声は、言葉であり微笑であった。
「もう、私には、言える我儘も、拒絶する理由もない」
 すべて、君たちが持っていってしまった。そう呟いて、諦めに似た晴れやかな表情で笑う。――それは、村の男が見せた笑顔と、同じ貌であった。
「その代わりに、大切なものを、くれた」
 緩く首を振って、胸に抱く豊穣の音色を抱き締める。
 音楽を愛する想い、誰かの為に演奏する気持ち。それを教えてくれた、と、拙い言葉で少女は誇らしげに語った。

「な、イルヴァ」
 太助の小さな手が、イルヴァの外套の裾を引っ張った。
「なに?」
 イルヴァは笑って応え、子狸の目の高さまでしゃがんで問う。
「聞かせてくれよ。さいごに、一節」
 新しく出来た小さな友人からのリクエストに、『豊穣の音色』ユーフォニアの奏手は、破顔して頷いた。
立ち上がり、肩に積もった雪を掃う。青銀の笛がその手に在る事を確かめる様に握りしめて、イルヴァは五人を振り返った。
「『豊穣の音色』は、君たちの想いに、呼応する。――よかったら、その心を、聴かせて」
 振り返り、ひらりと翻る外套さえも、祭事の装束の様で。
 少女が豊穣の音色を唇に宛てれば、深雪に覆われた白い森は、儀式の場へと容易く変ずる。
 青銀から流れ始める、静かな音色。ふわりと飛び立った鳥が、柔らかな歌声を乗せた。

 それは森のざわめきであり、荘厳な合唱歌であり、澄んだハンドベルの音色であり、母狸の子守唄であり、闊達な民族歌である。
 自在に音律の隙間を舞うその音色は、彼らの記憶を優しく喚び起こす。

 燃え盛る火が、断続的に爆ぜて音を立てる。
 璃空は弾けるその音の合間に、精霊の歌声を聴く。彼女はその言葉を解し、自らも歌を歌う事で彼らと会話をする。世界を見失った今、その声は届かなくなったが、燃える火の爆ぜる音を聴くと、彼らを思い出すのだ。
 火だけではない。彼女にとり、木々がざわめく音、風が靡く音、川のせせらぎ、鳥の囀り――自然に息衝く全ての音が、歌となる。璃空はそれを愛し、耳を傾ける。
 そこに、音楽が在る。

 音楽は良いものだと思う。けれど、歌を歌うのは苦手だ。
 学生生活には付き物だと言わんばかりに音楽会が当然の如くに存在し、歌の苦手な優も当然の如くに参加させられる。初めの頃は全く音を掴めず、歌うだけで同級生の苦笑を買っていたが、歌う事、それそのものを好いている彼は努力を怠らない。
 そうして、課題曲であったり、格別好きな曲であったりする数曲だけは人並み以上に歌える様になった。優はそれに喜んで、歌う事を嬉しいと思う。
 努力を受け容れてくれる音楽が、彼は好きだ。

 冬の大気は冷たく澄んでいて、ハンドベルの音色がよく透る。
 高いものから音階順に並べられた銀色の鐘は、精緻な装飾を彫り込まれており、音を鳴らさずともヴィヴァーシュを楽しませた。流麗な見目に反し、金属で出来たそれは存外に重量があり、長く演奏し続ける事は出来ない。
 けれど、ヴィヴァーシュはその音を好んでいた。
 持ち上げれば彼の手に重みを伝え、軽く振るえば高く澄んだ音を奏でる。それが途切れぬ内に、左手に握る次の鐘を振る。ひとつひとつ別の鐘から響き渡る音は、幾重にも重なる内に美しい旋律に変わる。何重にも重ねられた羅紗の様な音色が、冬の空気に溶ける。
 季節によって彩を変えるのは、音楽もまた同じだ。

 微睡む子狸を柔らかな尻尾で包み込み、母狸が優しく語りかけるように歌っている。
 抑揚に合わせて弟の穏やかな呼吸が聴こえて、太助は思わずつられて欠伸を一つこぼした。
 彼自身には、ああして母親に子守唄を歌ってもらった、と言う記憶は無い。人であれ狸であれ、幼い頃の記憶は曖昧で、明瞭では無いものだ。覚えているのはただ、暖かいという感覚だけ。
 けれど、弟を抱きしめる母親の表情は柔らかく、流れる歌声は優しく、太助の心にじんわりと沁み込んでいく。
 きっと、幼い太助にも、母親はあの表情で、あの歌を歌ってくれていたのだろう。
 胸を満たすのは、心地好い幸せと、微睡みの子守唄。

 神と魔の宿る森へ、剣士達は戦に出掛ける。同胞は彼らの無事を祈り、彼らの心を鼓舞する。
 旅立つ剣士達が己の喉を震わせ、己の肺から吐き出す呼気は歌となりて大地を揺るがす。魂を揺さぶる闊達な響きは故郷の同胞達へと伝わって、彼らの旅の無事を告げる。それに応えて同胞が返すのは、最高の器楽だ。
 旋律に寄り添う様にして奏でられる音は、歌が凱歌に変わる頃、彼らを迎え入れる道標へと変容する。
 お前達が帰る場所は此処に在る。どうか、神にも魔にも魅入られぬ様、誰一人として欠けぬ様、この音を標に還ってきてほしい。――それは、待つ事しか出来ぬ者達の、祈りだ。
 左腕の力を喪い、故郷をも喪ったルツの耳に、それが聴こえた様な気がした。

 ああ、と、誰のものかも判らない声が零れた。それさえも、冬の森の歌に変わる。

 音楽は、彼らが生きた全てに寄り添っている。


 ロストレイルが乗り入れる<駅>である霧の谷までは、幾日か歩く必要がある。それはこの村に来る際にも通った道のりであるが、イルヴァの説得よりもこちらの方が厄介だった、と考えているのは優だけではないだろう。壱番世界、更に言えば日本と言う四季の穏やかな国の生まれである彼には、雪が降り積もる平野を進むのは容易な事ではない。
 運動神経や武芸の才には秀でている優だが、それでも冬の自然はかなりの驚異だ。
「……また、歩いて帰らなきゃいけないんだな」
「そりゃ、歩いてきたんだからなぁ」
 呑気にそう呟く太助は、自慢の柔らかな毛並みであまり寒さを感じていない様だった。白に覆われた世界に映える暖かそうな茶色は魅力的で、抱き上げてふかふかしたい衝動を必死にこらえる。
 太助が背負う唐草模様の風呂敷には、イルヴァから預かり、『封印のタグ』を貼り付けたユーフォニアが納められている。小鳥の首に提げられていた石と、白銀の石が飾られた青銀の笛の、二つ。
「これで、よかったんだよな」
「ええ。……彼女も、幸せそうでした」
 璃空の呟きに、ヴィヴァーシュが答える。
 『豊穣の音色』を手渡した時のイルヴァの表情は、とても穏やかなものだった様に思う。生涯を掛けて奏でると決めた楽器を手放し、けれど彼女は大切なものを手に入れた。村の為に、大切な人達の為に、音楽を奏で続ける、その喜びを。
 悩んだ挙句、少女は璃空の誘いには首を振った。竜刻を首から離した小鳥は歌声を喪い、けれど優しい声音で小さく囀り、親友の肩に寄り添っていた。
 いつか訪れる別れをも、彼女は受け容れようとしている。
 不意に、彼らが歩いてきた方角から、ひとつの旋律が流れ出す。緩やかに、柔らかに。高く低く、自在に音律を駆け巡るその音楽は、イルヴァの奏でる笛――新しい『豊穣の音色』に、他ならなかった。
 無二の片割れを喪ったその音色は、何処か物悲しげであり、けれど満ち足りている。
「……精霊達が、喜んでいるわ」
 ルツは微笑み、虚空に手を伸ばした。

 イルヴァが奏でる笛の音色に、この地を覆う全ての精霊が喜び、唱和している。
 荘厳で美しい音楽は冬の森に満ちて、帰途につく異邦の旅人達を見送った。

クリエイターコメント五名様、ご参加ありがとうございました!
冬のヴォロスで紡がれた、小さな豊穣の歌を記録させていただきました。

五名様全員が『食べ物や飲み物を用意する』『外套・毛布を持って行く』のどちらかの行動を示してくださり、皆様のその優しい御心に感激いたしました。ありがとうございます。

筆の向くまま自由に捏造してしまいましたので、口調、設定、心情等、イメージと違う点がありましたら御伝えください。出来る限りで対処させて頂きます。

皆様から頂いたプレイングに暖かい気持ちになりながら、とても楽しく書かせていただきました。ありがとうございました。
御縁が在りましたら、また何処かの階層で御逢いしましょう。
公開日時2010-02-13(土) 20:50

 

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