『どこかな?どこかな?』 モフトピア特有の雲の上を アニモフ集団とことこ歩く 見た目は大きな蒲公英綿毛 ぱっちり目玉が綿毛に弐つ そんなアニモフ歩いてます 『まだかな?まだかな?』 『まちがえたのかなぁ?』 口が何処だか分からぬけど 小さな可愛い言葉を紡いで まっしろふわふわ雲の道を みんなでふわふわ歩きます どうやら何処かへ向かう様 『あっちにおちてきたよね?』 『あ、おっきいくも~~』 『まにあうかなぁ?』 急いでいる様でのんびりと 焦っている様で楽しみつつ 目的の場所へ向かってます でもこのままでは駄目です 行きたい場所へ行けません その理由は…………………――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――「どうやら本来通る雲の道を1本間違えてしまったようなんデス。今日はそんな迷子になっているアニモフの皆サンを、彼らの行きたい集落へ案内して欲しいんデスネ」 そう説明するのはロイシュ・ノイエン、最近世界司書になった、肌を除けば何処にでも居るロストメモリーだ。「案内して欲しいアニモフサン達は『ピッコロコーロ』と言います20人ほどの小さい団体デス。大きくて30cm、小さくても15cmのまん丸くて真っ白な、たんぽぽの綿毛みたいな体をしていマス。 ビーダマみたいな2個のおめめがアッテ、見えませんけど口がありマス。そんなアニモフサン達は歌がトテモ大好きで、その歌もとっても綺麗だそうデスヨ」 どんな声なのでしょうネ、と聞くことの出来ない歌声に思いを馳せながら、その手を導きの書から大き目のスケッチブックへと移す。「ピッコロコーロサン達の行きたい集落は『フレンセ』と言う、こんな絵のような場所デス。道を間違えたとはイエ、まだそんなに遠くまで離れていませンヨ」 そのスケッチには端っこに丸い籠の付いた土色の風車が描かれており、その風車を中心に少々モフトピアらしい丸っこいデザインながら長閑な洋風の田舎の景色が描かれているものだ。「絵のように集落には大きな風車がありますので、空を飛べる方か、オウルフォームのセクタンで上から見ればすぐ見つかると思いマス。遅くても夜までには着けると思いますヨ。デスガ……1つだけ問題があるんデス」 そう言い姿勢を改め、緊張した面持ちで皆を見るロイシュ。しかし参加者からすればアニモフといえば人畜無害、モフトピア自体も安全だというのが通説。時折いたずら好きは居るが危険ではない為、何故彼がそんなに緊張するのか分からない。「実は皆さん……急いでいますがのんびり屋さんなんデス」………………?「エト、本当にそのピッコロコーロサン達は夜までにはその集落に行きたいんデス。ですが凄く好奇心がおうせいと言いますか、チョット面白い雲があると寄って行ったり、ロストナンバーサン達を見ると沢山さわりに来マス」 一生懸命解説しているが………様は好奇心故に道が見つかっても寄り道する可能性が有る為、誘導する際はある程度の工夫が必要になると言った所だろう、それを除いても簡単そうに見えてしまう話だ。「時々風に吹かれると丸いですからコロコロ転がってしまいますが、どうかそんなピッコロコーロサンの一行ですが、案内よろしくお願いしマスネ」 本人は気付いていないがさらりと重要項目を言いつつ、1枚ずつチケットを丁寧にかざして刻印を刻んで行く。「導きの書では分かりませんでしたが、とっても叶えたいことがあって皆サン歩いているようデス。そんなピッコロコーロサン達のお願いを、どうか叶えてあげて下さいネ」 そう言ってチケットを渡した後、いってらっしゃイとアニモフ達のようにほんわかした笑顔で、出発するロストナンバー達を見送ったのだった。
―――ピッコロコーロは不思議なアニモフ 不思議な歌を歌いながら 昨日は右へ、明日は左へ 色んな所へ歩いています 「迷子のほわほわアニモフさん、僕と一緒にお散歩しない?」 そんな彼らに今日は もっと不思議な旅人が 道間違えた彼らの為に モフトピアにやって来たのでした まだまだモフトピアの太陽が明るい時、入道雲のように大きな大きな雲の上を、とても変わった一行が歩いていました。一行の殆どが真っ白で真ん丸い姿をしていて、自分の体をコロコロ転がしながら、体と同じ真っ白な雲の上を登っています 「キャッキャッ♪」 「すご~い」 そんな真ん丸の正体はピッコロコーロ。彼らはモフトピアの住人の一つで、今はある村へ向けてみんなで移動中 しかし移動といっても彼らはそんなに急ぐ事をしません。ある子はチョットはみ出た雲にわざと絡まったり、またある子は自分と同じ真ん丸い風船に乗っかったりして遊んでいるのです 「ああもぉ、ふわふわ浮き上がるアニモフちゃん達、可愛いよぉ」 そんな大小の風船や雲に遊ぶ愛くるしいピッコロコーロ達の姿を、ある時は一緒に遊んだり、またある時は小型撮影機片手にイクシスが撮影しています。そんな彼の姿は感情の分かり辛い古い古い鎧さんです、けれどその表情はまるでハチミツのようにとろけそうで、コテンと風船から転がったり、皆でじゃれあったりしているピッコロコーロの姿を逃さず映します 「ねぇイクシ~ス~~フーセンがフワフワしないの~~~」 「ん? 風船かなぁ? ちょっと待っててねぇ」 そんな中あるピッコロコーロがイクシスにお願いをしました。勿論イクシスは了解します。右手を撮影機からヘリウムガスボンベに交換して、その手が風船に触るとあっと言う間、沈んでいた風船がふわりとまた浮き上がります 上がった風船を見てピッコロコーロは大はしゃぎ、その姿にイクシスは少し照れくさそうに頬をかきます、でも次の言葉では彼はアタフタしてしまいます 「ねぇねぇイクシス。この風船であそこにいってもい~~い?」 「え!? あっ、そっちはその……」 なんで慌てるんだろう? と、そんな様子を不思議に思って体と同じ真ん丸い目にじーーっと見つめられれば見つめられるほど、ますますイクシスはどうしようと慌ててしまいます 「あそこってあの雲の端っこのところを指してるの? それだとフレンセから離れちゃうからこっちのみずうみの方に跳んでくれないかな?」 そこへ助け舟を出したのはティルス、灰青色の毛並みを持つ狼に似た獣人さんです。彼は今回皆の道案内を引き受けていて、出発前に世界司書に教えてもらった地図と、皆の真上を飛んでいる玖郎と言う、同じ旅人の天狗さんが教えてくれた方向や道筋から計算して、どこを行けばフレンセに着くのかを知っています そうなんだ~、とその子がティルスの言葉に納得して貰った風船と一緒に跳ねて行くのを見送ってから 「ティルスさんごめんねぇ~」 「ううん、そんなの気にしていないよ」 くるりとティルスへと振り返り、両手をパンッと合わせてさっきのお礼を言うイクシスに、ティルスはニコッと笑い返します。それは彼には別の理由でイクシスが困っていた事も知っているからです 『ええ、行きたい所があるのに、寄り道しちゃうの』 それはロストレイルの列車内での会話でした。 イクシスとティルスは何度も依頼で一緒に冒険をするとても仲のいい友人です。そしてまた今回も一緒に冒険をする事になった時、お互いにどんな冒険をしてきたのかを語り合う中で、ふと、今回の冒険でのピッコロコーロさん達の話が出た時です 『うん、確かに今回のアニモフさん達は急いでいるようだけど、好奇心が旺盛で』 『それじゃぁ、時間通りにたどり着けなかったら、みんな悲しくなって、涙ぽろぽろ流しちゃって、それで大洪水になっちゃうよぉ』 イクシスはピッコロコーロ達が時間までに辿り着けないかもしれない可能性を危惧していました。その時間までに行きたいのは、その時間に着かなければ叶わないものがあると考えたからでしょう 『でも、ボクがあんまり急がせすぎちゃったら、アニモフさん達の楽しみを奪っちゃうかもしれないし……』 でも、あんまり急がせ過ぎれば逆に彼らの『旅を楽しむ』事を奪ってしまうかもしれないと危惧しているようでした。 そして最初にピッコロコーロ達に出会った時も 『質問だよぉ。寄り道好きですカーー。 ボクも好きですよーー』 そう言って、少しおどけながらも、精一杯頑張ろうとしている友人の姿を見ました。 そんな姿を見て純粋に、頑張っている友人やそこへ行こうとするピッコロコーロ達の為にも頑張って道案内をしないとね、とティルスは一層責任感に湧くのでした 「ねぇティルス。今度はこんなお花を見つけたよ」 「え? うわぁ、すごいよリック。今度はどんな性質を持っているのかな」 そんな中、ふと呼び止められて振り返り、ティルスの膝近くある大きなピッコロコーロのリックが見せた草木に、彼は瞬く間に目を輝かせます。また新しいモフトピアの植物を発見したからです。 今回の雲の道は本当に色々なものがあります。星型や八面対等のガラス細工のような植物もあれば、まるで硬い板のような雲の破片を見つけたり、夜空を切り取ったような景色が映る湖もありました。 それは学者の卵の彼にとっては興味をかきたてられる物ばかりで、何度もモフトピアに足を運んでいますが、浮島とはまた違う、新しい未知が溢れていました 「ねぇ、これもおみやげにできるかな? もってきたらよろこぶのかな」 しかしこのリック君の発言でティルスは列車での疑問を思い出しました。そして思い切って彼はリックに思い切って聞いてみることにしました 「リック君、フレンセには遊びに行くの?」 「ん~ん。 違うよ」 「違うの? じゃあ何でフレンセに行くのかな?」 「仲間に会いに行くの」 「仲間?」 「うん。この前ね、空からティルスの話す集落に落ちた仲間を皆で見たんだよ」 「落ちた!? それって怪我にならないの?」 リックの言う状況を想像して思わずティルスの声がうわずります 「?? 高いところから落ちて体がチョットしびれることはあるけど、ケガをした仲間なんて知らないよ」 「そうなんだ……」 不思議そうに首を傾げる姿から、小さな疑問がふつふつとティルスに湧き上がりそうながらも、 「あ、だから最初玖郎さんを見た時、あんなに集まったのかな?」 反対に先程の疑問が1つ解決する事になりました 『……ひろい空をとべるときいて』 参加者の中で恐らく、最も純粋にモフトピアを楽しむ為に来た玖郎はピッコロコーロ達の注目の的でした 最初の注目は、彼が仲間を連れてきてくれたと勘違いされた事です。 本当にこれは偶然ですが、彼の装束の「白くて丸い」結袈裟は、正に「遠目で見たピッコロコーロ」に似ていて、それを見て間違えたピッコロコーロ全員に群がられる事態になりました。 勿論結袈裟はただの服の飾りで、生きていませんので直ぐに誤解は解けました。ですが群がられて瞬間だけ巨大なピッコロコーロのようになった姿は、思わずイクシスが撮影機に納める程凄かったそうです その次の注目は、彼が自分で空を飛べる事でした。 ピッコロコーロ達は自分で空を飛べません。彼らは風に吹かれて宙を舞う事は在っても、それは風の気まぐれで飛ぶのであって、自分達の行きたい場所へ飛ぶかどうか分かりません。 特に今日はイクシスの素敵なアイディアのお陰で、風船と一緒にくっ付く事で空に浮かんで飛ぶ事が出来ます。それでも、特に小さいサイズのピッコロコーロには風に逆らってでも飛べる玖郎の姿は羨ましい様で、体に触れても特に怒られることが無いと分かってからは彼が地上へ戻るたびに、ボクもわたしもと暫し一緒に飛ぶ為の場所の取り合いをしました そんな風に己に群がるピッコロコーロは、玖郎にとってはまた不思議な存在に見えました。彼は果たすべき目的が有るのなら、その目的を果たすのを最優先として考えます。逆に彼らのように目的さえ忘れて、周囲の出来事に目を奪われる事は彼の種族、少なくとも彼には全く考え付かない考えです (ひとが神社仏閣を巡礼するのはそこに到達することだけが目的ではなく、道程を労してすすむことに意義があるらしい。 それとおなじようなものだろうか) 自分なりの考察で、彼らの考えを知ろうとしましたが…… (くだんのかれらはどちらかといえば行楽のようにおもえるが) ……結局彼らは何も考えず、ただこの状況を楽しんでいるだけに見えます。 そして同じ参加者の2人は既にその状況を楽しんでいるようで、早く風車の方へ行かないのかと尋ねると 『え、風車?なにそれ。それよりみんなで一緒にあっちこっち歩いていこうよぉ。 風車なんて逃げないから~』 とイクシスは答え、ティルスの方も伝えた情報に感謝しつつ、年長のピッコロコーロと共に雲の上の新発見に興味を奪われているようです (……まあいい。おれもにたようなものだ) 調子にのって日没までに着けなさそうなら強制回収して運ぶ事も考えながら、彼も自分の目的を叶えようとまた翼で空を蹴りました 流れる風とイヌワシに似た煉瓦色の翼は、玖郎達を太陽の上へ運びます。足元で太陽の熱を感じる不思議な感覚を感じながらも、更に翼を広げて滑り始めます ある時は雷雲を避けるようにゆったりと円を描いて またある時は風を掴みながら小さな雲を飛び越えます 時折小さな雲にわざと当たって風の流れを変えてみれば わざと畳んで落ちて感じる風をきる感触を全身に感じます 「……わぁ」 そんな中ふと、小さな声と共に産毛のような感触があごに触れたのに気付きます。振り返ると手のひらサイズのピッコロコーロが襟口から顔を出していました 「顔をだすな、飛ばされるぞ」 そう言ってはみ出てしまったピッコロコーロを仕舞おうとしますが、うにぃと小さな声を上げてチョット抵抗中、この子ももっと景色が見たいのでしょう。そんな様子に諦めたのか、その手を放して『つかまれ』と一言言った後、翼で全身を包み込みました。 ひゅうううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅと大きな音と、押しつぶされるのかと思うような風の力が2人の全身を包み込みます。そして翼を広げない玖郎の体はどんどんと下へ下へと落ちて行きました。 翼と翼の隙間から見える、下から上へとどんどん動く雲や水滴を見ながら、どこまで行くのかなぁとその子が思った頃、突然景色がぐるりと回ります、翼がまた広がったからです。真正面から太陽の暖かさを感じる事から、その子でも随分高い所から落ちてきたんだと分かります 「……すごい」 先程まで自分達がいた空をじ~~っと眺めて、ポツリとその子は呟きます 「たのしかったのか」 また上へと翼を羽ばたかせながら、同じくポツリと玖郎も訊きます 「……クローさんは?」 その子は質問返しをしました、玖郎は返事をしません 「あっ……」 また景色がぐらりと傾きました。今度は旋回をしているようだと気付いた時、パシッと何かをキャッチするような音がしてその子は下を向きます。玖郎の左脚が掴んだのはその子と同じピッコロコーロで、恐らく下で強い風が吹いたのでしょう、イクシスの手も、ティルスの昆虫網も間に合わずに此処まで飛ばされたようです 「ここはおれのいた世界とだいぶ違う」 そして唐突に先程の答えを話し初めます、その子はただただ聞いています。 玖郎にとってはこの世界も元居た世界とは全く違いました。太陽は常に真上に在って、雲に簡単に乗れることも無ければ、草木の生い茂る青々とした景色があり、随分奇妙に感じているところも有りました 「しかし悪くない」 けれど此処には生きた風があって、その風に乗って水や雲、日の光が時間を追う毎に変わる「生きている世界」は、彼にとっては居心地の良い場所に当てはまったようです。 そして2人は拾ったピッコロコーロを戻す為に、一度皆の居る雲の道へ暫し戻って行きました モフトピアの太陽が少し赤いオレンジ色に染まった頃、入道雲の頂上を一行は歌いながら歩いていました 「みんなくったくただねぇ」 何人かは手をつないで歩いているようです。左端に居るのはイクシスで、右手でチャンバラごっこのように遊ぶピッコロコーロを撮影しながら、まぶたが少し下がってきた子が飛ばされないように左手でしっかり握っています。それでも眠らないように、つないで歩いているピッコロコーロ達は歌を歌っていました でもそれは歌と言うより音楽に似ていました、歌には歌詞が無かったのです。 最初に聞いた時にはイクシスはとても驚きましたが、歌詞が無くてもそれはとてもきれいな合唱で、歌い調子では喜んだりビックリしたり、愛らしかったり美しかったりと、まるで耳に聞こえない合唱を聞いているようです。友人のティルスの仮説だと、彼らの歌は合唱と言うよりもオーケストラに近くて、色んな声がまるで楽器の音のように混ざるから、こんな歌になるそうです でもそんな細かい事何てイクシスは考えていません。その歌を聴いているだけで、気持ちが通じ合うように心がほんわかと温かくなって、一緒に手をつないで歌うだけでも十分に幸せな気分になれたからです 「後もう少しでフレンセが見えてくるからみんながんばって」 そんなティルスは皆の先頭にいて、しきりにコンパスと地図で周囲を確認しつつ、尻尾の鈴を鳴らして後ろの皆を誘導していました 「ねね、もうすこしってどれくらい? まだ?」 「風車ってどこで見れるの?」 「風車はもう少し奥にある、てっぺんのようなところを越えたら見えるらしいよ」 ティルスが見る地図が気になり肩に登ってきた子達を、優しく撫でながら道順が間違いない事を確認します。 「あ、玖郎さんお帰りなさい。 あの先で風車は見えましたか?」 「あぁ、一応世界司書のいうとおりの建物はあったからまちがいないだろう」 戻って来た玖郎の報告に、ヤッタヤッタとさっきまで眠たそうにしていた子も起きだして見えてきたゴールにはしゃいでいます 「しかしこの先はとても急なさかだ。 おまえらはともかく毛玉は軽すぎるきがするが」 実はこの先はとても急な下り坂です。しかもその坂は掴みにくい、おうとつの少ない雲の坂なのです。ティルス達はどちらも横長な大きさで転んでも手を使えば十分その場で止まれます。 ですがピッコロコーロは真ん丸なアニモフです、掴る手もありません。もしこのまま滑ってしまえばまるでピンポン玉のように雲の外にまで飛んでしまうことがあるのです。彼らを安全に送るのが今回の依頼ですから、この先は少々危険かも知れないと玖郎は心配したのです しかし此処で玖郎は気付きました、誰も心配そうな表情は無く、皆どこかニヤニヤと、まるで物凄い秘密兵器を手に入れた子供のように顔が綻んでいる事に。そして皆が見せたその正体を見て、ちょっと表情はわかりませんでしたが玖郎も納得してくれたようです 急な坂の雲の上を、イクシスとティルスは滑っています 空を渡るように滑らかに、2人は小さな雲に乗って進みます その雲はリック達と見つけた板のように硬い雲で出来ています。皆で見つけた塊を、イクシスがトラベルギアで切り出し、出っ張った所に紐で持ち手を作って、2用のそりを作ったのです 周りはすっかり夜になりかけて、背中の朱色の太陽以外は、全部真っ青な濃紺に染まっていました。そんな青一色の空に、太陽に隠れていた星々の光と、昼間ガラスのようだと言っていた花の、ホタルのように淡い光が、少しずつ、少しずつ周囲を飾り始めています 上から歌が聞こえました、気付いて2人は顔を上げます そこにはとてもカラフルな風船で出来た、気球が1つ飛んでいます 勿論、そこに乗っているのは一緒に旅をしてきたピッコロコーロ達です 次にイクシスの持ってきた全ての風船にありったけのヘリウムガスを詰めて、事前に玖郎が強制回収の為に用意した大袋につなぎ作った気球は、ゆっくりと空の旅を楽しんでいるようです。そんな彼ら横を玖郎が速度を合わせて飛んでいます。ピッコロコーロが間違った場所に行かないように、空が暗くなって飛べなくなる前に、今日最後の空を今度は肩に何かを乗せて、一層力強く天狗と気球は本物の空を進んで行きます 「フレンセだぁ」 そんな気球を追い越して進む2人の目の前に、草花と違う明かりが見えてきました。そして少し盛った丘には、メルヘンチックながら集落を見下ろすように大きい、絵で見たあの風車が回る様子も見えてきて……… …………ピシッ、ピシシシ 「ねぇティルスさん、こんな事ってティルスさん知ってる?」 「ううん、イクシスさん、僕も全く知らないよ」 一足お先にフレンセに着いたイクシスとティルスは早速集落の人に聞いて、毛玉が居ると言われた一軒のお家に着きました。既に沢山のアニモフさんがその家に集まっていましたが、皆お客さんが見たいと知ってからは道を譲ってくれて、2人は前列でその毛玉を見せてもらう事が出来ました。 しかしそこに居たのはピッコロコーロではありません。 確かに形はよく似ていますが、今はまるでゴムまりの中から何かが出てこようとするように、形を無視して上下左右に伸びているのです。 2人が予想していたのと違う謎な光景に、撮影機を回しながらも必死にイクシスは答えを見つけようとします。一方のティルスは見つけるのではなく、近くに居た優しそうなアニモフに聞いてみる事にします 「えっとごめんなさい、あのベッドの中の毛玉について何か知っていますか?」 「あら旅人さん。あれはね、もうすぐ生まれるって卵なんですよ」 「え? 生まれるって?」 「あっ、はがれてきたよ~」 「ほんとう?」 「ええぇぇぇ、それってとっても痛くないの!?」 ……ペキペキペキペキペキキキキ.......... 返ってきた予想外の答えに驚くティルスと、剥がれると聞いてオロオロと慌てるイクシスを他所に、アニモフ達は皆驚く事無く、割れつつある毛玉をとても嬉しそうな視線を向けていまして………そして ………ポンっ♪ 今夜のフレンセは大きく温かい歌声が満ちています、フレンセのアニモフ達とピッコロコーロが、沢山のメロディーや歌詞を使って生まれた赤ちゃんを祝福しているからです。 あの後ピッコロコーロに似た毛玉からは、子馬にも似た小さいアニモフが生まれました。その子馬はこの村のアニモフ達がこれから育ててくれるそうです 「まだ僕の知らない事って沢山あるんだね」 そんな中ティルスは休憩中。先程までイクシスと一緒に生まれた赤ん坊やフレンセの様子を撮影していたけど、今イクシスは仲良くなったアニモフさん達と一緒に大合唱をしているそうで、彼は仲良くなったリックと一緒に大きなぶどうに似た甘い丸い果物を食べてました 「それにしてもリック君、今回みたいなことってよくあるの?」 「うん、けっこうあるよ」 この1日でピッコロコーロ達が旅をする事は、散り散りになった仲間を捜す為だという事をティルスは知りました。彼らはとっても軽い体のお陰でよく強い風に飛ばされます。好奇心旺盛な心は仲間とはぐれさせてしまうこともあります 「今日はだめだったけど、リック君たちが会いたいって思っていれば、いつかきっと会えるよ」 リック君もそんな仲間を何人も見てきたそうです。その話を聞いた最初は、辛くて寂しくならなかったかととても心配になりました。 「うん、知ってる。 だからその子がさびしくならないように、みんなで探してるもん」 でもリック君達はそんな姿を見せません。 「だからきっと会える」 自分達の出来る範囲で、時間は掛かるかもしれないけど 「会いたいと思えばきっと会えるよ」 離れた子が寂しい思いをしないように、まっすぐでいるその姿は 「ティルスにだってまた会えるよね?」 「うん。その時はまた素敵な歌を聞かせてくれないかな?」 ティルスも満面の笑顔になる程微笑ましい姿でした 「ああっ、そういえばまだ歌ってなかった」 と、突然思い出したように飛び上がるリック 「ど、どうしたのリック君、いきなりどうしたの?」 「あのね、ティルス達は今日お別れでしょう。 だからね、みんなで今日のためにお別れの歌をおくりたいの」 「そんな歌があるんだ。 ねぇ、どんな歌なのかな」 そんな突然のサプライズに驚きながらも、自分達に贈られる歌に彼は興味が尽きません そしてその歌を始める為に、2人はまだまだ楽しく遊んでいるイクシス達の元へと戻って行きました 「……」 「……」 「…………」 「…………」 「………………仲間のところにいかないのか」 「……うん」 一方ここはフレンセから大分外れの雲の道、玖郎達にとっては帰りの列車を呼ぶ停留所です。フレンセではまだまだお祭りの真っ只中、だけど玖郎は特に入る事も無く、空を飛ぶには暗くなり過ぎた空の下で、2人より先に帰り支度を済ませて列車待っていました。 そんな彼の隣に居るのは小さなピッコロコーロ、今日一日の半分を一緒に飛んでいたあの子です 「……帰るの?」 「もうすこしあとにな」 「……歌」 「……?」 ―――♪ そう言って歌った歌は今日知るピッコロコーロの中ではとっても小さな歌でした 声も、長さも、抑揚も、澄んだように平坦で、でもちょっとだけ温かい歌でした 「たんぱくな歌だな」 「……お別れの歌」 「……」 「……みんなで歌うのはもっと明るいよ」 「……なぜおれに?」 ちらりと横をのぞいても、その子は少し他の子より小さな瞳は星空ばかり見ていて、自分以上に表情が判りません。なので玖郎はじっと耳を傾けて、この子の言葉を待つばかりです 「……ボクはみんなみとちがうんだ」 「……」 「……1回あったらもう会えないとおもう」 「…………」 「……だからもう二度と会わなくてもいいように歌うんだ」 「……」 「……とっても楽しかったよって」 「…………まだ、歌いたりないか」 「……うん」 それからイクシス達がピッコロコーロと一緒に来るまで、玖郎はその一番小さな、精一杯の歌を何度も、何度でも聴いていました 【END】
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