クリエイター四月一日緑(wzam7625)
管理番号1436-12020 オファー日2011-09-07(水) 19:33

オファーPC ファルファレロ・ロッソ(cntx1799)コンダクター 男 27歳 マフィア
ゲストPC1 村山 静夫(csrr3904) ツーリスト 男 36歳 ギャング
ゲストPC2 ジル・アルカデルト(cxda4936) コンダクター 男 20歳 ブレイクダンサー
ゲストPC3 イー(cyda6165) ツーリスト 男 23歳 旅芸人

<ノベル>

  人は歓楽街に何を求めるのか

 その日の憂さを晴らすなら酒と喧騒を
 一夜の矜持だけ求めるなら女と煙草を
 ただ一日を生きるだけなら金と雇い主を求めるのがこの世の定石

しかし今回の彼らが求めたのは、それとは沿わないものだった。



「いや参りましたね別嬪さんに囲まれて恐悦至極まさに極楽!」
  盛大な拍手が鳴り響く中、賞賛の声を上げたのはロストナンバーの一人、イー。 現在彼を含む三人のロストナンバーは依頼主からのもてなしを受けていた。
 豪奢な照明の下両手には美しい娼婦達、机にはインヤンガイ独特の酒と華やかな肴、他の客の居ない完全な貸切状態を見るだけなら『豪遊』の一文字に尽きる歓待ぶりだ。

 因みにイーは旅芸人だがまだ自身の芸は披露しておらず、鳴り響く拍手はジル・アルカデルトの洋舞への称賛だ。即席会場での己の演目を終えた高揚感に浸りながらも、すぐ脇へ付いた女性の称賛に初々しい顔をしてイー達の元へ戻ってゆく。

「いやーーほんまこーゆー場所は初めてやけどえぇわぁー。あ、村山のおっちゃんも楽しんどる?」
 軽いタップに似たステップを踏みながら、村山・静夫とイーの中間点へと着席するジル。騒ぐ二人とは対照的に、何処かウィスキーに似た匂いの茶を静かに口を運ぶ村山。勿論彼の傍にも娼婦が一人付いているが、彼の性分と、仕事気質の本分を悟ってからは自ら話しかけることはせず、時折取り出す煙草にライターで火を点けるだけに留めている。

「あっしなりに楽しんでいますよ。それよりそろそろ例の時間じゃないですかい?」
「あーどやろなぁ? 一応深夜頃とは言うとったけどもちょっとなぁ……」
 最後の言葉は腿に当たる娼婦の白い手に、平静を保とうと若干視線を逸らす意識に回された模様。そんな彼の様子に村山が若干目を細めたところでイーが会話に加わる。

「まぁまぁ村山の旦那、そんなに急いてはことも仕損じてしまいましょう。それにこんな極楽浄土でそんな無粋な話は御法度ですぜ」
「……まぁ、確かに」
「そそ、それに相手が今夜こちらへ来るのは約束された紛れもない事実、焦らなくてもドーンと構えていればもしや相手が逃げ出すかもしれませんぜ?」
 僅かに村山が眉をしかめた様に見えた、そして一拍間を開けて立ち上がる。

「おいおい村山のおっさん、もうちょっと楽しんでいかへんの? まだバジルからはなんも見えへんし外は冷えとるよーー」
「なぁに、一寸外の様子を伺うだけだ。二人はあっしはきにせずそこで楽しんでおくんな」
  ジルの誘いをやんわりと断り、温められたコートを娼婦から受け取った村山は即席会場の裏手、正面玄関へと足を向ける。若干の盛り下がりを感じてか、さてさてと言葉つなげて周囲を引き込み、

「それでは村山の旦那の言う通りあっしらは一つ、パァーっと楽しんでおきやしょう。とはいえ例の悪漢が来ると分かっちゃ気持ちがガクっ、っと下がるのは否めやしません。さてここは一つそんな悪漢の襲来も吹き飛ぶような興奮と、それでいて心躍る小話なんかはいかがですかい?」
 イーが出す提案、すかさず娼婦の一人がどんなのでしょうかと相槌を打って、

「えぇ、それはとある神童の冒険奇譚でありやす。それはこの地似て非なる所、ある国で聴いたそれは……」
 雄弁にイーが奇譚を語りだした頃、ファルファレロの前の扉が開いた。


  場所は先の三人より上の階、喧騒に似た下階と違い落ち着いた調度品と酒、そして艶のある女の揃った個室に入って来たのは妙齢の、インヤンガイでは珍しいアーモンド型の黒目が印象的な女だった。

「待たせてすまなかったね、あたしが珊瑚楼の主、ウェンだよ」
「ファルファレロだ、あんたが今回の依頼主か」
 するりと腕から抜け、浅く女主人へ会釈して女が入れ替わりに退出する。

「しかし、ソウが仲介したにしちゃぁ随分若い代表だねぇ。それだけあんた達は使えるのかい?」
 彼女が今回の雇い主、女主人がファルファレロの正面に座り、次いで幅広の男が彼女の背後につく。

「逆に俺としちゃぁ今回のような仕事でここまで豪勢にされる方が意外だがな」
 ファルファレロは相変わらず身構えない、尊大にも自信満々とも取れる動作で足を組み、左手のショットに口を付ける。

「うちとしちゃそれ位のもてなしはするさ。これでもこの地区の最高峰に挙げられてるんでね」
「確かにここは、特に女は上玉のようだな」
「勿論ここに居るのはいい娘達ばかり。あたしにとっちゃ家族も同然さね」
 女主人も特にファルファレロの様子に害せず煙管に新たに火種を点ける。

「それにしても『火酒』とはねぇ、随分と洒落たこった」
 ムスクに似た香りが広がった。

「火酒と言えば火の着く高い酒が相場だが、ここじゃ簡単に焚きつく馬鹿に付けるからねぇ。こっちには詳しいのかい?」
 『ヤツ』とは今回の依頼の原因、地上げ屋と言う名のごろつきのこと。昨年辺りからこの娼館を手に入れようとかなりあこぎな手法で手を出すも、今日までそれが叶わず、とうとう今夜実力行使に出るという世界司書の予言と、探偵からの用心棒依頼が合わさってこうしてファルファレロ達が出向いたのだ。

「いや、似た話があっただけだ。しかしそんな野郎ならわざわざてめぇらだけでも解決出来そうじゃねぇか」
「そう簡単に済まないからあんた達に頼んでるのさ」
 知ってるくせにと言いたげに、緩く弧を書くように細める女主人を他所に、ファルファレロの空いたグラスに後ろの黒服が新たに注ぐ。その杯を受け取った時、バンビーナの変化に彼は気付いた。


「こいつはありがてぇ」
「いえ、こちらは手前共のサービスでございます」
  息が白くなるかならないかの寒空の下、店の由来にもなっている珊瑚色の赤門の前に村山は居た。右手には猛禽類を模した彼の手でも持ちやすい大口の器に生姜湯に似た色の薬湯。持ってきたのは先程部屋にいた黒服の一人だ。

「それと先程、イー様ご希望の品を例の場所に設置が終了しました」
「そうかい」
 イーが店側に頼んだのは水の張った大瓶だ。この希望は今回娼館で迎撃する為に全員がそれぞれ防衛策として一つづつ指示を出したもの。

「壁に関しては防弾仕様のテーブルを所定の位置に……」
「なら……」
 村山のリクエストは堅い壁、それも銃弾を通さない程に強固な物だ。今回彼らが倒す相手が重火器を使う事は事前に聞いており、初歩的だが能率的、娼館の中に数箇所の防弾ポイントを設け、襲撃用の拠点を何処から来られても対処できるようにする、警備主任時代に培った技法だ。

「所でつかぬことをお聞きしますが、何故イー様はあの場所にあのような物を?」
「さてね、そいつぁ俺の与り知らぬこった。奴さんなりに何か考えがあるんだろう」
 黒服が疑問に思うのも無理はない、ジルの広いダンス会場と同様、何故彼が大瓶を用意させたのかの真意が解らなかった。一応店の外側裏口の一つを塞いでおり恐らく足止め用に用いると判断できても、何故銃弾で割れるような陶器を使うのかまでは村山達には知る由もなかった。

「まぁ、少なくともファルファレロのやつぁ終わった後のためだろうな」
 因みにファルファレロのリクエストは酒と女、勿論防衛策ではない。どうせあいつのことだ、今回の依頼は酒と女のついで程度に考えていると簡単に想像がついてしまい、思わず苦笑が嘴から漏れそうな所で、村山達の頭上で鳥の羽音が聞こえた。
 

「お」
  唐突にジルが首を下げ何かを探すように首を振り確認、周囲もその様子に気づく頃、

「そんじゃ、そろそろ恐いオッサンらが来たみたいやし行ってくるなぁ」
  まるで買い物にでも行くように宣言した。
 勿論言葉は気楽でも内容は例のごろつきの来訪を告げる宣言、すぐさま不穏な空気が周囲を包む。

「おやまぁ残念でありやすねぇ、折角物語も山場に差し掛かった所だったのに」
 ジル同様イーもごろつきへはどこ吹く風、寧ろ水入りになってしまった冒険奇譚を哀れに思う始末。

「それではジル様とイー様は足止めの方宜しくお願いします。私どもは従業員の誘導へ」
「お、ほなそっちも気ぃつけてや」
 片や斜め45度に傾きつついざ迎撃へと向かうジルに対し、

「それではイー様もどうか気を付けて」
「いえいえ、俺っちは戦闘要員じゃありません。むしろ別嬪さんと一緒に逃げますよ」
「は?」
 対して逃げる気満々のイーに思わず素が出る黒服。

「逃げるが勝ちって言いやしょう。そうすりゃ、ひとまず死にゃしません」
「いや、ですがあなたは妈妈の雇った用心棒で……」

 だが会話は銃弾音に中断され、娼婦の一人が金切り同然の悲鳴を上げる。
 場所は決して遠くない入口付近、村山達のいる場所から確実に聞こえた。

「いやはや、百の雷を束ねた音とはこう云う事と言うんですかい?」
 左指は耳を塞ぎ、右手は顎をさすりながら相変わらず余裕綽々のイー、

「とにかく女達を下へ、奥のジィとウォンは入口の再確認を」
「あ、ちょっとちょっと」
 黒服にちょっかい……

「下ってことはもしや秘密の抜け穴でもありやすか?」
 ではなく質問をかける。

「いえ、下に一時的に身を隠します。残念ながらあのごろつきはこちらの建物の構造を知っていますし、わざわざ裏口から逃げさせる程馬鹿ではないでしょう。既に出入口が封鎖されているようですから……」
「それでも逃げた方がましでしょう」
「ですが」
「俺っちにはここの構造はてんで分かりませんが道が繋がっている以上、万が一にもその悪漢がそこに来ない保証はありやせん。それなら相手が一つに集まっている今、いっそ外の雑多に散った方が弾もばらけて当たりゃしないでしょう」
 イーの意見は一見正論。しかし入口以外の出入口の一つはその本人が大瓶で塞いでいる。一箇所の入口も外に廃材が積まれて開かないとの報告があり、恐らく他も塞がれてる筈だった。

「大丈夫、先の神童には及びませんが、一つ策を用意してるんでございます」
 しかし、そんな黒服達の視線を他所にカタンと一回下駄を打ち鳴らし、イーは入口とは反対の方面へ進んでいった。


「おうおうおうおう、なんでいその鳥頭。オウムのように俺たちに挨拶してくれるってのかいぃ?」
  集団の数は二十前後、全員が重火器を体に融合させている。恐らくインヤンガイ独特の義手の応用だろう。まず払い落としは選択肢から外れた。

「ウェンは俺の女になる覚悟は決まったか?」
 最後方には男達から頭一つ抜けた巨体、その言葉が正しければあれが依頼人の言っていたごろつきの親玉だろう。

「申し訳ありませんが主人の意向は今もお変わりありません、どうかお引き取り下さい」
隣の黒服は動じない、既に慣れたのか取り付く島も無く、何時ものことのように頑としてごろつき共を追い払おうとする。が、

 何十もの銃声音が鳴った。

 瞬間、黒服の耳が引き千切れる。幸い反射的に村山が引っ張ったためこれでも一部の銃弾だけで済み、代わりに正面の絵画が蜂の巣になる。勿論後から聞こえて来るのは下卑な笑い声。

「あぁぁああ? うっっせぇんだよこのクソ! てめぇのくそアマが散々ボスのあつぅぅぃお誘いをけった身のサビじゃねぇか。だからボスが直々に来てくださったんんだぞおいぃ」
 先程喋った三下と思しきガトリングの男が機械じゃない腕で掴み掛ろうとする。

「よしな」
 しかしその手は村山に掴まれる。

「あぁなんだ鳥頭、てめぇほんとにしゃべるのかい?」
「堅気に手ぇだすたぁいけすかねぇな。あんたらどこの組だ」
「ハンッ」
 鼻で笑う三下。

「なんだなんだぁぁ? てめぇらでかい大人にたよらにゃタメはれねぇのか? 言っとくがてめぇらが大人を呼んでく前にウチのボスが黙っちゃいねっ」
 三下沈黙、原因は勿論村山の拳骨。

「い、一撃……」
「……お、おい、てめぇうちを敵に回すと厄介なのをしらねぇのか!!?」
「あぁ死にてぇのか!? あ?」
 色めき立つごろつきの言葉は横に流し、黒服を自身の後ろへ下がらせる村山。

「外道に掛ける言葉なんざ生憎持ち合わせてねぇが、俺達の預かっているシマで暴れられるのは困るんでね」
 既に彼の右手のトラベルギアは抜けている、しかし不幸にもごろつきから見ればそれは村山に合わせただけの少々大きな改造ルガーでしかなく、それよりも巨大な武器を持つ彼らは結果的にしっぽを巻く機会を失ってしまう。

「……てめぇら、こいつを逃がすんじゃねぇぞ」
 親玉の号令も相まって、ごろつきが詰め寄ってくる。
 村山は相変わらず動かない、大鷲を擬人化したようなその顔に表情は見えないが、瞳には怯えなど全く無かった。
 そしてそろそろごろつきの包囲網が肩が触れ合うまで狭まった頃、村山が一言。

「―――皆の衆、出番ですぜ」
 先頭のごろつきがジルのストンピングで潰れた。


「どうやら奴さんは真正面から来たみたいだな」
「!…………チュウ」
「っす」

 娼館の裏手に居たファルファレロのセクタン、バンビーナは正確にはゴロツキの影は見ていないしミネルヴァの眼は聴覚を共有することは出来ない。しかしその視線が180度急旋回し、ジルのセクタンである同じオウルフォームのバジルが此方に向かってくるのを見て瞬時に判断したのだ。

 すぐさま女主人が扉を開ける、開けると同時に銃声が鳴り響いた。黒服は片耳を押さえて何処かへ通信を、ファルファレロは使っていた机を扉に重ねて即席の防弾壁を作る。

「ほんとにあんた達の言ったとおりだね。一日目で来るなんで偶然にしちゃ出来過ぎだ」
「数は判るか」
「把握してる数じゃ親玉を含めて二十さ。依頼書通り全員が馬鹿デカい銃を手にくっつけてる」

 二度目の銃声、今度は一度目よりも長く花火にも似たような音が銃撃に混じり、その都度娼館の壁や床がビリビリと震えた。

「ちっ、人の城で勝手に……あの猿知恵」
 アーモンド型の眼を猫目に思えるほどまで細め、忌々しく呟く。が、横から囁いた黒服の発言で、すぐさま表情を戻しファルファレロへ詰め寄る。

「あ、なんだ?」
「あんた達の部下の一人がウチの動きを無視して女達を外へ逃がそうとしている。一体何を考えているんだい?」
「誰のことだ?そもそも俺はあいつらの作戦何ざいちいち知らねぇぞ」
「何も知らない? それでもあんたは代表かい?」
 今度は眼だけでなく片眉も吊り上がり、更に前へと詰め寄る。

「良いかい、確かにあたしは作戦はあんた達に一任した。建物の破損も込みで任せたのは事実さ。しかしあの子達は私の大事な従業員だ。あの子達に少しでも危険がつくならそいつの」
 女主人のこめかみ横をファウストの弾が掠めた、思わず彼女も息を呑む。
 瞬間ファルファレロは跳ぶように扉から転げ片方のメフィストで廊下先の踊り場へ撃ち込む。そして銃撃戦の中女主人達の耳にも呻く男の声が聞こえる……

「そう言う気の強い女なら俺は大歓迎だ、だが……」
 会話は既に頭の隅へ、既に渦中の銃撃戦に彼は御執心。

「こっから先は俺様の仕事だ、依頼は一応守るが邪魔するな」
 直ぐ様メフィストの微調整に掛かり、臆す事無く廊下の先へ向かう。
 他に獲物が取られないようにだ。


  ごろつきの親玉―――ゴゥにはこの景色が信じられなかった。
 舞台上のジル・アルカデルトはダンスを踊っているように見える。事実彼の戦闘スタイルはブレイクダンスを主体とした戦闘舞踊であり、その予想のつかない多彩な動きが彼の部下を10人も潰したのだ。

 最初の部下を踏み潰した瞬間、彼の部下は一斉にジルへ向けて発泡した。ジルは散弾の雨を開脚で緊急回避、次いでに部下一人の脚を引っ掛けマシンガン持ちを滑らせ同士撃ち。5人を一度に戦闘不能にさせ奥の即席会場へとゴゥ達を誘い出した。

「おああああああああああああああ!!!!!!」
 叫ぶのはゴゥの部下、左腕のガトリングでちょこまかと動くジルを追従するもその精度は混乱ゆえにガタ落ちで、慣性だよりの動きではフットワークとフリーズを混ぜたジルの緩急に只々無駄玉を消費させ、けたたましい反射音を鳴らすだけ。

「ほな、そろそろいくでぇ」
「ひっ!!」
動きが大きく遅れたのを逃さず一気に距離を詰め、部下の両肩から大車輪の手順で首と胸に絡み、残りの5人と同じく内側から全体重を掛けて倒す。

「ぐぎぎぎぎぎぎぎいぎぎぎぎぎぎぎ…………!!」
「うわっ……!!」
 何度も成功はしない、義手を軸に両足と三点体を支え、残りの腕でジルの首根っこをつかんで投げ飛ばす。
 が、その体制を立て直す前に単発音と共に彼もとうとう崩れ落ちる。

「あぁやっぱ最後の一人は強いんは王道やなー」
「大丈夫かいジルの坊っちゃん」
 残りは全て村山だ。先の黒服と共に一時的に姿が見えなくなっていたが、今は特殊能力を駆使した高速移動により翻弄、そして片手に持ったテーブルの破片を盾に部下達の無駄打ちを誘ったのだ。

「くそっ…………」
 嘘だと思いたかった、だが動かない部下と悠然と佇む二人の対比は、壁際に潜むゴゥの焦りを強くする。

「クソっ、一体女共は……どこ行った」
 彼が探しているのはここの娼婦達非戦闘員だ。彼らは事前に入口以外の出入りできる箇所は全て塞ぎ、人間が全員外へ出られないように閉じ込めたはずだ、勿論二階以上は窓の大きさからすり抜けられないことは百も承知。

「さて、後はあのずーたいのよーでかいおっさんだけやな」
「!!?」
 女達の居そうな所は全て探した。事前に地図は入手し覚えた。知っている袋小路も地下倉庫と思しき場所も全て探した! …………だが見つからない。女どころか黒服の従業員も全て居ないのだ……!!
 後は上の階だ、あの女もいるかもしれない。だが先に4人先行させたのに誰も戻ってこないのが気になる。そういえば確かあの二人のほかに客人が残っていたのか? なら上には何人!? いや実は何十人も!!? あぁ考えがまとまらない…………!!!!!!!

「おや? どなっつぅわたたたたたたたたたたたぁ!!?」
 しかしそんな緊張の糸が切れる、理由はイーの出現。余りにも自然に現れたため、反射的ゴゥの撃ち出された二重機関銃の弾幕に狙われ、慌てて全力回避。そこだけ見ればジル以上の舞踏センス、勿論その音に二人が気付かないはずはない。

「お、イーちゃん無事やったん。それと一緒おったおねーさん達は?」
「あぁ、皆さんご無事ですぜ。既に屋敷から離れた場所にいらっしゃいますよ」
「何故だ! 扉は全部俺たちが」
 ゴゥが会話に割り込む、彼の知る限り全ての出入口は塞いだはずだ。実際全ての部屋の出入口も彼は確認している。

「おやその話ですかい? なぁにただ俺っちの用意した大瓶の出入口から出てきただけでありんす」
「は? かめでふさがれた場所なんて無かったぞ!」
「えぇ、勿論後で別の物であんさんらに出てかれんように塞がせてもらいやした」
「あの水入りかい……」
 ここで村山はイーの真意に気付き、初めて聞いたジルはただ首を傾げるだけ。

「えぇえぇそうで御座いやす。俺っちと同じ高さに満杯の水瓶ですから、傍から見ればまず短時間では動かせないでしょう。しかし…………」
 言いつつ袴から取り出したのは素焼きの破片、その破片をぽんと放り投げ、下駄で一蹴。
 「パキン」とまっぷたつに割ける破片を見ながらイーは一説。

「割ってしまえば『水の抜けた瓶』、砕いてしまえばそれは『踏み越えれる山』に成りましょう」
「おぉ」
「ま、一つ欠点を申しあげるなら袴が濡鼠になることですかねぇ」
 その回答にジルが手を打ち、おどけてイーがその濡れた裾を摘んで一礼をする。

「さて、お山の大将さんよぉ。あんたはどうするつもりだい?」
 そんな二人を談笑を傍目に、村山はゴゥに対峙していた。既に相手に勝ち目がない、がゴゥは血走った目で村山を睨みつけ、両腕のガトリングは防弾机を挟んで村山に標準を離さない。よく見ると口から泡が出ていることから思った以上に興奮している可能性もあり少々慎重に行動すべきだろう。

「このまま大人しく逃げ帰ってくれんなら俺は一向に構いや……」
「は、わざわざ逃がすのか?」
 全員が振り返った廊下の先にはファルファレロが居た、勿論端々には血糊付き。

「…………兄さんよぉ。ぶっぱなしたい気持ちは山々だが、既に勝負はついていますぜ」
 無理だと分かっても説得する。恐らく上の四人はファルファレロが片付けた様だが、やはりというか彼は満足していないし、目の前の敵の大将を態々見逃すような事は彼はしないだろう。

「はんっ、だが生かす意味なんてあるか? どうせ逃げ帰ってもまた猿山こさえてまたここに来るかもしれないぜ。それに……」
 勿論ファルファレロの回答は以上のとおり、残念ながらゴゥの命運は既に……

「あの女主人もテメェのタマをご所望だしな」


  それは獣の咆哮でしかなかった

 我武者羅に機関銃を、出鱈目に振り回して突進するゴゥ

「うぉとと」
  その破片はイー達にも降り注ぎ、

「ちょ!?」
 ジルが思わずファルファレロに加勢しようとして、村山が制す。

 ファルファレロも跳躍していた。機関銃の散弾の僅かな隙間、それが床ばかりだと気付いて壁際に跳び、床ではなく壁を蹴って、適当な花瓶台へ花を蹴落し着地。
 更に台が粉々になる前に再び跳躍、既に間合いの詰まった距離からゴゥの左肩。

 反射的にゴゥは肩を抑えた、それはジルが今まで部下にしてきた技の記憶、首を絡めとられないようにする処世術。しかし彼はジルではなくファルファレロだ。

 火花が散る。顔を防御したことで留守になった機関銃の関節に、メフィストの鉛玉をプレゼントしたのだ。

 ちぎれる左腕、滑るように裏手に着地するファルファレロ。
 ゴゥは無理やり体をひねり、残った右腕を確実にファルファレロの額に着けようと振り向いた瞬間最後に見えたのはファウストの白銀の銃口と、

 自分よりも十分獣染みた笑顔のファルファレロを見た。


 「……たく、ほんと派手だにやったねぇ」
 およそ半時間後、四人の前に立つのは女主人、場所はファルファレロとゴゥの最後の戦場となった廊下。最も損傷が激しく、ここだけを見ればここで起きた恐ろしい銃撃戦が如何に凄惨だったように思える。

「すんません、マダム」
 隣で詫びるのは村山、他の三人、基彼女の従業員達は現在ジルの即席会場で勝利の美酒を振るっている。今いるのは女主人の娼館を破壊したことを態々わびに来た村山と女主人、そして横の喋らない黒服の三人のみ。

「構わないさ、これも契約の内だし従業員通路だからまだましさ、それにしてもあんた、村山かい?」
 ふと手招きをする女主人。一抹の不安を覚えるも逆らわずゆっくりとそちらに村山が向かうと、

 眼の覚めそうな強い香りが口に広がる、村山は動かない。
 そしてゆっくりとその口を話再び女主人は語る。

「あたしにとっちゃ暴力で解決しようとする男なんて信じちゃいなかったけど……どうやら、特にあんたは違うようだね」
 ここ以外の建物の損傷は皆の対策で損傷は少なかった、寧ろ大事な従業員を、不可抗力を含めても全員生還させたことに、彼女は満足をしていた。

「ありがとう、あの子達の場所が無くならずに済んだよ」
 そう、緩くアーモンド型の瞳を潤ませるように細めて、村山の腕に絡める。
 村山は何も言わなかった。
 言葉は胸中へ、ただ恭しく女主人の腕を取り、女主人をファルファレロ達のいる会場へエスコートをした。

【Fin】

クリエイターコメント初めての人は初めまして、顔見知りの方はお久しぶりです
今回初めてプライベートシナリオを執筆させていただきました
四月一日緑といいます

シナリオの方お待たせして申し訳ありません
遅くなりましたがここにプライベートシナリオの方納品させていただきます

今回初めてのプライベートシナリオゆえに
何時も以上に参加者さん達の特徴を活かせたのか
どぎまぎしながら提出しておりますが
少しでも参加者さんの理想通りに、楽しめるように今は願うばかりです

それでは長くならない内にこの辺で
改めまして参加された方々はお疲れ様でした
そしてまた縁があれば宜しくお願いしますね
公開日時2011-10-30(日) 10:50

 

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