「竜涯郷に、遊びに行かないか」 そう言って、神楽・プリギエーラは司書から預かってきたというチケットを取り出した。「知っての通り、竜涯郷は先日卵の孵化が終わって、今はのんびりとした子育て期間に入っている。この時期は危険も少ないらしくてな、『華望月』の武将たちや、帝国のロウ・アルジェントから、いつでも遊びに来ていいと言われているんだ」 先日、卵の孵化と、トコヨの棘なる正体不明の悪意との戦いが行われた現場である竜涯郷は、『電気羊の欠伸』に次ぐ異質な【箱庭】で、そこには守護者である神が存在せず、またヒトも住まない。 その名の通り、どこまでも続く広大にして豊かな緑の大地――森が全体の50％、山が30％を占めるという――に、無数の竜が暮らす穏やかな【箱庭】だ。 強大な力を持つ竜が多数存在し、また別の理由もあってか、帝国が手を出すこともなく、命の厳しさを孕みつつも、竜涯郷はとても平和だ。 そして、竜涯郷には多種多様な竜が棲む。 様々な属性を持ち、大きさも姿かたちも生まれ持った能力も性質も性格も多様な竜が、竜涯郷を自由気ままに闊歩している。 ヒトの腕にとまれるような小さなものがいれば、小山のような巨体を持つものもいる。翼を持つものがいれば、角を持つものがいる。蛇に翼が生えたような姿のものもいる。自在に火や風、雷などの要素を操るものがいれば咆哮ひとつで山を砕くものもいる。陽気なものもいれば怒りっぽいものもいるし、妙に大人しいものや人間嫌いのものもいる。獣のような知能のものもいれば、人間よりも聡明なものもいる。 火性の赤竜、紅竜、火竜、炎竜。 水性の黒竜、水竜、雨竜、湖竜、海竜。 風性の白竜、銀竜、風竜、嵐竜、飛竜。 地性の青竜、緑竜、花竜、地竜、岩石竜。 光性の黄竜、光貴竜、金竜、雷竜。 闇性の紫竜、闇黒竜、星竜、魔竜。 聖性の天竜、神竜、聖王竜。 その他、鳥竜や妖精竜、毒竜や邪竜や獣竜、複数の首を持つ巨大な竜などなど、驚くほどたくさんの竜がそこには存在する。 更に、シャンヴァラーラ開闢のころより存在している竜――千年以上生きた個体は龍と称し、一万年以上生きた竜は古龍と呼ばれるらしい――、最大で数キロメートルにもなるような、強大な力を持つものもいるとかで、要するに竜涯郷は、迂闊に、生半可な気持ちで手を出すことは不可能な【箱庭】でもあるのだ。 とはいえ、「子育て期間が終わるまで、十年くらいはかかるそうだ。ということは、しばらくの間は、危険で獰猛な竜たちも静かにしている。物見遊山で出かけても、間違って食い殺されるようなことはない。たぶん」 若干不吉な単語を含みつつ、今しばらくは生存の厳しさよりも生きる喜びの大きい場所となっている竜涯郷に、誰か一緒に出掛けてみないか、という神楽のお誘いである。「ん？ ああ、あの棘の欠片か？」 誰かが、先日竜涯郷を騒がせた憎悪の塔の欠片について言及すると、「それは、見つかり次第、別件で依頼が行くはずだ。今回は気にしなくていい」 というあっさりした答えが返る。「それと、もしも必要なら、ロウ・アルジェントや那ツ森アソカ、華望月の武将たちを呼ぶことも出来る。自由に、適当に、のんびり楽しんでくれ」 そんな、暢気な言葉とともに、神楽はチケットを希望者に手渡すのだった。 ※ ご注意 ※ こちらのシナリオは同時募集の「【竜涯郷】トコヨの棘 憎しみの残滓編」と同じ時間軸で進行しています。同一PCさんでの、双方のシナリオへのエントリーはご遠慮ください。万が一エントリーされ、両方に当選された場合、充分な描写が行えない場合がありますのでご注意を。
１．竜の園の珍客 その日の竜涯郷は、どうにも珍妙な空気で満たされていた。 「しーがつーは新学期ーで竜ーっにっ会えるぞーっ！」 何故なら、まさに浮き足立っているというのが相応しいほどテンションの高いロストナンバーが、妙な節と歌詞をつけて歌いながら森を闊歩していたからだ。 「セルたんも可愛かったけど、こっちは何せ本物だし！」 小竹 卓也は荒くなる鼻息、早くなる動悸を抑えきれぬまま、期待をこめた眼差しで周囲を眺め回していた。 子育ての真っ最中という竜涯郷は、賑やかであるのと同時に穏やかな雰囲気に満たされていて、危険な気配を感じることはなかった。 なにせ、普段は同族の肉が大好きという、知能の低い凶暴な竜ですら、脱皮のすんでいない仔竜や子育て中の親竜は襲わないというのだから、竜涯郷の住民たちはもしかしたら人間より賢明なのかもしれない。 「おおお、あっちを見てもこっちを見ても竜、竜、竜……なんだこの俺得パラダイス……これはあれか、幸せのあまり死ねってか！ ちくしょう望むところだ！ ……いやすんませんもう少しここで竜を見ていたいので死にたくありません！」 セルフボケを繰り返しつつ進む卓也の幸せオーラが発散されるからか、周囲からは色とりどりの竜たちの、「やだ何あの人間、明らかに今までの訪問者と違う気配……しっ、見ちゃいけません！」的な視線を感じるが、 「そこは仕方ないね。うんうん。――自重、できたらいいなぁ」 卓也的にも自覚のあることなのでどうしようもないのである。 ここで興奮できなかったらドララーの名が廃る。 そのくらい、卓也にとって竜の住まう大地というのは憧れの場所だった。 「さてさて、どうするかなー」 興味津々、といった風情でこちらを見ている、まだ年若い竜たちに手を振りつつ、一日の予定を思案していると、 「うわぁ、ここが竜涯郷ですね！ ものすごく雄大な景色ですよ……あたしまで空を飛びたくなってしまいますよ……って、もちろん飛べますけどー！」 大はしゃぎ、と表現するのが相応しいウキウキ感を全身から発散しつつ、今回の旅の同行者、リニア・ＲＸーＦ９１が飛んできたので、卓也は空を見上げて手を振った。 「あ、おーいリニアさん、ここです、ここ」 呼ばわると、リニアは楽しげにくるくると回ってから、 「あ、すみません、ひとりだけ盛り上がっちゃって」 えへへ、と笑って地上へ降り立った。 リニアは可愛らしいパステルピンクのロボット少女である。 最近、機械も虫も守備範囲内などと言い出した卓也にとっては彼女も興奮の対象に入るわけだが、さすがに一挙両得を狙うと身体が持たない気がするので今日は竜に専念しよう、という算段が卓也の脳内で行われたことはリニアには内緒だ。 「いやいや、自分も絶賛大興奮中だから大丈夫ですぜ。つーかここで興奮しないとかありえんでしょ」 断言口調の卓也に小首を傾げ、 「そうですか、じゃあ、よかった。ええと……ひとりだけ飛ぶのも悪いし、いっしょに歩きましょうか」 リニアが陸上形態にモードチェンジする。 ピンク色のボディが白に変化し、側頭部のジャイアント・マニュピレーターがツインテール風からダブルシニョン風に変わる。ボディはミニチャイナドレス風のデザインになった。ボクシンググローブ状に変化したジャイアント・マニュピレーターは打撃系の戦いに優れるそうだ。 「それ、強そうですな。殴られたら吹っ飛びそうだ」 「あはは、大丈夫ですよ、今回は殴ったりしませんから」 「今回はってとこがそこはかとなく怖いんですが、さておき、リニアさんの今日の予定はどんなもんです？ いや、念のため、ね。お互いが予定時刻になっても戻らないとかそういう時の保険で」 「そうですね、子どもの竜たちと遊べたらいいなって思ってます。ええと……じゃあ、予定時刻の一時間前になったらお互いにエアメールする、くらいでどうでしょう？」 「おお、いいですな。では、ま、今日は各自楽しんで行きまっしょい！」 「はいっ！」 元気よく返事をしたところで、リニアの視線が色とりどりの仔竜たちを捕らえる。 全長は一メートルくらい、花びらのようなヒレや翼を持つ小さな仔竜たちは、はしゃぎ、じゃれあいながら、ふわふわ、くるくると楽しそうに空を飛びまわっている。 「あ、なんだかとっても楽しそう！ 卓也さん、ちょっと行って来ますね！」 「はいはい、いってらっさー。気をつけて！」 ホワイトの陸上モードからピンクの飛行モードへと戻り、 「みんな～、あたしも入れてくださぁ～いっ！」 リニアが、歓声を上げる仔竜たちのもとへと飛んでゆく。 卓也はそれを見送って、 「さてさて、じゃあ自分も行きますかー」 特にどこを目指すでもなく歩き出す。 どんな出会いが待っているのか、わくわくしながら。 ２．憧憬の根元 しばらく行くと、前回の孵化で生まれた若い竜たちの集団に取り囲まれた。 「おおお、どんな竜でもウェルカム！ スキンシップしようぜ！」 赤、青、白、黒、金、銀、紫に緑。 全長は、どの個体も二メートルから三メートル前後といったところで、まだ全体的に柔らかそうな印象を持っていた。さまざまな属性の、しなやかな姿をした竜たちが、陸上から、空からやってきて、卓也の興奮はまさに最高潮といったところだ。 本気で、生きててよかった……と我が人生に一片の悔いなし的な感慨を噛み締めつつ、自己紹介をすると、竜たちからも、ちゃんとしたヒトの言語でそれぞれの通称が返った。 「あ、そうか、一世代前の竜だから、もう人語の習得は済んでるってことか。こんなたくさんの竜たちと話せるなんて、なんかもうドララー冥利に尽きるっていうか……くう、たまらん！」 拳を握り締め、動悸息切れ鼻息をどうにか抑えようと深呼吸する卓也を、竜たちは物珍しげに見つめている。 「えーと……どっか、景色のいいとこ知ってる？ 色々、話がしたいな」 こんな機会は滅多にない。 「自分のいたところは、伝説でしか竜がいなくて、だからこそなのかな、俺、竜に憧れてて。でも、実物には会えないから、空想して竜を題材にした色んな物語を書いてるんだ……聞く？」 照れ臭そうに言うと、竜たちは好奇心に目を輝かせて催促してきた。 景色のいい山道を案内されて歩きつつ、人と竜の、出会いと別れの冒険活劇を情感たっぷりに語る。なかなかヒトのつくる文化というものに触れる機会がないからか、若竜たちはどんどん次を催促しながら、卓也の紡ぐ物語を愉しんでいるようだった。 「……っていうところでお話は一段落。どうかな、面白かった？」 ひととおり語り終えたところで、頂上付近に近づいた。 口をそろえて続きが聞きたいとねだる若竜たちにときめきつつ、 「そういや、聞いたんだけど、『竜髄玉』と『龍宝雫』って、どんなものなんだろう？ 知ってる？」 ふと思い出したことを口にする。 「入手条件はおそらく竜に認められるとかそれ関係なんだろうけど。髄、骨、身体の中？ 雫は涙とかの体液？」 若竜たちは顔を見合わせ、小首を傾げた。 彼らはまだ雛に近い若い世代なので、知らないことも多いのかもしれない。 「あ、いや、判らないなら別に。ちょっと気になっただけでどうしてもってわけじゃ、」 言いかけたところで、卓也は背後に視線を感じた。 それと同時に、 『竜髄玉も龍宝雫も、わたしたち竜が、唯一と思う友と出会った時の喜びで生み出すもの。特にどこの器官というわけでもないけれど、強いて言うなら血や心や魂が凝ったもの……かしら』 静かな、やわらかい声がして、 「……ええと」 振り向くと、白銀に赤の散る、しなやかで美しいからだの竜が、尖った岩の上に留まって卓也を見下ろしていた。どこか女性的な雰囲気のある、群を抜いて美しい竜だった。 今卓也を取り囲む竜たちよりもう一世代年上の若竜だろうか。 「自分は小竹卓也っていいます。……名前を尋ねても？」 見上げ、言うと、 『瑚ノ果。……あなたは、この前見かけたヒトのお仲間かしら？』 恐らく前回竜涯郷を訪れた誰かのことだろう、そんな言葉が返った。 「えーと、ロストナンバーって意味ならそのとおりです。瑚ノ果さんはその人と何か……？」 近づこうとしたら、瑚ノ果は翼を広げて舞い上がり、別の、もう少し離れた岩場へ移動してしまった。 「ええと？」 もしやこれは、人間に興味はあるがあまり近づかれたくないというやつだろうかと、恐るべき空気読みスキルで察し、卓也はそれ以上進むのをやめた。竜であれ人間であれ、関係をつくるには時間が必要だということは判る。焦っても仕方がない。 「近づかれるのが嫌なら自分はここから動かないんで、そのかわり話を聞かせてもらえます？」 それでも、美しい竜を目にした興奮と喜びが消えるわけでもなく、卓也がそう言うと、 『……不思議なヒトね、あなたは』 微苦笑めいた言葉が返った。 タクヤが不思議だってのは僕たちも思うなー、という若竜たちの頷きを視界の隅に見つつ、卓也は肩を竦める。 「そうかな……まあ、ドララーってのはそんなもんなんです」 『ドララーというのは、なに？』 「ああ、竜が好きで好きで仕方ない連中の総称、かな」 『あなたは、竜が好きなの……それは、何故？』 抑え切れない興味を無理やり堪えるかのような口調で瑚ノ果が問い、卓也はえーと、と言葉を探す。ここで気持ちを飾っても仕方がないので、正直な思いを吐露することにした。 「人間は、自分にないものを欲しがる。自分は子どもの頃から、人にない翼や尻尾、毛や鱗を持つ存在に憧れてまして……そういうのを求めるうちに、竜の、威厳のある翼や身体つき、威風堂々とした姿勢なんかに凄く憧れるようになったんです」 おそらく、それを一目惚れとでも呼ぶのだろう。 ヒトにはない姿を持ち、強く、勇壮で美しく、誇り高く揺るぎない。 そういうものに、卓也は憧れた。 これが、卓也が竜を好きになった理由だった。 「人は自分にないものを求める。おっかない話だけど、昔は、強い戦士の心臓を喰らって、その戦士の力を手に入れようとする……なんて文化も存在したらしい。だけど、実際にはそんなのは無理な話で、それがどうしても手に入らない、奪い取れない場合、手元に置きたがる……っていうと言い方がちょっとあれだけど。例えば心を通わせることができるなら、友達になろうとする。パートナーになろうとする。一緒になりたいと思うものなんすわ」 だから、と言葉を継ぐ。 気づけば瑚ノ果は岩上から移動していた。 優美な白銀の肢体が、天女の舞を思わせる美しい動作で地上へ降り立つ。 彼我にはまだ数mの距離があったけれど、ずいぶん、近づいている。 そのことに、少し嬉しくなった。 「気がついたら、自分は本当に……純粋に、竜を好きになっていた。竜も、そういうものなのかな？ 自分からしてみれば、竜って凄く崇高な生物だけど。もしそうなら、だからこそ人と竜は惹かれ合うのかもしれない」 卓也が紡いだ、あの物語のように。 ないものを互いに見つけあうからこそ、種を異にする存在同士、近づきたい、触れ合いたい、心を交わしたいと思うのかもしれない。 「……まあ、人間としちゃ、竜にとっては、何が『人間にあって竜にない』ものなのかは判らないけど。 でも……その、ないものを見い出すことで惹かれ合うのなら、ちょっと嬉しいかな、って」 正直、あんなに強くて綺麗で長命な竜たちが、矮小でか弱い人間のどこに惹かれるのかは判らない。 それでも、竜涯郷には、人間とともに他の【箱庭】へと出て行く竜が後を断たないと聞く。それは、卓也の言葉を裏付ける証明ではないだろうか。 「あ、すんません、つい熱く語っちゃって」 照れたように詫びると、瑚ノ果は先刻よりも穏やかな眼差しで卓也を見つめ、くすり、と笑った。 『いいえ。――そうね、少し、判るわ。わたしたち竜は、あなたたち人間の、流星のように眩しく儚い、強い魂の輝きに惹かれるのでしょう』 「え、あ、そ、それは、」 返るとは思いもしなかった、率直な答えに思わず赤面し口ごもったところで、瑚ノ果は翼を広げ、空へ舞い上がった。 『またね、タクヤ。色々と聞かせてくれて、ありがとう』 やわらかい笑みを含んだ声が再会を願う言葉を紡ぎ、 「いやっ、こちらこそ……！」 ぶんぶんと手を振る卓也の頭上をくるりと一度回ってから、瑚ノ果はいずこかへ飛び去っていった。 「おお……これが、コミュニケーション……なんか、嬉しい」 自分を取り囲み、よかったねータクヤが嬉しいの僕たちも嬉しいー、と全身で好意を示してくれる若竜たちに更なるときめきをもらいつつ、 「うん、楽しかったし……いい経験になった」 卓也は出会いの喜びを噛み締めるのだった。 ３．風に戯れ、空に遊ぶ リニアは、花びらのような仔竜たちと様々な遊びを愉しんだ。 今年生まれたばかりの、パステルカラーのやさしい色合いをした仔竜たちは、外見が物語るように、地属性の花竜と呼ばれる種族であるらしかった。 まだ幼い彼らは、人語を解しはしても会話は出来なかったが、心に直接感情を送り込む、テレパシーのような能力を有しており、リニアは小さな竜たちとの交流になんら不便を感じることはなかった。 「すごいですね、みんな、とっても速い！」 空中鬼ごっこ、雲間のかくれんぼ、空を漂う真ん丸な浮遊茸でボール投げ、背中に翼を持つ空象なる巨獣の鼻で滑り台などなど、リニアと仔竜たちは、まるで生まれたときからの友達ででもあるような親密さで、竜涯郷での遊びを愉しんでいた。 花竜の子どもたちが、リニアも速いね、ときゃわきゃわ笑う。 「そうですか？ でも、みんなはきっと、大きくなったらもっともっと速くなって、あたしなんか置いていかれちゃうんだろうなあ」 そう言うと、仔竜たちは、その時は背中に乗せて飛んであげるから大丈夫、絶対に置いてきぼりなんかにしないよ、とまた笑った。 「本当？ うふふ、ありがとう、嬉しい」 種は違っても心は変わらない、楽しい一時と喜ばしい出会いにリニアが微笑んだ時、卓也から一時間前を示すエアメールが届いた。 「ああ、もうそんな時間。楽しいと、時間ってあっという間に過ぎちゃうんですね」 呟きつつ、卓也へと返事を送り、 「とっても楽しかったです。今日はありがとうございました、また遊びましょうね！」 花竜の子どもたちに向かってぺこりとお辞儀をする。 リニアの真似をしてお辞儀を返した仔竜たちが、名残惜しげにまた来るよね？ また遊ぼうね？ と伝えてくるのへ大きく頷き、リニアは一際高く舞い上がった。 そして、上空を一回転しながら仔竜たちに向かって大きく手を振ると、卓也との待ち合わせ場所へ方向転換し、 「……さて、帰りましょう。とっても素敵な一時でした……また、来たいですね」 鳥のように空を駆けながら、にっこりと微笑んだ。 空には、穏やかで温かな風が、リニアの残り香のように吹いていた。
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