オープニング

「にゃんにゃーん!
新人司書のカウベルよぉ!」
 そう言った女は白地に黒ブチの猫耳フードを被っていた。しかしフードに開いた穴から角が覗いているので、猫っぽいのか牛っぽいのか微妙なライン。
「みんなぁ、猫は好きかしらぁ?」
 べッタリと間延びした口調で喋りつつ、勿体振った動作でドピンクの導きの書……ではなく手帳の方を開いた。
「モフトピアでぇ、猫の集会がたびたび目撃されてます。厳密に言うと猫じゃなくて、ネコ型アニモフの集会ね!」
 真っ白なファー付のノースリーブワンピの後ろからは白い尻尾も見えている。
 が、牛っぽい。
「みなさんはぁ、集会で何をしてるのかを調べてきて下さぁい!」
 白いブーツについたファーはまたブチ柄。
「特にアブナイことは無いと思うので、混ざって遊んでくるつもりで良いと思うわよぉ。」
 首には金色の平たいベル。と、ゴロゴロした丸ビーズの首飾り。
「あと、ハイ!みんなが上手く猫サンたちに混じれるように、これ貰って来たんだからぁ!」
 手に下げた袋から出てきたのは猫耳カチューシャ。
 ん?
「ちゃんとつけてってねぇ!」
 ニコニコと言う司書に強引に猫耳を渡されつつ、ロストナンバー一同はロストレイルに押し込まれた。



 夜の小島に、
 いっぴき、またいっぴきとネコ型のアニモフが集まる。
 形も大きさも様々だが、耳と尻尾、星の明かりで輝く瞳は同じ。
「にゃーん」
「にゃーん」
「……」
……

品目シナリオ 管理番号1664
クリエイター灰色 冬々(wsre8586)
クリエイターコメントこんばんわ、灰色冬々です。
猫の集会に突撃!
とは言いましても、猫“アニモフ”ですから普通の猫と同じとは限りません。
集まってみんなが同じことをしてるわけでもないみたいです。

◆下記、プレイングに書いていただけると嬉しいこと

・猫アニモフが何をしているか
・混ざってどうしたか

◆できれば非公開欄でも良いから書いてほしいこと

・他の参加者さんとの関係(書かれてないと反映されない場合があります)

◆プレイング字数余ったら
・猫アニモフの名前を好きに考えて下さい(今後も私がモフトピアで使わせていただく可能性があります)
【クラーク】【アスパラガス】←こんなかんじで括弧でくくって隙間に書いてください


以上、猫耳を忘れずにご参加くださいませ。

【注意】
*NPCのカウベル・カワードは司書なので本編には参加しません。
*プレイング日数【8日】、製作期間は長めに取らせていただきました。スミマセンお願いします

参加者
ナイン・シックスショット・ハスラー(csfw3962)ツーリスト 男 21歳 使い魔…?
日和坂 綾(crvw8100)コンダクター 女 17歳 燃える炎の赤ジャージ大学生
椿 朱音(cdtx7509)コンダクター 女 16歳 高校生
脇坂 一人(cybt4588)コンダクター 男 29歳 JA職員

ノベル

1.

「猫の集会なら猫族が参加すべきだろ?
 俺の名前はナイン・シックスショット・ハスラー、俺様に任せておけば間違いないぜ!」
 場所はモフトピアのとある浮島の端っこ。
 キリッと口の端を上げて言った身長38cm。猫。
 黒い毛に金の眼、西部のガンマンのような帽子とケープをつけている。
「あらカッコイイわね、お猫さん。私は脇坂 一人よ。この子はポッケって言うの」
 脇坂はひざくらい身長のナインに向かって口元を緩めながら挨拶をした。女性的な口調だが、メガネにスーツの長身の男性である。オウルフォームのセクタン・ポッケは肩に無表情でとまっている。
「日和坂 綾です! はじめましてにゃ~ん。ってあれ、ナインさんはにゃんって言わないんだ。残念にゃーん」
 本気でガッカリ言う綾はサンバイザーに真っ赤なジャージと短パン姿、ふと頭上の重みに気づき、慌てて言葉を続ける。
「あっ、セクタンの名前はエンエンだよ!」
 綾とお揃いのサンバイザーを着けたフォックスフォームのセクタン・エンエンは名前を呼ばれて片手を上げた。
「私は椿 朱音です。セクタンは姫って呼んでます」
 朱音はスッキリとまとめた髪に首から下げたカメラが特徴的。
「あの、私いつも犬とか猫に嫌われてしまうので、今回の調査で猫アニモフさんになら仲良くしていただけるのかもと思って来たのですけど……ナインさんどうでしょう?」
 肩に乗せたデフォルトフォームのセクタンが落ちないように支えつつ、ナインに向かって屈み込んで言う。ナインは仰け反った。
「お、俺に聞くのかよ」
「やはり猫のことは猫族に聞くべきかと」
 神妙に頷きながら言われ、ナインはもう一度仰け反った。
「私も猫に逃げられるー!」
 すかさずハイッと元気に手を上げて綾が言い、
「どうしたら猫さんに気に入って貰えるのかしら?」
 脇坂も横で顎に手を当てながら神妙に頷いた。
「そ、そんなのわかんねぇよ、人と人との相性と似たようなもんじゃねぇの?
 何より真剣過ぎるてめぇらが怖いぜ!」
 ナインは構えるように姿勢を低くして、耳を下げた。
 猫が警戒している時のポーズだ。
「ん~そっかぁ、またアニモフさんにも聞いてみよー」
「司書さんの言ってたお迎えってまだ来ないのかしらね?」
「ちょっと早く着いてしまいましたからね」
「……おい、あっさり話変わってんじゃねぇか」
 世界司書からはモフトピアの浮島に着いたら案内が来るように手配したから、その場で待っているように言われている。そこで待ち時間を利用して自己紹介をしていたわけだ。
「よーし、今のうちに猫耳そうびぃ~!」
 綾がパッとサンバイザーを取ると、掲げ上げた猫耳カチューシャを真っすぐ振り下ろす。頭上にいたエンエンが慌てて避けた。
 そして両手で猫耳部分をペタペタ触り、きょろきょろと自分のお尻のあたりを確認する。
「う……やっぱり耳は動かないし、おしっぽも生えてこないかぁ、ザンネン」
 そう言うと袋からゴソゴソとオモチャの猫しっぽを取りだし、腰の後ろに装備をした。
 完璧。
「まぁ日和坂さん準備がいいわ」
「えへへ」
「じゃあ私も……」
 脇坂が少し照れながら猫耳カチューシャを頭につける。
「一度でいいから、つけてみたいと思ってたの。どうかしら?」
「脇坂さんかわいい~」
 綾がニコニコと言い、朱音もこくりと頷く……しかししばし逡巡したのち顔を俯かせて言った。
「でもやはり恥ずかしいですね……」
 朱音の言葉に、はしゃいでいた綾と脇坂が顔を見合わせる。
 少し気まずげな空気になったところで、ナインがハンッと笑った。
「俺はいらねぇぜ!」
 腕を組んでふんぞり返って言う姿に、脇坂が思わず苦笑する。
「まぁそれはそうよね」
「あ、つけないならちょうだいよ! エンエンに着ける~!」
 綾はすかさず猫耳カチューシャを回収すると、エンエンの頭につけた。
「おい、耳4つになってんぞ」
「え、私も4つだよ~?」
「あら、私もだわ」
「私も」
 朱音の頭上にも、いつの間にか猫耳カチューシャがつけられていた。
 ちょっと雑に付けたらしく、髪が少し乱れている。
「よーし、みんなが猫になったところで、
 今日はヨロシクにゃん?」
 右手を丸めて顔の横にあげる。
「なんだそれ」
 ナインがドライに聞いた。
「ほ、本番前の予行練習とか? おネコさまに粗相がないように、みたいな……?」
「……ヨロシクにゃん」
 脇坂が恥じらいながら挨拶を返し、ナインは呆れ顔をし、綾と朱音は「可愛い人だなぁ」と心の中で思った。
 朱音はあっと気づき、カメラのカバーを外す。
「今のポーズで、2人を撮らせて貰えません?」
「え、やだぁ~恥ずかしいなぁ~!」
 綾はそう言いながらも、さっさと脇坂の横に並ぶ。
「はい、チーズ」
――パシャッ
 と、シャッターが落ちる瞬間。
 すかさずナインがジャンプし、枠に収まった。
 猫ポーズの猫耳男女と、必死にジャンプする黒猫のピンナップから、
 猫の集会の調査が始まった。


2.

「集会にお越しになるお客様はこちらですにゃん?」

 突然聞こえた澄んだ声に、4人は驚いて振り返る。
 そこにいたのは、アニモフにしては細身で優雅な体型をした、黄色の可愛らしい猫アニモフだった。
 手にはすずらんを模したランプを持っていて、その姿は妖精めいている。
「おまたせいたしましたにゃん。案内役の蒲公英と申しますにゃん」
「日和坂 綾です! 今日はヨロシクにゃん!」
「脇坂 一人ですヨロシクにゃん」
「ナイン・シックスショット・ハスラーにゃん!」
「椿 朱音です……」
 朱音だけは冷静に答えた。
 蒲公英は片手を口元に当ててクスクスと笑った。
「猫耳をつけたお客様がいらっしゃると聞いてきましたにゃ」
 そう言って、ひとつひとつの猫耳を眼で追うと、ナインが慌てて自分の耳をひっぱり声を上げる。
「こ、これも実は猫耳なんで!」
「あら」
 蒲公英がふんわりと笑う。
「おかしな方。わかっていますにゃ。ナイン様もお客様ですにゃ」
 ついデレッとしたナインを綾が思わずどついた。
「な、何すんだ!」
「えー?」
 綾がエンエンの猫耳を撫でながらそっぽを向いた。
 ナインが盛大に舌打ちする。
「あら、でも案内が猫アニモフさんということは、蒲公英さんに話を聞けば調査が終わってしまわない?」
 チリン。と、蒲公英の尻尾についた鈴が鳴った。
「これから皆さんをご案内するのは、モフトピア・ニャンコ・共同組合 Myan-coの集会ですのにゃ。モフトピアに居るあらゆる猫型アニモフの集まりなんですにゃ」
「Myan-co……」
 朱音がメモを取り出し書きこむ。
「私も全てをご案内できないくらい大きな集まりなのですにゃ。ですので、皆さんには会長に挨拶していただいた後、それぞれ好きに集会を体験してもらいたいのにゃ。『聞くだけより、感じろ』ですにゃ」
 わりと男らしい台詞を交えながら説明をした後、蒲公英は皆を手招きした。
 トテトテと歩く蒲公英の後ろを4人が歩幅を合わせながら歩く。
「お店やおしゃべりやサーカス……みんな色んなことをしてますにゃ。何かご希望があったら、なるべくご案内しますにゃ」
「合コン……」
 ぼそっと言ったナインに、蒲公英を除く3人が「ん?」と、顔を向ける。蒲公英は気にした風でも無く答えた。
「私は詳しくないのですが、そんなことをしている集まりに心当たりがありますにゃ。後ほど案内できそうなものを呼んできますにゃ」
「えっ! マジですか!」
 ナインがグッとガッツポーズをしてから、3人の涼やかな視線に気づく。
「ぐっ、なんだよいいじゃねぇかよ。ぶっちゃけ! 元の世界じゃモテなかったんだよ!
 仕事でレイドを24時間監視してたらストーカーの汚名着せられてメスネコが寄ってこねえんだよ!」
 キッと3人を順番に睨みあげ――ちょっと懇願するような眼にも見える――たが、綾は白けたような眼のままナインを見下ろして言った。
「へぇー」
「ぐぬっ」
 朱音は回りを見渡しながら時々写真を撮っているし、脇坂はコンパクトを取り出しカチューシャの位置を直していた。
 ナインは心の中で叫んだ。
――こいつらはどうでもいい。今度こそいい出会いがあると俺様は信じてる!
――願わくば蒲公英さんのような美猫アニモフとお会いしたいぜ……!!


3.

 会長への挨拶というのは、あっさりと終わった。
 行った先のテントに居たのは、くすんだ白い毛が非常に長い、大きな毛の塊のような老猫アニモフだった。
 蒲公英に言われ前に屈むと、会長猫は一人ずつの頭をぽんぽんと撫でた。
 挨拶はそれだけだった。
 肉球が気持ちよかった。
 朱音は他の3人と別れ、集会の中心地のあたりを散策している。
 蒲公英の言うとおり、集会はとても大きい。お祭りか市場の様で、大小のテントが立ち並び、また敷物だけ引いてそのうえに商品を並べる者もいる。
 賑やかなおしゃべり、ファッションショー、お菓子やしっぽアクセの出店、曲芸披露サーカスに、またたび酒場。
 全てが猫アニモフによるものだ。
 猫アニモフの姿も様々で、編みぐるみのようなズングリムックリな体型の者から、頭だけが長い不思議な姿をしている者もいた。普通の猫と特に違うのはその身体がカラフルだったり、幾何学模様だったりするところだ。
 あと勿論、2本足で歩き言葉をしゃべっている。時々4本足で歩く者もいるけど。
 初めは遠目に見ていたが、猫アニモフ達は「いらっしゃい、いらっしゃい」と手招きをしてくれる。
 おかげで様々な猫アニモフやそのお店を写真に納めることができた。
 時々猫耳を褒めてくれるのが嬉しくなってキチンと位置を直してみる。

 ふと。小さなキャンバスをたくさん並べて売っている、紫の帽子を被った猫アニモフが眼に着いた。
「写真を撮らせて貰っていいですか?」
「いいわよ」
 とセクシーな声で答えた猫アニモフとその絵を何枚か写真に収めていると、ポラロイドカメラから出てきた写真を指して猫アニモフが言う。
「アタシ、エヴェイユっていうの。その写真素敵。一枚下さる?」
 一枚選んで差し出すと、エヴェイユは店の奥から眼の前まで出て来て両手で大事そうに受け取った。
「とっても素敵。アタシも貴方の事、描いてあげる」
 エヴェイユは奥へ手招くと、不思議な色に輝く画材でキャンバスにサラサラと朱音を描きだした。
「あのー」
「すぐ描けるわよ」
「少し触ってもいいですか」
「いいわよ、撫でて貰えるの。好きよ。お隣のシロイノさんも、お友達のピルエちゃんも好きってゆってたわ」
「で、では遠慮なく」
 そっと触った感触はすべすべしていて、ビロードの様だった。
「貴方も絵は描かれるの?」
「え?」
「お写真がとても上手だったから」
「ええ、描きますけど」
「じゃあ、貴方も描かれるとよろしいわ。アタシ、絵を描く人好きよ」
 エヴェイユは瞳も紫色だった。とても色っぽく、心惹かれる色だった。
「じゃあまずエヴェイユさんを描きますね」
「あら困るわ」
 エヴェイユが言うのに、スケッチブックを取り出そうとしていた手が止まる。
 そんな朱音に、エヴェイユはキャンバスから顔を上げて紫の瞳を細めた。
「この絵だけじゃお礼が足りなくなってしまうもの」


4.

 脇坂は皆と別れる前に、蒲公英に声をかけた。
「私、猫アニモフさんにお土産を持って来たのだけど……」
 取り出したのは壱番世界のリボンやスカーフ、それと猫用のオモチャ。
「まぁ素敵ですにゃん! こういう可愛らしいのが好きな子達が集まっているところがありますにゃ。きっとそこへ持っていくと喜びますにゃ!」
「貴方もひとつ貰ってくれないかしら?」
「いいんですにゃ?」
 蒲公英は顔を上げて眼をパチパチすると、そっとネズミの形をした猫用のオモチャを手に取った。
「ありがとう。あとでメッタメタに遊びますにゃ」
 蒲公英は割と攻撃的な性格のようだ。


「かずにゃーん! おっこちてきた雫はすぐにこの袋にいれなきゃ!」
「ちょっとリラ! 言い方キツイよー」
「え、そうかな、ゴメンねピルエ」
「かずにゃんにゴメンねするにゃん!」
 蒲公英が案内してくれた森では、多くの猫アニモフが空を見上げて駆け回っていた。
 ここは月や星から光の雫が落ちてくる場所。
 落ちてきた雫はすぐにレースの袋に入れないと粉々になってしまう為、みな真剣な顔で落ちてくる雫を追いかけ回している。
 集めた雫はスパイスや食材、アクセサリーの素材などなど、さまざまな用途があるそうだ。
「かずにゃん黙っちゃってどしたのーごめんねごめんねー」
「もー! リラがこわいからだよー」
 ピンクの姿が可愛らしい2匹が交互に話しかけてくる。
 リラは首にリボン、ピルエはスカーフ。どちらも脇坂が持って来たものだが、これをあげなかったら見分けがつかないくらい、2人の姿は似ていた。
「大丈夫よ。いっぱい拾わなきゃね!」
 脇坂のセクタンのポッケが飛び上がり、木に引っ掛かった雫を咥えて戻ってくる。
「わーポッケくんすごいなーいいなー」
「トリいいねー高いとことれるねー」
「じゃあ、ピルエちゃんも!」
 脇坂はピルエを持ち上げて、肩車をしてやる。
「あーピルエいいなーいいなー」
「順番ね!」
 あちこちの枝にかかった雫を集め回っていると、拾いそびれて砕けた雫の欠片がキラキラと風で流れて来る。とても幻想的だ。
「蛍の群舞みたい。綺麗ね」
「きれいだよねー!」
「リラ、ネックレスにするのー」
「かずにゃんは砕けたのがきれいってゆってるの!」
「えーでもどっちもきれいだよー」
「そうね」
 ニコニコと言って光の中をクルクルと駆け回る。
「あ、そうだ」
 脇坂は、上着を脱いで地面に広げ、雫を受け止め。
「えいっ!」
 一気にまとめて袋に入れる。
「かずにゃんすごーーーい!」
「ふふふ」
 いっぱいになった袋からリラとピルエにおすそ分けをしてやる。数回繰り返すと、2人の袋もあっという間にいっぱいになった。
「かずにゃん、リラたちはこれ集めたらおうち帰らないといけないんだー」
「こはなちゃんがこの後、お菓子つくるの手伝ってくれる人さがしてたの。どうかなー」
「あら、楽しそう。でもリラちゃんとピルエちゃんとご一緒できないのが残念だわ」
 そう言うとリラとピルエはしゅんと頭を下げた。
「リラもさびしいー」
「ピルエもー」
「2人ともちょっと触ってもいいかしら?」
「うん」「うん」
「今日はありがとうね。とっても楽しかった」
 そう言って脇坂は2人の頭を撫でてやる。
 ふかふかしていて、とても気持ちよかった。
「かずにゃんもしゃがんでー」
「かずにゃんもなでなでー」
 ぴょんぴょん飛び跳ねながら言う2人に脇坂は目尻を下げて思わず言った。
「2人とも本当可愛いわ! 持って帰っちゃいたい!」


5.

「こんばんは、初めましてにゃん?
 みんなが猫の集会でナニしてるのか、教えて貰いにきたにゃん?」
 綾が右手を顔の横で丸めるポーズをしながら言うと、部屋にいた面々が皆無言で顔の横に手を上げた。
 ここは猫研究所。通称、猫研。
 蒲公英に「何でも知ってそうな猫モフっていないかなぁ?」と言ったところ、ここを紹介されたのだ。
 薄い灰色に塗られた小屋の壁は、研究所っぽい雰囲気を醸し出しているが、よく見るとコンクリートではなく木製。
 机の上には不思議な形の器具が所狭しと並べられている。が、誰もその器具を使っていない。
 どうも、猫アニモフ達が旅人から聞きかじった研究所像に憧れてこの場所を作ったようだ。
「猫耳猫しっぽをお持ちの同志よ。歓迎しようではないか」
 口元の毛が老人のように長いアニモフが勿体ぶった口調で言った。
「吾輩は所長のブチブチである!」
「綾だにゃ! こっちはエンエンにゃん!」
 ビシッと猫手のまま敬礼し、自己紹介を交わす。
 他の所員はそれぞれ、本を読んだり議論を交わしたりしているが、耳だけが皆こちらを向いていた。
「じゃあ質問させて貰ってもいいかにゃ?」
「あっまーい!」
 ブチブチがカッと遮る。
「我輩達も暇ではないのにゃ。タダで教えるわけにはいかないにゃ」
「ええーーー??」
 綾はゴソゴソとカバンを漁った。
「えっと…猫アニモフさんも煮干しって食べる?」
『おおおおお』
 部屋の中がざわめいた。「ニボシ」「ニボシだ」とヒソヒソ声が聞こえる。
「うむ! 何でも聞くがよいぞ同志よ!」
 変わり身の早いブチブチに面食らいつつ、綾は気を取り直して質問をはじめることにした。
「えーっと、集会はどのくらいの頻度でやってるのかにゃー?」
「うーむぅ」
 綾の質問に、ブチブチが唸る。
「どうだったかの?」
 綾がこけた。
「しょちょー、“しずくもり”に雫が降る日にやってますにゃん」
「だいたい7日周期ですにゃー」
「ってコトはぁ、開催頻度は毎週くらいなのかにゃん?」
「ってコトだねぇ」
 ブチブチは自分のヒゲを片手でモフモフ触って言った。
「で、みなさんは何をしてますのにゃん?」
「研究」
 綾がこけた。
「それは何となくわかっていたにゃ~」
「ならいいではないかにゃ」
「うーん」
 呻きながら綾はメモに書きとめた。『毎週』『研究』。
 何だか大した調査になっていない。
「何だかあんまり協力的じゃないみたいにゃー他を当たるにゃ~」
 綾は煮干しをカバンに仕舞い直そうとする。
「我々はぁ! 日々猫を研究し、猫アニモフが猫アニモフ足る所以を追求しているのであぁる!」
『あぁる!』
 ブチブチが朗々と言うと、所員達が最後だけ復唱した。
「あ、じゃあ普通のおネコさまの気持ちも詳しいんだ!
 私、犬と鳥は懐いてくれるのに、おネコさまは逃げるんだよ~。ナンでかなぁ?!」
「知らぬ!」
 綾が煮干しをカバンに仕舞い直そうとすると、ブチブチが素早く煮干しの袋を掴んだ。
 見かけに寄らず、かなり力強い。
「ここには猫がいないんじゃぁあ、だから研究してるの! しょうがないの!!」
 ブチブチは必死の口調で一歩も引かない。
「知らないなら他を当たりますからぁああああ」
 綾も必死で引っ張り返す。

――パァン!

 綾には見えた。
 スローモーションで飛び散る煮干しと。
『しんぼうたまらんにゃーーー!!!』
 煮干しめがけて飛びかかってくる所員猫達が。


「ね、ネコ山に埋もれて窒息しかけるとか、どんな夢体験?! うにゃぁ、私ずっとココでネコになりた~い」
 フカフカモフモフの猫モフ達に埋もれ、肉球で踏み踏みされ、綾は恍惚の表情で言う。
「あぁぁ、猫成分補給ってか堪能? ステキすぎ~
 あっ、ついでにブラッシングさせて貰ってもイイ……イイかにゃん?」
『するにゃー! ブラッシングにゃー!』
 興奮気味の猫モフ達の隙間で、綾は思う存分に猫成分を堪能した。


6.

「ナインのアニキカッコイイから今日こそ合コンできそうですよぉ」
「ん? そうか? っつか、合コンいつもは出来てないのか!?」
「え? そりゃあ、ぼくたち合コンし隊ですからねぇ。でも合コンを教えてくれた旅人さんも『合コンっつーのはなかなか成功しねぇ』って言ってましたよー」
 ナインの表情が不安に陰った。蒲公英に紹介されたこのニャンガという猫アニモフだが、さっきから言ってることがどうも怪しい。
 仲間の元に連れてってくれると言うので、意気揚々とついてきてしまったが、『合コン仲間』ではなく、『合コンし隊仲間』のようだ。
 こんなことなら蒲公英にあちこちを案内してくれるように頼めば良かった。そうすれば、ちょっとデートみたいなカンジになったかもしれないのに。
「おい、ニャンガ」
「へぇ、なんですアニキ?」
「……いや、その口調は何なんだ? 何かアニモフらしくねぇぞ」
「あっ、そうです? こんな口調の旅人さんがいて真似してみてるんモフー」
 ふわふわとした笑顔に、ナインはため息をつく。
「ところで、お目当ての可愛い猫ちゃんはいるんだろうな。例えば蒲公英みたいな……」
「旦那は蒲公英ちゃんお目当てで? ドゥフフ、今日攻めようとしている女の子達の集団に蒲公英ちゃんも混じっているという情報がありましたぜ」
「攻める? あぁ、まぁ合コンは戦みたいなもんか」
「そうですよ大将!」
「呼び名がコロコロ変わってんぞ!」
 ナインはつっこんだが、ニャンガはデヘヘと笑うだけだった。
「着きましたぜアニキ!」
「おぉ……おおおおおお!?」
 ニャンガが指した小ぶりのテントの中には、所狭しと猫アニモフが集まりガヤガヤと雑談を交わしていた。
 その数は優に30を超えている。
「みんな! 今日はナインのアニキが、俺達に真の合コンってやつを見せてくれるらしいぜ!!!」
『おおおおお!!!』
 猫モフ達は雄たけびを上げ、テントを突き破って……いや突き破り損ねて、ギュウギュウとなりながら少しずつテントから出てきた。
 可愛らしい姿のはずなのに、どこか男むさい。
「アニキ! 俺っちはトンデモでやんす」
「わしは玲瓏と申す……」
「ええっ!? お前らみんな変キャラなの!?」
「変って、初対面なのにキッツイですわぁー」
「そうでございます。ひどいでございまにゅ」
「噛んでるし!」
 どうも、ここの猫アニモフ達は旅人かぶれしてしまった痛アニモフが多いようである。
「とにかぁく! 今日こそは女の子と合コンするぞー!」
「見つめ合い!」
「おしゃべり!」
『席替えって何にゃー!』
 掛け声の如く最後は全員で拳を上げ、そして
「にゃにゃにゃ何をする!?」
 ナインを胴上げのように担ぎあげ、何処かへ真っすぐと行進を始めた。
「見つめ合い!」
「おしゃべり!」
『二次会って何にゃー!』
「えええこの掛け声のまま行くの!?」
 ナインのつっこみがモフトピアの雲に吸い込まれ、悲しく消えていった。


7.

「かずにゃんさん、とってもお料理おじょうずにゃー」
「おまんじゅうの作り方、とっても勉強になりましたわー」
 明るい声を上げたのは、こはなとファロスだ。
 あの後、脇坂は回収した雫を使って、2人と一緒にお菓子作りを楽しんだ。
「かずにゃんさん重くないかにゃ?」
「持ってもらっちゃってワルいわぁ」
 脇坂が抱えているのは出来あがった沢山のお菓子だ。
 これからこれを市場で売ると言う。
「もう朝まであまり時間がにゃいから、残りは山分けしましょうにゃ」
「そうねぇ、シロイノちゃんにもあげましょうねぇ」
「って、あら、シロイノちゃん」「あら、椿さん」
 ファロスと脇坂が同時に声をあげた。
「ファロスちゃん、お菓子できたのぉー?」
「脇坂さんはお菓子を作っていたんですか?」
 答えたのは、イスに座ってポーズを取っている黒い猫モフ――手足の先だけ白い――と、その前に座りスケッチをしている朱音だ。
「お友達なのね?」
 テントの奥から艶っぽい動作で現れたのはエヴェイユ。
「そう、一緒にここに来た人です」
 朱音が頷く。
「これからお菓子を売るのでしょう? こちらで売ったらどうかしら?」
「あら、いいんですのレディ・エヴェイユ!」
 こはなが舌ったらずな口調で「れでぃ」と発音するので、脇坂は少し驚いた。
「お友達のお友達はおともだちですわ。どうぞ、箱はこちらに置いてくださいな」
 エヴェイユは自分の売り物のキャンバスを手早く片づけてしまった。
「いいんですか? ただでさえ私が場所を取ってしまったのに」
 朱音が申し訳なさそうに言うが、エヴェイユはフルフルと首を振った。
「一晩くらい良いの。これで全部お礼できたわ」
 手を広げて言うので、朱音はぎゅっと抱きついた。
「ありがとう」
「ふふ」
「あー! 猫さんに抱きついていいにゃー!」
「日和坂さん」
 やってきた綾の足もとにはメロメロに眼を細めた猫モフが2匹、スリスリと体をこすりつけている。
「綾にゃん、素敵なトリマーになれるにゃー。もっと梳かしてにゃー」
「ダメにゃー、みんなにもこの心地よさを味わってもらうにゃーその為に来たにゃー」
「ちょっと見ない間に人気者じゃない」
「えへ、2人もそんな感じじゃない?」
「綾さんほどじゃないですよ」
 朱音が微笑んだ。
「トリマーさんもいらっしゃったのにゃ、これで毛を素敵に梳いて貰ってから、お菓子を食べながら絵を描いて貰えるにゃ」
 ポンと手を合わせて現れたのは蒲公英だ。
「蒲公英さん。よかったもう一度お会いできて、とっても素敵な子たちと引き合わせてくれてありがとうね」
「本当だにゃー! こんなにおネコさまにモテモテになったの、初めてにゃ~」
「みなさん本当に良くしてくださいましたよ、ありがとうございます」
 蒲公英の尻尾の鈴がちりりと鳴る。
「ほんのお手伝いをしただけですにゃ」
「さぁさ、こっちに来てくださいにゃ! 素敵に毛を梳いて差し上げますにゃ~」

 お店はあっという間に大評判になり、メス猫アニモフ達がどんどん集まってくるようになった。
 客が皆、自分が売っていたモノをお礼に持ち込んだので、テントではいつの間にかお茶が振る舞われ、アクセサリーを試しあったり、花香水を交換しあったり、女の子らしいアイテムが溢れていった。



と、そこで。

「そこのメス猫たちー!!」
――ドドンッ

 声に続いて太鼓の音が響く。

「俺様達とレッツ合コン! にゃー!!」
『にゃー!!』
――ドンドンドンドンドンドンドンドン
 太鼓の音とともに、沢山の猫モフ達が走ってくる。
 その先頭に騎馬戦のように担がれているのがナインだ。
「ちょっとアレ、ナインさんじゃないかにゃ……」
「何してるのかしら」
――パシャ、パシャ
 朱音は無言でカメラに収めた。
「アッ、撮るな! 撮影禁止!!」
 ナインが慌てて、騎馬から落ちそうになる。
 が、持ち直した。
「ごほん! えー我々は、合コンしたい男子である! 我々とぉー茶ぁでもしばかんかのぉー!」
『茶ぁでもしばかんかのぉー』

……

「てめぇ、やっぱこの台詞は変だろがニャンガ!」
「でへへ、すみません」
 オス猫たちがざわざわガヤガヤしだすと、メス猫たちもヒソヒソと騒ぎだす。
「だからオスってイヤよねぇ!」
「わけわかんないにゃー」
「ぐぬっ」
 ナインが仰け反る。いつの間にか変な勢いに流され、合コンがなんたるかを見失っていたようだ、と気づく。が、遅い。
「ナインさんって変なかたにゃ」
「ガーン」
 ぼそっと蒲公英が言った言葉が耳に入り、ナインがあんぐりと口を開けたまま固まった。まっしろに。もえつきた。
「あ、じゃあそろそろ戻りますんでぇ、お邪魔しましたメス猫さんたち」
 ニャンガがへこへこと言うと、途端にメス猫達からクスクスと笑いが起きた。
「今回も面白かったですにゃ」
「またいらしてね!」
「合コンごっこって何だかスリリングねぇ」
「次の夜も来ますねー」
「またでやんすー」
 さっきまで険悪な雰囲気だったのが一転、朗らかに手を振り合ってオス猫たちは解散した。
 後にナインがポツリと残される。
「な、なんで……」
「アニモフって、お祭りごとが好きみたいだものね」
「下心見え見えのバツにゃ~!」
「ちょっと可哀想ですね」
「がくっ」

 その後すぐに朝を迎えメス猫達もあっという間に姿を消し、ナインだけはメス猫との素敵な出会いが無く、集会は終わった。




0.報告

・猫の集会とは、モフトピア・ニャンコ・共同組合 Myan-coによる何でも有りの集まりである。

・光の雫が降る日に合わせて開催され、週一程度の頻度である。

・女性的な特技があれば、メス猫アニモフと楽しいひと時が過ごせるだろう。


・ガッツク男は損をする。


以上。

(終)

クリエイターコメントお待たせいたしました!
予定以上にギャグ展開となりました。
特にナインさん申し訳ないほどボケもツッコミもさせてしまいましたゴメンナサイゴメンナサイ。

今回はクリコメで若干裏話をさせていただきますと、

・エヴェイユ嬢が「旅人さんの事はいつもボンヤリとしか覚えられないの」と朱音さんに告白し、ちょっとしんみりするシーンが構想にありましたが、字数の関係で削除されました。
・実は蒲公英ちゃんがニャンガ君の彼女という散々な設定も入りそうな気がしましたが、字数の関係で諦めました。
・所長猫は老人ぶってて実は低年齢、というか、アニモフ全体をもっと正しく幼い雰囲気にしたほうが……と思いましたが、数が多いので精神年齢の描写にムラが出ました。
・クルミちゃんが抜けてしまいました(ごめんなさい!)

えーっと、このくらいでしょうか。
とても楽しくやりたい放題に書かせていただきました。
この度はご参加いただきありがとうございました!
公開日時2012-02-22(水) 21:40

 

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