オープニング

 筋肉など自分には必要なかった。
 あればあるほど周囲との差が際立ち、街中を歩くことさえ苦痛になる。
 家族さえ周りと違う自分を普通とは違う目で見、日々の成長に怯えさえ見せることがあった。
「うおおおおおおぉぉぉ――ッ!!」
 そんな筋肉が今、もの凄く愛おしく思える。

 頑張れ、筋肉!
 負けるな、筋肉!!

「ここはどこなんだああああぁッ!!」
 泣きべそをかきつつ、筋骨逞しい青年・ロゼは全身の筋肉を駆使して走った。
 しつこく追いかけてくる得体の知れない化け物達を振り返りながら。


●同刻
「あるロストナンバーがマホロバに転移したらしい」
 マホロバを担当している世界司書、ツギメ・シュタインはそう切り出した。
「名前はロゼ・アギシェム。十八歳だそうだが……かなり大人びて見える青年だ」
 二十代後半と言われれば信じてしまうほどだそうだ。
 それは彼の立派な筋肉のせいだった。
 壱番世界のボディビルダークラスにムキムキな上に身長も高いのだ。男女の差が薄く、みんな大人しい体型をしている世界に生まれたロゼはそのせいで静かな差別にあっていた。
「しかし精神は年相応、というより少し低いかもしれないな。今もマホロバに跋扈している化け物相手に泣きながら逃げ隠れしている」
 ああそうだ、とツギメは補足する。
 ロゼが転移したのはマホロバの居住区域の外で、そこには環境汚染により生まれたおかしな生物や宇宙人が不法に投棄……投下とでもいうのだろうか、落としていった危険な置き土産が大手を振るって歩いていた。
「人間の住む場所からそう離れていない場所のおかげで被爆や人体汚染の心配はないが、このままでは化け物にやられるのも時間の問題だろう。そこで皆に彼の保護を頼みたい」
 必要あらば化け物を撃退し、ロゼを救い出す。
 今回は調査を目的に含まないため、スムーズにいけばすぐに帰れるだろう。
「しかし」
 ツギメが言う。
「騒ぎを察知し、マホロバの政府からも保護隊が派遣されているそうだ」
 マホロバ側の人間はまだロストナンバーのことを知らない。
 そのため、ロゼをマホロバの人間、または迷い込んだ宇宙人として保護しに向かっているのだ。
「恐らく途中で出会うことになるだろうが、騒ぎは起こさないよう注意してほしい」
 目立つ行動をした方が新たな発見に繋がる場合もあるだろうが、とツギメは付け加えた。
「ではこれを受けてくれる者は居るか?」
「はいはーい! オレそれに立候補していい?」
 そう勢い良く片手を上げたのはコンダクターの漆重 シノだった。
「ふむ、まずは一名決定か」
「やりぃ! 一度行ってみたかったんだよね、ご飯美味しそうだし! あ、でも今回は街の中まで行けないんだっけ?」
「行けないのではなく行かない、だ」
 訂正し、ツギメは残ったロストナンバー達を見回して言った。
「他にマホロバへ行っても良いという者が居たら、挙手してほしい。待っているぞ」

品目シナリオ 管理番号945
クリエイター真冬たい(wmfm2216)
クリエイターコメントこんにちは、真冬たいです。

今回は近未来巨帯都市・マホロバのシナリオ第二弾です。
ここから徐々にこの世界へと関わっていく予定ですので、今回も宜しくお願いします!

■場所について
大きな奇岩や人間の身長ほどまで異様に大きく成長した植物など、隠れる場所は多いです。
汚染度数は低いですが、たまにあるヘドロのような沼は危険ですので下手に入らない方が良いかもしれません。
天候は晴れ。気温は少し肌寒い程度。

■化け物について
どういう経緯でここに居るのかはっきりとしたことは外見からは判断しにくいです。
恐竜のような者からスライムのような者、愛らしい姿の者まで様々な姿形の者が多数居り、それらがランダムでロゼを襲っています。
(参加PCさんが遭遇する相手もランダムですが「○○みたいな化け物を見つけた!」等のことがプレイングにあった場合、出来る限り優先します)

数が多く、どれだけ居るかも分からないため、完全に全て撃退する等は考えない方が良いかもしれません。

■ロゼについて
十八歳、男。
名前の響きに見合わずムキムキです。
赤紫色の髪の毛と黒い三白眼を持っており、厳つい外見をしていますが泣き虫。
しかし弱音を吐きつつもやる事はやる性格をしています。
※保護が成功した場合、正式にNPC登録をする予定です

■マホロバの保護隊について
見回りのヘリがロゼを確認しましたが、ヘリの降りられそうな場所が近くに無かったため、今はタイヤの無い車にて地上から保護に向かっています。
人数は化け物との戦闘を考えて十名ほど。車は二台。
様々な機械を駆使してロゼを探しているため、遭遇する確率は極めて高いです。
保護隊がロゼに先に接触した場合、ロゼはそのまま街に運ばれてしまい、0世界側が保護するのは難しくなります。

■同行者
NPC、漆重 シノ(cuee4784)が同行します。
彼独自の考えで動きますが、何か絡み希望等がありましたらプレイングにてどうぞ。
プレイングに書かれていなくても絡む場合があります。

シノ:
「うっわ。何だよあの生き物、予想よりマジでキモいんだけど!
 早く退治してロゼを保護しようぜ。……ん? なんだあのドロッとした沼?」
(唐突に色んなものに興味を持って行動します。戦闘は中衛辺りで鞭にて攻撃等)

参加者
ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)コンダクター 女 16歳 女子大生
コレット・ネロ(cput4934)コンダクター 女 16歳 学生
ロイ・ベイロード(cdmu3618)ツーリスト 男 22歳 勇士
飛天 鴉刃(cyfa4789)ツーリスト 女 23歳 龍人のアサシン

ノベル

●マホロバの大地
 ごう、と冷たさを孕んだ風が奇妙な形の岩に向かって吹き、その岩から高い音が漏れた。
 サワサワと揺れるのは巨大な植物。恐らくイネ科の植物なのだろう、平行脈を持った葉とスッと伸びた茎の先に穂が付いている。
「この世界に来るのはセカンドディアスポラ以来だから……二度目ね」
 コレット・ネロはそんな光景を見渡しつつ呟く。
 二度目に来たマホロバの印象は一回目と比べてがらりと変わり、科学のかの字も見当たらなかった。
 ただし、この光景を作り出した原因は科学と無関係ではない。
「あの時と同じように、ロゼさんのことを親切な人が助けてくれるといいんだけど……」
 しかし人の気配はない。
 そして、恐らく「親切な人」になってくれるであろうマホロバの保護隊に確保されるのは避けなくてはならない。
 様々な意味でロゼを助けられるのはロストナンバー達だけなのだ。


 この地区には様々な生物が居る。
 ロゼを追いかけている者達もまたその中の一部だが、もちろん危険なものばかりではない。
「んっ?」
 ロゼを探す最中、何かの気配を感じてロイ・ベイロードが足を止めた。
 ガサガサと草が揺れ、黄色に黒縞の虎が姿を現す。眼光は鋭く、しっかりとした両足には立派な爪。口には鋭い牙が並んでいる。
 しかし――小さい。
「猫? 虎にしちゃ小さすぎるぞ……」
 ロイは不思議そうな顔をして近づく。
 その虎は両手で持ち上げられるくらいの大きさだった。尻尾を合わせても子猫サイズしかない。
 虎は体に見合った高い声で鳴くと、再び茂みの中へと逃げていった。
「どうした、何か居たか」
 飛天 鴉刃が振り返って聞く。
「ああ、何か……その、変なのが居た」
「変なの?」
 鴉刃の隣でジュリエッタ・凛・アヴェルリーノが顔を引き攣らせる。
「変なのって……そういうやつかの」
 ゆっくりと指さした先は、ロイの真後ろ。
 そこには羽音をさせずに羽ばたく蚊が居た。早く刺したい、といった風に口吻を小刻みに揺らしながら。
 その大きさ、全長1メートル。
 先ほどのミニ虎とは違い、十分すぎるほど大きい。
「蚊……でかすぎる!!」
「こいつは敵意があるようだな、逃げるぞ!」
 こんな所で血を吸い尽くされてはたまったものではない。
 五人は身を低くし、巨大植物に隠れるようにして逃げ出した。
「むっ!?」
 しばらく走ったところで鴉刃がピタリと足を止めた。巨大な蚊はなんとか振り切ったようだが、それと入れ替わるように前方に何かが現れたのだ。
 それは地面に接していなかった。
 ――空中に浮遊した、巨大な一つの目玉を持つ黒いもの。
 似たものを見たことがあるのか、ロイが「うげ!」と声を漏らした。
「まだこちらには気付いていないようだな……ロゼが居るのはこの辺りだったか?」
「うむ、情報によるとまだ駆け巡っているようじゃな。大した持久力だ」
 鴉刃に頷き、ジュリエッタは辺りを見回す。このどこかでロゼは今も顔面に過剰な塩気を与えつつ走っているのだ。
「仕方ない、あれが害を成すものなら彼に接触する前に倒しておこう。さっきの蚊もあの時やっておけばよかったな……」
「ここは俺がやろう、新たな化け物が現れないか警戒しといてくれ」
 ロイは勇者の剣を一回振ると、目玉の化け物へと近づく。
 案の定、化け物は何かに聞く耳を傾ける気は皆無といった風に襲い掛かってきた。
「悪いが、どかせてもらう!」
 奇妙な斬り応えが刀身から伝わってくる。
 ずちゃ、と黒い糸を引きつつ、化け物は真っ二つになって崩れ落ちた。
「手応えのない奴だな……見掛け倒しか」
「人間に反撃をされたことがなかったのかもしれないわね」
 興味深げに見つつ、コレットが言う。
 化け物は防御する気がさらさら無い雰囲気だった。その可能性は高い。
「……?」
 ミャー、という声を聞いたような気がして、コレットは辺りを見回した。……草の根元に何か居る。
 フェネックのような大きな耳を持った猫だった。模様はさながらシマウマのようである。
「む、あれも化け物か?」
「でも敵意は無いように見える……」
 そっと近づく素振りを見せると、その縞猫はビクッと体を震わせた。
「可愛い……。あっ、そうだ」
 コレットは招き猫のようにちょいちょいと手を動かす。
「こんにちはにゃあ。筋肉のついた男の人を見なかったですかにゃあ?」
『……ミャァー』
 しまった、答えてもらっても言葉が分からない。
 縞猫は一声鳴くと、ピョンっと草の向こうへと走っていってしまった。
「可愛い子、他にも居るかな」
 呟き、コレットは縞猫の消えた方向に手を振った。

「しかしこう広いとロゼがどこに居るか分からぬな」
 ジュリエッタが困ったといった風に呟く。そこで鴉刃が天を指差した。
「私が上空より捜索を試みてみよう。髭を使えば気配も探れる」
「私も一緒に行くわ」
 コレットがトラベルギアで背中に翼を描き、ふわり、と宙に浮く。
「本当か。では連絡はトラベラーズノートで、ということでいいな?」
「うむ」
 ロイにそう短く答えると、鴉刃はスルスルと空へ昇っていった。


●救う者
 保護隊は比較的静かな車内から外の景色を眺めていた。
「こんな場所に一人、か……地球人か宇宙人か分からんが、さぞかし心細い思いをしてるんだろうな」
 先ほどから窓の外に何体かの異形を確認している。
 早く保護しなくては命に関わる――と、保護隊の目に何かが映った。
「なんだ?」
 それは空からロゼを探す鴉刃とコレットだった。
 彼女は保護隊に見つからないよう低空飛行をしていたが、保護隊は車。近くに居れば否が応でも目に入る。
「宇宙人、でしょうか」
 運転手が隣に座る保護隊のリーダーに尋ねた。
「かもしれないな。迷い人が居るのもこの辺りということは、関係者か?」
「しかし片方は姿形が違います」
「違っても仲間という場合は多い」
 リーダーは少し考え、口を開く。
「……とりあえず接触しよう。B隊にも連絡を。接触後、許可が出るまではドアを開くな」


 ロゼは未だに走り続けていた。
 一度沼に足を踏み入れた彼だったが、形容し難い痛みや痒みに襲われ、以来そこは避けている。
 しかしそろそろそんな余裕もなくなってきた――そんなロゼを鴉刃は発見した。
 トラベラーズノートで仲間に連絡を取り、ロゼに視線を戻す。
「……!」
 彼は石に躓いて転んでいた。
 その背後に迫るのは、紫色の鬣を持つライオンのような生物。
 思わず両手で頭を隠したロゼを確認すると同時に、鴉刃は一気に下降して化け物を蹴り倒した。
「助けに来た。隠れてろ!」
「え、え、え」
 突然のことにロゼは戸惑いを隠せないでいる。
 助けに来た、と言われても、すぐには味方と判断出来なかったのだ。
『ググググググゥゥゥゥ!!』
 化け物がむくりと起き上がり、低い唸り声をあげる。
 鴉刃はわざとその化け物の目につくように走り出した。狙い通り化け物は鴉刃を追い、ロゼから離れる。
 この間に隠れるのがロゼにとって一番良い選択肢だった。
「……うぅ」
 しかし彼は腰が抜けていた。
 そこへコレットが降り立ち、ロゼに手を貸して手短に説明する。
「驚かせてごめんなさい、私はコレット。さっきの人も仲間よ」
「な、仲間?」
「そう、あと三人居るの」
 そして、信じられないかもしれないけれど……と前置きし、ディアスポラ現象のことを説明した。ロゼは目を丸くしたが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「こんな所に居ること自体信じられないことだし、そういうこともあるのかな……」
 呟くように言った後、そうっとコレットを見る。
「……本当に、助けてくれるのか?」
「保障するぞ」
 草を剣で薙ぎ払い、ロイが姿を現して言った。
「お前がここに来た理由は、まぁ、そういう訳だ。お前、まだ死にたくはないよな?」
 反射的に頷くロゼ。
「なら俺達が助けてやろう。……ここは危険だ、とりあえず一旦離れるぞ」
 ロイは彼の前に立ち、拓いてきた道を指さした。

 ジュリエッタはシノと共に岩陰から二台の車を見る。
 そこには保護隊と化け物を振り払った鴉刃が対峙していた。
「まずいな、先に接触されたか」
 ジュリエッタは小声で呟く。
 車が走っているなら雷で沼に誘導させ、はまったところをもう一台が救出している間にロゼを避難させようと考えていたのだ。
 しかしここの沼は大体が有毒だ。怪我人が出そうなことを考えると実行しなくて良かったのかもしれない。
「とりあえずロイ達に連絡しておくか」
 ノートへ簡単に書き込み、ジュリエッタは保護隊へ目線を戻してからシノに言う。
「わたくしは今からあそこへ行く。そなたは……」
 ジュリエッタは離れた所にある沼を指さして言った。
「あの沼を調査しておいてくれぬか?」
「合点承知! ……って待って待って! なんか違くない!? 俺じゅわじゅわに溶けちゃうよ!」
 かなり自由に動き回りそうなシノを抑えておきたかったのだが、さすがのシノも違和感に気付いたらしい。
「ちゃんとジッとしとくからさ~、俺も連れてってよ!」
「ぬう……では絶対に邪魔するでないぞ」
 どこかの母親のようなことを言い、ジュリエッタはシノと共に保護隊と鴉刃へと走り寄った。

 化け物を振り切ったは良いが、厄介な相手と遭遇してしまった。
 力を抜き、無抵抗であることを示していた鴉刃は相手の人数を確認していた。
 保護隊は未だに車の中から出てこず、フロントガラス越しにこちらを見ている。そのガラスから確認出来る限り、一台につき五人ほど乗っているようだ。
(宇宙人の可能性もあるというのにロゼの救出に向かっていた……ということは、過激派である可能性は低いか)
 しかし、あちらから見て完全に宇宙人に見えるであろう自分に対して、保護隊がどのような行動を起こすのか見当もつかない。
 そして鴉刃はもう一つ迷っていた。
 ――ロゼという人間が何故ここに現れて、自分達は何の目的でここへ来たのか。
 彼女は初め、ディアスポラ現象や世界図書館のこと等も含めて全て話そうと考えていたが、扱う内容的に上手く世界の<真理>を話さないようにしながら伝えるのには難があった。
 <真理>も含めて説明すれば話は早いが、下手をすれば新たなロストナンバーを増やしかねない。
(さて、どうするか)
「まずは保護対象の無事を知らせんとな」
 目を細めていた鴉刃の隣に駆けつけたジュリエッタが立った。
「保護対象の無事?」
「あやつらはロゼを保護しに来たんじゃろう。まずは簡単にでもロゼの無事を話し、疑われる前に去るのが良いかもしれぬ」
 言わずに去ることも出来る。ロゼは既に確保出来ているのだ。
 だが、このままにしておけば保護隊はこの危険な場所でロゼを探し続けるかもしれない。
 その芽は摘んでおきたかった。
「もし信じてもらえなかった時は?」
「その時は――わたくしの雷で逃げおおせてみようぞ」
 トラベルギアの小脇差を見せ、ジュリエッタは微笑んだ。


●保護隊
「接触……!」
 ジュリエッタらが説明を始める数分前、ノートでの連絡を受け取ったコレットが顔を上げた。
「三人だけで大丈夫かな」
「話し合いだけなら大丈夫だろうが……いや、余計なことを言いそうな奴も居るか」
 ロイが日焼けした顔を思い出して額を押さえる。
 二人とロゼは奇岩の窪んだ場所に避難していた。距離もあるため、目で他の三人の様子を確認することは出来ない。
 ロゼに応急手当として包帯を巻き終え、コレットはすくっと立ち上がった。
「……気になるわ、私ちょっと行ってくる。ロゼさんのこと、お願いしても大丈夫?」
「ああ、化け物が襲ってきても剣の錆にしてやる」
 頼もしく頷き、ロイは不安げな顔をしているロゼを安心させるように彼の背中をバンバンと叩いた。
 コレットは軽く頭を下げると羽根を描き、三人の居る方向へと飛んでゆく。

 スッと音も無く車のドアが開き、短く刈り込んだ黒髪とエメラルドグリーンの目を持った男性が姿を現した。
 年は四十代前後。しかし顔の右半分に走る大きな傷跡のせいで、若干老けて見える。
「私はゼタ・スズハラ。ここに居る皆を纏める者だ」
 車からは男性――ゼタしか出てはこなかった。
 それに関して彼は「自分が動くなと命令した」と説明する。
「失礼だが、このような場所で見知らぬ者と対話するのには警戒心が必要でな」
「そこは好きにしてもらっても大丈夫じゃ」
 ジュリエッタがゼタに近づいて言う。
「折角顔を見せてもらったところで悪いが、わたくし達もここには長居出来ぬでな……単刀直入に言おう。そなたらの探しておる者は既にこちらが保護した」
 ふむ、とゼタは自らの顎に手を当てる。
「やはり仲間だったか。では問おう、何故このような場所に居た? しかも彼一人で」
「それは……事故のようなものじゃ」
 ジュリエッタは一瞬鴉刃を見てから小さく頷き、そう答えた。
 不審さは増すが、言葉を濁すしかない。
「事故……。お前達は宇宙人だろう、船のトラブルか何かか? 答えるのは億劫だろうが、こちらも仕事でな。正直に答えてほしい」
 ゼタはじっと三人を見据える。
 ……彼にも疑問はあった。マホロバの一般人がこんな所へ来るはずがないし、宇宙人だとしても周囲に船の反応は出ていない。
 何が目的で、もしくは何が原因でここに現れたのか。
 それを知らずとも任務は全う出来る。しかし仕事柄そればかりではないが、はぐれた宇宙人の保護の任に就かされることの多いゼタはこの疑問を無視出来なかった。
「……」
 ジュリエッタはじっくりと吟味するように彼を見る。
 話した後すぐに離れるつもりだったが、隙を見せずに逃れにくい質問をされては――そこまで考えた時、バサッ、という羽ばたきの音が耳に入った。
「コレット!」
 駆けつけたコレットだ。上空から緊迫した空気を感じ取った彼女は、ゼタに必要最低限のことだけ答える。
「突然ごめんなさい。あなた達が探していたあの人、私達の友達なんです。彼はトラブルに巻き込まれてここへ来ました」
「……理由は?」
「まだこっちも把握してません」
 ゼタは少しだけ眉を動かす。
 原因を把握していなくても仲間の居る場所が分かっているなら、助けにも行くだろう。それ以上は追求しても無駄のように感じる。
 それでも追求を無駄と切り捨てきれないゼタは食い下がろうとした。
 鴉刃が少し焦っている、という様子をわざと見せる。
「彼女の言っていることは本当だ。そして彼を見つけたからには、我々は早く帰らなくてはならない」
「タイムリミットがあるのか?」
「そのようなものだ。仲間が危険な目に遭った場所に長時間居たくはないであろう?」
 仕方ない、とゼタは腰に手を当てる。
「では保護した彼に会い、マホロバの人間ではないと確証が取れてから解放を――」
「彼は私達がちゃんと連れ帰ります」
 まずい、と感じたコレットが少し強めに言い、一歩退く。
 ゼタは「待て」と声をかけたが、四人は突如現れた羽根で一気に手の届かない所まで飛んでいってしまった。
「……」
 苦々しい顔でそれを見送るゼタの後ろでドアが開いた。
「隊長!」
「まだ出て良いという許可はしていないぞ」
「ですが……!」
 隊員達は逃げられたと感じているらしい。
 しかしゼタは軽く首を振った。
「少々しつこく聞きすぎたな。とりあえず帰還後に近隣住民の中で行方不明になっている者が居ないか確認しろ。報告書は私が書く」
「このままで良いんですか?」
「不安はあるが……マホロバの人間に欠けが無いと分かれば、私は純粋に喜ぶだろう」
 彼が危険から脱したのだからな。
 そう言い、ゼタは使い慣れていない筋肉を使って口の端を上げた。
 そのまま手で払うように隊員を車内へ戻し、自分も戻ろうとしたところでもう一度彼女らが飛び去った空を見る。
(不思議な力を持つ宇宙人は多いが、少し違う感じがしたな)
 数多の宇宙人に接触してきたゼタは違和感を感じていた。
「……これも合わせて報告しておくか」
 呟き、車は彼らを乗せて来た道を引き返していった。



 ロストレイルの車内に初めははしゃいでいたロゼだったが、気が付くと首を斜めに傾けて寝息をたてていた。
 見た目だけは筋骨隆々なため、少々シュールな図である。
「まだ大まかな説明しかしておらぬのか?」
 ジュリエッタの問いにロイが頷く。
「ディアスポラ現象のことと、それを表面上だけでも理解出来る情報は教えた。だが他はさっぱりだな」
「では帰ってから詳しい説明が必要か……」
 その時はまだ年若いロゼを納得させやすくするために、正義の味方や悪い奴らという単語を使ってみても良いかもしれない。
 ――彼が早く新しい世界に慣れること。
 それを心から願って。

クリエイターコメントこんにちは、真冬たいです。
今回はご参加ありがとうございました!

そして皆様お疲れさまです、無事にロゼを助けることに成功しました。
保護隊のゼタはこういった事柄をよく受け持っているため、今後もどこかで会うことがあるかもしれません。
たまに保護という名目では動いていないかもしれませんが、
何かありましたら宜しくお願いします。

モンスターもプレイングで様々な案を出していただき、色んなバリエーションが持てたと思います(笑)
(中にはこちらの出したものも居ますが、九割方参加者さんの案によるものです。※著作権に触れる名称のものは少し変更しました)
場面によってはプレイングで多かった意見を採用しているため、
描写出来ない部分があった方は申し訳ありません。
(両方描写しなかったのは、そうすると矛盾が生まれるからです)


色んなきっかけの出来たシナリオとなりましたが、
皆様に楽しんでいただけていれば幸いです。
それではこれからも良い旅を!
公開日時2010-10-22(金) 18:40

 

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