オープニング

 探偵から『至急こられたし(リンヤン絡み)』と連絡がはいった。
 なんとなくいやな予感はしたが、行かねばなるまい。とってもいや予感はするが。
 さて、探偵事務所のドアを開けると

 ばしい。

 !?
 なぜか、一緒にきた仲間の一人と手錠で片手が繋がれてしまった。それも、手錠と手錠の間には鎖がつけられていて、相手と距離をとれるのはおおよそ一メートルくらい。その真ん中には黒い鞄がぶらさがっている……なに、これ!?

「うふっ。成功。ん? みんな、元気? みんなのリンヤンは元気ですよ。ということで、今回の依頼の内容を説明するね? この手錠を外せ? はははは、この手錠を外せる鍵はここにあります。が、それは、はい、キノちゃん」
 キノキノー。
 リンヤンの傍らにいたキノコ型のロボットが鍵を受け取る。
「以前の、依頼の成果。ここにカモン!」
 キノー!
 輝くと、キノコ型ロボットのキノちゃんが、なんと十五歳くらいのナイスバディの女の子に。――それもビキニ姿である。
「人型に変身できるようになりました。え、服? なんかね、スピート型には服はいらないんだってさ。どこかで育て方間違えたよねー。……で、このキノちゃんが鍵をもって逃げます。みなさんはそれを追いかけて捕まえて、自由になると、すごく、すごく簡単な依頼でしょ?」
 いやいや、簡単な依頼って、趣旨がわからないんですけど! ――困惑する旅人たちにリンヤンはふっと笑った。
「つまりは、僕が作った戦闘ロボたちの訓練に協力してほしいの。君たちを敵と仮定してキノちゃんは逃げる。それを今は朝だから夕方までは捕まえてほしいわけ。つまりは、鬼ごっこみたいなものだよ。ただし、戦闘ももちろんはいる。……とはいっても怪我すると危ないので、みんなそこらへんは手加減してね。え、なんで手錠? 君たち強すぎるからハンデに決まってるじゃないか。この機会に協力攻撃を開発とか仲良くなるのもいいかもよ?」
 かなり無責任なことをリンヤンは言いきる。
「ちなみに、逃げるキノちゃんのサポート役は、僕が作った特殊戦闘ロボたちだから」
 ひひーん。
 馬の嘶き声をあげて事務所のドアを壊して入ってきたのは黒いバイク。
「移動サポートのアールくんです。かわいいだろう? 馬をモチーフに作ったんだ。時速八十キロで逃げ回れるんだよ。ちなみにエネルギィは自家発電してるから、停まらないよ。疲れないよ。見た目はバイクでも中身は馬だから、飛んだり跳ねたり、ありえない移動手段も使えるんだ。では、キノちゃん、アールくん、いきなさい」
 ひひーん。
 キノー!
 ビキニ姿のキノちゃんは颯爽と嘶くバイクのアールくんに乗ると、エンジンをふかし、窓から出ていった。
 え、ここ二階!?
 慌てて窓に駆け寄ると、ひひーんと声を荒らげてバイクは走っていく。ありえない。
「あと、キノちゃんに近づいた君たちの邪魔をするのは、シエンとアルファです」
 リンヤンの影から黒装束のシエンと、黒いジャケット姿の見た目はナイスバディの女性のアルファが現れた。
「シエンは隠密行動のプロでね。得意なことは接近戦による間接技。あと影渡りっていって、人の影から出てこられるからね。君たちがキノちゃんに近づいたら問答無用で襲うから。
アルファは射撃のプロ。どこからか君たちのことを狙って撃ってくるよ。あ、ちなみに撃つ弾は、これ、ガム弾です。これね、あたると、ねばねばして動けなくなるよ。一度つくと中々外れなくなるから」
 なんという邪魔ぷり!
「なんと今回は探偵の人たちも、お邪魔キャラとして協力してくれました。キサとフェイの二人だよ」
 紹介されたのは女探偵のキサと仮面探偵のフェイの二人。
「……えーと、いっつも世話になってるあんたたちに悪いけど、邪魔されてもらうわ。大丈夫、大丈夫。鞭で叩くぐらいだから。……別に、ちょっと前に事務所を破壊された腹いせにこれでもかーと筋肉系のやつを叩いてやろうとか思ってないから。ふ、ふふふふ」
「俺の事務所がまた壊されている。はぁ……まぁ、俺は火を使って驚かせたり、頭上からものを落とすくらいで、野郎相手に手加減する気はないからな。ボケキャラがいたら一撃必殺でやるつもりでいくからな」
 探偵ども……! お前らもか!
「さらには、街を歩いていると、なぜかマフィアさんたちに狙われちゃうかもね。え、決してリンヤンがデマ情報として二人組で、黒い鞄を持っているのは実は国家機密を運んでますと……流してませんよ。あっは。……まぁマフィアが襲ってきたら手加減なくやっちゃっていいよ。悪い虫退治と子供たちの成長が叶うなんて一石二鳥。リンヤン天才ですね!」
 おおおい、この野郎! だったら、こんな鞄も、鎖も、いや手錠も外してやる。え、あれ、外れない!
「無理無理。リンヤンの才能をおしみもなく発揮し作り出した超スペシャル特殊の手錠だよ? 君らでも外せないから。あと、その黒い鞄のなかにはキノちゃんを捕まえた際、鍵を渡してもらうためのパスワードがはいってますので捨てると、手錠、外せないからね? 鞄はキノちゃんの鳴き声を聞かないと開かないようになってるから!」
 うわぁ、無駄な才能発揮しやがって!
「あ、最後のルール説明だけども、参加者にはみんなは、協力してもらったので、ゲーム終了後にはごはんを食べるという特典つけてまーす! ちなみにすき焼きだよ。すき焼き!」
 すき焼き……う、ちょっとやる気出たかも。
「キノちゃんから鍵を奪って一番はじめに自由になった人には優勝者としてのそこでゲームは終了。他の人たちの手錠は自動的にはずれまーす。あ、優勝者は御褒美として、リンヤンのポケットマネーから買いました高級牛肉によるすき焼きが食べれます。あと、それ以外の負けちゃった人は、野菜しかないすき焼きしか食べれないので注意! ちなみに夕方までキノちゃんを捕まえられないという場合は、みんな、野菜のすき焼きだからね? もちろん、僕らは肉のはいったのを食べるけど」
 うおおおおい、そういうオチかい!
「リンヤンも今回はがんばって、お邪魔キャラするから、みんな、がんばってね。さ、ゲームスタート!」

品目シナリオ 管理番号1235
クリエイター北野東眞(wdpb9025)
クリエイターコメント 今回はリンヤンによるリンヤンのための依頼ですが、目標は明るく楽しく、みんなでわいわいしよう――を目指したシナリオになっています。

 今回はリンヤンの策略によって二人一組のペアが強制的に作られます。
 ペアについては参加者の上から二人づつの組み合わせになります。
 !注意!参加した場合は、しっかりと自分が誰とペアを組むか確認してください!
 ・1と2、3と4、5と6、7と8、9と10

 誰とペアが組むことになるかは、ほぼ時の運です。
 誰と組んだとしても、このシナリオが終了するまではずっと組み続けることとなります。
 ペアになった相手の能力を良く考え、自分がいかにサポートできるか、自分と相手がこのように協力すると面白いじゃないかと、お考えください。

 また、もし参加者が少なくて一人だけ余ってしまったという場合はその方については、探偵たち(キサ、フェイ)二人のうちどちらかとペアを組むことができます。
その際はご自身でどちらがいいか好きに指名して、協力方法をお考えください。

■目標はキノちゃん
 今回、捕まえるべき相手はキノちゃん(キノコ型と人型になれるロボットです)
 彼女は今、アールというバイク型移動サポートロボットに乗っています。時速八十キロで移動し、さらには馬の人格を搭載しているため通常ではありえない動きをします。(跳びはねたりとか)

■お邪魔キャラについての情報は以下の通り
・キサ 攻撃方法・鞭 狙う相手・マッチョ、格闘系 弱点・虫萌え 

・フェイ 攻撃方法・炎で妨害、物を落下させる 狙う相手・ボケキャラ 弱点・妹キャラ

・シエン 攻撃方法・影をなかを移動、格闘技 狙う相手・キノちゃんに一定距離近づいた相手 弱点・リンヤン

・アルファ 攻撃方法・ガム銃によるねばねば攻撃 狙う相手・目立った者・大柄な相手は標的にしやすい 弱点・リンヤン

・リンヤン 攻撃方法・四次元ポッケからいろんなものを取り出す 狙う相手・誰でも。弱点・食べ物 上司 キノコ

・街にいるマフィアさんたち 攻撃方法・銃、刀とちょー武装中。狙う相手・みなさん全員 弱点・物理的攻撃

 攻撃方法は、それによって邪魔されるということです。
狙う相手はこういうタイプを狙うということなので、自分があてはまるかも……と思う場合は、対策を考えるといいでしょう。
 また弱点も掲載しているので、うまくそこをついて逃げましょう。

 うまくお邪魔キャラから逃げつつ、キノちゃんを追いかけて、捕まえて、自由になりましょう。
 一番はじめに自由になった人には、高級牛肉によるすき焼きです。負けた人たちは野菜だけのすき焼きになるので、がんばれ!

!要注意!
 今回のシナリオの優勝者については、ライター槙皇旋律による独断と偏見によるプレイング評価によって決まります。
 ので、勝利することにあまりこだわらず、参加してわいわいと楽しんでいただければ幸いです。
ラストはみんなですき焼きですよ!


!ヒント!
・誰とペアを組むかをよく確認し、その相手といかに協力するかをお考えください。とくに秀でた才能がなくても、作戦を考えたり、相手をフォローしたりと協力するプレを評価したいと思います。
 ペアを組んだ相手と相談するのも可、しかしそれは義務ではありません。相談を強制などはしないでください。

・みんなで絡み合って、絡み合って、わいわいと楽しみましょう。

参加者
小竹 卓也(cnbs6660)コンダクター 男 20歳 コンダクターだったようでした
キリル・ディクローズ(crhc3278)ツーリスト 男 12歳 手紙屋
日和坂 綾(crvw8100)コンダクター 女 17歳 燃える炎の赤ジャージ大学生
ハギノ(cvby1615)ツーリスト 男 17歳 忍者
緋夏(curd9943)ツーリスト 女 19歳 捕食者
璃空(cyrx5855)ツーリスト 女 13歳 旅人
森間野・ ロイ・コケ(cryt6100)ツーリスト 女 9歳 お姉ちゃん/探偵の伴侶
クラウス(cymh8351)ツーリスト 男 1歳 スーパードッグ
エルエム・メール(ctrc7005)ツーリスト 女 15歳 武闘家/バトルダンサー
ディガー(creh4322)ツーリスト 男 19歳 掘削人

ノベル

 強制的にコンビを組まされた五組のチームは肉を求め、ボケるため、自由のため、――各自それぞれ抱える目的のため迷宮のような街へと飛び出していったのだが、
 ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ――。
「リンヤンさん、それ、それよ! そのポーズよ!」
 日和坂綾は持ってきたポラロイドカメラでリンヤンを撮ることに夢中になって出遅れていた。
 それも目の前でリンヤンが「え、こう? それともこう? 仕方ないなぁ~」とかいってノリノリでポーズなんてとってくれたのが運の尽き。
「綾さーん、そろそろいいんじゃない?」
 綾とコンビを組んでいるハギノが声をかける。
「んー、ハギノさん、まって、もうちょっと、もうちょっとでいいのがとれそうなの! あ、ネガ切れちゃった!」
「え、リンヤンのこと、もう撮らないんですか」
 とリンヤンが不満げな顔をする。
「ネガ切れてまで撮ったならいいんじゃない? みんな出ていっちゃったよ」
 ハギノの言葉に綾は、はっと我に返った。
「あー! だ、だってね、いっぱいとっておけば、今回の子供たちの対策になるかなぁって……ゴメンなさ~い」
「いいよ。いいよ。今からがんばれば、追いつくから。それに、まだ一組残ってるし」
 ハギノの視線の先にごうごうとイモでも焼けるのではないかというほどに闘志を燃やした一人の男と宿命の敵が向きあっていた。
「フェイさん、驚いてるかもしれないけど、自分はツッコミですから!」
 きりっとした顔で小竹卓也が宣言する。――大変燃えている。
「卓也、一つ言いたいのだが」
 冷たい、ここだけは真冬ではないのかというほどのオーラを放つ仮面探偵フェイ。
「もふるか、宣言するか、どっちからしろ、このボケ人間」
「なにをいって、はぁはぁ、キリルたん、かわいい、もふもふだよぅ」
 そうである。
 小竹のかっこいい宣言がどうもさまにならないのは、彼はずっと今回コンビを組んでいるキリル・ディクローズを抱きしめてすりすりしているせいである。
 だったら離れればいいじゃないか、手錠についている鎖は一メートルくらい距離あるんだから――しかし、獣好きにそれは出来ない話である。こんなにも傍にいて、もふり放題でなにもしないなんて男じゃない。
「きゅー」
 キリルにしても無表情で小竹のしたいようにさせている。寛大というか、されていることがわかってないのか。
「なぁ、これ犯罪ぎりぎりだろう? 燃やしたほうがいいと思わないか? 灰すら残らないように」
「あー……大丈夫、いろんな意味でぎりぎりだけど!」
 親指をぐっ! と笑顔のハギノ。
「そうだよ。大好きなものにたいしてちょっと暴走する気持ち……私もわかるし!」
 と、綾も力いっぱいハギノに同意する。
「いや、俺の平和のためにも、灰にしていいと思うんだ……なんなく、卓也とはいつもいつも顔を会わせてしまうし……はぁ。とにかく、お前たち、はやく出発しろ」
 フェイは冷たいため息をついた。
「はーい! ハギノさん、ごめんね。私のせいで遅れちゃって」
「いやいや。綾さんと組めて合縁奇縁! 女の子のわがままを聞けない心の狭い男じゃないぜ」
「奇縁って……ま、いっか。よし、遅れを取り戻すぞ!」
「おう、綾さん、いきましょっか!」
 意気揚揚と出発する綾とハギノ。
 その傍らでは小竹がなんとか落ち着きを取り戻して、キリルと向きあっていた。
「卓也、卓也、落ち着いた? よろしく、よろしく。一緒、一緒に、がんばって、鞄、届ける。届ける。仕事!」
「キリルさん……」
 え、なに、この可愛い生物!
 小竹は胸キュンしている。
「鞄、届けるんじゃなくて、仕事とかじゃなくて、うん。もういいや。……届けて鍵貰おうね」
 可愛さの前でつっこみなんて野暮だ。
 ふわふわの尻尾が揺れている。使命に燃えた瞳。――小竹の精神はいともたやすくぷっつんした。
「あああ、キリルたぁああん! かわいいよ。かわいいよぅ!」力いっぱい抱きしめてすりすり。ふわふわの毛が頬にあたって、きもちいい。「本当にこんな可愛い子とぴったりな状態!」リンヤン、お前のことが大好きだ。「キリルたぁん、だめだ、もう持ち帰る……げふぅ」
 フェイが黙って小竹の脳天にタライを落した同時に電撃のパンチが飛んだ。
「ごふ、え、いまの、タライはフェイさんにして、ばちっとしたのは、え、もふっとするこの拳は?」
「卓也、卓也、仕事、仕事する!」
 目を向けると、なんと右頬にはキリルの電気を纏わせた拳がヒットしていたのだ。
「……もふもふパンチ! やべ、俺……ごめん、五分まって、正気に帰るまで五分だけ待って! ちょ、なに、あの可愛いけど凶悪な拳とか!」
 鼻血をたらたらと――もふもふパンチのあまりの幸せに――小竹は叫んだ。
「なぁ、こいつ燃やしたほうがいいんじゃないのか?」
「だ、だめ。仕事、仕事の仲間」
「……待たせたな! ふ、俺は戻ってきたぜ! フェイさん。あんたの弱点をつくぜ。これだぁ!」
 取り出したのはロリロリな妹系同人誌である。妹キャラに弱いと聞いてわざわざ購入してきたのだ。
 さぁ、これに溺れるがいい。そのとき、つっこみ殺してくれるわ。ふははははは――小竹の心の声である。
 しかし、次の瞬間、同人誌がごうごうと燃やされた。
「あー!」
「俺は、三次元しか妹キャラは許さん。漫画は夢すぎて現実が辛くなる。ふ、フィギュアなら堕ちたかもしれんが、こんな姑息なもの……」
「えー! そ、そんなぁ……!」
「卓也、卓也、しっかり」
 がっくりと床に両手をついて項垂れる小竹にキリルが励ます。
「キリルたぁん、はぁはぁ」
「もう、そのネタは厭きたからとっとと行け」

 本当にどうでもいいが、そろそろ出発しろ――そんなわけで、他よりもやや遅れた肉体組の綾・ハギノ。
まだ出発しきれないもふもふ組の小竹・キリル。

★ ★ ★

 街のなかを緋夏・璃空――能力でしっかりいこう組が歩いていた。
 以前の依頼で二人は顔を会わせていたので初対面ではない。
「肉、あれは、あたしのですか? あたしの肉でしょう。あたしの肉!」
 もう肉しか見ていない緋夏の叫びに、相棒を務める璃空はくすくすと笑う。
「元気だな」
「はっ……あ、璃空!」
「確か前に一回会ったな。……火種の心配はいらんからな、存分火を吹くといい」
 請け合う璃空。
「うん。ありがとう。あ、そうだ」
 緋夏は真剣な顔で璃空を見つめる。肉がかかっているため、なんとしても一位にならなくては――そのため普段は使わない頭をここぞとばかりにフル活動させる。
「フェイに会ったときのために、お兄ちゃんっていうの妹キャラしてほしいな」
「兄ちゃん……か。中々に難しいな」
「けど、あたしだと妹ってかんじじゃないし」
「どのように呼べばいいかな?」
「やっぱり、恥ずかしそうに?」
 そもそも、妹キャラがいまいちわかってない緋夏。それに璃空も神妙な顔でうむと頷く。
「わかった。出来る限り練習しておこう」
「うん。お願い。……次はあの逃げちゃったのをどうやって追いつけばいいのかな。どこにいるのかもわからないし」
 邪魔する探偵たちも厄介だが、そもそも逃げているキノちゃんたちを捕まえる方法が一番の問題だ。
「案ずるな。キノには、追跡用の符をつけておいたからな、問題はない」
「そうなんだ! 私はね、人参で引き寄せられないかなって思ってるんだけど」
「馬だからな。……追跡で、どこにいくか予想し、そこに人参を置いて気をひいた隙をつくとはどうだ?」
「それでいこう!」
 これなら肉に一番に辿りつけるという確信に緋夏の顔は明るくなった。

「おい、いたぞ。こいつらだ」
「ぶっ殺してやる」
 飛び出してきたのは武装したマフィアがあらわれる。彼らがサブマシンガン、刀を構えて襲いかかるが
「あたしの肉の邪魔するなああああ!」
 ごおおおおおお。
 璃空がいるので、火種の心配もないのに思いっきり火を吹きかける。ぎゃあああ、あちあちと叫ぶマフィアの情けなく逃げ回る。
 その影からひょっこりと現れた人影は緋夏が知っている相手だった。
「なんか、すごい火があると思ったら、あら、緋夏と璃空のコンビなのね。悪いけど、邪魔させてもらうわよ」
「キサ!」
「……どうするべきか」
「ここはあたしに任せて、璃空」
 こそりと璃空に囁き緋夏がキサと対峙する。
「なに、緋夏? 知り合いでも手加減しないわよ?」
「うっ……キサに、前に殴られたり、鞭で打たれたり、蹴られた古傷が……」
 わざとらしく弱ったふりをしてみせる。――これぞ、良心の呵責作戦! これでキサが見逃してくれるはず――
 ヒュンと鞭が飛び、問答無用で緋夏は捕まると、簀巻きにされた。
「ぎゃあ、ちょ、キサ!」
「悪いわね。緋夏、今回、あんたたちを邪魔すると……報酬として豊胸になる機械をもらえるのよ」
「え、えええ! き、キサ」
 唖然とする緋夏にキサはにこりと笑ってみせる。
「ごめんね。緋夏。あんたのことは大好きよ? けど、豊胸とじゃ、ね……じゃ、拘束とくのがんばってね」
 ぜんぜん悪く思ってない笑顔でキサは手をふって去っていく。
女の友情ってものすごく儚い――拘束された緋夏は悟った。

★ ★ ★

 そして、こちらは少女と賢き犬組――森間野コケとクラウスである。
「コケと組む人……犬の人」
 犬はそもそも人ではないぞ、コケ。
『オレはクラウス。よろしく……犬はいやか?』
 コケが驚いているのにクラウスはテレパシーで言い返す。
 ふるふるとコケは首を横にふった。
「よかった。大きいと頼りがいある……出来ればちょっと乗せてほしい、かも」
 おずおずとコケが申し出るとクラウスは犬だが、ふっと男前に――犬前というべきか? ――微笑んだ。
『いいぞ。乗ってくれ。基本的に野菜はあまり食べないので、確実に肉を狙いたい。お前が走るより、乗せて走ったほうが効率がいいからな』
 ぱぁとコケの顔に嬉しそうな笑顔が浮かぶ。
『さ、オレに乗れ』
 伏せするクラウスの背中にコケはよじ登り腰かける。
「コケ、重い?」
『いや、軽い。しっかり掴まっていろよ』
言うとクラウスは地面を蹴り、風を操り浮いた。
「飛んだ! ……キノちゃん、見つける、匂い、嗅がない?」
『地上からでは時間がかかる。確実に肉なら上からのほうがいい。しかし、これは』
 ひゅん――風を切ってなにかが飛ぶのにクラウスは竜巻を作り出して弾き返す。――ガム弾だ。
『目立つので、スナイパーの的になるとことだな』
「コケ、なにかできる?」
『オレを信じて、しっかりと捕まっていろ!』 
 クラウスは宙を泳ぐように進むのに、ゴム弾は何発も放たれる。そのたびに風で弾き、防いでいく。
『……しつこいやつめ。コケ、オレがやつの相手をする。お前は地上にいる肉……いや、キノを探せ!』
「わかった!」
 ひゅんひゅん、ひゅんと何発ものゴム弾が放たれ、それをクラウスは竜巻で防いでいく。その間、コケは必死に地上に目を凝らしてアールの姿を探す。
「……いた!」
『よし! 降りるぞ!』
 クラウスが地上へと急降下し、アールの前へと出ようと試みると、ぬっとビルの影から腕が現れた。クラウスが腕へと風の刃を放ち、シエンを防ぎ、バイクの前に着地し、わんわんと吼えた。
 ひいいいいん!
 馬が恐怖に吼える。
『今だ……捕まえ……なに!』
 クラウスはすっかりと忘れていた。――馬の人格があるが、相手はバイクだということを。
 アールはなんと後ろのタイヤだけを頼りに立ち上がると、大きく飛んだのだ。
それもクラウスたちの頭上をくるりっと回転し、追い越したのだ――バイクの上級者だって出来ないだろう大技を繰り出し、アールは何事もなかったかのように逃げていく。
『なんていうバイクだ』
「すごい」
 一人と一匹はあまりのことに唖然としていて、背後からの攻撃に遅れた。
『くっ!』
 クラウスの前足が奪われて影へと飲みこまれる。シエンが邪魔にはいってきたのだ。
 さすがに、ここまで至近距離では風を使って薙ぎ払うこともできず、足がぐずぐずと底なし沼と化した自分の影に沈んでゆく。
「クラウス、がんばれ!」
『……! このっ!』
 シエンの闇の手をなんとか振り払う。シエンがしつこく手を伸ばしたのに、コケが頭に生やしたキノコを投げつけた。
ばしっとシエンの手がキノコを掴む。その隙にクラウスは空中へと逃げた。
さすがのシエンもそこまでは追いつけないのに、影から姿をあらわしてしつこくクラウスとコケを睨みつけるが、諦めて影へと姿を消した。
『助かったぞ』
「コケ、役に立った?」
『ああ。お前のおかげで助かったぞ……よし、追いかけるぞ。肉は目の前だ!』
 思いのほかに絶妙なコンビネーションを発揮して一番、肉に――いや、キノに近いクラウスとコケが疾走する。

★ ★ ★

 そして、五組目――
「キノちゃん、かわいーと思ってたら、なんなのよ、これ!」
 エルエム・メールは叫んだ。
 素早さを得意とするエルエムにとって自由を奪われるのは戦闘が出来なくなるということだ。
「う、うーん。これはピンチ、かも。け、けどししょーとして負けられないんだから!」
 キノちゃんの教育に一度かかわったことのあるエルエムからみればキノちゃんもシエンも立派な弟子だ。師匠としてはここはなにがなんでも勝って威厳を保ちたい。
「絶対に捕まえるんだから!」
「そうですよ! 夕方までこのままなんて長すぎる!」
 エルエムの相棒に選ばれたディガーが悲痛な悲鳴をあげる。
 いつもはおっとりのんびりしている彼であるが、こちらもエルエムとは別の意味でピンチだった。
 なんといっても、片手が不自由な状態では大切な穴掘りが出来ない!
 いくら夕方には外れるにしても、それまでちんたらと待ってはいられない。
「一刻も早くキノさんを捕まえないと!」
「うん。そうだよね。よろしく! エルは、エル、エルエム・メールだよ。エルって呼んでね」
「はい! ディガーです。宜しくお願いします」
 動機は異なるが、互いにピンチで、目的は同じ。
 がしっと手を組んだ二人の背後ではやる気の炎がごうごうと燃えていた。
「けど、どうしよう。エル、スピード勝負は得意なんだけど」
 ちらりとエルエムはディガーを見つめる。さすがにディガーを背負って運ぶなんてことは出来そうにない。
「そうですね。ぼくじゃあ、エルエムさんのスピードについていけないかも」
 ディガーはシャベルを握りしめて首を傾げる。
「ぼくがエルさんを手伝うにしても……」
 二人とも顔を曇らせた。
「うーん、そうだ。考え方を変えよっ! ディガー、得意なことない?」
「そうだなぁ……言われたとおりの正確な穴を掘ったり、物質の差の耐久度がわかったり……あ! 地面に伝わる振動で大きさとか、数がわかります」
「それだ! キノちゃんが逃げてるところを大雑把でいいから教えて」にやりとエルエムは微笑んで付け加える「その途中にある壊れやすそうな、やばい建物や障害物の情報も一緒に」
「どうするんですか?」
 エルエムは拳に虹の舞布をくるくると巻きつけた。
「邪魔な物全部ぶっ壊して、短距離移動で突き進めば、すごく速いと思わない? 邪魔な人や物はエルがなんとかするからさ!」
「はい! じゃあ、フォローは任せてください」
 そのとき、ディガーにはエルエムが穴掘りのための救世主に見えた。かもしれない。

 そんなわけで二人は、走った。
 ししょーとしての威厳のため。
 大切な穴掘りのため。

意気揚揚と邪魔なものをぶち壊しまくって進む二人の前に白い影があらわれる。
「ふぅ、邪魔キャラ、リンヤン、登場。きらっとな。さーてと、お二人さん、申し訳ないが邪魔をさせてもらうよ」
「げ、出できた」
 エルエムが渋い顔をする。いくら相手がリンヤンでも拘束されては思うように戦えない。
 と、いきなりタライがエルエムの頭にふってきた。
「きゃあ! なに、なんでこんなものが!」
「リンヤンの白衣はいろんなものを取り出せるんだよー」
 にこりと笑うリンヤン。その笑顔がなんとなく黒い。
「さて、君たちでどういう実験をしようかなぁー。ふふふ」
「り、リンヤンさん」
 エルエムをかばってディガーがリンヤンの前に出る。その手には路上をエルエムと進んでいるときに見つけた鮮やかな紫色に黒い水玉がついた、それはそれはあやしげなキノコが握られている。
「こ、これをあげますから、お願いです、見逃してください!」
 ディガーの震える瞳がリンヤンをきらきらと見つめる。
「……な、なんだろう。この毒気を抜くキャラは……ああ、もう思わずキノコを受け取って見逃しちゃうよ。じゃあ、二人ともがんばってね~」
 ディガーの瞳とキノコが思わぬ効果をもたらして、見逃されてしまった。
「やりましたね」
「ディガー、すごい! よし、いくわよ!」
 二人は再びキノちゃんを追いかけて走り出すことにした。

★ ★ ★

 もふもふ組――小竹・キリルは街にある野菜を販売している店を訪ね歩いていた。
 アールは馬だから人参があれば釣れるかもしれないし、リンヤンにしても好きなものがキノコなので邪魔されそうになったら投げつけて隙をついて逃げられるだろうと考えて一緒に購入しておく。
 キリルが久しぶりの配達の仕事にきりきりと働くのに、その横にいる小竹は幸せそうに、その毛に埋もれていた。
 身長に差があるので小竹は中腰のまま移動している。はたからみると、かなり奇怪な状態だ。
しかし、中腰の痛みなんてもふれるなら気にしない。たとえ他の人たちが妙な目で見てもキリルと共にいれるなら気にしない。だってキリルをもふれる自分は勝ち組だもの。
「卓也、卓也、このあとは」
「ああ、キリルたん、キリルたん」
 もふもふ。
「このあとは、罠、罠をはって」
「キリルたん、キリルたん、はぁはぁ、もう、もう我慢できな、ごふっ」
 思いっきり電撃パンチが見舞われた。
「卓也、卓也、現実にもどってきて」
「はっ……! ごめんね、キリルさん、ちょっともふもふ天国にいってたよ! あ、うん。買い物は終わったよね? よし、じゃあ、罠を張ろうか」
 どう考えても小竹やキリルではアールに追いつくことは不可能だ。こうなれば待ち伏せ作戦――アールが馬なら人参を置いておけば相手のほうからおのずとやってくるのではないかと考えたのだ。
 単純な作戦だが、なんせ相手はリンヤンの作ったロボットだ。
「馬は臆病な生き物だし、食いしん坊なんだよね。こっそりと人のいない路地に置いてあっちからくるんじゃないかな」
「卓也、よく、よくしってる」
 キリルに尊敬のまなざしを向けられて胸がきゅんきゅんと高鳴って小竹の心臓はもうやばい。
「よし、人がいなさそうなところに……」
 と、角を曲がって小道に入ると黒服のいかにもマフィアですな人たちがいたのに小竹は目を丸め、その横にいるキリルはきゅうと鳴いて首を傾げた。
「いたぞ、こいつらだ」
「鞄を寄こせ」
 小竹の判断ははやかった。キリルを片手でもふりつつも、棒を思いっきり投げて隙をつくと、蹴りを炸裂する。
「メーゼ! 援護お願い! ええい、野は野に、マフィアは灰に帰れ!」
「うお、てめぇ! 俺らは今出てきたところだぞ! かっこつけさせろや!」
「うるさい、黙れ! 完全やられキャラのくせに目立とうなんて最近のマフィアは教育がなってない! キリルさんには指一本触れさせん! むしろ、もふりの邪魔すんな、空気よめ!」
「卓也、強い」
 キリルはもふられつつ、小竹の戦闘を眺めていた。

★ ★ ★

 肉体系戦闘キャラ組――綾とハギノは遅れた分を取り戻すべく、走っていた。
 二人とも肉体を鍛えているので、走ると大変に速い。
「けっこう追いついたかな? アールは街のなか走っているっていうし」
「そうだね。しかし、急がないと! いや、僕としては女の子と組めて嬉しいんだけども」
「ん? なに? なんにを急ぐの~?」
「いや、なんでもないよ~」
 ハギノは言葉を濁した。
 女の子と組めたのは嬉しい。が、これでは厠に行けないというたいへん困った事態が発生しているのだ。
「とにかく、アールに追いつかない、っと」
 はじめにリンヤンに夢中になって出発が遅れたのは痛い。
「けど、綾さん、このままアールと遭遇しても流石に走って追い掛けられないと思うけど、どうする?」
「う、うーん……ほら、ここで万能忍者ハギノさんの出番だよっ! 行け、いけいけ、ハギノさん!」
 綾がはやしたてる。
 せこいかもしれないが、ハギノをその気に煽って、このふりな状況をどうにかしてもらう作戦だ。
「そんなこといわれたら、がんばらないとなぁ。ま、相手は目立つだろうし、分身の術で情報を集めて先回りしようか? それでやってきたところを捕まえる」
「おお、すごい、すごい、ハギノさん」
 ぱちぱちぱちと思いっきり拍手の綾。
「よーし」
 綾におだてられてすっかりその気のハギノは、すぐさまに分身の術を使い、情報を集めにかかった。
「よしよし、情報をっと、あ」
「どうしたの、ハギノさん」
「あー……僕ってばそんなに目立っちゃう? 分身たちがアルファの的になっちゃってるや」
「え、えええ!」
 せっかくうまくいきそうだったのに! 綾はきっと天を仰いでどこぞにいるアルファに向かって怨念をたっぷりと含んだ電波をびびっと発信しておいた――天からタライが落ちて思いっきり頭をぶつけろ!
 それが良かったのか悪かったのか――
「おい、いたぞ。ここに」
「おう」
 武装したマフィアだ。
「あっちゃー。次から次にくるなぁ」
「……閃いた! ハギノさん、こいつらよ。こいつらを使うのよ!」
 きらんと綾の目が飢えた肉食獣よろしくの輝きを放つ。
「え、あ、そっか。よし、アルファに邪魔されないよーにしとかないと」
 ハギノは懐から煙玉を取り出し、地面に放つ。
 白い煙があたりにもくもくと立ちこめる。これによってアルファの攻撃が防げ、ついでにマフィアたちに混乱を与えることができた。
「おりゃあ」
 軽やかな飛び蹴りをハギノが放ち、容赦なくマフィアを沈める。
「な、てめぇ――はっ!」
 がしぃとハギノを狙うマフィアの背後から肩を掴まれた。

 マフィアはそのとき感じた。背後に肉食動物がいる! 恐る恐る振りかえるとそこには赤い情熱のジャージを着た綾が不敵に微笑んでいた。
「ヤラレ役はヤラレ役らしくしておくといいと私は思うな。ね、エンエン! 狐火操り火炎乱舞っ!」
「ぎゃああああああ」
 そして、マフィアたちは容赦なく、フルボコにされた。

「良い子のみんな、困ったときはマフィアをシメて、軍資金を調達しようね? お姉さんとの約束だぞ! てなわけでおじさーん、自転車一台ぷりーず!」
 もう、やめてあげて、よしてあげて。マフィアそのAのヒットポイントはゼロよ。綾。
 シメたマフィアの胸倉を漢らしく――綾は乙女だが――持ち上げておねだりしているのは凶悪可愛い。
「綾さん、容赦ないなー。あと、それにどこに向かって行ってるの?」
「うん? なんとなく空に向かって!」
 にこりと笑う綾。
「もう、ゆるしてください。自転車上げますから……う、ううっ」
「ほらほら泣かない、泣かない。あ、ついでに水着の女の子が乗っているバイク、探してほしいんだよね? 協力してくれるよね? ……良い子のみんな、困ったときはマフィアをシメて顎で使おうね。お兄さんとのお約束だぞ!」
「ハギノさん、どこに向かっていってるの、それ」
「綾さんの真似でお空に向かって! なんとなく!」
 そんなわけで、マフィアをシメて情報を手に入れ、自転車をゲットした。
「で、これで、ハギノさんは後ろに乗って」
 自転車に乗った綾。その後ろには邪魔な鞄を持って乗るハギノ。
「武闘派の根性みせちゃる! フンガァ~!」
 そして綾は力いっぱいペダルをこぎ出した。
二人を乗せた自転車はごごこぉぉぉと土煙をあげ、路上を歩くお姉さんのスカートをひらりとはためかせ、おっちゃんのズラをふっ飛ばし、車すら追い抜いて猛然と突き進む。

 武闘派はいいが、綾、あなたは自分が女性であることをちょっぴり忘れていないだろうか。

★ ★ ★

 ごうごうごうごう。
 女の友情の儚さに傷ついた緋夏の炎はそれは美しい紅色をして、マフィアたちを容赦なく燃やし、蹴散らしていった。
「あたし今、ものすごく機嫌がわるいだ!」
「緋夏、そう荒れるな。肉があるぞ」
「肉! そうだ。私には肉がある」
 肉が食べられると思うと、それだけでぱっと世界は明るく染まる。単純なことが緋夏の長所だ。
「けど、人参で呼ぶにしても、どうやって……」
「相手は大きいからな、いっそ、罠を仕掛けてアールをおびき寄せればどうだ?」
「そっか。けど、アールの現在地はわかるとしても、どうやって罠まで誘導するの?」
「私は式を使って、アールを驚かせようと思う。緋夏もなにか出来ないか?」
「うーん……あ、こういうのどう?」
 ふぅと緋夏が掌に炎を吹くと、それが人の形になった。炎の人型はぴょんと緋夏の手から降りて、くねくねと不思議なダンスを披露する。
「これがアールを驚かせる役に立つかな?」
「動物は火が苦手だからな。いけるだろう」
 そうして璃空がまずアールの現在地を確認すると、あとは罠の元に来るようにと式と、緋夏の炎の人型が誘導する。
 その作戦は実にうまくいった。
「あー、きた!」
 アールが肉眼で確認できる距離まで近づいてきた。
「危ない、璃空」
 緋夏は地面を蹴って影から出てきたシエンに飛びかかり、自慢の歯で噛みつく。たまらずにシエンが影に潜った。
「どこいった、あいつ!」
「緋夏、それより、くるぞ……あっ!」
 璃空が声をあげる。というのも、近づくアールの頭上からクラウスとコケのペアが迫ってきてるのだ。このままでは、二人にアールが捕まってしまう。緋夏が先手を打とうとしたとき、ごうっとオレンジの炎が璃空と、クラウスとコケペアの視界を遮った。
その隙をついてアールはまんまんとふた組の前から逃げてしまった。
「危ない、危ない」
 フェイがふた組のペアの前にあらわれてにやりと笑う。
「悪いが……邪魔をさせてもらうぞ」
 フェイの放つ炎によって緋夏の作った炎の人型は飲み込まれ、空にいるクラウスも炎に襲われて地上へと降りることになった。
 そして、そのタイミングをはかったようにガム弾が見舞われる。
『く……っ』
「わー、ネバネバがふってきた!」
 クラウスと緋夏が悲鳴をあげる。
「お前たちが二人で協力するなら、こちらだって邪魔キャラ同士で協力してもいいはずだ! ……全員、ガム弾の餌食にしてくれる!」
 ふた組のピンチに、きらりと輝く星のようにやってきた救世主がいた。それは神が起こした奇跡ともいうべき偶然だった。
「えーい、邪魔―!」
「う、うわわわ」
 エルエムとディガーペアが、なんとフェイの背後にあるビルに穴をあけてやってきたのだ。その破壊された壁の瓦礫が思いっきりフェイの頭にあたり、さらには
「きゃああああ、自転車はー、急にはぁ、とまらないいいい!」
「わー、綾さん!」
 綾とハギノの乗る自転車はあまりにもスピードが出過ぎたためブレーキが効かず、大きな音をたてて突き進む先――そこにフェイがいたのだ。
「ぎゃあ!」
 思いっきりフェイを敷いて、綾の自転車はようやく停まった。
「と、とまった……ふ、ふぅ……良い子のみんな、自転車はスピードを守って、人を轢かないように注意しようね。これ、お姉さんとのお約束だよ」
「綾さん、それフェイさんに向かっていっても意味がないと思うよ」
「……あ、あははははは」
 綾は明後日の方向に向かっていろいろと誤魔化すためにも高笑いした。

 ぷちん。
 とてつもなく太い何かが切れた音がした。
「こっのお!」
「きゃあ」
「わぁ」
 綾とハギノが乗っている自転車をフェイが力いっぱいひっくり返す。危機一髪で肉体能力の高い二人は飛び退く。
「おまえらぁああああ! 今日という今日は、お前たち全員、フルボコだぁあああ!」
 フェイが怒りに叫ぶ。その背後ではごうごうと黒い怒りの炎が燃えている。
「す、すとっぷ、フェイおにいちゃん、ダメ!」
 コケがみんなを守るため前に出る。
「うっ」
「あ、あの……お、弟なら、なれますけど……」
「お、弟……いや、ありかもしれない」
 天然ディガーの言葉にフェイは困惑して、おろおろする隙を乙女たちは見逃さなかった。
「こういうときは! みんな! いっせいのでいくよ!」と、綾。
 それにその場にいた乙女たちは頷き
「いっせーの、せ!」
 掛け声とともに、綾、ツンデール美少女になったハギノ、緋夏、璃空、エルエムが両手を胸にあわせて
「おにいちゃ~ん!」
 声も揃え、ポーズをとった威力は絶大だった。
「十三人の妹も夢じゃない! 弟もいい。目覚めたぜ。俺は! 全員まとめて面倒みてやるっ!」
目の前の妹と、弟一人に荒ぶっているフェイの隙をついてクラウスが竜巻を起こす。
「しまっ……うおっ! 妹がぁあああ! 俺の楽園がぁあああ!」
 ひゅるるーん、と音をたててフェイは遠くへふっ飛ばされ、空にきらんと輝くお星様になった。

「たすかった。けど、ガム弾はくる……!」
 緋夏が悲鳴をあげると、放たれたガム弾をクラウスの風が防ぐが、それにくぐりぬけて一発がエルエムに迫った。
「危ないっ」
 ディガーが前に飛びだし、シャベルで――なんと撃ち返した。
 かこーん!
 見事なホームランだ。
「すごい。ディガー! 撃ち返したやつ、このガム弾を撃ってるやつにあたったかな」
「うーん、どうだろう……あ、ねばっとしてる……」
 大切なシャベルが汚れたのに、しゅんとなるディガー。その前におずおずと葉っぱが差し出された。
「これ、ねばねば、とれる」
「あ、ありがとう……」
 コケの片手にもっているシャベルにディガーは目をとめる。コケもディガーのシャベルに目をとめた。二人は見つめ合い、そっとシャベルをちんっと合わせた。
 シャベルで生まれる友情。

『なんとか邪魔なやつらは排除できたな』
「……そして、ライバルたちが集まってしまったな」
 クラウスの言葉に璃空が微笑む。
「ここはどうだ。協力して、アールを追い詰めないか? アールから降りたキノちゃんはみんなで恨みっこなしの早い者勝ちでとりあう。アールから降りてしまえば捕まえやすいだろう?」
 璃空の提案に、アールという一番の難題に頭を抱えていたその場にいた者たちは頷いた。

★ ★ ★

 四組が顔をあわせているころ、残り一組、マイペースな小竹とキアル組がなにをしていたのか――。

 大量のキノコが路上に山となっていた。 
大変あやしいく、あからさまに罠だと見え見えだが。
「おおお! キノコ、キノコ!」
 どこからともなく、リンヤンが喜びさかんに現れて、キノコの山に飛び付く。
と、それに灰色の壁が、ぬっと動いた。
 キリルと小竹だ。
 キリルの『見えざる者』で透明になっていたのだ。そして、キリルは素早く『絡まる者』を放つ。しなやかな鞭はまるで蛇のようにリンヤンの体に巻きついて拘束する。
「な、これは……あなたたち、いつからここに、というかむしろ、このキノコは罠! そんな、まったく気がつかなかった!」
「普通、見ただけで気が付くと思った……ボケ人間ってすごいよね。ボケるものがあればボケずにいられないんだから」
 冷たいつっこみをする小竹。しかし、その手はずぅううとキリルをもふっている。
「つかまえた、つかまえた」
「よし、キリルさん、俺が縛っておく――」
「縛る!」
 キリルの目が輝く。――のちに小竹は語る。こんなにも生き生きしたキリルさんははじめて見た。と、それくらい素早く、かつ大胆にキリルはリンヤンをなんと亀甲縛りしてしまったのだが、その手が妙に慣れているのに小竹はごっくりと息を飲んだ。
「き、キリルさん、あの、この結びの技はどこで」
「かっこいい、じぃじぃから習った」
 キリルのきりりっとした顔はどこか誇らしげでもあった。

★ ★ ★

 瑠空がアールの現在位置を、緋夏に伝え、火の人型を使ってアールを罠へと誘導する。
ディガーとエルエムとコケとクラウスのふた組は、アールがくるべき道にせっせっと落とし穴を作っていく。
 クラウスの情報では、アールはバイクなのに馬のように飛ぶので、落とし穴が一個では避けてしまう可能性もあるからだ。
「きた!」
 緋夏が叫ぶ。

 アールは嘶き声をあげて罠に進んでいく。
「キノ!」
 キノちゃんが待ち伏せと罠に気が付いて叫ぶが、時速八十キロのスピードは急には止まれない。
「出た!」
 綾が叫ぶとぬっとシエンが影から現れる。
「影かぁ……潜ってるわけじゃないんだよね」と、こっそりとディガーは残念そうにぼそりと呟く。
シエンが襲いかかろうとするのを綾とハギノが息のあったタイミングで攻撃をして注意を逸らす。
 綾が攻撃した隙をハギノがカバーし、ハギノが次に攻撃するのに綾が動く。シエンは驚くほどの身体能力で二人の攻撃を防ぎ、拳を放ってくる。
 そうして、シエンが綾とハギノペアと戦っているのに、アールは嘶き、飛ぶ。が、はじめの穴は飛び越えたが、それ以外にも掘られた無数の穴は避けることは不可能だった。――アールは見事に穴に落ちた。
「よし、かかったぞ!」
 璃空の声に、全員が目を向ける。
「よーし、いまだぁ! ハギノさん!」
「りょーかい」
 綾とハギノはシエンとの戦闘を脱して穴へと走り出す。
「肉! あたしの肉!」
「よし、ゆくぞ」
 緋夏と璃空が駆けだす。
「捕まった」
『コケ、乗れ。肉!』
クラウスはコケの首根っこをくわえて、ぽいっと背中に乗せると走り出す。
「いくわよ。ディガー! 走って」
「はいっ……!」
 スピードでは一番のエルエムとシャベルを背負ってディガー。

 そして、全員が穴を見て声をあげた。
「いない!」
どこをどうみてもそこには黒いバイクのアールしかいないのだ。もしかして落ちた拍子にアールがキノちゃんを潰してしまったのか?
 全員が顔から血の気を失わせて最悪の可能性に慌てた
「と、とにかく、アールを引っ張り出して、キノちゃんを助け出さないと!」
 穴に綾とハギノと降りて、マフィアを片手でつるしあげた漢らしい腕力にものいわせて、よっこいしょーとアールを両手で持ち上げるが
「いない!」
 キノちゃんはどこにいったの!

 その場にいた全員が突然と消えたキノちゃんに騒いだのは無理もないことである。
 どうしてキノちゃんがいないのか。
実はキノちゃんはなんとアールが落ちるときに宙に飛ばされたのに宙返りして、なんと人型からキノコの姿に戻って地上に着地したのだ。そして、みんなが穴へとわっと駆けよるところを悠々と歩いて逃げたのである。
 はじめに美少女姿になっていたのでみんなころりと忘れてしまっていたようだが、キノちゃんはキノコにもなれるのだ。

 キノコはぽてぽてと歩いて逃げていた。
 キノ!
 角を曲がった先になぜか大好きなリンヤンが縛られた姿で横になっている。それを見えてキノちゃんは駆けよっていく。
 と
「キノちゃん、キノちゃん、荷物、届けに来た」
 キリルの柔らかな手が、キノちゃんを抱きあげた。
 キノー? キノキノ
 慌てて逃げようとするキノちゃんにキリルは急いで鞄を開けてなかのものを取り出した。
「ええっと、待って、待って。届けるもの……お手紙? 『パパは、お前たちが大好きです。これにて終了します』……だって」
 その言葉にキノちゃんがキノキノと騒がしく小さな両手を振りまわすと、がっちゃんと音をたてて手錠が外れた。
 どかーん、天にひと際大きな音とともに花火があがり、キリルの上に花弁が落ちてきた。
 キリルが顔をあげると、すでに紺碧に染まり出した空には赤い花火が煌めき、影から出てきたシエンがキリルの頭にお祝いの花冠をかぶせた。

 ちなみに小竹はキノコとキリルさんの組み合わせも意外といい、むしろ、萌え! ――幸せそうにキリルとキノちゃんを眺めていた。

★ ★ ★

 そんなわけで、棚からぼたもちならぬ、キノちゃんが落ちてきて見事に一位になってしまった小竹とキリルペア。
 鬼ごっこ終了ということで、スキヤキが振舞われるのだが、ここで
「野菜不足なんで野菜がすごくありがたいです……!」
 小竹は野菜のほうがいいというリクエストとともに
「みんな、みんなで、食べる」
 キリルのお願いによって、二人分の高級肉を大量野菜の鍋へといれてみんなで食することとなった。
「いただきまーす」
 全員が声をあわせて鍋に向かう。
「野菜、おいしいよ。野菜」
「あ、肉、あたしの肉!」
「みぃ……」
「飲み物、ある。……ジュース、飲む」
『喉が渇いていたらかな。……ビールはあるのか?』
「あー、この写真どうしようかな。けど意外とよくとれてるんだよね」
「女の子たちの間に挟まれて、極楽極楽!」
「ここは茶もおいしいのだな」
「はい。お箸、食べるときぐらいシャベル置いたら?」
「いいんです。あ、ありがとうございます。わぁ、野菜がいっぱいだ」
 鍋を囲んでわいわいとやるのいいのだが……一つだけ困ったことに、人参とキノコをみんなが今回の鬼ごっこで大量購入したのでそれも消費しなくてはいけない。
「野菜がうまい。もう野菜ともふもふ、最高。右にはキリルたん、左にはキノちゃん。ふふふ」
「……キノコ、おいしい、おいしい」
「うー、負けたことは悔しくないもん。あ、コラーゲン入れたから野菜でお肌ぷりぷりだもん! う、人参はだめぇ」
「だめだめ。みんなが人参とキノコ大量購入したから、ちゃんと食べないと! 一人一本らしいよ。ノルマ!」
「野菜なんて食べられないもん。あ、これはあたしの肉だ! あたしの!」
「それは、生だぞ。……なかなか、味がしみていておいしいな」
「……味しみてる野菜、おいしい。あたたかいの、皆で囲むとホカホカ……嬉しい」
『今日は動いたからな。たらふく食うぜ。それに、たまには、本物の肉の味もいいもんだ。おい葱は勘弁しろよ』
「ううっ、ししょーとしての威厳、ちっともとれなかった。次は必ず勝つ!」
「そんな落ち込まなくてもすごかったですよ。あ、人参もキノコもおいしい」

 そんなわけで、鬼ごっこは無事に終わり。
 参加者たちはそれぞれ大量の人参とキノコの目立つスキヤキを心行くまで楽しんだのであった。

クリエイターコメント 参加、ありがとうございます。

 今回はそれぞれみなさん、力いっぱいがんばってくださり、最終的にはみんなでスキヤキになりました。

 またご縁がありましたら。
 そのときも、みなさまが仲の良い旅人であることを!
公開日時2011-04-20(水) 21:10

 

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