――0世界・トラベラーズカフェ。 その片隅にある掲示板。そこにはちょっとした人だかりが出来ていた。というのも、このようなものが張り出されていたのである。 【果たし状】 ・私ら姉妹と手合わせしてくれる奴募集中。小難しい話は無しの真剣勝負よ。 度胸のある奴はコロッセオに来なっ! ・タッグバトルだから二人で来てねー。強い人待ってるよ~? マーシュランド姉妹 多くのものが興味を示す中、最も熱心に張り紙を見ている者たちがいた。ふわふわもこもことした猫妖精2人である。「マーシュランドって確か…運動会の船倒しに参加してた、あのサメの事だよね」 魔法局でお相手してみる? と一方が問いかければ、もう一方もにっ、と笑い、いいぜ? と相槌を打つ。「ちょっと分が悪い相手だが、それでもいけるだろ」 なんせ、自分たちは『猫』なのだから、と顔を見合わせて2人はその場を後にするのであった。 参加を決意して、コロッセオへ向かう二匹。その足取りはとても軽やかだ。「あちらは魚でこっちは猫。猫は魚も好物だからにゃー?」と、余裕綽々なのは淡いオレンジの毛並みのレイド・グローリーベル・エルスノール。 一方、黒い毛並みのナイン・シックスショット・ハスラーはというと、……妙に気負っているような雰囲気があった。「はっ、打たれ弱いレイドとは違うんだよ、レイドとはっ!!」 普段からレイドに痴話喧嘩で一方的に負けている彼としては、此処で実力を見せつけたい所である。 それが上手く行くかはさておき、意気揚々と歩いていると、コロッセオが見えてきた。二人は引き締まった顔でその門を潜るのであった。「わ~、ニャンコだー!可愛い~? 」 管理人のリュカオスに案内され、中へと進んだ先。イルカのような女の子とサメのような姉御肌な少女の2人が待っていた。 声を上げたのは青い肌のイルカ娘、マグロ・マーシュランドだった。彼女は目を爛々とさせてレイドとナインを見る。 一方、サメのような姿の少女、フカ・マーシュランドはというと、鋭い目で2人を冷静に分析しているようだった。「ふーん。随分と落ち着いてるじゃないのさ。魚は猫に狩られるものだとでも思ってるんでしょう?」 その言葉に何も答えない2人。彼女は静かに笑うと、そっとこういった。「私らの世界では魚が最強だったのよ。陸の生物は海の生物に狩られる存在だったわ」 そして、すっ、と目を細め、文字通り獲物を狙う狩人の顔になった。「無論、猫もね?」「ほぅ……」 彼女の言葉に、ナインが楽しげに笑う。既に戦士の顔となった彼の横で、レイドが口笛を吹く。姉の言葉にうんうんと頷きながら、マグロがにこにこと笑いかける。「そうだよー。甘く見たら痛い目みるんだからね~? 」 引き返すなら、今のうちだよ、と目で付け加えてマグロもまた、狩人の目で笑みを強める。背筋にあわ立ったような何かを覚えつつ、レイドとナインは顔を見合わせ、2人へ笑う。「はんっ! 誰が……」「その言葉、そのまま返しちゃおうかな」 ナインとレイドがそういい、4人の視線が交わる。その様子を黙ってみていたリュカオスだが、彼は1つ頷き「……話は済んだか? ならば、整列してもらおうか」 彼はそういい、静かに手を上げる。と、自然と闘技場が姿を変える。それは猫でも魚でも不利な岩場のある砂地であった。白い、肌理の細かそうな砂は、サラサラとしており、一歩踏み出すだけで沈み込んでしまう。 お互い平等の状況で戦う為、戦いの舞台はリュカオスに決めて貰う事となっていた。そして、彼によって選ばれたのが、この戦場だった、という訳である。「ルールは簡単。どちらかが全滅するまでの無制限一本勝負。バーリトゥードだと思っていて構わない」 一通り説明した後、リュカオスは2組の表情に口元を綻ばせつつ叫ぶ!「……戦闘、始め!」 こうして今、魚姉妹と猫妖精コンビの仁義無きタッグマッチが、火蓋は切って落とされた。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>マグロ・マーシュランド(csts1958)フカ・マーシュランド(cwad8870)レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042)ナイン・シックスショット・ハスラー(csfw3962)
起:今、決戦の時! ――0世界・コロッセオ。 砂地へと変わるコロッセオを見つつ、4人は息を飲んだ。さらさらの砂に、幾つかの岩場。これは水が無ければ長期戦は不利だろう。 リュカオスの説明を聞きながら、フカ・マーシュランドは小さく鼻を鳴らす。 (ふん、絶対こっちの方が不利じゃない。私ら水分補給しないと生きていけないってのにさ) それでもやるしかないわよね、と顔を引き締める彼女は傍らの妹、マグロ・マーシュランドと僅かに視線を合わせる。 「お姉ちゃん、どうする~?」 いつもの調子で問いかける妹に、フカは小さく笑う。どんな状況下でも『獲物』を仕留めるのが、狩人なのだ。 「……マグロ、プランB!いくわよっ」 「了解、プランBっ!」 姉の指示に頷き、マグロが身構える。そろそろ試合の始まりだ。2人は気合の入った眼差しで2人の猫妖精を見やった。 (どっちが、お姉ちゃんを狙うかなぁ) マグロは、姉を狙いそうなのはどちらか、と考える。しかし、表情からは何も伺えない彼女なのであった。 (どっちであろうと、僕が逃がさないからね~) そう内心で呟くと、マグロの目がきらきらと輝いた。 一方、レイド・グローリーベル・エルスノールはあくまで余裕の表情だ。彼は帽子のつばをくいっ、とあげると金と銀の瞳を細める。 (くふふ、お相手にはちまっと可哀想なことするかもね?) この勝負に勝ったら、夕食は焼き魚にしよう。そう思いながらちらり、と黒い毛並みの相棒、ナイン・シックスショット・ハスラーを見やる。彼は彼でなにやら息巻いているようだった。 (俺様はレイドのストーカーだと誤解されてるがな……その誤解も今日で終わりだ!) その為にもマーシェラント姉妹にはかませ犬になってもらおう、と更に手を握り締める。「肩に力、入ってるねぇ。……んじゃま、キミの実力とやらを見せてもらうよ」 ナインとタッグを組むのが初めてのレイドは、そう言って彼の肩を叩く。と、ナインは「おう!」と短くも力強く答えるのだった。 両者が並び、リュカオスは1つ頷く。 「……準備は整ったか?」 彼の問い掛けに応じたのはフカとレイドだった。 「もちろんよ」 「さぁ、早く始めよう」 2人に言われ、リュカオスは頃合いか、と口元を綻ばせる。そして、すぅ、と息を吸い、大きな声を放った。 「……戦闘、始め!」 彼の合図と共に煙幕弾が放たれる。それよりも先に1つの影が動き、風が起こる。視界の悪い中、マグロは姉を援護するように煙弾を放って叫ぶ! 「お姉ちゃんには絶対に手出しさせない! 僕がまとめて相手になるよっ!」 そう意気込んで辺りを探る。薄っすらと身構えるナインが見えるも、もう1人の姿がない。 (あれ?) マグロは内心で首を傾げた。 フカは確かに煙幕弾を放った。その煙で相手の目を欺くはずだった。しかし……! 「悪いねぇ!」 開始と同時に瞬転の靴で身近な岩場に移っていたレイドと鉢合わせしていた。内心で舌打ちしつつ、彼を放そうとフカは更に煙幕弾を放つ。 (落ち着け。落ち着くのよ、フカ! 引き離せばいいんだから!) 彼女は相手に気づかれないように岩場を移動しつつ、岩にブービートラップを仕掛けていくつもりだった。まだレイドに悟られていないものの、罠を仕掛けるには離すしかない。 「しつこい男は嫌われるわよ?」 煙を纏い、静かに呟くフカ。彼女は別の岩場に隠れると早速トラップを仕掛ける。が、辺りをうかがった時、レイドと眼があった。途端に景色が歪み、混乱する。 「えっ?!」 「貰った」 『混乱の視線』によって混乱したフカに、レイドは更に攻撃する。『爪の刃』によって爪を伸ばし、白兵戦へともちかけたのだ。 「戦いはこうでなくちゃね」 辛うじて交わした途端、混乱は解ける。『混乱の視線』はレイドと視線が合わさった時のみ発生するようだ。フカは自前の銃火器で爪を受け止め、どうにか押しきって別の場所へ行こうと考えた。 煙の中、ナインは深呼吸をした。自分がまず相手にするのはマーシュラント姉妹の妹、マグロだ。 (それじゃあ、派手にいかせてもらうぜ!) 内心でニヤリ、と笑い、彼は自分に弾を撃ち込む。そして、気合と共にマグロへと接近した。 「ふふ、いいよ? 相手してあげる!」 マグロが眼を輝かせて武器を構える。彼女としては姉が狩場を整えるまでの間、時間を稼ぐのが理想だが……。 (あと1人、逃がしちゃったみたいだねぇ。お姉ちゃん、大丈夫かな) 少し不安だが、まずは目の前の相手を足止めしよう。マグロは全力突撃してくるナインの攻撃に備えた。 承:魚は戦場を作り、猫は戦場を乱す 開始から10分経過したものの、既にフカは酷く消耗していた。というのも、レイドの執拗な攻撃をなかなか振り切れず、狩場作りが難航しているからだ。 振り切る事に専念したお陰で肉体的ダメージは比較的少ない。しかし、暑さの所為か咽喉が乾いてきた。 (本当にしぶとい相手ね) 辛うじて3つ目のトラップを仕掛ける事が出来たものの、心が休まる暇はなかった。フカは内心で溜め息をつきながら次の岩場へと向かった。 「マグロ、頼んだわよ……」 「んー、見失ったなぁ」 レイドは完全にフカを見失い、つまらなさそうに帽子を弄る。彼女は1、2度武器でレイドの攻撃をいなした程度で、自分から攻撃はしてこなかった。 (って事は何か企んでる? だったら、それを壊さないと、ねぇ) そう思っていると、ナインの姿が見えた。マグロと交戦しているようだが、レイドから見ればなんとなく足止めされているように見えた。 (あれぇ? ホントおっかしいなぁ……) マグロは内心で首を傾げつつも、ナインの攻撃を回避する。姉がトラップを仕掛けている間、自分が猫妖精コンビを引き付ける。それが作戦だった。なのに淡いオレンジの毛並みの方(レイドの事である)は、引っ掛からなかった。 (作戦、ばれちゃった? でも、僕の方にひきつければいいもんねー) 砂地に足を取られつつも、ナインの攻撃を避け、もう1人の存在を横目で探す。と、自分に笑いかける金と銀の瞳をみつけた。 一方、ナインはヒットアンドアウェイという手段でマグロを攻めていた。相棒・レイドの姿は見えない。開始早々放たれた煙幕弾を避けたところまでは解ったのだが……。 (アイツ、大丈夫か? ……ここで俺が頑張ればちったぁ、見直す筈だ) 大丈夫だろう、と踏んだナインは避けてばかりいるマグロを見やった。イルカのようなスベスベの体には彼方此方砂がついていて、少しすりむいた場所もある。一方のナインも毛並みに砂が入り込み、とても気持ちが悪かった。 「はんっ、避けてばかりだなんて気味が悪いぜ」 小さく呟き、距離を置く。マグロはハープーンという武器を操り、その上精神にも作用を及ぼす『セイレーンの歌』を使う。その事が気がかりだった。相棒であるレイドとは相性が悪い、とナインは考えているのである。 (もし使うようならば……) ナインは僅かに息をつきながら、自分のトラベルギアである音叉の剣を確かめる。衣服に隠したそれは、確かにそこにあった。 と、その時。彼の足が音もなく深く沈む。思わぬ衝撃にナインは眼を白黒させるも、彼には策があった。 「あっ」 ナインが深みに嵌ったとき、マグロはレイドの姿を見つけた。レイドはフカを探していたのだが、ニヤリ、と笑う。 「今度は、こっちのお嬢さんと踊ろうかな? 君のお姉さんが何を仕掛けてるかはさておき、ね?」 その一言に内心ぎくり、としつつもマグロはいつもの笑顔で答える。 「そう言ってる暇があるなら攻撃してみたら?」 マグロの元気な声が終るか終らぬかの間に、レイドが接敵。彼はくすり、と笑いながら爪の剣を繰り出す。それを紙一重で避けながらマグロは笑う。視線は重ならなかったが、鋭い攻撃が僅かに青い皮膚を掠めた。 (この調子でどっちもひきつければ) 姉の作業を円滑に進めさせるため、マグロはどうにかレイドの攻撃を引き付けるのだった。しかし、彼女はナインを見失ったままだった。 一方、レイドはチラリとナインが居た場所を見る。彼は砂地に足を取られ、脱出しようと準備中であった。 (そろそろかな?) 彼は小さく笑い、獅子のレギオンを解き放った。 砂地で、しかも気温は暑め。そんな戦場で鍵を握るのは水分補給であった。 その事をより重要に思ったフカはマグロが用意した水を飲みつつトラップを仕掛ける。あれから時折レイドの攻撃を喰らう事はあったものの、どうにか思惑通りに事が運べそうだった。 (ちょっと時間がかかりすぎたかしら) フカはふん、と鼻を鳴らす。しかし、これが上手く行けば自分たちが有利になるはず。彼女は引きつけ役の妹の為にも手早く作業を終らせる。チラリと顔を上げればナインが深みに嵌ったようだった。 「あと1つに仕掛ければ、大体完成ね」 そう呟いて岩場から離れ……フカは咄嗟に戻る。同時に眩い光が放たれ、砂の飛沫が上がる。岩場に身を隠す事で光と砂を凌ぎながらも、思わずその光景に見とれてしまった。 「おっしゃああああ!」 ナインの声が上がる。彼は反動の強い『太陽の松明』を進行方向とは逆へと発砲し、深い場所から脱出したのだ。しかし、些か威力が強すぎてマグロたちから離れてしまう。 ビーム砲が炸裂し、派手な音を立てて、2つの岩が砕ける。トラップ用の音爆弾が破裂して派手な発砲音が広がる。手前の岩には罠を仕掛けていない。 (これはこれで、仕方が無いかしらね) フカはにやっ、と笑いながら銃口を天にむけ、発砲。ひょろろろと音を立てて響く弾は、狩場が完成した合図だった。 「ふぅ、こんなもんかね」 ナインが砂地から出ると、マグロとレイドは少しはなれた岩場で追いかけっこしていた。彼自身はレイドがいつの間にか付けたであろう獅子のレギオンに囲まれていた。 辺りを見渡していると、笛弾の音が聞こえる。それに耳を動かしつつナインは一息つく。口がざらつき、咽喉が渇く。しかし、辛うじてダメージは『ナインライヴス』で軽減できていた。 (拙いかな) そう思っていると彼の傍で発砲音がする。そこにフカがいるのだろうか? 僅かに首を傾げつつ辺りを見渡すが、彼女は見当たらない。 「それじゃ、行こうか」 半信半疑ながらもナインはその方角へ足を進めた。 (お姉ちゃん、無事だったんだね!) くすっ、とマグロが笑う。かすかだが確かに聞こえた笛弾の音に彼女は笑みを濃くした。それを察知したレイドが不機嫌そうに鼻を鳴らす。 「ふぅん、どんなの仕掛けてたんだか」 「今に解るよ?」 そう、マグロが言いながら1つの岩場に隠れる。レイドとは岩1つ分離れている。ナインは砂地から勢いよく出、獅子のレギオンを引き連れてフカを追っているようだった。 (仕掛けに警戒して……) そう言いつつ別の岩に飛び乗ったとき、何かに引っ掛かった。 (しまったっ!?) 素早くもう1つ先の岩に飛び乗った時、後ろで爆発音。クレイモア地雷が炸裂した音だった。猫のレギオンが巻き込まれたらしい。額に浮んだ汗を拭っているとマグロが別の岩場へ向かうのが見えた。 (そう言う事? あの子が岩場を巡ってたのはこういう事?) 小さくくふふ、と笑うとレイドは猫の尻尾をぱたり、ぱたり。その双眸に揺らぐのはちょっとした悪戯心。 (だったら、こんなのはどうかな?) しかし、暑さが次第に体力を奪っていく。レイドは1つ息を吐きながら岩場の影に身を潜める。水が、とても欲しかった。 二組とも、長期戦を狙って策を練っていた。 二組とも、この戦いが長引くごとを願っていた。 しかし、彼ら4人平等に襲っていたのは……暑さだった。 転:明暗の分かれ目は『水』 (さっすがお姉ちゃん! 絶妙な場所に仕掛けてる) マグロは『安全な』岩に身を潜め、水分を補給する。ここはマーシュランド姉妹だけが知る『安全な』岩なのだ。 遠くで発砲音。おそらく、時限式音爆弾だろう、と思いながら彼女は岩場から出る。そしてトラベルギアを握り締めた。愛らしいイルカ娘にちょっと似合わない無骨なガン・ハープーン。今回はそれに激辛弾(お手製)が仕込まれている。 蛇足だが姉・フカが今回使っているのは気絶するほど痛い無殺傷弾(これもマグロお手製)である。 「弱ったところで仕掛けようかな?」 マグロはちらり、と岩陰から様子を伺う。レイドの表情が僅かに曇っており、そこから体力の消耗具合を計算する。 (けっこうきつそうだねぇ。そろそろ楽にしてあげようかな) 笑顔で何度も頷くマグロは、動き出したレイドの後を追った。 銃声を感じた場所に、フカは居なかった。後に残されたのは奇妙なワイヤーのみ。これに嫌な予感がしたナインは獅子のレギオンを解き放つ。その先から現れたのは、武器を構えたフカだった。 「見かけねぇと思ったら……」 フカは別の岩場にトラップを仕掛けている最中だった。しかし、気付かれた事でグレネードを発射する。 「逃げる気か!」 ナインはその煙をさけてフカに接敵する。それでもフカは振り切ろうとグレネードを放つが獅子のレギオンに邪魔される。 「アンタら、随分疲れてるみたいだけど?」 フカは彼らも水分を用意して来ている、と思っている。だから水分補給を邪魔しようと考えていた。しかし、今までの様子から彼らが水分を取っているようには思えない。とくにレイドの消耗が激しい気がした。 それにナインは答えない。彼は手持ちの武器を構え、フカの隙を狙っている。 (もしかして、水分を用意していない?) それが本当ならば、そろそろきつくなる頃合いだ。フカの眼が細くなる。彼女はこの間にもどう狩場を作るか、思考を巡らせた。 幾つかの岩にはトラップが仕込まれている。それが2種類ある、と踏んだレイドは辺りが見渡せそうな岩を選び、飛び移る。が、目測を誤ってトラップを踏み、思わず砂地に転がった。 (油断しちゃったなぁ。でも) それでもくすり、と笑う。マグロが近づくのを感じつつ岩陰に身を潜め、彼女が近づくのを待つ。ここには地雷があり、それをマグロは勘付いているかもしれない。けれど、レイドには秘策がある。 「あれぇ? 逃げちゃったかなぁ?」 無邪気なマグロの声。彼女はレイドをガン・ハープーンでトドメを刺そうと考えていたのだ。彼女は深みに注意しつつも砂地を歩く。そして、レイドが隠れている岩へと歩み寄った。ちろり、と淡いオレンジ色の尻尾が見える。 (尻尾が見えちゃってるよー♪ と・ど・め!) マグロはふふ、と笑って、狙いを定める。そして、引き金を……。 ――バンッ!!! 「うわああっ?!」 マグロは思わず武器を落とした。仕掛けられていた地雷が、誰も乗っていないのに爆発したのだ。そして、劇辛弾も暴発しマグロの愛らしい目から大粒の涙がぼろぼろ零れる。武器を落とした事で大きなダメージにはならなかった。しかし、それでも涙が零れてしまう。 「いっ、一旦退却しなくちゃ!」 マグロは大慌てで『安全な』岩場に身を隠し、眼を洗う。僅かに見えた尻尾と慌てように、レイドは僅かに笑った。 「へへん♪ どんなもんだ……い……」 レイドは得意げに鼻をこすって笑う。が、彼も限界が来ていた。水分補給を怠ったツケは大きい。彼はその場に崩れるように倒れてしまう。が、彼はその先に水を見つけた。どうやら、そこもマーシュランド姉妹の補給地らしい。 (あと少しだ) レイドはどうにか這いずってそこまで辿りつき、水をがぶ飲みする。が、体力は僅かにしか回復しなかった。 (しくじった、かな。でも……っ) 僅かに顔を上げる。と、ナインとフカが戦っていた。マグロもその方向へ行こうとしている。それを見たレイドは小さく微笑んだ。 「ほんのちょっぴりだけど、ご褒美あげちゃうよ」 結:意外な結末? (そろそろ、ヤバいかな) ナインはフカを追いかけつつ内心で呟いた。被弾のダメージや暑さによる体力消耗を『ナインライヴズ』でカバーしていたものの、その効果も切れた。フカは岩場に上手く隠れつつ、煙幕弾で隠れ、隙を見て攻撃する。 獅子のレギオンと共に猛攻をかける。避け損なった一撃が、フカの滑らかな肌に紅の線を生む。しかし、彼女も負けては居ない。巧みな足取りで避け、トラベルギアである携行式長距離重狙撃砲で殴っていた。 「アンタの相棒はへばってるみたいだけど?」 「ふん、アイツはどうにかするさ」 フカの一撃を避けつつ、ナインは吐き捨てるように言う。と、その背後から迫るものを感じた。 「!」 間一髪で避ける。それがマグロの放った激辛弾だった。僅かに掠めただけでも辛さが伝わり、隙が生じた。フカは別の岩場へと身を隠し、引き金を引く。 (くそっ! レイドは何処だ!?) 発射された弾を避けるも、獅子のレギオンが犠牲となる。マーシェランド姉妹に挟み撃ちにされたナインは一か八かの勝負に出た。 「そろそろ降参した方が、いいんじゃない?」 「それは、どうかな!」 ナインは思い切ってマグロへと発砲する。思わずガン・ハープーンで庇うマグロ。どうにか避けようとするも、2発喰らってしまった。途端に震えだすガン・ハープーン。 「あれ? あれれ? なんか言う事聞かなぁい!!」 同時に、ターン! と音が響く。ナインが発砲したと同時に、フカもまた彼へと発砲していた。その一撃が、肩へとヒットしていた。 「ぐぅっ……!」 当たれば気絶するほどの痛みを伴う無殺傷弾。しかし、ナインは根性で堪える。けれども水分不足による体力の消耗も加わって、がくり、と膝を突く。 「この勝負、貰ったわ」 フカはもう1度、狙いを定める。 レイドはにやり、と笑う。マグロの武器が喰らった弾丸は騒霊弾であり、彼女の武器のポルターガイストによりコントロールを奪っていた。その隙が、彼にとってはありがたいものだった。 (ナインを守る盾にもなるかな?) そう願い、彼は帽子のつばを上げる。レイドは最後の気力を振り絞って、首に下げている鈴『グローリーベル』に手を添え、ぽつり。 「汝、我と共に在れ」 同時に、チリン、と1度だけ鈴を鳴らした。そして、今度こそレイドは砂へと倒れ、意識を失った。 光の弾が、音もなくマグロに迫る。振り返った途端、彼女は光の弾の襲撃を受けていた。 「うわぁっ!?」 銃はコントロールが聞かず、光の弾の猛攻を受けるマグロ。暴走する武器を手放し、彼女はその場に倒れこむ。 そして、光はフカへも突撃していく。隙に乗じ、ナインは身近な岩場に身を隠し、そこにあった水を飲み干した。 「隠し玉ってこと?」 フカがナインを探していると、発砲音。自分が仕掛けた音爆弾だと知っている彼女は慌てず辺りを見渡す。わずか遠くでレイドが倒れているのを確認するとマグロの様子を見た。 「マグロ、大丈夫?」 「う、うん。でも……ガン・ハープーンが言う事聞かないんだよぉ」 光の弾の攻撃で、マグロ自身も大ダメージを受けている。その上ガン・ハープーンも操作不能である。マグロは岩に持たれ、そのまま気を失った。 (これで1対1……でも、まだ勝算はある) フカはマグロを日陰に横たえるとナインを探した。 ナインはボロボロの体を引き摺って岩場に隠れた。マグロはどうやら気絶したらしい。これで、残りは自分とフカだけとなった。 (あとは、『太陽の松明』が1発と、これだけか) 音叉の剣を見つつ、ナインは溜め息を吐く。周りはフカの仕掛けたトラップだらけ。考えている間にもバンッ、と砲撃音が響く。 (トラップか? それとも、フカの攻撃か?) 辺りを見渡す。けれども気配はない。フカは再びトラップを仕掛けに行ったのだろうか? ナインは耳をぴくり、と動かすと辺りの気配を探った。手に、音叉の剣を握って。 一方のフカは水を飲みながらナインを探した。マグロが倒れた今、作戦を多少変えねばならない。彼女もまた水分をこまめに補給しているとはいえレイドとナインの攻撃で体力を消耗している。 (そろそろ、決着をつけないと、いけないかしら?) 彼女は岩場を離れる。と、そこに剣を握ったナインがいた。フカは煙幕弾を放ち、一旦姿をくらます。その隙に無殺傷弾で決着をつけよう、と考えたのだ。 (勝つのは、私達なんだから!) (厄介だな、煙幕ってのは) ナインが鼻を鳴らしながら、岩場に移る。が、またワイヤートラップがあった。慎重にそれを避け、砂地へと降りる。……と、妙に深かった。再び、深みに嵌ってしまった、らしい。 (くそっ、こんな時に……) ナインはしかたなく、『太陽の松明』を使う事にした。自分の進行方向とは真逆に向けて発砲。そして……ビームが、駆け抜けるナインが、煙を切り裂いた。 (今よっ!) フカはチャンスを逃さず、無殺傷弾を放つ。そしてそれは、確かに、ナインの体を捕らえていた……が。 「えっ?!」 「どどどどどけぇええ?!」 『太陽の松明』の威力が大きすぎたのか、ナインの足は止まらない。フカは逃げようとしたものの、運悪く砂に足を取られてしまう。そして……。 「ちょっ、待った!」 「俺が待っただっ?!」 ドン、と鈍い音を立てて、両者はぶつかり、砂地に転がった。強烈にぶつかった為に全身に痛みが生じる。ナインは水分不足による体力消耗で、フカは打ち所が悪かったせいか、同時に意識を失った。 「そこまで。両チーム相打ちにより、この勝負、引き分けだ」 リュカオスの言葉が、砂満ちるコロッセオに響く。しかし、誰1人として反応するものは居なかった。 「……まさか、こんな結果になるとは」 彼はすぐさま手の空いたものたちを呼ぶと、4人を運び介抱することにした。 (終)
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