壺中天のゲームの一つに、壮大な宇宙コロニーの戦争を描いたものがある。 プレイヤーはそれぞれ自分でカスタマイズした巨大ロボットを操作し、敵と戦うというゲームで一部の巨大ロボット好きなマニアに大人気なのだが……「悪霊がついちゃったのヨ」 狭い探偵事務所でメイが告げる。「モゥはその調査中に、外を歩いていたらマタタビ売りがいてね、にゃあああと叫んで突撃しようと飛び出して車に撥ねられて死んじゃったのヨ、まったく運ないヨ」 なぜ、にゃあ? 不思議に思いながらその悪霊のせいで狂ったゲームはもとからかなり変化していた。 猫になるのだ。 プレイヤーはその世界で完全な猫になってしまうのだ。擬人化ではなく、普通の猫。しかも猫語しかしゃべれない。 さらにその姿で巨大ロボットに乗り込み、肉球で操作をするという――肉球、届くのか? たぶん、届くヨ! 長期その世界にいると思考も猫化してしまう。 マタタビを愛し、猫じゃらしにとびかかってしまう……おそろしいことだ。 ちなみに悪霊がついたのはゲーム上の敵である『わんだふる』大佐。 巨大ロボット宇宙戦争はいつの間にか猫と犬の宇宙戦争にいつの間になっていた。 わんだふる大佐は土佐犬である。いかした白ボディの巨大わんこロボットを操って猫たちを吠えて威嚇し、噛みついてなぎ倒す最強ラスボスである。猫プレイヤーたちに勝てる見込みはほぼ皆無である。 そもそも猫に群れるとか、犬と戦うとかほぼ不可能だ……このゲームにはいると、思考もほぼ猫化するので気が付けばまったり猫ライフを味わってしまい、現実に帰れなくなっている人間も多くいるという……「そんなわけでよろしくネ! それよりお昼食べたか? おごってもヨ!」 メイが猫のように微笑んだ。
「猫、猫、ネコなのだー!」 みかんどらごんのガン・ミーは柑橘系の甘酸っぱい香りを全身から放出しながら喜びを表すため、まるでみかんの皮がひらひらと風に揺れているかのように身をくねらせた。 「ふふ、楽しみですね!」 吉備サクラも嬉しげに顔を綻ばせる。各世界の旅を経て、いぬねこもふもふブラッシングに目覚めてしまった彼女も自分がもふもふになれる魅力にわくわくしていた。 「君たちはまだまだだな。僕はもともと猫だからね。この依頼にぴったりなのさ!」 赤い羽付き帽子に魔法使いみたいな衣装のレイド・グローリーベル・エルスノールは余裕たっぷりに微笑んだ。 彼の姿は成人した猫が二本足で立っているような姿――それはさながら 「長靴を履いた猫なのだー! もふるのだー!」 「はい。童話の猫さんみたいです! ガン隊長! 依頼前の腹ごなし、いえ、もふりごなしです!」 猫大好きなガン・ミーとサクラは喜んでレイドに突撃した。 「え、ちょ、わぁ!」 もふもふするのは好きだけど、される側にまわることはあんまりないレイドは力いっぱいにガンとサクラにもふられ、ブラッシングされる羽目に陥った。 依頼前の腹ごなしならぬもふりごなしが終わると三人はさっそくゲーム世界にダイブ。 もふるため、いや、困っている人々を助けるために。決して猫になりたいとか、猫になって楽しむとか、もふるとか、にゃにゃあにゃあするとかの私欲のためでなくてええいもういいから――にゃぁああああいぶせううううううううううう! サクラはぱちっと目を開けた。ぱちぱち。視線の低さに不思議そうに首を傾げる。 「にゃあ?」 口から漏れた鳴き声にサクラは感動に尻尾をぴーん! とたてる。わかります、わかります! 精神のこー、端の端っこまで行き届いている感覚! ぱっちりとした目を動かせばなんと自分のお尻には尻尾がある。ふりふりふり。ちゃんと振れたのににゃああんとサクラは満足の声をあげる。 サクラがなったのは顔の中心部分が黒くそこから全体の毛は灰色、耳と足だけ黒色。目は神秘的なブルーの短毛のトイボブだ。それも大きさは子猫。 「にゃあ」 にぎにぎ。 毛につつまれた足。片方を持ち上げると、ピンクのぷにぷにの肉球が見えるとぴーんとまた尻尾が嬉しくて伸びる。 「にゃあにゃあにゃあ!」 サクラは歓び盛んに振り返ると地面につくほどの長毛はオレンジ色、耳だけ緑色で、まるででっかいみかんそのもののような猫がいた。猫はにゃあにゃあにゃああんと喜んでいたが、いきなりがくんと倒れた。特徴的なカギ尻尾の先っぽがぷるぷるとかわいそうなくらい小刻みに震えている。 「にゃあ?」 サクラは怪訝な顔をして近づいて、すぐににゃあああ! 叫んで地面に倒れた。 こ、これは! なんとみかんの匂い! 猫族が最も苦手とする柑橘系! 甘酸っぱい、ああ、すっぱい、すっぱすぎるぅううう! 二匹の猫たちは身悶えた。 そうである。 この猫はガン・ミーである。 猫になって大興奮したのはいいのだが、元がみかんであるガン・ミーは喜んでつい柑橘の香りを放出して自滅したわけである。 猫にみかんなんてありえない。倒れるしかないだろう。 壮大な自爆にサクラもうっかり巻き込まれたが湿った鼻に肉球をおしあててよろよろと立ち上がる。 「にゃあー? にゃにゃーん」 気取った甘く甲高い声が二匹の愚猫どもを嘲笑う。 サクラとガンはうるうると涙目でそちらを見た。 そこには なんとか スフィンクス(ゲームプログラムがモザイク発動して全身をおおわれている) 説明するにゃあ! スフィンクスっていうのね、全身の毛がないって一般には言われている、けど実はうすーく短毛のあるにゃんこなの。ちゃんとまだらの柄とかあるんだよ。けど、ほとんど皮膚が見えちゃってるから皺がすごくよく見えちゃう。寒さに弱くて、暑さにも弱いの。セクシーダイナマイトな猫だね! 性格は社交的、大らかで陽気なんだよ! サクラはぽかーんとかたまっていたが、我に返ると柑橘の匂いもものともせず、にゃああああああん! と叫んで肉球ぷにぷにあたっくをする。スフィンクスとなった――レイドは抵抗する間もなく殴り倒された。ぐはにゃあ。すぐに起き上がると、にゃあ! ふしゃあああ! と叫ぶが、ぷにぷにぷにぷにぷにぷに! サクラの連続肉球拳が容赦なく炸裂した。おまえはすでにもふられている! 「にゃあにゃあああん!」 「ふしゃあ! にゃあ? にゃにゃにゃん!」 「にゃあん! にゃにゃああん!」 「にゃあ、にゃうううん、にゃううん」 「にゃあん!」 二人、いや二匹の激しい言い争いの間にガンはようやく復活して、ふぅーとため息をつくと顔を真っ赤にしているサクラの首根っこをぽすっとくわえた。 ふにゃあああん。 サクラは力なく鳴く。猫にとって首根っこは抵抗のしようがない弱点。子猫ともなればなおのこと。 「にゃあー、にゃん? にゃうにゃう。なうー。にゃー」 「みぃ、にゃあ」 「うにゃあ? うにゃあうにゃあ、なうなう」 「にゃあ、ううん、にゃあ」 「ふにゃあ! にゃにゃにゃー……にゃう!」 レイドが答えるのにガンはぽむっとサクラを口から下ろした。サクラはしゅんとした顔でレイドを見る。レイドは鼻先を伸ばして、互いにつんつんして仲直り――が、ぷにゅ。サクラの肉球あたっくふたたび。にちょ、にちょ、にちょょょううう! おまはすでにもふられて 「にゃあ! にゃめ!」 ガンが止めようとするとサクラは俊敏に飛んだ。 にゃとーう! にゃにゃにゃちょにちょう! 秘儀・肉球拳! もふもふもふもふもふふもふもふもふもふもふもふ。もふもふもふもふもふふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。 サクラの渾身のアタックと肉球、さらに全身を使ったもふり。 「にゃうー!」 レイドも尻尾をふさふさと動かして、とうっと飛んでじゃれるのにくわわった。 それにガンは嬉しいやら楽しいやら、興奮してきてとうとう ふわああああああああああああああああああ(猫殺人的柑橘香りが放出) 三匹はしばらく地面に倒れて動かなくなった。 このゲーム世界は一応、宇宙を舞台にしている。三人がいるのは宇宙に存在するスペースコロニー。 元は人間のキャラクターがプレイしていたので、コロニーは超高度機械システムが存在し、それぞれのプレイヤーに与えられた生活空間のスペース、そこから一歩出た大通りにはゲームアイテム販売店、娯楽コーナーも軒を連ねている。 一応、重力システムとかの都合のいい設定で生活空間であるコロニー内は徒歩、エスカレーター、エレベーターで移動可能。 最強蜜柑攻撃から回復し、三人がスペースから出てみると右手には壮大な宇宙空間――たぶん、ゲーム製作者はこの点には全力を注いだのだろう暗黒に豊かな星の煌めきが見える女性であればうっとりと、男性であればロマンを感じさせる。 猫といえば 「にゃあああん」 硝子に突撃して張り付いていた。 「にゃにゃあああん」 「うにゃああああん」 瞬く星が猫心をいたくくすぐるんだもの。 三人も例外ではない、無視しようと顔を俯けていたがレイドは周囲からのにゃあああん、にゃあああんと甲高い声にとうとう足を止めて、そちらへと目を向けてしまった。 そして見た、きらきらの星。 ひら、ひらと動く星。 「にゃううううう」 レイドは小さく唸り声をあげて、尻尾をひらひらさせる。目だけが星を見てきょろきょろと動く。 と 「ふにゃあああん!」 レイドは高く飛んだ。 そして ばいいいん! 思いっきり窓硝子に衝突し、ずる、ずるるっと地面に倒れた。 「にゃあ!」 「うにゃあ!」 サクラとガンは思わずレイドを心配して顔をあげた。そして見てしまった、硝子を……そのあと残り二匹の哀れな衝突音が響いた。 たっぷり十分ほど窓に張り付いて星と戯れて疲れたガンは大きく伸びをして、くわわぁと欠伸を漏らすと道の端っこによさそうな場所を見つけて、くるんっと体を丸める。もともとみかんどらごんは大変柔らかく、猫の体の柔らかさとも微妙にマッチしていた。 おちつくのだー。 まるで大きなみかんのごとくまるまってガンはすやすや眠りにつこうとした。 レイドは星で遊んだあとは、お助けアイテム屋の近くにある食事コーナーにとてとてと歩き出していた。 空腹システムも採用され、ゲーム内でもしっかりとおなかがすくようにプログラムされている。それを満たすための食事システム――まぁ、ただ食べたと脳が錯覚するだけなのだが存在する。 ・にゃんこまっしぐらキャット★フード! ・ささみジャーキー★ ・とろとろのお肉とお魚のコラボ缶 ・家のお風呂の水! ・素敵なまたたび祭り またたび……またたび……レイドは元は猫である。ゆえにまたたびがいかに素敵なものなのかよくわかっている。 ほどよく遊んでおなかもすいた。 「にゃう~」 ふらふらとレイドは肉球で販売メニューのカーソルを操作してまたたびを選択し、ぽちっとボタンを押す。 二匹が完全に猫になりきって楽しんでいるのに一人、サクラにゃんこだけは果敢に誘惑を振り払って戦っていた。 「ふにゃああああ!」 毛を逆立てて、小さな白い爪をむき出してサクラは仲間たちに訴える。 自分たちがこのゲームにはいったのは、猫になりきって楽しい生活を送るのではない。わんだふる大佐を倒すためだ。 サクラは心を鬼にしてガンの顔に肉球パンチする。先ほど本能で会得した必殺肉球乱れ打ち。うにょうにょうにょ! 「みにゃあ!」 「ふにゃあ! にゃにゃにゃーん! にゃさーん!」 「うにゃあ?」 レイドが嬉しげに購入したまたたびをくわえているのにサクラは猪のように突撃した。レイドはサクラのわんだふる大佐を倒そうとする殺気、いや、やる気を感じ取って慌てて逃げる。またたびくわえたレイドとサクラの戦いである。 たたき起こされたが放置されたガンはふたたびくわぅと欠伸をすると、ちらりと顔をあげて目を輝かせた。 敵と戦うためのアイテムも当然のように売っているのだが、そのなかに『みかん』があったのだ。 みかんなのだー? みかん、みかんなのだー! ガンはふりふりと腰をふっと喜ぶ。 みかんどらごんとしてゲーム世界のみかんも見てみたい。ものすごく見てみたい。が、しかし。 「にゃあ」 攻撃アイテムなのだー。 そりゃそうだ。犬も猫も柑橘系の匂いにやられちゃうのだから……つまりアイテムを購入するのはなんら問題ない。自分の目の前に取り出したら最後、壮大なる自爆が待っている。 ガンはアイテム屋の前で腰を下ろすと、尻尾をふわ、ふわと振る。 みかんをみたい。そしたら死ぬ。 みかんを愛するか、死ぬか、それが問題なのだにゃー! 「みゃんぱーにゃん!」 ぷにゅん。 サクラがガンのふわふわのカギ尻尾を叩く。 「にゃ?」 ガンは不思議そうに振り返った。 「にゃあ!」 サクラのつぶらな瞳がガンに訴える。その後ろではまたたびを奪われたレイドがじとーと睨んでいるが無視だ。 「にゃああん!」 サクラは声をあげる。 気合いとガッツとタイミングが見事合わさった技――二本足で立つということをサクラはやってのたけると前足を片方ふりかざして熱く鳴く 「ふにゃにしやああん!」 「にゃあ?」 「ふにゃあ」 ガンとレイドたちが首を傾げて聞くサクラの熱弁の内容――わんだふる大佐を倒すためにも、大好きなまたたびはだめです。さぁ、はやくロボットのところに行きましょう、というようなことを鳴いて訴えているのだ。が、本来猫は気ままで好きなときにすりよって、すきなときにふらーと一人で遊び、日向ぼっこをする生き物であるわけで……そんな熱血はめんどくさい。ものすごくめんどくさい。そもそも犬なんかと戦うなんて猫の本能的に絶対ありえない。そんなことぐらいなら地面に転がって砂まみれになりたい欲望に生きる猫人生。 アンニュイな猫人生を満喫そうなレイドとガンを猫のくせしてなぜか性格が熱血わんこのようなサクラがぱしゅ、ぱしゅ、猫パンチを連発してロボットまで進めていく。二本足で猫パンチ……完璧犬だ、サクラ。 ようやく三人はロボットのところにきた。 自分と同じ色、同じ姿の大きな猫のロボット。サクラはにゃああんと嬉しげに尻尾をたててぴょーんぴょーんと興奮しすぎて全身の毛が逆立って飛び跳ねる。 ガンとレイドはほにゃーと見上げる。 「にゃーん!」 突撃―と、サクラは鳴いた。 サクラはコピックに一番はじめに乗り込んだ。これこそ、自分の大好きな竜星のもふもふさんたち……彼らもこんな気持ちなのだろうか。みっちりと毛まではさまる狭さにサクラはうっとりと幸せを味わう。猫って狭いところ好きだしね。 「にゃう~、にゃーし」 サクラはいそいそとロボットを操ろうとした。 が 「にゃ?」 あれ? 「にゃにゃ?」 あれ、あれれ? すか、すかすかすか――後ろ足が届かない! 「うにゃああああああん!」 ロボットは成猫してからね★ 「にゃーあああああーっ!!」 レイドは勢いよく宇宙に飛び出した。レイドがモザイクのお色気満載のスフィンクスであるので、当然ロボットも全身モザイクである。 モザイクが美しい星々のなかを駆け回る。 「ふにゃーん!」 レイドが鳴く。 その後ろをとてとてとてとガンも追いかける。 「にゃああ! にゃあああああああん! なう!」 わんだふる大佐を倒さなくてはまたたびも、みかんもないのだからやる気である。 わううううううううううううううんんんんんんんんん! 太い声をあげて、二匹の前に走り出たのは濃茶色のわんだふる大佐のロボット。土佐犬らしく厳めしい目と顔。口には牙まで搭載されている。 「シャー! フシャー! ギャーフシャラバキャニャニャニャ!」 「ふぅぅー、ぐるるるるる、ふしゃあ!」 ガンとレイドは毛を逆立て、目をカッ! と開いて叫ぶ。 本能が告げる。 こいつは、本気でやばいにゃあ! 食べられちゃうよ、ぱふりって! いやーぁああああ! なんで敵が土佐犬なの! がるるっと大佐が唸る。 二匹は必死に毛を逆立て、尻尾を伸ばして出来るだけ自分を大きくしようと努力する。 動物世界の喧嘩で大切なのはいかに大きくふるまうかだ。とくに猫の場合は顔の大きな猫が勝つのである。 二匹はちらりと互いを見て頷きあった。 ぱしぃ! 合体にゃあ! ガンを下にレイドが上にのって、二匹はぷしゃあああと叫――どすっ! わんだふる大佐の無敵の左前足が落ちる。うん、ただたんに踏まれただけであるがレイドは吹っ飛ばされ、散る。 「にゃああん~」 全身モザイクがロマンある宇宙にふわふわふわ。 「にゃにゃーん!」 ガンはレイドに向かって叫ぶと、キッと振り返る。レイドの仇を討とうとした矢先、ぺしぃとはたき倒される。 「あ、にゃーん」 ガンは元がみかんのため怪我をするたびに大好きなみかんの汁が飛び散ってコピックのなかで大爆発をして――なんとおそろしいわんだふる大佐の攻撃! 遠くに吹っ飛ばされるカンの毛はあまりのことに真っ白よ! ほらいったじゃない、あんたみかんなんだから無理しちゃだめって! 「わん」 ふぅとわんだふる大佐は先ほどの残虐な戦いに小さなため息をついた。また、愚かな戦いをしてしまった。 そうしみじみと犬らしいため息をつくわんだふる大佐に突撃する小さな光があった。 「ふにゃあああああああああああああああああああああああああああああああん!」 サクラだ。 操作レバーが届かないのは体を思いっきり伸ばしてぎりぎり克服した――根性だ、根性! 猫の体はオソロシイくらい柔らかいんだぞ! 肉球を前に! そのままとつげきー! のサクラである。 わんだふる大佐にぽにゅん! ヒットしたが、肉球はあまりにも柔らかかった。むしろ、ぷりっぷりん。 ぱくとわんだふる大佐はサクラの首根っこを噛むとぽーい! 投げた。 「あにゃあああああん」 三人、いや、三匹は宇宙の屑猫、いや、星猫になった……と、一番はじめに吹っ飛ばされたレイドはすぐに意識を回復させるとガンを揺さぶって小さな隕石の後ろに、さらに吹っ飛ばされたサクラを回収して身を隠した。 三匹は顔を合わせた。 「にゃあ」 「うにゃうにゃ」 「にゃあ!」 三匹は顔を見合わせて頷く。 「「「うにゃーん!」」」 またたびのためにー! といったかはわからないが、こてんぱんにやられて三匹の闘志に火がめらめ燃え上がったのは確かだ。 「ふにゃああああああああああああああ!」 わんだふる大佐が振り返ると、レイドがお尻を向けて尻尾をふりふり、まるで小馬鹿にしたようににゃにゃーんと啼くと俊敏に移動する。わんだふる大佐が駆けだしたとき、ふみぃと何かを踏んだ。見ると、それはガンだった。 ガンの捨て身の攻撃。――ロボットはガンの分身、蜜柑汁だって出るし匂いだってするのさ! ぷしゅうううううう(踏まれて皮から出るみかん汁と柑橘の香り――大丈夫、中身は出てない) 「!」 わんだふる大佐がよろけるのにサクラは声をあげた。 「ふにゃあああん!」 しゅば! 三匹はわんだふる大佐を囲んでくるくるくると駆ける、駆ける、駆ける。このままバダーにしてやろうというくせいのスピードで! バターになることはないが猫よりもずっとバランス感覚がないわんだふる大佐が眩暈を起こした瞬間を狙って三匹は足を止めると、飛びかかる。 「ふにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 一斉攻撃。 ちなみに三匹はさんざんガンの蜜柑の香りを味わっているので柑橘系の香りに耐久性――鼻が完全に麻痺していたのだ! ふにゃにゃにゃしにゃーん! みたかーにゃーん! 倒れたわんだふる大佐に三匹は顔を合わせると、すっと前足を出して肉球をぽてぽてぽてとあわせて 「「「にゃーん!」」」 勝利の声をあげた。 そのあと好きなだけまたたびでお祝い、と思ったがこのゲームを狂わせていた悪霊であるわんだふる大佐を倒したため、スペースコロニーに戻る本来の状態……人の姿に戻ってしまっていた。 まさに泡沫の夢。 三人はすぐに現実にもどってきた。 サクラはしみじみと呟く。 「……厳しい戦いでした。気を抜くとうっかりまったりしそうになるんです。一番の敵は己なんですよ!? 他の方の肉球プニプニ感は素晴らしかったですし、これがアヴァターラに搭乗した気分かなって感動もしましたけど、やっぱり私、普段の人間で良いです。犬猫さまを抱っこして心行くまでブラッシング出来ますから。私、自分の煩悩を満たすべく、今から竜星に行ってきます!」 「サクラは犬みたいだったのだー」 「一番元気だったよね」 二人のつっこみをサクラは無視して意気揚々と駅に進むが 「「「あ」」」 屋台通りに連なった屋台のひとつにつるされたまたたびに三人の目の色が変わった。 「にゃーん!」 「ふにゃああああん」 「にゃにゃにゃーん!」 三人は、否、三匹は声をあげて飛びついた。
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