りーさん、りーさん、あなたはどこですかー 不思議な歌を唄いながら、大人が両手を広げたくらいの巨大な神樹を奉った村へとやってきたのは小さなきぃちゃん、その右手には一見可愛らしいがなぜかリアル内臓もろ見えもぐろぬいぐるみのグロ太郎、左手にはきぃちゃんの腰くらいの大きさのあるたけのこ型戦闘ロボット、たけたん。そのたけたんの手をとっているのは髪の毛を二つに結んだ小野田雛。 一匹と、一体と、一たけのこ、一人はとある目的のために、切り立った崖を背にした村へとやってきた。「あれー、あれがいいの。あれ!」 きぃちゃんがきらきらと目を輝かせて神樹を指差す。「あれを、りーさんにして、飾るの!」「うん。おっきくて素敵!」 雛も目をきらきらさせる。「男のろまんぐろ」「そうたけ、そうたけ。けど、一番上は輝く石をつけるたけ……あ、あそこにいいのがあるたけ」 たけたんが指差したのは神樹の奥、切り立った崖――おおよそ地上から五百メートル付近に差し込まれた星型の輝く石――竜刻。「きれい」「本当……」「あれこそ、りーさんを輝かせるぐろっ」「たけたけ!」 その竜刻はこの村に豊かさを与えとされて大切に奉られているのだ。そして、神樹もまた村の守り手として大切にされているもので、この二つを奪われると村は大変だったりするのだが、そんなことを知らない四名は自分たちの考えのすばらしさに目をきらきらさせた。「世界図書側にいた人たちがいっていた、くりすさんの素敵なりーさんもあれで作れるよね! きぃね、素敵なりーさんを作って、むかっ、むかっでさまにプレゼントするの! それでむか、むかっでさまに喜んでもらうの!」「きぃちゃん……蟲好きの百足さん、りーさんに喜ぶかなぁ……?」「あいつは台所にいる黒い蟲でも箱に大量に詰め込んであげたらいいぐろよ」「むしろ、りーさんを蟲の餌にしそうたけ」「それで、きぃのこと、最高の蟲さんって褒めてくれるの! きゃー!」「きぃちゃん、男の趣味悪い」「あいつのことだから、蟲じゃないって舌打ちするぐろ」「むしろ、あいつ、冬だから冬眠するたけ。というか、永眠すればいいたけ」 夢を語るきぃに冷静かつ容赦ないつっこみをいれる雛、ぐろ太郎、たけたん。「み、みんな、ひどい! 運動会、楽しかったから、またみんなで楽しめるいべんと! くりすさんをするの。……立派なりーさんと、飾りさんもあったから、あれを持って帰らないと!」「私に任せて! ゴー君!」 雛の肩にいた芋虫型のワームがむくむくと大きくなる。「ゴー君に、樹を倒してもらって、運ぼう!」「星は任せるたけ! たけぇぇぇぇ!」 たけたんが声とともに体の皮をぺろんと広げて、ぐるんぐるんと動かして浮遊する。飛んだたけのこ!「よーし、ここにいる人たち、みぃんな、きぃが眠らせるんだ!」「協力するぐろ! ぐろ拳を受けるぐろっ!」 ――はぁ、はぁ、はぁ と、やる気満々の四名を見つめるのは村人のむらっとした目。 あ、あれ? 四人はぎょっとした、なんかみんな鼻息荒く、こっちを睨んでいる! それも「なんか、大きい?」「たけ?」「か、かわいい」「かわいい、むしろ、かわいい! つれかえりてぇ」「ちっちゃいわ、みぃん、かわいいわ、ああん、ちゅちゅしたい~」 ふと、四名が村の入り口にある立て札に目を向けた。注意書き――「巨人族の村、小さなきものを愛する傾向にあり。ゆえに、身長百九十未満は訪れるな。入ると抱擁、口づけが押し寄せてくる。まぁ可愛いものを愛するだけなのでさしたる被害はない、ただうっとおしいだけである」「え」 ――はぁはぁ ――可愛いな、本当にもう「あ、あわわわ」 こ、こわい、この村! そこに通りかかったのは仕事を終えたあなたたちロストナンバー。なんか悲鳴とかが聞こえたなーと思って見てみたら「うわぁ、どうしよう」
「あー、やっぱり最後の魔法じゃあ、滾る萌えは消えないよね」 ふぅとこれみよがしにため息をついたのはリーリス・キャロン。 そんな彼女をぎゅうううと腕のなかに抱きしめてすりすりすりするのは小さないものが大好きな巨人。 「かわいい、かわいい、かわいい~」 別に魅了を使っているわけじゃないんだけど、ものすごーくメロメロなのよねぇ。 「どうしようかしら、これ」 などと呑気に呟きながらリーリスが見つめる前方では命と存在と萌えと魂を賭けた戦いが繰り広げられていた。 「見て御覧なさい。この私の鎧を……トゲトゲして禍々しいでしょう? もし私を抱擁するのであれば貴方も無事では済まないわよ。それでも私をその腕に抱く勇気があるかしら……くっくっくっ」 無数の棘がついた暗黒の鎧を身に纏った最後の魔女がトラベルギアの巨大な鍵を構えて嘲笑うが、その足はじり、じりりっと後ろへと下がっていた。それに合わせてむきむき筋肉の巨人もまたじり、じりりっと前へと迫る。 「とげとげに、気高さ……イイっ! 俺のドツボだぁああ!」 「な、んだと……」 どうみても抱擁するには躊躇う姿だというのに、筋肉まっちょ巨人は両腕を限界まで開くと、すきだぁあああ! 結婚してくれ! 雄たけび声をあげて、赤い色を見た闘牛よろしく突進した。 自分はきっと萌えられないわ。そうよ、最後の魔女だもの……後ろ向きすぎて逆に清々しいネガティブな思考でそう思っていたため、予想外のことに逃げ遅れて、思いっきりハグ、つまりは力いっぱい抱擁されてしまった。 しかし、いくら萌えが高ぶろうともそれで炎が起こせるわけでなければ、最後の魔女を明るいおませさんな性格に変えることができないように、鎧の棘は折れることなく、ぶすぶずぶすっと巨人の肌に思いっきり突き刺さっている。 「はぁはぁ、痛い。だが、ああ、これがいい」 「っ! い、いやぁああああ! 私はどうせ最後の魔女よ、だからこんな変態がくるのよ!」 乙女として危機感を覚えて思わず鍵で巨人の脳天をぐさっと突き刺す。 血がぷしゅーと気持ちよく吹きだし、きらきらと小さな虹が誕生。まぁ、キレイ。――巨人は倒れない。むしろ、萌えすぎて痛みも感じていないようだ。 「おお、攻撃的なの、かわいい」 「ふ、ふふふふははははは!」 ちょっと恐怖に最後の魔女の心が危険な方向に行きそうだ。戻っておいで。 「あー、そうなるかー」 その様子にリーリスはため息をついた。そして、ちらりと横を見た。そこではじたばたと暴れる小さな四つの影。 「はなせー! きぃをぎゅうしていいのは、むかでさまだけなのぉ! うー、唄が使えないっ!」 「ぐろ、ぐろろっ、グロ拳も使えないグロ」 「あう、ワームちゃんも、使えないの」 「爆発もできないたけ。なんでたけ!」 きぃちゃん、グロ太郎、雛ちゃん、たけたんは見事に捕まっていた。抵抗しようとしたら、なぜか力が使えない事態に混乱に陥っていた。 「あー、やっぱりかー」 リーリスは無遠慮にすりすりされつつため息をつく。 「この場で、唯一の救いといったら」 「ちゅちゅちゅー! いゃあああ、こないでー! 掴むな!」 ぷりぷりと怒りながら素早く巨人の股をくぐり、チョロチョロと逃げまわるパティ・ポップ。 たたっと小走りに駆けまわっていたが、ついに壁まで追い込められてしまった。 「さぁ、もう逃がさないぞ~」 むっとした顔でパティは振り返ると、ガターを取り出してひゅんひゅん! 素早く投げて巨人の靴紐を地面に突き刺し、足止めをするとまたたたっと駆けまわる。 小さな彼女にしてみれば巨人の動きは愚鈍といってもいい。しかし、やたらと数が多い。 「ちっちゃくてちょろちょろしてかわいい~」 「本当! ぜひ、すりすりしたい」 パティは自分で気がつかないうちに巨人たちは魅了してしまっていたのだ! 「う、うう……ちゅ、ちゅ、ちゅー!」 鼠の声を真似て叫ぶ。 これで周囲にいる鼠たちはいつもならばパティの味方をして、集まってくれるはずなのだが…… しーん。 「え?」 まったく反応がない。 「そんな、どうして? ちゅ、」 慌ててもう一度、呼び寄せようとしたとき、 「えい、捕まえた―」 無邪気な声とともに巨人族の手にしっかりと掴まれてしまった。 「きゃあ! うわー! やめてー! こ、こうなったら……スリープ!」 持ち上げられてじたばたと手足をばたつかせるがまったく効果がない。巨人族の顔の前まで持ち上げられるとチャンスばかりにパティは魔法を使った。いくら巨人だって、生きているなら眠るくらい――と期待したのだが 「あーん、かわいい。なに、この子! ちゅちゅいったり、かわいー! 鼠ちゃんみたい」 思いっきりすりすりすりすり。 「きゃあああああああ!」 今まで、じらされて高まった萌えに高速すりすりすり攻撃をくらうことになった。 「あー……」 リーリスはまたしてめため息。 「やっぱりねぇ。誰のせいって、うん」 ちらっとリーリスは血まみれになりながら抱擁されて、どこか意識が遠く――危険ゾーンにいきかけている最後の魔女を見た。 「はぁ、原因が意識飛ばしてちゃだめでしょ」 そう、この場に最後の魔女がいたのが運のツキ。 なぜならば彼女は最後の魔女。 この世のありとあらゆる魔法、超能力、体質、その他明日晴れになるでしょうという天気予報や恋が成就するおまじないだって彼女が否定した瞬間、すべては無力化されてしまうのだ。 鼠使いのパティ・ポップ! 可愛いけど裏がありそうなリーリス・キャロン! ネガティブな最後の魔女! ――の三人娘は森の奥深くに素敵な花畑があるから、そこの調査とともに息抜きしておいで、との依頼をこなしてほっと一息ついて駅へと戻っていた。 「あれはなにかしら? というか、誰かが嫌がって……あれ? どっかでみたような?」 と、パティがはじめに気がついて、騒がしい村へと近づいた。 「あれって、旅団!」 「旅団ですって? ……ふ、ふふ、ここは私が……地獄へと叩き落としてあげる」 最後の魔女はいつものように力を発揮して、恐怖のどん底へと叩きつけてやろうと思ったのだが――逆に自分が絶望のどん底へと叩きつけられてしまったワケだ。因果応報か? 「あー」 リーリスはため息をついた。 「しょうがないなぁ……もう」 くす。リーリスの赤い瞳が不吉な輝きを放った。 「ね、お姉さん。あなたの最後の力は、なにも消せないのね」 巨人の抱擁地獄を味わいながらリーリスはにこにこと、血まみれ抱擁地獄のなかにいる最後の魔女に語りかけた。 わざとオニキスの指輪に目を向けながら。 「この支配の魔法も解けないの。お姉さんも私も不完全なのよ」 「不完全、不完全ですって……私は」 最後の魔女の顔が強張る。彼女は己の不安定な存在に常に怯え、存在理由を欲していた。 この事態――萌えが消えないのは決して最後の魔女のせいではないのだが――リーリスにそんな言いかたをされ、混乱した頭では冷静な判断などできるはずがない。 「そう、私たちは私たちを縛るものから逃げられないの。ねぇ、お姉さん、協力しない? お姉さんが本物になるため、私が本物になるために」 とろとろに溶かしたチョコレートのように甘い微笑みと誘惑に最後の魔女はごくりと息を飲む。 「どうすればいいの?」 「まずはここを逃げましょ?」 「……私が本物になる。……拒む理由はないわ。ただ、これだけは覚えておいて。もし貴女のいまの言葉が嘘偽りであった場合は、貴女の名が最後を冠することになるわよ」 「わかったわ」 すっと最後の魔女は目を伏せた。 「私は貴女の特殊能力を魔法とは認めない。……これで良いはずよ」 リーリスはにこりと微笑むと、赤い目を輝かせて巨人を睨みつけた。 「かわいい、かわいい、あ、あれ」 今まで愛を暴走させていた巨人の動きが止まり、リーリスを離した。 「うふっ。ありがとう。お姉さん」 ダンスを踊るようにリーリスは宙へと飛び、可愛らしく小首を傾げた。 「あー、ずるいー」 「ぐろー、なんでだぐろー」 「とんでる、なんでー」 「たけ、たけたけ!」 旅団からのブーイングの嵐にリーリスはえへっと舌を出して微笑む。 「大丈夫、すぐに助けてあげるから」 「……待って、私は」 リーリスはにこりと微笑んだ。 「お姉さんは最後の魔女なんだから、自力でなんとかなるよね?」 「!?」 いきなり見捨てられた! あまりのことに放心する最後の魔女の顔は、雨のなかにいる子犬よりも情けなかった。 「あーん、やだやだ、そんな顔しないで、ちょっとしたジョークよ? けど、旅団さんたちを先に助けないとね。こっちよー」 リーリスは旅団たちを抱きしめる巨人を魅了したあと、旅団の四人を宙へと浮かすとふわふわ~とその場から逃げていく。 もちろん、最後の魔女とパティは置き去りにして。 「捨てられた……いいえ、これも試練、試練なのよ。ふ、ふふふ」 「ずるいわー! ちょっと、私も、私の力も返して!」 もぎゅもぎゅと抱きしめられている二人。そろそろ最後の魔女の精神が本気で危険よ! 家の屋根へとリーリスは四人の旅団を連れてやってきた。 「うふっ。大丈夫だった?」 「うー」 きぃが警戒して唸るのにリーリスはやーんと可愛らしく笑う。 「そんな警戒しないで! この前の運動会ではあんまり話せなくて残念だったのよ! 私はリーリスっていうの、よろしくね?」 ここで魅了するのは簡単だ。しかし、長時間離れてしまえば術が綻んでしまうことも、また旅団側の者がリーリスの術に気がつく可能性もある。ここは慎重に、優しく。 「図書館側も旅団に行って、旅団の人も図書館側に来たじゃない? それで思ったの。今争ってても、どっちかが勝ったら負けたほうはその仲間になるんじゃないかって。だから先に仲良くしても問題ないじゃない?」 「負ける?」 きぃの顔があからさまに強張り、ふるふると首を横にふった。 「ま、まけないもん。私たち、負けないもん! む、むかでさまは負けないもん! とっても強いんだもん。あ、あんたたちなんてやっつけちゃうもん!」 あら、言葉がちょっとまずったかも。 「うん。そうね、負けるのはきっと図書館側よ~。けど、そしたら私たち、やっぱり仲間になるじゃない? ね、仲よくしてもいいでしょ」 「仲良く……」 雛が伺う視線をグロ太郎とたけたんに向けた。 「ぐろ~。お前のいうことは甘いぐろ、ぐろは判断できないぐろ~」 「むー。けど、ここでは休戦、してもいいたけよ。お前、逃がしてくれたたけ」 「うん。助けてくれたし、ね、きぃちゃん」 「……きぃは、きぃは」 まだ迷っているきぃにリーリスはトドメをさした。 「私、みんなのお手伝いしたいの。なにしにきたの?」 その言葉にきぃが顔をあげた。あら、簡単。 世界と楽しく遊ぶの。それを邪魔するのは、たとえチャイ=ブレでも欺いてあげる。……ふふ。 「私は最後の魔女! ひれ伏しなさい、巨人ども!」 かっ! 大魔王にも匹敵する迫力の雄叫びをあげた最後の魔女。しーかし、その姿も巨人から見るとかわいいのである。 「かわいい」 「こわいけど、かわいい」 「……くっ。……そうね、ここは生き残るためにも、手段を選んではいけないのよ。そう、私は最後の魔女、最後を成し遂げれるならば方法を選ばない!」 きっと最後の魔女はパティを睨みつけた。 「あなたの能力を私は魔法とは認めない」 「え? なんですか、それ? ……んー、よくわからないけど、ちゅー!」 パティの声に合わせて使い魔のラッキー、ルル、レミ、ロムがちゅー! と一斉に鳴いた。 どどどどどどどどど。 鼠たちが――巨人族の家にいる鼠も、やはりでかい。黒い毛をなびかせて走る姿はまさに黒馬のようで、大群となると神々の終焉のようだ。 「きゃああああ!」 ちっちゃいもの好きでも鼠は例外だったらしく、村人たちが叫びあげる。 その隙をついて抱擁地獄から解放された二人は先頭を駆ける鼠の上へとのっかった。 「ふ、ふはははははは、みたか! 最後の魔女の与える終焉を!」 「……これ、私の力なんだけど」 ぎくりっと最後の魔女は固まり、陰気な瞳がじぃいいいとパティを見つめた。 「あ、けど間接的には魔女ちゃんの力よ」 「そうよ、そうよ! くっくっくっ……この村に終焉を与えてくれる!」 魔王の如く、最後の魔女は高らかに鼠たちの集団を従えて叫んだ。よかったね、最後の魔女! 「はーい。すとーぷ、すとーぷ!」 ふわふわーと最後の魔女、パティの前に舞い降りたのはリーリス。 「ちょっと上にきてくれる? 旅団がいるから!」 最後の魔女がずいっとリーリスに顔を寄せて睨みつける。 「貴女、よくも私を見捨てたわね」 「あら、これも完全になるための長い道のりよ? 互いにがんばらないとね、お姉さん」 にこりと笑うリーリスに最後の魔女はいろいろと言いたいことはあったが「完全」という言葉に、不満を飲み込んだ。 鼠にのって屋根の上までくると、旅団の四人が待っていた。 パティがひらりと鼠の上から飛び降りた。 「出たわね。爆発きのこ!」 未だに、運動会で出会ったたけのこをきのこと勘違いしていた。 「たけー、たけのこたけー!」 「いいえ、きのこよ!」 「たけー」 「ちゅー!」 パティとたけたんが睨みあう傍らでリーリスは可愛く首を傾げた。 「ま、たけのこでも、きのこでもいいじゃない? 食べれるものにはかわりはないんだし。でね、この子たち、この村に用があってきたんだって」 「用? なにしにきたのかわからないけど、巨人がアレなんで、やめておいたほうがいいわ」 「いやなの! りーさんつくるの!」 きぃが反論した。 「あのおっきな木をもってかえって、てかてかの石を上につけるの!」 「りーさん?」 「おっきな木?」 「てかてかの……石をつける、ですって?」 リーリス、パティ、最後の魔女が首を傾げ――そして理解した。 「ああ、クリスマスツリーね! うーん、私から提案なんだけど、そんなに大きくなくても、小さくていいんじゃないのかな? だって、食べれないものなんてもってかえっても百足さんが拗ねちゃいそうだし、そしたら、それを水薙さんがとりなして、大変だと思うの」 その言葉に旅団の四人の顔があきらかに変わった。 「そうたけ、あの運動会のあと、百足べー、しばらく悪夢にうなされたたけ、水薙がつききりで看病したたけ」 「おかげでごはん、ろくでもなかったぐろ」 「百足さま、運動会のこと、思いだしたくないと思うの」 「あんまり、よくないかも。アフロになったこととかトラウマな人もいるし」 どうやら運動会は楽しかったが、一部の旅団はろくでもない目にあってトラウマになってしまった人もいるようだ。 「ね、それなら小さな木にして、飾りをいっぱいつけるの! 飾りは村から奪えばみんな怒られないでしょ?」 「うん。怒られない、ちゃんとお仕事した」 「ことになるのかなぁ?」 「たけたけ」 「ぐろぉ」 ぱんぱんっとリーリスは手を叩いて困惑している旅団の注意を自分に集めた。 「よーし、そうしましょ! ね、この子たち、別に悪い子たちじゃないし、手伝ってあげましょ?」 「そうですね。イベントを楽しみたいなら……方法は間違っていましたけど、害があったわれではないのだし、協力してもいいですわ」 「……いいわよ。ただし」最後の魔女はぎろっと泣く子をさらに泣かせる睨みをきかせて旅団を睥睨した。「どれだけ危険だったのかわかっているの? わかっているでしょうね? 私がいなければどれだけ危険だったのか」 「むしろ、あなたがいて大変だったと思うんだけど」 ぼそっときぃがつっこむと、最後の魔女はかーんっ! 鍵で足元を打った。 「反省が出来ていないようね、その場に正座なさい!」 「うっ、こわい、このお姉さん」 「生意気な子ね、恐怖の終焉がお望みなら……っ!」 ――がこん! 「え?」「ぐろっ!」「たけ!」「きゃあ」「あ」「ちゅー!」「なんで、すって……!」 まるで狙ったようにそこだけ脆くなっていた屋根は、最後の魔女が叩いたことによって思いっきり抜けた。 そして、全員が下へと落下。 「きゃあああああ、最後の魔女おねーさんのばかああああ、いやー落ちるの!」 「ふ、これも最後の一つ……ふ、ふふふ」 ひゅるるるーん。 「あー、もう……仕方ないなぁ。協力者、間違えたかも」 地上にぶつかる寸前、リーリスが浮遊によって全員、無事に着地することができた。 「ま、家のなかにはいれたからいいんじゃない? ほら、ここから飾りをとればいいんだし!」 と、リーリスの提案により、いろいろとあったがみんなでツリー作りが開始された。 そこで活躍したのがパティだった。彼女の操る鼠たちが民家の物置から使われていない物をちょっと失敬してきてくれたのだ。 「盗賊といっても、人に迷惑をかけちゃいけませんわ! けど、使われていないものを素敵に利用するなら、村人さんたちだって許してくれますわ。あれだけ好き勝手に私たちを抱擁したお代にしておけば! あと、このきのこも飾りません?」 「むきゅーたけ、たけはたけのこたけ!」 「まだいいますの? あなたはきのこよ! 爆発きのこ」 「むきゅー」 「ちゅー」 パティに捕まってむきゅーと横に伸ばされるたけたんがおかえしとがはりにパティのほっぺたをひっぱりす。 「えっと、飾る木はね、ワームたちにお願いしてみたよ」 雛のワームたちは鼠と協力して、村の周辺にある森から小さな木をとってきてもらった。 「うふふ。私ね、リボンをもってきたの。これいっぱいあるから使ってね! それに、依頼でとってきたお花も、摘み過ぎてたから、使って!」 リーリスがもっている色とりどりのリボンをと花、それにいっぱいのガラクタでツリーを飾り立てた。 「できた! 百足さまのリーさん! 百足さまぽくしたの!」 きぃが目をきらきら輝かせて見つめるリーさんこと、ツリーは――黒・灰・紫色のリボン、百足のぐろい蟲をイメージした飾りはなんとも禍々しい。 「あれは、呪いのアイテムなの?」 「色合わせ的には百足さんぽいよね!」 「あら……いいじゃない? その色」 最後の魔女がふっと笑みを浮かべる。 「これをつければますます百足ぽいわよ、きっと」 と、パティが盗ってきたもののなかにあった巨大ダンゴ虫の死体を掴むと、ツリーの先端をぐさっ! とさした。 終焉のクリスマスツリーの完成! 「わぁ! 素敵! 蟲がついて、ますますむかでさまっぽい! ありがとう。お姉さん」 「……きぃちゃん」 ぐろいツリーによってきぃと最後の魔女のなかになんか芽生えたらしい。 「友情ねぇ」 「いいものですね、友情は」 「そうたけ、そうたけ」 「けど、あれ、いいのかぐろ」 「……百足さんに怒られないといいね、きぃちゃん」 にこにこと笑うリーリス、たけたんを頭の上にのせたパティ、遠い目をしたグロ太郎、苦笑いの雛はとりあえずよかったよかったと自分たちのツリーも完成させた。 「あのね、ツリー、いっぱい、作れたの、ありがとう」 四つの小さなツリーを作り上げてきぃたちは満足したらしい。 「えっと、あのね、リーリスお姉ちゃんのリボン、もらったの。これ」 きぃは、リーリスには赤色、パティには緑色、最後の魔女には黒色のリボンを髪の毛にちょうちょ結びした。 旅団たちもきぃちゃんは黒、たけたんは茶色、くろだんは赤色、雛ちゃんは青色のリボンをつけている。 「お揃い、飾り付け!」 「うふふ、ありがとう。って、あっ、村人さんたちに見つかっちゃったみたい」 ドアをばーん! と開けて立つのはかわいいものはいねーか、かわいいものはいねーかとなまはげ化した巨人の姿。 「みんなはそれをもって逃げて! 私たちが囮になるから」 「え、けど」 戸惑うきぃたちにパティが微笑んだ。 「ぎゅうとされたらツリーが壊れちゃうわ」 「さぁ、いきなさい、私が奴らに終焉を与えている間に」 「お姉さんたち……ありがとう。またね」 旅団たちと別れた三人の乙女は可愛いものを求める村人との戦いへと立ち向かった。 私たちの戦いはまだはじまったばかり……! ――と、まぁ、そのあと思いっきり雄叫びあげる村人たちの抱擁地獄から命からがら逃げたきった三人は、駅へと向かって歩いていた。 「うふふ、楽しかった」 「ええ。今日はハチャメチャだったけど、楽しかった。予想外もたまにはいいかも」 「……ふっ」 最後の魔女は己の髪を飾る黒いリボンに触れると、彼女には不似合いなほどに優しい笑みを一瞬だけ浮かべた。
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