クリエイター橘真斗(wzad3355)
管理番号1153-9433 オファー日2011-02-26(土) 22:57

オファーPC 小竹 卓也(cnbs6660)コンダクター 男 20歳 コンダクターだったようでした

<ノベル>

~旅立ちの日~
 3月、普通に学校に通っていれば春休みともなる時期だ。
 なんとなく、思い出すだけで春の香りでもしてくるのだが、この0番世界のターミナルでは夜もないし四季もない。
 学校もあるのかよくわからないレベルなので、小竹・卓也は荷物を詰めているとふと、大学に通っていたころを思い返していた。
「こんなものでいいかな」
 手荷物程度しか列車ではもっていけないので着替え類は抑えて、必要最小限に悩みながらまとめた荷物を眺める。
「スケッチブックとメモ帳は必須だよね。旅人の足跡の忘却効果が心配だけど、あれほどでっかい事件だし覚えてるよね」
 忘れ物がないか確認していると、卓也はふっとパスケースによる不思議な効果を思い返した。
 行っても忘れられていたらどうしよう、と……。
「いや、大丈夫だよね。ザクウさんとか、オウガンさんとか!」
 自分に言い聞かせるように卓也は大声をあげると荷物を背負った。
 いざ、ヴォロスへ!

~竜の住まう土地~
 未開発に近い土地に脚を下ろし、記憶をたどりながら卓也はドラグレット族の集落を目指した。
 何度か訪れている土地ではあるものの、いかにもファンタジー色が前面に押し出された赤茶けた大地は卓也の心をくすぐる。
「こうしてゆっくり見てみると視点が違っておもろいなー」
 依頼でいくとあわただしかったり、大きな事件で意識が集中していることもあり、周囲の細かい様子にまでは目が回らない。
 だからこそ、ゆっくりを旅をしてみると見えるものがあるようだ。
「それにしても、今回来たのは遊ぶためですって面と向かっていうのも、どうなんだろう。いまさらだけど」
 自分に自答しても、他にいい理由が思いつかない。
 卓也にとってヴォロスのドラグレッド族は純粋に遊んでみたい存在なのだ。
 苦笑をしていると、頭上が暗くなり、バッサバッサと大きな羽音と突風が吹いてくる。
 見上げるとそこには、以前にも見た存在、飛竜がいて、その上には更に見慣れた顔が卓也を覗いてきた。
「おまえは戦のときにいた武士(もののふ)の一人であったな。今日はどうしたのだ?」
「あー、いやその……」
 《首狩り将軍》オウガンが卓也に声をかけながら、着陸する。
 卓也が返答に困っているとガチャガチャと髑髏の首飾りを鳴らして、オウガンはノッシノッシというくらい大きな動きで卓也の方へと近づいてきた。
「あ、遊びにきました!」
 首が痛くなるくらい見上げながら、力一杯卓也が自分の思いを吐き出すと、オウガンは目じりを和らげて答えた。
「元気があってよいな、どれ……偵察から帰る途中だ、後ろに乗ってゆけい」
 戦を交えて、ドラグレットの将軍は卓也の力量を多少なりとも評価をしてくれたみたいだ。
「……お言葉に甘えさせてもらいます」
 翼竜の背に乗せられ、オウガンと共に卓也はドラグレットの村へと連れ出されていく。
 乗り物酔いで吐きそうなのを我慢して、我慢して、我慢して乗り切ったのは卓也のドラゴン愛が故だ。
 
 ***

 気分の悪くなった飛竜タクシーの気分も、ドラグレットの村に到着すると一気に晴れる。
「竜人となら、結婚してもいい。むしろしたい……」
 卓也は右を見ても左をみてもドラゴンという状況で幸せすぎて顔が緩みっぱなしだった。
「これは客人の小竹さん。何かありましたか?」
 緩んだ顔でいた小竹に背後から声をかけてきたのは《翡翠の姫》エメルタである。
 澄んだ声で、ドラグレッドの猛者を指揮できる実力と美貌を兼ね備えた女竜人だ。
 柳眉な目を細めて卓也を見据える女竜人に卓也は自分の心を見透かされたようで顔を背けてしまう。
 いざという時に男になれない、自分が悔しかった。
「偵察の帰りでな。丁度みかけて連れてきたのだ。迎えの酒だ、とびっきりのを用意してくれ」
「わかりました。では、行きましょうか」
「あ、はい……」
 もはや、流されるままに卓也はオウガンとエメルタに連れられていく。
 ドラグレットの村人の中には卓也を覚えているものもいるのか、オウガンやエメルタにあわせて卓也にも挨拶をしてくれる人もいた。
 子供たちなんかは『卓也』のような人間がものめずらしいのかよってきては衣服や、ペタペタ卓也の体を触りながら尻尾を振っている。
「あはは、子供はどんな種族でもかわいいですよねー」
 もう、今なら死んでもいいとさえ卓也は思わなくもないが、もっと堪能せずに死ねるかとも思うジレンマにさい悩まれた。
 酒場に通されると、オウガンと共に戦ったドラグレッドの精鋭達が暖かく、そして少し乱暴に迎えてくれる。
 その中には、先日遠くから眺めてだけだったアドンの姿もあって、肩をバシバシ叩いて再会を喜んでくれた。
(これが、ここでの日常なんだなー)
 気のいいドラグレット族に囲まれ、もみくちゃにされながらも卓也は慣れないドラグレット族の酒と不思議な味のする摘みを頂きながら、酒盛りを楽しむのだった。


~旅の終わり~
 いつの間にか日が暮れて、夜が訪れる。
 珍しい角の生えたウサギを追いかける狩りにでかけたり、子供達と遊んだりと十二分に卓也は旅を楽しんでいた。
「はぁー、本当に楽しかった」
 夜の宴も狩ってきたウサギを丸焼きにした豪快なものを味わい、今は夜風に当たっているとエメルタが隣にやってくる。
「食後の運動に少し、手合わせをお願いしてもよろしいですか? オウガン将軍と並ぶ実力者と聞いていますし、あの方も貴方達を評価していましたから……」
 『いいですよ』と答えそうになった卓也だったが、その言葉を出す寸前のところで飲み込んだ。
 今の卓也の住まう場所はこのヴォロスの大自然ではなく、ターミナルである。
 こちらに来た限りに帰らなければならない……帰りの列車[ロストレイル]が来る時間までもう少しだ。
 時間を確認した卓也は申し訳なさそうに頭を下げる。
「心の準備ができていないのと、もう帰る時間なのでー。本当にすみません」
「いえ……では次にこられたときに手合わせをしましょう」
 澄んだエメルタの声が心地よく、ずっと聞きたいという思いが卓也の中で膨らんできた。
「……はい、約束しますよー。あ、これは僕の住んでいた世界での約束の儀式というか、ありましてー右手の小指をちょっと立ててみてください」
 ぐっと堪えた卓也は、自分の右手の小指をそっと立てて見せてエメルタに真似させる。
 不思議そうに首をかしげながらもエメルタは卓也に言われるがままに小指を立て、卓也はエメルタの小指に指を絡めた。
「次にこうやって絡めてください」
「はい」
「ゆーびーきーろーげんーまんー、うそついたら、はりせんぼんのーます! ゆびきった!」
 何を行うのかわからない不安そうなエメルタをリードするように卓也は指きりをはじめる。
「ユビキッタ?」
 聞きなれない言葉の羅列を呪文のように聞き取っていたのか、最後のフレーズだけでエメルタは卓也に聞き返した。
「指切りという約束の証です。次に来たときは手合わせをしますからー。では、これでー」
 解いた指に残る爬虫類独特のざらざらした触感を名残惜しそうに感じつつも、卓也はエメルタを振り切るように荷物を背負い直してロストレイルのホームに向かって歩きだす。
 旅人の足跡の効果が消えないのであれば、また暇を見つけてこの地に来ようと卓也は思った。
「そのためにも……もうちょっと、強くならならないといけないなー。コロシアムで特訓するかな」
 旅の終わりは次の旅の始まりでもある。
 卓也の旅はこれからも続くのだ。

クリエイターコメントギリギリのギリギリで申し訳ありません。
体調を崩してしまったので、追いかけ作業となってしまっていて特化かれませんでした。

ただ、その分内容はいろいろと楽しんでみましたので、次なる旅のきっかけにでもしてもらえれば幸いです。

それでは次の運命が交錯するまで、ごきげんよう。
公開日時2011-05-05(木) 21:30

 

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