クリエイター北野東眞(wdpb9025)
管理番号1158-10149 オファー日2011-04-27(水) 22:38

オファーPC 飛天 鴉刃(cyfa4789)ツーリスト 女 23歳 龍人のアサシン
ゲストPC1 小竹 卓也(cnbs6660) コンダクター 男 20歳 コンダクターだったようでした

<ノベル>

 たぶん、この世で一番安心できる自分の部屋。そこにたどり着くと、まずは鞄を降ろして部屋の中央に置いてあるテーブルに手を伸ばすのは、ノートパソコン――清水の舞台から全力で助走した挙句に綱なしバンジージャンプをする勢いで購入したものだ。それのスイッチをいれる。
画面が立ち上がる間にあつあつの日本茶を愛用の湯のみに注ぎ、片手に持つと当然のように熱い。
あち、あち、あちと焦る声を漏らしながら、もう片方の手に本日の糖分が補足したときのためのおはぎが二つのった皿を持ってパソコンの前に腰を落ち着ける。
 テーブルに置かれたパソコンの横は読みかけの本が数冊ほど積まれ、その上に紙類が無造作にのっている。創作用のノートもあるし、携帯電話のメモ帳も活用している。だが、ときどき閃きが降ってくるときは携帯電話のボタンを押す時間も惜しくて紙に走り書きするのだ。まぁそういうものは今見ると自分でもなにこれ、と首を傾げるような文字の羅列に苦笑いが零れ落ちる。
「ええっと」
 他人から見たらただの汚い部屋だろうが、小竹卓也には十分整理整頓されていて、どこになにがあるのか目を閉じていてもわかる。
 必要な紙を抜き出してパソコンの横に置き、一番いい態勢をとると軽く首を左右にふってフォーミングアップして身体を整える。鞄からウォークマンをとりだして耳につける。スイッチオン。
 よし、いける。
 にんまりと口元が緩んだのも一瞬、すぐにすっと目を細め、感情というものが抜け落ちた顔は画面をまるで親の仇のように睨みつけ、手は無駄のない動きでキーボードを打ち始める。

 真っ白な画面。
 一番はじめにタイトルを入力。

 小竹卓也の人生という箱から取り出した、書きたくて、書かずにはいられない物語。
 ――それはある黒き龍の物語。

★ ★ ★

 夜。万人を等しく包み込む優しい闇。虫たちは囁き合い、夜鳴き鳥は不気味な歌声を響かせる。

 じりりっ……オレンジの炎は夜を相手に陽気なダンスを踊り、深く静まった世界を楽しげに照らす。
 森の中に建てられた赤煉瓦の砦。
ある者たちには強大な不吉な象徴、忌むべき存在……しかし、今はその建物は息を殺した静寂が広がる。

 ――同盟を破られ、虎国が龍国の領地の森に突如として砦を建てたのは今から二が月ほど前。
 豊かな水の恵みある龍国、その背後に位置するのは高大な山に囲まれた虎国。
両国は長らく互いの利益――龍国は背後を守られ、虎国は澄んだ水を得る。それによって契りを交わし、和睦を築いてきた。
互いの領土を侵さず、危機迫るときは守りあうという契りは、一方的に破られた。
今年は満足な雨も降らず、作物は不作、家畜も死に絶え、山から採れる宝石もない――虎国は危機に瀕していた。
虎国は龍国に援助を依頼したが、龍国はつっぱねた。
そのとき龍国もまた枯れるはずのない井戸が、突然と枯れた――それも都の中心のものが一気に五つも。民のなかから飢え死にする者まで現れ、とても他国に援助できる余裕などなかった。
それから一月後――虎国が龍国の領地を侵す暴挙に出た。
 龍国の王は、すぐに使者を遣わしたが、十日後には首だけで戻ってきた。それが虎国の王の答えであった。
 両国には、死者が訪れる地の国のほどの深い溝が生また。
それはどちらかが朽ちるまで続くだろう戦のはじまりであった。

 油を染み込ませた松明からは独特の臭さがある。
 その前に鎧をまとった見事な毛並の虎国の兵士が槍を片手に、油断なく周りを見回していた。丸みのある耳が、ぴくり、ぴくりと忙しく動く。
「ん」
 見張りが素早く右を見る。
「交代だ」
 若い仲間の声に、年配の見張りは、ああ、と頷いた。
「では、頼むぞ」
「ああ」
 二匹は互いの長い尻尾を一度絡ませて、互いを労う。そしてそれまで見張りをしていた一匹はすたすたと歩いて砦のなかへと戻り、若い見張りはくわわっと口を開けて欠伸を零した。
 と、風が鳴いた。
「ん?」
 見張りがはっと振り返ると、足元にどんぐりがころりと落ちる。なんだ……安堵のため息をついた、強烈な一撃が鳩尾を突く。
「!」
 見張りは呆気なく意識を手放し、ずるずると地面に崩れ落ちる。
 ――あっけない
 夜そのもののような彼女は心の中で冷やかに呟く。
 虎は耳がよく、聴覚に頼りすぎる傾向にある。――ゆえに音がすると意識がそちらに行き、隙が出来る。

 彼女は月の眸を細め、片手をあげる。
 音も立てず、影がそりろ、そりろと彼女の周りに集まる。

 月と夜は駆ける。

★ ★ ★

「やっぱりおはぎにはお茶だよな。お茶、それもアツアツの日本茶! ……ん、はっ! しまった。つい資料本を読んじゃってた!」
 小休憩に手を止めたら、ついおはぎに手が伸びていた。そしたら喉が渇いて日本茶を飲んでしまっていた。ああ、そうなると、どうしてもテーブルの上にある資料本に手が伸びてしまう。
 ドラゴンというシンプルなタイトル。これは三日のおやつ抜きを覚悟して購入した。古今東西のドラゴンについて伝説を載せているものだ。
 トカゲ系もいれば、蛇系――ほとんどの場合はそのふた種類なのだが、洋風、和風とまるでタイプが違うのだが、それらすべてが網羅されているのだ。
二つのタイプはまるで形や性質が違うが、共通した魅力がある、それは……
「ああ、一枚、一枚びっしりとした鱗、おなかはふくよかでぷにぷにしてそうな蛇腹。きらりとした目、すべてを引き裂くような爪、いっそ引き裂かれたい」
 思わず本を胸に抱きしめて、両手をあわせる。
 ああ、夢見る乙女――いや、自分、男ですけどね。
「っと、さて、休憩終了、書くべ。書くべ」
 萌えも充電しおえたし。
 パソコンへと向き直り、キーボードへと手を伸ばす。

 資料のドラゴンたちはみんな素敵だ。
 それらを読んで考えに考えた。勉強のときも、遊ぶときも、ご飯のときも、そして風呂にはいったときにぽんと現れた。
 黒い、東洋のイメージの龍。雌なのにその身体は傷だらけで、瞳は良く晴れた三日月の輝きを放った――彼女は名乗った。
 ――私は飛天鴉刃。
 そして小竹が驚くくらい勝手に頭のなかを歩き出してしまった。まるで別世界で、本当に生きているように。
 鴉刃の生きる世界。ヴィルズフォーズ。獣たちが人のような知識を持った世界。――自分の趣味が丸出しだが、好きなものを詰め込むとこうなるんだから仕方がない。――さまざまな種族が己の国と文化を持って、他国と競い合う。
 そのなかで鴉刃は生きる。ひっそりと、夜のように。

 書こう。恋い焦がれるのにも似た、渇望のままに。
彼女を絶対に自分の手で書いて見せる。
そのために手を動かす。

★ ★ ★

 ひたり、ひたり、ひたり。
 静寂のなかに忍び込む冷ややかな気配に、砦の主である将軍ははっと目を覚ました。だが、そのときにはすべてが遅かった。
彼は目を大きく見開き、己を見下ろすのは、冬の夜空に輝く三日月。なんて美しい。そう反射的に思ったところで枕元の剣を手にとり、構える。
 その地位にふさわしいほどの素早い動きだった。だが、
「が、あ!」
 剣を鞘から抜こうとしたとき、将軍の肩から胸にかけて大きく裂かれて、血しぶきが飛ぶ。いつ、切られたのだろう。それすらわからないうちに彼はかたい木のベッドに転がり落ちる。
将軍は口から血を吐き出しながら恨みがましい目で睨みつけるが、月からはなんの感情も読み取れはしない。
ゆらり、ゆらりと三日月の傍に寄りそういくつもの夜たち……
「……き、貴様らっ、まさか龍国の」
「そうだ、暗龍隊。飛天鴉刃……貴様を殺した者の名前、冥土の土産に覚えておけ」
「おのれ、おのれ……」
 血まみれの手が伸びる。まるで月が欲しいと泣く子供のように。
「あ、ああ……」
 将軍は血を吐き出し、こと切れる。
 伸ばした手は結局、天にある月には届くことはなかった。
凍てついた三日月には憐れみも、同情もなく、まるで道端に落ちた石を見るように無感動に命の終わりを見届ける。

★ ★ ★

「はぁ、はぁ、鴉刃、鴉刃っ!」
 戦闘シーンになると思わず手の動きがはやくなる。そしてついつい身体が軽く左右に揺れてしまう。
全然関係ない自分まで気持ちが高揚してしまうから困ってしまう。
「鴉刃、お前になら暗殺されてー」
 むしろ、してください。

 思わず書き上げたシーンを見て多幸感に浸った後、両手をかたくあわせてお祈りのポーズをとってしまった。
 祈れば叶うと信じてる。今でもわりと。
「おっと、いかん、いかん。えーと、次のシーンは、あった、あった。今日の講義中にメモとったんだよねぇ」
 鞄からノートを取り出して、ぺらぺらとめくる。先生、ごめんなさい。けど、降ってきたものは仕方ないんです。
「文句なら鴉刃にいって、先生」
 かたかたかたとキーボードを打ち始める。

★ ★ ★

 豪華な城の周りをぐるりっと囲む石の壁。
 鴉刃は息を殺し、壁に身を預けて気配を探る。ここの見張りの兵士たちの隙をつくのは容易なことではないことはよくわかっている。
彼女はその身の色を活かし、夜のなかに紛れて壁を乗り越える。
 とたんに広がるのは見事な庭。
 庭師が丹精こめ、己の技術をすべて駆使しただろう見る者を楽しませるそこは夜のために鑑賞する者も、散策する者もおらず、寂しさに満たされている。
 庭を通り過ぎ、木造の宮へと入る。

 炎のような赤の扉。そこが鴉刃の目的の部屋だ。
 つっと音も立てることもなく扉を開けた、とたんに鴉刃の身体に飛びつく影があった。
「鴉刃さま!」
「……待たせたな」
 転げないように踏ん張って、抱きついてくる彼女を抱きしめかえす。本当は音を立てるなと叱るべきなのだろうが、こんな深夜まで己を待っていた健気さと全身で会いたかったと伝えてかるその無邪気さを愛しいと感じて何も言えなくなってしまう。
「まぁ、私ったら……さぁ、お入りください。お酒を用意しています」
 自分のとった行動を恥じ入るように彼女は俯いて微笑み、部屋の奥へと招いてくる。
 控えめだが豪華で、女らしい部屋だ。甘い香に満たされて、まるで己が彼女の優しさに包まれているような気分にさせられる。
 彼女は鴉刃を酒の用意されたテーブルへと案内した。
「お怪我は?」
「いや、ない」
 彼女は笑う。泣き出しそうな、それでいて嬉しげに。本当は危険なことをやめろといいたいのだろう。だが、そんなことを言ってしまえば鴉刃を困らせてしまうことを理解しているのだ。
籠の鳥のように守られて無邪気で無垢でいるのに、驚くほどに彼女は聡明だ。そんなところに惹かれたのかもしれない。
 自分は半ば使い捨てにすぎない存在。
 彼女は両親に愛され、守られて、大切に育てられた、重役の娘。いずれはどこからか良い縁談もあるだろう。そんな彼女に自分のようなものと会っているのはマイナスのイメージしかつかない。
 いけない。
 もうやめよう。
 何度も考えた。そのたびに胸の奥がちくちくと刃で刺されたように痛くて、手に爪が食い込むまで拳を握りしめた。
 苦しさでもし狂えるなら。それほどに自分は弱くはない。ただずるがしこく、あと一回。まだ平気だろう。うまくやれる。そんな言い訳を並べ立ててここに来てしまう。
「鴉刃さま、さぁ、喉を潤してください」
「ああ」
 透明な液体を器に注がれて、そっと喉を潤す。ふと視線を感じてみると、彼女は優しげに微笑みを浮かべて軽く小首を傾げる。
 守りたい。自分になにができるとわからなくても。この娘が大切だ。この時間だけが自分の荒んだ心を和ませてくれるから。

★ ★ ★

「あ、やべ。ちょ、涙が……いや、これは心の汗。心の汗。ちょうど流れている音楽も失恋ぽい曲のせい……」
 書けば書くほどに好きになっていく。いや、もしかしたら心が鴉刃にシンクロしているのかもしれない。
 ほら、作家って、もうキャラになりきると言うしね。
「いや、けど、俺、男には興味ありませんから……っと、このあとは、あった。このシーン」

 鴉刃の新たな任務――今日、頭のなかにふってきたシーン。

★ ★ ★

 いつものことだ。しかし、少しだけおかしかった。
 鴉刃は任務として呼ばれ、城のなかでも地下にある開発室にやってきた――ここでは戦のためさまざまな武器や魔法の研究が重ねられている。
 本来、暗殺などの仕事を主とする鴉刃がかかわるようなものではないはずだが。
 いやな予感はここにはいってからずっと胸を締め付けている。そして、それは当たった。
「これだ。他国へのテレポートできる機械だ」
 白い真四角の大きな、大の雄龍でもすっぽりと入れてしまいそうな機械の箱。
上司と研究者たちはこぞってこれがどういうものか、いかに戦を有利にすすめれるかということを熱く語る。――とはいえ、それは理想の話。
「この機械の実験も兼ねてお前に鳥国にいってほしい」
「あそこは、山を二つ答え先にある、しかも険しい谷の上にある国ですが」
「だから、これで行くんだ」
 当然だろうとばかりに言い返す上司に怒りや理不尽さは感じなかったといえば嘘になる。実験というようにこれはまだ試作段階で、机上の空論でしかない。
 保障などはない。
 失敗の可能性が大きいのだ。でなければ自分を呼んだりはしないだろう。なんといっても命令されればそれを断る権利など自分にはないのだから。
 ――いつも通りであるな
「さぁ、鴉刃、機械のはいってくれ」
「……はい」
 ちらりと彼女のことが頭をよぎった。
 もう会えないかもしれない。少しだけ胸が痛んだ。

★ ★ ★

「そして鴉刃は新たな任務に旅立った……。よしできた! 保存、保存っと」
 小竹が嬉々としてパソコンの上書き保存をクリックする。

★ ★ ★

「いつまでこんな生活を続けなければならないのか」
 鴉刃はテレポート機械の上へと乗ると嘆息し、目を閉じる。

★ ★ ★

 二つは重なり合う。

★ ★ ★

 小竹が保存をクリックしたとき。
 鴉刃の乗るテレポート機械が、転送されたとき。

 本来重なり合うはずのない二つが、――そして、二人は真理数を失い、覚醒した。

クリエイターコメント オファー、ありがとうございます。

 今回のお話はお二人の、大切な覚醒のお話を書かせていただけて楽しかったです。
 そして今回は「温度差」を感じていただければと力いっぱい二人のシーンに差をつけさせていただきました。
 大変、楽しませていただきました。楽しく、楽しくて愛があふれてます。受け取ってください。

 またのご縁がありましたら。
 そのときも、あなたがた二人が月と星のように輝く旅人であることを!
公開日時2011-06-19(日) 20:40

 

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