オープニング

 モフトピア。何処までも続く空に、幾つもの島が浮かんでいる世界。そこでは「アニモフ」というぬいぐるみの姿をした生き物達がのんびりのほほんと、緩く生きている。
 そこでは危険な事も無く、ロストレイルが停車する駅の中ではもっとも平和な所だと世界司書であるエミリエ・ミイは説明しながらにっこりと笑い掛けた。
「それでね、皆にはアニモフ達の身体測定をして欲しいんだよ」
 モフトピアは説明出来ないような不思議な現象に溢れており、そこに住むアニモフ達もまた、不思議な存在である。そのアニモフ達を調査しようというのが目的なのだが――それはただの名目。実際は、観光の一つのアトラクション体験のようなものだった。
 今回赴くモフトピアにある浮遊島に住んでいるアニモフ達は、最も数の多いくまのぬいぐるみ型。その住人数――人と数えて良いのかは疑問だがともかく、100程度居るらしい。
「身長とか体重とか……でも、そこのアニモフ達はね、じっとしているのが苦手だからちゃんと測るのは難しそうだよね。退屈で何処かに行っちゃうかも」
 何か楽しい事があれば、楽しい事好きのアニモフの事。其方に意識が集中するだろう。逆に楽しく無ければ、興味を持たずに他の楽しい事を探して行ってしまうだろうが。
「それでね、今の時期は雪みたいにふわっふわなマシュマロが空から降って来るんだって」
 あまり厳しくはないが、モフトピアにも四季というものが存在する。この時期は冬らしく、雪が降るという事も珍しくはないがそれがマシュマロという所が何ともモフトピアらしいだろう。
「そのマシュマロ、食べるとすっごく甘くて美味しいのだけど、アニモフ達はそれで雪合戦をするみたい。雪じゃなくて、マシュマロ合戦の方が合ってるかなぁ?」
 説明をしながら疑問の湧いたエミリエが、小さく首を傾げる。
 特に何かを競う訳でもなく、ただただ楽しむだけ。本来は雪である筈のものも、マシュマロなので当たったとしても全く痛くない。尤も、アニモフ達は遊びになると体力は底無しであるらしい。
「疲れちゃったら、はちみつが湧いている噴水の所で、わたがしのクッションを敷いて休憩するのがオススメだよ。帰ってきたら、エミリエにも御話を聞かせてね!」
 そう言って、エミリエはトラベラー達に満面の笑顔を向けて送り出した。

品目シナリオ 管理番号227
クリエイター月見里 らく(wzam6304)
クリエイターコメント βシナリオではブルーインブルーでしたが、今回はモフトピアにて御送りさせて頂きます。初めましての方もそうでない方もこんにちは、月見里 らくです。
 アニモフ達ともふもふして下さい。とてもほのぼのです。身体測定はメジャーなどを自由に使っても構いませんが、そんな事は関係無くふもふもして頂いても構いません。雪合戦ならぬマシュマロ合戦は、攻撃的過ぎる行動はなるべく避けて下さい。
 最後にもう一度。どうぞ御存分にアニモフ達ともふもふして下さい。
 それでは、皆様のプレイングを御待ちしています。

参加者
水元 千沙(cmaw2190)コンダクター 女 17歳 旧制女学校の女学生
早乙女 大翔(cwhm8017)コンダクター 男 11歳 自称、ノーマルな小学生
リーミン(cawm6497)ツーリスト 男 11歳 高所清掃
ティルス(cvvx9556)ツーリスト 男 18歳 歴史学者の卵
イクシス(cwuw2424)ツーリスト その他 40歳 元奴隷
太助(carx3883)ツーリスト 男 1歳 狸

ノベル

 ロストレイルに乗り、駅に着いて見渡すと幾つも空に浮いた島と触れられる雲が視界に広がる。
 不思議で幻想的、何処までも平和に包まれてのんびりとした空気が漂っている世界。それが、モフトピアである。
「ん~、モフトピアって、相変わらずのどかで良いよねぇ。怖い事なんて無いし」
「そうだねぇ。アニモフ達も可愛くて、楽しい所だね」
 世界司書のエミリエから言われたように今回赴くモフトピアの島へ行く為の移動手段である真っ白な雲に乗りながら、早乙女 大翔はにこにこと口元を緩めてそう零す。その早乙女の言葉に、前にもモフトピアに訪れた事があるイクシスが頷いた。
 一行を乗せている白い雲も、本来ならば人を乗せる事など出来ないがこのモフトピアでは当たり前の光景である。その世界の特徴に沿うかのようにゆっくりとした速度で雲は進んでいき、やがて件の島へと到着した。
「きた?」
「来た」
「きたー」
 島に着くと、事前に何かしら聞いていたのか早々にアニモフ達が出迎える。話の通り、そのアニモフ達はくまのぬいぐるみ型。微妙に声も姿も違っているようだが、基本としてはそれで統一されている。乗って来た雲から地面に降り立と、足元にふわふわなマシュマロが転がった。
「測定が終わったら、遊んでも良いんだってね。マシュマロ遊び、すっごく楽しみだなあ」
「にゃ、遊ぶの楽しみだね」
「その前に、ちゃーんと身体測定しないといけないんだぞ!」
 この島では、雪の代わりにマシュマロが降るのだという。それについて心待ちにしているのか、楽しそうに呟くティルスとイクシスに、太助が肉球ぷにぷにな指をびしっと突き付けて注意する。毛皮もっふもふな狸の外見にモフトピアの空気で、迫力が無いのは恐らく気の所為ではないだろう。
 ほぼモフトピアに訪れる為の名目でしかないようなものだとはいえ、一応言われたように身体測定なるものをやるようであるらしい。一行も、その為の準備は事前に行っていた。
「何か考えて来ましたか?」
「おう! 名付けて我慢大会作戦だ!」
「そういえば、車内で沢山準備をしとったもんねぇ」
 興味深そうに問い掛けて来たリーミンに太助が自信満々に答え、ふと水元 千沙が行きのロストレイル車内での事を思い出して言う。モフトピアまでは当然の事ながらロストレイルに乗って行く為、今回の事での準備や計画を字の巧拙はともかくとして、ノート一杯に書き込む気合の入れようだった。
「じゃあ、アニモフさん達に集まって貰いましょうか。アニモフさーんっ、こっちに集まって下さいー」
 そろそろ頃合かと思ったリーミンは、アニモフ達に聞こえるように幾分か声を大きくして此方に集まって来るように呼び掛ける。その呼び声に、この場に居るアニモフ達が「なに?」「何なに?」「あつまるー」「集まれー」だのと繰り返しながら、わらわらと一箇所に集まって来た。
 この島に住むアニモフの数は100程。調査とはいっても、その全てを行わなければならないという程に厳しいという訳でもない。とりあえず集まったアニモフ達の数は咄嗟に数え切られなかったが、まずはそれなりに集まってくれたようだった。
「う~ん、身体測定、如何やってやろうかな?」
「巻尺と体重計は、借りて来たよ」
 始めなければ如何にもならないが、その方法を如何したものだろうか。先頭に居たアニモフと何となく睨めっこしつつ零した早乙女の言葉に、予め巻尺と体重計を借りて来て鞄に詰めて持って来たらしいイクシスがそう言う。それに続いて、ティルスも鞄の中から今回の為に持って来た道具を出して来た。
「持って来られるものは、鞄一つ分までだから……身長はメジャーで計るべきかなぁ」
「測るんは、身長と体重くらいなんやろう? 身長はそれでえぇとして……体重は多分、はかり使えば何とかなるんちゃうかな」
「うん、アニモフさん達はぬいぐるみだから、体重は軽いかなと思って」
 別に座高やら視力やら、その辺りまで詳しく調べるような必要は無い。故にそのくらいで充分だろうと思って水元が首を緩く傾けながら言葉を零すと、それは同意見であったのか鞄の中からティルスが取り出したのは、天秤はかりだった。
 身体測定の為の道具を取り揃えている中、太助はロストレイルの車内で借りて来たタンバリンを鳴らす。何故ロストレイル車内にそんなものがあったのかは別問題として、これなら持って叩くだけなので難しい技術やその他の音楽機器に必要な電力の類も必要無い。タンバリン独特の音を響かせ、その間にもアニモフ達の気を引き付けようと太助は気分をノリノリにさせて声を出す。
「よしっ、身体測定我慢大会を始めるぞー!」
「わー」
「おー?」
 太助の掛け声につられたのか、アニモフ達が続いてのほほんとした調子ではあるが声を上げる。何やら楽しそうだ、と思ったらしい。
 そのアニモフ達の反応に、つかみはオッケーと判断し、太助は身体測定我慢大会inモフトピアのルールを説明する。
 身長や体重を測定する為にじっとしている事が必要になるので、その間じっとしていられたら良し、というもので大会と言うよりも寧ろゲーム形式に近い。身長に体重、一つクリアをする毎にターミナルでコピーして切ったカードに自分の肉球スタンプを進呈。全て達成すると、ロストレイルの食堂車を借りて焼いて来た特製のどんぐりクッキーをプレゼント、という事だった。ちょうど壱番世界で言う、ラジオ体操方式に似ているかもしれない。大会、ゲーム方式の上に集めて賞品を貰う、という三段方式が太助の此処に来る前から計画していた「我慢大会作戦」だった。
「さーあ、一番に挑戦するのは誰だーっ!? クッキーうまいぞーっ!!」
「チョコレートにビスケット、マカロンもあるよー。じっとしてくれたら、このお菓子もあげるからね」
 太助の呼び掛けを応援するかのような形で、早乙女が腰に巻いていたウェストポーチの中身を見せながら続く。女の子向けであるらしいそのウェストポーチの中には、溢れんばかりの甘いお菓子が詰まっていた。
「ちょうせん、ちょうせんするのー」
「やる? やるやるー」
 物につられたのか、それとも楽しそうな雰囲気につられたのか、アニモフ達がこぞって挑戦もとい身体測定に向かう。このタイミングを、逃す事は出来ないだろう。
「えーっと、身体測定って、背比べの事ですよね。それだったら、背中合わせになれば……アニモフさん、ぴしっと立って背筋伸ばして下さいね」
 見た目くまのぬいぐるみに背筋を伸ばした云々は少々滑稽かもしれないが、そこはそれ。アニモフが背中を向け、それにリーミンは背中を合わせて測ろうとする。しかし、ぴったりと背中合わせなった状態ではアニモフの背中のもふもふ感は味わえても、背丈を測る事は出来そうにもなかった。
「……巻尺、あるよ?」
「あはは……有難う御座います。……って、うわわっ、アニモフさんってば、本当にじっとしてくれない……!」
 その様子を見ていたらしいイクシスが、リーミンにそっと余分に持って来た巻尺を差し出す。それにリーミンは少し照れ笑いを浮かべて巻尺を受け取り、さぁ仕切り直しとばかりにアニモフの方を振り返ると、アニモフの方は既に背筋は伸ばしておらず何処かへ行こうとしている最中だった。
「材料が揃っていたら、パフェを作ってアニモフ達を釣るとか出来そうだけど……駄目かなぁ」
「かえって、じっとしていられなくなるかもしれないね」
 材料はともかく、気を引き付ける面では逆効果かもしれないと早乙女が困り顔をすると、ティルスが同意する。話の通り、じっとしているのは苦手らしい。
「それやってんなら、紺にも手伝ってもらおか。……紺、頼むわぁ」
 太助の我慢大会作戦にもう一押し加えるなら、と水元は柔らかい地面の上でころころと寝転がっていた自らのセクタンを見遣って手招きする。フォックスフォームのセクタンである紺は水元の意図に従い、尻尾をくるりと回すと能力で怪我をしない程度に小さな炎を生み出した。
 普通の赤や青に、緑や白。変わった色も混じっての炎の演出に、アニモフ達が何だろうと物珍しそうに眺めている。その間にも、太助が身体測定我慢大会の再チャレンジを呼び掛ける声が響いていた。
「アニモフちゃん達ー、この青いリボンあげるから、こっちのいっぱい線のついた長いリボンを巻いて良いよ、っていう良い子は居るかなぁ?」
 線の付いた長いリボン、というのは言うまでもなく、巻尺の事である。イクシスはそうアニモフ達に呼び掛けながら、近付いて来たアニモフの胴に巻尺を巻き付けて胴回りを測っていく。その最中にも、ついでとばかりに存分にふもふもと気持ちの良いアニモフの感触を楽しむ。
「ん、アニモフちゃん、可愛いよぉ」
 そう呟いてもふもふ加減を楽しみつつ、胴回りを測るイクシスの一方で、先程は背比べでちょっと失敗をしてしまったリーミンは身体測定我慢大会に再チャレンジするアニモフ達の如く他の方法を試みる。
 何処からか針と糸を取り出し、地面に転がる柔らかいマシュマロに糸を通す。そして些か変わったそれを、アニモフ達に見えるように掲げた。
「ほら、アニモフさん達見てみて! マシュマロリボ~ンっ……面倒だから略してマリボだよ」
 そのマシュマロリボン、略してマリボを見せられ、一体如何いう代物なのかは理解出来ていないようだが、見た目の面白さからアニモフが近付く。そのアニモフの隙を、リーミンは見逃さなかった。
「……えいっ、マリボ攻撃~。はい、アニモフさん一匹確保!」
 攻撃、とは口では言っていても、実際の所は攻撃と言える程大したものではない。ポヤンッ、と気の抜けるような音がして、アニモフがマリボと絡まっている。何となく幸せそうに見えなくもないのは、恐らく楽しいからなのだろう。
 さてこの隙に、と身体測定をし始めるが、リーミンもイクシスと同じように身体測定ついでにアニモフをぎゅっとしてみる。
「アニモフさん達って、甘い物しか食べないのかなぁ」
 危険が無い為にモフトピアは観光向けの世界と言え、そしてそのグルメ方面はほとんどと言って良い程甘い物や果物といった類だった。そもそも、見た目はぬいぐるみで突然生まれて知らぬ内に消えていくアニモフ達に食事という概念があるという事すらも怪しいのだが。
「甘いにおい……してるかな……? ちょっと、舐めてみても良い? あ、食べないから安心して。味見するだけだから」
 味見という時点で舐めるではなく食べるという事になるが、本当に齧る事は無く更にアニモフをむぎゅーっとする。モフトピアの空気の流れなのかアニモフの体臭なのか、その時にふんわりとほのかに甘い匂いがリーミンの鼻腔を擽ったような気がした。
「この子の身長はマシュマロ27個分、体重は32個分……っと。ばっちり正確!」
 実際に測ってみると合っているようなのだが、その単位はお菓子の個数分。しかしながら、この方がアニモフ達には分かりやすいようだ。ティルスの方も天秤はかりで、片方にアニモフを乗せ、もう片方は色とりどりの飴玉を使って体重を測定していた。
「ふふ……マシュマロ遊び、何をしようかな。……あっ、いけない。えーと……体重は飴玉5個分だね。次のアニモフ、どうぞ」
 既に頭の中は早くも測定の後の事を考えているようで、狼の耳を少し垂らしながら楽しみだというようにティルスは呟く。それでついつい止まる手に何度か我に返り、再び測定に戻る。
 天秤はかりで体重を量り、終わったらオマケとして飴玉を進呈。様々な味と色で構成された飴は、見るだけでも目に楽しい。
「今度は……あれ? はかりが動いていないや……」
 次のアニモフを天秤はかりに乗せ、飴玉を乗せようとするがアニモフが乗っている天秤はかりの皿の位置が変わっていない。幾ら見た目ぬいぐるみで実際かなり軽いらしいアニモフとはいっても、突然体重が軽くなるという事は無いと思いたい。それについてティルスが首を傾げると、胴回りの測定から体重の計測に移行していたイクシスも不思議そうに声を上げた。
「この子も全然重くないなぁ」
 イクシスの方の体重の量り方は、胴回りを測った時と同じように今度は青ではなく赤いリボンをプレゼントする。まずアニモフ達に尋ねる形でアニモフを抱っこし、そのアニモフを抱っこしたまま自分が体重計に乗って体重を量るという手法だった。体重も量れて、その上ふもふも出来て一石二鳥というやつだろう。当然、アニモフを抱っこした自分も体重計に乗るのでイクシス自身の体重は予め量っておき、それを差し引いた値で考えているのだが今さっき測定したアニモフの方は他とは違ってプラス値が無かった。
 これは如何いう事だろう。ちょっとした疑問に、その様子を見ていた水元が緩く瞬きをした。
「それ、うちが描いたアニモフやないの」
「え?」
「折角やから、アニモフをこの間に写生しよかと思うて。紛れてしもうたんやね」
 セクタンの紺が出す炎で気を引きつつ、その間に折角モフトピアに来たのだからとアニモフを写生していたらしい。水元のトラベルギアである筆は中空に筆を走らせるとそれが具現化するというもので、アニモフ達の気を引く意味でもアニモフをトラベルギアで描いた所、それがアニモフ達の中に溶け込んでしまっていたらしい。トラベルギアで描いたアニモフ自体には力などは無い為、体重も無いという事なので測定になるとイクシスやティルスが疑問に思った結果になったという訳だった。
 そんなちょっとしたハプニングを挟みつつも、何だかんだで測定の方は一段落着く。全てのアニモフを完璧に、という訳ではなかったが、うっかり数が多かったり少なかったりしても責められるような事はまず無いだろう。
「終わったー!」
「皆、御疲れさん」
 集まってくれていた最後のアニモフに肉球スタンプとお菓子を進呈し終えると、太助が晴れ晴れとした声を上げる。他の面々もタイミング的にちょうど良かったらしく、水元が労いの言葉を掛けた。
「いっぱい、もふもふ出来たねぇ」
 事前に用意をしていた100本の赤と青のリボンもほぼ無くなり、イクシスは声を弾ませる。測定の仕方もあったのか、ふもふも度は高かったようだ。
「そうだね。終わったから、遊んでも良かったんだよね」
「ほんま楽しみなんやねぇ。ほな、測定も終わったし行ってみよか」
 やっぱり測定よりもその後に心躍らせているティルスが待ち切れないといった様子で続けると、水元は柔らかに微笑みながら皆と共に歩き始める。
 足元にも雪もといマシュマロは転がっているが、ほんの少し歩くと今まさに降っているという場所があるらしい。如何やら、降っている場所は島一帯という括りではなく島の中を移動しているような風であるらしかった。
 現地のアニモフによると「ほんの少し」行ったら、という事だったが、本当に「ほんの少し」だった。一行が測定をしていた場所から30秒程しか歩いていない距離を行った所で、地面のふわふわ感が増すと同時に空から白いものが降って来る。
「うん? 雪が降って来た。あっ、でも雪じゃないや。これ、マシュマロだね」
 鼻先にぽとりと落ちて来たその白いものに目を丸くした早乙女が、不思議そうに空を振り仰いで声を上げる。此方に来る前に話されていたように、空からは真っ白なマシュマロが降って来た。
 足元の地面にも、掬い取れる程に積もった雪ならぬマシュマロがある。前へ掌を仰向けにしてみると、その手の中にふわりと舞うようにしてマシュマロが落ちて来た。
「モフトピアは甘いもんばっかやから、ずっと居たら太ってしまうかもしれんなぁ。けど、それも醍醐味かもしれんね。皆もマシュマロ、食べてみよったら?」
「本当なら、ここに住んでみたいよね。う~ん、雪のマシュマロ美味しいなぁ」
「お菓子って、甘くて綺麗で楽しいですね。こんなに美味しいものがあるなんて、覚醒するまで知りませんでした」
「マシュマロうまー!」
 掌に落ちて来たマシュマロを味見してみた水元がそう感想を零し、皆にも薦めようと話を振ると既に皆は言われるまでもなく雪のマシュマロの味を楽しんでいた。
 地面に落ちているマシュマロも仮に足で踏んだとしても汚れは一つとしてなく、そのまま食べられそうな程に綺麗なものだった。
「このマシュマロ、持ち帰ってパフェの材料にしたいけど残念だなぁ」
 全てという訳ではないが、原則として異世界の物は持ち帰ってはならない事になっている。それを思い、早乙女は残念そうに溜め息を吐くがそれと同時にふと前方が騒がしい事に気付いた。
「おや? 何か向こう側が騒がしいけど……何やっているんだろう。……あっ、雪合戦ならぬマシュマロ合戦やってる!!」
 わぁわぁとしたアニモフ達の声が響く方向を見つめる事暫し、やがてそれが何なのか分かると声を上げる。
 そこでは先程身体測定を終えたアニモフ達と同じなのか、それは分からなかったものの、わいわいと雪ならぬマシュマロが降る中で積もったマシュマロを投げ合って遊んでいた。
「雪合戦かぁ……懐かしいな」
「ぼくもやるかぁ。……あのー! アニモフ達、すみません! ぼくもマシュマロ合戦に参加しても良いかなー!?」
 マシュマロの雪を投げ合っている楽しそうな光景にリーミンが懐かしげに呟き、早乙女はアニモフ達に向かって手を振りながら呼び掛ける。マシュマロを投げ合っているアニモフ達の中で、何匹かのアニモフがその声に気付いて此方に振り返った。
「するの?」
「やるの?」
「来てきてー」
 楽しい事大好きなアニモフ達が、その申し出を断る筈も無く。口々にそう言って大歓迎を示し、柔らかいマシュマロの地面を飛び跳ねる。その頭の上には、積もったのか当たったのか白い小さなマシュマロがアニモフの動きと共にふよふよと動いていた。
「大歓迎みたいやねぇ」
「よーしっ、今行くよーっ」
「あっ、ぼくもやりたいです!」
「わぁ。楽しそうだね。良いなぁ」
「どうせだから、雪合戦以外の遊びもしたいなぁ……」
「遊ぶぞーっ! もふもふするんだからなっ」
 アニモフ達の御誘いに、面々がそれぞれ言葉を口にしたのはほぼ同時。最初に挙手した早乙女を皮切りに、皆は其方へ向かっていく。
 マシュマロ合戦に使うのは、勿論空から降って来る雪みたいなマシュマロ。特にチーム分けや勝敗という要素は無く、アニモフ達はその行為自体を純粋に楽しんでいた。
「ふわふわだねぇ。あたっても分かんないくらい」
「痛い事なんて無いから良いなぁ。……えーいっ、お返しーっ」
 地面に積もったマシュマロを球状に丸めつつ、その感触について感想を零したイクシスに早乙女は同意する。ほわん、と緩やかな軌道を描いてマシュマロの雪玉が当たるが、固さなど全く無い為に痛みを感じるどころか下手すると当たったかどうかすらも分からなかった。
「もふもふ、毛繕いするぞーっ。ついでに手触りの調査もするんだぜ!」
「毛づくろい? するするー」
 マシュマロ塗れになる中、太助は更にアニモフ達の中に飛び込んでアニモフ塗れになる。
 太助はぬいぐるみではないが動物で、その毛並の色合いもちょうどくま型のアニモフ達と似通っていて遠目からでは何処に居るのか判別がし辛い。御互いに毛繕いをし合う光景は、ふもふも、という擬音まで聞こえてきそうだった。
 雪遊びならぬマシュマロ遊びも楽しみながら、ティルスは積もったマシュマロを一箇所に集めてぽてぽてと形を積んで作っていく。壁ではなく何処か囲うように作られていく様子に興味を引かれたアニモフが、ティルスの足にしがみ付きながら尋ねた。
「なになに、何してるの?」
「カマクラを作っているんだよ」
「かまくら?」
「うん。壱番世界の書物で読んだのだけれど、壱番世界では雪遊びの中に『カマクラ』っていうすっごく大きな家を作るんだって」
 ティルスの居た世界には雪こそあっても、それで遊ぶという事はまずない。その為、とにかく雪遊びを楽しもうという思いが強く、おうむ返しに問い掛けて来るアニモフに嬉しそうに答える。
「折角だから、ぼくもカマクラを作ってのんびりしたいなぁ。良かったら、手伝ってくれないかな? 丸いのに、四角いのとか三角のとか色々」
「つくる、つくるよー」
 かまくらの種類は基本的に一種類しかない筈なのだが、ティルスはその辺りの事について意識は行っていなかった。というよりも、如何やらピラミッドや古墳など、古代の建築物の知識とかまくらの知識が微妙に混ざってしまっているらしい。
 しかしながら、楽しそうであれば細かい事だろうが大きい事だろうが気にしないアニモフ。当然だと言うべきなのだろうか、その辺の齟齬も突っ込まれないままだった。
 結局、些か間違えているような知識が直されないでかまくら作りが始まる。そのかまくら作りとマシュマロ合戦、両方を程近いハチミツが湧き出る噴水の縁で水元は周囲の風景を写生しながら眺めていた。
「皆、楽しそうやなぁ。皆が楽しいと、うちも楽しい」
 珍しい光景を描きながら、皆が楽しんでいる姿に水元はそう呟く。壱番世界に居ただけならばこのような体験は出来ないであろう為、沢山遊び倒したいと思っていた。
 下には綿菓子のクッションを敷かせて写生を続けていると、ちょこちょこと一匹のアニモフが近付いて来る。そのつぶらな瞳の先には、噴水の傍にちょこんと置かれた物に注がれていた。
「これなぁに?」
「雪うさぎ言うんよ。あ、でも、マシュマロやからマシュマロうさぎやね」
 マシュマロでも、形はある程度雪と同じように色々と形成出来るらしい。興味津々、といった様子で雪うさぎもといマシュマロうさぎを見つめるアニモフを、水元は写生する手を一旦止めてアニモフを抱き上げる。マシュマロに負けず劣らず、柔らかい感触が伝わって来た。
「あー、遊んだ遊んだっ! 楽しーなぁ」
「何処に居よるのか、分からへんかったわぁ」
 一頻り遊びまくったらしく、太助がハチミツの涌く噴水までやって来る。測定と遊んだ為にお腹が減ったようで、口直し代わりというように持参した煎餅と昆布の佃煮を食べていた。
「そうだ。マシュマロって焼くと美味しいって聞いたんだが、焼くの手伝ってくれねぇかなぁ?」
「うん、えぇよ。紺、手伝ってあげてな」
 了承を返し、セクタンの紺が噴水までぽてぽてと歩いていく。
 その一方、雪合戦ならぬマシュマロ合戦に参加していたリーミンは、雲から雲へアクロバットのようにジャンプを立て続けに行いながら上空へ行っていた。
 雲に乗って上までいけるのは、モフトピアならでは。どうやって空からマシュマロが降って来るのか不思議で気になってもいたが、幾分か高い場所まで辿り着くとおもむろに白いマシュマロを大きなボール状に作り始めた。
「雲の上から投げたら反則かな……? でも、楽しそうだから良いよね。……えいっ!」
 反則だろうか、と呟きながらもやる気は満々。巨大ボール状に丸めたマシュマロを、掛け声一つ上げて下へと投げる。
 だが、通常の雪合戦とは違い、その素材はマシュマロ。余りにも軽過ぎた為、コントロールが外れて狙いから逸れてしまう。しまった、とリーミンがその行き先を見ると、マシュマロ製の巨大ボールはハチミツが涌いている噴水にまっしぐらに向かっていた。
 そしてそのマシュマロ巨大ボールは、大きな音こそしなかったもののハチミツの噴水にちょうどよく中に入る。ふわふわとした白いマシュマロが、ハチミツの黄金色にきらきらと輝いていた。
「ハチミツマシュマロうまー!」
「紺、食べ過ぎて動けなくなっても知らへんよ?」
 噴水の直ぐ近くに居た太助がハチミツ掛けのマシュマロに齧り付き、焼きマシュマロを作っていたセクタンの紺もつられたように齧る。
 それから皆で巨大マシュマロハチミツ掛けを分け合っている間も、空からは真っ白なマシュマロがふわふわと降り続けていた。

クリエイターコメント 御待たせ致しました、リプレイを御送りさせて頂きます。今回は戦闘というものもなく、アニモフ達とひたすらもふもふするというものでした。一体何度「マシュマロ」と打ったか分かりませんが、ほのぼのとした時間を楽しんで頂けたのなら嬉しい限りです。
 そして、この度はシナリオに御参加頂き、誠に有難う御座いました。
公開日時2010-01-25(月) 17:30

 

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