オープニング

 開店前のクリスタル・パレスに、いくつかの人影が動く。温かな木漏れ日が差し込む窓辺では大きな赤い猫、灯緒が適度な力加減のブラッシングにごろごろと喉を鳴らし体を伸ばしている。サッサッと手際よくブラシを扱う無名の司書も鼻歌交じりでにっこにこの笑顔だ。彼女の膝の上では赤い熊の縫いぐるみと白いフェレット、アドが並んで置かれ、ぷすーという寝息が聞こえる。
 ふわりと食欲をそそる香りが鼻をくすぐり、無名の司書が視線をそちらに向けると、四人の美男子が談笑しながら朝食の準備をしていた。背中に羽をもつ青髪のイケメンと武人の様な凛とした佇まいのイケメンが新年に相応しい朝食を、儚げな雰囲気を纏う銀髪のイケメンとがっしりとした体躯に褐色の肌が健康的な男らしさを思わせるイケメンが朝食に相応しいお茶の葉を選び、淹れる。
 身目麗しい、揃いもそろって180越えの美男子~美壮年に給仕され、ふわもこ司書を存分にもふる無名の司書の顔は幸せいっぱいだ。
「あ~~。新年から良いことばっかりだわ~」
「さぁ、朝食にしますよ。アドも起きてください」
 無名の司書の膝の上から声が聞こえ、ヴァン・A・ルルーがもふもふの手でアドを揺さぶり起こしていた。
 運動会からクリスマス、そして年越し特別便2012というベントが続きこれから怒涛の書類整理もある。お疲れ様と今後も頑張ろうという労いも込めて、営業終了後のクリスタル・パレスを借りて司書の新年会を昨夜、行った。集まれる司書だけとはいえこうやって集まる事があまり無かったせいか大いに盛り上がり、今日の仕事が特にない司書は夜遅くまで話に花が咲き、気がつけば泊り込んでしまったのが、今ここに残っている司書達だ。
 家主であるラファエルに無名の司書を始めとする世界司書達、贖ノ森 火城、モリーオ・ノルド、灯緒、ヴァン・A・ルルー、アドがそれぞれテーブルに着席すると楽しい朝食パーティが始まるが、少しして無名の司書は腕を組み考え込んでしまう。
「どうかしたのかい? 難しい顔をして」
 穏やかな声色でモリーオが囁きかけると、皆の視線が無名の司書へと向けられた。
「いえね、こんな幸せ、お裾分けしないとバチがあたるわよね。うんうんって思いまして、ねぇてんちょー、今日って通常営業?」
「そうですよ、いつもどおりシオン達が来たら店を元通りに……あぁ、まだ時間はありますから、朝食はゆっくりで結構ですよ」
 ラファエルがそういうと、無名の司書はまたうーん、と考えながら店内を見渡す。昨夜の新年会でテーブルや椅子が何箇所かにまとめられ、広いスペースができている。
「新年会の続きでもしたいのですか?」
「もっと人を呼んで大人数でか? 食材足りるだろうか」
「壱番世界にサトガエリをしてるんじゃないのか? ハツモウデをするんだろ?」
 ルルーの言葉に火城と灯緒が続けて言うと、無名の司書がぱん、と手を叩く。
「それそれ! 初詣! 里帰り! 新年会はもうやったから、そういったのしましょうよー! ほら、なんか歌にもいろいろあるじゃないですか、凧揚げとかこま回しとか」
『あー、羽つき、双六、福笑い、書き初め、ひ……』
 すぱーんとルルーが看板を叩くと、アドの看板はくるくると回転した。
「そうそうそんなの! ねーねー店長! どうせならテーブル戻す前にイベントやろうよー」
「今から準備して、ですか?」
「いいんじゃないかな。楽しそうだよ」
「流石に羽つきや凧揚げなら外でやることになるな」
「福笑いならつくれそうだ」
「世界図書館にも何かあるでしょうし、なんとかなるんじゃないですか?」
『なんだったら持ち寄りでもいいんじゃねぇの』
 気がつけば、司書達も巻き込んだクリスタル・パレス新年初イベントとなっていた。

 * * *

「そんなわけで新年初のイベントなんだが、例に漏れず困ったことになった」
 すでに遠い眼をしている贖之森 火城の後方では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されている。
「せっかくだから餅つきをして、自分好みの雑煮や餅料理でも、と思ってな。神楽とゲールハルトに頼んで、もっとも美味な餅がつくれる糯米(もちごめ)を手配してもらったんだが」
 ため息をつく火城の背後で、しゃげええええええという恐ろしい咆哮が響く。
 ついでに、巻き込まれた誰かの悲鳴も響く。
「ほどよくキレのいい歯ごたえと高貴な芳香、滑らかで絹のような舌触り、どんな具材とでもマッチする包容力。完成品を試食したら、確かにすばらしい餅だった。ヴォロスだったか、シャンヴァラーラだったかの糯米らしい」
 ズシャアアアアア、という重々しい足音。
 逃げ惑う人々の乱れた足並み。
 大きな臼と杵が何セットかずつ置かれた餅つき会場から聞こえるにしては明らかにおかしい音が、火城の後方から響いてくる。
「……まあ、その、なんだ。あいつらの手配した糯米が、ただ美味なだけで済むはずがない、というか」
 おかしい、新年は始まったばかりのはずなのにもう今年も充分ですっていうくらいに疲れた、と無表情にげっそりする火城の手には、糯米が入っていたと思しき大きな袋があり、そこには、

『超・糯米 喪血ノ王(もちのおう)』
『素晴らしいコシ、ねばり、味わい。一度食べたらやみつきに!』
『ただし、噛みつきます、注意!』
『中途半端に挑んで喰われても当方は責任を持ちません』

 と、恐ろしく不吉な商品名とアオリ文句、そしてどう考えても糯米に対してつけられるものではない注意書きが、おどろおどろしい血文字ででかでかと書いてあるのだった。
「……すみません、今ひとつ事情が判らないので説明を願いします先生」
「くだんの糯米を蒸したら粒が合流して怪物化したから巧いことついて餅にしてくれ。以上」
「猛烈に端折られた感はあるけどすべてが理解できた」
「ツッコミどころが多すぎてとりあえずフリーズするレベルだけどな!」
 またしてもしゃげええええええという咆哮。
 漂ってくる、蒸された穀類のよい香り。
 チラと視線をやれば、つやつやとした、テリも水分含有量も見事な糯米が、いったい何がどうなってそうなったのかと思わずテンパるくらいの意味不明さで合体し、巨大な怪物となって大暴れしているのが見えた。
 身の丈は五メートルを超えるだろうか。
 さらに、微妙にヒト型っぽいのが不気味さを誘う、蒸し糯米の塊『喪血ノ王』には、おっそろしく鋭利な牙が生えそろった巨大な口がついており、人間ひとりくらいなら簡単に呑みこまれてしまいそうだった。
「糯米の塊に喰われるとか、前世で何したらそんな目に……」
「いや、もしかしたら今世かも」
「えっ、今この場で悔い改めろ的な!?」
 ずしいいぃいんんんん。
 大地を震わす、『喪血ノ王』の一歩。
 がばあ、と開いた巨大な口が、運悪く居合わせた面々を見つけてか舌なめずりをする。
 ――すでに、餅つき大会というより、食うか食われるかの戦いだ。もともとが餅だけに、骨格も関節もないわけだから、どんな動きをしてくるか未知数なのが怖い。おまけに、見ている限りわりと動きが俊敏なのも怖い。
「ああ、そうだ。注意点がいくつかある」
「冷静だな、あんた……」
「どっちかってーと、驚愕とかツッコミがひと回りして落ち着いちゃった、に一票」
「糯米がくっついて形成されている関係上、斬る・突く・撃つなどの攻撃はほとんど効かない。すぐに再生する。動きを止めようというときや、誰かが飲み込まれたときに、中から救出するには有効だろうが、奴を倒す、要するに餅にするのには効果がないようだ」
「使用武器をよく選ばねーとマジで死にそうだな、それ……」
「杵ならたくさんあるから好きに使ってくれ」
「つーか、杵だけでなんとかなるのか、この戦い」
「ついでに言うと、魔法系の特殊能力は全部吸収されるから留意してくれ。トラベルギアも、補助能力は別だが、基本的には物理攻撃しか効かないと思ったほうがいい」
「誰が栽培したのそんなチート糯米!?」
「無論、現地の農家の人々だろうとも」
「いやまあそれはそうなんだけど……ああもうなんなのこのツッコミしかない空間。そもそも誰をターゲットにした商品なんだこれ」
「救いと言えば、アレの根本が餅であること、か。要するにしっかりついて餅に出来れば怪物化は解けるし、糯米や餅としての特性は受け継いでいるようだからそれっぽい攻撃をしてみるのもいいかもしれない」
「それっぽい?」
「……醤油を浴びせてみる、とか?」
「きなこのほうが好きです先生」
「俺はあんこか大根おろしでいただきたいけど、たぶんそういう問題でもないよな」
 一同、重々しいため息。
「……とりあえず、餅が出来たら雑煮や餅料理をつくるから、あんたたちの好みを教えてくれ。もちろん、料理を手伝ってくれるのも歓迎だ」
 終始遠い眼をしっぱなしの火城から、
「そんなわけで、その、そこそこそれなりに健闘を祈る」
 いつにも増しておざなりな激励が飛び、戦いの開始が告げられるのだった。

 平和なはずのクリスタル・パレスの片隅に、喪血ノ王の咆哮がこだまする。



!注意!
【新春遊戯会】は、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによる【新春遊戯会】シナリオへの複数参加はご遠慮下さい。

品目シナリオ 管理番号1642
クリエイター黒洲カラ(wnip7890)
クリエイターコメント皆さんこんばんは。
私事により新年の言祝ぎは控えさせていただきますが、昨年は大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、素敵面子とのコラボに乗っかって、新年初のシナリオのお誘いに参りました。余計な言葉一切不要、「考えるんじゃない、全力で乗っかるんだ!」な出オチ系シナリオですんません。

まあ、つまるところ全力でコメディです。
巻き込まれたかたがたの悲壮感はさておき、シリアス成分はありません。

判定もゆるゆる。
しかも、喪血ノ王の弱点を当てればポイント増、といったプラス判定のほうが多いです。喪血ノ王を倒すのに最適な武器は? その理由は? 最適な特殊攻撃は? そのタイミングは? などなど、いろいろネタを考えたり突っ込んだりしてください。おいしいツッコミ大募集。
(※もちろん、プレイングによっては登場率に偏りが出るかもしれないのはいつも通りです)

なお、ひとつだけ、「この攻撃方法を使うと喪血ノ王に丸呑みされるフラグ」があります(攻撃方法というより攻撃の補助かも?)。その場合、たぶん誰かが救出してくれるはずですが、目くるめく(?)経験になるかと思いますので覚悟のほどを。ネタ的な意味でむしろ呑まれたいかたは積極的に挑んでみてください。全力で受け止めさせていただきます。ヒント:でかい、くっつく、重い

そして、喪血ノ王が無事お餅になったあかつきには、雑煮や餅料理をつくってふるまいます。PCさんの故郷のお雑煮や、お好みの餅料理をご指定ください。いっしょに料理してくださるかたもお待ちしております。
「うちのクニじゃ魚竜の背骨からとったダシに炭みたいな色の餅を入れて、マンドラゴラのおひたし、吸血蝙蝠の目玉の塩漬けを山ほど載せて食うのが習わしなんだ!」といったネタも大歓迎。あえてPLさんのふるさとの味を教えてくださるのも嬉しいです(ちなみに記録者のお雑煮は白味噌に丸餅)。



以上、ゆるーく、しかし派手に、楽しく美味しく、皆さんと新年初のイベントを楽しめればと思いますので、どうぞ奮ってご参加くださいませ。

参加者
川原 撫子(cuee7619)コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?
ハルカ・ロータス(cvmu4394)ツーリスト 男 26歳 強化兵士
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157)ツーリスト 男 15歳 幻術士
アキ・ニエメラ(cuyc4448)ツーリスト 男 28歳 強化増幅兵士
“流星の”ライフォース(cuvc2060)ツーリスト 男 23歳 槍使い
ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)ツーリスト 男 29歳 機動騎士
真遠歌(ccpz4544)ツーリスト 男 14歳 目隠しの鬼子

ノベル

 1.それぞれのお楽しみ

「ううむ……」
 喪血ノ王の咆哮が振動すら伴って響き渡る中、ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードはそのたくましい腕を組み、低くうなった。
「どうした、ガルバリュート」
 杵の様子を確かめつつ、アキ・ニエメラが問うのへ重々しく頷いてみせる。
「この状況、惑星成田山で一年に一度活発になる流動生物『モァツィ』の鎮めの儀とよく似ている、と思ってな」
「……ツッコミ待ちとしか思えねぇようなネーミングと儀式だな。まあ、あんたがたの世界にはそういう摩訶不思議な生き物がたくさんいたってことか」
「うむ、我がアルガニアでは、神聖な巨大生物に危害を加えることなく自然へと還す軍事行動などが日常的に行われていたゆえ、あの時は同じ神事でも我が星とこんなにモチがうのか、と宇宙の広さを思い知ったものである」
「ん? 今なんつった?」
「はて、何かおかしなことでも言ったか?」
「え、あー、いやまあいいんだけどな。とりあえず、死人が出る前になんとかすっか。アレに呑まれて死ぬとか、自分も勘弁だし他人にも味わわせたくねぇわ」
「で、あるな」
 アキは普通の杵を、ガルバリュートはL字型ではない杵とランスを手に、吼え猛る喪血ノ王へ向き合う。
「まあ、餅つきっつーたら杵で挑むしかねぇだろ」
「アキ殿は実に楽しそうであるな」
「壱番世界の日本文化に憧れがあるからな」
 餅つきへの期待感ゆえ、もろもろをスルーしがちなアキとは違い、アルド・ヴェルクアベルはというと、明らかに正月行事ではない様相を呈するこの餅つきにツッコミ全開だった。
「何をどうしたらこんな糯米が出来るんだろう現地の農家さん」
 隣の、“流星の”ライフォースもまた大きく頷く。
「まったくだぜ。何のどういう要素から、こういう化け物じみた食い物が出来る。これは、どう考えても、精霊の悪戯しかありえないぜ」
 それを聞いて、いったいどう使うつもりなのか、杵を十本用意していたハルカ・ロータスが驚きの声を上げた。
「えっ、モチツキというのは、こういうものなんじゃないのか」
「えっ……いや、それ、どこ情報?」
「アキが普通に楽しそうだから、そういうものなのかな、と」
「ハルカとしては、あの怪物を倒すのがモチツキにおける主なミッションなわけか。豪気過ぎんだろ、そのモチツキ」
 呆れ声を上げるライフォースにアルドが深々と頷く。
「本来の餅つきは、こんな糯米も使わないし、何より生命の危機にさらされることもないからね! そこんとこよろしく!」
「そうか……これはイレギュラーなのか」
「むしろコレが通常の正月行事だった場合の、その民族の頑健さに拍手喝采を送りたいよ僕は。フツーに戦闘とかに投入しても実用可能なレベルだもんね、魔法まで無効化とかいったいどこ層を狙ってつくったのこの糯米。いやいやこんなのをわざわざ見つけてくる神楽たちもある意味スゴいと思うけどさ!?」
 ごっばあああああ、と全身を隆起させた喪血ノ王が臼を吹っ飛ばす。
 こちらへ向かって勢いよく飛んできたそれを、ハルカの念動力が受け止めた。
「やつを叩き伏せて餅に、か……おもしれぇ、やってやるとするか!」
 戦意を高めたライフォースが、いつもの得物である槍ではなく、大きな木製のハンマーを担ぎ上げるのを横目に、アルドは大きなため息をついた。
「あーもう、こういう力技はオルグの方が得意なのになー」
 杵をよいしょと抱えつつ、
「にしても……喪“血”ノ王、か。どんな味なんだろ……?」
 別件の空想に思いをはせる。
「まさか、糯米に食べられちゃった犠牲者の血とかその味が詰ま……これ以上考えるのやめ」
 吸血鬼としての性を持つアルドとしてはそれもまた魅力的ではあるのだが、傍から見た場合の視覚的インパクトはトラウマレベルである。例えば、杵で勢いよく叩いたら血が噴き出て来る糯米……など、夢に出るどころかうなされてもおかしくない。
 とはいえ、現在の面子に、血みどろの餅を目にしてショックを受けるものがいるかどうかは微妙なラインではある。
「真っ向勝負の人ってどのくらいいるのかな? まあ、いないわけないよね?」
 思い立って尋ねてみると、案の定、自己主張の声がぱらぱらと上がる。
 というか、集約してみたらアルド以外全員真っ向勝負組だった。
「僕はさすがに遠慮しとくんで、囮役よろしく」
 アルドは、喪血ノ王の注意がそれた隙に、背後から急襲する心づもりだ。
「……アキ」
 ハルカの問いかけに、アキは大きく頷いた。
「餅ってのは要するに糯米同士を上手く滑らかに結合させた結果の食い物のことだろう。つーことはつまり、打撃あるのみだ。機動力を駆使してあちこちからアプローチするぜ」
「了解。必要ならばこちらからも補佐する」
「連携か、悪くないな」
 にやりと笑ったアキが杵を担ぐと同時に、ハルカの用意した杵のうち九本がふわりと浮かび上がり、彼の周囲をくるくると回った。
 着々と戦闘態勢が整う中、参加者中唯一のコンダクター、そして唯一の女性である川原撫子は、上機嫌で打ち粉の準備をしていた。
「ちょっと順番変わっちゃいますけどぉ、まずはこれですよねぇ。打ち水の方はギアでやっちゃいますからぁ」
 ちなみに打ち粉とは別名を餅取り粉などともいい、餅を伸ばす際にくっつきにくくするための粉である。上新粉や片栗粉、米粉やコーンスターチなどが使われているほか、『餅取り粉』として売られているものの中には混ぜ物がしてある場合もある。
「餅つきはよくやりましたからぁ……たまにはこういうスリリングなのも面白いですぅ」
 火城が用意した打ち粉を20kgほど拝借し、5kgずつ袋に詰める。
「ウフフフフ、実に私向けのイベントですよねぇ……待っててお餅さん、私が叩き潰してあ・げ・る☆」
 軽々と杵を担ぎ、喪血ノ王に向かって魅惑のウィンクを放つ撫子。
 はつらつとした、可愛らしい娘さんではあるものの、この討伐戦に参加している時点で正直なところ『かよわい女子』レッテルからは見放されている。
「アルド以外は正面組か。背後の心配もないうえ、この人数で交互に打ちかかれば、バランスよくこねられそうだな」
 現に、アキなどすでに彼女を戦闘要員のひとりとして見ることに何の疑問も抱いていない。
「うむ、ではそろそろ始めるとしようか、こういうものは手際のよさが肝要と聞いた。――真遠歌殿、よろしいか」
 呼ばれて、最後の面子、鬼の子の真遠歌が小さくうなずく。
 彼の頭にはなぜか、うさみみヘアバンドが鎮座していた。線の細い、きれいな印象の面立ちをした真遠歌に、それはよく似合っていて、可愛らしいのも確かなのだが、疑問は残る。
「真遠歌はなんでそれつけてんの? 何かのおまじない?」
 アルドが尋ねると、真遠歌はおっとりと笑った。
「壱番世界では、うさぎが餅をつくと聞いたので、うさぎの格好をしたらいいお餅がつけるのじゃないかと思いまして」
「なるほど、縁起担ぎみたいなもんかな……」
 小首をかしげるアルドの傍らで、真遠歌はふと昔を思い出していた。
(お餅、か……)
 それはまだ母が生きていたころ、ふたりで、不自由ではあったが決して不幸ではない日々を送っていたころのことだ。都で祝い事があったとかで、村中に餅が配られ、真遠歌たち親子もその恩恵にあずかったのだ。
 真遠歌が母と餅を食べたのは、後にも先にもその一回だけだった。
 そのときの餅は、薄いだし汁に焼いた餅とほんのちょっぴりの鶏肉、大根の葉っぱという単純なものだったけれど、とても美味しかった。半ば狂った母とふたり、おいしいね、と微笑みあいながら食べたことを、今でもよく覚えている。
「喪血ノ王は、とてもおいしいお餅だと聞きました」
 小さな、しかし確かに胸の中に残る、今はもう失われた家族の思い出に少ししんみりしつつ、
「おとうさんとおにいさんにも、そのお餅をお土産にしたいです」
 ここにある幸せと、それを与えてくれる人たちに、おいしい餅を土産にしたい、と鬼の子は思い、腕まくりをするのだ。
「では皆さん、どうぞよろしくお願いします」
 白い着物をたすき掛けにして動きやすさを確保、大きな杵を軽々と手にして、喪血ノ王へ向かって走り出す。
 それを合図に、戦いが始まった。



 2.意外と強敵でした

 初めに動いたのはハルカとアキのコンビだった。
 故郷を同じくするこの強化兵士たちは、現在、共同生活を送っているのもあって呼吸もぴったりだ。
 飛び出したふたりが左右から回り込み、杵を振り上げると、ハルカが念動力で操る九本の杵が螺旋状にうねり、一定のリズムを保ちながら喪血ノ王へと叩きつけられる。
 喪血ノ王が大きく咆哮を上げ、腕を振り回すと、鞭のように伸びてしなった餅がふたりを襲うが、それらはアキの念動力で弾かれ、届くことはなかった。
「ひたすら叩けばいい――、だったな?」
「そうだ、テンポよく、手際よくな。時々杵を水でぬらすのを忘れんなよ、くっついちまうから」
 餅の鞭の間隙を縫うように、左右から走り込んだふたりがほぼ同時に杵を振りかぶる。次の瞬間、どしっ、という重々しい打撃音。
 明らかに鍛え上げられていることが判るアキはともかく、すらりとした細身のどこにそんな力があるのか、ハルカの一撃を背中に喰らった喪血ノ王の上半身は奇妙にひしゃげていた。――といっても、やわらかい糯米のことであるから、すぐ元に戻ってしまったが。
 その間にも、九本の杵がリズミカルに打ち付けられ、四方八方から喪血ノ王をヒットしてゆく。
 しゃっげえええええ、とどことなく怒りのにじむ声で吼えた喪血ノ王が全身を震わせ、攻撃を弾き飛ばしたところで、ハルカは念動力を止めて杵を引き、喪血ノ王から距離を取った。
 少し、糯米の粒のかたちが崩れてきたように見える。
 先鋒としては、こんなものだろう。
「それ、便利ですねぇ。荷物を運ぶのにもよさそ」
 ギアを背負いながら撫子が言うのへ、ハルカは生真面目に頷いてみせる。
「昔はよく、重機や大型兵器を運ぶのにも使った」
「そんな大きなものまで? 力持ちなんですねぇ」
「……そういうあんたも、充分力持ちだと思うけど」
 撫子は、打ち粉が入った大きな袋を三つ四つと抱えている。しかも、片腕に、だ。ひとつの袋には、5kgぶんの餅取り粉がはいっているはずなのだが、重さを感じている様子もない。背中には樽型のギアがあるのに、これに関しても重さを意識させない。
「やだ、かよわい女の子にそんなこと言っちゃ駄目ですってば」
 にっこり笑い、撫子はギアを発動させた。
 恐ろしい勢いで、ホースから水がほとばしる。
「さーて、打ち水をしちゃいましょうか☆」
 ひとまず喪血ノ王の動きを牽制すべく、ギアの強水流で吹き飛ばそうとホースを向けたが、喪血ノ王はどこに眼がついているとも判らないのに、紙一重の動きで水流を避けてしまった。
「……なるほど、一筋縄ではいかないってことですね」
 ふむ、と考え込んだのち、撫子はホースを空に向けた。
「牽制はおまけですからぁ、まずはまんべんなく水を浴びせることを優先しますねぇ」
 細かな粒になった水滴が、雨のように喪血ノ王へと降り注ぐ。
 さすがに広範囲すぎるのか、それとも攻撃ではないと認識しているのか、喪血ノ王がそれを避けることはなかった。たっぷりと水をかぶり、糯米の粒がつやつやと輝く。
「よぉし、水分OKですよ、みなさん! 思う存分ついて、おいしいお餅にしちゃってくださいね!」
 撫子もまたギアをおろし、片手で抱えていた打ち粉の袋をむんずと掴むと喪血ノ王めがけて勢いよく投擲した。150という握力を誇る彼女の手から放たれた袋は、砲弾の様相を呈しながら弧を描いて飛び、空の上でやぶれて粉をぶちまける。
「……ざっと見て5キロぐらいありそうな袋をあの勢いで軽々投擲するかよわい女の子か……」
 どこか遠い目でアルドがつぶやくのへ極上のスマイルを送ったところで、撫子の眉がひそめられた。打ち粉に追走し、そのまま杵で打ち据えようとしたのをやめ、喪血ノ王から距離を取る。
 全身に粉をかぶるかと思われた喪血ノ王が、シュババァ! という効果音が似合いそうな、残像すら見える機敏さでもって、打ち粉シャワーを回避してしまったからだ。
 回避の際、あまりの速度と回転にくっついていられなくなったようで、糯米の一部が千切れ、ミニサイズの喪血ノ王もとい喪血ノ王子となってどこかへちょこまかと走り去っていったのが見えたが、それが引き起こした騒ぎに関しては割愛する。
「速い……!」
 ともかく、それは思わず撫子に舌を巻かせたほどの速さだった。餅つきに必須のアイテムも、タイミングが合わなければ効果がない、といったところだろう。
 さらに、喪血ノ王が、どうも手らしき部分を横に振ってみせる。人差し指らしきものが立っていたような気がするが、目の錯覚だろうか。
 おまけに、あの凶悪な口から、ちちち、という舌を鳴らす音までが聞こえたような気すらして、一同、農家の皆さんに胸の奥で裏拳を放つ。もうこれ糯米っていうか魔法生物っていうか生物兵器だよね、と。
「……アキ」
「お前の言わんとしているところはなんとなく判った。つーてもアレに意思があるかどうかは――……ああうん、あった」
「なんて?」
「『気が早いぜ、お嬢さん』だそうだ」
「気が……?」
「まあ、餅取り粉は餅がつきあがってから使うもんだしな……順序を護れってことか?」
 強く意識すれば他者の深層意識すら覗けるという、強いテレパシーを有するアキが、喪血ノ王の内面を読み取って言う。猛烈に微妙な表情をしているアキへ、撫子は杵を構えながら頷いた。
「っていうことはぁ、まず力技で突っ込んで来いってことですよねぇ。仕方ないので、私、かよわいながら頑張ってみますね」
「いや、まあ……うん、突っ込まずにおくわ。ハルカ、撫子のサポート、行くぞ」
「了解」
 自称かよわい系女子の撫子嬢が、オリンピック級アスリートもかくやの速さで突っ込んで行く、その両隣にぴたりとついた強化兵士たちが追走する。
 喪血ノ王が咆哮とともに繰り出す餅の鞭は、ハルカとアキが残像すら見えるほどの速度で揮った杵によって打ち払われ、撫子の髪の毛一筋、捉えることは出来ない。
「防御は気にせず行け、俺とアキであんたを護る」
「やだ、ナイトがふたりもいるなんて、ときめいちゃいますねぇ☆」
「可憐な姫君を護る騎士ってよりは、メインウェポンを補佐する戦闘機のイメージだけどな……」
「そのほうが気楽だ、アキ」
「まあ、それは俺もだけどよ。肩を並べんのに、男も女も関係ねぇわな」
 言いざま、強化兵士ふたりがパッと左右に分かれ、両脇からこちらを狙ってくる餅の鞭を杵と念動力で抑えにかかる。胴体部分を鞭に変える力はないのか、ボディががら空きだ。
「行け、撫子!」
 ハルカの鋭い声に、撫子はにっこり笑った。
「壱番世界人には特殊能力なんてありませんからぁ、必然的にこうなっちゃいますよねぇ☆」
 笑顔のまま、こちらも残像が見えるほどの速さで連打。
 喪血ノ王のボディに杵を叩き込む。
 どしどしどしッ、と、腰の乗った重い衝撃が撃ち込まれ、喪血ノ王の粒がまた少し、まんべんなくへしゃげた。
「力技で真っ向勝負が必然の、かよわい系女子……壱番世界って、もしかして恐ろしい場所なのかな……」
 声は、悲鳴と咆哮の中間のような声を上げる喪血ノ王の頭上から。
 見れば、猫そのもののしなやかさひそやかさで巨体を駆け上ったアルドが、遠い目をしつつも杵を構えるところだった。
「……ま、それはさておき、蒸して集まっただけの糯米の塊なんだから、打って打って打ちまくればいいって話だろ!」
 銀の眼が、猛獣よろしくスッと細められる。
 杵が高々と掲げられたかと思うと、
「さあ、気持ちよくお餅になってもらおうかな!」
 宣言とともに振り下ろされる。
 力いっぱい叩きつけた杵を、糯米は力強く受け止める。二度、三度と繰り返してつけば、ずっしりとしたここちよい手ごたえが返る。蒸された糯米から、ほかほかの湯気とともに、食欲をそそる香りが立ちのぼり、鼻腔をくすぐって、
「ちなみに僕はきなこ派だーッ!」
 アルドはくわっと眼を見開き、好みを自己主張する。
 きなこにはたっぷりの砂糖とほんの少しの塩、これが正義である。
「奇遇ですねぇ、私も安倍川餅大好きですっ☆ あっでもおぜんざいもいいかも」
「俺はやっぱ醤油と海苔かなー」
 胴体をつく撫子、腕っぽい、脚っぽい部分を牽制しつつついているアキからも、食欲方面にシフトしつつある声が返り、アルドがそれもおいしそうだなあと思ったところで、喪血ノ王がひときわ大きな咆哮を上げ、からだを激しく震わせた。
 喪血ノ王がぶるぶる震えると、腕の形状をしていた、二本だけだった餅の鞭が、背中や腹と思しき場所からも生え、瞬く間に増え、更に二又三又へと別れてゆく。白い触手の様相を呈してくるそれらに、どんだけデタラメなんだとアキがぼやくのが聞こえた。
 地上組はすでに後方へ引き、適切な距離を保っているが、ゼロ距離にいるアルドはそうもいかない。獲物と見られたか、大きくうねった餅の鞭が、捕食する蛇の動きで彼を襲うものの、
「っと、ぉ……っ!」
 アルドは全身を霧へと変え、鞭だか触手だかもう判らないものから逃れた。
「霧変化まで無効化されたらどうしようかと思ったよ……」
 ふう、とため息をつくアルドの横を駆け抜けてゆくのは、杵の三倍ほどもある大きな木製ハンマーを手にしたライフォースと、うさみみヘアバンドを風にたわませた真遠歌だ。
「当たらないようにするつもりだが、万が一の時は許してくれよ」
「判りました。こちらも、なるべく当てないように気をつけます」
 先に飛び込んだのは真遠歌。
 細身の、小柄な少年のいったいどこにそんな力が、というような怪力でもって杵を叩きつけられ、いっせいに襲いかかった餅の鞭は次々とひしゃげ、粒を失ってゆく。
 ライフォースは、餅の鞭を振り払うようにハンマーを横薙ぎにし、振り抜いたそれを返して胴体へと叩き込んだ。
「覚悟しな、ぺったんぺったんにしてやるぜ!」
 威勢のいい物言いだったが、
「えっやだ、ぺったんぺったんとか可愛いじゃないですかぁ」
 彼の発した擬音語に対して、乙女一名より微笑ましいとの声が上がる。
 それに対してライフォースは首を傾げたのみだったが、もちろん試合は続行中である。鞭が触手化し、喪血ノ王の攻撃範囲が広がったおかげで、全員、ヒットアンドアウェイによる餅つきを余儀なくされている。
 そんな中、それぞれが特性を活かし、自然と互いを補い合いながら的確にダメージを与えてゆく彼らの、戦いへの高いセンスが伺えるというものだが、正直言ってその表現は餅つきに対して使うものではないと突っ込むのはダメ、ゼッタイ。
「表面の餅化はおよそ80%……だが、内部はまだ50%に達していない。外部からさらに強い衝撃を与えるか、もしくは内部からのアプローチが必要だ」
「まあ、本来は何度も返して折りたたんで行くものらしいからなぁ。つーても、内部からのアプローチって要するにいっぺん喰われろってことだろ。見たところ、内部はまだめちゃくちゃ熱いぞアレ」
 透視能力を有する強化兵士ふたりの言に、
「ううん、さすがの私にもそれは無理……って、いや、もともとかよわいんで無理なんですけど」
「霧化して侵入……あーでも出られなくなったらって考えると怖いなー」
 撫子とアルドは、杵を揮って餅触手を振り払いながら思案顔になる。
 脚部分に重い一撃を喰らわせ、喪血ノ王をぐらりと傾がせ、ライフォースが本来の得物でありトラベルギアでもある8フォースを構えた。
「まったくもって未知の敵だからな……よし、ギアを一回使うとするぜ。皆、避けていてくれよ」
 剣状の穂先を持つ槍を掲げ、
「行くぜ、8フォース。水と火、合わせて……『湯』! やつに当てて、やわらかくしてやるぜ……!」
 高らかに宣言するとともに、彼の周囲をほかほかの湯が揺蕩い、竜のように身をくねらせて喪血ノ王へと襲いかかった。
 それはさながら怪獣大決戦のようだったが、
「待て、ライフォース、あいつ……ほくそ笑んでやがる。何かある、いったん退くんだ!」
 喪血ノ王の意識を呼んだアキから鋭い制止がかかる。
 しかし、時すでに遅し。
 湯竜は喪血ノ王へと直撃し……そして。

 ぎゅるん。

「な……?」
 奇妙な音を立てて、喪血ノ王に吸収されてしまった。
 ライフォースもこれには眉をひそめざるを得ない。
「精霊の力を借りた攻撃も、魔法的なものと認識されるのか……」
 彼がつぶやく間にも、喪血ノ王の表面がぶくぶく、ぶつぶつと泡立ち、ぐねぐねと蠕動する。
「……視覚的にはあんまり優しくない光景だなーこれ。なんかもう、ホント、自分が何と戦ってるのか判らなくなるよ、これ」
 アルドのため息。
 しかし、彼もまた気づいている。
 今までにない何かが起きるということに。
「獰猛な歓喜……何か来る、気をつけろ!」
 アキの警告が周囲の空気を裂いた、次の瞬間。
 喪血ノ王が異様なまでに膨張したかと思うと、烈しい破裂音とともに全身を餅の鞭、餅の槍と変えて皆へと襲いかかる。
 その速さたるや、目視できなかったほどで、
「――ッ!?」
 喪血ノ王の意識を読んでいたアキですらそれを避けられず、激烈な一撃をもろに喰らって吹っ飛んだ。ハルカ、撫子、アルド、ライフォースも、同じく全身をしたたかに打ち据えられ、地面を転がる羽目になる。
 肉体的な意味での一般人なら、骨の一本や二本どころでない負傷をし、その場で悶絶・失神していてもおかしくないような衝撃だったが、
「今のは……さすがに、効きましたねぇ。もぉ……かよわい女の子に、なんてことするんですかぁ」
「うん、それで意識を失わないかよわい系女子ってすごいよね。壱番世界って実は異世界群中最強なのかな……あいたたた」
「ハルカ、大丈夫か」
「……どこも折れていないし、傷もついていない。だから、大丈夫だ」
「うかつだったぜ……まさか、こういう返しが来るとは。皆、すまねぇ」
「まあ、その辺は仕方ないよね、向こうの判定っていうか認識のラインも微妙だし。さてここからどうしようか……正直、僕、もうおなかペコペコなんだよね。早く餅料理にありつきたい」
「ほんと、おなか空きましたよねぇ。私、少食なんで2キロくらいしか食べられないと思うんですけど、早くごはんにしたいですぅ」
「そっかー、撫子って少食だね……えっ? 2キロ……えっ」
 案外のんきな会話が繰り広げられるのは、さすがとしか言いようがない。
 そして、その彼らを護るように、
「では、少し身体を張りましょうか。私なら……中からの攻撃が出来ます」
 ぐねぐねと蠢く喪血ノ王へ向き合うのは、うさみみヘアバンドを外しながら佇む真遠歌だ。
 彼は、唯一、喪血ノ王の猛攻を避け得た例だった。
「真遠歌? なんだって?」
 地面に転がったまま、不思議そうに見上げるライフォースへ、真遠歌は物静かな微笑みを見せる。
 そこに静かな決意を見出して、誰かが息を呑んだ。

 ――平和なはずの餅つきで、なにこのシリアス成分。



 3.様式美と仕上げのタンゴ

「ほほう……喪血ノ王も、なかなかやる」
 さて、いっぽう、もっともそれっぽいのにもっとも活躍していない男、ガルバリュートである。
 彼は、終始疲れた顔の火城を相手に、
「雨としての打ち水は魔法的な攻撃として認識されず、湯を操っての攻撃は魔法と認識され無効化される。これは、実に高度な認識機能が働いていると考えて間違いないであろう」
 などと、その深い経験と知識を惜しみなく披露しつつ、のうのうと戦闘の解説役に徹していたのだった。
「そうだな、個人的には何の目的で栽培された糯米なのかが果てしなく気になるが、もうとりあえず餅になってくれたらなんでもいい」
 料理の準備を始めている火城の返事は少々おざなりだが、ガルバリュートは気にするふうでもない。
 と、そのガルバリュートの視線が、喪血ノ王との激戦を繰り広げる仲間たちに固定されるや、彼はがばと立ち上がった。そして、両腕を掲げて曲げ、上腕二頭筋を強調する体勢、ボディビルでダブルバイセップス・フロントなどと呼ばれるポーズを取りながら高らかに呼ばわる。
「待たれよ、真遠歌殿! いったい、どうしようと言うのだ!」
 明らかに台詞とポーズがあっていないが、まだダメージから回復していない面々にそれを突っ込んでいる余裕はない。
「はい、ガルバリュートさん。私なら、喪血ノ王の中からお餅をこねることが出来ます。喪血ノ王の攻撃を受けなかったのも、何かの運命なのでしょう」
 返す真遠歌はどこまでも静かで、穏やかだ。
「いかん、危険すぎる! 貴殿にその責を負わせるわけには……」
「いいえ、やらせてください。私はお役にたちたいのです」
「真遠歌殿!」
 名を呼ぶと同時に、サイドチェストのポーズ。
 要するに、横から見た胸の厚みを強調するためのポーズである。
 もちろん、この場でそれをする意味はどこにもない。
「大丈夫です、熱さや圧迫感などには耐性がありますし、たとえ飲み込まれたとても、少しくらいなら呼吸をしなくても平気ですから」
 微笑むと同時に、真遠歌はぐねぐねぼよんぼよんと蠢く喪血ノ王へ向かって歩き出す。
「待て真遠歌、あんただけが危険な目に遭う必要は……」
「ご心配ありがとうございます、アキさん。大丈夫、立派にお勤めを果たしてみせますから」
「やめてそういうフラグっぽいシリアス成分! 僕哀しくなってきちゃったから!」
 引っ繰り返ったままの面々は止めたくても止められないし、
「いかん、よすのだ真遠歌殿!」
 口では鋭く言いつつもアドミナブル・アンド・サイのポーズを取るガルバリュートには止める気がない。
 真遠歌はまた微笑んだ。
「あとは、任せましたよ……」
 無駄にシリアスに、真遠歌の背中が彼の決意を語る。
 それを餅つきで発揮しなければならないこの状況に誰もが胸中で突っ込む中、真遠歌は大きく口を開ける喪血ノ王へと歩み寄り、伸びてくる白い餅触手に包み込まれて、
「真遠歌殿オオオオオォー!!」
 ガルバリュートの悲痛な叫びをBGMに、呑みこまれてゆく。
「う、うう……真遠歌殿……! 貴殿の気高い精神、このガルバリュート、忘れはせぬぞ……!」
 そこから、流れるような滑らかさで、これぞ極め付けと言わんばかりのモスト・マスキュラー。躍動する筋肉が、巨大さと力強さを見せつける。ボディビルの大会があったらぶっちぎりの優勝間違いなしの見事さではあったが、いかんせん時と場合に沿っていない。
「それやってる暇があったら止めろよ!?」
 ついに耐え切れなくなったアキが突っ込むが、正直、彼もさほど真遠歌を案じてはいまい。
 ようやく少し回復した面々が、やれやれとばかりに起き上がる。
「っていうか何その今生の別れみたいな台詞」
「うむ、様式美である」
 スルッと、何ごともなかったように通常に戻り、ガルバリュートはずずいと一歩踏み出した。ぶわわ、と膨れた喪血ノ王が、彼に向かって触手を伸ばそうとするが、その動きは唐突にぎくしゃくと止まる。
 と、喪血ノ王の内部から、どぉん、という派手な衝撃音が響いた。
 それは一度や二度では終わらず、喪血ノ王を内部から奇妙にひしゃげさせてゆく。喪血ノ王は、内部からの衝撃にバランスを崩し、なかなかこちらへの攻撃に移れずにいる。
「アキ、ハルカ、内部のお餅化ってどんな感じ?」
「86%まで進んだな。これなら、あとは、外部からの仕上げで行ける。――ハルカ!」
「了解。補佐を頼む」
 アキが意識を集中させると同時に、喪血ノ王の動きがぴたりと止まった。
 アキが有する特殊ESP能力、『静止』の効果によるものである。
 それとともに掻き消えたハルカが、次の一瞬で姿を現したかと思うと、その腕には、餅の欠片をあちこちにこびりつかせ、白い肌を赤くした真遠歌が抱えられている。
「……お疲れさん、真遠歌」
「ありがとうございます、助かりました」
 ハルカがそっと地面におろすと、真遠歌はどこか満足げに笑った。
 その前で、
「我が名はガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード! アルガニアの誇り高き騎士にして姫の忠実なる守護者!」
 高らかな名乗りがあがり、右手のランス、左手のL字型ではない杵が構えられる。
「拙者の鍛えぬいた肉体が、果たして貴様の軟弱な顎で噛み砕けるかな? いざ、尋常に勝負!」
 『静止』の解けた喪血ノ王が再度吼え猛る。
 びりびりと空気を震わせるようなそれに、しかしガルバリュートは不敵に笑った。
「相手にとって不足はない……このガルバリュート、全身全霊で行かせてもらうとしよう!」
 あえて、無駄にシリアスな闘志を燃やし、迫りくる喪血ノ王へと立ち向かう。
 喪血ノ王は、さながら捕食者の動きで無数の触手を伸ばし、ガルバリュートを捕らえんとするものの、ランスと杵の無双乱舞の前にそれは無力だった。ギアが突き貫き、杵が薙ぎ、叩き、力任せに伸ばし、しかもそれが残像すら伴って繰り広げられるのだ。
 しかも、存在がほぼ重機というガルバリュートの攻撃であるから、一般人なら即死していてもおかしくないレベルの威力である。おかげで喪血ノ王の粒はどんどんつぶされてゆき、表面はずいぶん滑らかになった。
「どうしたどうした! ホラホラホラホラAahhhhhhhhh!」
 雄叫びとともに振り抜いた杵が喪血ノ王を吹き飛ばす。
「はぁい、じゃあ、もう一度打ち水しますねぇ☆」
 撫子のギアが、絶妙のタイミングで喪血ノ王を湿らせ、
「そんじゃまぁたたみかけるよー。僕は背後から行くんで、みんな引き続き囮役よろしく!」
 霧変化したアルドが喪血ノ王の背後に回り込むと同時に、ライフォースと真遠歌が真正面から突っ込んで行く。
 その後ろに撫子が続いた。
「タイミングを合わせるぞ……って、言うまでもない気もするけどな!」
「不思議ですね……いっしょに戦うの、初めてのはずなのに。みなさんと呼吸を合わせるの、すごく自然にできてしまうのは、なぜなんでしょうか」
「食べるための戦いだから、ですかねぇ? 美味しいお餅まであと少し! って思ったら、心もひとつにしやすいんじゃないですか? 私も頑張っちゃいますよぉ☆」
 振り上げられ、振り下ろされ、振り抜かれた杵が、絶妙のタイミングで――それは、威勢のいい若衆が繰り広げる、神技めいた餅つきのようだった――喪血ノ王を叩き、のばしてゆく。杵同士が当たることなどただの一度もない。
「よし、そろそろ仕上げかな? そこでスタンバってるガルバリュートに任せちゃうから、よろしくー」
 四人がパッと離れると同時に、ミサイルのような勢いでガルバリュートが突っ込んできた。ぐわんぐわんと揺れる喪血ノ王に全身でタックル、吹き飛んだ喪血ノ王を掴み、空へ放り投げると自分もまた跳躍した。空中で杵と拳で散々に打ち据えて地上へと投げ落とす。
 落ちた先にあるのは――臼だ。
「この、躍動する肉体の感覚。久しく忘れていたぞ……!」
 筋肉が歓喜の軋みを上げる。
 戦いが、ガルバリュートの筋肉に猛々しい喜びを思い出させる。
「さあ……貴様の立場を判らせてやろう!」
 空中で回転しながら流星の勢いで落下、全身全霊で杵を叩きつけると、喪血ノ王はびくん、と大きく痙攣した。
 弱々しく震えた触手が、せめて一矢とばかりに蠢くものの、
「……餅は、焼いて醤油をつけたらおいしいと思う」
 全身から発火したハルカにじんわりと焦がされ、
「あっちょうどいいわ、海苔炙らせてくれハルカ」
「うわぁ、いいにおい☆ 炙りたての海苔と醤油でいただくお餅……おなかが鳴っちゃいますぅ☆」
「あ、じゃあ僕醤油塗っておくねー」
「お、ありがとよアルド。よし、じゃあとどめに海苔で封印! とかどうかね」
 アルドに醤油を塗られ、アキに海苔を張り付けられて、再度びくんびくんと震えたのち、力を失って崩れ落ちてゆく。気づけば、あの大きな口もゆっくりと消えてゆくところだった。
「アキ、こいつ、何か言ってないか。俺じゃ微弱すぎてとらえきれないけど」
「……『負けたよ、完敗だ。燃え尽きた、真っ白にな……餅だけに』だ、そうだ」
「誰がうまいこと言えと。最後の最後までツッコミどころしかなかったなぁ。まあでも、これでミッションコンプリート? 僕おなか空いたー!」
「私もですぅ。早く火城さんに料理してもらわなきゃ。うふふ、これだけたくさんあれば、みんなおなかいっぱい食べられますよねぇ」
 にこにこ笑顔の撫子が、見かけによらぬ怪力で餅を担ぎ上げると、それを合図に、全員で餅の運搬が始まる。
 おいしい時間まで、あと少し。



 4.みんな好みってけっこう語るよね

 料理自体は、餅のうまさを楽しむものであるから、それほど手を加える必要はなく、大した時間はかからなかった。
 新年の催しに、と集まった人々、カルタや双六や書初め、花札による神経衰弱に興じている面々のところへ餅料理の差し入れにいったあと、ようやく皆でいただきます、と相成る。
 皆、激しい運動をしたものだから、空腹も最高潮だ。
 めいめいに好きな餅料理を手に、餅パーティとでも呼ぶべきものが始まって、撫子は満面の笑みを浮かべながら旺盛な食欲を発揮していた。
「いやーん、この安倍川餅、美味しすぎますぅ~」
 醤油に海苔を巻いた磯部、黄な粉をたっぷりまぶした安倍川、ひとつまみの塩が甘みを引き立てるぜんざい、地域によって出汁や具材に違いが出るのが楽しい雑煮。
「大根おろしと餅って、合うんだな。さっぱりしていて、とても食べやすい」
「あ、それおいしい? 僕はさ、あまじょっぱい醤油とか黄な粉が一番って思うんだけど、餅でチーズフォンデュもいいね。しょっぱいのも悪くないなあ、今度いろいろ試してみようかな」
 ハルカやアルドが言うように、大根おろしにポン酢、グリュイエールチーズをたっぷり使った餅チーズフォンデュ、餅をパンの代わりにした餅ピザ、揚げ餅にしたものにわさび醤油を利かせ、それを大根おろしで和えたものもある。
「ハルカ、雑煮はどうだ。やっぱ醤油仕立ての澄ましにいい蒲鉾と茹でたほうれん草ってのが粋じゃねぇかと俺は思うんだが」
「ん……うん。あまり、味が複雑じゃないほうがいい」
「そうだったな。大丈夫だ、この上もなくシンプルな仕上がりだから」
 ハルカが複雑な味付けを理解できないのは、強化の後遺症によるものだ。
 それを知っているアキは、醤油餅やきな粉餅などを皿に載せて渡してやる。甲斐甲斐しいのはすでに通常運転である。
「あっ、いいですねぇ、シンプルで。アキさんの故郷でも、お雑煮を食べるんですかぁ?」
「ん? いや、雑煮ってものはないな。餅も覚醒して知ったくらいだし。俺の故郷の味で雑煮となると、玉ねぎのスープにトナカイの肉とかになる。帝国圏の中でも、特に北のほうだったからな」
「へぇ、でもそれもおいしそう☆」
 餅ピザを租借しつつ、撫子が鮮やかな緑色のあんにくるまれた餅を皿に移す。
 壱番世界は南東北地方の郷土菓子、枝豆をあんに使ったずんだ餅である。
「うーん、この独特の甘さがいいんですよねぇ~」
「へえ、こんなのもあるんだね。普通の小豆あんにはない風味で、これもいいなぁ。あ、ハルカもこれ好き?」
「俺の故郷では豆をよく食べたから、何か、懐かしいような気がする。餅と豆ってよく合うんだな……これなら、スパイスを利かせて煮込んだ豆の中に入れてもよさそうだ」
「ああ、それはきっと、エキゾティックな味わいになっておいしいだろうね。なんにでも合うのが餅のいいところだよね!」
 そのほか、正月だからと、餅ではない料理も出された。
 聞けば、火城が仕込んだおせち料理であるらしい。
 海老に数の子、紅白蒲鉾に昆布巻き、伊達巻、栗きんとん。黒豆も田作りも煮しめも、くわいやれんこんを炊いたものも火城の手づくりだそうだ。
「ふぅ……やれやれだったぜ。せっかく働いたんだから、こういうのはいただかねぇとな」
 ライフォースは、大根おろし餅を頬張り、おせちをつつきつつ、消毒代わりにと火城が出してきた清酒をちびちびやってご満悦だ。
「しかしまぁ……異世界には変な食材があって困るぜ。アレを普通に現地で消費している連中ってのは、いったいどんな猛者の集団なんだ……?」
 想像すると怖いので、そこで止めておく。
「ガルバリュート、食って、る……か、……何やってんだ?」
 世話好きのアキが給仕に回ろうとして止まったのは、
「うむ、拙者の星では穀物をこのように食さぬのだ。オートミールを固めたようなものであろうかと思っていたら、このようなことになった」
 ガルバリュートの兜に、それはもうべったりと餅が張り付き、どこが顔か判らなくなっていたからだ。くっつくにしても盛大すぎんだろ、とはその時のアキの言であるが、たぶん突っ込んだほうが負けだ。
「モチというのは、食べると粘着して困るな」
「いやそこは脱ごうぜそれ」
「兜を脱ぐくらいなら兜以外すべてを脱ぎ捨てるほうがマシだ」
「やめてくれ夢に出る」
 ため息をつきつつ、アキが兜から餅を剥がす。
「死してなお魂は屈さないとは……なかなかやるではないか、気に入った!」
 とはいえ、ガルバリュートは上機嫌である。
「苺大福……世の中には、こんなすてきなものがあるのですね……!」
 豪快に笑うガルバリュートの隣で、今回の立役者とでも言うべき真遠歌は、薄くのばした餅にあんこと苺を包んだ和菓子を前に、感動していた。
 彼は、そもそも餅に対してよい思い出を持っているため、安倍川餅にも大根おろし餅にもあん餅にもたいそう喜び、食べやすい磯部巻を嬉しくいただいていたのだが、苺大福という華やかな餅菓子にはさらなる喜びを隠しきれなかったのだった。
「ん、ああ、普通のあんこに苺もあるし、白いこしあんに苺というのもある。白いこしあんのほうが、あっさりとして上品に仕上がったかな」
 火城の説明に大きく頷いて、甘みと酸味の割合が絶妙な苺大福を頬張る。
 しばし幸せに浸ったのち、
「そうでした、火城さんにお願いがあるのですが」
「ああ、どうした?」
「こんなおいしいものをひとりで食べたら罰が当たる気がするので、家族にお土産として持って帰りたいのです」
「構わない。餅はまだたくさん残っているから、皆で好きに分けるといい」
「はい、ありがとうございます。あ、あとひとつ」
「?」
「糯米は、あまっていますか? せっかくなので、家族で餅つきを楽しみたいのです」
「……いや、確かにあまっているし、持って帰ってもらって構わないが。いいのかそれは」
「はい?」
「いや……まあ、いい。家族によろしく伝えてくれ」
「はい、ありがとうございます」
 真遠歌が礼を言う。
 テーブルの向こう側で、撫子がお椀を宙に掲げた。
「火城さん、おぜんざいのお代わりお願いしますぅ。よく働いたから、おなか空いちゃって☆」
「じゃあ僕はあん餅追加で! ぜんざいとあん餅って、材料は同じなのに存在意義がまったく違うよね」
「ハルカ、お前は? 何かほしいものがあったら言えよな」
「ん、ありがとう。アキもちゃんと食べてくれ」
「この酒と、揚げ餅の大根おろし和えはやばいくらい合うな……酒も箸も進んじまって、たまらん」
「真遠歌殿、食べているか。たくさん食わんと大きくなれないぞ!」
「あ、はい、いただいています。ありがとうございます。たくさん食べたら、ガルバリュートさんのように大きくなれますか?」
「うむ、無論である!」
 息子がそこまで大きくなってしまったら、過保護な義父は泣き伏すような気もするが、真遠歌は大真面目である。
「はい、では……頑張ります」
 真遠歌が、おっとりと微笑む間にも、餅パーティは和気藹々と続いている。
 それを見やってひとつ大きな溜息を吐くと、火城は、今年もなんやかやでにぎやかないい年になりそうだ、と苦笑して、お代わりを供すべく、玉杓子を手に取るのだった。

 ちなみに、真遠歌が持ち帰った喪血ノ王が、後日、彼の義父に盛大な貧乏くじを引かせた話に関しては、ここでは割愛させていただく。

クリエイターコメントご参加、ありがとうございました!
新年の楽しい行事……にしては、少々過激というかツッコミどころのおおい餅つきのノベルをお届けいたします。

皆さん、さまざまな方面からアプローチしてきてくださったので、喪血ノ王は見事餅になりました。たぶん、猛者との拳での語らいに、とても満足げな表情を浮かべている(?)と思います。

なお、最適な武器はもちろん打撃系、最適なアイテム・タイミングは「喪血ノ王が餅になりかけたあたりで餅料理の材料を使用」、本来の丸呑みフラグは「鞭や鎖状のもので動きを止めようとする」でした。

楽しいプレイング、どうもありがとうございました。
皆さんの出してくださった餅料理を書いていて、お餅が食べたくなりました。お正月の残りのお餅で、安倍川や磯部巻をつくろうと思います。


それでは、どうもありがとうございました。
またのご縁がありましたら、ぜひ。
公開日時2012-02-05(日) 22:30

 

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