クリエイター藤たくみ(wcrn6728)
管理番号1682-16200 オファー日2012-05-31(木) 19:06

オファーPC ムジカ・アンジェロ(cfbd6806)コンダクター 男 35歳 ミュージシャン
ゲストPC1 真遠歌(ccpz4544) ツーリスト 男 14歳 目隠しの鬼子

<ノベル>

●世界司書に問われたる詩人の物語

 ああ。彼女を見付けたのは、あんたに頼まれた仕事を片付けた帰りの事だ。楽な仕事だったよ。だから直ぐ引き上げる気で居たんだが……やたら香水臭い男と擦れ違ってね、つい振り向いた。そしたら丁度連れが男を引留めてて、藪から棒に斯う云うんだ。
「あなたは人を殺した」
 凄いと想わないか? 若し其の通りだとしても、普通真昼間の出会い頭にそんな事云えるもんじゃ無い。当然、云われた側は愉快じゃ無さそうだったが、あまり取り乱しても居なかった。男は「学校は如何した」だの「ゲームのし過ぎか」だのと責めた挙句、終いには「警察に連絡して置く」「補導されたく無かったら早く帰れ」と、尤もらしい事を云い捨てて、自分こそ逃げる様に姿を消した。
 連れが如何してそんな事を云い出したかって? 勿論訊いたよ。彼はほんの僅かな血の匂いを嗅ぎ分けたんだそうだ。
「信じるよ」
 正直、其れだけなら、例えば男が何処か擦り剥いてるって事も有り得るだろう。だが、おれは勘違いだとは想わなかった。理由は推して識るべし、ってね。
「…………有難う御座います」
 おれの一言で、彼は安堵した様だった。もっと自信を持っても良いと想うけれど。其の後、彼女を発見したのだって、結局は彼の手柄さ。
 彼女は……そうだな、綺麗だった。ちょっと乱れちゃ居たけど白いワンピースを着てた、小麦色に焼けた肌のお嬢さんでね。まるで眠るみたいに長い睫毛の目を瞑って――泣き黒子があったかな――其処に横たわってた。怪我? 首の痣以外目立ったものは何も。凶器らしい物も荒らされた形跡も無い。綺麗だったよ。




●世界司書に問われたる鬼児の物語

 女の人を見付けた折の事、ですか。先ず男が来た方を遡って、わたしが道々で微かに遺る血の匂いを追いました。目が見得ない分、鼻は利く方ですが……ムジカさんが居なかったら、きっと辿り着けなかったと想います。
「誰にも見付けて貰えない侭死んで逝くなんて、哀しいだろう?」
 彼はそう嘯いたんです、まるで遺体の在る場所が視得ている――否、識って居る様に。其の内わたし達は、山陰の竹薮に行当りました。ムジカさんが云うには竹は伸び放題で足元の薄や萩も随分背が高いと。わたしにもそう感じられました。いえ、元々田舎の方でしたから、歩いた距離は然程でもありません。あの男と別れてから……多分、二時間も経って居なかったのでは無いでしょうか。兎も角、ふたりで藪を分け入って登ったんです。迷う心配、ですか? 匂いは段々と濃く為って往くので、それはありませんでした。お気遣い有難う御座います。
 そうして、只でさえ人の寄り付かなさそうな藪の中の奥の、盗人萩が生い茂る――つまりムジカさんが云った通りの誰にも見付けて貰えなさそうな――寂しい場所に、彼女は横たわって居たんです。矢張り生の気配は感じられません。
「懐古趣味の模倣犯って訳でも無いんだろうけど……出来過ぎな気もするな」
 ムジカさんが何を考えて居るのか解りませんでしたが、其の言葉がわたしでは無く、わたし達の後をつけて来ていた、あの男に向けられて居た事は解ります。ええ、黙って居て済みません。ふたり共最初から気付いて居たんです。
 勿論、男は逃げ出そうとしました。見付るまいと其れなりに距離を置いて居た様ですが、慌てて居たのか、歩き慣れて居ないのか。早々に転んだので、直ぐに捕まえる事が出来ました。




●襄太の白状

 は、離せ!
「断る」
 痛あ! わ、わ、判った。別に逃げやしない。だから締め上げるのは止め――ぐあぁ! 阿、お、お俺は只、アンタ達を見掛けて。それで、
「それで?」
 いっ、止めろっ! ……そうだ止めろ。ったく、子供なのに何て力だ。う、あ、そうだ、其れで、そうだ。何を探してるのか興味が涌いたんだ。其れに、嗚呼、アンタ達この辺の者じゃないだろ? だから何か……手伝える事でも有ればって。ホラ、さっき酷い事云ったろ? だからお詫びも兼て、
「そりゃ助かる。丁度良いから其の侭じっとしててくれ」
 ……? 何だ? 止めろ! 俺にはそっちのケは、
「おれにだって無いよ。真遠歌、未だ離すな」
「はい、ムジカさん」
 何してる?
「何、デスモディウムの繋がる先を一寸ね……――ああ、在った」
 ですも……何だと?
「見てみろ。あんたのズボンの裾に引っ付いてた」
 ……盗人萩? こんな物其処等中に生えてるじゃないか! アンタ達を追ってる最中に偶々付いて来たんだろ? 何か? 俺が其の女を殺したとでも?
「成る程一面盗人萩だらけだ。だが妙だな。何故こいつには血が付いてる?」
 ……!
「真遠歌、間違い無いか?」
「ええ、あの人の……と、同じです」
「って訳だ。連れがあんたと擦れ違った時嗅ぎ分けたのも、こいつに付いた血の匂いだろう」
 ……。
「未だ言い逃れするつもりですか」
 いや、参った。降参だ、全部話すよ。――俺は確かに此処で女を殺した。別れ話で揉めたんだ。其の内つい頭に血が昇って、気が付いたら……彼女の胸にナイフを突き立てて居た。果物ナイフだよ。彼女は果物が好きで、いつも持ち歩いてたんだ。良く此処に来て、一緒に梨なんか食べたりしてたっけ。
「ナイフ? 彼女は刺し傷どころか指の逆剥けひとつ無い」
「此の期に及んでいい加減な事を!」
 ま、待ってくれ! 本当なんだ。つまり……俺は女を殺した。でもそいつじゃない。誰か他の奴が殺ったんだ! 彼女は、真砂子は――何処かに消えちまった! 此処に置いて往った筈なのに! こんな女は識らない! 真砂子、真砂子は何処に――!




●報告書の終章

「……如何想います?」
 真遠歌は盗人萩に突っ伏した男を押さえ込んだ侭、聡明なる詩人に問うた。或いは最終的な判断を確かめたと云った方が正鵠かも識れない。
「そうだな、咄嗟の出任せにしては悪く無い。荒唐無稽な様でリアリティが在る。其れに、新たな謎が謎を喚ぶ処なんて、如何にもセオリーじゃ無いか」
 ムジカは歌でも謡う様に男の弁明を肯定的に値踏みする。其れは彼の酔狂を浅からず識る者ならば愕くに価しなかったが、少なくとも歳若い鬼児には意外なものに聴えた。
「真逆、信じるんですか?」
「でも、だからこそ真実味が薄いよ。『ゲームのし過ぎ』だ」
 かと想えば簡単に地へ叩き落す。真遠歌は無論安堵したが、進退窮まる中弄ばれた男――襄太にしてみれば堪ったものでは有るまい。襄太は無慈悲な裁定を尚も覆すべく、真遠歌に押さえ込まれた頭を必死に廻して叫んだ。
「嘘は云って無い! な、な? アンタ達、頭良いんだろ? 頼む、一緒に捜してくれ。真砂子を――」
「おれからも訊いて置こう。真遠歌は此の男を如何視る?」
 ムジカは懇願をぞんざいに遮って、彼に圧し掛かる真遠歌へ問う。人や物の性質を見抜く事が出来る鬼児は、日頃自ら封じている其れを襄太へ向け開いた。

 社会に理解を示す仮面。彼我の立場に相応しい態度。毅然とし乍らも敵を作らず、身の程を識る振る舞い。そんな薄っぺらい皮一枚隔てた内奥は、じめじめした猛暑の狭苦しい部屋と似て居る。幼くて暴力的な目で女を吾が物とすべく隙を窺う。手に入れた玩具は滅茶苦茶にして捨て。また、次の、

「…………常識人を偽った己を周囲に見せて、本当の醜い性を特定の――懼らく特定の女性の前でのみ曝け出します。そして、其の女性を、」
「其処迄で良いよ、有難う。流石だな」
「畏れ入ります」
 若さへの気遣いなのか途中で制するムジカに、真遠歌は素直に応じた。襄太は何だか訳の判らぬ様子の侭、ふたり組の遣り取りに過剰な反応を示す。
「なっ!? 何を」
「あんたは生粋の三流盗人って事だ」
「後幾つ嘘を重ねるおつもりですか……!」
「お、おお、俺がいつ嘘をっぐあ、あ!」
 しどろもどろに早速嘘を吐く襄太が云い終える前に、真遠歌は(少なくとも彼にとっては)僅かに戒める力を強め、其の口上へ応えた。
「最初からです。あなたは人を殺した……あなたは以前此処に来て居た……」
「そして、殺害現場は此処じゃ無い。でも其処に居る彼女を殺したのは紛れも無く――あんただ」
 其処へムジカが付け加え、結論をやんわりと叩き付ける。
「此処には荒らされた形跡が見当たらない。彼女の下敷きになった物と足跡を除けば、どの草も薄も盗人萩も、ぴんぴんしてる」
「つまり、あの人は別の場所で殺されてから、此処に運ばれたと云う事ですね」
 頼もしい鬼児の要約が的を射て居る事が嬉しいのか、ムジカは微笑を浮かべた。しかし真遠歌の方は未だ何事か気懸かりな様子で俯いて居る。其処へ地に伏す襄太の異議を振り絞った咆哮が響いた。
「だ、だったら! 俺が殺ったんなら血の事は如何やって説明するんだ! 其の女は刺されたんじゃ無くて首絞められてるんだろうが!」
「……済みません。わたしも彼と同じ事を考えてしまいました」
「謝るなよ。彼女の血の匂いを辿って、此処に往き着いたんだろう?」
「其れは……間違い無いと想いますが…………」
 図らずも男が代弁した真遠歌の胸中を落ち着ける様に、ムジカは尚も笑った。
「血の匂いを辿る? ハン! そんな事出来るものか! 大体怪我ひとつ無いって云ったのはアンタじゃないか!」
 置かれた状況に反した詩人の笑みが気に喰わないのか、襄太の主張にはやっかみと敵意が顕わと為って居た。だが、ムジカは意に介した様子も無く、少し下を見乍ら、件の女性の方へ歩み寄る。草を踏まぬ事を留意して居る様に。
(何か探している……?)
 真遠歌はムジカの気配を其の様に気取ったが、真意は掴めなかった。
「何とか云えよ!」
 其の下の襄太は噛み付かんばかりの威勢でムジカへ催促する。
 ムジカは視線も姿勢も変えず、やや物憂げにやっと口を開いた。
「逆にあんたに訊きたい。本当に此処で刺し殺したのなら、遺体が無くても相当量の血痕が遺されてる筈だ。そいつは何処へ遣った? 『食べました』なんて云わないでくれよ。繰り返しに為るけど、『荒らされた』形跡が無いんだ」
 疑問にして確認、そして助言でもある。真遠歌の懸念は解かされて往く。
「そうか……此の男の証言はそもそも成り立たない」
「其の通りだ――……ああ、やっぱり在った」
 ムジカは首肯し乍ら屈み、彼女の足元で何かを摘み取った。
「ムジカさん? それは……」
 何かの、葉? 彼女の――血の、匂い。
「一方で血の気が皆無かと云えば、そんな事は無い。女には、時として血を流さなくちゃ為らない事情が有るんだよ。傷を負って居なくても、ね」
「阿……ま、真逆……」
 再度歩み寄るムジカを、其の指先を、襄太は凝視した。ムジカが見付けたのは、葉も茎も実も薄く血に濡れた、盗人萩だった。
「懼らく彼女は下着を着けて居なかったんだろう、確かめちゃ居ないけどね。で、此処に寝かされる前後に、ほんの少しだけ零れた……――足跡が判る様に、盗人の靴底を赤く濡らしたのさ。あんたはまんまと引っ掛った訳だ」
「そ、そ、そんな……そ、そんなの全部お前の憶測じゃないかああっ!」
「鋭いな。でも其の台詞は、諸々検分されて不一致だった時の為に取っといてくれ。――真遠歌。彼は初めて会った時、別れ際に何と云ってた?」
「はい、『警察に連絡して置く』と」
「そう、其れだ。どうせ未だなんだろう? 代わりに連絡して置くよ」
 詩人は仕上げとばかり鬼児に目配せする。鬼児は何も云わず諒解し、慣れた手付きで在り合せの草木を寄せ集めた。俄か忘我して呆けて居た三流盗人は、いざ笹の茎が己が身を戒め始めるや否や又も虚ろに唾を飛ばした。
「なっ止め、違っ……そ、そうだ! 其の女に頼まれたんだ殺してくれって!」
「其れも警察に自供してくれ。『私が自殺幇助の犯人です』、って」


 其の後、警察に「金澤武弘」と名乗る人物から通報があり、程無く現場へ駆けつけた警察官によって、絞殺されたとみられる女性の遺体と、竹に縛られ口に笹を詰め込まれた男性が発見された。警察は女性の絞殺及び死体遺棄の重要参考人として男性から詳しい事情を聞いているが、男性は「目隠しした子供にやられた」等と意味不明な事を繰り返しており、又、通報者「金澤武弘」と同名の戸籍は地元役場に存在しない事から、捜査は難航していると謂う。


 日暮れの田園風景にぽつぽつと浮かぶ団欒の灯を背景に、ムジカと真遠歌は辛うじて舗装されつつも砂利の散った細い道路を歩いた。辺りに人気は無いが、蛙と蟲の音が賑やかで、寂しさは感じられない。
「あの」
 少し先をのんびりと往く詩人が、喚び聲に振り向く。鬼児はなんだか改まった様子で、立ち止まっていた。
「…………有難う御座います」
 礼儀正しく頭を下げる若い仲間を、ムジカは心底不思議そうに見た。
「……如何した、改まって? 彼女を発見したのも、彼を犯人と云い当てたのも、総て真遠歌じゃないか。礼を云われる筋合いは無いよ」
「そんな事は、」
「彼と違って、真遠歌は最初から本当の事しか云わなかった」
 証明しただけだよ――気だるげに首を傾げてムジカは再び歩き出す。己の推理の悉くが、真遠歌の直感と能力を前提とした事を踏まえての応えだ。
「でも……だからこそ、です」
 真遠歌もまた置いて往かれぬ様歩き出し乍ら、不器用に語る。
「信じてくれる人が居なければこんな事は出来なかった――あの時、ムジカさんが信じると云ってくれたから、わたしは動く事が出来ました」
「…………」
「だから、有難う御座います」
 再び告げられた感謝の言葉に、ムジカは立ち止まった。真遠歌も立ち止まり、兄の様な、父の様な、友の様な、不思議な男の応えをじっと待つ。やがて、夕日と似た色の髪を靡かせて、彼は振り向いた。
「…………如何、致しまして」
 仮令見えなくともムジカが微笑んで居る様子が、真遠歌にははっきり判った。




●導きの書に出でたる聲ならぬ聲

 襄太は車の中で私の首を絞めた。これで七人目だ、って自慢気に。私は聲も出せなくて、只管襄太を睨む事しか出来なかったわ。でも彼は私の事なんて見て居ない。脱ぎ散らかした服を見て居た。そう云えば下着と迄は云わないけれど服位は着せて欲しい。私は無理矢理首を回して私のワンピースを見た。そしたら襄太は「判った、ちゃんと着せて遣るから」と云って、もっと力を篭めたの。
 愈々息が出来なくて、段々頭の中が真白に為って往って。でも色んな事を想い出した。御母さん。ゼミの皆。バイト先の子達。襄太と良く遊びに往った竹薮の事。果物一杯持ってって、ああ、此の時期は蟲が多くて大変なのよね。
 其れから――音がした。ゴキって。其の時ね、未だ生理も終わって無いのに厭だなあなんて、詰らない事を想った。其の侭私は……――――、

クリエイターコメントお待たせ致しました。


……えー、オファー文の内容は概ね反映したつもりですが、なんだか凄まじく色々やらかしてしまったような気もします。如何でしたでしょうか。だ、大丈夫でしょうか。御二方の微かながら温かい心の触れ合いが、ぶち壊しになっていないことを祈るばかりです。

少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。


この度のご依頼、まことにありがとうございました。
公開日時2012-08-18(土) 00:40

 

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