クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-9371 オファー日2011-02-20(日) 15:28

オファーPC 天摯(cuaw2436)ツーリスト 男 17歳 ソードマイスター(刀神匠)
ゲストPC1 橘神 繭人(cxfw2585) ツーリスト 男 27歳 花贄
ゲストPC2 シヴァ=ライラ・ゾンネンディーヴァ(crns9928) ツーリスト 男 52歳 魔族の大公、触手紳士

<ノベル>

 夕方。ターミナルの一角にある町家風の一戸建てから、コトコトと柔らかく煮込まれている音が響く。
「ふむ、少し味見をしてくれぬかのう?」
 天撃は、目の前の鍋から味噌汁をお玉で掬い取り、小皿に入れて橘神 繭人に手渡す。
「熱いから、気をつけるのだぞ」
 足元から出ている触手で胡麻を炒ったり、海苔を炭火で炙ったりしているシヴァ=ライラ・ゾンネンディーヴァが、声をかける。それに繭人は「うん」と頷く。
 ふうふうと息を吹きかけて冷ましてから、繭人は小皿を口に運ぶ。口の中に、出汁と味噌の香りが広がった。
「うん、美味しいよ」
「味噌が薄いとか、出汁が濃いとか、そういう事はないかのう?」
「繭が美味しいというのだから、大丈夫だ。間違いない」
 こくこく、とシヴァが頷く。
「それもそうじゃな。繭が判断したのじゃからのう」
 天撃も同じく頷く。繭人は「二人とも」と言って、照れたように苦笑する。
「俺に絶対の信頼を寄せすぎだよ」
「繭だから大丈夫だ」
「繭じゃから大丈夫じゃ」
 きっぱりと返す二人に、今一度繭人は「もう」と笑った。
「さて、味噌汁はこれで良いじゃろう。胡麻和えの方は、どうじゃ?」
 味噌汁の鍋に蓋をしながら、シヴァに尋ねる。シヴァは炒った胡麻をすり鉢でごりごりと擂りながら、繭人の方を見る。
「ほうれん草はもう切ったか? 繭」
「うん、準備できてるよ」
 繭人はそう言って、一口大に切ったほうれん草を差し出す。シヴァはそれを受け取り、すり鉢の中に入れる。
「あとは味をつけてあえたら終了だ」
「魚もいい感じに焼けてるよ」
 グリルの中を覗き込みながら、繭人が言う。
「では、豆腐を盛り付けようかのう。シヴァが炙ってくれた海苔が、いい感じになっておるし」
「葱も忘れないようにな」
「鰹節もね」
 シヴァと繭人が、口々に言う。
「勿論、分かっておる。万全の状態で、食べたいからのう」
 にこやかに天撃が返す。三人とも料理が好きなため、いつも食事の支度は賑やかだ。
 シヴァが触手でこまごまとした作業をするのが、傍から見れば奇妙といえば奇妙ではあるのだが、三人ともこれが普通なのだから気にしない。
「焼き魚には、大根おろしもいるよね」
 繭人はそう言って、大根を取り出す。
「そうじゃな。はて、すりおろし器はどこじゃったかのう」
 きょろきょろと台所を見回す天撃に、シヴァは触手をひょいっと伸ばす。
「ここにあるぞ。私がおろそうか?」
「じゃあ、お願い。俺、焼き魚盛り付けるから」
 繭人はにこやかに言って、お皿を取り出す。
「繭に言われたなら、しっかりやらないといけないな」
「おやおや、甘いのう」
 微笑交じりに天撃が言う。シヴァはそれに対し、こっくりと頷く。
「繭だからな」
「繭ならば仕方ないのう」
「もう、二人とも」
 繭人が恥ずかしそうに、笑う。
 三人が盛り付けに各々とりかかっていると、ピー、と米の炊ける音が台所に鳴り響くのだった。


 本日の夕飯は、ご飯に味噌汁、焼き魚、ほうれん草の胡麻和え、冷奴という和風の品々だ。繭人の好みに合わせた結果でもある。
「いただきます」
 ぱちん、と手を合わせて繭人が言う。それに続き、シヴァと天撃も「いただきます」と口にした。
「うむ、今日も繭のお陰で美味しくできたのう」
「繭のお陰だな」
「三人で一緒に作ったからだよ」
 笑い合いつつ、三人は食事を口に運ぶ。
「そういえば、まだ庭にほうれん草ってあるんだよね?」
 ほうれん草の胡麻和えを食べながら、繭人が尋ねる。
「あったぞ。どうしたんだ?」
 シヴァの問いに、繭人は「うん」と頷く。
「白和えも美味しいんだよなあって思って」
「なら、明日は白和えにするか?」
「うん、そうする」
 繭人はそう答えてから「あ」と声をあげる。
「でも、白菜と大根も合ったから、鍋もいいなあ」
 考え込む繭人に、天撃は「なあに」と言って笑った。
「どちらも作ればよいだけの事じゃ」
「そうだな。白和えは多めに作って、保存していてもいいのだし」
「じゃあ、そうする」
 にっこりと笑う繭人に、シヴァと天撃も目を細める。
「三人で鍋を囲うの、俺、好きなんだ」
 繭人はそう言って、二人を見つめる。優しい眼差しで。
 初めて三人で食べた食事が、鍋だった事を思い出しながら。


――ターミナルの片隅で、繭人は震えていた。
 はぁはぁと、息遣いが荒い。
 儀式の最中だった為、一矢纏わぬ姿だ。
 繭人は自らを抱きしめ、ただただ震えていた。何が起こったかも分からない。突如、放り出されてしまったのだ。
「……僕、は……あ、愛され」
 目を大きく見開き、上手くかみ合わぬ口で言葉をそれだけ紡いだ。
 周りを見ることも無い。見る必要がない。どこにいるのかさえ、今の繭人はどうだって良い事なのだ。
「愛……されて」
 目の奥が熱い。じりじりと差す。
 ガタガタ震えたままの繭人の前に、足が現れた。
「……おい」
 低い声が、繭人にかけられる。
「おい、大丈夫か?」
 返事が無い為、声は今一度かけられる。
 そこで、ようやく繭人はゆるりと顔を上げた。
 そこにいたのは、シヴァ。
「もしかして、ツーリストか? なら、私も……」
「ああああああ!!!!!」
 シヴァの言葉が終わらぬうちに、繭人は大声をあげた。
「お、おい、大丈夫か?」
 シヴァの問いにも、繭人は悲鳴でしか返さない。
 繭人の心を占めていたのは、唯一つ。

――怖い。

「私は、きみの敵ではない。大丈夫だ」
 落ち着かせようと必死になるシヴァだが、繭人の口からは「ひいいい!」という悲鳴しか出てこない。
 ふらふらに這い蹲りながらも、その場から逃げようと必死になっている。
「大丈夫だ、大丈夫だから!」
 何度もシヴァは繰り返し、手を伸ばす。が、繭人はその手を避けるように身を縮ませる。
「大丈夫……」

――キィン!

 言葉の途中で、今度は剣に遮られた。
「……剣?」
 シヴァと繭人の丁度中間の地面に突き刺さる、ぎらりと光る刃を見て、シヴァが眉間に皺を寄せる。
「何をしている?」
 静かに、剣の主が言葉を紡いだ。
 そちらを見ると、そこには天撃が立っていた。更なる剣を、練成しながら。
「なにをって、私は……」
「その子に、何をしようとしている!」
「え?」
 天撃の言葉に、思わずシヴァは聞き返す。
「おのれ、悪漢め。そこになおれ!」
 天撃はそう言い、練成した剣を次々とシヴァに向かって放つ。
「ま、待て! 勘違いだ!」
 シヴァは放たれた剣を触手で弾きつつ、弁明しようとする。
「何が勘違いだ! ぬしの触手で、裸の少年に、何をしようというのだ!」
「だから、違う!」
 シヴァはそう言い、長剣を取り出して剣を受ける。キイン、という剣と剣のぶつかり合う音が響き渡る。
「あ……」
 シヴァと天撃の繰り広げる戦いを見て、徐々に繭人は落ち着きつつあった。大きく深呼吸をし、あたりを見渡す。
「ここ、は」
 違う、と思った。今まで居た自分の世界と、違う所だと。
 続けて、天撃とシヴァを見た。シヴァを見てまだ少し怖いと思ったが、即座に深呼吸をして落ち着く。
「違う」
 今度は、口に出して否定する。
 シヴァは、繭人が恐れるべき存在ではない。
 むしろ、優しく声をかけてくれたのではなかっただろうか。
「……あ、あの!」
 勇気を出して、繭人は天撃に声をかける。
「おお、大丈夫か、少年」
「だ、大丈夫、ですけど……」
 不安な眼差しをする繭人に、天撃はにっと笑ってみせる。
「なあに、ぬしに指一本たりとも触れさせはせぬ」
 天撃はそう言い、再び剣を練成してシヴァに放った。
「だから、違う!」
 慌てて、シヴァも触手で応戦する。ざく、と一本斬られてしまった。が、すぐにまた生えてくる。
「中々、奇妙な体質だ」
 生えてきた触手を見、天撃は言う。
「奇妙なのは、お互い様だ。剣の練成、そんなに早いとはな」
 互いに目線を交わす。天撃の攻撃に、シヴァは防戦しかしていない。事態が飲み込めてないためだ。だが、それでも天撃の剣をうけてはいない。触手一本、斬られただけだ。
「攻撃をしてこないとは……驕りか」
「だから、違う。きみが、誤解をしているからだ」
「何が誤解か。現にこうして、震えている少年がいるではないか!」
 再び、天撃が剣を練成する。シヴァは「だから!」と言いながら、攻撃に対して構えを取る。
「……めて」
 繭人は、そっと口に出す。が、二人の耳に届かない。
「観念するがいい!」
「私には、何が何やら!」
 雨の様に降り注ぐ剣に、シヴァは触手で剣を振り払っていく。
「やめてください」
 もう一度、繭人は口に出す。が、やっぱり二人の耳には届かない。
「ほほう、中々やるではないか!」
「やらなければ、またざっくり斬られるからな!」
「やめてください……!」
 ついに、うわああん、と繭人は泣き出した。そこでようやく天撃とシヴァは戦いの手を休め、繭人を見る。
「ど、どうした?」
「違うんです、違うんです!」
 慌てながら尋ねる天撃に、泣きながら繭人は叫ぶ。
「ごめんなさい、違うんです!」
 繭人はそう言い、泣き伏した。シヴァは「そ、そうか」と頷きながらおろおろし、天撃も「そうか」と頷く。
「違うんです、違うんです……!」
 繭人は泣きながら何度も何度も繰り返した。


 暫く経ち、ようやく繭人が落ち着いた。裸のままでは寒かろうと、シヴァの着ていたスーツの上着を羽織っている。
「……だから言っただろう? 勘違いだと」
 シヴァが、静かに天撃に言う。
「そのようじゃのう。すまなかった」
 天撃が、ぺこりと頭を下げる。戦闘中とは違う、おっとりとした話し方だ。
「いえ、俺がいけないんです。俺が、その……」
 言葉に詰まった繭人に、天撃はぽんぽんと優しく背を叩いてやる。
「大丈夫じゃ。こうして、誤解も解けたのじゃし」
「そうそう、気にしなくていい。きみが大丈夫なら、それでいいのだ」
 シヴァが頷きながら言う。繭人は、まだシヴァに対してはびくりと体を震わせているが。
「……ごめんなさい。俺」
「気にしていない。それより、私のジャケットだけではな。ちょっとここで待っていろ、服を買ってくる」
 シヴァはそう言って、服を買いにその場を離れる。
「俺、少し怖いんです。その……大人の、男の人が」
「なあに、気にしなくてよい。そう、言っておったじゃろう?」
「うん」
 繭人は、答えながらも顔を伏せる。天撃は、暗い顔の繭人を見ながら「ふむ」と何かを考え込む。
「ぬしは、登録しに言った後、どうしたいというのはあるのかのう?」
「どうしたい、と言われても」
 天撃の言葉に、繭人は戸惑う。やって来たばかりの異世界で、一体何をどうしたらいいのかなんて、分かるわけがない。
「ならば、わしと一緒に来ぬか? 共に暮らすのも、悪くなかろうて」
「……いいの?」
「勿論だとも。賑やかな生活の方が、楽しいじゃろうて」
 天撃がそう言って笑う。そこに、シヴァが「私も」と言いながらぬっと現れる。手には、繭人のための服が入った袋がある。
「私も、その賑やかな生活に入りたいんだが」
「ほほう、参戦と言うわけじゃな」
「いいだろうか?」
 シヴァは、繭人の方を見る。繭人は天撃とシヴァを見つめ、こっくりと頷く。
「決まりじゃな。よし、じゃあ服を着て、登録に行くとするかのう」
「その後は、同居の祝宴だ。豪勢な食事を取るのはどうだ?」
「ふむ、悪くない」
 天撃とシヴァはそう言って、笑い合う。そして、繭人の方を見つめる。
「わしは、天撃じゃ」
「私は、シヴァ=ライラ・ゾンネンディーヴァ。シヴァで構わん」
 二人が自己紹介し、繭人を促す。
「あ……俺は、橘神 繭人……」
「繭人……繭じゃな」
「よろしく、繭」
 繭人に、二人が手を差し伸べる。繭人は微笑み、その手をぎゅっと握り返した。
 今度は、避けることなく。


 目の前の味噌汁を見つめつつ、繭人は思い出す。
 結局、時間の関係で登録後に豪勢な祝宴は催される事なく、簡単に食べられるという理由で、その日の食事は鍋となったのだ。
(懐かしいな)
 三人で囲んだ鍋を思い返し、繭人はそっと微笑んだ。
「何を笑っておるのじゃ? 繭」
 不思議そうな顔をしながら、天撃が尋ねる。
「俺、助けられたのが二人で、本当に良かったと思って」
 繭人はそう言って、二人を見つめる。
「俺がこうしてここに居るのも、あの時二人が俺を助けてくれたから。その助けてくれたのが、二人で良かったと思って」
 少し照れたように言う繭人に、天撃とシヴァは嬉しそうに微笑み返す。
「縁とは、異で粋なものじゃな」
「確かに。だが、こうして無関係だった三人が、家族のように暮らすのも悪くない」
 天撃とシヴァは口々に言う。
「ありがとう」
 繭人は二人に礼を言う。天撃とシヴァは何も言わず、ただ繭人の頭をふわりと撫でた。
「さて、デザートにイチゴ大福はどうかのう?」
 天撃はそう言いながら、立ち上がる。
「それはいいな。熱い緑茶も添えれば、完璧だ」
 シヴァもそう言いつつ、立ち上がる。
「俺、お茶淹れるよ」
 続けて繭人も立ち上がる。
「では、三人で片付けとデザートの準備に取り掛かるかのう」
「繭が茶を淹れてくれるそうだから、美味いに違いないな」
「それは違いないのう」
 三人は笑いながら、食卓の皿を片付け始める。
 三枚ずつの皿を重ね、流しへと持っていく。残された食卓には、三つの湯のみが並んでいる。
 繭人は急須を持ち上げ、そっと口を開く。
「天撃さんがいなかったら、俺、こうしてここに居られなかったよ」
 ありがとうの気持ちをこめて、天撃の湯飲みに茶を注ぐ。
「ちょっぴり怖いけど……俺、シヴァさんに大事にされてるのは分かってるから」
 感謝の気持ちをこめて、シヴァの湯飲みに茶を注ぐ。
「繭、茶の準備はできたかの?」
「うん、もうすぐだよ」
 台所から天撃に声をかけられ、繭人は答える。
「イチゴ大福、持って行くぞ」
「分かったよ」
 シヴァの声に答え、繭人は自分の湯のみに茶を注ぐ。
「少しだけ……判ってきたかも」
 そう呟き、繭人は三つ並んだ湯飲みを見つめる。
 ほわほわと浮かぶ白い湯気は、初めて一緒に食べた鍋の時と同じように、暖かそうに立ち昇っているのであった。


<三人暮らしを噛み締めつつ・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2011-03-10(木) 21:10

 

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