オープニング

「おーい、こっちだこっち!」
 脚立の上で、男の世界司書が手招きをしている。茶色の髪を短く刈り込んだ、グレーの瞳を持つ背の高い人間の男だ。年は三十代前半と言ったところか。
「と、俺の紹介は置いておいて、お前らに頼みたいことがあるんだ」
 司書は脚立から危なげなく飛び降りると、手にした革張りの本を開いた。
「ヴォロスに『竜刻』という不思議なものがあることは知ってるか? 簡単に説明すると、強力な魔力を持っている物質だな。詳しいことは書誌を見てくれればわかるだろう。で、それをときどき世界図書館で回収してるんだ。放っておくと危険な場合なんかにな」


 ヴォロスのとある小さな村にて。
「やっと完成したぞ!」
 美しい髭を蓄えたドワーフの娘が、高々と斧を掲げていた。
 そのドワーフの村では、誰の力も借りず一人で立派な武器を作り上げてはじめて大人と認められる風習があった。そして、今しがた斧を掲げた娘も、村の大人と認められようとしていた。
「どれ、わしに貸してみなさい」
 娘の父親が斧を手に取った。重厚な刃のついた斧の取っ手には美しい飾り彫りが施され、そこに青く輝く小さな宝石が埋め込まれていた。
「ふむ、この飾り彫り。これこそ我が村伝統の細工じゃ。ところでこの宝石はどこで手に入れたのじゃ?」
「村はずれの洞窟じゃ。なにやら神秘的な光を放っておってのう、磨いて埋め込んでみたのじゃ。美しいじゃろう?」
 父の問いに娘は胸を張って答えた。
「我が村の武器はその性能だけではなく美しさも認められておる。わしくらいの職人になれば見るだけでこれがいかに完成された武器かわかるぞ。いや、親ばかではないぞ。本当のことじゃ。しかしな娘よ、作っただけでは一人前とは認められぬというのはおぬしも知っての通りじゃ」
「父よ、わかっておる。この村を訪れる戦士に使ってもらって、初めて一流の武器と認められるのじゃろう?」
 娘は自分より少し背の高い父を見上げて言った。
「そうじゃ、そしてはじめて一人前の大人と認められるのじゃ。そしてその戦士が今、この村を訪れんとしておる」
「なんというタイミングのよさじゃ!」
「五割は当たるといわれておる村長の占いの結果じゃ。間違いない」
 父は自慢の髭をなでながら言った。
「五割で間違いがないとはどこから突っ込めばよいのかわからぬが、とにかく戦士が現れるのじゃな?」
「そうじゃ。しかし並の戦士に我々の武器の価値はわかるまい。そこで戦士にはわしらが用意した試験を受けてもらう」
「ど、どんな試験を用意したのじゃ?」
 娘は固唾を飲んで父の言葉を待った。
「最近村の畑を荒らし、隣村では死者も出したという巨大猪がおるのはおぬしも知っておるな?」
 髭をなでる手を止めた父の瞳が、鋭い光を見せた。
「ま、まさかあの巨大猪を倒せというのか? なんと無茶な!」
「それくらいの腕の持ち主でなければ、わしのかわいい娘の武器はやれぬ!」
「なんという親ばかじゃ」
 ぽかんと口を開けて唖然としている娘。
「親とは皆、子のためなら馬鹿になるものなのじゃ‥‥」
 傾きかけた日の光を背中に受けながら、ドワーフの父は髭をなでさすっていた。

 翌日の朝、ドワーフの父娘は喧騒で目を覚ました。
「猪じゃ! 巨大猪が出たぞ!」
「畑の作物を荒らしておる!」
 村人たちの悲鳴や叫び声が飛び交う中、寝間着に上着を羽織っただけの姿で父娘は騒ぎの中心へと向かった。
 およそ猪とは思えない、象ほどもある巨大な猪が畑の作物を食い荒らしていた。森に食べ物がないのか、それとも村で育てている芋やかぼちゃの味をしめたのかはわからないが、ここ最近ふと現れては畑を荒らしていく始末だ。
「父上、あの巨大猪を倒せというのか? あれは今までわしが見た中で一番凶暴な動物じゃぞ」
 ドワーフの娘は父の影で小さく体を震わせていた。


「と、いうわけだ」
 司書の男がポンと本をたたんだ。
「大方予想は付いているかもしれないが、ドワーフの娘が作った武器に埋め込まれた宝石が暴走を予見された『竜刻』だ。おまえらにはこの竜刻が暴走する前に『封印のタグ』を貼りつけて回収してきてほしい。『封印のタグ』を使えば竜刻の暴走を抑えることができるからな」
「もしもの話だが、竜刻が暴走を始めたら無理せずその場を離れろよ。暴走すると竜の形をした巨大な光が見境なく当たりのものを破壊するんだ。数時間で暴走は収まるが、その頃には村もまるごと消し飛んでいるだろうぜ」
「回収の方法は任せるが、やっぱり正面から『戦士』として巨大猪を倒し、正式に武器ごと譲り受けるのがいいだろうな。ん? お前らなら猪くらいガツンと退治できるだろ? 任せたぜ!」
 司書は封印のタグをロストナンバーたちに手渡し、早速ヴォロスへ向かうように促した。

品目シナリオ 管理番号1068
クリエイターもつなべ(wnav7416)
クリエイターコメント 暴走前の竜刻を回収して持ち帰ることが依頼の達成条件です。
 パーティで協力して、ドワーフの村を襲っている巨大猪を倒せば、ドワーフの娘が竜刻の埋められた斧を授けてくれるはずです。それに封印のタグをつけ、持ち帰ってください。
 竜刻が暴走を始めても、封印のタグをつければそれを静めることができます。
 巨大猪は巨大なだけで、特殊な能力はありません。体当たりや牙に気をつけて戦うといいでしょう。

参加者
ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)コンダクター 女 16歳 女子大生
ハギノ(cvby1615)ツーリスト 男 17歳 忍者
マグロ・マーシュランド(csts1958)ツーリスト 女 12歳 海獣ハンター
日和坂 綾(crvw8100)コンダクター 女 17歳 燃える炎の赤ジャージ大学生
ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイド(ccbw6323)ツーリスト 男 38歳 重戦士

ノベル

「ドワーフの村のヒト?」
 ロストレイルに同席したドワーフの男性を見て、壱番世界の女子高生、日和坂 綾が放った一言である。
「わしはドワーフであるが、件の村のものではないぞ。ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイド、ツーリストである」
 綾に比べて身長は低いが、それを補って余りある体格のよさと立派な髭を蓄えたドワーフ、ギルバルドが答えた。
「うわわ、ゴメンね、初めましてっ! 私、壱番世界出身の武闘派女子高生、日和坂綾っていうの。ほ、他のヒトとは結構どこかでお会いしたりしてたもんだからっ。改めてヨロシクね、えと、それじゃギルさんって呼んでもイイかな?」
 綾の口から無数の言葉が飛び出した。
「無論、かまわんぞ。わしのほうこそよろしく頼む」
 一礼するギルバルドに、ぺこりぺこりと何度も頭を下げる綾。
「まったく、綾さんはドジッ子だな~。ロストレイルに村の人が乗ってるわけないじゃん!」
 忍装束を身に付けたハギノの鋭いつっこみを、綾は照れ笑いで顔を真っ赤にしながらグローブを付けた手ですべて受け止めた。
「にぎやかな旅になりそうじゃのう」
「そうだねー、僕はこういう雰囲気が好きかもー」
 幼さの中に美しさをにじませる人間の少女、ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノと、ころんとしたイルカのような獣人の少女、マグロ・マーシュランドは顔を見合わせて笑った。
 

 ドワーフの村の畑は、例の巨大猪にすっかり荒らされてしまっていた。何とか畑を直そうと奮闘する村人が何人もいる。
 普段であれば鉄を叩く音と乾杯の音が響くにぎやかな村が、落胆の気をはらみ空気をよどませている。
 しかし、旅人たちが村を訪れたと知るや否や、村人たちはパッと顔を輝かせた。
「村長の占いは確かじゃった!」
「戦士たちが村を救いに来てくれたぞ!」
 あちこちで歓声が上がった。もちろん、先日斧を完成させたばかりのドワーフの父娘もそれに気付かないはずがない。
「ついにワシの斧が試されるときが来たか」
 緊張した面持ちで、娘は人を掻き分け騒ぎの中心へと向かった。

「どーもー、戦士御一行の到着でーす‥‥なんつってー! いや、僕は戦士じゃなくて忍者だけど」
「ニンジャ? ニンジャとは何じゃ?」
「ええと、忍者っていうのは‥‥」
 ハギノは忍者がどのような職業なのか身振り手振りを交えて語りはじめた。
「みな立派な髭が生えておるのう」
 ジュリエッタは少し不思議そうに辺りを見渡している。この村のドワーフは男も女も髭を蓄え、その美しさを保つことに余念がない。
「僕、知ってるよー。お酒が大好きな小人さんの事だよね? 絵本で見た事あるもんっ。あとねー、優秀な鍛冶屋さんなんだよねー? 僕の狩猟刀、打ち直してくれないかなぁー。コロッセオで戦った時、けっこう痛めちゃったんだよね‥‥」
 脇にさした狩猟刀をなでながらマグロが言った。
「魚が喋ったぞ! 今晩の料理にしようと思っておったがこれはいかんのう!」
「や、やめてー! 世界にはいろんな種族がいるんだよぅ」
 驚くドワーフの言葉にさらに驚いてしまったマグロは、慌ててギルバルドの背後に隠れた。
「そう! そして私たちは戦士だよ!」
 拳を固めて、綾が強く言い放った。
「異種族のおなごじゃ、髭を生やしておらぬ」
「変わった服を着ておる」
「足が見えすぎじゃ、目のやり場に困るのう」
 ドワーフたちも、異世界から来た旅人に興味と驚きを隠せずにいる。
「そ、そうくる? 目のやり場とか?」
 ちゃんとスパッツはいてるし動きやすいんだけどなぁと思いつつも、綾はやはり頬を赤く染めてしまうのだった。
「おおこれは! 戦士じゃ! 村長の占いどおり、戦士が来てくれた!」
 この村に足を踏み入れるなり何度も聞いた言葉だが、ひときわ大きな少女の声に一行は思わず振り返った。
「しかも、なんとワシ好みの‥‥ではなく、たくましい方じゃ!」
 ドワーフの娘の瞳は、ギルバルドを捕らえて乙女モードになっていた‥‥。
「素晴らしく手入れされた髭、鍛え上げられた肉体、重量感ある装備の数々‥‥運命のお方に間違いない!」
「そこかい!」
 ハギノの忍者式疾風ツッコミがドワーフの娘の肩にヒットし、娘は我に返った。
「誰じゃ?」
「忍者‥‥いえ、戦士御一行です」
 眼中に入ってなかったんかい、という言葉を飲み込んでハギノが答えた。
「わたくしはジュリエッタ・凛・アヴェルリーノと申す。旅の者じゃ」
 ジュリエッタが改めて礼儀正しく挨拶をすると、皆それに続いた。
「改めまして、僕はハギノ。戦士というか、忍者っていう職業なんだよね」
「僕はマグロ・マーシュランド! 晩ごはんじゃないんだからねー」
「私は日和坂綾。武闘派女子高生だよ。あ、女子高生っていうのは職業みたいなものかな?」
「ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイドだ。おぬしらと同じ、ドワーフである。聞くと、この村には像ほどの巨大な猪がでるというではないか。腕が鳴るぞ」
 自分たちにとって未知の種族も含めた戦士たちの登場に、村はにわかに賑わいをとりもどしたのだった。
「あっ、ワシはブレナという! 村一番の鍛冶屋の娘じゃ!」
 ドワーフの娘――ブレナは、ちゃっかり自分の自己紹介もしておいた。

 村長の家に通され、手厚いもてなしを受けた五人は宿泊して朝を待つことにした。
 村人の話では、猪は早朝現れることが多いという。それまでは作戦の打ち合わせと、下調べをする時間に当てることにした。
「入ってもよいかの?」
 ブレナの声に、ジュリエッタがドアを開けた。
「猪退治をしてもらうのに重ねて失礼なお願いかもしれぬが聞いてほしい。実はこの村には、成人するには自分の作った武器を戦士に認めてもらわねばならぬという慣わしがあるのじゃ。ワシはまだ半人前じゃが、つい先日斧を完成させての、それを見てもらいたいのじゃ」
 そう言うと、ブレナは自分が作った斧を差し出した。柄の部分には話に聞いていた竜刻と思われる宝石が埋め込まれており、幻想的な輝きを放っている。
「これはまた、見事な造りだね」
 斧を手に取ったハギノは、武器として秘められた力はもちろん、柄に施された飾り彫りに感心した。彼の所持する刀にも派手な彫金が施されており、このような飾り彫りに興味を示さずにはいられないようだ。
「でも僕にはちょっと重いかな、戦闘スタイルにもよるからね。マグロさんも見てみ?」
「へぇー、綺麗な斧だね~。だけど実用的な力強さも感じるよ。僕の故郷の鍛冶屋さんでも、これだけの武器を作れる人はいないよ? 凄いな~♪」
 元の世界では狩猟を生業としていたマグロも、その斧の力を感じ取ったらしい。
「私にも見せてくれる? すっごい、キレイ‥‥ギルさんに超似合いそうな斧だね‥‥ギルさん、この斧を持ってみてくれる?」
 マグロから斧を受け取った綾も、斧の形状や飾り彫りに思わず息を飲んだ。そして、この中でその繊細にして重厚な斧がもっともしっくりときそうなギルバルドに持ってみてほしいと懇願した。もちろんギルバルドは快く了承し、ブレナもぜひ手に取ってみてほしいと言った。
「これはこれは、実に素晴らしいものをお作りで。これで猪を倒すべきであるかな? 使ってみろ、ということかい?」
 格闘女子の綾も、両手で振るうのでやっとといった重さの斧を、ドワーフの戦士であるギルバルドは片手でひょいと持ち上げた。
「やはりギルバルド殿が持つと様になるのう」
 ジュリエッタが感心して言うと、ブレナも瞳を輝かせて感嘆のため息を漏らした。
「使っていただけるのならぜひ使っていただきたい。ワシの武器で村の敵と闘ってもらえるなど、ワシの生涯の誇りとなろうぞ」
「戦闘で使うとなると、電撃を使うときに心配じゃな‥‥」
 喜ぶブレナと対照的に、ジュリエッタは少しだけ顔を曇らせた。


 翌朝、雲ひとつない晴天。
「遠距離シューター、中距離オールラウンダー、ミラクルマジシャン、近接最強の盾。ほ~ら、私たちが負けそうな要素なんて一個もないじゃん? 私が1人くらい近接バカでも何とかなるなる~!」
 ジュリエッタ、マグロ、ハギノ、ギルバルドと順番に指さして最後に自分を指し、綾が太陽のように笑った。
「僕はマジシャンなんだ? まぁ分身したりはできるからね」
「今日は分身する?」
「どうかなー、場合によっては使っちゃうかもね。でもまぁそんじょそこらの猪くらいガッツーンと一撃‥‥」
 戦闘を前にしてワクワクしている綾にいいところを見せようと(?)、黒髪を掻き揚げてポーズをとってみるハギノだったが‥‥
「猪じゃー! 戦士殿、気をつけてくだされー!」
 遠くでブレナの声と、地鳴りのような轟音が響いた。
「‥‥いちげき‥‥えー、あれ、猪なのー?」
 土煙を巻き上げこちらに猛進してくる巨大猪を見て、ハギノが呆れたような声を出した。
「とりあえず、そのデッカイ猪さんを狩ればいいんだよね? 狩りだったら僕に任せて~」
 自慢のガン・ハープーンを構えて、マグロがトコトコと走り出した。
「マルゲリータ、行くのじゃ」
 ジュリエッタはセクタンのマルゲリータを使って、遠くから駆けてくる猪の正確な位置を掴んだ。
「ブレナたちに聞いた話ではここらは平原、足止めできそうな崖や落とし穴はないが‥‥こちらじゃ!」
 電撃を落として猪の気を引くジュリエッタ。
 その隙に、エーイと掛け声を上げてマグロが銛を猪に撃ち込んだ。猪は表皮を削られながらも致命傷を避けた。
「結構素早いねー」
 銛につけられた鎖を引くと、銛がブンと音を立てて宙に舞った。そこからさらに第二撃を加える。
「まぁかせて、怒らせるのは得意だよっ! エンエン、火炎属性ぷりーず! 行っくよ~、連続火炎弾!」
 綾はセクタンのエンエンの炎を借りて、炎をまとった蹴りを空中で繰り出した。蹴りだされた炎は弾丸のように猪に襲い掛かる。
「確実に速度が落ちてきておるな」
 息を切らせて走るジュリエッタ。彼女を追いかけながら銛と炎の攻撃を受ける猪。
 そこに、どこからかハギノが降ってきて刀で猪の顔を一閃。さらにギルバルドがハルバートで左後ろ足に一撃を加えた。
「こいつを倒せば、村は平和、僕らは竜刻を手に入れて、お嬢さんも無事成人。ついでにお腹もいっぱいで、万々歳ってとこ?」
 刀から伝わる手ごたえを感じて、ハギノがニッと笑った。顔に切りつけた刀を引き剥がしながら空中で一回転、猪の背に飛び乗り背中に一撃。
「君の突進は、なかなか強いけどー。僕がやられた海獣のに比べたら全然大した事ないよ」
 猪に追いついたマグロは銛で巨大な牙をギリギリと受け止めた。丸く小さい体からは想像もつかないような力が彼女にはある。
 動きの鈍くなった猪の右前足を、ギルバルドのハルバードが叩き潰した。
「ふん、図体がデカイぶん、足を潰せば動きにくくなるであろう。普通の獣は二つ足を潰したら動けなくなるからな」
 巨大猪は地響きのような雄叫びを上げた。
 猪の悲鳴のような声に少しビクつきながらも、走り続けて乱れた呼吸を整えて綾が叫んだ。
「私だって、行けるもん! うぉりゃ~~っ!」
 炎をまとった延髄蹴りが決まった。
 完全に動きを止め、恨めしげに低く唸る巨大猪にギルバルドが斧を振り上げた。
「この斧の切れ味を確かめさせてもらうとするか。では、わが神の名の下、輪廻の輪に戻るがいい」
 鮮血で緑の草原を赤く染めて、巨大猪は崩れ落ちた。
 猪の向こう側に、電撃を撃とうと構えて固まっているジュリエッタがいた。
「どうした?」
 ギルバルドが不思議そうに声を掛けると、ジュリエッタはプルプルと顔を横に振ってなんでもないと答えた。実は過去、彼女が竜刻を媒体にして電撃を使い、雷竜の幻を出してしまったことは後に説明することになる。それが不安で電撃の体勢のまま固まってしまっていたらしい。
「ま、こんなもんすよ。ちょろいちょろい」
 土ぼこりにまみれて黒い忍装束を真っ白にしたハギノが、刀を鞘に納めてポーズを決めていた。
「ハギノさん、それ決まってないかも~‥‥」
 綾はどこからつっこめばいいのかわからないといった表情でハギノを遠目に見た。
「それにしても、これ位の大きさなら、しばらく肉に困ることがないのである」
「それは一石二鳥だねー」
 ギルバルドの隣にマグロがころんと座り、村人の糧となる猪を眺めていた。


「巨大猪を倒してくれたことを心から感謝する。そなたらは村の恩人じゃ」
 村長は村を上げて五人に祝杯を上げた。
「そして、ブレナを正式に成人したと認める。これは勇敢なる戦士殿に」
 ブレナの作った斧は、五人を代表してギルバルドに渡された。竜刻にはもちろん封印のタグを施してある。
「ワシの娘もようやく成人じゃ。嬉しいような、寂しいような気分じゃな。これはワシからの礼じゃ」
 マグロはブレナの父から、打ち直した狩猟刀を受け取った。それはまるで新品のような輝きを取り戻していた。

 その頃、倒された猪はというと‥‥
「故郷のイタリアでは猪はサラミに加工したりと、日常的な食材なのじゃ。ブレナ殿の料理の腕前はどうなのかのう? やはり料理の腕が良ければ男どもの好感度もアップするぞ!」
 村長の家の台所で、ジュリエッタによって見事に調理されていた。
「や、やはり殿方は料理のできる女が好きか?」
 その様子をかじりつくように見ているブレナ。
「そうじゃな、男は家庭的な女に弱いのじゃ」
 日頃からリュックサックに料理器具を入れて持ち運んでいるほど料理を得意としているジュリエッタは、胸を張って答えた。
「ならば、ジュリエッタ殿には男がごまんと寄ってくるのう‥‥こんなに素晴らしい料理を作れるのじゃからな。鍛冶しかできんワシは心底うらやましいぞ」
「そ、そうじゃろう? そう思うじゃろう? しかし近頃の男は見る目が落ちておる!」
 伴侶ゲットのチャンスをことごとく逃し、撃沈記録を伸ばし続けているジュリエッタが顔を引きつらせながら笑った。大抵の男性は彼女の人形のように可憐な容姿と老人のような口調のギャップに引いてしまっているだけなのだが。
 かくして村を脅かす巨大猪は討伐され、豪華な料理となって村人の腹に収まるのであった。

クリエイターコメント竜刻の回収と巨大猪の討伐、お疲れ様でした。
竜刻は斧から外し、二つとも世界図書館の大切な資料として保管させていただきます。
いじられキャラは、キャラクターの性格から外れないようにいじらせていただきました。
戦闘がメインのノベルですが、それ以外のシーンも楽しんでいただけるように書きました。
皆さんが思ったとおりにPCを描けていれば嬉しいです。
公開日時2010-12-28(火) 21:50

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル