赤毛の優男と同じく赤毛の大型犬(?)を目の前にして、若く活発な世界史書の少女が本を広げて旅の説明をしている。 本にはヴォロスの鬱蒼とした森の奥にある、知性のある種族が生活をすることを放棄して長い年月がたったと思われる凍りついた廃村の絵が浮き出していた。「なぜこの村が凍り付いてしまったのか詳しい原因はわかりませんが、村の中心にある氷柱に閉じ込められた竜刻が関係していることが疑われます。竜刻の回収は世界図書館の大切なお仕事のひとつであるわけですから、ここはひとつお二方の力を貸してほしいわけです!」 少女の熱弁を優男――ニコ・ライニオはなるほどとうなずきながら聞いていた。「つまり君はこの僕がイケメンだから……いや、イケメンな上に炎の使い手であるからこの仕事を依頼したいってわけだよな? そりゃもちオッケーさ。君のような女の子のお願いを聞けない男なんて男としてどうかと……」「あーはいはい」 相手が女性であるというだけでものすごい食いつき方をしているニコを止めるべく、赤毛の獣――グリミスが一言挟んだ。「この男が女としゃべりだすと止まらないのはいつものことだからな。で、そのほかに聞いておくことはあるか?」 世界史書の少女はくるりとニコからグリミスに視線を移すと、話の続きをはじめた。「まあ、ニコさんの言うとおりなんですけど、炎を操ることのできるお二人なら氷の中に眠る竜刻を取り出すなんてサクッとできると思うんです! 竜刻のある村は廃村ですし、周囲にも知的種族の村はありませんし、とにかく竜刻を取り出して回収するだけの簡単なお仕事なのです!」「サクッといくかどうかはわからんがな」「サクッといっちゃおうじゃん?」 どこまでも軽くいってしまいそうなニコに、グリミスはグルルと低いうなり声で返した。「じゃあ決定ですね! はい、チケットです! 行ってらっしゃいませー!」 やたらと行動力のありそうな少女にチケットを握らされ、ぐいぐい押されて冒険の準備もそこそこにロストレイルへ。「忙しい子だねぇ、ま、今回は楽勝っぽいけどさ」 ロストレイルのシートに着くなり、ニコは余裕の笑みを浮かべていた。「俺たちの冒険がそんなに簡単に……」 四足獣らしくシートにどっしりと構えるグリミスが言い終わる前に、世界史書の甲高い声がターミナルからロストレイルにまで響いた。「えっとですねー! 言い忘れてたんですけどー!」 ロストレイル出発前に何とか間に合った少女はニコとグリミスのシートの窓側から本を押し付けて、息を切らせながら説明を付け足した。「氷柱は何本かあって、別の氷柱を溶かすと氷の中で眠っていた魔物が起きちゃうかもしれないんですよ! だから気をつけてくださいね!」 ロストレイル、出発。「えっ?」 ニコとグリミスは互いの顔を見合わせて同時に声を発した。「今あの子なんて?」 念のため、ニコがグリミスに確認を取ってみる。「竜刻以外の氷柱を溶かすと、魔物が出てくるそうだ」 努めて冷静に、グリミスが先ほどの注意を反復した。「何で一番大切なことをついでみたいに言っちゃうんだよぉ! それ間違えたら即戦闘じゃん!」 頭を抱えるニコ。「だな。で、俺は間違えない自信はないぞ」「何それぇ! 結局戦闘ありじゃん! 危険じゃん!」 こうしてニコとグリミスの氷付けの廃村ドタバタツアーが幕を開けたのであった。 色々思うところはありながら、ヴォロスの廃村までたどり着いた二人。 村の中心に高さ10メートルはあろうかという巨大な氷柱があり、その中に動物の骨のかけらのようなものがあった。それが竜刻で間違いないだろう。しかし、竜刻を含む氷柱はさらに大きな氷柱にぎっしりと囲まれていた。 人が一人二人通り抜けできる程度の間隔はあるものの、隣接する氷柱を一切溶かさずに竜刻だけを取り出すのは難しいだろう。「みんなさあ、竜刻好きすぎでしょうが! なんでこんなに集まってんの?」 ニコは氷漬けのモンスターの数々を眺めながら悪態をついた。狼のような四足獣で大きさはグリミスとさほど変わりはないが、それが竜刻に惹かれるように集まっている。「ニコ、ちょっとすごいのもいるが大丈夫か?」 グリミスの呼ぶ先には、ほかの氷柱に眠っている獣すら丸呑みにしてしまいそうな大蛇が氷の中で眠っていた。「大丈夫じゃない、一番いい炎を出すしかないだろ!」 涙目でじりじりと後ずさりするニコだったが、ここまで来た以上、しかも期待されてきた以上、竜刻を持ち帰らなければなるまい。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ニコ・ライニオ(cxzh6304)グリミス(ccdd9704)=========
時間の流れが止まってしまったかのように凍りついた廃村、そして村の中央にはこの場所が凍りつく原因となったであろう力を秘めている竜刻が氷柱の中で村と同じく眠りについていた。 あわただしく送り込まれた二人の旅行者、ニコ・ライニオとグリミスが世界図書館で聞いた情報はここまでだった。問題は出発直前、ロストレイルに乗り込んだところで舞い込んだ最悪の情報。 まるで磁石のように竜刻に魅かれ、そのまま凍りついた多数の魔物。この冒険旅行の肝とも言うべき情報。まさかその事前情報をほとんど伝えられずに、現地で改めて仰天することになろうとは。 「で、どうするんだこれを」 赤毛の霊獣、グリミスはほとんどあきれたようにニコに尋ねた。 ニコはパスホルダーから手のひら大の鏡を取り出すと、それをグリミスに見せた。 「グリミスの炎を僕のトラベルギアに吸収させて、時間差で反射させて氷柱を解かすってのはどう?」 ニコのトラベルギア――その小さな鏡には、物理的な直接攻撃以外を反射するという能力がある。時間差での反射もこの能力に含まれるので、魔物の氷柱から離れた場所で炎を吸収し、竜刻のある氷柱の前で反射させれば無駄に魔物を起こす心配はない。 「ニコにしちゃあまともなことを考えているじゃないか。女のこと以外は頭にないのかと思っていたぞ」 感心しながらも茶々を入れるグリミスの頭を、ニコは鷲掴みにするとぐりぐりと撫で回した。 「あのねえー! 僕だってちゃんと考えてるんだよ? 魔物は起こしたくないなあとか、戦闘は嫌だなあとか、早く帰ってデートしたいなあとか」 ニコの言葉を聞いて、一瞬でも感心などするのではなかったとグリミスは思った。まあ、ここでまじめな返事が返ってこようものならそれこそ心配したかもしれないが。 グリミスの炎を吸収した鏡を構えるニコ。その先には竜刻の入った氷柱がある。 「じゃ、いくよ」 鏡から噴出した炎は氷柱をとらえ、一気に解かしきる! はずだったが…… 氷柱はなかなか解けそうにもない。高さは10メートル、太さは人間の大人二人でも抱えきれないほどという大きさのせいもあるのだろうが、竜刻の力も影響して普通の氷ではなくなっているのかもしれない。 「日が暮れるぞ」 「だねー」 グリミスとニコは互いに顔を見合わせ、苦笑した。二人とも考えていることは同じらしい。ここは自分たちの本来の力を使い、竜刻を取り出すしかないだろうと。 「じゃ、僕は空から炎を吹きかけるから、グリミスは下からよろしく」 ニコは人型からその本来の姿、赤い西洋竜の姿になると空へと羽ばたいた。 「空からっておい……」 グリミスの言葉を待たずに、ニコは氷柱めがけて炎のブレスを吐いた。 「おい! 熱いっての! 俺が熱いのが苦手だって忘れたのかよ!」 文句を言いながらグリミスも地上から炎を操り、氷柱にぶつけ続ける。二人分の炎で氷柱もようやく汗をかき始めた。 「氷柱も解け始めたが、俺も溶けてきそうだ。トラベルギアを使えば俺も空にいけるんだが?」 「交代とかしないからね~。グリミス、風霊に命令するのが嫌でトラベルギア使いたがらないじゃん。それにグリミスなら炎の中でも耐えられるけど、僕はそういうわけにもいかないし」 「いや、十分耐えられないんだが」 炎の霊獣であるグリミスは肉体的には炎に耐性があるが、精神的にはそうでもない。というか、弱い。彼は熱いと集中力をなくし、冷静さを保てなくなる。 「うん、まあ、知ってるんだけどね。そこはぐっと我慢してよ」 「知っているならなおのこと!」 できる限り自分でも抑えていたつもりだが、ついにイライラが爆発したグリミスは巨大化、普段の大型犬サイズの十倍近くにもなり、勢いを増した炎は軌道をそれて仮死状態になっている魔物が閉じ込められている氷柱にぶつかった。 それまで間接的に温められていたせいもあったのか、魔物入りの氷柱はグリミスの炎の一撃で一気に解け出してしまった。竜刻のそれと違って、氷の強度は一般的なものだったらしい。 「だから俺は『間違えない自信があるぞ』と言っただろ」 溶け出した氷柱は轟音を上げて崩れ落ちた。水蒸気の煙の中に、うっすらと狼のような影が浮かぶ。 「そこは自信を持って言っていいところじゃなーい!」 空ではニコが今にも逃げ出さんばかりにじたばたともがいていた。 「わかったわかった、何とかするから。魔物といっても犬だろ犬」 体のサイズを元に戻したグリミスは、うなり声を上げると魔物に向かって突進、すばやく爪で一撃を食らわせた。長い眠りから目覚めたばかりとはいえ、魔物の動きも鈍くはない。それはグリミスに向かって牙をむく。 グリミスは魔物の牙をひらりとかわすと、もう一撃爪を叩き込み、とどめに牙をつきたてた。 「どうだ、終わったぞ」 「いやいやいや、ぜんぜん終わってないよ、むしろ始まったんじゃない?」 ニコに言われてグリミスが息絶えた魔物から周囲に目を向けると、竜刻を取り囲む氷柱が次々に崩れていく悪夢のような光景がその黒い瞳に映った。 「おい、これはどういうことだ?」 「わかんないけど僕たちの炎が原因だったりするんじゃない? あとグリミスがひとつ氷柱解かしちゃった衝撃とか?」 「俺のせいかよ!」 「そこまで言ってないってば、あ、またそうやってすぐ巨大化するじゃん」 ニコに言われてしゅるしゅるとまた元のサイズに戻るグリミス。カッとなってつい巨大化してしまったらしい。 「で、どうする?」 「とりあえずニコも戦えよ」 「僕は戦闘とかいやだし、できれば避けたかったし、こうなったのもグリミスが短気で大雑把なのが……ってごめん! ごめんって!」 散々ニコに煽られたグリミスが業を煮やして炎をニコの頭にかすめたのだ。 「あっ、頭燃えるって! 僕を爆発コント頭にする気? 多層構造すべての世界の女の子を敵に回すけどいいの?」 「ニコ、謝る気ないだろ。いいからさっさとこの魔物どもを片付けるぞ!」 「わかったよぉ」 好戦的な性格でもないし、できれば戦闘は避けたい。でもこうなった以上は仕方ない。ニコは空中から四足獣の魔物めがけて炎のブレスを吐いた。思わぬところから仕掛けられた炎に動揺する魔物たちを、グリミスが爪と牙の格闘でさばいていく。 皮膚を焦がされ、その鋭い目に怒りをたぎらせながら四足獣は皆グリミスめがけて突進してくる。 「くそっ、数が多いな……これはあまり使いたくなかったんだが」 グリミスの爪が炎を纏う。これならかなり攻撃力が増すはずだ。 『キャイン!』 グリミスの振るう炎の爪に、四足獣の魔物たちもうまく防御ができない様子でいる。ここぞとばかりに魔物をなぎ倒していくグリミス。魔物の爪も牙も、グリミスに届くことなく叩き落されていく。 「熱いな……これは熱いぞ……」 ぶつぶつとつぶやきながら、グリミスの体がまた少しずつ巨大化していく。炎に耐性があるとはいえ、熱さは感じる。そして彼は熱さが苦手である。苦手である熱さを感じ続けると、当然イライラする。そして彼の場合イライラがつのると自分を抑えきれずに巨大化してしまうのだ。 「あ、なんかやばい感じする」 ニコがポツリとつぶやいたが、時すでに遅し。自分でも気づかないうちに巨大化したグリミスが、鋭い爪に炎をまとって突進、しつこく襲い来る魔物を突き飛ばし、爪で切り裂き、そのままの勢いでひときわ大きな氷柱に激突した。 「むっ、何だ?」 「何だじゃない、あれは大蛇の氷柱だよ!」 いつの間にか人間の姿に戻り、グリミスの後ろに立っていたニコが指差した先には、眠りから覚めたばかりのおそらく腹ペコであろう大蛇がこちらを向いて鎌首をもたげていた。 「僕は知らないからな! 責任もってグリミスが何とかしてよね!」 女性の前でのイイ男っぷりはどこへやら、ほとんど半べそ状態でニコはじりじりと後ずさりした。 「うぐぐ……やるしかないのか」 グリミスは氷と水の散らばった地面をぐっと踏みしめた。 「大蛇は俺が何とかしよう、ニコ、その間に竜刻を回収してくれ」 「グリミス一人で!? そんなの危ないって!」 グリミスの決断に、先ほどまでとは打って変わってニコは真剣に心配した。 「なあに、ちゃんと考えはあるさ。それに俺が巨大化すればあんなもんただの蛇だ」 ニヤリと笑ってみせるグリミス。 「わかった。僕は竜刻を何とかしてくる」 それだけ言うと、ニコはグリミスに背を向け、再度竜の姿となり空へ羽ばたいた。 互いを信頼しているからこそできること。ニコはグリミスなら蛇だろうが大蛇だろうが勝てると信じているし、グリミスもニコなら竜刻を持ち出してくれると信じているのだ。 大蛇は突然の騒ぎで眠りを妨げられ、怒っているようにも見えた。あたりを見渡しては蛇特有の『シャー』という不気味な鳴き声を上げている。その巨体はほかの四足獣を圧倒し、普段のグリミスやニコなら丸呑みにされかねないほどだ。 「長い眠りから覚ましてやったんだ、感謝してくれてもいいだろうに」 グリミスは人の頭ほどの火球をいくつか作ると、それを次々と大蛇の顔めがけて放った。大蛇はその巨体からは想像できないほどの俊敏さで体をひねったが、火球すべてをかわすことはできなかった。 「でかい図体の割によく動けるじゃねえか、ちょっとは遊ばせてくれそうだな」 グリミスは不敵な笑みを浮かべると、トラベルギアである首輪を使い、風霊に呼びかけた。炎の霊獣である自分に空を駆けるための翼を授けよと。ジャーマン・シェパードを思わせるスマートな獣の背中に風の翼が生える。それは瞬く間に左右に広がり、グリミスの体を宙へと舞い上がらせた。 まだいくつもの氷柱が残るその場所から、大蛇を引き離そうというのだ。 火球を浴びた大蛇は標的をグリミスへと定め、空を駆ける獣のあとを追った。大蛇の体がぶつかり、細い氷柱がなぎ倒されていく。 グリミスは氷柱の群れを抜け、村のはずれへと飛び、大蛇もそれに釣られて広い場所へと這い出してきた。恐ろしいほど長く巨大な体をくねらせながら猛進する大蛇は不気味この上ない。 大蛇が低空飛行するグリミスを捕らえようと首を伸ばした瞬間、グリミスはその翼を解除し地上に降り立ち、すばやくターンして蛇の一撃をかわした。 「おっと危ねぇ、しかも怖えぇ」 すかさず体を巨大化させるグリミス。普段の十倍、体長15メートルにもなればいくら大蛇でも丸のみとはいかないはずだ。地面を駆ける早さも蛇の比ではない。大蛇もグリミスの大きさに驚いたのかぴたりと動きを止めたが、炎をぶつけられて怒りをあらわに追撃を再開した。 「俺がこいつをひきつけている間に、頼むぜ、ニコ」 グリミスは内心大蛇にたいして恐怖を抱きながらも、ニコが竜刻を回収するまでは自分の方を的として見ていてくれと願った。 一方、ニコは空から炎で竜刻の入った氷柱を解かし続けていた。魔物のほうは一段落ついたものの、竜刻の持つ不思議な力のせいかニコの炎をもってしても解けるのに時間がかかりすぎている。そもそも氷を完全に解かして中から小さな竜刻を取り出すというのはかなり時間のかかる仕事なのではないか? 「うん、これだとホント日が暮れる。で、グリミスも大蛇に食べられちゃうかも」 そこそこに解けた氷柱をじっと眺めたニコは、意を決して空から体当たりを仕掛けた。何も竜刻を取り出して持ち帰る必要はない。柱ごとへし折って持ち帰ってしまえばいいのだ。 「いたた……あ、でも解かすよりやっぱこっちのほうが早そう」 何度か体当たりを食らわせ、押して、引いて、最後は人の姿に戻ってたこ殴り。 すでに人の姿でも何とか抱えて持てる程度にまで細く解けていた氷柱は、ニコの最後の一押しでボキリと音を立てて折れた。 「はあ、なんとか折れた。何なのこの重労働。サクッとなんていくわけないじゃん」 ぶつくさと文句を言いながらもニコは折れた氷柱を抱えて魔物たちが未だ眠る不気味な氷の群れから脱出した。それよりもグリミスのことが心配だ。 「大蛇は怖いけど、グリミスに何かあったりするほうがずっと怖いもんね」 ニコは再び竜の姿に戻ると、友人を探すため空へ飛び立った。 村の外れまで飛んだニコは、巨大な蛇と巨大な犬が互いに牽制しあっているのを見つけた。 「よかった、まだ食べられてなかったんだね」 「そっちこそよく無事でいたな」 ニコの姿を見たグリミスはどこか嬉しそうな顔をした。 「で、竜刻は回収できたのか?」 「そりゃもうバッチリ」 途中で折られた氷柱を見せるニコ。 「折ってきたのかよ……まあニコらしいといえばらしいな」 あきれたような、感心したような顔で笑うグリミス……を、追いかけてくる大蛇……を、見てあわてて氷柱を抱えて空高くへと逃げるニコ。 「おい! この蛇どうする!」 「それは依頼に入ってない! 逃げるが勝ちって言葉もあるしね」 ニコがそう返すと、グリミスも二つ返事でトラベルギアを使い大空へと飛び立った。空へ逃げられてはどんなに大きな蛇だろうと追いかけてはこれない。幸いにも廃村の周辺は鬱蒼とした森が広がるばかりだったため、蛇による被害も心配ないだろう。 「しっかし、全然楽な仕事じゃなかったし、あの司書の子とデートとかがご褒美じゃないと釣り合わないレベル!」 「それでいいのか……本当に懲りない奴だな」 「竜刻は無事に回収できたんだし、うん、デートくらいは……ていうか僕に依頼したってことは僕に気があるわけで……うん」 「聞いてないのかよっ」 ニコの幸せな妄想の垂れ流しは帰りのロストレイル車内でも続き、グリミスはいつもどおりの相棒を生暖かいまなざしで見守るのだった。
このライターへメールを送る