オープニング

「世界の半分をくれてやろう」
「断るっ!」
 ズシャアッ!
 
 幾度となく繰り返されたやり取り。
 ゲームの中では魔王という存在は倒されるだけだった。
 しかも、この『ダンジョン&デーモンズ』はメインのストーリークエストをクリアしてからが本番といわれている。
 つまり、魔王というのはラスボスでさえない。
 登録ユーザー数は「壺中天」では指折りの数で、魔王はその度に倒されていた。
 幾千万の敵と向かいあい、幾千万と死んでいく。
 ゲームの敵キャラだからといえばそこまでだが、不条理だ。
 
 そんな想いが強い霊力と結び付き、暴霊となったのはもしかしたら当然の結果なのかもしれない‥‥。
 
 ***
  
 騒音といっていいほどの甲高い音が響き、人がごった返す空間。
 大人達は少なく、子供の数が圧倒的に多いここはゲームセンターである。
「幽太郎、遅いぞ」
「イヤア、ハイレル席ヲ探シテマシタカラ」
 ゾンビを撃ち殺すシューティングを黒染ぬれ羽と協力プレイで遊んでいたMarcello・Kirschが空間に突如として現れたメカニカルな竜人である幽太郎・AHI/MD-01Pを出迎えた。
「これで全員集合かな?」
 普段のワンピースや冒険時のアーマー姿ではなくチャイナドレスを着ているチェガル フランチェスカが姿をあらわす。
「ヒュー、似合うじゃないかチェガル」
「クレーンゲームでアバター衣装をゲットできたんだ」
 口笛をならして褒めるロキへチェガルはサービスとばかりにくるりと回ってみせた。
「フムフム、コウイウ機能ナノデスカ‥‥」
 幽太郎の方は目の前の空間にウィンドゥを開いて、ゲームセンターのマップや機能について確認している。
 そう、ここは普通のゲームセンターではなくインヤンガイのバーチャルネット空間「壺中天」にある無料ゲームセンターなのだ。
 その証拠に電光掲示板のような感じで、いたるところに企業や商品の広告が浮かんでいる。
「ネットカフェから繋いでこんな風に遊べるなんてな、面白いところだ」
 ゲーマーでもあるロキはいたく気に入ったようだ。
 銃を撃ってゾンビを倒しながらステージをぬれ羽と共にクリアしていく。
「ソウデスネ。僕モ何カ遊ビマショウカ」
 幽太郎がマニュアルの確認を終えて遊びにいこうとすると、ゲーセンに遊びにきている他の客の話が聞こえてきた。
「なぁ、あの『ダンジョン&デーモンズ』がバグったらしいぜ?」
「えー、マジかよ」
「装備がムチャクチャになって、パーティ内でキャラクターが入れ替わってクエストも魔王討伐しか選べなくなるってよ。ありえねぇよな」
「知ってる、問い合わせてもぜんぜん対応しないんだってよ。それに噂じゃ魔王討伐にいったユーザーがログアウトできなくなるって話」
「何それ、プログラマー氏ね」
 そこからはアンチ集団が集まり炎上といっていいくらいの盛り上がりを見せていく。
「フーム、コレハイッテミルノガ一番デスネ」
 踵を返して仲間と合流した幽太郎は渦中のゲームのプレイを呼びかけるのであった。

!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。

<参加予定者>

幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008)
チェガル フランチェスカ(cbnu9790)
墨染 ぬれ羽(cnww9670)
Marcello・Kirsch(cvxy2123)

品目企画シナリオ 管理番号1772
クリエイター橘真斗(wzad3355)
クリエイターコメントどうも、橘真斗です。
この度はこちらの企画シナリオを担当させていただくことになりました。
なお、プログラマーは暴霊に幽閉されてしまっていますので、皆さんが魔王を倒すだけが何とかする方法です。

そのほか以下のポイントに気をつけてください。

・旅行中のセクタンのフォームチェンジはできません。
・入れ替わる相手が無記入や参加者以外の場合はこちらで選ばせていただきます。
・装備はピコピコハンマー、マジックハンド、ピーヒョロ、ハリセンなど武器になりそうに無いものに変わります。

参加者
マルチェロ・キルシュ(cvxy2123)コンダクター 男 23歳 教員
チェガル フランチェスカ(cbnu9790)ツーリスト 女 18歳 獣竜人の冒険者
幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008)ツーリスト その他 1歳 偵察ロボット試作機
墨染 ぬれ羽(cnww9670)ツーリスト 男 14歳 元・殺し屋人形

ノベル

魔王のくせに生意気な

~二人のぬれ羽~
『幽太郎さん がログインしました』
 ゲームセンターからダンジョン&デーモンズにアクセスすると心地よい女性アナウンスが聞こえてくる。
 幽太郎・AHI/MD-01Pが目を開けるといつもより視線が下がっている事に気づいた。
 そして自分の体を見回してみると、体は黒染ぬれ羽になっていることに気づく。
「ボク……一度デ良イカラ人間ニナッテ、ミタカッタノ……」
 無表情の多いぬれ羽の顔に薄い笑みが浮かんだ。
「コンナ事、今考エルノハ不謹慎カモシレナイケド……今ノ僕ハ、トテモ幸セ、ダヨ」
 手を握ると感じる肉の柔らかさ、暖かさに幽太郎は恍惚な表情をする。
『ロキさん がログインしました』
『チェガルさん がログインしました』
『ぬれ羽さん がログインしました』
 続いて他の3人が幽太郎のいる場所へやってきた。
「ぬれ羽が先にきてたのか」
「違ウヨ、僕ダヨ。ロキモヌレ羽ノ姿ナンダネ」
 幽太郎に指摘されて初めて気がついた様子のマルチェロ・キルシュは髪などを触って確認する。
「これが噂のバグか……となると、そっちのチェガルと幽太郎は?」
「やっほー、ぼくゆーたろーですー、ふふふー」
 マスコットらしい名乗りをあげて手を降る幽太郎と虚ろな瞳で得意のナイフさばきをオモチャの包丁で見せようとするチェガルがいた。
「チェガルガ僕ノ体ナンダネ……センサートカ使エル?」
「ゆーちゃんの体が使いこなせればバグやチートも何とかできるのかな?」
 ぶんぶんと尻尾を降って有り余るパワーをチェガルは発散させようとしている。
「ワカラナイ、ケド……僕ハ暫クコノママデイタイナ」
 「ともかく、近くの街まで行こうか。装備を整えるにしろ状況を把握するにしろさ」
 幽太郎の言葉に上乗せするようにロキがゲーマーらしい意見を述べたので不謹慎な希望は聞かれずに済むのだった。

~囚われの姫君~
「こんなことはやめるんだ! これ以上システムがいじられると負荷がかかりすぎてこのゲーム自体が崩壊してしまうかもしれないんだ!」
 悲痛な男の叫びを薄暗くゴツゴツした岩壁の牢獄で心地良さげに聞いている者がいる。
「姫君、こんなゲームは崩壊してもいいと思わないか? 私は何万回と死を迎えても、通過点でしかない。意思と力を持たされているのにだ」
 主たる魔王が振り返るとそこには壁に両手両足を鎖でつながれているお姫様がいた。
「それがこのゲームなんだよ。君は倒されても愛されているじゃないか!」
 姿はお姫様であるものの、声は男のものである。
 彼こそが、このダンジョン&デーモンズの産みの親なのだ。
「どんなに愛されても……足らないのだよ。どうやら次の戦士がやって来たようだ。冥府魔道で叩き落としてくるからここでゆっくり眺めているといい。」
 魔王はマントを翻し牢獄をあとにする。
「はやく、誰か魔王を止めてくれ……」
 身動きの取れないお姫様は項垂れて涙を流した。


~届く願い~
 近くの街まで進んだ一行はまず始めに宿屋へと急行した。
 身も心もボロボロだったからであるのは言うまでもない。
「雑魚モンスターのパラメータのうち、AGLとTECだけが異常に高くなってたな」
 ロキが深々とため息をついて一休みする。
 キャラクターの反応速度を表すAGLと命中力のTECが高いというのはこの手のゲームではプレイヤーが好んで伸ばす手だ。
 息をつく間を与えず連続攻撃することでダメージ1でも蓄積して強敵すら倒せるのである。
 だが、ここではそれを雑魚モンスターがやってきた。
「初期装備がおかしい上に雑魚がチート性能って、本当にクソゲーじゃーん」
 チェガルが幽太郎の姿でテーブルの上に突っ伏している。
 ゲームをそこそこ遊ぶチェガルにしてもこのゲームの仕様はありえなかった。
 ゲームセンターで噂にもなるはずだと、ぐったりする。
「『クソゲー』トイウヨリ『マゾゲー』デスネ」
 回復アイテムのドリンクを口にすつ幽太郎は街にたどり着くまでに起こったことを思い返した。
 ドロップ品はろくにでない、敵は強い、所持武器は弱い、マップが見辛いなどいいところを探すほうが難しい状態である。
 よっぽど好きでないかヤリコミできる人間でもないとプレイできないゲームバランスだった。
「でも、プレイヤーが全くいない訳じゃないし、前はいいゲームだったっていうやつも多かったよな」
 チャット機能で会話されていた内容をロキが口にする。
 唯一残された魔王を倒すクエストに挑もうとしているのは『ダンジョン&デーモンズ』をこよなく愛しているユーザーなのだ。
「何としても解決したいよねー手掛かりがあればいいんだけどさー」
「……!」
 ぐったりしているチェガルがぼやいたとき、ぬれ羽が何かの視線を感じたのか急に立ち上がって窓の外を睨む。
 窓の外から見える街並みの中で影となった路地の奥に人影があるのをぬれ羽は見つけていた。

***

 ぬれ羽の体であれば詳細がわかるがチェガルの体ではそうはいかない。
 それでも発見できたのはスカウトとして鍛えていたチェガルの体だからだろう。
 視線を送る存在を確かめたく動こうとしたぬれ羽の頭に声が響く。
『見えているんだな。よかった、バグを利用したイベントのねじ込みが成功したみたいだ』
 相手の声色は女性だが、口調が男のようだ。
 何が目的かみえないがこちらが確認する前に要件を相手は伝えてくる。
『魔王はプログラムを書き換えている。倒したプレイヤーのデータを食い、最強であるように成長しているんだ。だから、勝てるとしたらデータとしての強さじゃなくてプレイヤーレベルの動き方だ。相手は倒したプレイヤーのデータを得ている。動きは良くみればパターン化しているはずだ。だから、君なら見れ……』
 説明の途中で気配が消え、声も途切れた。
 異変の詳細を知っているような口ぶりだったから、何かのフェイクであるとは考えづらい。
「……」
 しばしの黙考のあと、ぬれ羽は仲間に今起きたことを説明することにした。

~進撃の魔王城~
 ナイフを使ってスケルトンを背面奇襲し、切り裂く。
 鮮やかな手並みにダメージ硬直状態になったスケルトンへ追撃をしかけて倒した。
「ヌレ羽ガミタノハプログラマーカモシレマセンネ」
 ガタガタ震えてタコ殴りにあっていた幽太郎も魔王の城へたどり着く頃にはすっかりぬれ羽の体を使いこなしていた。
「お姫様の姿ってことは魔王の城に囚われてる。プログラマーがあいつの手元にあるならバグが治らないのは仕方ないか」
 同じぬれ羽の姿のロキが街での特殊イベントをヒントに作戦を考え、ここまで来たのである。
 最強装備を整えて、もし失敗すれば魔王が強くなるし、時間をかけるほどに犠牲者が増えていき成長するかもしれない為に急いでいた。
 ゾロゾロと鎧をつけたコボルトが集団でロストナンバー達に襲いかかってくる。
 良くみればその鎧も店売りで高ランクに分類されるものだった。
「うわー、魔王城のザコまで装備履いで強くなってんじゃん。ぬれ羽、私のビームでやっちゃってよ」
 幽太郎の姿でめんどくさそうにため息をついたチェガルの指示にぬれ羽は頷き一つで答えると口を大きく開けて太いビーム攻撃を放つ。
「ある意味ロストナンバーの能力もチートだもんね。チートにはチートだよ」
 チェガルは幽太郎の体をの探査センサーで独自のマップを作り出し、魔王の間への最短ルートを割り出していた。
 短時間ではあったものの皆、かりそめの体の能力を使いこなせるまでに成長している。
「次の扉の先が魔王の間だよ。回復アイテム使って準備してよー」
「僕モアアスレバ、役二タテルノカナ?」
 テキパキと動く自分の姿をしたチェガルを眺めつつ、幽太郎はドリンクを飲み干した。

***

 重い 扉をあけて中に入ると薄暗い部屋に青白い松明で灯りをともした謁見の間ともいうべき部屋が広がっている。
 骸を繋ぎ合わせて作った玉座には屈強な体を持つ魔王がたっていた。
「よく来たな、勇者よ。ここで死ぬのは惜しいだろう? さぁ、世界の半分をくれてやるから私の手下になれ」
 お決まりのセリフを威風堂々としたいでたちで魔王は語る。
「会社の支配者になるのも嫌がった俺が、そういうことに興味しめすと思ったか?」
 ロキが使い慣れている両刃のナイフの先を魔王に向けて不敵に笑った。
「バグを使うとは汚い、さすが魔王汚いよね。でもさぁ、流石にこんなチートじゃボクの怒りも有頂天なんで、終わりにさせてもらうよー」
 ようやく本気になれるとばかりに腕をブンブンと回すチェガルはネットスラングを口にしている。
「ならば、お前たちの力を我がものにし、この世界をそして姫を我が者としよう!」
 会話イベントが終わり戦闘が始まる。
 魔王はマップにランダムで落ちてくるイカヅチを連続で放ってきた。
 詠唱速度は早く、近づくことすらままならない。
 だが、そこはゲーマーなロキとチェガルの二人がパターンの解析を始めている。
「弾幕シューティングの要領だ、あたり判定を見ていけ!」
 こくりとぬれ羽が頷き、電磁加速の勢いで魔王の懐まで飛び込んだ。
 チェガルに作って貰った鉄パイプのような鈍器で殴りつける。
 一撃、一撃を丹念に叩き込むものの魔王の体力ゲージは減っているかもわからないほどに微妙だった。
「追撃の攻撃でダメージは更に加速するー」
 ヒット&アウェイの戦術に決めたチェガルは店でなんとか買えたショートボウ(通常価格の10倍した)でコンビネーションダメージを上乗せしていく。
「ええい、小癪なっ!」
硬直をしない 魔王は足下から吹き上がる炎の柱を立ててぬれ羽を吹き飛ばした。
「全方位吹き飛ばしとか面倒だな、本当に!」
「デモ、間合イヲツメル、チャンスダヨ」
 ぬれ羽の体を扱いこなすロキと幽太郎はマップ攻撃のイカヅチがないことを生かしナイフでチクチクと挟み撃ちを仕掛ける。
 交互に攻撃することでコンビネーションダメージが乗ることを利用した技だ。
 雑魚敵に使われボロボロになった経験を生かしていた。
 魔王の体力ゲージが瞬く間に減って行く。
「お前たち、ただのユーザーではないな」
「ご名答、ボク達はロストナンバーっていうのさ。また吹き飛ばしがくるよ」
 感知センサーを最大にして微妙なモーションから次の手を予測し、チェガルが仲間へ指示をだす。
 一歩離れて戦うことと幽太郎の体を上手く使った戦い方だった。
 ダッシュして下がり、吹き飛ばし攻撃が終わるとともにぬれ羽も参加しての三人時間差攻撃が敢行される。
 魔王の体力ゲージの減少が加速し、コンボエフェクトが派手になった。
「私は私は負けたくない。私はあの人の役に立ちたいっ!」
 魔王の声が響くが、その声色は女性のようである。
 嵐を起こして硬直するような連続攻撃が近距離で殴っていた3人に襲いかかった。
「恥知らずな魔王がいたもんだね。女々しいのはそこまでで終わりだよ」
 そして、チェガルの弓が魔王の胸を貫きとどめになる。
 画面が真っ白になる演出のさなか、消えていく薄い女性の影に幽太郎はそっと呟いた。
「……アリガトウ、アナタ、ノオカゲデ、良イ思イ出ガデキタヨ」

 その後、お姫様になったプログラマーは助けられた。
 バグも元通りに治ると共にロキが主導で誤解を解くよう口コミで『ダンジョン&デーモンズ』のよさを語ったことで悪いイメージは薄れる。
 今日もまた、ネットの世界で冒険が続けられ魔王は倒されている……。

クリエイターコメント 遅くなってすみません。
 ちょっと圧縮しすぎてしまったかもですが、如何でしょうか?
 ネットゲームらしい雰囲気を感じて楽しんでもらえたなら幸いです。
 いつも似たようなコメントしかできないのが情けないですが、今後ともよろしくお願いします。
 
 それでは次なる運命が交錯するときまで、ごきげんよう。
 
公開日時2012-04-09(月) 21:10

 

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