クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-10515 オファー日2011-05-11(水) 23:15

オファーPC キアラン・A・ウィシャート(cese6575)ツーリスト 男 40歳 万事屋
ゲストPC1 ナオト・K・エルロット(cwdt7275) ツーリスト 男 20歳 ゴーストバスター

<ノベル>

「何、こいつ。変な格好!」
 キアラン・A・ウィシャートは、小声で呟いた。
 目の前に居る少年は、ハットを被り、サングラスをかけ、ハイネックにベスト、おまけにコートを羽織るという完璧に日光を遮断する格好をしている。
(暑くね?)
 キアランはちらり、と空を見る。本日も、モフトピアは大変良い天気だ。太陽の恵みがさんさんと降り注いでいる。
(勿体無い格好しやがって)
 キアランは、軽く溜息をつく。
 年がら年中、いつでも太陽が空を照らす世界出身のキアランにとって、太陽の光は常に共にあるものだ。それを浴びないなんて、ありえない。
「あちぃ……」
「それだけ着込めば、暑いだろうよ」
 初対面なので、あくまでも、軽く。かるーく、キアランは突っ込んでおいた。
 それなのに。
「変な格好の奴に、言われたくないね」
 少年、ナオト・K・エルロットはぴしゃりと返してきた。
「へ、変な格好だと?」
「だって、そうだろ? 何だよ、その薄着。肌、焼けてるし!」
 ナオトから見れば、キアランの方が十分変な格好をしている。
 何せ、ナオトの出身は、年がら年中いつでも闇が空を支配している世界なのだから。
 太陽、何それ? のレベルだ。
 その所為で、日射病にでもなりそうな勢いだ。
「太陽の光を浴びれば、自然とこうなるんだよ。てか、ボウズのそのなまっ白い肌はどうしたんだ?」
「仕方ねーだろ! 元々、太陽なんて無い世界だったんだからよ!」
「ほほう、俺の世界と正反対って事か」
 キアランの言葉に、互いが納得しあう。
 だから、互いに変な格好をしているのか、と。
「まあ、いいや。さっさと行こうぜ」
 ナオトはそう言い、くるりと踵を返す。
「おい、どこ行くんだ?」
「どこも何も! 探すんだろ? 迷子のアニモフちゃんをよ」
 ナオトの言葉に、キアランは「ごもっとも」と言って頷く。
 その為に、二人はこうしてモフトピアに降り立ったのだから。


 アニモフの一人が、山から帰ってこないという。手を貸して欲しいと言う依頼に、ナオトとキアランは揃って挙手をした。
 別に、言い合わせていたわけではない。たまたまだ。
 こうして、出身世界が正反対の二人は、同じ依頼へと着手したのだった。
「案外大きいんだな、この山」
 出かけていったと言われている山を見上げ、ナオトは呟く。相変わらずのふわふわ具合の地面だが、ずもももっと聳え立つ姿は立派だ。
「だが、道自体は一本道みたいだ。手分けするほどでもないだろう」
 キアランはそう言って、登山口を指差す。特に迷子になりそうもない、真っ直ぐな道がそこにある。
「道から、逸れたんだろうな」
「とにかく、山の頂上目指しつつ、逸れていきそうな所を探していくしかねぇなァ」
 分析するナオトにキアランはそう言い、揃って登山道へと足を踏み入れる。
 登山道には木々が程よく点在している為、光と影がバランスよく存在していた。対照的な二人の格好も、そこまで気にならない程度である。
 そうして暫く歩いて行くと、傍らに洞窟があるのをナオトは見つける。
「なぁ、オッサン。あれ、怪しくね?」
 ナオトが指差す先にある洞窟を見て、キアランは「あ、ああ」と頷く。
 ほんの少し、様子がおかしい。
 だが、気にせずナオトは洞窟へと近づいていく。キアランもそれについていく。
「……案外、暗いな」
 中を覗き込みつつ、ナオトは言う。「中、ちょっと見てみるか?」
 そう言いながら振り返ると、キアランは洞窟の前で固まっていた。覗き込もうともせず、ただその場に立ち尽くしている。
「おい、オッサン?」
 怪訝そうにナオトが言うと、キアランは「あ、ああ」とだけ答える。
「だ、だがな。この洞窟、そんなに重要じゃないかもしれんぞ」
「何でだよ? この中に入り込んでるかもしれないだろ」
「そ、それなら……そうだ、ボウズ! お前、ちょっと行ってこいよ」
 キアランの提案に、ナオトは「はぁ?」と聞き返す。
「だ、だからだな。本当に、子の中にアニモフがいるかどうかを、ボウズがちょっくら見てくればいいじゃないか、と」
「だから、何でそういう事を言うんだよ?」
 不思議そうにナオトが尋ねると、キアランは困ったような表情をし、ちら、と洞窟を見た。
 洞窟の中は、太陽の光が届く事がなく、暗い。
 真っ暗だ。
 洞窟の中をちらちらと見るキアランに、ナオトはにやり、と笑う。
「まさか、オッサン。暗いのが怖いとか?」
 びくっ、とキアランの体が震える。
「え、何なに? オッサン、いい年して暗いのが怖いのかよ」
「ば、ばばば、バカ言え!」
 明らかに、ナオトの言葉に動揺するキアラン。
「なら、平気だってのかよ?」
「あ、あったり前だ! 怖いわけ、あ、あルかぁあ゛!」
 うおおおお、とキアランが吠える。
「よし、じゃあ行けるよな?」
 ナオトはそう言って、ぐい、と親指で洞窟の奥を指す。その途端、吠えていたキアランの動きが、ぴたりと止まる。
「……無理」
「ん、何だって? やっぱり怖いのか?」
「こ、怖くねぇぞぉおお!」
「よし、行くぜ!」
「うおおおお!」
 目をキラキラさせながら促すナオトに乗せられ、キアランは勢い良く洞窟の中へと走り出す!

――何も怖くない、怖い訳が無い。
――暗いのが、怖い訳、無い……!

 キアランは、何度も心の中で叫びつつ、両足を動かした。
 よって、その様子を満面の笑みで見つめているナオトに、気づく事もなかったのだった。


 数分後、入った時の勢いもなく、どんよりしながらキアランは洞窟から出てきた。
「いなかったなぁ、アニモフ」
「……ああ」
「中が入り組んでなかったのは、残ね……良かったけど」
 ナオトの言葉に、ぴくりとキアランは体を震わせる。
「ボウズ、お前今、残念とか言おうとしなかったか?」
「まさか」
 満面の笑みで答えるナオト。明らかに、楽しんでいる様子だ。
 キアランは小さく「くそ」と呟き、気を取り直す。
 今は、アニモフを見つけることが大事なのだから。
 暫く歩いていると、ばあ、と木々から開けた場所が見えてきた。
 太陽がさんさんと降り注ぐ、光の広場だ。
「おお、明るい場所じゃねぇか」
 ぱあ、とキアランの顔が明るくなる。先程の洞窟とは、正反対の明るさだ。
「……そうだな」
 明るくなったキアランと前方とは反対に、ナオトの顔が暗くなった。眉間に皺を寄せ、小さく舌打までしている。
「んだぁ、ボウズ? どうした」
「なんでもねぇよ」
 吐き捨てるように言うナオトに、今度はキアランがピンと来る。
「もしかして、眩しいのがダメなのかぁ?」
「……うっさい」
「あー情けねぇな! ほれほれ、明るくて気持ち良さそうだぞ」
「うっさい! ダメじゃねぇよ」
「またまたー。なら、行こうぜ。太陽の光をさんさんと浴びる為に!」
「そんな必要、ないだろ!」
「あるある! アニモフ探さないとな。その為に、眩し……前進しないとな!」
「オッサン、今『眩しい場所』って言おうとしただろ」
 ナオトの突っ込みに、キアランは笑顔のまま数秒固まる。
 そしてゆっくりと、口を開く。
「……前進しないとな?」
「いや、絶対違うし!」
 ナオトは再び突っ込み、はぁ、と大きな溜息をつく。
「別に、いいじゃねぇか。ちょっと避けたってさ」
「そうは行かないな。たとえ、ボウズが眩しいのがダメだっつっても」
「ダメじゃねぇんだって! 苦手なだけだよ!」
「ほほう、苦手か。それは、ダメって事だよなぁ?」
 キアランは、満面の笑みで言う。洞窟でのやり取りを、思い返しつつ。
「いや、苦手なだけだ! ダメじゃねぇ!」
「よーし、なら行こうぜ!」
 勢い良く言うキアランに、ナオトが「ばっ」と口にする。
「……なら暗闇行くぞ、オッサン!」
「ばばば、バカ言うな! 前に進まないでどうする!」
 明るい場所と洞窟との狭間で、言い合いが始まった。
 そうして幾分が過ぎた頃、もじもじと森の奥から「あの」と声をかけられた。
「……あの、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも!」
「前に進まないボウズがいてな!」
「どうして、進まないの?」
「洞窟を、もっとしっかり見てない事に気付いたからだよ!」
「ははは、眩しいのがダメだからだろ?」
「うっさい!」
「わわ。喧嘩は、駄目なのー」
 柔らかい物腰に、ナオトとキアランは一旦黙る。そして、声の主を見た。
 ふわふわの、もふもふの、兎がちょこんとそこにいた。
「……迷子になってた、アニモフじゃないか?」
 静かに尋ねるキアランに、アニモフは恥ずかしそうにもじもじと体を揺らす。
「な、何で僕が迷子って、知ってるのー?」
 照れた様子のアニモフに、キアランとナオトは顔を見合わせて苦笑しあう。
「無事、見つけられたな」
 ほっとしながら言うナオトに、キアランは胸を張って「俺のお陰だな」と言う。
「俺が前に進もうと言ったからこそ、だな」
「いやいや、そこで俺が力強く拒否したからこそ、じゃないか?」
「俺のお陰だろ?」
「いや、俺だって」
 じっと、二人は睨み合う。
「ええい、まどろっこしい! あっち行って話つけるぞ!」
 ぐい、とキアランが指差すのは、前方の明るい場所。
「バカいうな! 話つけるなら、こっちだろ!」
 ぐい、とナオトが指差すのは、後方の暗い場所。
「明るい場所ダメだからだろうが!」
「苦手なだけだ! そっちこそ、暗いのが怖いくせに!」
「こここ、怖くなんか、ねぇぞぉ!」
「もうー、喧嘩、やめるのー!」
 キアランとナオトの言い合いに、アニモフが仲裁に入る。
 キアランは、アニモフの頭をぽふぽふと撫でる。
「大丈夫、これは喧嘩じゃない。平和的に、話し合いの場所を決めてるだけだからな」
「そうそう、大人しくオッサンがあの洞窟に行けば済むだけだよな」
「ははは、そこは目の前の広場だよな」
「洞窟だよな」
「広場だな」
 じっと、二人は見つめあう。否、睨み合う。
「や、やめるのー!」
 アニモフは叫び、キアランとナオトの手をギュッと握る。
「仲直りなのー」
 ずい、とアニモフが二人を見上げる。つぶらな瞳が、二人を捕らえて離さない。
 暫くの沈黙の後、はぁ、と先に大きく息を吐き出したのはキアランだった。
「しゃーない。今回は、引き分けという事で」
「ったく、仕方ねぇな」
 がしっ、と二人は握手する。
 一体何の勝負だったのか、今となってはよく分からない。が、とりあえずの決着を見せたようだ。
「良かったのー」
 ほっとした様子のアニモフを、二人はじっと見つめる。
「因みに、アニモフちゃんは暗い場所と明るい場所、どっちが好きなんだ?」
「断然、明るい場所だよな? 光が気持ちいいし」
「いや、暗い場所だよな? 落ち着くし」
 二人に言われ、アニモフは「えっとね」と口を開く。
「この、木陰が好きなのー。光と影が、程よくあってねー」
 アニモフに言われ、キアランとナオトは上を見上げる。
 なるほど、確かにこの木陰は心地よいかもしれない。
「大人だ……」
「大人だな……」
 キアランとナオトはほぼ同時に呟き、顔を見合わせて笑った。
 正反対の場所から来た二人だが、今居る場所は確かに同じなのだと思いながら。


<揺れる木陰を感じつつ・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2011-06-02(木) 22:30

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル