オープニング

 話をする前から、彼女は目をキラキラ輝かせながらうっとりと明後日の方角を見ていた。それはまるで最新のおもちゃを目の前にする子供というか、恋仲の王子を待つお姫様というか……。自分で呼んだ旅人のことなど眼中に無いかのようにぼそぼそと何か呟いている。

「細めで長いのもいいけど、クルクルなのも捨てがたいよね……」

 全員が揃ったことに気がついて、我に返ったエミリエは照れ隠しにこほんと咳払いをした。

 今回の依頼内容は大きなアニモフの大移動のお手伝いである。とある浮遊島の一つのアニモフたちはこの時期になると浮遊島の森から反対側の森へ移動する。どうやら風の量や光の量が云々あるらしいのだが、詳しいことはわかってないらしい。
 しかし最近、何匹かの大きなアニモフが動くのを面倒くさがって移動しないらしいのだ。そして日に日にさらに大きくなっていく。いわゆるメタボ化である。小さいアニモフがひょいひょいと反対側の森へ移動するのに対して大きなアニモフは移動するのにものっそりのっそり歩いてゆく。ソレはさながらウサギとゾウガメ……しかもカメのほうが休んでしまっているのだからどうしようもない。森の道のあちこちで移動に疲れた大きなアニモフが休んでいるらしい。
 この数匹のアニモフを大玉ころがしの要領で移動先の森へ移動してあげて欲しい、とエミリエは言う。大きな体の割にそんなに重くないし、転がされることでアニモフは遊んでもらってると思って喜ぶそうなので気兼ねなく転がしてあげて、とのこと。
 ……しかし、エミリエの先ほどのうっとりとはどう頑張っても繋がらない。にやり、と口角を上げてこちらを見るエミリエ。

「移動と一緒に大きなアニモフのダイエットにも付き合ってあげて欲しいんだよ!」

 そう、ここ島の小さなアニモフが大きなアニモフのお腹で跳ねる光景がよく見られるのだが、それが大きなアニモフのダイエットにもなっているそうで、その手伝いをしてきて欲しいというのである。その大きなアニモフのお腹はトランポリンのように跳ねる。そして毛質が色んな種類のアニモフが居る様で……

「最初はやっぱりタオルっぽいヤツがいいかなーって思ってたんだけどラビットファーっぽいのもいいよねーとか色々思えてきちゃって……えへへ」

 先ほどのうっとりはどうやらふっさふさのアニモフにダイブするという妄そ……想像をしてご満悦だったようだ。色んなタイプのアニモフがいるようなのでさわり心地を比べてみるのも良いだろう。もちろん飛び跳ねるのも忘れてはならない。万が一落ちても地面には綿毛クッションの花がいっぱい生えているところなので怪我などの危険は一切無いから全力で飛び跳ねてきて欲しいそうだ。
 貴方はどんなもふもふがお好きですか?

品目シナリオ 管理番号362
クリエイター淀川(wxuh3447)
クリエイターコメント こちらでははじめまして。淀川です。宜しくお願いいたします。

 今回は「おっきいアニモフの大玉ころがし」と「アニモフへアイキャンフライ」をお送りします。
 大きなぬいぐるみにダイブって夢がありますよね。自分はタオル地が大好きなのですがシルクとかファーとかもホント気持ちいいと思うのです。あとトランポリンも楽しいですよね。

 ともあれ大玉ころがしがしたい!とかダイブトゥアニモフがしたい!という方がおりましたらぜひご参加ください。皆様のご参加をお待ちしております。

参加者
玄兎(cpaz6851)ツーリスト 男 16歳 UNKNOWN
クアール・ディクローズ(ctpw8917)ツーリスト 男 22歳 作家
太助(carx3883)ツーリスト 男 1歳 狸
理星(cmwz5682)ツーリスト 男 28歳 太刀使い、不遇の混血児

ノベル

 相変わらずのいいお天気。寒くも暑くもない、ぽかぽか陽気に包まれてやってきましたモフトピア。ロストレイルは4人を駅へ連れてきた後、次の駅へ向かって汽笛を鳴らしながら走っていった。
 エミリエから地図を貰ったクアールは初めての土地とは思えない順応さで目的の浮遊島を指すと我先に、いやいや先と言わずに一等賞で! …と話も聞かずに走り出す玄兎に抜け駆けはゆるさーん! とそれを追いかける太助と理星。理星は大きな翼を羽ばたかせて二人を追って。それを「今回の道中は騒がしくなりそうだ」と暖かく見つめながらクアールは召喚済みの妖精獣のウルズとラグズと共に歩を進めた。

 目的地にたどり着いた時、真っ先にターゲットと思しき丸い大きなアニモフが目に数匹飛び込んできた。でかい。長身の理星ですら思わず見上げてしまうような大きさだ。
 「うっひょー! デッケェー! マジパネェっすデカモフさん!」
 額ぐらいの高さに手を添えて見上げる玄兎の表情はとても嬉しそうである。太助が大きなアニモフの横っ腹をつんつんと押すと短い腕をパタパタと動かした。あたりに小さなアニモフの姿はなく、すでに森の反対側へと移動を済ませていたようだ。
 「いっちょやっちゃりますか!」
 玄兎がジャンプしてアニモフの上に立つと玉乗りのようにバランスを取りながら大きなアニモフを転がし始める。たまにその状態で逆立ちをして「ちょー見て逆立ち転がしっ!すげくね?オレちゃん超すげくねーっ?」と言ってそこらへんの木の実を取ってジャグリングをしたり曲芸をし始めたり。
 「よーし気合入れてやるぞー!」
 それに続いて太助がその頭と短い腕……もとい前足をびしっと張ってぐいぐい押し転がす。それはさながらカブトムシのようである。せいっせいっとアニモフを動かしていく。
 「それでは、やりましょうか」
 そういうとクアールの召喚獣、ウルズとラグズはクアールをそっちのけで全力で押していく。太助を抜いてもその速度は落ちる気配はない。
 「え……うわぁなんだこれ! すっごい洗いたてのタオルっぽい! きもちいい!」
 そう言ってアニモフに顔を埋めてご満悦の理星。何度も何度も頬ずりしてはものすっごい笑顔を浮かべている。
 森の中央部を越えたあたりで上り坂が見えてきた。緩やかなのだが少々長い。困った顔を浮かべたのは玄兎。何せ玉乗りスタイルでここまで来たのだがその転がし方だと上り坂には不利である。しょうがねぇなーと呟きながらアニモフから降り、あまり重くない大アニモフを担いで上り始めた。
 無論、普通に押している太助にも重力の壁は邪魔をする。平坦な道ではそんなに気にならないアニモフの重さだったが、坂道になると手を離すことが出来ないほどに感じる不思議。理星は元々力があるしクアールたちは複数で押しているのでそこまで苦労はしていない。気合を入れて太助はアニモフを押していく。すると小さなアニモフたちが太助の手伝いと言わんばかりに頭で大きなアニモフを押し始めた。これは絵本の題材にぴったりだろうとクアールがその様をメモしながら歩いていくと、玄兎がその横をひょいひょいと抜いていく。こんなん朝飯前ーと言いながらもう少しで坂が終わると言うところでバランスを崩してアニモフと共に勢い良く下る。
 その光景を見たウルズとラグズは上り坂を一気に全力で駆け上がり、アニモフ同士をぶつければ思いっきり跳ねるのではないかと思いそのまま玄兎へと……ぶつかる前にクアールのダンドリーウォールで進行を阻まれた。玄兎は玄兎でアニモフ越しにその壁に思いっきりぶつかって反動で思いっきり空へと飛んでいった。ああ、空ってこんなに高かったっけ、なんて普段は思わないようなことを思ってきりっとした顔と共に重力と一緒にそのまま自由落下していく。
 理星は自分が楽しいだけじゃ悪いから、とアニモフと一緒に楽しく飛行していた。アニモフも始めてみる違う角度からの浮遊島の姿に興奮が冷め遣らぬようでしきりに短い手をぱたぱたさせていた。
 その様子に満足していた理星の元に玄兎が向かってきた。否……自由落下の進行方向に理星が入ってきた、と言うべきだろうか。ともかく、慌てて玄兎を片手でキャッチした理星は無理やり体制を変えたせいでバランスを崩し一緒に下降していく。
 その様を見ていたクアールはさすがにこれ以上は静観している場合ではないな、と思い落下予測地点へ向かった。傍から見ているとまさにコント並みのテンポのよさと流れっぷりだったものでついついこのまま見ていたかったのだが。それを察知したウルズとラグズもアシストする為に追いかける。太助もどんと来い! と言わんばかりに前足を広げ構える。それはさながら四股を踏む力士の様に見えたのは太助の気迫によるものと言うことで。
 すべてが一点に集まって、一度飛ばされるような衝撃(とも言えない様なやんわりとした感覚)が全員を襲った後……皆を受け止めたのはあたり一面の綿毛の大地だった。倒れこんだ衝撃で綿毛が宙に舞う。
 「おお……キレェーだなっ」
 暫く3人と3匹はふわふわと暖かい雪が舞う空を見つめていた。

 この綿毛の大地がアニモフたちの移動先だと知ったのは太助と小さなアニモフたちが押していた大アニモフがこの地に自力で着いていたこととその大アニモフと小アニモフが楽しそうに飛び跳ねていることと他のアニモフの多さ。それと貰った地図の景色が一致することである。まあ、最後の理由が一番の理由なのだが。
 「ダーイエット協力すーるんーだぜーッ! 玄兎、いっきまーっす☆」
 勢い良くジャンプして空中でくるっと1回転、尻からアニモフのお腹へと飛び込んでいった玄兎はボインッ、と大きく跳ねて……綿毛の海へと舞い戻った。無論、痛くも痒くもないのだが、一回だけ跳ねて落ちてしまったことにしてもしょうもない反省と闘争心を覚えた。次は……さらに飛ぶっ! と、周りに居た小さなアニモフとウルズとラグズも巻き込んで色んな大きなアニモフへと跳ねまくりの飛びまくり。小さなアニモフも楽しそうに飛び跳ねている。
 「うおっ! これはまたいい腹!」
 太助も自慢の腹から腹へダイビング。間に挟まれたらもっちり悶え死確実のもふもふ&弾力でぴょんこぴょんこと跳ね回る。玄兎が乱入してきたので猛烈に腹アタック。そのときの幸せそうな顔はきっと忘れないだろう。そして、太助も一匹のアニモフだけに止まらず行けるアニモフというアニモフの感触と跳ね具合をじっくり堪能。最高の腹……キングオブモフ腹を探す為に。
 「まだ元気が有り余っているんだな……」
 アニモフの腹の上で小さいアニモフたちと跳ねて遊んでいるウルズとラグズを見ながらそんなことを呟くと、気がついたウルズがクアールを引っ張って一緒にやろうと誘う。しょうがないですね、と上って跳ねてみると意外と気持ちが良い。触ってさらに気持ち良い。片方の手のひらで感触を確かめていたのが次第に両手になり、こういう感じのふかふかした妖精獣を試しに描いてみようかな、と呟いた。
 「気持ちいいし可愛いし俺もうどうしたらいいんだろう……むしろずっとこうしてていいならこのままで……」
 一際ご満悦の表情を浮かべているのは理星。最初から一目ぼれしていたあのタオル地っぽいアニモフにご執心の様でもう離さない状態。先ほど寝返りを打ったアニモフたちに挟まれましたが私は幸せです的な笑みを終始浮かべていた。太助にもダイブしてもっふもっふとさわり心地を確認。
 「アニモフたちも太助も最高で最強だな! 勝てる気がしねぇ!」
 周りにキラキラが舞っているように見えるのもモフトピアの影響だろうか。

 少し飛び跳ね初めて時間がたった頃、太助がもってきた弁当を広げ皆でランチタイム。モフトピアのお菓子ばっかりだと飽きが来てしまうと思い、爆弾お握りを用意していたのだ。用意周到、この太助……侮れない。わさび漬けと辛子明太子入りで後味ピリ辛、みんなの食が進むこと進むこと。
 「なかなか、癖になりますね、この辛さ」
 「ご飯との割合も若干考えて入れてるんだぜ」
 「太助のお握りめちゃくちゃおいしい! もう一個!」
 「理星ズリィっ! 俺ももう一個! いや二個!」
 楽しいランチタイムの後は迎えのロストレイルが来るまでの時間、日向ぼっことお昼ねの時間。お腹がいっぱいになった理星はすやすやとタオル地の君と心地よい時間を過ごし、太助はアニモフたちと「ステキ腹」の情報交換中。玄兎はまだまだ元気いっぱいで他の元気が有り余ってるアニモフたちと追いかけっこやら鬼ごっこをして遊んでいる。クアールはその様子を絵本に描いていたが、ウルズとラグズに眼鏡を取られそうになって釣竿を奪い取ったりそれでもまだ続く攻防に終始油断ならなかったり。そんなこんなで、楽しい時間はすぐに過ぎていった。

 「いやー! 超遊び倒した! けどまた来てまた遊び倒してぇな!」
 「初めて来ましたが、今度またゆっくり本を描きに来たいですね」
 「俺も負けずにステキ腹目指して頑張るぜ!」
 「怖がられなかったし、アニモフたち可愛すぎだろ……絶対また来る!」
 アニモフたちに別れを告げ、ロストレイルに乗り込む一行。多少なりとも良い息抜きにはなったのではないだろうか。モフトピアは誰も拒まない。アニモフたちは誰も恐れない。ここへ来た人たちは皆嬉しそうに帰っていくのを知っているから。

クリエイターコメント お待たせいたしました。トトr……アニモフと戯れるノベルをお届けいたしました。
 皆さんの行動の一つ一つが楽しいものや可愛いもので書いているこっちがやばいほど楽しかったです。
 皆さんが少しでも日常の忙しさを忘れられるノベルになっていたらいいな、と思います。
 このたびはご参加まことにありがとうございました。
公開日時2010-06-22(火) 18:50

 

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螺旋特急ロストレイル

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