クリエイター淀川(wxuh3447)
管理番号1184-18516 オファー日2012-11-08(木) 23:32

オファーPC ドアマン(cvyu5216)ツーリスト 男 53歳 ドアマン

<ノベル>

 私に課せられたニット製品の大量の発注数。思わず
『おいおいこれ普通手編みに頼む量じゃないよね? これ機械編みの方に頼むものだよね? というかこれ貴方自分一人でやれると思う? 思わないよね? なんで何も考えないでこっち持ってくるの? 私が受けなかったらどうするつもりなの? しかも3日とか言った? ナニコレ新手の嫌がらせ?』
 ……と思わず引きつった笑顔を間近で浮かべつつ聞き返したくなるような量だったのだが私はいつもの笑顔で脳内で時間と生産の速度とを計算してギリギリで完成させられそうだ、と踏み渋々ながらもやらせて頂きます、と返事をしてしまったのだった。正直後悔している。甘かった、見通しがちょっとだけ甘かった。何が甘かったのかと言うと、生産スピードを計算した時に食事時間、休憩時間など一切含めず計算してしまった事である。はい、すっかり忘れておりました。失念していました。多分疲れていたのだと思います。と言うわけで、皆様。私はどうやら寝れないようです。

 ***

 その光景を見た者は口々にそのあらぬ姿を上手く喩えようとする。
 ある者は『悪鬼修羅の類の様だった』と言い、
 ある者は『いやいや、アレはそんな者ではないまさにこの世界の終わりを表すかの様だった』
 『一つの世界の終息に着かせる殺気だろ』
 『地獄から這い上がるために到底達成できないノルマを必死にこなそうとする哀れな者の様だ』
 『〆切に追われる漫画家』
 『冬COMI前の修羅場』
などなど……。ドアマンに用が有ったであろう来訪者達はドアを開け、その光景を見てはドアマンの邪魔はするまい、と思い(本当に邪魔をしたくなかっただけで別に手伝いたく無いとか面倒事に関わりあいたくないとかそういう訳じゃないんだからね! と口々に言って)開けたドアを閉めた。嗚呼、ドアマン。なんと孤独な戦いなのでしょう! ……声をかけても反応が無いほどに集中してるというのもあるのだが。
 そんな場外の出来事など全く気にせず、ドアマンは着々と編み物を華麗に編み上げていく。それは宛ら完成された芸術の様だったり、狂い無き機械の動きの様だったり。走り出したら止められない止まらない、それが72時間耐久編み物レース。私は風になる。アイキャンフライ。……こんな事を脳内で唱えてしまう程にドアマンは時間と言う見えない怪物に追い詰められている。そう、必死。なのでたまには紳士のドアマンも独り言くらい言う。うん、ゴメン全然たまにじゃなかった。長い時間凄く何か呟いていた。それを聞いた来訪者が呪詛か何かの禁呪と勘違いする位には呟いていた。そして稀に尿意で我に返り、お花を摘んでは戻って編んで呪詛と気絶を繰り返して居た。恐らく零番世界で一番厳しい戦いを彼は今、孤独に突き進んでいる。トイレ帰りのドアマンを見た者達は心配そうに彼見つめるがドアマンは何事も無かったかの様にいつも通りの紳士的な笑顔を浮かべるのであった。……あれ、何でここに人居るの? ここ私の家だよね、あれ幻? と思いながら。

 問題は納品の6時間前に起きた。それまで編み物マラソンでのランナーズハイ……ニッターズハイに支配されていたドアマンの頭の中にはノルマ数、発注数なんて言う概念が傍と抜けていたのである。発注数に間に合わないのか? いや、ドアマンは余裕でノルマを達成していた。達成していたのだ。通常では絶対に間に合わないであろう納品数を責任感と根性と大邪神の加護と惨事だけは回避したいという熱い思いが奇跡を起こしたのだ。だがドアマンの手は止まることも無く編み物を編み上げていく。壊れた機械の様に。しかも最初の頃よりも断トツに早いスピード。慣れとは怖いものである。
 周りに置かれた納品用のダンボールからはみ出すニット達。若干念が込められて邪気を放っている様な、いない様な。そしてそれはどんどん積み重なって行き、ドアマンの背丈を追い越す程度に積み重なって行く。そのニットが窓を隠し、今朝なのか昼なのか、夜なのか。時間概念すらも消えうせる程の業。そんな時、何処からとも無く聞き覚えのある声がした、気がする。

 「いい加減、寝ときや。それ以上は義骸が死んでまうよ。もーホントに心配で心配で……アンタもなんか言うてやって」
 「え? ええよ、お前が言うたらええやんか」
 「はぁ? アンタそれでも配下なんか? ええか、うちらは……」
 「またその話かいー聞き飽きたわー」

 え? なになに? 私置いてきぼり? って言うか何故オカン? 夫婦漫才? と心の中で突っ込みを入れるがその間もずっと手を動かしているドアマン。激しく腕を動かしていた所為か腕がギシギシ、と軋んで来た気がするが止まらない。ずっと同じ体勢で編んできた為か腰と尻が痛い気がするが止まらない。たまに意識の向こう側へと旅立ってしまうが(なんか見覚えのある人が側の向こうでおいでおいでしてる様な気もしたが)それでも彼の手は止まることは無い。まるで編み針に操られて居るかのように。それか編み針の一部と化してしまったかの様に。彼はそんな事に思考を廻らせる。
 『私が編み物をしているのか、編み物が私を突き動かしているのか。それを知るものは居ないが、間違いなくニット製品はまだまだ完成していっている。それも質の良い上物が沢山。もういっその事ニット地の布団でも編んでそこで寝た方が良いのではないだろうか。きっとチクチクしてゆっくり寝れなそうだけれども。あ、ちょっとトイレ。行きたい。』
 ふらふらしながらトイレへと行く。手から編み針や毛糸が離れる唯一の瞬間。粗相はダメだ。色んな意味でダメだ。なのでちょい早めに向かうことにしている。ギリギリまで我慢してはいけないと本能か大邪神様が言っている。ただし、精神は疲弊しきっている為何かしら変なモノを視てしまう悲しい性。所謂幻覚と言う物だ。洋式の便座に座り顔を上げると

 「おい、話を聞け」

 今度は熊のヌイグルミ、耳の大きなテディベアが話しかけてくる。先程ははちみつ色の困ったような顔の、だった。クリスマスの時に買ったモノだ。そのテディベアが何故トイレに?

 「なんだ」
 「豆知識。小女子と書いてコウナゴ。大きくなるとイカナゴになる。玉筋魚と書く。勉強になるな」
 「新子様はどんな大人の階段をのぼったのか」

 尋ねるが返答は無く完全にスルーされる。スルー能力の高い熊である。ちょっとだけ寂しいドアマン。

 「乙女座の運勢。明日死にます」
 「あと乙女座は一昨日来やがります」
 「私は乙女座ではないのだが」 
 「今死ね」
 「……」
 「おいしい熊肉食べたいな」
 「今年のクリスマス僕らはロンリー」

 もはや会話のキャッチボールではなくピッチングマシンである。そして危うくデッドボールである。もう構ってられん、と思った時にふとニットを思い出しそしてあのダンボールとニットがうず高く積まれた部屋へと吸い込まれるかの様に戻るのであtt…あ、手を洗い忘れてますよ。

 ***

 ジリリリリリリリリリッ!!!

 そうけたたましく目覚まし時計が鳴り響く。時間だ。72時間耐久したのだ。ドアマンはようやく開放されるのだ。このニット地獄から。修羅場から。するとどう言う事だろう。急に奥底から笑いがこみ上げてくるではないか。やってやったぞ! と。ぎしぎしと軋む腕を高らかに天井へと掲げ喜びを露にした。体の節々が痛いがそんなのは何てこともない。今、過酷な耐久レースから開放されたのだと。物凄い変な事が起きていた様な気もするがきっと気のせいだ。寝てないせいでお腹が痛い気もするがそれも気のせいだろう、と言い聞かせつつどさりと座り込んだドアマンは真っ白な灰になりかけていた。

 ピーンポーンッ

 目覚ましからどれ位経っただろうか。呼び鈴がなり、どうやらブツを取りに来たのだと思い、軋む体を無理矢理動かして来客を出迎える。

 「え、こんなに頼んだっけ?」

 そう言って、発注書を確認する業者を横目に椅子へもたれ掛かり意識が遠のくのを実感しながらドアマンは3日ぶりの睡眠を味わったのだった。その睡眠は深く、業者が揺さぶっても頬を叩いても起きないほどで、起きるのは納品予定の時間から15時間後の事だった。

 ――15時間後、起きた彼の眼に飛び込んできたのは溢れんばかりのニット・ニット・ニット!
 どういうことかと業者に尋ねると、どうやら発注個数を一桁間違えて居たとの事。『え? 私あの時確認したよね?』と嫌みったらしく言いたくなったがここは抑えつつ、そんなことよりこの大量のニット製品も買い取ってくれと交渉する方が先決だと思いそっちの手違いなんだから買い取ってくれるよね? 一桁間違いとか致命的じゃないですか買い取らないなんてありえないんだけど、と言う旨をオブラートに包みながら伝え、何とか(物凄い破格だが)買い取って貰うことに成功したのだった。

 教訓:数字の桁は何度も事前に確認しよう。

クリエイターコメントお待たせ致しました。カオス風味がカオスに……良かったのかな、これ。暴走捏造化と書かれていたので調子に乗って私、暴走してしまいました。お気に召すと宜しいのですが……!い、イメージ壊してないかだけが心配です……。
この度はオファー有難う御座いました!
公開日時2012-11-30(金) 21:40

 

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