クリエイター摘木 遠音夜(wcbf9173)
管理番号1161-12668 オファー日2011-10-04(火) 21:23

オファーPC 日和坂 綾(crvw8100)コンダクター 女 17歳 燃える炎の赤ジャージ大学生
ゲストPC1 相沢 優(ctcn6216) コンダクター 男 17歳 大学生

<ノベル>

 キリ、キリ、キリ……

 インヤンガイの依頼の帰り、ロストレイル車中は静寂に包まれていた。
 本題である依頼には成功していたが、なんともスッキリとしない結末が彼等を待ち受けていたのだ。
 いや、もともと人生とは、こんなものかも知れないが……。

 ――ガタン
「あのさ、ユウ……ご飯奢るからさ、この後ちょっと付き合ってくれないかな?」
 ロストレイルの揺れを合図にしたように、日和坂 綾は口を開いた。
 涙に濡れた自らの頬を拳で乱暴に拭う彼女に、相沢 優はハンカチを差し出す。
「ほら、コレ使えよ」
「ん、ありがと」
 リーラの言葉を伝えたあと、涙を流す彼女の傍に優は座った。彼女が誰かの胸を必要とするのなら、と。
 そっとしておくべきかと思ったが、自分にはできなかった。
「綾の気が済むまで付き合うよ」
 そう応えた優の笑顔に、綾はもう一度「ありがとう」と口にした。



 ターミナルのホームに降り立ち、綾はうん、と背を伸ばす。
「ちょっと待ってて」
「え? うん、いいけど?」
 優は他のロストナンバーに駆け寄り、一言二言何か話している。優のごめん、という仕種といいよという他のメンバーの姿が目に映る。
 綾がきょとんとしている間に優が戻ってきた。
「さあ、行こうか」
「え、報告は?」
「他のメンバーに頼んできた」
 優の言葉に綾がギョッとする。
「駄目だよ、最後にリーラと話したのはユウなんだから、ユウも行かなきゃ」
 優は世界図書館への報告は他のロストナンバーにまかせ、綾に付き合うつもりだった。
「私の用事はそのあと! ね」
 もともとそのつもりだったんだから、と背中を押される。
「わかった。わかったから、綾。押すなって」
 綾の触れた背がじわりと熱くなった。

「報告終りー! さあ、ユウ、付き合ってもらうよ!」
「お、おう」
 バシンと叩かれた背がちょっぴり痛い。
 先程とはうって変わって明るい調子で駆けて行く綾を見詰め、優は呟く。
「空元気、なんだろうな」
 綾の気持ちを考えると、チクリと胸が痛んだ。



「ユウ、おっそーい!」
 公園に据えられたワゴンの前に綾の姿があった。
「ごめん」
「ユウは何がいい?」
 既に注文を済ませた綾が優にメニューを見せる。
「そうだなぁ……じゃあ、ホットドッグとコーヒーで」
 綾が店員に注文し、優が代金のナレッジキューブを出そうとすると
「今日は私のおごりって言ったじゃん」
 と、綾に止められる。
「そうだったな」
 優が苦笑いで答えると、綾がニヒヒと笑った。
 やっぱり、無理してるんだな。笑顔なのになんだか今にも泣き出しそうだ。

 二人は公園の少し奥まったところにあるベンチに座り、食べ物を広げた。
「綾は何を頼んだんだ?」
「私はアメリカンドッグにチキンナゲット、フライドポテトにコーラ!」
 まずはズズッとコーラを啜り、アメリカンドッグをがぶり。
「ん~、依頼の後の食事は最高っすなぁ~」
 綾の言葉に優もホットドッグに噛り付き、コーヒーを啜る。パンに挟んであるウインナーがパリッといい音を立てて千切れた。
 ジュワッと肉汁が溢れてホットドッグの旨味を増す。
「ん、美味い」
「あ、ユウもフライドポテト食べていいよ~」
「じゃあ、遠慮なく」
 差し出されたフライドポテトを一本抜き取り、口に咥える。
 しばらくハフハフとチキンナゲットを口に押し込み、咀嚼していた綾がふいに食事の手を止める。
「ユウ……私、自分のことばっかりなのかな」
 ぽつり、ぽつりと綾の口から言葉が溢れ出す。
 優は、そんな綾の横顔を見詰め、静かに次の言葉が紡がれるのを待った。
「ただ一度のハレの日だった花街行列メチャクチャにして、二人の思い出の品壊して、私たちと話した記憶もなくなるのに」
 俯いた綾の表情は読み取れなかったが、震える声と、ぽたり、ぽたりと落ちる涙が彼女の痛みを伝えていた。
「浚われた縁起の悪い娘って噂だけ残って。あの子の手元に何にも、何にも残らなかった」
 大粒の涙があとからあとから溢れ出て、綾の頬をぐしゃぐしゃに濡らしていた。
 涙を止めようと、ぐっと目に力を入れてみたが駄目だった。
「わ、私、二人に幸せになって欲しい……そう、思ってたのに……」
 「ユウ~」と綾は優にしがみつき、自分が悪かったのかと泣きじゃくった。
 リーラの為と選ばせた選択肢がとても残酷なものであったことを、自分が同じ立場に立たされるまで気付かなかった。いや、気付いていても無意識に考えないようにしていたのだ。
 彼女の心を傷付けてしまった自分を、綾は許せなかった。
 そんな綾の体を優は抱きしめ、優しく撫でる。
 綾が少し落ち着くのを待って、優は静かに語りかけた。
「綾、誰かの幸せを願う事は決して悪い事じゃない」
 ゆっくり、自分の想いがちゃんと伝わるように。
「でも、その願いを抱いて行動しても、なかなか上手くいかない事も多い」
 孤児の王、シエラ。白狼の仮面の少女。
 優も願いを抱いて赴いた事があった。かの王の孤独を埋める事ができれば、と。
 だが、結果はどうであったろうか。
「だけどな、俺達が彼女達の幸せを願って行動してたって事は、ちゃんと伝わっていると思う」
「そ、なのかな」
 グスリと鼻をすすって、綾が答える。
 リーラもシエラもありがとうと、もう寂しくはないと言っていた。
 彼女達の笑顔が優の瞼に焼きついている。
「だから、今はいっぱい泣いて、後悔して。ちゃんと自分のした事受け止めて、その責任を持って。……そしてまた、頑張ろう?」
 頑張ればいいのだ。そう言外に含め、綾の肩に乗せた手に力を入れる。
 優の腕の中で、綾が小さく頷く。
「それでいい、のかな……」
「ああ、それに俺達にはまだやる事があるだろう? リーラの言葉をリオに伝える為、二人を再会させる為に出来る事をしよう。自分の為……そして二人の為に」
 たとえ運命を変える事が出来なくたって、自分達の出来る事があるって信じたっていいだろう?
「そう、だね」
「それから、綾は一つ思い違いをしてる。あの玩具の糸を切ったのは俺だ。綾じゃない」
 思い出の品を壊したのは俺なんだから、気にすんな。と優が笑う。
 綾はしばらく優の笑顔に見とれていたが、自分の状態をはたと思い出した。
「うわ、わっ。ゴメン!」
 綾は優から慌てて体を離し、居住まいを正す。顔が熱くなった。
「今日はゴメンね? 彼女さんにはナイショにしといてね」
 申し訳なさそうな綾の言葉に、優がひょいと片眉を上げる。
「俺、前の彼女に振られて以来、彼女はいないぜ。だから心配無用」
「……にゃにぃ?! うぁう……」
 両手を合わせ詫びる綾の髪を、優がぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。
 あああ、恥ずかしい。穴があったら埋まりたい。髪をぐしゃぐしゃにされながらそんな事を思う。
「よっし、今日は無礼講じゃ! EKIBENに行こう。そして、エキベンバーガー全制覇だ!」
 多少テンパりながら綾が高らかに宣言する。
「え?! まだ食うのか?」
「もちろん! 綾様の食欲はこんなもんじゃおさまりませんよ」
 ええー、と言う優に綾が付け加える。
「あ、ユウにもエキベンバーガー全制覇手伝ってもらーうぞ☆」
 バキュン、と両手を銃の形にして撃つ真似をする。
 うっ、綾、それは反則だ。
 まるで本当に撃たれたかのように優が胸を押さえる。
「心配しなくても私の奢りだから遠慮しないでね」
「……激しく遠慮シタイデス」
 優がガックリと肩を落とした。



 キリ、キリ、キリ

 時計の針を逆に回しても、過ぎ去った時間は戻らない。
 だから、どんなに後悔しても、胸を痛める結果になっても、前に進まなければならない。
 停滞は何も生まない。
 無為の時を過ごすくらいなら、痛みを抱えながら生きていよう。
 それが、私の出した答え。



 ――カチ。

クリエイターコメントご依頼ありがとうございました。
完全にプレイング通り、とはなりませんでしたが、大丈夫だったでしょうか?
……と、いうのも台詞の中に不明な部分があり、削らせていただいたのです。
なにか、問題があるようでしたら、事務局を通じてお知らせいただければ幸いです。
お二人の冒険に幸多からん事をお祈りしつつ、失礼致します。
公開日時2011-11-05(土) 22:10

 

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