クリエイター摘木 遠音夜(wcbf9173)
管理番号1161-15942 オファー日2012-03-04(日) 23:05

オファーPC 坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
ゲストPC1 川原 撫子(cuee7619) コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?

<ノベル>

「はっ、バイト!」
 川原撫子は布団を跳ね除けて起き上がった。だが、今日は珍しく大学もバイトもない日だと思い出し、安堵した撫子は再び布団に突っ伏した。
 このまま惰眠を貪るのもいいかと思ったが、既に頭は覚醒してしまっている。
「んー……、まいっか」
 二度寝するにも微妙な時間だし、と撫子は伸びを一つして起き上がった。カーテンを開ければ空は晴れ渡っており、このまま家でくすぶるにはもったいない気がする。
 普段、学校とバイトに時間を費やし、それに加えて世界図書館からの依頼が飛び込んで来る日もある。自分だけの時間が持てる日は滅多にないのだ。
「たまには新しい服を物色するのもいいかもね」
 とは言え、苦学生の身ではそうそう新品の服など購入できない。エアショッピング、もとい、ウィンドーショッピングをするのである。
 買い物の雰囲気を楽しむだけでも良い気分転換になるだろう。
 そうと決まればまずは朝食の準備だ。
 マーガリンを塗り、トーストした食パンにフライパンで焼いておいた目玉焼きを乗せたもの。レタスを千切り、半分に切ってくし切りにしたトマトとホールコーンを適量乗せたサラダ。飲み物はコーヒー。
 これでOK。
 撫子はよっぽどの事がない限り朝食は抜かない事にしている。以前抜いた事があるのだが、とてもじゃないが昼までもたなかったからだ。
 朝食をとったあと、軽く部屋の掃除もした。休みの時は時間を有効に使わなくては。
 掃除のあとは手早く身支度を整え、鏡の前でチェック。今日の髪も綺麗に纏まって満足。
「よし、じゃあ、行ってきます」
 たとえ送り出す人がいなくても、撫子は“いってきます”を欠かさない。
 部屋に鍵を掛け、撫子は歩いて町に繰り出した。
 
 坂上健は一人盛り上がっていた。人通りの多い場所でテンション高く騒ぐのは、変人以外の何者でもないので脳内限定での事ではあったが。
「ああ、俺にもついに春が訪れるかもしれない。いや、訪れるはずだ!」
 しかし、あまりにも盛り上がり過ぎたため、その一部が外に漏れ出してしまったようだ。ハッと我に返った健に他人の冷ややかな視線が容赦なく突き刺さる。
 健は愛想笑いを浮かべ、勢いで突き出した右腕を下ろし、冷たい視線から逃れるべくその場をそそくさと離れた。
 この前のヴォロスの依頼で一緒になったあの子、川原撫子さん。なかなかいい雰囲気だったと思うんだよなぁ。
 あの時の事を思い出すと自然に顔がにやけてしまう。
 はたと気が付くと、また人の視線を集めてしまっていた。
 ヘンナヒトジャナイデスヨー、アブナイヒトジャナイデスヨーとさりげなく移動しようとするが、まず白衣で町中を歩く人はほとんどいないと思うので無駄な努力に終わっている。
 しかも白衣の下にある物を気取られれば、注目どころの騒ぎではなくなるだろう。下手すれば警察沙汰だ。それだけは避けたい。絶対にだ。
 今度こそ人目を集めないよう顔も引き締めて歩く。
 なんとなく町に出てみたのはいいけれど、実は決まった用事があるわけではなかった。
「うーん、ホームセンターにでも行くかな……」
 ホームセンターは魅惑の場所だ。たくさんの工具類に囲まれていると得も言われぬ幸福感に包まれるのだ。隅々まで見て回れば新しい発見――武器になりそうな物や便利グッズが見つかるかもしれない。
 行き先が決まれば足取りも軽くなる。
 数メートル先で揺れている女の子のポニーテールが撫子を彷彿とさせ、浮き足立った。
「ああ、あれが彼女だったらいいのに……」
 そう呟いた瞬間、ふとポニーテールの女の子が横を向く。
「えっ?! マジ?」
 一瞬見間違いかとも思ったが、その横顔は撫子本人のものに見える。
 これは運命?!
 そう思った健は歩みを早め、ポニーテールの彼女に追いついた。違ってもかまうもんかと肩を叩く。ビクンと女の子の体が跳ねた。
「あの、川原撫子さん……ですよね?」
「わ、ビックリしたぁ。いきなり体に触れないでくださいよぉ」
「あ、ゴメン!」
 健は撫子の肩を叩いた手を慌てて引っ込める。
「それで、何の御用ですかぁ? 坂上健さん?」
「! 俺の名前覚えててくれたんだ?」
 感激する健をよそに撫子は続けた。
「つい最近の事ですし、覚えてますよぉ」
「あ……そ、そうだよね」
「それで、何ですかぁ?」
 撫子が少し険しい顔をして再度訪ねた。
「もし、よかったらお茶にでも行かないかな、と思って。……ダメかな?」
「私、お茶よりも食事がしたいんだけど……」
 そう言われて今がお昼過ぎだという事実に気が付いた。いつの間に時間が経っていたのだろうか。
「じゃあ、食事で。俺が奢るからさ、一緒にどう?」
「本当ですか?」
 ちょっと逡巡する振りをして撫子はOKする。タダ飯にありつけるのだ。断る理由などない。



「あ、デザートも頼んでいい?」
「いいよ、俺も頼むから」
 ちゃっかり普通の食事をしたあとに撫子は健にお伺いを立てた。
 この人太っ腹だわ、と思いつつ、撫子はフルーツパフェを注文する。健は嫌な顔をするわけでもなく、「じゃあ俺はイチゴのショートケーキを」と言った。
 食事をしている最中にはそれぞれが今までこなしてきた依頼の話をしてきたが、健はこの場合はこの武器を使ったらいいとか、こういう場面ではこうしたらいいと色々とアドバイスを熱心に撫子にしてきた。
 撫子もあらゆる場面の対処法は心得ているつもりだが、違う視点での意見はなかなか参考になる。
 けれど……こんな話をする為に私をわざわざ誘ったのかしら?
 撫子は首を傾げた。
「お待たせ致しました。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
 店員の声に一旦思考を停止させ、それぞれのデザートとコーヒーを受け取った。
 マンゴーソースのかかったアイスとホイップクリームを一緒に一口味わってから、撫子は口を開く。
「あのぉ、ご飯奢ってくださるって聞いたから来ましたけどぉ、結局のところ何の御用だったんですか? 坂上さん」
 撫子が言うと、健は「いやぁ……」と急にもじもじして、頭を掻き始めた。
「実は撫子さんに聞いて貰いたい事があって……」
「いいですけどぉ、何ですかぁ?」
 撫子の承諾を得て、健は姿勢を正した。
「この前一緒に依頼に行った時に思ったんだけど、俺たち、その、結構趣味が近くないかな? 良かったら……付き合って貰えないかっ」
 向かい合って座った喫茶店で一気に捲し立て、健は勢いよく頭を下げた。
 唐突な申し出に撫子は盛大な溜息を漏らす。
「一つ伺いますけどぉ……私のどこが貴方と同じ趣味なんでしょうかぁ」
 健が顔を上げれば撫子の絶対零度の視線が突き刺さった。
 え? 俺、何か変な事言った?
「いや、その……かなりトレッキング慣れてそうだし、武器とか買ってたし……」
 健のしどろもどろな態度に撫子はまた大きく溜息をついた。
「確かに私は親に連れ回されたおかげで、かなりの回数の縦走をこなしてますけどぉ、私本人は全っ然トレッキングは趣味じゃないですぅ。それに、必要な道具の購入に手を尽くすことはあっても、ひとっ欠片も武器ヲタクじゃないですよぅ」
 あくまでも撫子のトレッキングは特技ではあるが趣味ではない。武器に至っても依頼の種類によって必要なものが変わってくる以上、購入せざるを得ないだけなのだ。そこを勘違いされては困る。
「それと……」
 一旦、言葉を切って健の全身をチェックし、撫子は言う。
「坂上さん、私より年下ですよねぇ? 残念だけど、私、年上が好みなんですぅ」
「えっ、撫子さん何歳ですか? 俺、20なんだけど」
 世界図書館の記録では健は18歳となっていたが、実際には覚醒してから時が経過しており、壱番世界的には20になっていた。覚醒した者はその時点で時が止まるとはいえ、やはり18と20では社会的な制約も違ってくる。その為、健は年齢を尋ねられた時、壱番世界での年齢を答える事にしている。それに、気持ちの上での問題もあった。わかるだろう?
「女性に歳を聞くもんじゃないですよぅ。……やっぱり私の方が上じゃないですかぁ」
 ささやかな希望も込めて年齢を明かしたが、それでも彼女よりも下だったらしい。
「えっ、俺、歳とか気にしないけど……」
 そんなに変わらない筈だと食い下がってみたが、撫子の反応は変わらなかった。
「私が嫌なんです」
 と、撫子にぴしゃりと跳ね除けられてしまった。
 はい、玉砕決定☆ やったね、俺。
 健は滂沱の涙を流し、テーブルに突っ伏した。そんな健の様子を見て撫子は小さく笑う。
 あれっ? と思って顔を上げると先程までの剣幕はどこかへ行っていた。
「思い込みだけでアタックしても駄目ですよぉ」
 撫子は柔らかく笑っている。
「少なくとも相手の好みはきちんと把握しておかないとぉ」
「……なんで?」
 何故彼女は助言をしてくれるのだろうか。実は脈あり、とか?
「ご飯奢って貰った分の助言はしますよぉ。恋人には不可でも、友人としてなら合格点ですからぁ」
 デスヨネー。
 ここで、お友達からお願いしますと言ったら彼女は受け入れてくれるだろうか? しつこいとドン引きされてしまうだろうか?
 彼女欲しい! 脱KIRINしたい! 武器オタクだって恋したっていいじゃないか!
「うう……」
 心の中で叫びつつ、テーブルと仲良くしていると頭をつつかれた。
「坂上さん、お食事くらいなら付き合ってもいいですよぅ。奢ってくれるお礼として助言しますからぁ」
 ああ、これは天使の一声なのか悪魔の一声なのか。縋ってしまいたい自分がいる。
 健は一縷の望みをかけてみる。
「本当?」
「本当ですよぅ。ただし、私忙しいから前もって連絡くださいねぇ。私、坂上さんの新しい恋を全力で応援しますからぁ」
 ガクッ。
 やっぱ駄目なんじゃん。
「あ、それとぉ、いつまでもウジウジしてる男の人はもてないと思いますよぅ」
 にこやかな顔をして撫子は止めを刺す。



 ああ、男坂上健。
 本日も振られ日和なり。

クリエイターコメントおまたせしました。プライベートノベルをお届け致します。
なんだか短く纏まってしまいましたが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
この度はプラノベをオファーしていただき、ありがとうございました。
公開日時2012-04-06(金) 22:00

 

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