ロストナンバー達の協力をえたカンダータ軍によって、人間の住む最西端の都市となったディナリア。 戦闘の傷も癒えぬその都市は、再びマキーナの猛威に晒されようとしていた。 ――永久戦場・カンダータ 彼の地に安息の日は遠い。◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ロストナンバーが都市に到着したのは宵の口であった。送電網が整っていないためであろうか、ディナリアは夜の帳に支配され闇色に染まっている。点々と灯る軍用常夜灯と都市中枢の発する灯りが、薄ぼんやりと周囲を照らすさまは、いっそ幽玄であると言っても良いかもしれない。 もっとも、あたりに響く金属音と焼けた空気の臭いが、此の地が風情を楽しむ行楽地ではなく、鉄と油でつくられる戦場都市であることをすぐに認識させるのだが。 市街を抜けディナリア中心に当たる行政府に至るロストナンバー達を迎えるのは、門番の最敬礼。「これはギリアムさん、お久しぶりです。守衛に配属されたのですね、お疲れ様です」 如才のない笑みを浮かべ、軽く頭を下げ返礼するのは四十絡みの男――ヤスウィルヴィーネ・Q。「どうです? このあと一杯、美味しい地酒を案内してもらえませんかね」 勤務中ですので、と笑いを返すギリアムと呼ばれた男、その表情には友に対する親しさらしきものが浮かんでいた。 約束ですよと手を振るヤスウィルヴィーネと共に行政府のなかに消えたロストナンバーは4人。 門番の最敬礼に、直立不動の敬礼姿勢を崩さぬ異国風の軍装に身を包む男――コタロ・ムラタナは、はっと我に返ると先に行く仲間たちを慌てて追いかけた。 ――行政府・最高執務官執務室 部屋の扉を守るのは歩哨ではなく、機械の錠前。 インターフォン越しの電子音声がロストナンバーを迎え、扉が小気味良い電子音を立て開いた。 執務室には、二人の人物が居た。 執務机が小学生の学習机のような小ささに見えるむくつけき巨漢、およそ執務官という言葉からは遠いところにいる風体の漢。 そして巨漢の傍らに立つ理知的な面立ちをした長身痩躯の男。 対照的な印象を与える二者であるが、その顔には等しく刻まれているものがあった――色濃い疲労である。「よく来たなロストナンバー、俺はここのボスをやっているグスタフだ。……すまねえが歓迎する時間がねえ、さっさと本題に入らせてもらうぜ」 巨漢の言葉には、疲労から来るものだろうか焦燥のようなものが伺えた。「コタロさん、ヤスウィルヴィーネさんお久しぶりです。ご参方に於きましては初めまして、私はセルガと申します」 首で促された傍らの男が口を開く。「早速ですが、我々の置かれている現状を説明致します」 セルガが手元の端末を操作すると執務室の照明が落ち、部屋中央に立体映像が表示された。 立体映像の中央にはディナリア、西方に多数の光点が表示される。「本都市の西方から、接近するマキーナ群が確認されました。マキーナ群は大型のマキーナ1体と1000体前後からなる小型のマキーナで構成されます」 立体映像がマキーナの姿を思われるものに変わった。「この映像は都市外観測機より確認された情報を元に作成しております、実際の特徴とは完全には一致しない可能性があります」・小型マキーナ 頭部の肥大化した魚型のマキーナ 最高速度マッハ1前後で高速に飛翔 全長1m前後 主兵装:頭部による前方体当たり、左右に対して射程の短い鱗状の飛翔体の射出・大型マキーナ クジラ型の巨大マキーナ 最高速度マッハ1前後で高速に飛翔 全長20m前後 主兵装:体当たり、体表に光学兵器の射出機構とおもわれる砲塔が多数「ディナリア敷設の防衛設備では、本マキーナ群のディナリアへの侵入を防げないと判断しています。高速で飛翔するマキーナがディナリア内に侵入した場合、全マキーナを駆逐するまでに都市施設が甚大な被害を受け都市機能が停止することが予測されています」 よろしいでしょうかと確認を一拍置き、セルガは話を続けた。「防衛作戦の概要を説明します。 ディナリアを防衛するためには都市外部で、マキーナ群を防衛設備で対応出来る数まで駆逐する必要があります。しかし、都市外部に高速飛翔するマキーナへ有効な打撃を与えるための拠点を構築する余力が我々にはありません。そこで……高速飛翔するマキーナと並走しこれを駆逐します」 立体映像がマキーナの姿からホバータンクに変わる。コタロとヤスウィルヴィーネが以前見た機体と比較すると装甲が極めて薄く、代わりに外付けのブースターが増設されていた。「こちらが、本作戦の肝となる車輌です。ホバータンクから装甲を取り払い、推進力を極限まで追求したモデルです」・改造ホバータンク 装甲を減らしブースターを強化したホバータンク 最高速度マッハ1前後で高速に走行が可能 兵装:SSM8門 120mm砲 機関銃(各兵装は180度まで旋回可能) その他:ブレーキ機能はオミットされています。車輌を止める際には都市西部外周にあるショックアブソーバーにぶつけてください。 立体映像がディナリア周辺の地図に変わる。 都市西部からディナリアへ高速に伸びる赤色の帯、おそらくはマキーナの進路であろう。その進路の途中から並走するように緑色の帯が伸びた。「この地点から、改造ホバータンクはマキーナの予測進路に重なるようディナリアへ向けて走行します。最高速度に加速するタイミングでマキーナと接触する予定です。加速時間等諸条件を鑑みて60秒程度ですがマキーナと戦闘が可能です」 立体映像が消え執務室の照明が灯った。「マキーナと並走するホバータンク部隊は15台です。あなた方にはこのうちの1台に乗車頂き、マキーナの駆逐を助けて頂きたいと思っています。ホバータンク部隊の戦術的目標は、小型マキーナ600体と大型マキーナ1体です」「ところでだ、……おまえさんらが言ってる繭のマキーナってーのは、まじなのか?」 セルガの説明が終わるやグスタフが野太い声で尋ねる。「司書の予言に誤りはない」 伸びるままになった白髪が特徴的な男――ハクア・クロスフォードが問いに応じた。「ああ、すまねぇ疑ってる訳じゃねえんだ。ただな、俺達も都市は居住区を中心に虱潰しにしている、ここで生活だってしてんだぁそれなのに見つからねえとなるとな」 軽く手を振り自らの言を否定するグスタフの言葉には、巨漢の漢らしからぬ弱々しさのようなものが滲んでいた。「擬態とかは考えられないのかなぁ? ラドみたいにさ」『主人。オレッチ、擬態シナイゾ』「えー、ラドは黙ってたら石像ものでしょ?」 悪魔姿をした石像の従僕と話ながら軽く答える青年――ブレイク・エルスノール。「私は、通常、人の入りえない場所の捜査を推奨シマス」 綺麗ではあるが抑揚のない平板な音声で意見を述べるのはアヴァロン・O という名の機械兵器。「まだ探すところはあるってーわけか……、だがはっきり言ってマキーナの防衛作戦でうちの指揮官連中は一杯一杯だ。わりいが、捜索部隊の指揮はおまえらに取ってもらいてえ。……そうだなコタロ、ヤスウィルヴィーネ、おまえたちなら知らん顔でもねえしな……よろしく頼んだぜ」 よっと掛け声を上げて、大儀そうに執務机から立ち上がったグスタフはドッグタグを軽く弾き、笑みらしきものを浮かべた。◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ――???? 機械の繭が振動した――それは機械生命の慟哭か赫怒か悲鳴であるか……何を意味するかなど炭素系生物には分かりえない。 ただひとつ、それが災厄を招くものであることは確実であった。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>アヴァロン・O(cazz1872) ハクア・クロスフォード(cxxr7037) ブレイク・エルスノール(cybt3247) Q・ヤスウィルヴィーネ(chrz8012) コタロ・ムラタナ(cxvf2951) =========
――鉄の怪魚が凍てついた大気を泳ぐ ――荒れ果てた大地に土煙が舞った ――人ならざる者が発する音声 蹂躙の使者到達まで僅か…… ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 鋼鉄の棺桶――ホバータンク カンダータの地を走る1台の鉄騎、乗客はハクア・クロスフォード。 白髪の男は、およそ常人であれば『激しい振動による空間における身体に関する見当識の障害の自覚』……端的に乗り物酔いを発生させる環境の中、平然と後部座席に臥しホバータンクのマニュアルに目を通していた。 「……この機体の特徴は何だ?」 マニュアルから目を上げることもなく運転手に尋ねるハクア。 「他のより装甲板が薄いってことっすかね……、あとは……」 問われるままに応えるのは運転手たるカンダータ兵。 「そうか」 返事は淡白そのものである。 久方ぶりのカンダータの地、機械が席巻する地で戦うには機械を知る必要がある。 ――己を知り敵を知れば百戦危うからず――格言の体現であった。 目的地についたホバータンクが停車する。 運転手をまたせたまま降車したハクアを迎えたのは、カンダータの大地特有の乾燥した冷たい風。 無精に伸ばした白髪を掻き乱され視界を遮る。 ここは、カンダータ司令部より最もマキーナとの交戦確立が高いとされている地点。 白髪の男は、周囲を確認ししばし佇むとおもむろに短剣を抜くと自らの腕に紅き線を一筋刻む。 溢れ出る鮮血は重力に従わず、ただ主の意図のみを汲み中空で紅き陣を成した。 鮮血の儀式は、さらに三度繰り返され、大地に一つ、空に二つの血化粧がなされた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 溶接のため熱された熱気とガソリンがないまぜになったむっとした臭いが充満するディナリア西門駐屯地。 整備兵達は喧騒の中、思案気に唸りながら彷徨くのは石の悪魔を連れた風変わりな少年……いや童顔の青年のことなど意識に入れることもなく整備を行なっている。 (速い、数多い、時間短いの三拍子……) 輩たる石の悪魔に視線を向ける、彼は戦車用重機関銃を振り回し遊んでいるようだ。 「生憎、僕自身にはマッハ1なんて速度で飛びまわる術なんてないし。……ガーゴイルなら、強化しとけばそれくらい飛べるって信じてる。……一人、60秒で二百匹+α、三人でデカいの一匹。とりあえずコレ目指していきましょ」 相棒の姿を見『うんきっといける』と無責任に頷くと、物騒な兵装をつけ駐機するホバータンクを見やりまた唸る。 「カンダータの武装だけじゃ困難だから、世界図書館に声が掛かったんだろうけど……」 「そういうわけでもないんだけどね」 背中からかけられた相槌に、返事など期待していなかったブレイクは軽い驚愕を感じ振り返る。 視界に映るのは、黒をベースとしたスタイリッシュなつなぎを着たミラーシェードの女性。パッと見ブレイクより頭一つは背が高い。 「ホバータンクはマキーナにも有効な兵器だからね、グスタフがあんたらを呼んだのは生きて帰れる人間を増やすため」 「あーそうなんですか? あっと、申し遅れました。僕は……」 生返事を返し、自己紹介をしようとするブレイクを女の手が制止する。 「作戦が終わってからにしてくれないかな? 可愛い坊やのことはと・て・も・知りたいけど、逝った人をメモリから消すのは気が滅入るのよ」 あまり一般的でない言葉にブレイクの脳裏に『?』が浮かぶ。返答に窮する間に女は整備兵に呼ばれ去っていった。 『ドウシタ? 変ナ顔ダゾ』 「カンダータって変わったところだねぇ……いろいろ」 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「作戦行動中、貴方と友達関係を構築することを要請シマス」 機械によって合成された声――マシンボイスから発せられた突飛な要請に、ディナリア西門に特火点を構築していたカンダータ兵達は一様に素っ頓狂な表情になった。 「友達関係ってーと……なんだ……戦友ってことでいいのかな?」 「戦友……データにない言葉デス。追加情報による定義を要請シマス」 「え……あーっと、戦場で轡を並べて戦う仲間ってことだな」 「input word ”戦友”……戦友となることを要請シマス」 カンダータ兵は苦笑を浮かべながら、アヴァロンの肩に手をやり答える。 「なあ、ロストナンバーさんよ、そういうのは自然となるもんなんだ。そんな風に頼むもんじゃねえぜ」 「それでは自然に戦友になることを要請シマス」 噛み合わない問答が続く西門前に、土煙を上げホバータンクが到着した。 「アヴァロンか、丁度いい一緒に来い。おいそこの兵士、指揮官のところへ案内してくれ。作戦について話したい」 ハクアは降車するや開口一番言い放った。 →→→chase 2 search→→→ ……喉が締め付けられてうまく呼吸できない……じっとりと滲んだ汗がシャツに染みこんで気持ち悪い。 極度の緊張から来る精神失調、コタロ・ムラナタはこの場を一刻も早く立ち去りたい衝動と使命感の狭間で煩悶する。 そして、煩悶そのものがより一層コタロの精神を蝕んでいた。 ここはディナリア軍司令部会議室、マキーナ捜索のために集まったカンダータ兵が百名。 彼らを前に捜索作戦の説明をするのは、二人のロストナンバー。 如才に冗談を交えカンダータ兵の心を解しながら説明をするヤスウィルヴィーネと奥歯を噛み締め苦虫を潰したような決死の表情で言葉を捻り出すコタロは、まさに正対した指揮官である。 ――数刻前・司令室 「虫が繭から成虫になる時には場所は餌の近くが多いですからなぁ。マキーナ君達は見た目機械……もしかすると、羽化した後、電力供給のためにエネルギープラントに潜んでいる可能性もあるかもしれませんなぁ」 司令室の机にだらしなく腰掛けコタロに尋ねるのは40絡みの自称・事務員。 「……自分も同意だ……、人の生活と密接に関わる地は、如何に擬態しても長期間人の目から逃れ続ける事は困難……存在可能性は低いと判断する」 一息に喋りすぎて口の中が乾く、机上のコブレットから水を含みコタロは言葉を続ける。 「……極端な高低所・高温不潔などの有機生命体にとって劣悪、……到達困難な環境下であればあるほど繭の居る確率は高くなる。特にエネルギー施設は各条件を満たした上、奪還戦でクイーンが居た。……警戒は必定だ」 珍しく多くの言葉を重ねた軍人は、吐息をひとつ吐くと司令室の椅子に深々と沈んだ。 「なるほど……コタロー君、二人の意見は一緒ってことですね。……もっとも一箇所に集中して兵隊を配置すれば効率とはいえません。何か考えはありますか?」 問うヤスウィルヴィーネに、コタロは懐から紙の束を取り出す。 「……想定される出現率に即した配置表を作った」 コタロ作の配置表は、従軍歴もあるヤスウィルヴィーネがちょっと感心するほど出色の出来であった。 カンダータ兵の前、コタロの配置表を説明するのはヤスウィルヴィーネであった。 コタロはホワイトボードを使いながら必死で説明を行うが、とても言葉を紡げる状態ではなくなってきた。 (コタロー君は表面を保つだけで精一杯ですし仕方ありませんね、彼にもう少しプレゼンテーション力があれば良かったのですが) 「皆さん、作戦についてはよろしいですか? 現場は不肖、私ヤスウィルヴィーネが。総司令はコタロー氏が行います」 (コタロー君は機械を壊してしまうそうですしこの配置はやむなしですね、連絡はトラベラーノートを使えばいいでしょう) 「さて、皆さん、羽化する可能性も有りますし、いくつ繭が有るか未知なので、慎重にいきますぞ!?」 ヤスウィルヴィーネが激を飛ばす。 「「「イエッサー・サー、コマンダー・コタロ! イエッサー・サー、サブコマンダー・ヤスウィルヴィーネ! オールハイル・カンダータ」」」 百人分の敬礼が異口同音に司令室を鳴らす。 その光景はコタロには只眩しく、気分の悪さも忘れ体が自然と敬礼の姿勢をとった。 ……そして、自らの敬礼が彼らと異なる蒼国式であることに言い知れぬもどかしさを感じた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ヤスウィルヴィーネは一人、ディナリアの市街を歩いていた。 捜索要員の配置も当然であるが万が一の事態が起きた時、一般人への被害を防ぐ手段を考える必要がある。そのとき居住区について知らないでは済まされない。 頭の中に作戦を浮かべながら歩くヤスウィルヴィーネの足を軽い振動が揺らした、通りの角から飛び出した子供がぶつかったようだ。 ヤスウィルヴィーネは屈み子供と目線を合わせ、頭をぽんと叩き「気をつけるんだぞ」と笑いかける。子供は大きく頷くと走り去っていった。 子供の姿を見送り、歩を進めようとすると、子供の母親だろうか婦人がつけるにはちょっと場違い感のある黒い腕章をつけた女性に頭を下げられた。 (腕のは……喪章でしょうか? そういえば居住区は成人男性が少ないですね……戦時中だからでしょうけど) 改めて意識し、あたりを見渡すと黒い腕章をつけた女性が多いことに気付く。 (死んでも守りたいものがあったということですか……いやはや、重たい話ですな) ヤスウィルヴィーネは、緩んでいた襟を正すとディナリア市街の巡回を続けた。 →→→search 2 chase→→→ 15の鉄騎が大地に砂塵の線をえがく。乗せるのは此の地に生きるもの達の矜持。 二人のロストナンバーと四十三人のカンダータ兵が死地に赴く。 ただ一人西門外周に残るは、ロストナンバーはアヴァロン・O。 彼は自らの能力と作戦内容を分析し、自身の運用に関して一つの解答をカンダータ軍に提示した。 曰く――射程100㎞からのロングレンジスナイプと高エネルギー力場による障壁の生成……十六台目の砲としてディナリア最後の関門となる。 小さな点となったホバータンクの機影を見送るアヴァロンは、カンダータ軍より譲り受けた弾倉を握りしめる。 弾倉は緑光を発し消失する。 エネルギー変換――100gの弾倉からおよそ1PJのエネルギーを生成する驚異の魔技術。 機械人形が中に舞う。その体は地面ではなく空中に浮かぶ緑光に着地した。 高さにしてホバータンクの全高二つ分、アヴァロンはここを砦と定めた。 『Snip-mode Get Ready』 アヴァロンの電子神経節にコマンドが電流となって流れる。 右腕部は逆脚のような突起が生えた棒状の黒き鉄塊――身の丈を遙かに超えるライフルに換装されていた。 膝立ちの姿勢を取るアヴァロン、空気の圧が漏れる音が響く。脚部と力場の間が楔でつながれ体が固定される。 鉄塊に生えた脚が次々と力場に落ち融合し、三脚のように銃身を支える。 アヴァロンの背嚢から空へレーダーが射出される、それと共にヘッドギアのゴーグルがスライドし視界を覆った。 視界が一転、超長距離の射撃を支える微細な情報がゴーグルを通してアヴァロンの電子網膜に投影される。 電子脳が高速で着弾予測の補正を開始する。 高空に浮いたアヴァロンの高精度レーダは1200km先に多数の動態を捉えた。 射程には程遠い……だが戦闘開始までの時間は短い。 →→→chase 2 search→→→ 「アルファチーム、A-1地区異常ありません」 「ブラボーチーム、B-3地区エネルギー反応確認。現地にて確認できず機器故障のようです。機器交換のため一旦帰還します」 「こちらチャーリチーム、作戦行動中に負傷者発生要員の追加を求めます」 オープンチャンネルの通信機器から捜索部隊の現状報告が五月雨に入電していた。 幅広の司令長官席の上には高性能なワードプロセッサーではなく、ペンと紙。コタロは報告された状況の変化を手早く分析、自らの判断を指示書に落とし込みオペレータに手渡す。 オペレータ席から発せられたコタロの指示は、速やかに捜索部隊全軍に浸透する。 司令室壁面一杯に表示されたディナリアの75%が捜索済みを示す蒼で染まった。 (……頭が割れがねのように鳴る、目の奥が痛いな……隊長殿は常にこうであったのか?) 目頭をぐっと押さえながら、砂糖たっぷりの珈琲を飲み下すコタロ。 たった嚥下数回分の休息、思考の間隙にふと疑問が湧く。 (この世界は有史以来、この過酷な環境下で彼の強大な敵と戦い続けてきたという……カンダータの現兵器すら遙かに超えるマキーナが多数存在するにも関わらず、何故人間は淘汰されず今日まで生きてこられた? マキーナとはなんだ? マキーナは何のためにどこから来る? マキーナも人間同様文明を発展させている? 考えにくい、今まで観測されたマキーナは、蟲や動物に近い原始的な生命であったはず。ならば……?) コタロの脳裏に一つの言葉が浮かんだ……『マッチポンプ』……何を馬鹿な……。 PiPiPiPi―― コタロの思索は、トラベラーズノートの共有を知らせる音で途切れる。 『コタロー君へ、繭マキーナが発見されました。当初の予想通りエネルギープラント内で確認されました。しかし重大な問題がわかりました。一旦本部に戻ってグスタフさん達と打ち合わせましょう』 コタロは疑問を脳髄の奥に無理やり押し込め、行く手を阻むオートロック式のドアをオペレータに解除してもらい司令室から退室した。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 最高執務官執務室で机を囲むのは、ヤスウィルヴィーネ、コタロ、グスタフ、セルガの4人。 机上には、ディナリアに襲来するマキーナに関する対応、戦術、用兵……そして脱出を含む書類、その上に新たに複数の写真が置かれた。 被写体は高エネルギーの輻射で不明瞭であったが、それが怨敵マキーナであることを認識できないものはこの場にはいない。 『繭マキーナ』――その姿は電磁式と思われる無数の小型バリア発生装置に覆われ、かろうじて蟲の繭と捉えられないこともない。繭の奥からは1対の複眼が覗いた。 捜索班がエネルギープラント内炉心付近に繭マキーナを補足したのは偶然といっても良かった。 たまたまシガーケースを落としたヤスウィルヴィーネが視線を落としたときマキーナの複眼が輝くのがちらりとみえたのだ。 「なるほどな、炉心内じゃあレーダも通らねえ……それに見るのも難儀な場所だ、そうそう発見もされねえってわけか」 伸びた無精髭を扱きすこし感心したように写真を確認するグスタフ。 「しかしな、どうやってこいつをやる? 炉心になんて入ったら溶けちまう。耐熱装備はあるが炉心の温度には耐えれねえ」 「ええ、ですので炉を止めましょう」 いい案はねえのかと尋ねるグスタフに、ヤスウィルヴィーネが応じた言葉は青天の霹靂であったようだ。 「おいおいマジでいってるのかロストナンバー、そんなことをできるわきゃねえだろ」 頭をかきむしり、天を仰ぐグスタフ。 空気を察した副官は直立のまま口を開く。 「ヤスウィルヴィーネ殿、確かに炉の停止でこのマキーナの問題は解決します。ですが、我がディナリアの防衛設備は残念ですが蓄電能力を持っていません。そのため、エネルギープラントの停止は防衛能力停止に直結します。対マキーナ防衛作戦の成功が見込めません」 「そういうことだ、ロストナンバー他の案はないのか?」 我が意を得たりと頷き、再度促すグスタフに、ヤスウィルヴィーネがう~んと一つ唸ると再度答える。 「一時的に停止、そう……耐熱装備で耐えられまで温度を落としてというのはどうでしょう?」 グスタフが目で促すまでもなく、セルガが手元の端末で計算をはじめた。 「しかし、耐熱装備には武器がねえ、マキーナを殺れるか?」 「そこはコタロー君にお願いしようかと思っています」 突然の白羽の矢に軽い驚愕を示すコタロ。 「コタロー君は、機械に触れると機械を壊してしまう能力の持ち主。武器がなくてもマキーナのバリアを壊せます。それにいざとなれば転移符で逃げることができます、帰りの時間を考えずに行動できることは有利じゃないですかな?」 ヤスウィルヴィーネと同時にセルガの計算が終わる。 セルガの端末に表示された計算結果。 グスタフは、大きく息を一つ吐くとロストナンバー達に告げた。 「いいかそいつができるのは、1分だけだ。……任せたぜ」 端末には60の文字が大きく明滅していた。 数分後、エネルギープラントから灯が落ち、ディナリアを闇の帳が支配した。 →→→search 2 chase→→→ 『ディナリア防衛隊は120秒後に発進――120秒後にマキーナと接触――60秒の交戦を行う』 通信機越しに作戦行動開始の合図が響く。 次々に駐機中のホバータンクが次々と稼働を始めるのに合わせ、ロストナンバーの魔術師達も戦の準備を開始する。 童顔の青年が魔鍵をささげもち詠唱を始める。 ――心象に荘厳な扉が現れる、その手に握られるのは魔鍵 鍵は問う、汝資格者の言葉を答えよ。 ブレイクの身魂は共に唱えた。 『汝、血と涙の祈りを忘れるな』 果たして扉は開き、異界のエネルギーがブレイクに満ちた。 「はい、最初からクライマックスですわよ奥様」 呪を完成させたブレイクが冗談めかした言葉を吐く。彼の纏う雰囲気は軽い言葉、そして常のものとは異なる威を放つものに変じていた。 『誰ガ奥様ダッテ?』 主の影響を受け二回りは大きさを増した従僕が茶化す。 「冗談だよ、ラド」 言葉と共に右腕を上げるブレイク。 彼の乗機には、空を割り表れた異形の石像群「小悪魔の嵐」が付き従った。 ハクアは、短い時間ながら観察と乗車から数点、高速型ホバータンクの問題点に気づいていた。 一つは対G能力が限定的なもので十全な力を発揮するには不十分であること。 一つは最高速度のみマキーナに追いつけるが起動変化があれば追随できないこと。 一つは装甲があまりにも脆弱であること。 (機械に精通したカンダータ兵が気づかないとは思えん点ばかり……決死隊か) 明晰な頭脳は彼らの置かれている状況を容易に把握した、さりとてハクアとて万能の神ではない。 事情を解したところでやるべきこと、そしてやれることは変わってくれない。 彼にできるのは勝利の確実性を上げること、弱所を埋めるべく鮮血を風に交え5つの術式を完成させた。 ――ホバータンク隊起動 作戦時間 0:00 マキーナ都市到達まで6:00 ――はるか遠方から音を裂く爆音が聞こえた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ――作戦時間 1:00 マキーナ都市到達まで5:00 カンダータの大地を弾となって飛ぶホバータンク群の間を、亜光速の飛翔体が何条もの帯となって抜けた。視界の端に連続で爆光が上がった。 残像が帯となって見えるほどの速度で飛来する超遠距離射撃、自身を16台目の砲となしたアヴァロンのロングレンジスナイプ。 高空のレーダがゴーグルにマキーナの姿を投影する。緑色のグリッドが遙か遠方のマキーナを射程内に入ったことを知らせた。 アヴァロンと一体化した銃身に電磁場が走りオゾン臭が大気を焼く。反発する電磁場が加速する場を連続で電磁球体が抜けた。 電磁球体は、アヴァロンの作る流線型の力場に包まれ空気抵抗を無視し加速、亜光速となって飛翔した。 電磁球体はカンダータの空を泳ぐ魚群マキーナの先頭に激突数体のマキーナを巻き添えに爆ぜる。 磁界によって機能障害を起こしたマキーナは失速、後続するマキーナの頭部に胴を両断され爆散した。 アヴァロンの射撃によって倒れたマキーナは100に僅かに満たない数であった。 ――作戦時間 2:00 マキーナ都市到達まで4:00 マキーナとホバータンク彼我の距離はおよそ2㎞、後部の銃眼からは空を滑るように飛ぶマキーナ魚とその後ろに控える巨大マキーナ魚が見える。 ホバータンク搭載のSSMが開戦の狼煙を上げた。15機8門90発の爆炎がマキーナ魚を焼き払う。元々動体を狙うようにできていないSSMだが群となった敵であれば一定の効果が見込める。 同時に、彼方から飛来するアヴァロンの砲撃の帯は仲間への誤爆を回避するため破裂のない狙撃弾に変わりマキーナを撃つ。 崩れる仲間を喰らいながら、爆炎から躍り出るマキーナを迎えたのは中空と大地一対、血の魔方陣。陣からは互いを結ぶように稲光の手が伸び、さながら光の柵を思わせる。轟音が光に触れるマキーナを弾き飛ばした。 後部の銃眼より砕けるマキーナを見るハクア、彼の念に血が応えマキーナに牙を剥いた。思考は光速、マキーナの音速では逃れ得るものではない。 再びハクアが念じる、大地より豪炎の柱がそそり立つ。火炎の獄はマキーナの離脱を許さず、その身を融解し爆散させた。 三度の念が、最後にして最大威力の術を解放する。血化粧の魔方陣を割り空から表れた雷霆は、巨大な羽のついた杖。古の神話に描写された神器思わせるそれは、白い絶光となりカンダータの空を照らし200近いマキーナと共に地に沈んだ。 交戦から開始から10秒、ハクアの術、そしてSSMで機先を制したカンダータ軍。マキーナの残存はおよそ650……そして巨大マキーナが1。 SSMに続き、ホバータンクは後部から機関銃を掃射するがマキーナの分厚い頭部に阻まれ有効な打撃とならない。 彼我距離が0に近づく、ホバータンクのミサイル架台がパージされロケットが着火した。 瞬間、音の壁が破れ機体が白煙を纏った。 耐G機能でも殺し切れない加速に、血液が圧迫され視界がブラックアウトする。 機体の音がエンジンと機関銃の振動のみとなり、機外の音は音速の彼方に置いていかれた。 ――3秒、定かとならないブレイクの視界がようやく像を結ぶ。 相対速度が0となったいまホバータンクの銃眼から、マキーナの姿がよく見える。鋼鉄の如き頭部を持った古代魚、卸金のような鉄の鱗。 カンダータの空を海のごとく泳ぐマキーナはブレイク達の乗るホバータンクに徐々に接近する。 ブレイクの目に鱗が逆立つのが見えた。 鋼鉄の古代魚から魚鱗が剥離しホバータンクへ飛来する。ブレイクは両の手を銃眼に着くと呪を一つ吐いた。 機体より野蒜は糸状の光、光は魚鱗を捉ると分かれ主であるマキーナをも巻き込み樹状の鎖を形成する。 「――ッ」 無音の気合が発せられる。 光の鎖は爆発的に帯電、雷糸となって鋼鉄の魚をその武器ごと打ち砕く。 雷糸を逃れたマキーナ達が仲間の隙間を埋めるようブレイクに肉薄する。 「ラド」 『随分トイカシタシューティングゲームジャネェカ、任セナ』 以心伝心、主と従僕、言葉はわずかで十分。『稲光の網』から逃れたマキーナを狙いラドが機関銃を掃射。腹部を貫かれたマキーナは列を乱し後続のマキーナに追突され身を折る。 マスターガーゴイルの射撃に続き、石の小悪魔どもが主の念に応じ音速の空へ飛びマキーナに食らいついた。小悪魔とマキーナは高度を喪い地面という名の鈍器によって無機物の塊となって彼方へと吹き飛んだ。 ――交戦開始から30秒、マキーナの数は500を切った。しかし巨大マキーナは未だ顕在。 その巨体が鯨を思わせる巨大マキーナが加速する。引き連れた小型のマキーナとは違うその体を覆うのは鋼鉄の魚鱗ではなく無数の砲座。 砲座から光が漏れる、無数の光条が集まったそれは巨大マキーナから生えた翼のようであった。 巨大マキーナが身を捩る、光の翼は横薙ぎに交錯するホバータンクを飲み込んだ。 音速の中、決して聞こえぬ筈の音が連続で響く。……通信機越しの断末魔、爆発音に混じりカンダータ兵達の絶叫が反響した。 十機のホバータンクが光のなかで消滅した。ただ一機の機体のみが風の魔方陣で粒子となった光条を散らし、光の中から姿をさらす。 被害を受けなかった五機のホバータンク側にいたブレイクは、驟雨のごとき火球を放ちマキーナの翼を付け根から溶かす、小悪魔の群れが火球を追い光条にその身を崩壊させながら砲座を喰らう。五機の機関銃の掃射が巨大マキーナの砲座を砕く。 光の翼は根本を絶たれ姿を失った……正面から飛来するアヴァロンの砲撃がマキーナのあまりにも分厚い正面装甲で弾ける。砲座が融解し表皮は穴だらけになっているにもかかわらず巨大マキーナの勢いは減じない。 ――作戦時間 3:00 マキーナ都市到達まで3:00 運命の刻限は過ぎた、残存ホバータンクが失墜する。 巨大マキーナは残りディナリアの運命は決したかに見えた。――否、一機未だ速度を失わぬ機体がいた。 ハクア・クロスフォードの乗機、風の結界によって空気抵抗を極小化し失速までの時間を僅かに伸ばしていた。 銀弾が巨大マキーナを打つ、弾丸は皮膚を貫き内部を破壊するがその勢いは止めることができない。 (恐竜なみの鈍感か……、全てを破壊する時間はない) ハクアの脳が起死回生の答えを求め猛烈に回転する。 (報告書はマキーナが生命であることを示唆していた、となれば核となる部分を破壊することで活動を止めるはずだ。……弱点は強固に守るのが常、ならば正面装甲の裏……脳髄か?) 想像の検証時間は存在しない、ハクアは自らの勘に行動を委ねた。 機体を巨大マキーナに横付けし、正面装甲の切れ目から頭部中央……銀の弾丸を打ち込んだ。 巨大マキーナの体が横に捻れた、極近距離にいたハクアの乗機は風の防御壁と巨大マキーナのぶつかる反発で弾け空中を舞う。三枚目の風の防御壁が地面との接触を和らげ機体の破砕を防いだ。 ――作戦時間 3:10 ホバータンク部隊戦果 マキーナ 620 巨大マキーナ1 被害 ホバータンク10 ――作戦時間 4:30 マキーナ都市到達まで1:30 耐熱装備で稼働停止したエネルギープラント炉心に降下するコタロ。 一人行動を行う彼の脳裏に先ほど浮かんだ疑問が再び首をもたげる。すなわちマキーナとは何であるか……。 自らの考えは突拍子もないことであろうか? カンダータの地、只管の生存戦争を行う者たちを侮辱した考えではなかろうか? しかし、自らの都合に合わせた戦力で表れる敵などありえるはずがない。 思考は巡りながらも体は自然と動き炉の底面に降り立つ。 思考は中断、コタロの脳は兵士のそれに切り替わりマキーナを探る。 マキーナの姿はすぐに見つかった、炉心壁面に小型バリアを発生させながら張り付いている。 耐熱装備に制限され歩みが自分のものでないかのように遅い。一歩一歩と近づくこちらを確実に認識しているであろうマキーナに反応はない。 焦燥は感じないわけではない、だが5秒は余裕がある。コタロはマキーナに接近するとバリア装置に触れる。 機械がショートする音がした。バリアは崩れ中にいるマキーナの姿が見えた。 蟻の幼虫を思わせるそれは紅い複眼をコタロに向け……炉心の熱で溶け一瞬のうちに気化した。 敵の消滅を確認したコタロも耐熱装備の中から姿を消した。 ――炉心が再稼働する、人型の耐熱装備が溶け落ちた。 ――作戦時間 5:00 マキーナ都市到達まで1:00 ディナリア西門、高空のレーダだけでなくアヴァロンは目視で地平線の土煙……マキーナを捕らえていた。 アヴァロンの把握する現状……マキーナは予測より数を減じている、だがディナリア防衛設備からエネルギー反応が消失している。 ――作戦に異常がアリマス、行動変更時間はアリマセン。全力防衛。 ――30秒後 アヴァロンを中心に緑光を放つ力場が展開された。残存マキーナ380体、アヴァロンの力場は次々と衝突するマキーナを弾く、マキーナは衝突エネルギーで弾かれその身を崩壊させた。 力場にぶつかり次から次へと砕けるマキーナ、だが音速を超える物体の衝突エネルギーを広範囲かつ恒常的に耐えることはアヴァロンの超エネルギーをもってしても困難であった。 時間にして10秒の防御、ついにアヴァロンの力場とマキーナの追突力が拮抗する。 僅かな時間で拮抗が破れることは分かった、だが復活するディナリア防衛施設からエネルギー反応にアヴァロンは作戦の完遂を悟った。 ――作戦目標クリアデス。 力場と拮抗するマキーナが防衛施設から放たれた発射された砲撃で砕かれる。 敵の消失を確認したアヴァロンは、力場を維持する力を失い地面に落ちSleepモードへ移行した。 ディナリアから近づく人影が見えた気がした。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ディナリア中央に位置する多目的施設では、マキーナ排除を祝う式典が開かれていた。 グスタフを始めとするカンダータの兵たちは飲み歌い戦勝を讃え、死者を悼む。 下卑た声の響く酒宴であったが、これが彼らのやり方というものであろう。 銃を共にしたロストナンバー達も式典という名の酒宴に招かれていた。 「いやはや、隊長に無茶言われていましてね。地元の酒を手に入れてこいって」 「ああうちの隊長も無茶しか言わねえよ、ヤスさんも苦労してんだなぁ。……ああっと、杯がカラじゃないですか。ささ一杯」 如才ないヤスウィルヴィーネはカンダータ兵達と打ち解けるのも早い。 受け取る杯は持参した酒瓶に移し替えた、手提げ鞄には先程交換したカンダータ産の煙草が詰まっている。 「ちょっと聞いてくださいよラド、僕の大切な石像が全部壊れちゃったんですよ。また引きこもらないといけないじゃないですか。あはあはあはははは」 「オイ飲ミスギダゾ」 ブレイクがうっかり水と思い開けた杯に入っていたのは、壱番世界でいうところウォッカに近い飲みものであった。 ふわふわした気分のままラドを笑い続けるブレイク、迷惑顔なラド。 近くに整備場であった女性がいたようだが、一瞬でできあがったブレイクをみてフェードアウトしていった。 「大したもんだったぜロストナンバーさんよ、まっ! これであんたも戦友ってわけだな」 アヴァロンの廻りには自然と人だかりができていた。西門直下で戦った変わった戦士に親近感を頂くものは幾人かいたのだろう。 「現時点より戦友でよいデスカ? 戦友効果測定として再度の戦闘を要請シマス」 ギャグだと思ったのだろうかカンダータ兵達は笑い声を上げた。 ハクアは式典が始まるやホールの端一区画に陣取り、ディナリアの図書施設より持ってきた技術書を読みふけっていた。 欠席せずまたこの騒々しい場から途中退席しないのは彼なりの一応の気遣いだろうか? そして、コタロ……彼は一人知恵熱を発し医務室の住人となっていた。 -了-
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